ホジキンリンパ腫 1
I. 疾患概念・診断

 ホジキン病は1832年にThomas Hodgkinにより報告(肉眼観察)、以後、Carl
Sternberg、Dorothy Reedらの顕微鏡観察によりホジキン病に出現する特徴的な細胞
をReed-Sternberg細胞と名付けられました。単核の細胞をHodgkin細胞、2核以上の多
核の細胞をReed-Sternberg細胞と呼び、現在、これらをまとめてHodgkin/Reed-
Sternberg細胞と称されております。ホジキン病は、その病態の本質が腫瘍であることが
十分検索また理解されないまま「ホジキン病」として取り扱われてきました。しかしながら
免疫化学的検査、分子遺伝子学的検査の発展により、H-RS細胞がクローン性に増殖
する成熟B細胞(特に胚中心細胞分化段階のB細胞)由来の腫瘍細胞であることが確認
(98%以上)され(Ref )(Ref )、現在では「ホジキンリンパ腫」という名称が使用されてお
ります。H-RS細胞の起源についてはT細胞あるいは樹状細胞/単球由来という報告も見
られております(Ref )。

ホジキンリンパ腫各病型とその特徴
(1)結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(nodular lymphocyte predominance
Hodgkin lymphoma、NLPHL)
(臨床)NLPHLはホジキンリンパ腫の2-6%を占め、男女比は3:1と男性に多く、年齢の
中央値は35歳と30-40歳代にピークが見られます。表在性リンパ節腫大(頚部、腋窩
部、そけい部)が多く、病期はT期症例が半数以上を占めます。時に腹部大動脈周囲、
腸骨動脈周囲リンパ節腫大が見られますが、縦隔リンパ節腫大あるいは他臓器浸潤を
来すことは稀です。治療に反応し、10年生存率は80-90%と予後は良好です。少数です
が、経過中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫への進展例が存在します。
(組織)NLPHLは結節状増殖を示す反応性細胞の中に後述するlymphocyte and
histiocyte細胞(L&H細胞)が散在するB細胞腫瘍(胚中心B細胞由来)です。L&H細胞
はRS細胞とは異なり、小型で明瞭な核小体(RS細胞に比較すると小型)と類円形あるい
は分葉状の核を有する巨細胞であり、popcorn細胞とも称されます。これらの細胞は
CD20抗原を有し、古典型ホジキンリンパ腫で陽性となるCD30およびCD15は陰性です。
また本来上皮性マーカーであるEMA抗原が50%以上の症例で陽性となります。免疫グ
ロブリン重鎖遺伝子再構成が認めらており、明らかにB細胞由来であることが証明され
ております。EBウイルスは検出されません。結節性病変の背景の細胞は主として小型リ
ンパ球から構成され、時にepithelioid(上皮の形質をもつ) histiocyteが小集蔟性にみ
られます。小型リンパ球はBリンパ球およびTリンパ球で構成されています。好酸球や形
質細胞の混在はほとんどみられません。L&H細胞は周囲を胚中心内T細胞(CD4、
CD57陽性)にリング状に囲まれています。
(2)古典的ホジキンリンパ腫(classical Hodgkin lymphoma)
 RS細胞が認められる腫瘍であり、ホジキンリンパ腫の約95%を占めます。RS細胞の
免疫形質はCD30陽性(ほぼ全例)、CD15陽性(75-85%)、CD45およびNLPHLで陽性
となるEMAは陰性となります。通常はB細胞、T細胞関連抗原は陰性となります。B関連
転写因子PAX5/BSAP(B-cell specific activator protein)が95%の症例に陽性となり
ます。RS細胞の起源については多くが成熟B細胞(胚中心細胞)由来とされますが、一
部にT細胞関連抗原や細胞障害性分子(granzyme B、TIA-1)を発現し、さらにTCR遺
伝子再構成を認めることから、T細胞由来と見なされています。
 (a)結節性硬化型ホジキンリンパ腫(nodular sclerosis、NS)
(臨床)NSHLはホジキンリンパ腫の40-70%を占めます。若年者〜若年成人に好発し、
女性にやや多く認められます。頚部、鎖骨上窩リンパ節腫大を来すことが多く、また60-
70%の症例に前縦隔病変を認めます(Ref )。EBウイルスの検出率は20%未満と報告
されています(Ref )。
(病理)線維性に肥厚したリンパ節被膜から連続性にリンパ節内に進展した太い膠原線
