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HOME > 講座一覧 > 老年医科学講座 > ゲノム免疫学

ゲノム免疫学
- Immunology and Genomics

基本情報

学域名 老年医科学講座 ゲノム免疫学
(英語表記) Immunology and Genomics
代表者 顔写真
教授

植松 智
- Satoshi Uematsu
場所 学舎 18階
連絡先 TEL:06-6645-3926
MAIL:uematsu.satoshi(at)med.osaka-cu.ac.jp
ホームページ http://www.med.osaka-cu.ac.jp/immunology-genomics/ link
概要  腸管は、食餌性抗原や常在菌に対して免疫寛容を誘導する一方で、侵入してくる病原体に対しては適切に免疫応答を誘導し、その排除を行います。腸管粘膜に存在している樹状細胞やマクロファージといった自然免疫細胞は、非常にユニークな特性を持っており、Th17細胞、制御性T細胞、IgA産生B細胞の誘導など腸管に特徴的な獲得免疫応答を誘導します。
 当研究室では腸管粘膜に存在する個々の自然免疫細胞の機能を丹念に明らかにし、活性化と寛容の絶妙なバランスをとる腸管免疫の全貌に迫りたいと考えます。自然免疫は免疫応答の「入り口」であり、そこをコントロールすることによって免疫全体を制御できると思われます。また、バイオインフォマティクスを駆使し、細菌、真菌、バクテリオファージといった腸内共生微生物叢の解析パイプラインの構築と網羅的なメタゲノム解析を実践しています。最近の研究により、腸内微生物叢の異常が様々な疾患と関連する報告がなされており、病態の原因、増悪に関わる腸内微生物の同定を試みます。宿主側の重要な因子である腸管の自然免疫細胞、寄生体側の因子である腸内常在微生物を標的として、難治性の炎症性腸疾患、花粉症などのアレルギーの新規治療法、肥満や糖尿病などの代謝疾患の制御、より強力な癌治療、次世代粘膜ワクチンの開発を進めて行きます。

教育方針

学部教育

  • 学部1年生の「遺伝医学」
    ゲノム解析についての講義を行います。
  • 学部1年生の「基礎医学研究推進コース」
    レポートの評価を行います。
  • 学部2年生の「免疫系コース」
    「免疫系のしくみを分子レベルで理解し、感染病原体などに対する自然免疫応答と獲得免疫応答を理解する」「過敏症や主な自己免疫疾患、免疫不全症候群の成り立ち、がん細胞に対する免疫応答を理解する」ことを授業の到達目標とします。
  • 学部3年生の「修業実習」
    当教室の配属になった学生には、医学研究の面白さが体感できるよう指導します。

臨床教育(研修医の育成)

  • 当教室は基礎医学の講座ですが、Research mindを持ったPhysician scientistの養成のために、常に医療現場を意識し、橋渡し研究を実践できる教育を推進します。

研究指導

  • 粘膜特異的な生体防御応答、免疫寛容誘導の理解を深めてもらいます。また、腸内微生物と粘膜免疫応答の異常によって、いかにして疾患が発症するかを解明し、疾患の制御、克服に向けて応用出来る原理の確立ができるように思考力を養ってもらい、Research mindを持ったPhysician scientistに育成したいと考えます。具体的には、個体レベルの免疫応答の解析(分子細胞生物学や免疫学の技術を駆使)に精通し、ヒト病態に近い遺伝子改変動物を用いた独創性の高い研究の実施(遺伝子改変動物の作製、解析の習熟)をします。また、腸内微生物の核酸単離、次世代シークエンス解析、インフォマティクス解析にも習熟してもらいます。徹底したディスカッションに基づくテーマ設定、プロジェクト遂行を心がけ、ミーティング(原則英語)による研究発信力の強化にも努めます。さらに、しっかりとした研究倫理の啓発も行います。これらの過程を通して、独立して研究を遂行できるプロフェッショナルな研究者と新しい治療法を創出できるPhysician Scientistの育成を行いたいと考えます。

