A-a ヘモフィルスHaemophilus

学術的分類
Proteobacteria(科)>Gammaproteobacteria(綱)>Pasteurellales(目)>Pasteurellaceae(科)

概要
 発育に、V因子またはX因子、またはその両方が必要である。最も代表的な菌種はインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)で、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)と並ぶ呼吸器感染症病原体であり、グラム陰性桿菌の代表格でもある。その他の菌種としては、パラインフルエンザ菌(H. parainfluenzae)や軟性下疳菌(H. ducreyi)などが重要である。

主な菌種

a1. Haemophilus influenzaeヘモフィルス インフルエンゼ(和名:インフルエンザ菌、インフルエンザ桿菌かんきん
概要
 当初、インフルエンザを起こす菌と間違われて同定され、のちにインフルエンザがウイルス性であると判明したが、名称は変更されなかった。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)と並ぶ呼吸器感染症病原体である。疾患、発育条件、血清型、ワクチン、耐性菌について十分に知っておきたい。
細菌学的特徴
 グラム陰性短桿菌。小型で、莢膜を有する。通性嫌気性。X因子、V因子要求性(チョコレート寒天培地での培養が必要)*1
インフルエンザ菌のグラム染色
*1チョコレート寒天培地は56°Cでの加熱により溶血した血液を含む培地であり、赤血球由来のヘミン(X因子)やNAD(Y因子)を含むため、栄養要求性の高い菌の培養に適している。

血清型
 莢膜の血清型でa〜fに分類される。インフルエンザ菌による侵襲性感染症の95%がb型(Haemophilus influenzae type b, Hib*を原因菌とする。また、無莢膜型non-typeable)は気道感染症、特に肺炎の主たる原因菌であり、市中肺炎では、肺炎球菌についで多い。
*b型菌の莢膜多糖は、polyribosylribitol phosphate(PRP)という構造からなり、リボースという五単糖(ペントース)を持つ。その他の型は六単糖(ヘキソース)である。
代表的疾患
 肺炎、菌血症、髄膜炎、中耳炎など。
耐性菌
*β-ラクタマーゼの有無を確認する方法として、ニトロセフィン法などがある1
  1. 細菌性髄膜炎検査マニュアル
    http://www.nih.go.jp/niid/images/lab-manual/hib-meningitis.pdf
ワクチン
 侵襲性感染症(特に小児)の予防に有効なHibワクチンヒブワクチン)は、PRP破傷風トキソイドを結合させた結合型ワクチンPRP-T)である。小児に対して、肺炎球菌ワクチン(特にPCV13)と同時に接種されることが多い。

UpToDate〜Hibワクチンの効果


 日本では、2008年にHibワクチンの任意接種が開始され、2013年4月の予防接種法改正により、Hibワクチンは定期接種化されると同時に、侵襲性インフルエンザ菌感染症が5類感染症全数把握対象疾患に定められた。Hibワクチンの普及により、Hibによる髄膜炎は激減し、2013年は1例、2014年もほぼ皆無である。一方、件数は少ないがNTHiやHifによる髄膜炎が報告されている。海外では、Hia、Hie、Hifなども報告されている。
  1. 小児における侵襲性インフルエンザ菌、肺炎球菌感染症:2013年. IASR. 35(10):233-4, 2014.

ADVANCE〜なぜHibは病原性が高いのか?


 Hibの94%は、ヘモシンというバクテリオリシンを産生し、他の莢膜型や無莢膜型、腸内細菌科の多くは感受性を示す。DNA合成阻害作用を持つと考えられている。また、Hibの全ての株が、IgA1プロテアーゼを産生する。

ADVANCE〜莢膜脱落株とは何か?


 分離時に莢膜を有していた株が継代を繰り返すうちに莢膜が脱落することがある(S→R変異)。通常の血清型別では、無莢膜型と判定されてしまうが、DNAハイブリダイゼーションやPCRを用いることで、正確に莢膜型を決定することが可能である。

ADVANCE〜インフルエンザ菌の耐性の現状は?


 インフルエンザ菌は、10〜30%程度でβ-ラクタマーゼを産生することが知られている。BLPARやBLPACRが持つβ-ラクタマーゼとしてはTEM-1型とROB-1型(クラスAのペニシリナーゼ)*が知られ、ほとんどはTEM-1型である。
 インフルエンザ菌のPBPは、PBP1A、1B、2、3A、3B、4、5がある。PBP3A、3Bは隔壁合成に必要な細胞壁合成酵素で、PBP3 はftsI遺伝子にコードされている。BLNARおよびBLPACRは、ftsIの変異によりアンピシリンに耐性化することが知られている。
 BLNARは近年増加傾向にあり、2014年の福岡らの報告では、60%強、BLPACRも含めると80%弱の割合となっている6
*Ambler分類(総論、化学療法参照)のクラスAに属するβ-ラクタマーゼ。主にペニシリンを分解するのでペニシリナーゼとも呼ばれる。第1、第2世代セファロスポリン系薬等を分解するが、セファマイシン系薬、第3世代セファロスポリン系薬及びカルバペネム系薬は分解しない。クラブラン酸で阻害される。
  1. 平松和史. 基礎・臨床の両面から見た耐性菌の現状と対策5 インフルエンザ菌. モダンメディア. 53(7):186-9, 2007.
  2. 石和田稔彦. 小児の抗菌薬療法―呼吸器感染症を中心に―小児感染免疫. 18(2):147-51, 2006.
  3. 三本木祐美子他. インフルエンザ菌のペニシリン結合蛋白3 変異とβ-ラクタム系薬のクラスタリング. 日本化学療法学会雑誌. 53(2):121-7, 2005.
  4. Tristram S et al. Antimicrobial Resistance in Haemophilus influenzae. Clin Microbiol Rev. 20(2):368-89.
  5. Ubukata K et al. Association of amino acid substitutions in penicillin-binding protein 3 with beta-lactam resistance in beta-lactamase-negative ampicillin-resistant Haemophilus influenzae. Antimicrob Agents Chemother. 45(6):1693-9, 2001.
  6. 福岡史奈他. 当院におけるampicillin耐性Haemophilus influenzaeの検出状況と薬剤感受性について. 日本臨床微生物学雑誌. 24(3):43-9, 2014.
a2. Haemophilus parainfluenzaeヘモフィルス パラインフルエンゼ(和名:パラインフルエンザ菌、パラインフルエンザ)
概要
 V因子のみを要求し、X因子を要求しない*。口腔・鼻咽頭の常在菌であるが、上気道感染症、急性中耳炎に引き続き、化膿性髄膜炎や感染性心内膜炎などの侵襲性感染症を起こすことがある。
*V因子のみを要求するヘモフィルス属の菌種は、para-と命名される。

a3. Haemophilus ducreyiヘモフィルス デュクレイ(和名:軟性下疳菌なんせいげかんきん
概要
 軟性下疳の原因菌。下疳(chancreシャンカー)とは、性器にできる感染性潰瘍で、軟性下疳は本菌による有痛性の潰瘍。

細菌学的特徴
 栄養要求性が極めて厳しく、培養は困難。X因子のみを要求し、V因子を要求しない。

疾患
軟性下疳

主な症状
主な罹患部位 関連項目
細菌による性感染症
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2020年8月19日開設 2020年8月19日更新