成人T細胞白血病/リンパ腫
II.治療

はじめに

 成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T cell leukemia・lymphoma、ATLL)はC型レトロ
ウイルスの一種であるhuman T-lymphotropic virus type 1(HTLV-I)が病因ウイルス
であることが明らかになっています。本邦におけるATLL症例ならびにHTLV-I感染者は
西南日本に多く、年間700例が発症、感染者1000人あたり年間ATL発症率は男性で1-
1.5人、女性で0.5-0.7人、30歳以上の感染者で生涯発症率は男性で4-7%、女性で2%
台となると推定されています(渡邊俊樹:HTLV-I感染者におけるATL発症に関する疫学
研究-これまでの研究成果と今後の課題. 血液・腫瘍科 56: 527-534, 2008)。
 ATLLの予後因子はJapan Clinical Oncology(JCOG)により解析され、LDH高値、カ
ルシウム(Ca)高値、年齢40歳以上、全身状態不良、総病変数の5つが同定されました
Ref 1)。この予後因子解析と臨床病態の特徴からATLLの病型分類が提唱されました
Ref 2)。その分類は急性型、リンパ腫型のaggressive(進行性) ATLLと慢性型とくす
ぶり型のindolent(緩徐進行性) ATLLとなります。aggressive ATLLは白血化とリンパ
節病変を認めるだけでなく、消化管、中枢神経等の重要臓器への浸潤、高Ca血症、正
常の2倍以上の高LDH血症が見られます。他方、indolent ATLLは皮膚、肺病変は認め
られますが、消化管、中枢神経等への臓器浸潤は認められず、高Ca血症、高LDH血症
は見られません。ATLL全分類型を合わせた生存期間中央値は10ヶ月ですが、急性型
は6ヶ月、リンパ腫型10ヶ月、慢性型24ヶ月およびくすぶり型は3年以上と報告されており
ます。このようにaggressive ATLL、indolent ATLLは進行度が異なるため、その治療方
針も大きく異なります。本稿ではこれらATLL分類に沿った治療法について述べていきま
す。

基本方針

1. くすぶり型と慢性型
・低悪性度ATLL (Indolent ATLL)と定義されます。くすぶり型は強力化学療法の適応外
であり、免疫不全による合併症管理が重要となります。しかしながら慢性型は3つの予後
不良因子(高BUN、高LDH、低Alb)が全く当てはまらなければくすぶり型に準じ、ひとつ
でもあれば化学療法の対象となります。

2. リンパ腫型と急性型
・高悪性度ATLL(aggressive ATLL)と定義され、極めて予後不良です。多剤併用化学
療法と同種造血幹細胞移植の適応となります。

