A-aDO2
まず、A-aDO2は、以下の式で求める。
A-aDO2=PAO2-PaO2=PIO2-PACO2/R-PaO2
Rは呼吸商と呼ばれる定数である。呼吸商の説明については後述する。
次に、低酸素血症の原因を考える。一般に、低酸素血症の原因は、次の4つのカテゴリーに分類される。
- 肺胞低換気
- 換気血流不均等
- シャント
- 拡散障害
この中で、A-aDO
2が開大しないのは、1のみで、2〜4は開大する。では、A-aDO
2にはどのような意味があるのか。
先述の式でもわかるように、A-aDO
2は、肺胞内の酸素分圧(P
AO
2)と動脈内酸素分圧(PaO
2)の差である。1の場合、P
AO
2の低下によってPaO
2が低下する。したがって、P
AO
2とPaO
2には差が生じない(厳密にいうと、差が広がらない)。
一方、2〜4の場合、P
AO
2は低下しないにもかかわらず、PaO
2が低下する。したがって、差が広がる。
逆に、A-aDO
2が開大しなければ1が原因であり、開大した場合には1以外であることがわかる。ただし、動脈血液ガスのみで2〜4を区別することはできないため、2〜4を区別するには、病態を考えて判断する必要がある。
呼吸商
「呼吸商 = 0.8であることは自然の摂理である」と言ってしまえばそれまでであるが、呼吸商にはきちんと意味がある。呼吸商は、O
2とCO
2の交換比率である。呼吸商が0.8である、ということは、10分子のO
2と8分子のCO
2と交換される、ということを意味する。つまり、O
2:CO
2=0.8である。O
2とCO
2は、どちらもO
2が1つずつ入っているので、1:1で交換されてもいいはずだが、なぜ、1:1ではないのか。それは、O
2がC以外のものとも結合して消費されるためである。ブドウ糖を酸素を使って燃焼させることを考えてみる。
C
6H
12O
6を燃焼させるのに6分子のO
2が必要なので、
C6H12O6+6O2=6CO2+6H2O
となる。
したがって、ブドウ糖のみを完全燃焼させる場合には、交換比率が1:1になる。
一方、アミノ酸や脂肪はどうだろうか。
グリシンC
2H
5NO
2の場合
C2H5NO2+5.5O2=2CO2+5H2O+NO2
となる。
したがって、グリシンを完全燃焼させる場合には、5.5:2になることがわかる。
実際には、完全燃焼しないため、比率は若干異なるが、1:1になることはない。つまり、取り込んだO
2がNの燃焼に使用されるために、呼吸商が1よりも小さくなる。
呼吸商は、燃焼に用いた材料によるが、ほとんどが、糖、蛋白、脂肪が元になっている。これらを全て考慮すると、平均で0.8になる。また、呼吸商が0.8であるということは、1分子のCO
2と交換されたO
2が(1/0.8)分子であるとも言える。簡単な整数比率でいうと、5分子のO
2と4分子のCO
2が交換される。
では、P
AO
2の計算式になぜPaCO
2が出てくるのか。本来は、P
ACO
2を用いて計算すべきで、PAO
2=P
IO
2-PACO
2/Rとなる。呼吸商で割ることで、二酸化炭素と交換されたO
2が算出される。P
IO
2は、CO
2と交換される直前の酸素分圧で、二酸化炭素と交換されたO
2、つまりP
ACO
2/Rを引くことで、肺胞内に残った酸素分圧が計算できる。
また、低酸素血症の原因によらず、P
ACO
2=PaCO
2である。なぜなら、CO
2はO
2に比べて拡散能力が極めて高いため、A-aDO
2の説明のところで出てきた低酸素の原因である2〜4のような悪条件でも、動脈内から肺胞内へと排出される。このような理由により、P
ACO
2の代わりに、PaCO
2を用いても値が変わらないため、
PAO2=PIO2-PACO2/R=PIO2-PaCO2/R
となる。
なお、肺胞内は、水蒸気で飽和状態であると考え、水蒸気圧を47 Torrとして計算する。47 Torrは37℃での値なので、厳密には体温による補正が必要であるが、誤差と考え、通常は47 Torrを用いる。