大阪公立大学大学院医学研究科【脳神経内科学】Osaka Metropolitan University Graduate School of Medicine
Osaka Metropolitan University Graduate School of Medicine
〒545-8585 大阪市阿倍野区旭町1-4-3

特色

脳血管障害と認知症を中心にオールラウンドな神経内科を
死因の第4位である脳血管障害は、迅速・適切な治療により予後が大きく改善する疾患です。また適切な治療により再発予防が可能です。この脳血管障害は認知症と合わせると生活に介護が必要となる原因疾患の半分以上を占めます。
当科では社会的に最もニーズの高いこれら2疾患での最先端の診療を中心にしながらも、市民の皆様に貢献できるよう幅広い神経疾患を診療対象とし、偏りのないオールラウンドな神経内科医療を心がけています。
認知症は新たな時代へ
近年、高齢化社会を迎えて、認知症の問題に関する関心が高まっています。新薬の開発もあり、新聞、テレビ等で取り上げられることも多く、みなさんも自分に認知症が始まったのではないかと心配される方も多いと思います。以前は診断方法や治療法も全くなかったので、ある程度進行するまでお医者さんに行っても仕方なかったものでした。このため軽い物忘れは年のせいと言って見過ごされてきました。しかし今はMCIという考え方で、軽い物忘れの段階が将来アルツハイマー病に進行する可能性が高いと考えられています。
当院では、物忘れ外来として、アルツハイマー型認知症を中心に、前頭側頭型認知症、レビ-小体型認知症、脳血管性認知症など幅広く診療しています。また進行性失語症や特殊な高次脳機能障害を生じた認知症患者も神経心理専門の医師と言語聴覚士、臨床心理士が協力し診療しています。
当科の認知症診療は次の4つを柱にしています。
1軽度認知障害(MCI)を含む早期の認知機能障害に対する早期診断
アルツハイマー病の前段階としてMild Cognitive Impairment(MCI)という言葉が注目されています。日本語では軽度認知障害という意味になりますが、この状態は軽い物忘れのみの段階です。みなさんが日常生活で、よく物忘れをするなと思った状態の中には、MCIである方もおられ、少なくともその一部の人はアルツハイマー病の始まりなのです。最近の報告ではMCIと診断された人の中から年15%ぐらいずつの方がアルツハイマー病を発症すると言われています。
このMCIを含む早期認知症~中程度の認知症を対象に、画像診断、SPECT(3DSSPによる脳血流評価)やPET検査(FDG-PET 、PIB-PET=アミロイドイメージング)、脳容積測定(VSRAD)、また血液・髄液の生物学的指標(バイオマーカー)を測定し、早期診断および早期治療を目的としています。
またJ-ADNI 臨床研究(アルツハイマー病の克服をめざす全国規模での臨床研究)に参加し、アルツハイマー病の治療薬開発に欠かせない病気の進行過程を忠実に示す客観的な評価法の確立に向けて研究を行っています。
PIB-PETについてのご紹介
近年、アメリカのピッツバーグ大学のグループが開発した、脳内アミロイドに結合するPIB(ピッツバークコンパウンドB) というPET用トレーサーを用いてアルツハイマー病(AD)の脳アミロイド集積が画像化可能となりました。
これによって、これまでは死後の剖検のみが確実な最終診断法であったアルツハイマー病の生前診断が可能となりました。
国内では、当院を含め、数施設でのみこの検査が可能となっています。
現在注目されているADに移行する危険性のあるMCIの早期診断や、今後臨床応用が期待されているADの治療薬の効果の判定に有用です。アミロイドの蓄積は加齢現象でもあるので健常な高齢者にも若干の集積が見られますが、MCIの場合、アルツハイマーの前段階と疑われる人はすでにADと同程度のアミロイド集積が認められます。ADの治療はここ数年飛躍的に研究が進み、数年以内にアミロイドを減少させる抗アミロイド治療が登場してくることが予想されますが、抗アミロイド治療の適応があるかどうか、実際にアミロイドが減少しているかどうかPIB-PETで判断することができます。
また、最近われわれが注目しているのは臨床的にアルツハイマー病と診断されてもPIB-PETでアミロイドの集積を認めない非アルツハイマー型認知症の存在です。PIB-PETの出現以前はもの忘れを訴え、MRIで特異的な病変や血管障害などがない症例はほとんどがADとされていました。しかし、PIB-PETの出現によってこれまで以上に非AD型認知症の存在が多いことが明らかになってきています。アミロイドがたまっていないこれらのPIB陰性の認知症については今後もさらに研究をすすめていく予定です。
29歳男性、健常若年ボランティア

皮質にアミロイドの集積を全く認めない。
81歳女性、健常高齢者

皮質にアミロイドの集積(黄色)を少し認める。加齢現象。
71歳女性、軽度認知障害

皮質にアミロイドの集積(黄色〜赤)をかなり認める。
71歳女性、アルツハイマー病

皮質にアミロイドの集積(赤〜黄色)を非常に強く認める。
2抗認知症新薬の有効性の評価
アミロイドβ抗体療法、γ-セクレターゼ阻害薬などアルツハイマー型認知症における新薬の臨床治験に参加し、画像診断や生化学マーカーなど臨床評価を指標に、新しい抗認知症薬の臨床開発にあたっています。
3失語症やその他高次脳機能障害など、認知症の特殊な症候についての調査・研究
進行性失語症や失行、失認など認知症の特殊な病態でみられる症候について神経心理学、構造画像(MRI)、機能画像(SPECT, PET)から多角的な評価を行い、その進行経過や神経基盤についての調査・研究を行っています。
4地域との連携
大阪市大病院は認知症疾患医療センターに認定されております。
認知症専門医療を提供しつつ、地域の認知症診療医との連携を強化し、地域医療にも貢献しています。