大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

対談特集
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西村周郎先生(大阪市立大学名誉教授)と
大畑建治先生の誌上対談

教育観に影響をもたらした米国留学

大畑:研究が終わった後、病棟にお戻りになったんですか。

西村:昭和30年3月から病棟主任としてまた臨床を始めました。その2年前にコペンハーゲンに4年間留学されていた4年先輩の黄雲裳先生(現在新島掌一先生)が帰ってこられていました。あの有名なMount Sinaiの放射線科のYun Peng Huang教授のお兄さんです。黄先生は論文を書くのも研究をまとめるのも早く、私どもは非常に影響され、当時教室におられた半田肇京大名誉教授、石井昌三順天堂大学名誉教授、景山直樹名古屋大学名誉教授ともども「ぜひ外国に行かなきゃならん」という考えをもったと思います。

大畑:当時はまだ留学のルートもなかったと思いますが、どういう経緯で留学されたんですか。

西村:話が前後しますが、昭和30年のある日、1954年に発刊されたBostonのChildren's HospitalのIngrahamとMatsonが書いた「Neurosurgery of Infancy and Childhood」という本を見つけました。そこにはpediatric neurosurgeryという確立された学問があり、見たことのない疾患がたくさん記載されていました。ここへ行ってみたいという強い思いで、Ingrahamに手紙を出しました。幸いなことに学位論文を英語で書いていましたので、それも同封しました。そして研究室のリサーチフェローとして来いという返事をもらいました。年俸は2,500ドルでした。あなたのときはどのぐらいでしたか。

大畑:20,000ドルでした。

西村:20,000ドル(笑)。当時は向こうで給料をもらうとか、受け入れ先がなければビザが出なかったんです。昭和32年7月に留学することになりました。持ち出せるドルは35ドルでした。

大畑:船で行かれたんですか。

西村:幸いフルブライトのトラベルグラントの試験に受かり、旅費を出してもらい、航空機で行きました。

大畑:IngrahamとMatsonの施設に留学されたのは先生が初めてですか。

西村:私が初めてです。

大畑:向こうでは驚かれたことがたくさんあったと思いますが。

西村:数知れない驚きがありました。彼らは非常に熱心かつエネルギッシュで、毎朝8時から手術をやり、毎日夕方5時か6時に回診をしていました。また開頭術の術後経過が非常によく、例えば大きな聴神経腫瘍を摘出した翌日、患者さまが座ってメシを食ってるのにびっくりしました。アメリカ人はビフテキを食って体力があるからかとも考えました(笑)。もう一つ、開頭術で出血が非常に少ないことにも驚きました。

大畑:10年ぐらい開きがあるという感じですか。

西村:20年ぐらいの開きがあったような気がします。卒後の教育も、インターンも含め非常に厳しいですが、充実していました。病院全体、若い医者、学生、レジデントの連中も含めての教育に熱心で、いろいろなカンファレンスが毎日ありました。学生の講義も聴きに行きましたが、レベルの高さに驚きました。アイソトープを使った髄液の流れの研究の話など、学生のレベルも高く、十分理解していたと思います。とにかく教育というのは「理解させなければならない」ものであるということをつくづく実感しました。

大畑:留学中のお仕事は研究ですか。

西村:そうです。当時指導してくれたBeringは髄液の産生について研究をしていましたので、犬と猿で「脳代謝と髄液の産生」について研究をしました。脳代謝が低いと髄液の産生も低くなるという結論でした。

大畑:当時、荒木先生とは連絡をとっておられたんですか。

Neurosurgery of Infancy and Childhoodの表紙と扉西村:年に2回は手紙をもらいました。「帰ってからpediatric neurosurgeryをやりなさい。そのためには、今から総説を書いて出しておく必要がある。『水頭症の治療』という総説を書け」と言われました。早速書き上げて送りましたところ、先生が手直しをしてくださって、京都医師会雑誌に載りました。

大畑:荒木先生は留学中も指示を出されていたということですね。

西村:そうしないと遊んでばかりいるということもありますからね(笑)。あなたにもそうしたほうがよかったかな。

大畑:(笑)。先生からお手紙をいただいたのを覚えています。留学は何年間ですか。

西村:予定どおり2年です。帰って早く何かしたいという気持ちに駆り立てられました。

大畑:帰国されてから一旦大学にお戻りになったんですか。

西村:大学で講師になって臨床をやりました。

留学時代の写真