Aggressive ATLL

1.ATLLに対する化学療法
 1978年からJapan Clinical Oncology Group(JCOG)がATLLを含む非ホジキンリン
パ腫に対して4種類の化学療法の臨床試験が行われました。ATLLの完全寛解率は抗
癌剤の種類が増えると上昇しましたが、予後の改善は得られませんでした。1994年より
オンコビン、シクロフォスファミド、アドリアマイシン、ラニムスチン、ビンデシン、カルボプ
ラチンおよびプレドニンを併用したVCAP-AMP-VECP交代療法(LSG15療法が開始さ
れました。このプロトコールには再発部位として多い中枢神経に対する予防投与(メソト
レキセートおよびプレドニン)が加えられ、また治療スケジュールを守るため好中球減少
に対するG-CSF投与が組み込まれています。適格症例93例中、完全寛解率35%、部分
寛解率45%、生存期間中央値13ヶ月、2年全生存率31%と過去のJCOGの治療成績よ
りも優れた成績が2001年、報告されました(Ref 3)。本治療は7コースが標準とされてお
りましたが、コースが進むにつれて血球減少が遷延し、治療間隔の遵守が困難になった
点、およびやはり再発部位として中枢病変が約20%の症例に認められたことから、治療
スケジュールに変更が加われました。すなわち治療コースを7コースから6コースに減じ、
髄腔内注入にシタラビンを加えたmodified LSG15療法(mLSG15)が考案されました。こ
のmLSG15療法と髄腔内投与を加えたbiweekly CHOP療法との比較試験(mLSG19)が
1998年から施行されました(Ref 4)。登録された症例は118例、急性型81例、リンパ腫
型26例、予後不良慢性型11例であり、A群57例、B群61例に割り付けられました。完全
寛解率はmLSG15が40%、mLSG19が32%、3年全生存率はそれぞれ23.6%、12.7%、
生存期間中央値はそれぞれ12.7ヶ月、10.9ヶ月といずれもmLSG15が有意に優れた結
果が得られております。特に55歳以下(後述する骨髄破壊的造血幹細胞移植対象とな
る年齢上限)の症例において3年全生存率は36%と優れた成績となっております。一方、
重度(NCI分類4度)の副作用(好中球減少、血小板減少、感染症)はいずれもmLSG15
が高率であり、更にmLSG15では3例の治療関連死亡が見られております。有害事象は
高率ですが過去の治療法と比較すると全生存率の改善は明らかであり、mLSG15は現
時点ではATLLに対する標準的治療であるものと考えられます。今後、新規抗癌剤との
組み合わせにより長期成績の改善が望まれるところです。

2. ATLLに対する同種造血幹細胞移植
 化学療法の項で述べられたようにJCOGが主導したLSG15療法が無再発生存率31.
6%と良好な結果を報告しております。この治療を基にして、modified LSG15療法が開
発され、当時標準的治療の一つとされていたbiweekly CHOP療法との第III相試験が実
施され、modified LSG15療法が完全寛解、3年全生存率ともに有意に良好な成績をおさ
めました。従って現時点での標準的化学療法はmodified LSG療法と考えられます。しか
しながら、その生存期間中央値は12.7ヶ月と依然として予後不良であり、化学療法のみ
での治療戦略には限界があり、これを打破するために自家造血幹細胞移植を併用した
大量化学療法が試みられましたが、治療成績の向上は得られておりません(Ref 5)。近
年、治癒を目指した治療として同種造血幹細胞移植がクローズアップされてきておりま
す。
(1)骨髄破壊的造血幹細胞移植
 Utsunomiyaらが10例について骨髄破壊的同種造血幹細胞移植を施行、無再発生存中
央値は17.5ヶ月、再発は2例のみと良好な成績を報告しました(Ref 6)。この成績を受け
てFukushimaらが多施設共同後方向的解析を行っております(Ref 7)。全40症例(急性
型30例、リンパ腫型10例)、年齢中央値は44歳(28-53歳)、移植時状態は寛解群5例お
よび部分寛解群が13例、化学療法に対して難反応性を示す不変群が3例、増悪・進行
群が9例、ドナーはHLA一致同胞が27例、HLA1座不一致同胞が5例、HLA一致非血縁
が8例でした。移植法は骨髄移植が21例、末梢血幹細胞移植が19例であり、前処置治
療は全例が骨髄破壊的治療であり、全身放射線照射を含む治療が18例、含まない治療
が22例でした。評価可能39例において38例が完全寛解に至っております(非寛解で施
行した11例のうち10例が完全寛解)。急性移植片対宿主病は26例に発症し、II-IV度は
18例(III-IV度は7例:III度4例、IV度3例)、慢性移植片対宿主病は評価可能30例中15
例に発症しております。死亡した症例は21例、その内、原病死は3例(14.3%)で、残りの
18例(85.7%)が移植関連死亡、特に6ヶ月以内の早期死亡が15例と多くを占め、うち13
例が移植関連死亡と報告されています。移植後生存期間中央値は9.6ヶ月、3年全生存
率は45.3%、無再発生存率は33.8%と化学療法に比較すると良好な成績が報告されて
います。本報告では免疫抑制剤の減量・中止により移植後再発ATL3例が寛解に至って
おります。Yonekura(Ref 8)もATLLの同種造血細胞移植後再発10例に対して免疫抑制
剤の中止を施行したところ8例に明らかな移植片対宿主病が発症、6例が完全寛解に至
り、移植片対宿主病を発症しなかった2例にドナーリンパ球輸注を施行したところ1例が
完全寛解に至ったことを報告しております(完全寛解4例が免疫抑制剤非投与にて寛解
を持続)。従って、ドナーリンパ球によるATL細胞殺細胞作用、すなわち移植片対ATL効
果は治療成績向上に重要な役割を果たしているものと考えられます。移植片対ATL効
果はKamiら(Ref 9)、Shiratoriら(Ref 10)も同種造血幹細胞移植後のATL制御に重要
であることを報告しております。
骨髄破壊的造血幹細胞移植は前処置治療(大量抗癌剤ならびに全身放射線療法)の治
療関連毒性ならびに移植関連合併症が問題となります。すなわち前処置治療による血
液毒性(重症感染症、出血)および重度の臓器障害そして移植関連合併症として移植片
対宿主病、血栓性微小血管障害、肝中心静脈閉塞症などが死亡原因となり、治療成績
向上を図るために乗り越えなければならない壁となっております。

