大阪市立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室
頭蓋底外科・経鼻内視鏡手術グループ
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頭蓋底外科

頭蓋底外科とは、脳神経外科領域の中でも最も手術難度の高い領域です。
当教室の臨床活動の特色として、頭蓋底手術に関して長い歴史と豊富な症例数を有しています。その長きにわたって培われた経験を武器にした積極的頭蓋底外科治療がまさに当教室の臨床活動の根幹であります。世界的にも極めて高い評価を得ており、我々が独自に開発した手術方法が今では世界に広がりつつあります。

頭蓋底部とは脳の底面にある“頭蓋骨の底”を指します(図1)。頭蓋底部には、内頸頸動脈、椎骨動脈、脳神経、脳下垂体、海綿静脈洞、眼球、内耳などの重要で複雑な組織が密集し、しかも脳腫瘍や脳動脈瘤の最大(!)の好発部位です(図2)。


イメージ図1

イメージ図2

頭蓋骨の蓋(フタ)の部分は、頭蓋冠と言われます。頭蓋冠は頭蓋底部とは違って脳神経や太い動脈がないため手術が比較的容易です。

それでは、複雑な構造でしかも脳の底面にある頭蓋底部に発生した脳腫瘍や脳動脈瘤は、どうのように手術するのでしょうか? その答えが頭蓋底外科です。頭蓋底外科は1980年代より徐々に日本とアメリカの一部の施設で行われるようになりました。従来の手術では、脳の底面をヘラで強引に持ち上げることにより頭蓋底部と脳底面との間に隙間を作り、その隙間から手術をしていました。しかし、脳を待ち上げ過ぎることによる脳挫傷(脳が潰れること)、脳神経の損傷、脳血管の断裂等が生じ、治療予後は芳しいものではありませんでした(図3)。脳や脳神経は一旦損傷するとその回復は望めず、大きな障害を患者さまに引き起こします。その反省から開発された新しい手術方法が頭蓋底外科です。

イメージ図3

頭蓋底外科では、頭蓋底部の骨を切離することにより、脳を少し持ち上げるだけで手術が可能になります。また、脳神経や重要な血管を動かしたりすることもできるため、合併症が少なくなり、手術成績は急速に改善しました(図4)。
イメージ図4

近年ハイビジョン内視鏡の普及に伴い、頭蓋底正中に位置する病変への経鼻内視鏡手術の適応が広がってきています。頭蓋底正中部の骨削除を鼻腔側より行うことで、積極的な経鼻内視鏡下での腫瘍切除を行っています(図5)。
イメージ図5

イメージ図6
上の写真は大きな錐体斜台部髄膜腫の術前、術後のMRI写真です。右錐体骨を切除して腫瘍に到達する経錐体到達法で腫瘍を安全に切除しました。
イメージ図7
上の写真は頭蓋咽頭腫の術前、術後のMRI写真です。鼻腔に内視鏡を挿入して腫瘍を全摘出しました。
  • 頭蓋底外科では、通常の方法では手術困難な疾患に対して、頭蓋底部の骨を切離するだけでなく、脳神経の剥離や移動、腫瘍によって傷んだ脳神経の再縫合、内頸動脈のバイパスなど、様々な高度な技術を多用します。手術を終える際には、頭蓋骨は元通りに戻します。頭蓋底外科を用いれば、脳や脳神経、脳血管の損傷を最小限に止めて、脳腫瘍や脳動脈瘤をより安全に手術することができます。
  • 頭蓋底外科を用いることにより、手術成績は格段の進歩を示すようになりました。しかし、頭蓋底外科の術者には高度で専門的な知識、洗練された技術、最新鋭の手術器具、強靱な精神が求められ、またそれを支える優秀で多くのスタッフ(麻酔科医師、手術室看護師、集中治療室、病棟看護師)が必要です。言い換えると、頭蓋底外科は、患者さまには“優しい”手術方法ですが、術者には“面倒”で、病院側には“儲けの少ない”手術方法です。現在、営利を追求することが求められる施設にとっては、頭蓋底外科は正しく普及してないのが現状です。このため、本教室では日本で最初の頭蓋底外科手術講習会を1993年に開催し、毎年全国や世界の脳神経外科医を対象に、その普及と教育に力を入れています。頭蓋底外科で必要な高度な技術を用いれば、通常の開頭手術もさらに容易に行うことができるようになります。
  • 頭蓋底外科が応用される疾患は、髄膜腫、聴神経鞘腫、三叉神経鞘腫、頚静脈孔神経鞘腫、頭蓋咽頭腫、脳動脈瘤、下垂体腺腫、奇形腫、類皮腫、海綿状血管腫、脊索腫、頭蓋底部悪性腫瘍、など頭蓋底部に発生する、通常の方法では手術困難な疾患です。