研究について

遺伝子改変動物や各種疾患動物モデルを用いて、腸管粘膜固有層の自然免疫細胞の機能解析を行い、腸管自然免疫細胞を標的とした新規治療法の開発を行います。ヒト糞便中の腸内細菌・ウイルスのメタゲノム解析を行い、日本人健常者のデータベースを構築します。さらに、健常者のデータベースを基盤として、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)、関節リウマチ、神経変性疾患(パーキンソン病など)、肥満、糖尿病患者などの腸内細菌、ウイルス解析を行い、腸内細菌の構成異常(dysbiosis)関連疾患に対する新規治療法の開発を行います。

教室を代表する業績

  • Fujimoto K, Kimura Y, Allegretti JR, Yamamoto M, Zhang YZ, Katayama K, Tremmel G, Kawaguchi Y, Shimohigoshi M, Hayashi T, Uematsu M, Yamaguchi K, Furukawa Y, Akiyama Y, Yamaguchi R, Crowe SE, Ernst PB, Miyano S, Kiyono H, Imoto S, Uematsu S. Functional Restoration of Bacteriomes and Viromes by Fecal Microbiota Transplantation. Gastroenterology. 2021 Feb 9;S0016-5085(21)00400-5. doi: 10.1053/j.gastro.2021.02.013.
  • Fujimoto K, Kimura Y, Shimohigoshi M, Satoh T, Sato S, Tremmel G, Uematsu M, Kawaguchi Y, Usui Y, Nakano Y, Hayashi T, Kashima K, Yuki Y, Yamaguchi K, Furukawa Y, Kakuta M, Akiyama Y, Yamaguchi R, Crowe SE, Ernst PB, Miyano S, Kiyono H, Imoto S, Uematsu S. Metagenome Data on Intestinal Phage-Bacteria Associations Aids the Development of Phage Therapy Against Pathobionts. Cell Host Microbe. 2020 Jul 3;S1931-3128(20)30344-9. doi: 10.1016/j.chom.2020.06.005.
  • Fujimoto K, Uematsu S. Vaccine therapy for dysbiosis-related diseases. World J Gastroenterol. 2020 Jun 7;26(21):2758-2767. doi: 10.3748/wjg.v26.i21.2758. (Review)
  • Fujimoto K, Uematsu S. Development of prime-boost-type next-generation mucosal vaccines. Int Immunol. 2019 Dec 28. pii: dxz085. doi: 10.1093/intimm/dxz085. (Review)
  • Fujimoto K, Kawaguchi Y, Shimohigoshi M, Gotoh Y, Nakano Y, Usui Y, Hayashi T, Kimura Y, Uematsu M, Yamamoto T, Akeda Y, Rhee JH, Yuki Y, Ishii KJ, Crowe SE, Ernst PB, Kiyono H, Uematsu S. Antigen-specific Mucosal Immunity Regulates Development of Intestinal Bacteria-mediated Diseases. Gastroenterology. 2019 Aug 21. pii: S0016-5085(19)41241-9. doi: 10.1053/j.gastro.2019.08.021.
  • Usui Y, Kimura Y, Satoh T, Takemura N, Ouchi Y, Ohmiya H, Kobayashi K, Suzuki H, Koyama S, Hagiwara S, Tanaka H, Imoto S, Eberl G, Asami Y, Fujimoto K, Uematsu S. Effects of long-term intake of a yogurt fermented with Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus 2038 and Streptococcus thermophilus 1131 on mice. Int Immunol. 2018 Jun 26;30(7):319-331. doi: 10.1093/intimm/dxy035.
  • Ouchi Y, Patil A, Tamura Y, Nishimasu H, Negishi A, Paul SK, Takemura N, Satoh T, Kimura Y, Kurachi M, Nureki O, Nakai K, Kiyono H, Uematsu S. Generation of tumor antigen-specific murine CD8+ T cells with enhanced anti-tumor activity via highly efficient CRISPR/Cas9 genome editing. Int Immunol. 2018 Apr 3;30(4):141-154. doi: 10.1093/intimm/dxy006.