(2)骨髄非破壊的造血幹細胞移植
 前述したように骨髄破壊的造血幹細胞移植の問題点は治療関連毒性ならびに移植合
併症による移植関連死亡(約50%)であり、その対象として臓器障害を有していない比
較的若年者(50歳程度まで)に限られています。50歳以上および臓器障害を有する症例
に対して治療関連毒性の軽減により同種移植を実行するために開発された移植法が骨
髄非破壊的造血幹細胞移植です(Ref 11)。移植前処置治療には細胞毒性の少なくか
つ免疫抑制効果の高い抗腫瘍薬(フルダラビン)、低線量全身放射線療法(2-4Gy)、抗
胸腺細胞抗体(anti-thymocyte globulin、ATG)を使用します。これらの前処置治療後
に移植を行うと移植後早期に混合キメラ状態(患者造血細胞とドナー造血幹細胞が混
在)となり、その後ドナー免疫細胞が患者の造血細胞と腫瘍細胞を排除することによっ
て、徐々に完全キメラ達成します。従って骨髄非破壊的移植による抗腫瘍効果は前処
置治療ではなくドナーリンパ球が腫瘍細胞を排除する前述した移植片対ATL効果が主
体となります。この骨髄非破壊的造血幹細胞移植の移植片対腫瘍効果については固形
癌領域でも報告が見られます(Ref 12Ref 13)。OkamuraらはATLに対する骨髄非破
壊的造血幹細胞移植を報告しております(Ref 14)。年齢中央値は57歳、急性型11例、
リンパ腫型5例の計16例であり、移植前処置治療にはフルダラビン、ブスルファンおよび
ATGを使用、移植片対宿主病予防としてシクロスポリン単独投与を行っております。16
例中1例が早期再発のため評価不能でしたが、残りの15例全例に完全キメラが確認さ
れました。前処置治療の治療関連毒性はgrade 3が3例(20%)の症例に生じましたが
grade 4の合併症は見られておりません。15例中10例(66.7%)に急性移植片対宿主病
が発症、そのうち5例(33.3%)がIII-IV度の重症移植片対宿主病でした。移植後100日
以上生存した13例中6例(46.1%)に広範型(extensive)慢性移植片対宿主病を発症し
ております。感染症の発症頻度が高く、敗血症(2例)、サイトメガロウイルス再活性化
(13例)およびEpstein-Barr virus関連ウイルス増殖性疾患が発症しております。15例
中4例が移植関連死亡(移植片対宿主病)でした。移植時に評価可能病変が見られた12
例において3例は早期再発、9例が移植後30日以内に完全寛解に到達しましたが、6例
が再発しております(移植後100日以内の再発は7例)。再発した9例中3例がシクロスポ
リン投与中止により腫瘍縮小が得られております。最終的には15例中5例が生存(6例
が腫瘍死)、5年無増悪生存率は20.0%、全生存率は33.3%、急性移植片対宿主病を発
症した10例の全生存率は50.0%、しなかった5例の全生存率は0%と前者に予後良好な
傾向が認められております(Ref 15)。再発、感染症が多発したことより、過度の免疫抑
制が原因と考え、第2期試験では前処置から抗胸腺細胞グロブリンを除き、その安全性
と有効性を検討しております(Ref 16)。進行期ATLL 14例に対して抗胸腺細胞グロブリ
ンを除いた前処置治療を用いた骨髄非破壊的移植が施行されました。生着不全はなく、
3年全生存率、無増悪生存率はそれぞれ36%および31%、遺伝子定量検査において
HTLV-1ウイルスが検出されなくなった症例が62%に認められております。ATG使用群と
比較すると完全キメラを達成するまでの期間は有意に遅延したものの、全生存率、無増
悪生存率に有意差は認められておりません。ATG投与、非投与群を合わせ検討すると、
全生存率、無増悪生存率に影響を与える唯一の因子として急性GVHD I-II度の存在と
報告しております。

