麻疹(Measles)とは

概要

 パラミクソウイルス科モルビリウイルス属の麻疹ウイルス(Measles virus)による感染症で、いわゆる「はしか」ある。

 ウイルスは、体内に侵入後、鼻咽頭の上皮細胞内で増殖し、ウイルス血症を起こす。免疫系細胞に発現しているSLAMと呼ばれる受容体を用いて感染する。ほとんど不顕性感染はないと考えられており、罹患後は生涯免疫を維持する*。合併症として、麻疹脳炎(measles inclusion body encephalitis , MIBE)、亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis, SSPE)がある。
 生後3ヶ月までの乳児は、通常、母体からの移行抗体によって麻疹に罹患しない。多くは、移行抗体が消失する乳児後半から幼児期である。空気感染により伝播する代表的な病原体である。感染力を示す基本再生産数は20程度であり、現在知られている感染症の中で最も高い。隣室で診察している医師が感染した事例もある。
*例外的に罹患後の麻疹再感染疑い事例も報告されている。

異型麻疹と修飾麻疹

 異型麻疹と修飾麻疹は、名前が類似しているので混同しやすいが、症状が異なっており、発症機序も異なると考えられている。

ワクチン

 現行の定期接種では、風疹との混合ワクチン(MRワクチン)を使用する。生ワクチンであるため、免疫不全者や妊婦への使用は禁忌である。 母体由来の麻疹特異IgG抗体があると接種した麻疹ワクチンの増殖が十分でないため、母体由来の抗体がほぼ消失したと考えられる生後1歳以降の児に接種する。  標準的な接種時期としては、1回目が満1歳時(生後12ヶ月から90ヶ月まで接種可能)で、2回目が就学前である。生後6ヶ月以降は母親由来の免疫が減弱するため、麻疹流行期や保育園などで集団生活をしている場合は1歳以前にワクチンを接種することが勧められるが、任意接種となるため有料で実施する。1歳前に接種を受けた場合でも、1歳以降に再接種(この場合は定期接種として実施)をする必要がある。その理由は乳児期後期まで母親からの移行抗体が持続している場合があり、その場合はワクチンウイルスが母親の免疫で中和されてしまうため十分な抗体が産生されない可能性があるためである。  また、γグロブリンを投与された後は、投与後3ヶ月間(川崎病などの治療で大量療法を受けた場合は6ヶ月間)はワクチン接種を行わない。

ワクチンの歴史

 1966年から、前述のKL法によって接種が開始されたが、1969年以降は高度弱毒生ワクチン(further attenuated live vaccine, FL)の単独接種に切り替えられた。麻疹の定期接種に先立ち、1977年に風疹ワクチンが中学生女子を対象として定期接種化され、1978年10月から麻疹ワクチンの定期接種が開始された。1981年にムンプスワクチンの任意接種も開始された。1989年に、麻疹-ムンプス-風疹(measles-mumps-rubella, MMR)混合ワクチンが導入され、1989年から1993年4月までは、MMRも選択可能となった。しかしながら、ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎が問題となり、国内でのMMRワクチンの接種は中止となった。
風疹ワクチンについては、1994年に、風疹未罹患の中学生男女への接種が2003年9月までの経過措置として実施された。2006年4月からは、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)が定期接種となった。
以上の理由から、麻疹ワクチンや風疹ワクチンを1回しか接種していない世代もあり、複雑になっている。
http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA-3.html

亜急性硬化性全脳炎(SSPE)

 患者数は全国で150人程度、年間の新たな発症者数は5〜10例とされている。極めてまれな疾患であるが、予後は極めて不良で、診断確定後数年で機能廃絶あるいは死に至る。難病に指定されている。 麻疹罹患によってSSPEが発症する場合、1歳未満に麻疹に罹患した場合や免疫機能が低下している状態(ステロイドホルモン、免疫抑制剤、抗がん剤などを長期に使用しているような状態)で麻疹に罹患した場合の発症が多い。男女比はおよそ2:1で男児に多く、好発年齢は学童期で、全体の80%を占める。
 欧米諸国では麻疹ワクチンの普及により殆ど見られない。このことから、発症の予防には、麻疹に罹らないこと、すなわち麻疹ワクチン接種が最も重要である。日本の麻疹ワクチン接種率は欧米に比べて低いことが課題となっている。 初発症状としては、学校の成績低下、記憶力の低下、いつもと違った行動、感情不安定といった精神的な症状や、歩行が下手になった、もっているものを落とす、字が下手になった、体ががくんとなる発作(失立発作)などの運動性の症状などで気がつかれることが多い。
 通常、4つのステージに分けられ、第I期は軽度の知的障害、性格変化、脱力発作、歩行異常など、第II期は、四肢が周期的にびくびくと動く不随意運動(ミオクローヌス)が見られる。知的障害も次第に進行し、歩行障害など運動障害も著明となる。第III期では、知能、運動の障害はさらに進行し、歩行は不可能となり、食事の摂取もできなくなる。ミオクローヌスも強くなり、体温の不規則な上昇、唾液分泌の亢進、発汗異常などの自律神経の症状が見られるようになる。また、四肢の筋肉の緊張の亢進が見られるようになる。
 第IV期では意識は消失し、全身の筋肉の緊張は著明に亢進し、ミオクローヌスも消失し、自発運動もなくなる。
 全経過は通常数年であるが、3〜4ヶ月でIV期にいたる急性型が約10%、数年以上の経過を示す慢性型が約10%程度である。
 最近の治療により、改善を示す例、進行が遅くなる例、進行が止まるような例が見られるようになっている。早期に確定診断し、治療を開始することが予後の改善につながる可能性がある。
SSPEの治療
 完全な治療法は確立されていないが、以下の治療法が知られる。

更新情報
2021年9月10日 作成