慢性リンパ性白血病
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骨髄像 
成熟円形小型(大きさが赤血球の2倍以下)リンパ球が単一的に増加している

骨髄生検像 
成熟リンパ球のびまん性増殖が認められる。

解説
慢性リンパ性白血病は成熟型のリンパ球が単クローン性に骨髄、リンパ組織で増殖す
る疾患であり、診断するためには細胞表面抗原分析、染色体、臨床像を検討し、他のリ
ンパ増殖性疾患との鑑別が重要となります。
[診断・臨床症状]
本邦における慢性リンパ性白血病の発症は全白血病の3%と稀な疾患ですが、欧米で
は本邦の10倍程度の発症頻度となっています。症例の95%が表面抗原分析においてB
細胞型であると報告されています。National Cancer Institute sponsored Working
Group Guidelineを中心に説明を進めます(Ref 1)。
1.末梢血リンパ球数:5000/μl以上が最低4週間以上持続する。
腫瘍細胞(大きさは赤血球の2倍以下)はリンパ節のマントル帯や末梢血に少数存在す
るCD5、CD19、CD20、CD23陽性のBリンパ球由来。遺伝子プロファイリング検索で遺
伝子発現パターンはpost germinal center B細胞であるメモリーB細胞であることが判
明ました。従ってそのマーカーであるCD27が陽性となります(Ref 2, Ref 3)。従来、リン
パ腫として分類されていた小リンパ球性リンパ腫も細胞起源が同様(CD27陽性)であり、
現在では同一疾患として分類されています。
2.細胞形態:成熟リンパ球である。
核小体をもった前リンパ球様細胞あるいはリンパ芽球が10%以下。慢性リンパ性白血
病の亜型として慢性リンパ性白血病/前リンパ球があります。著明な核小体を有する前
リンパ球が10%以上55%未満認める疾患であり、病勢が進行しやすいと報告されてい
ます。
3.骨髄像:リンパ球様細胞が30%以上。生検では正形成性〜過形成性であり、びまん性
のリンパ球浸潤が認められる(非びまん性の場合もあり)。
4.表面形質:CD19、CD20またはCD23が陽性。CD5が陽性(その他のT細胞形質は陰
性)。Immunoglobulin(Ig)軽鎖のクローナリティが認められる。
5.除外すべき疾患
a)T-CLL(T-PLLのsmall cell variant)
b)prolymphocytic leukemia(BおよびT)
c)lymphoplasmacytic lymphoma (macrogloburinemia)
d)hairy cell leukemia and variant forms
e)splenic lymphoma with villous lymphocytes
f)plasma cell leukemia
g)aggressive NK-cell leukemia
h)adult T cell leukemia/lymphoma
i)mycosis fungoides
j)non-Hodgkin lymphomaの白血化

 慢性リンパ性白血病の発症年齢は60〜70歳代に多く、60歳以下は30%程度であり、
男性に多いとされております(女性の約2倍)。約15%の症例で貧血、血小板減少が認
められます。また30%の症例でガンマグロブリン値の低下(機序としてはB細胞自体の
抗体産生能の低下およびT細胞の機能異常とされています)、約8%の症例に自己免疫
性溶血性貧血の合併が認められます(自己赤血球に対する抗体はT細胞異常に起因し
て正常B細胞から産生されます)。染色体異常の頻度は高いものの量的異常がほとんど
であり、キメラ遺伝子などの責任遺伝子は同定されていません。
 合併症として重要な疾患として各種癌の合併があります。欧米での9456例の15年間の
追跡調査によれば840例の二次発癌の報告がなされています(Ref 4)。この頻度は年代
を加味しても通常の2〜3倍となります。

[病期分類]
1975年に発表されたRai分類(Ref 5)と1981年に発表されたBinet分類(Ref 6)がよく用い
られています。

Rai分類
病期0:リスク低
リンパ球増加(15000/μl以上)、骨髄リンパ球40%以上
病期I:リスク中等度
リンパ球増加+リンパ節腫脹
病期II:リスク中等度
リンパ球増加+肝腫 and/or 脾腫±リンパ節腫脹
病期III:リスク高
リンパ球増加+貧血(Hb 11g/dl未満 or Ht 33%未満)±肝腫±脾腫
病期IV:リスク高
リンパ球増加+血小板減少(10万未満)±リンパ節腫脹±肝腫±脾腫±貧血

