大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

研修体験記
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研修体験記:専門医取得

T.Yさん

 2010年春から日本脳神経外科学会の専門医認定制度が大きく変わります。昨年までの日本脳神経外科学会専門医制度では、卒後日本脳神経外科学会に入会し6年が経過した段階で、脳神経外科全般にわたる広い知識と経験が問われる専門医試験の受験資格を得ることが出来ました。しかしながら、2004年から実施された医療制度改革により、初期臨床研修の必修化が開始されてからは、脳神経外科に専修できる教育期間が短縮化され、短期間で多くの症例を、幅広く経験することが要求されるようになりました。卒後臨床研修が必修となり、学会入会後6年の規定が4年に短縮されました(2年間の卒後臨床研修後、脳神経外科を選択して学会に入会してから4年間)が、逆に以前よりも短期間により多くの脳神経外科専門研修が求められることになります。脳神経外科が対象とする領域は、脳血管障害・脳腫瘍・脊椎脊髄・先天奇形などの小児脳神経外科・てんかん、パーキンソン病などの機能的脳神経外科・頭部外傷・炎症性疾患など非常に幅広く多岐にわたります。治療手段として直達手術だけではなく、脳血管内手術・ガンマナイフなどの定位的放射線治療・定位脳手術・リハビリテーションなど様々なものがあります。新制度では、専門医になるまでに厳密な基準を満たした指導医のもと幅広い専門分野を研修することになります。これらの幅広い専門分野研修は、大学病院であっても、小児・機能的脳神経外科・脳血管内手術などの分野における研修は必ずしも十分ではありません。つまり、大学病院であっても単一施設では十分な研修ができず、病院群としてグループを作って研修指導することが必要になります。おそらく多くの大学は大学病院を中心として研修プログラムを作ることになると思います。詳細はそれぞれの大学のホームページで閲覧することが出来ます。
 脳神経外科を目指してから専門医修得まで、個人的に感じたことを書きたいと思います。脳と外科的治療に興味があり、2003年に大阪市立大学脳神経外科に入局しました。2004年より臨床研修医制度が義務化され、卒後、直接医局に入った最後の学年になります。2003年に入局したのは自分1人でした。1年目は、患者さまから問診・神経所見をとり、採血をした以外はほとんど覚えていません。勉強不足という一言につきますが、脳外科の扱う疾患といえば脳卒中・頭部外傷が大半と考えていたため、特に脳腫瘍の手術を見ても全くわかりませんでした。2年目から4年目までは関連病院に勤務し、脳に関わる患者さまの診療に当たりました。救急が大部分で、たくさんの症例を経験できたと思います。この頃から、局所麻酔下での穿頭術を担当するようになりました。5年目には大学に戻りましたが、少しずつ、手術のことがわかるようになってきたと思います。わかるといっても、前頭側頭開頭をすれば、シルビウス裂を分けることが出来るといったレベルですが・・・。分かる範囲で本を読んだり、症例報告を書いたり、時間があれば、実験室で顕微鏡を使ってガーゼを縫うようにしていました。時間をかけて、ネズミの血管吻合をした方がよいのでしょうが、病棟と手術室を往復する日々であったため、まとまった時間が作りにくかったように思います。6年目から再度、関連病院で働くこととなりました。学年は一番下でしたが、手術を担当できる環境にあり、顕微鏡下での手術を始めることとなりました。救急や外来で症例を見つけ、先輩の指導を仰ぎながら、破裂脳動脈瘤、血管吻合、脳腫瘍、脊髄疾患など様々な手術を経験することが出来ました。もちろんすべてが初めてですから、自分なりに本や手術ビデオで勉強し、診察、手術説明書、術前の予想図の作成、術後に手術記事、手術図式の作成を行うようにしました。また、緊急手術では難しいですが、定期手術では予め手術記事を書く様に心掛けていました。大学病院に勤務中、手術の難しいことは分かりませんでしたが、先生方は立ったまま手術をされていましたので、自分も長時間立ったまま手術が出来る様、体力向上にも努めていました。手術が遅くなっても台風が来ても、ランニングと公園でのトレーニングは欠かさなかったと思います。このおかげか、手術で手が震えることはありませんでした。気がつけば1年が過ぎ、専門医試験を受けることになりました。1年上の先生に試験に必要な情報をもらい、これを中心に勉強しました。外来、救急、当直、手術は通常通りこなしていました。勤務先が地方の病院であり、また自分の性格もあって、1度学会に行ったのみで、勉強会等には参加しませんでしたが、何となく合格できました。6年間臨床をしていれば経験したことがある症例に関する問題がほとんどだった様に思います。
 振り返ると、脳外科医に必要なものを少しずつではありますが、自然に身につけてきた様に思います。今後はsubspeciality、特に骨を削る技術を身につけつつ、学会発表や研究を心掛けたいと考えています。

 各大学により得意の分野、教育方針が異なると思います。実際に見に来て頂き、気軽に話を聞いて下さい。どこで働くにしても、脳外科医を続けることが一番大切だと思います。
 専門医修得に関して個人的に感じたことを書いてみました。まとまりのない文章ですが、これから脳外科医を目指す先生方の参考になれば幸いです。