タウ蛋白 (Tau protein)


タウ蛋白に関する研究

 タウ蛋白は神経軸索内の分子量約5万の微小管結合蛋白であり、微小管の重合を促進したり安定化したりする。タウではエキソン2、エキソン3、エキソン10の選択的スプライシングにより6本のアイソフォームがある。このうちC端側に繰り返す微小管結合領域を3つ有するものを3リピートタウ、4つ有するものを4リピートタウと呼ぶが、この違いはエキソン10の挿入の有無により生じる。その遺伝子発現は種、年齢により異なり、ヒト胎児期の脳では3リピートタウのみが発現しているが、成人脳では6種類のタウアイソフォームが認められる。一方、齧歯類では幼若期には3リピートタウが発現しているのだが成体になるとヒトの場合と異なり3リピートタウの発現がなくなり4リピートタウだけとなる。これはエキソン10に続くステムループがヒトと異なるためであろうと考えられている。


 微小管は細胞骨格を形成し細胞内の蛋白質の輸送や細胞内小器官輸送のレールとして機能している。この輸送機構はタウ蛋白質がリン酸化されると微小管が不安定化し細胞内の物質輸送を抑制してしまう。またキネシンのモーター蛋白質の微小管への結合がタウ蛋白により阻害され、プラス極の物質輸送が阻害される結果、ミトコンドリアなどが細胞の中心に集積することがタウを強制発現した培養細胞で示されている(培養細胞内タウ)。


 タウ蛋白はアルツハイマー病のpaired helical filaments (PHF) の主要構成成分であるが、他の神経変性疾患においてもその異常蓄積が報告されている。認知症をしめす神経変性疾患のなかでPick病様の臨床症状をもつ一群の疾患を前頭側頭葉型認知症(痴呆)(frontotemporal dementia: FTD)とか前頭葉型認知症(frontal lobe dementia: FLD)と呼ぶことが提唱された。これらの疾患群は性格変化や人格変化に伴う行動異常が先行し、記銘力障害や空間認知障害が後に出現するのが特徴であり、病理学的には前・側頭葉を中心とする大脳萎縮と神経細胞脱落、タウ蛋白を含む細胞内封入体や神経原線維変化の出現があり、β蛋白の沈着や老人斑の形成がないことを特徴とする。FTDのうち常染色体優生遺伝形式を示しパーキンソニズムを高頻度に伴う家系から“第17染色体遺伝子に連鎖しパーキンソニズムを伴う家族性FTD”(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17, FTDP-17)が分離された。1998年になって原因遺伝子としてタウ遺伝子の点突然変異が相次いで報告され、タウ遺伝子の変異が神経変性を導くことが明らかになった。


 変異型タウを強制発現させたトランスジェニックマウスの報告では、タウの異常フィラメントが形成され、軸索輸送に関してもタウの過剰発現によって蛋白の輸送が抑制されることが示されている。


 我々は、分子生物学的手法や形態学的手法、トランスジェニックマウスなどを様々な方法を用い「タウ蛋白が何物であるのか?」と言うことを明らかにすべく研究を行っている。


 

by Kosaka & Yamashita