  • Takemura N, Kurashima Y, Mori Y, Okada K, Ogino T, Osawa H, Matsuno H, Aayam L, Kaneto S, Park EJ, Sato S, Matsunaga K, Tamura Y, Ouchi Y, Kumagai Y, Kobayashi D, Suzuki Y, Yoshioka Y, Nishimura J, Mori M, Ishii KJ, Rothenberg ME, Kiyono H, Akira S, Uematsu S. Eosinophil depletion suppresses radiation-induced small intestinal fibrosis. Sci Transl Med. 2018 Feb 21;10(429). pii: eaan0333. doi: 10.1126/scitranslmed.aan0333.
  • Takemura N, Kawasaki T, Kunisawa J, Sato S, Lamichhane A, Kobiyama K, Aoshi T, Ito J, Mizuguchi K, Karuppuchamy T, Matsunaga K, Miyatake S, Mori N, Tsujimura T, Satoh T, Kumagai Y, Kawai T, Standley DM, Ishii KJ, Kiyono H, Akira S, Uematsu S. Blockade of TLR3 protects mice from lethal radiation-induced gastrointestinal syndrome. Nat Commun. 2014 Mar 18;5:3492. doi: 10.1038/ncomms4492.
  • Fujimoto K, Karuppuchamy T, Takemura N, Shimohigoshi M, Machida T, Haseda Y, Aoshi T, Ishii KJ, Akira S, Uematsu S. A new subset of CD103+CD8a+ DCs in the small intestine express TLR3, TLR7 and TLR9, and induce Th1 response and CTL activity. J Immunol. 186(11):6287-95, 2011.
  • Uematsu S, Fujimoto K, Jang MH, Yang BG, Jung YJ, Nishiyama M, Sato S, Tsujimura T, Yamamoto M, Yokota Y, Kiyono H, Miyasaka M, Ishii KJ, Akira S. Regulation of humoral and cellular gut immunity by lamina propria dendritic cells expressing Toll-like receptor 5. Nat Immunol. 9(7):769-76, 2008.
  • Uematsu S, Kaisho T, Tanaka T, Matsumoto M, Yamakami M, Omori H, Yamamoto M, Yoshimori T, Akira S. The C/EBPbeta isoform 34-kDa LAP is responsible for NF-IL-6-mediated gene induction in activated macrophages, but is not essential for intracellular bacteria killing. J Immunol. 179(8):5378-86, 2007.
  • Uematsu S, Jang MH, Chevrier N, Guo Z, Kumagai Y, Yamamoto M, Kato H, Sougawa N, Matsui H, Kuwata H, Hemmi H, Coban C, Kawai T, Ishii KJ, Takeuchi O, Miyasaka M, Takeda K, Akira S. Detection of pathogenic intestinal bacteria by Toll-like receptor 5 on intestinal CD11c+ lamina propria cells. Nat Immunol. 7(8): 868-74, 2006.
  • Akira S, Uematsu S, Takeuchi O. Pathogen recognition and innate immunity. Cell. 124(4):783-801, 2006. Review.
  • Uematsu S, Sato S, Yamamoto M, Hirotani T, Kato H, Takeshita F, Matsuda M, Coban C, Ishii KJ, Kawai T, Takeuchi O, Akira S. Interleukin-1 receptor-associated kinase-1 plays an essential role for Toll-like receptor (TLR)7- and TLR9-mediated interferon-{alpha} induction. J Exp Med. 201(6):915-23, 2005.
  • Uematsu S, Matsumoto M, Takeda K, Akira S. Lipopolysaccharide-Dependent Prostaglandin E(2) Production Is Regulated by the Glutathione-Dependent Prostaglandin E(2) Synthase Gene Induced by the Toll-Like Receptor 4/MyD88/NF-IL6 Pathway. J Immunol. 168(11):5811-5816, 2002.