 現時点では、
@化学療法によって完全寛解、部分寛解に至った50歳以下の症例に対しては骨髄破壊
的造血幹細胞移植は長期生存率を改善する可能性がある
A50歳以上の症例に対する骨髄破壊的造血幹細胞移植は移植関連死亡が多くなり、こ
れを克服しない限り、化学療法に対する優位性は言えない
B50歳以上の症例に対する骨髄非破壊的造血幹細胞移植は骨髄破壊的造血幹細胞
移植に比較すると安全に施行可能であるが、再発、移植関連死亡が多くなるため、更な
る検討(前処置治療種類、免疫抑制療法強度、再発後ドナーリンパ球輸注あるいは免
疫療法追加)が必要である
と言えます。

 上記はドナーとして血縁者を用いた検討ですが、非血縁者、臍帯血移植について多数
例での検討は少なく、今後の検討課題です。KatoらはATLL 33症例に対する骨髄移植
推進財団を介した非血縁者間造血幹細胞移植をまとめ、1年と短期間ではありますが全
生存率、無増悪生存率、増悪率および移植関連死亡率がそれぞれ49.5%、49.2%、18.
6%、32.3%と報告しました。また血縁者間造血幹細胞移植と同様に多変量解析で予後
不良因子として検出されたのは患者年齢であり、移植時非寛解50歳以上の症例は移植
関連死亡率が高くなると報告しております(Ref 17)。他一つのドナーソースとしての臍帯
血移植は骨髄破壊的前処置を用いて成功した症例について報告(Ref 18)されておりま
す。
Indolent ATLL

 818例の最長7年間の経過観察データによるとくすぶり型、慢性型、リンパ腫型、急性
型の4年生存率はそれぞれ63%、27%、6%、5%と報告されております(Ref 19)。塚崎
らは1974年以降、初診で経過観察できたindolent type ATL 90例(くすぶり型25例、慢
性型65例)について最長17年の長期経過観察データを解析しております(塚崎邦弘:
ATL患者の治療選択に関する国際的合意形成の試み. 血液・腫瘍科 56: 535-542,
2008)。10年以上観察例が12例、観察期間の中央値は4.0年(0.02-17.5年)、5年、10
年、15年生存率はそれぞれ47%、23%、9%、63例(70%)が死亡、死因は原病死46
例、他病死11例、移植関連死2例、不明4例と報告しております。90例のうち12例はLDH
高値のためなどによりindolent ATLの時期に治療を開始しておりますが、これらの症例
は他の症例よりも予後不良となっております。

平成20年8月7日初稿
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