維束によって区分された結節性病変を示します。特異細胞は典型的なRS細胞ではなく、
大多数はlacunar(凹窩) cellと呼ばれる巨細胞であり、しばしば集蔟して認められます。
lacunar cellは過分葉の複雑な核と豊富な淡明な細胞質を有し、核小体は典型的なRS
細胞ほど著明ではありません。通常は細胞周辺部と周囲組織との間にわずかな間隙が
見られますが、これは標本作製過程で生じたものです(これがlacunar cellの名前の由
来)。背景の細胞はリンパ球が主体ですが、好中球、好酸球が混在し、しばしば壊死巣
を伴っております。進行例では未分化大細胞型リンパ腫との鑑別、びまん性大細胞型B
細胞リンパ腫(特に原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫)との異同が問題となる病変が
存在します。これに対応してWHO分類第4版では中間型B細胞リンパ腫の項目が追加さ
れています(B-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between
diffuse large B-cell lymphoma and classical Hodgkin lymphoma)(Swerdlow SH, et
al: WHO Classification of Tumors of Hematopoietic and Lymphoid Tissues. Lyon:
IARC Press, 2008)。
 (b)混合型ホジキンリンパ腫(mixed cellularity、MC)
(臨床)MCHLはホジキンリンパ腫の20-50%を占めます。40歳以上の男性(性差は3-4:
1)に多く発症します。リンパ節のみならず肝脾、骨髄浸潤を来すことが多く認められます
(NSHLと比較すると縦隔リンパ節腫大を来す症例は少ない)。病期はNLPHL、NSHLに
比べ進行している症例が多くみられます。
(病理)通常びまん性病変を示しますが、まれに反応性の過形成リンパ節濾胞間に病変
が存在することがあります。典型的なRS細胞(小型リンパ球の核よりも大きな核小体と
その周囲に明庭(halo)を有する単核、多核の巨細胞)が数多く見られますが、シート状
の集蔟はなく、壊死巣は稀です。背景の細胞はリンパ球、形質細胞、好中球、好酸球、
epithelioid histiocyteから構成されています。線維化は見られるもののNSHLで認めら
れる膠原線維束の形成は認められません。時に類上皮細胞の出現が見られ、サルコイ
ドーシスとの鑑別が必要となることがあります。
 EBウイルスは高率に陽性(70-80%)であり、特にEBウイルス陽性RS細胞がCD20陽
性である場合には老人性EBウイルス陽性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(EBV
positive diffuse large B-cell lymphoma of the elderly)(本邦で加齢性EBV関連B細
胞増殖異常症として報告されていた疾患と同義(Ref)との鑑別を要します。
 (c)リンパ球豊富型ホジキンリンパ腫(lymphocyte-rich,、LR)
LRHLはホジキンリンパ腫の6%以下、年長者の男性に多く、病期は初期のものが多く、
bulky massや縦隔腫瘤を伴う頻度は少ないとされています。LRHLはNLPHLよりも予後
は悪く、典型的なRS細胞が散在性に少数出現、背景の細胞は小型リンパ球で占めら
れ、好酸球や形質細胞はほとんど認められません。CD20などのB細胞マーカーは陰性
であり、しばしばEBウイルスが検出されます。
 (d)リンパ球減少型ホジキンリンパ腫(lymphocyte depletion、LD)
(臨床)LDHLはホジキンリンパ腫の1%以下であり、最も頻度が低い型です。年長者や
HIV陽性者に多く見られます。腹部リンパ節、肝脾、骨髄浸潤を来すことが多く、病期が
進行している症例が大部分です。
(病理)LDは典型的なRS細胞とそれに類似した異型細胞のびまん性病変を示し、リンパ
球を主体とする背景の細胞の著しい減少が認められます。線維化が目立つdiffuse
fibrosisとRS細胞とそれに類似した異型細胞の多形性が強くなり、肉腫様になる
reticular typeに分類されます。非ホジキンリンパ腫、特に成人T細胞白血病/リンパ腫
との鑑別が問題となります。

平成21年2月2日初稿

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