アミロイドβ蛋白 (amyloidβprotein)


 アミロイドβ蛋白(Aβ)は40-42(3)アミノ酸からなるペプチドであり、β-及びγ-セクレターゼの働きにより前駆体蛋白(APP: amyloid β protein precursor)から切り出されてくる。APPはα-セクレターゼによっても切断されるが、この際にはAβは生じない。アルツハイマー病ではAβが凝集して不溶性の線維形成がなされてアミロイドとなり脳に沈着する。これらのことからセクレターゼの制御がアルツハイマー病のコントロールにつながるものと期待されている。
 

1.Aβとは

 アルツハイマー病の主要な病理変化には老人斑と神経原線維変化があるが、この老人斑は発症の早期から認められ、その主要構成成分がAβである。比較的疾患特異性は高いが、正常脳でも認められる。このようなAβが脳内に蓄積をするためには産生増加、凝集促進、分解低下などのいくつかのメカニズムが考えられる。
 

2.Aβ産生

 APPには先に述べたβ-及びγ-以外にα-セクレターゼが働くが、β-及びγ-セクレターゼが働いたときにAβが産生される。α-セクレターゼは膜からの距離に依存してAPPに働きAβを産生しない。α-セクレターゼはメタプロテアーゼの一種と考えられており,ADAMファミリーがその有力な候補である。
 β-セクレターゼはAβのアミノ末端近く(メチオニンとアスパラギン酸の間)で切断を行い、アスパラギン酸プロテアーゼ(BASE)が候補として上げられている。
 γ-セクレターゼはAPPを膜貫通部位内において40番目もしくは42番目のアミノ酸で切断し、Aβ1-40もしくはAβ1-42を産生する。プレセニリンが、γ-セクレターゼもしくはその制御因子である可能性が示唆されている。Aβは細胞内で産生されるが、細胞外には主にAβ1-40が分泌され、細胞内ではAβ1-42の割合が高くなる。
 

3.Aβ分解

 Aβの分解にはエンドペプチダーゼやインシュリン分解酵素などの各種酵素が係わっていると考えられているが、不明な点が多い。Aβの蓄積は細胞外に起こっているが、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれたり、血管系によって運搬されたりするのでそれらの部位でも分解が行われているものと考えられている。
 

4.Aβの蓄積

 Aβは疎水性が高くin vitroで凝集しやすい。Aβ1-42の方がAβ1-40よりも凝集しやすいことや病理学的観察よりAβ1-42が最初に凝集し、このAβ1-42を核としてAβ1-40が凝集して線維形成を行うという説(シーディング仮説)が提唱されている。このような蓄積には他の危険因子(アポE, プレセニリン1・2など)による修飾が必要であると考えられている。
 

5.Aβの神経毒性

 Aβは神経細胞に対して毒性を持ち、細胞死を引き起こす。その作用の中心はAβ25-35にあるものと考えられている。しかしながら初代培養系での結果では毒性を示すためには生理的濃度 (nM)よりもはるかに高濃度(μM)である必要があり、問題点となっている。さらに細胞種(ニューロン⇔グリア)、分化程度による毒性に対する感受性の違いも存在している。

 最近、細胞内Aβの持つ毒性の重要性やオリゴマーAβの毒性について注目されている。


 

6.アルツハイマー病(AD)治療の可能性

 1999年、Schenk ら(Nature 400: 173-, 2000)はAβ過剰産生のADモデルマウスにAβ1-42で免疫を行ったところ(ワクチン療法)、病学的に改善を認めるという報告を行った。更にこのワクチン療法で行動学的にも改善が認められるとの報告(Nature 408: 979- and 982-, 2000)や末梢投与の抗Aβ抗体も病理学的に改善効果を有するという報告(Nature Med 6: 916-, 2000)がなされている。今後は、人への応用も含めてAβに対処することでADの治療の試みが進められて行くものと考えられた。しかしながらアメリカでの治験に際して、高率に脳炎を発生したため現在は治験は中断中である。
 また、セクレターゼ活性の制御がADのコントロールにつながる可能性も期待されている。
 

当教室ではprimary cultureの手法を含め、Aβの神経毒性の生理学的意義について検討している。さらにノックアウト・マウスをこの方法に導入することにより、Aβの毒性がどの様な過程を経て制御されているかを追求している。(アポ蛋白との関連については他項に譲る)

(by Takuma)