研究紹介

APPトランスジェニックマウスへの野生型ヒトタウの導入による神経原線維変化の形成

 

  【概要】
1.Osaka変異APPと野生型ヒトタウを発現するダブルトランスジェニックマウスを作製した。
2.このマウスは、Aβオリゴマーの蓄積、シナプス消失、記憶障害、ニューロン消失ばかりでなく、タウの変異なしに神経原線維変化を形成した。
3.このマウスはアルツハイマー病のより理想的なモデルマウスである。

【研究背景】
これまでアルツハイマー病は老人斑(アミロイドβの凝集体)が脳に沈着し、これがタウ蛋白質凝集体からなる神経原線維変化を誘導して、最終的にニューロンが消失することで発症すると考えられていました。老人斑、神経原線維変化、ニューロン消失はアルツハイマー病の3大病理変化と捉えられています。
これまでのアルツハイマー病のモデルマウスは、この3つの病理変化を再現することを目標として作られてきました。変異を持つアミロイド前駆体蛋白質APPを発現するトランスジェニックマウスがその代表ですが、多くは老人斑を形成するのみで、神経原線維変化はできず、ニューロン消失もまれでした。変異APPトランスジェニックマウスと変異タウトランスジェニックマウスを交配させて、老人斑と神経原線維変化の両方を示すダブルトランスジェニックマウスも作られていますが、アルツハイマー病ではタウの変異は報告されていませんので、このようなマウスはアルツハイマー病の発症機構を反映しておらず、モデルとしては不適当でした。
最近では、老人斑は病気の原因ではなく、可溶性のアミロイドβ(Aβ)オリゴマーがシナプスの機能を障害することで認知症が発症すると考えられています。私達は、老人斑を形成せず、Aβオリゴマーのみを蓄積するAPPの変異(Osaka変異)を家族性アルツハイマー病患者から同定しました(2008年プレスリリース)。この変異APPを発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、8カ月齢でAβオリゴマーの蓄積、シナプス消失、記憶障害を示し、24カ月齢でニューロン消失を起こしましたが、やはり神経原線維変化はできませんでした(2010年プレスリリース)。

【研究内容】
私達は、神経原線維変化の形成には、ヒトのタウが必要なのではないかと考えました。そこで今回、Osaka変異APPトランスジェニックマウスと野生型ヒトタウトランスジェニックマウスを交配させたところ、このマウスは6カ月齢でAβオリゴマーの蓄積、シナプス消失、記憶障害を示し、18カ月齢で神経原線維変化とニューロン消失を示しました。私達が作製したダブルトランスジェニックマウスは、タウの変異なしに、Aβの蓄積、神経原線維変化、ニューロン消失の3大病理変化(老人斑はありませんが)を示す世界で初めてのモデルマウスとなりました。本研究により、Aβとヒトタウは相互作用して互いの病理を早めること、神経原線維変化の形成にはヒトタウが必要であること、Aβオリゴマーは老人斑がなくてもそれ単独で神経原線維変化を誘導できることが示されました。

 

 

 

図1.ダブルトランスジェニックマウスの病理とその出現時期

 

 

 


図2.ダブルトランスジェニックマウスの神経原線維変化
Gallyas銀染色. CA3 海馬, CTX 大脳皮質.

 

 

【今後の展開】
今回の研究結果は、Aβオリゴマーがアルツハイマー病の真の原因であることをより強く支持しています。アルツハイマー病の発症機構を研究する上で、また、その治療薬を開発する上で、私達のモデルマウスは有用なツールとなることが期待されます。

【論文】
Tomohiro Umeda, Satomi Maekawa, Tetsuya Kimura, Akihiko Takashima, Takami Tomiyama, Hiroshi Mori. Neurofibrillary tangle formation by introducing wild-type human tau into APP transgenic mice. Acta Neuropathologica DOI:10.1007/s00401-014-1259-1, 2014.