Binet分類
病期A:リスク低
リンパ球増加(末梢血で4000/μl以上)+リンパ領域腫大が2か所以下
病期B:リスク中等度
リンパ球増加+リンパ領域腫大が3か所以上
病期C:リスク高
リンパ球増加+貧血(Hb 10g/dl未満)または血小板減少(10万未満)

 上記2つの臨床病期分類は現在でも治療方針の決定に非常に重要であるものの大多
数の症例が発症時には低リスクか中等度リスク群であり、この中のどの症例が予後不
良であるかを推定することはできません。予後因子として用いられている指標を下記に
示します。
(1)リンパ球倍加時間(Ref 7):12ヶ月を越える場合には予後良好。
(2)骨髄生検:びまん性浸潤に比べ、結節性・間質性浸潤は予後良好。
(3)骨髄穿刺:リンパ球比率が80%以上に比べ、80%以上は予後良好。
(4)末梢血白血球数:5万以上に比べ、5万以下は予後良好。
(5)末梢血前リンパ球比率:10%以上に比べ、10%未満の場合は予後良好。
(6)チミジンキナーゼ(Ref 8)・LDH :チミジンキナーゼ・LDHが上昇群に比べ、正常群は
予後良好です。チミジンキナーゼはDNA合成に関わる酵素であり、分裂腫瘍細胞数を反
映します。LDHも同様のマーカーですが、チミジンキナーゼが予後推定マーカーとして優
れていることが報告されています。
(7)可溶性CD23抗原(Ref 9):大多数のCLLは細胞表面にCD23抗原を表出しています。
CD23は容易に切断されるため、腫瘍量を反映されると報告されています。可溶性CD23
抗原上昇例に比べ、正常例は予後良好。
(8)β2-マイクログロブリン(Ref 10):有核細胞が発現する主要組織適合遺伝子複合体
関連のタンパクであり、種々の主要の病期や予後と相関されることが報告されていま
す。β2-マイクログロブリン上昇例に比べ、正常例は予後良好と報告されています。
(9)染色体(Ref 11):慢性リンパ性白血病の染色体異常は特異的な部位の増幅や欠失
が多く、また細胞分裂像が得られにくいため、分染法よりもFISH法による解析が有用で
す。よく同定される異常は13q-、13q-単独、11q-、+12q、17p-、6q-と報告されていま
す。11q-、17p-は正常、13q-単独と比べ、著しく予後不良と報告されています。
(10)免疫グロブリン遺伝子可変部(Ref 12)・ZAP-70(Ref 13):B細胞が分化・成熟する
際にリンパ濾胞で免疫グロブリンの遺伝子変異が生じます。この遺伝子変異が生じない
症例に比べ、生じる症例の予後は良好であることが近年明らかにされました。また遺伝
子変異を生じていない症例の多数がT/NK細胞の細胞質内に存在するprotein
tyrosine kinaseであるZAP-70とタンパクが陽性であることが判明しており、ZAP-70陽
性例に比べ、陰性例は予後良好であることが報告されています(Ref 13)。
(11)Richter症候群:CLLの一部(約10%)の経過中に全身症状や急速なリンパ節、肝
脾腫の増大を伴ってびまん性大細胞型リンパ腫に転化することがあり、化学療法に抵抗
性を示し、予後不良となります。

