ヘアリ細胞白血病


解説
ヘアリ細胞白血病
・主として骨髄・脾臓に浸潤するB細胞系の稀な造血器悪性腫瘍です。形態学的な特徴
として写真に示すように不規則な細胞質の突起がみられます(日本名では有毛細胞白
血病と記載されることもあります)。原因は不明ですが、アジア人種、アフリカ人種での発
症は少なく、遺伝的要因の関与が示唆されております。また放射線被爆者や有機溶剤と
の接触者での発症率が高いと報告されています。化学療法の進歩によって4年生存率
は95%以上となっております。
臨床的特徴
・発症年齢の中央値は52歳であり、患者の80%が男性です。初期症状として巨大脾腫
による腹部膨満感、不快感、倦怠感・脱力感、体重減少、出血、感染症、有痛性骨病変
が見られます。
検査所見
・血液検査では約80%の症例に好中球減少(好中球数が500/μl以下の症例が1/3)、
約70%の症例に中等度、高度の汎血球減少症が認められます。末梢血白血球数が少
ない症例ではヘアリ細胞はリンパ球の20%以下ですが、白血球数が増加すればヘアリ
細胞の占める割合も増加します。
・ヘアリ細胞の特徴
@不規則な細胞質突起が認められますが、通常の風乾標本では判別し難く、自然乾燥
標本の方がよく確認できます(Ref 1)(写真)。電子顕微鏡により明らかになります。
A酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ染色に強陽性に染まります(約5%程度の症例は陰
性)。本試験をルーチン検査としている施設は少なく、施行困難な場合があります、
B細胞表面形質分析では細胞表面免疫グロブリン、CD11c、CD19、CD20、CD22、
CD25、CD103が陽性〜強陽性となり、慢性リンパ性白血病で発現しているCD5は陰性
となります。
C骨髄生検では細胞質辺縁が淡青染性を示す目玉焼きのような白血病細胞のびまん
性あるいは巣状浸潤とPAS染色で確認可能なびまん性、繊細なフィブリン網目構造が特
徴的です(骨髄線維化が著明に認められる場合もあります)。
骨髄は通常過形成性を示しますが、時に低形成性のことがあります。腫瘍細胞の判別
が困難であり、このような場合にはBで挙げた細胞表面抗原分析が有効となります。
D生化学検査では肝機能異常(約20%)、BUN高値(約30%)、単クローン性の症例も
含め、高γグロブリン血症が約20%に見られます。
E白血球数が10万/μl以上を示す変異型が存在します。腫瘍細胞の特徴として細胞質
突起は認められますが、細胞質が狭く、核/細胞質比が大きくなります。酒石酸抵抗性
酸フォスファターゼ染色は弱陽性〜陰性であり、細胞表面形質分析ではCD25、CD103
が陰性となります。
治療
治療のタイミングは以下の通りとなります。
脾腫またはリンパ節腫脹があり、
@ヘモグロビン値が10g/dl以下
A血小板数が10万/μl以下の血小板減少症
B好中球数が1000/μl以下に減少し、細菌感染、日和見感染症を繰り返している
C白血球数が2万/μl以上となり、明らかな白血病細胞の増加が認められる
D血管炎、有痛性の骨病変が出現
治療法
@クラドルビン(プリン誘導体)(0.1mg/kgを7日間持続点滴)
第一選択薬であり、75%以上の症例に長期寛解が期待できます。
Aペントスタチン(2'-デオキシコホルマイシン、プリン誘導体)(4mg/体表面積を1週毎静
注、3-6ヶ月続ける)
完全寛解率は50%程度であり、クラドルビンに劣り、クラドルビン抵抗性の症例には効
果が期待できません。
Bインターフェロン-α(インターフェロンα2b 200万単位/体表面積を1年間週3回皮下
注射あるいはインターフェロンα2a 300万単位/体表面積を連日で6ヶ月間皮下注射)
完全寛解が約10%、部分寛解が約70%症例に得られますが、50%は2年以内に再発し
ます。
D摘脾
約50%の症例では血球数が正常化。巨大有痛性脾腫、脾臓破裂を起こした場合、汎血
球減少が著明あるいは日和見感染症を繰り返し化学療法が困難な症例・無効な症例に
対しては適応となりますが、根治療法ではありません。

平成20年5月26日初稿
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