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

  • 腸管粘膜固有層の自然免疫細胞群の機能解析
概要 腸管粘膜固有層から細胞を単離する技術を確立しました。粘膜固有層の自然免疫細胞群が、マクロファージマーカーであるCD11bと樹状細胞マーカーであるCD11cの発現によって、4つのサブセット:2種類の樹状細胞(CD11chighCD11blowとCD11chighCD11bhigh)、マクロファージ(CD11cintCD11bint)、好酸球(CD11cintCD11bhigh)に分かれる事を報告しました(Uematsu S, et al. Nat Immunol. 2008.) 。各サブセットの感染防御や、炎症誘導における役割を解析しています。
  • 放射線腸障害における自然免疫の役割
概要 放射線は臓器の感受性によって、様々な障害を誘導します。腸管は放射線に対して感受性の高い臓器であり、急性期には、下痢、吸収低下、細菌性腸炎によって亜急性に死亡します(消化管症候群)。私たちは、この急性放射線腸障害に二本鎖RNAを認識する自然免疫受容体のToll-like receptor 3 (TLR3)が病態の増悪に関わることを示しました(Takemura N, et al. Nat Commun. 2014.)。現在、TLR3を標的として放射線誘導性急性粘膜障害の治療法を開発しています。また、悪性腫瘍の腹膜播種などに対して腹部放射線照射が行われた際の晩発性放射線障害として、腸管の線維化が誘導されます。この線維化には、好酸球が必須の役割を果たすことを示しました。Interleukin-5 receptor α(IL-5Rα)に対する特異的抗体によって好酸球を除去することで線維化を抑制することができました(Takemura N, et al. Sci Transl Med. 2018.)。好酸球を標的とした放射線誘導性線維症の治療法の開発も進めています。
  • 次世代粘膜ワクチンの開発
概要 当研究室では、これまでの腸管粘膜固有層の特異的な樹状細胞の解析を基盤として、次世代粘膜ワクチンの開発を行っています。注射によるワクチン投与であるにも関わらず、全身免疫だけでなく腸管において抗原特異的IgAを誘導できる粘膜アジュバントを発見しました。この粘膜アジュバントを用いた初期免疫後、経口、経気道、経膣に抗原のみを追加免疫することで非常に高力価の抗原特異的sIgAを長期間誘導できます。この免疫法は「ワクチン用アジュバント、ワクチン、及び免疫誘導方法」に関する技術として2019年5月に特許化されました(WO/2016/199904)。このワクチンは、病原体の侵入門戸である粘膜において強力な粘膜免疫応答を誘導でき、「発症する前に抑制する」全く新しいコンセプトのワクチン開発が期待されます。また、このワクチンの方法を疾患特異的な腸内細菌を標的として応用することで、これまで制御できなかった腸内細菌叢の乱れに関連するさまざまな難治性の疾患に対する新たな治療アプローチとして使える可能性が期待されます(Fujimoto K*, Kawaguchi Y*, Shimohigoshi M*, et al. Gastroenterology. 2019. (*equal contribution))。現在、このワクチン接種法を次世代粘膜ワクチンとして、ヒトへの応用を進めています。
  • 日本人健常者の腸内細菌、ウイルス叢のデータベース構築
概要 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター健康医療インテリジェンス分野の井元清哉教授(ヒトゲノム解析センター長)との共同研究で、医科学研究所のスーパーコンピュータを使用し、腸内細菌、ウイルス叢の超高速解析パイプラインの構築を行っています。このパイプラインを用いて、日本人健常者の糞便を解析し、世界初の同一糞便における腸内細菌叢とウイルス叢のデータベースの構築を行いました(Fujimoto K, et al. Cell Host & Microbe. 2020.)。腸内ウイルスの多くは腸内細菌に感染するバクテリオファージであることが知られています。この独自のビッグデータならびに解析手法を用いて、シークエンスデータからバクテリオファージの宿主を同定することも可能となりました。
  • 疾患メタゲノム解析によるdysbiosis関連疾患の治療法の開発
概要 近年、炎症性腸疾患のような腸管の疾患だけでなく、自己免疫疾患、糖尿病、循環器系疾患、さらに自閉症などでもdysbiosisが存在し、それらが病態と密接に関わっていることが明らかとなりました。当研究室ではdysbiosis関連疾患における腸内細菌、ウイルス叢のメタゲノム解析を行い、病態に関連する微生物の検索や新規治療法の開発に取り組んでいます。