[治療]
NCIによる治療開始基準は下記の通りです(Ref 14)。
(1)慢性リンパ性白血病に起因する以下の症状があるとき。
a.過去6ヶ月以内における10%以上の体重減少。
b.労働や日常生活が困難であるなどperformance status 2以上の極度の倦怠感。
c.感染症の所見なしに2週間以上続く38℃以上の発熱。
d.感染症の所見なしに起こる寝汗。
(2)進行性の骨髄機能低下による血小板減少または貧血症状の悪化。
(3)ステロイド治療が無効である自己免疫性貧血または血小板減少症。
(4)左肋骨弓下6cm以上の脾腫または進行性の脾腫。
(5)直径10cm以上のリンパ節塊または進行性のリンパ節腫脹。
(6)2ヶ月以内で50%を超える、または6ヶ月以内で2倍以上のリンパ球増加が予想される
リンパ球増加。
1.第1選択治療
(a)クロラムブシル
欧米ではクロラムブシル内服治療が行われてきましたが、本邦では認可されておらずシ
クロフォスファミドが使用されています。クロラムブシル単剤では完全寛解を得られること
は稀ですが、奏効率は高く、他のアルキル化剤との併用も単剤投与と同等の効果であり
(Ref 15)、クロラムブシル単剤治療が欧米での標準治療とされてきました。
(b)プリン誘導体単独および併用化学療法
プリン誘導体であるフルダラビン、クラドルビンが開発され、慢性リンパ性白血病に対す
る臨床試験が実施されてきました。欧米ではフルダラビン単独、フルダラビン+クロラム
ブシル併用療法、フルダラビン+シクロフォスファミド併用療法を用いた臨床比較試験が
実施されてきました(Ref 16, Ref 17, Ref 18)。いずれの試験も併用療法はフルダラビ
ン単独療法に比較して寛解率、奏効率が高く、無進行生存率を改善するものの生存率
には差が見られておりません。しかしながら現在、治療関連毒性に変化は見られず
quality of lifeを損なうものではないため奏効率の高いフルダラビン+シクロフォスファミ
ド併用療法が標準的治療と考えられております。欧米においても高齢者(66歳以上)に
対しては毒性が強く現れる場合があり、このような症例に対してはクロラムブシル単独治
療が選択されることが多いようです。危惧される合併症の一つとして治療関連の骨髄異
形成症候群、急性骨髄性白血病の増加が問題となります(Ref 19)。
(c)リツキシマブ単独および併用化学療法
慢性リンパ性白血病細胞のCD20抗原発現強度は低く、また腫瘍細胞が血管内に存在
するためリツキシマブが早くに消失、高用量、投与間隔を縮めてもリツキシマブ単独の
寛解率は10%前後と報告されました(Ref 20)。そこでリツキシマブ+フルダラビン併用
療法の臨床試験が重ねられ、併用療法は単独投与と比較すると無進行生存率、全生存
率ともに良好であることが判明いたしました(Ref 21, Ref 22)。更にフルダラビン+シク
ロフォスファミド+リツキシマブ併用療法により寛解率70%、2年無進行生存率85%、全
生存率95%と優れた成績が報告されております(Ref 23)。しかしながら本邦では慢性リ
ンパ性白血病に対するリツキシマブの保険適応はなく、臨床試験として扱われることに
なります。
2.第2選択治療
フルダラビンが投与されていない場合にはフルダラビン+シクロフォスファミド併用療法
が実施されます。フルダラビンが投与されている場合には1年以上間隔が空いている場
合には第1選択治療と同様の治療を行います。1年以内である場合には抗CD52抗体で
あるアレムツズマブが投与されることがあります(Ref 24)。
3.造血幹細胞移植
欧米においてフルダラビンの登場により寛解症例が増加した慢性リンパ性白血病の治
療戦略として治癒を目指した造血幹細胞移植が積極的に施行されております。
(a)自家移植(Ref 25, Ref 26, Ref 27, Ref 28)
自家移植は安全に施行可能であり、治癒例も報告され、生存期間の延長が期待できる
治療法ですが、再発率は高く(50%以上)、一般的には治癒困難とされています。また自
家移植については十分な幹細胞が採取できるのか否か(Ref 29, Ref 30)、自家移植後
の二次性骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病の増加が問題となります。
(b)同種移植(Ref 32, Ref 33, Ref 34, Ref 35, Ref 36)
2007年、Dregerらが慢性リンパ性白血病に対する同種移植適応に関するコンセンサス
を報告しております(Ref 31)。
慢性リンパ性白血病に対する同種移植は過去、骨髄破壊的前処置が用いられていたた
め移植関連死亡が高いため積極的には施行されてませんでした。1990年代より登場し
た骨髄非破壊的前処置を用いた骨髄非破壊的移植は治療関連毒性が低減されるため
移植関連死亡が減少、高齢者あるいは臓器障害を有する症例に対しても同種移植が可
能となりました。骨髄非破壊的移植は同種免疫反応により抗腫瘍効果をもたらす治療法
であり、進行性の悪性疾患よりも慢性に緩やかに進行する慢性リンパ性白血病は理論
的には奏効する疾患と言えます。しかしながら骨髄破壊的移植例よりも再発率が高いた
めに移植関連死亡低率が相殺されてしまい、全生存率、無病生存率に差は認められて
おりません。後方視的研究の結果であり、今後、前向き比較試験の実施が必要となりま
す。

2008年2月7日初稿

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