われわれは、これからも「患者第一」の基本姿勢を変えることなく最高の治療を追求し、世界を牽引して行きたいと考えます。

顔面痙攣・三叉神経痛

顔面痙攣

顔面痙攀は、顔面神経の異常活動によって顔面筋(眼の周り、頬の辺り、口の周りなど)がピクピクと勝手に動く病気です。頭蓋骨内で脳血管が顔面神経を圧迫することによって生じます。原因のほとんどは脳血管による顔面神経圧迫ですが、脳動脈硬化、解離性動脈瘤、動静脈奇形、脳腫瘍等による圧迫も原因になります。
発生する機序については2つの説が報告されています。

  • 顔面神経を覆う髄鞘(電線を覆うビニールに相当)が血管の圧迫によりはがれ、血管拍動で直接異常電流が流れるために顔面痙攣が生じる。
  • 髄鞘がはがれた部分から異常刺激が顔面神経の神経核(電流を流す中枢)に働き、異常電流が流れるために顔面痙攣が生じる。

基本治療方針

顔面痙攣は、命を脅かす病気ではありません。しかし、患者さまの日常生活を不快にさせる疾患です。
  • 保存的治療:抗痙攣剤の投与あるいはボツリヌス毒素の局所注射が可能です。投薬による治療には限界があり、また完全に顔面痙攣を消失させることはできません。投薬による改善が得られない場合、あるいは投薬による副作用(多くはふらつき)がでる場合には、手術について検討します。ボツリヌス毒素注射は非侵襲的ですが、おおよそ3ヵ月毎の注射が必要なことと多数回の注射により効果が減弱することが欠点です。
  • 手術治療:顔面神経への圧迫を解除します。そのためには、全身麻酔による開頭術が必要となります。(1)脳血管と脳幹との間に特殊な人工補綴物を挿入して顔面神経から血管を浮かせる方法(挿入法)と、(2)脳血管を直接移動させる方法(吊り上げ移動法)とがあります。手術しないで放置した場合、改善することはありません。手術治療では、開頭術に伴う合併症発生の危険が伴います。当科では、手術適応について患者さまと十分に相談し、適応があると判断されたときは安全確実な手術治療を行っています。

三叉神経痛

三叉神経は脳幹から出る脳神経の一つで、顔面の感覚と咀嚼運動を担当しています。この神経が脳幹を出たすぐのところで、脳血管により圧迫を受けることで、耐え難い顔面の痛みが生じます。また脳腫瘍で生じることもあります。食事の際、洗顔時、冷気にあたったときなどに、短期間の激しい痛みが顔面に走ります。誤診で歯を抜くこともあります。命を落とす病気ではありませんが、痛みが強くなると日常性に大変な障害を起こします。

基本治療方針

  • 保存的治療:まず鎮痛剤を投与して経過を見ます。またブロック注射をすることもあります。これらの治療により経過を観察できる場合もあります。上記の保存的治療が無効の時、薬剤による合併症が出た場合には、手術を検討します。
  • 手術治療:三叉神経への圧迫を解除します。そのためには、全身麻酔による開頭術が必要となります。(1)脳血管と顔面神経との間に特殊な人工補綴物を挿入して血管を浮かせる方法(挿入法)と、(2)脳血管を直接移動させる方法(吊り上げ移動法)とがあります。手術しないで放置した場合、痛みが改善することはありません。著効例では術直後から痛みは消失します。手術治療では、開頭術に伴う合併症発生の危険が伴います。当科では、手術適応について患者さまと十分に相談し、適応があると判断されたときは安全確実な手術治療を行っています。

顔面痙攣や三叉神経痛の再発とその予防

顔面痙攣や三叉神経痛に対する神経血管減圧術の手術後に、一旦改善した症状が再発することが知られています。患者さまも担当医師もがっかりします。この再発は、血管と神経との間に直接人工補綴物を挿入した場合(挿入法)に生じやすいことが知られています。この手術方法では、挿入した人工補綴物が経時的に変形・癒着し、血管の圧が再び神経に加わるようになるため再発します。現在、理想的とされている手術は、圧迫している血管を吊り上げて移動させる、吊り上げ移動法です。この方法では、神経には何も接しないため、癒着も生じようがなく、再発の可能性は極めて低いものになります。しかし、この手術には高度な技術が必要です。当施設では、三叉神経痛ではほぼ全例に、顔面痙攣には安全にできうる限り、この理想的な手術を行っています。
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主な対象疾患

  • この分野で取り扱っている主な頭蓋底外科の情報を「脳と神経のデータベース」のコーナーにまとめてありますのでぜひご覧ください。