  • Clostridioides difficileに対する新規ファージ療法の開発
概要 健常者のシークエンスデータおよびこれまで臨床分離株として単離されているC. difficileのシークエンスデータを用いて、C. difficile特異的なプロファージ配列を抽出しました。そのプロファージ配列から、ファージが菌体内で増殖した後に菌体外に放出される際に使用される溶菌酵素として知られるエンドライシンの配列を探索し、新規配列を複数同定しました。それらのエンドライシンを合成し、in vitroで溶菌活性を有することを示しただけでなく、C. difficile感染マウスモデルにおいて今回新しく同定したエンドライシンが効果を示すことを明らかとしました(Fujimoto K, et al. Cell Host & Microbe. 2020.)。
  • 再発性Clostridioides difficile感染症に対する糞便移植治療前後における腸内微生物叢機能解析
概要 C. difficileは健康な人の腸管にも常在している菌の一つで、普段はおとなしくしています。さまざまな感染症の治療に抗菌薬は有用ですが、広域スペクトルの抗菌薬が使われて正常な腸内細菌叢が破壊されると、C. difficileは増殖し2種類の毒素を出して発熱や下痢を主症状としたC. difficile関連腸炎が起こることがあります。国内では、使用していた抗菌薬を中止し、C. difficileに感受性を持つバンコマイシンやメトロニダゾールといった抗菌薬の投与によって改善を認めることが多いとされています。ところが、欧米ではC. difficileの強毒株の出現や抗菌薬に対する耐性化などにより、治療がうまくいかなかったり、再発したりするケースが多数報告されています。そのような場合には、糞便移植治療が非常に有効だと報告されています。糞便移植治療は、欧米では既に治療ガイドラインに取り入れられている治療法です。しかし、再発性C. difficile 関連腸炎の改善に伴って、腸内細菌やウイルスの構成が変化することは知られているものの、その機能の変化についてはこれまでほとんど明らかとはなっていませんでした。米国ボストンのブリガム・アンド・ウィメンズ病院で糞便移植治療が奏功した再発性C. difficile関連腸炎患者9例およびそのドナーの糞便サンプルから腸内細菌ゲノムと腸内ウイルスゲノムを抽出し、それぞれ全ゲノムシークエンスを行いました。2020年に報告した腸内細菌と腸内ウイルスの解析パイプライン(Fujimoto K, et al. Cell Host & Microbe. 2020.)を用いてその構成割合と感染関係の解析を行いました。糞便移植治療前のサンプルでは抗菌薬の使用に伴った腸内細菌叢の乱れが起こり、ガンマプロテオバクテリア綱の細菌が増加すると共に、カウドウイルス目のウイルスが増加していました。一方、治療後のサンプルでは、バクテロイデス綱・クロストリジウム綱の細菌とミクロウイルス科のウイルスの増加していました。また、治療後の腸内細菌叢およびウイルス叢はドナーの腸内細菌叢およびウイルス叢に近づいていることもわかりました。さらに今回得られたシークエンスデータを用いて、腸内細菌叢の機能解析を行いました。糞便移植治療前では、炎症と関連するフルオロ安息香酸分解経路が特徴的に認められ、移植前で増加し移植後に消失したガンマプロテオバクテリア綱の細菌がこの経路に関わっていることが明らかになりました。移植後では、腸内細菌叢はドナーの構成比に近づいただけでなく、ドナーの腸内細菌叢が持つ機能に近づく(腸内細菌叢の機能が回復している)ことが明らかとなりました。アルギニンおよびオルニチン代謝経路、2次胆汁酸合成経路が糞便移植治療後で特徴的であり、機能の回復によって病態の改善に繋がっていることが分かりました。以上のことから、再発性C. difficile関連腸炎における病態形成に関わる菌群や、腸内細菌叢の機能回復に重要な菌群、遺伝子が明らかになりました(Fujimoto K, et al. Gastroenterology. 2021.)。

臨床への取り組み

基礎研究で得られたシーズに対しては可能な限り特許化を行います。製薬企業との共同研究を推進し、創薬、製剤化を進めます。現在、放射線粘膜障害の治療法の開発、炎症性腸疾患の治療法の開発、各種粘膜感染症や腸内細菌の制御を可能とする次世代粘膜ワクチンの開発、dysbiosis関連疾患の制御を目指した革新的なファージ療法の開発を進めています。

スタッフ

教授 植松 智
准教授 藤本 康介
助教 植松 未帆、林 哲哉
特任助教 宮岡 大知、下吹越 正紀

講座一覧

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