![]()
血液内科領域では近年病期診断にPETが用いられることが多くなっております。本項で
はPETについて簡単に説明します。
原理
腫瘍細胞はブドウ糖の細胞膜輸送が正常細胞に比較すると亢進、その結果、腫瘍細
胞の増殖が起こります。フルオロデオキシグルコース(FDG)はブドウ糖類似物質であ り、ブドウ糖と同様に細胞に取り込まれFDG6リン酸に変化しますが、解糖系で代謝され ずに細胞内に蓄積されていきます。FDGのF18はγ線を発生し、そのγ線を捉えて画像 化したものがPETということになります。FDGの集積度は腫瘍細胞の増殖速度、悪性 度、腫瘍細胞量と相関し、悪性リンパ腫は悪性腫瘍の中でも特にFDGの集積を示すこと が知られており、診断、治療の指針となります。
PET装置
PET装置の詳細は省略させていただきます。性能としての弱点は最小空間分解能が4
-5mm程度とマルチスライスCTの最小分解能(0.5mm)の約10倍もあるため、CTほど鮮 明な画像は得られず、全身を撮影するにはベッドを数回程度移動させなければならない ため撮影には30分程度の時間を要する点です。また集積部と各臓器との関係がはっき りせず、CTなどの断層画像との比較が必要となってきます。しかしPETとCTを別々に比 較すると呼吸性移動や体の捻れによる位置のずれが生じます。そこで開発されたのが、 同一条件でPETとCTを撮影し、融合画像を得ることができるPET・CTです。現在では PET・MRIも開発されております。
Standardized uptake value(SUV)
SUVは集積の度合いを示すものです。実体重、標準体重、体表面積などにより補正され
た数値を使用します。体重の場合には[組織放射能(cpm)/組織重量(g)]/[投与放射能 (cpm)]/体重(g)]となります。
PET撮影における注意点
1.血糖値
血糖値が上昇すると臓器の集積が低下、同時に腫瘍への集積も低下するため、注意
を要します。
2.生理的集積
生理的集積には臓器への集積と排泄による集積があります。臓器への生理的集積が
認められるのは脳(抗てんかん薬にて集積は低下、高齢者では前頭葉の集積は相対的 に低下、若年者では後頭葉や小脳への集積が高い)、扁桃、心臓(左心室壁のびまん性 あるいは心基部限局性集積)、胃、大腸、精巣、また排泄に関連した生理的集積として は唾液腺、腎臓、尿管、膀胱などが挙げられます。従って、リンパ腫病変がこの生理的 集積部に存在している場合には病変として評価されない場合があります(Ref)(例えば唾 液腺や消化管に発生しやすいmucosa-associated lymphoid tissue lymphoma(MALT リンパ腫)、扁桃を含むワルダイエル輪原発悪性リンパ腫)。胃・大腸への集積が多くみ られるのは粘液分泌亢進、蠕動運動亢進のためであり、特に下痢、便秘などにより影響 を受けます。
筋肉(胸鎖乳突筋、咬筋、外眼筋など)、乳房、肝臓、子宮、卵巣、骨髄にも軽度の生
理的集積を認めることがあります。子宮、卵巣では月経、排卵期から黄体期に集積亢進 が認められることが多いため、子宮・卵巣病変が考えられる場合には月経終了後から1 週間以内に撮影すると影響を受けることが少なくなります。特殊な生理的集積箇所とし ては小児・青年においては胸腺への集積が1/3程度に認められます(Ref)(前縦隔の三 角形の集積)。褐色脂肪細胞という細胞(体温調整のため非ふるえ熱産生を起こす細 胞)に集積が見られることがあります。左右対称に肩から傍脊椎の集積として見られるこ とが多く、特に寒い時期に認められます(Ref)。
3.炎症等の良性疾患への集積
FDGは炎症で糖の利用亢進(免疫担当細胞、顆粒球、マクロファージが解糖系をエネ
ルギーとしているため)と血流の増加・拡散のため、集積します(脳炎、副鼻腔炎、上咽 頭炎、扁桃腺炎、歯周囲炎、橋本病、肺炎、結核、逆流性食道炎、乳腺症、心膜炎、急 性胃炎、憩室炎、肝炎、膵炎、胆嚢炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、脂肪織炎、関節 炎、骨髄炎、サルコイドーシス、皮膚移植片対宿主病など)。炎症以外の良性腫瘍(髄膜 腫、下垂体腺腫、甲状腺腫、カルチノイド、線維腺腫、過誤腫、褐色細胞腫、神経鞘腫、 神経線維腫など)でも集積することが報告されています。
4.その他
注射時の漏れたFDGは、そのまま集積として観察されます(Ref)。また中心静脈ラインか
らFDGを注入した場合にはCVラインに付着した血栓に集積が見られることが報告されて います(Ref)。G-CSFを投与すると肝臓・脾臓に集積を示すようになります(約1ヶ月間持 続)(Ref・Ref)。
悪性リンパ腫に対するPET
前述したように悪性リンパ腫は悪性腫瘍の中でも特に強いFDGの集積を示します。リ
ンパ腫の中でも悪性度の高いものは集積が強く(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫な ど)、悪性度の低いもの(ろほう性リンパ腫など)では集積が弱い傾向が報告されていま す。また部位で最も検出しにくい箇所としては皮膚および骨髄が挙げられます。Kakoら の報告によると41例のNK/T細胞リンパ腫のうち皮膚に限局した病変を有する5例につ いてはFDG-PETはこの皮膚病変を検出できなかったと報告しております。また41例中 病理学的にリンパ腫と診断された14例中7例については皮膚病変(紅斑状病変)は検出 されず、検出された7例はいずれも腫瘤病変であったと報告しました(Ref)。
1.治療前
悪性リンパ腫の病期診断の中心はCTでしたが、現在ではPETで正しく病期診断ができ
るとされていますが、100%ではなく、CTとの連携が必要となります。また骨髄浸潤の感 度は50%程度であり(Ref)、骨髄穿刺・生検は必要となります。しかしながら骨髄生検で
陰性であった症例がPETで陽性となった症例も報告されております(Ref)。海外ではPET
を併用することによって20%程度の悪性リンパ腫症例の病期が変更され、10%の症例 で治療法が変更になると報告されています(Ref・Ref)。
2.治療後
化学療法を予定クール終了後も小さな腫瘤として残存することを経験します。この場合
には腫瘍細胞が消失していることが多いため、治療後評価としてunconfirmed complete response(CRu)とされております。PETは腫瘍細胞の代謝を観察しているた め腫瘍細胞の残存が比較的容易に観察することができるためInternational Working Groupの治療効果判定にPETによる評価が取り入れられております。
の場合はリンパ腫によるものよりもマクロファージの浸潤による可能性があります。また 主病変が治療に反応しているにもかかわらず治療前には見られなかった箇所に集積が 出現する場合の多くは偽病変のことが多いとされています。微小な病変については集積 がない場合があり、15%程度の症例で再発が報告されています。
このようにPETの悪性リンパ腫診療に関する役割、すなわち病期決定、治療終了後の
効果判定、は確立されたものとなってきております。また化学療法2-3コース後のPETの 結果が予後と関連するという報告もされており(Ref)、今後、PETは病変の存在診断のみ ならず治療法、予後改善にも大きな役割を果たす可能性があるものと考えられます。
平成20年8月20日初稿
![]() |