大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

頭蓋咽頭腫
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基本的な情報

概要

 頭蓋咽頭腫は小児と成人の二つに発生のピークがある良性疾患です。しかし発生部位が脳最深部にあり、重要構造物が近接していることから最も手術摘出が困難な腫瘍の一つです。当院では、以前からこの頭蓋咽頭腫の外科的治療に積極的に取り組んできました。これまで53症例の手術を行い、5年間再発を来さない腫瘍制御率は88.7%と非常に良好な結果を得ています。このホームページでは頭蓋咽頭腫一般の特徴と当施設の治療方針、成績をご説明します。

特徴


 頭蓋咽頭腫とは、脳の正中部の下面(下垂体茎付近)に生ずる良性腫瘍です。良性の脳腫瘍ですが、重要な神経や血管に挟まれて成長するため、脳神経外科の領域ではもっとも手術が難しい脳腫瘍です。腫瘍の上面には視床下部という、人間が生きるために必要な機能を司る中枢があります。視床下部の役割は、体温の調節、モルモンの中枢、記憶の中枢、食欲の中枢、性欲の中枢、意欲の中枢等です。腫瘍の下には脳下垂体が視床下部に連続してつながっています。脳下垂体は、視床下部の伝令を体の臓器に伝える、ホルモンの司令塔です。また、腫瘍の前方には視神経、前大脳動脈が、側方には頚動脈、後側方には動眼神経(眼球を動かし、瞼を持ち上げます)、後交通動脈(視床下部を養う血管です)、後方には脳幹部、脳底動脈が走っています。腫瘍が成長するにつれてこれらの周囲組織を圧迫し、症状が出現します。視神経が圧迫されると視力、視野障害、脳下垂体が圧迫されると全身倦怠感をはじめとする下垂体機能低下の症状が、また下垂体茎が圧迫されると尿崩症と言って尿が非常に多く出る状態になります。腫瘍がさらに大きくなり視床下部を圧迫すると記銘力障害、意識障害などが出現し、最終的には命に関わる疾患です。上の図は解剖を示したイラストです。赤い丸の部分が腫瘍を示しています。

治療方法

 頭蓋咽頭腫は基本的に良性腫瘍であるため、外科的切除が最も効果的な治療法です。しかし腫瘍は非常に手術が難しい場所に存在するため、詳細な術前検査を行った後に治療法を検討することになります。
 手術以外の治療法としては定位放射線照射があります。この治療にはガンマナイフ、エックスナイフ、サイバーナイフなどがありますが、いずれも腫瘍に対して、集中的に放射線を照射する治療法です。当院では、エックスナイフと言う定位放射線治療装置があります。頭蓋咽頭腫に対しても効果があることは知られています。しかし頭蓋咽頭腫では周囲に視神経、視床下部など重要な組織があるため、大きな頭蓋咽頭腫にそのまま定位放射線照射を行うことは、おすすめできません。
 この腫瘍は中途半端な切除や放射線治療では再発を繰り返し、再発の度に手術は難しくなり、最終的には腫瘍の制御ができず悲惨な結果をもたらすことが報告されています。このため、当院では患者さまの年齢、下垂体機能(ホルモン状態)、視力、視野障害の程度、記銘力低下の程度などを考慮した上で、可能な限り積極的な腫瘍切除を行い、長期にわたって腫瘍を再発させないことを治療の第一目標にしています。

さらに詳しく知りたい方へ

治療法、治療成績

 できるだけ安全に、かつたくさんの腫瘍を摘出するために、腫瘍に到達する到達法に様々な工夫を行っています。当院では頭蓋咽頭腫に対して、耳の奥の骨である錐体骨を切除して腫瘍に到達する経錐体到達法、前頭部と側頭部の骨をあけて腫瘍に到達する眼窩前頭側頭到達法、両方の大脳半球の間を分けて腫瘍に到達する経大脳間裂到達法、鼻腔を経由して腫瘍に到達する経蝶形骨洞到達法などの到達法を腫瘍ごとに単独あるいは組み合わせて腫瘍を摘出しています。どの到達法を選択するかは腫瘍の状態、周囲の血管の関係などで異なります。

 左の図は頭蓋咽頭腫に対する手術到達法を示したイラストです。黄色で示した前頭部の頭蓋骨をあけ、腫瘍に到達するのが、経大脳間裂到達法、水色で示した眼窩を囲む範囲の頭蓋骨をあけるのが、眼窩前頭側頭開頭、耳を囲む範囲の骨を切除して腫瘍に到達するのが経錐体到達法、鼻腔に筒を挿入その隙間を経由して腫瘍を摘出するのが経蝶形骨洞到達法です。

 手術では1)すべて腫瘍を摘出し、2)視力視野障害を改善し、3)記銘力障害を出さず4)下垂体機能を温存できれば最も理想です。しかしこれまでの経験からこのすべてを達成できる症例はほとんどありません。当施設ではできるだけすべての腫瘍を摘出すること、記銘力障害を出さないこと、視野視力障害を悪化させないことをまず心がけています。尿崩症などの下垂機能低下はホルモン補充療法で対応できると考えているためです。
この結果53例の頭蓋咽頭腫の治療を行いましたが、約90%の症例は手術単独で再発をみていません。また記銘力障害が悪化した症例も最近10年間ではありませんでした。

  

 上の図は、頭蓋咽頭腫に対して、経蝶形骨洞到達法続いて眼窩前頭側頭開頭を組み合わせてすべて腫瘍を摘出した患者さまのMRI写真です。2度の手術によってすべて腫瘍が摘出されました。


 左の図は、頭蓋咽頭腫に対して、経錐体到達法ですべて腫瘍を摘出した患者さまのMRI写真です。すべての腫瘍が摘出されました。

まとめ

 頭蓋咽頭腫は脳神経外科医にとって最も手術が難しい腫瘍の一つです。しかしうまく全摘出できた場合には手術単独で治癒が可能な疾患でもあります。症例ごとに手術到達法も異なるため、ホームページですべてをご説明することが非常に難しい疾患ですのでまず受診していただければと思います。

プレスリリース原稿(2016.12.12)の詳細はこちら PDF