麻酔科講師:土屋正彦 (つちや まさひこ)

生年月日 昭和33年(1958年)10月18日
山梨県甲府市生まれ
学歴・職歴
●1984年(昭和59年)高知医科大学卒業
●1988年(昭和63年)高知医科大学大学院医学研究科修了
●1990年(平成 2年)University of California, Berkeley勤務
●1994年(平成 6年)高知医科大学附属病院救急部助教授
●1995年(平成 7年)国立病院東京災害医療センター麻酔科医長
●2000年(平成12年)大阪市立大学大学院医学研究科助教授(客)
●2005年(平成17年)大阪市立大学 麻酔集中治療医学講師
専門
●活性酸素病態学
●麻酔蘇生学
●救急医学
●集中治療医学

2. Propofol(プロポフォール)による抗酸化治療戦略
(1)ミトコンドリアと活性酸素 (2)白血球
(3)循環動態とNO (4)呼気NO (5)喫煙と活性酸素
最近の研究成果から
呼気中に含まれるNO(一酸化窒素)の働きは?
体に良い麻酔薬ってあるの?
タバコを吸うとなぜ狭心症がおこるの?
全身麻酔中の患者にもBGM(音楽)は必要?
詳細は以下をお読み下さい
呼気中にはごく低濃度のNO(5-150ppb程度)が存在している。このNOの生理作用は長らく不明であった。我々は、健康人を対象にした研究で、呼気中のNO濃度とその時の動脈血液中の酸素分圧が有意に相関し、呼気NOが肺でのガス交換を積極的に制御していることを初めて明らかにした(論文)。NO吸入治療は、呼気NOが生理的に有しているこのガス交換制御作用を積極的に利用する治療法である。
(2) 抗酸化治療 (therapeutic sedation and anesthesia)
ICU患者や手術患者は、多大な酸素ストレスを受けている点で共通している。そのため、患者の酸素ストレスを軽減することで原疾患を治療しようとする試みが行われてきた。近年はtherapeutic sedation and anesthesiaと言う概念が提唱されている。ICU患者や手術患者に必須の麻酔薬や鎮静薬に、麻酔鎮静以外にも治療効果のある薬剤を用い、原疾患の治療を補助しようという戦略である。鎮静薬や麻酔薬は患者に持続的にかつ高濃度に使用されるため、適切に選択すれば一定の治療効果が期待される。我々は静脈麻酔薬かつ鎮静薬であるプロポフォール(propofol)に注目し、それが優れたラジカル消去作用を持ち(論文)、かつビタミンE類似のレドックスサイクルを形成することを明らかにした(論文)。さらに、他の麻酔薬に比べ手術中の赤血球の酸化損傷を抑制し、術中術後の輸血を回避する作用を有することも明らかとなった(論文)。以上の点から、プロポフォールはtherapeutic sedation and anesthesiaを可能にする薬剤の一つとして期待される。
喫煙は虚血性心疾患などの心血管系疾患や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器系疾患、さらには肺癌や食道癌などの各種癌のリスクを高めることが疫学的研究により明らかにされている。しかし、その病因物質についてはまだ不明であった。我々は喫煙により大量のスーパーオキシドが体内に取り込まれることを証明し、その結果、血漿中のNOが著明に減少することを明らかにした(論文)。このNOの減少こそが、喫煙者の狭心症や心筋梗塞のリスクを高めていると考えられる。
我々は静脈麻酔薬かつ鎮静薬の一種であるプロポフォール(propofol)がアポトーシス(あらかじめプログラムされた細胞死)を誘導することを明らかにした(論文)。敗血症のような重症病態では白血球のアポトーシスが病的に遅延してしまい、自己の組織障害を誘発している。プロポフォールは、このような病的に遅延した白血球のアポトーシスを正常化し、敗血症の治療を促進する。したがって、ICU患者のような重症患者の鎮静薬にプロポフォールを選択する有用性は特に高い。
我々は、全身麻酔中に患者にヘッドホンで患者の好きな音楽を聴かせることにより、手術後に、手術と麻酔に対する満足度が改善することを明らかにした(論文)。全身麻酔中とはいえ、若干の聴覚機能が維持されており、血圧や呼吸を管理すると同じように、患者を取り巻く音響環境も適切に管理することが、快適な麻酔を実現する上で重要な要素になる事が明らかとなった。
統計一口メモ
最近は論文投稿にあたってPower analysisというものを求められることが多い。これを説明するのはなかなか難しいが、一口で言うと、これから行う研究において、有意差を検出するために必要なサンプル数をあらかじめ決めることである。
一般にあまりサンプル数が多いと有意になりやすく、逆にサンプル数が少ないとなかなか有意にはならない。こんなときに,この実験,調査はこの程度の効果量が想定され,このくらいの検定力と前もって決めれば,その検定に必要なサンプル数を決めることができる。
この計算のためには以下のalphaとbetaという統計上のパラメータが必要となる。

Type I errorとは、実際には差がないのに差があると検定してしまう間違いをいう。このタイプのエラーが起きる確率をalphaで表す。検査法にたとえると偽陽性false positiveに相当する。
Type II errorとは、実際には差があるのに差がないと検定してしまう間違いをいう。このタイプのエラーが起きる確率をbetaで表す。検査法にたとえると偽陰性false negativeに相当する。
検定力(power)とは、実際に差がある時に差があることを検出できる確率、つまり1-betaのことをいう。別の言い方をするとその研究が本当の差を検出できる力のことである。検査法にたとえると感度sensitivityに相当する。
サンプル数の決め方は、この検定力(power)つまり1-betaを0.8に、alphaを0.2になるように設定して計算する。
実際には、必要なサンプル数の計算はコンピュータに任せるのが現実的である。お勧めは、GraphPad Softwareから発売されている
StatMate
というソフトでダウンロードして使用できる。もちろんMacintosh(OS X)用である。実際の使用した結果はこの論文を参照してほしい。

このシリーズで
InStat
というものもあり、これはt検定やANOVAなどの一般統計が行うことができる。どちらもMacintosh用らしい大変わかりやすいソフトで、門外漢の私でも十分使いこなすことができる。大変お勧めのソフトである。
さらに、同じシリーズで科学グラフ作成ソフトの
Prism
というものもあり、これもお勧めである。特にMS Excelのようないい加減なソフトで四苦八苦してグラフを作っている方にはぜひお勧めしたい。科学実験データを簡単にかつ大変きれいにグラフにすることができる。Macintosh用のグラフ作成名作ソフトであったCricketGraphの代用として十分実用に耐える。
なお、このシリーズはMacintosh版ばかりでなくWindows版も発売しており、今だにWindowsを使っている方もこのソフトの恩恵に浴することができる。
Virtual PC
臨床及び基礎研究をする上ではWindows PCよりMacintoshの方がはるかに使いやすいのは周知の事実であるが、時にどうしてもWindows PCが必要となることがある。
このMicrosoftが発売するVirtual PCというソフトは、Macintosh上でWindows PCをエミュレーションするソフトである。このソフトがあると別にWindows PCを用意せずともMacintosh上でWindowsソフトを使うことができるようになる。
以前のバージョンは、余り実用的と言えるような速度で動かなかったが、このたび発売されたVersion 7版は非常に高速に動作するようになった。特に、Windows XPではなくWindows 2000を使用すると(さすがに現行のWindows PCには勝てないが)数年前のWindows PCと同等あるいは、時にそれよりも高速に動作するのである。

Macintoshユーザーに自信を持ってお勧めできるソフトである。より快適に使うコツとしては、上述のようにソフトに付属するWindows XPではなくWindows 2000を別途用意して使用すると良い。