WHO分類-リンパ系腫瘍(2008)
-解説-

PRECURSOR LYMPHOID NEOPLASMS
 B lymphoblastic leukemia/lymphoma
  B lymphoblastic leukaemia/lymphoma, NOS(Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 WHO第3版にはprecursor B lymphoblastic leukemia/lymphoma(B-ALL/LBL)と記
載されていた病名が第4版ではprecursorが省かれています。またB-ALL/LBLをB-ALL
/LBL with recurrent genetic abnormalitiesとB-ALL/LBL, not otherwise specified
(NOS)に分類されています。B-ALL/LBLは病変の広がり具合からB細胞性急性リンパ
性白血病(B-ALL)とB細胞性リンパ芽球性リンパ腫(B-LBL)に分けますが、両者とも
に前駆B細胞に由来しており、遺伝子学的、免疫学的に違いはありません。従って、病
理学的にはB-ALL/LBLと診断されます。一般的にはB-ALLは骨髄、末梢血に腫瘍細
胞が認められ、リンパ節、節外臓器にも浸潤します。B-LBLは初発時に白血化していな
い症例に用いられ、リンパ節、節外臓器に腫瘤を形成するものに用いられます。しかし
ながらB-LBLにおいても骨髄に浸潤を来していることが多く、明確に分類することは困
難です。WHO分類第4版では骨髄における腫瘍細胞が25%以上をB-ALL、25%未満を
LBLと定義しております。
 B-ALLは骨髄への浸潤に伴い血小板減少、貧血、好中球減少が認められ、またリン
パ節腫脹、肝脾腫を伴いますが、B-LBLはリンパ節、節外臓器に腫瘤が認められます
が、無症状のことが多いようです。
 形態学的特徴
 B-LBLは細胞相互の接着性に乏しいリンパ腫細胞がびまん性・密に増殖、散在性に
組織球を認め、starry sky appearance(星空像)が認められます。骨髄、末梢血では大
型で中等度の好塩基性の青染性の細胞質を有する芽球が見られます。核は類円形?不
整核に繊細なクロマチンと1-複数の明瞭な核小体を有し、胞体には空胞、時にアズール
顆粒が見られる細胞も存在します。
 免疫学的特徴
 CD19、CD79a、胞体内CD22陽性、CD10、細胞表面CD22、CD34、PAX5、terminal
deoxynucleotidyl transferase(TdT)が陽性となります。CD2、CD3、CD4、CD5、CD7,
CD8および細胞表面免疫グロブリンは基本的には陰性ですが、まれに表出する場合が
あります。また顆粒球系マーカーであるCD13、CD33が陽性になることがあります。パラ
フィン切片ではT-ALL/LBLもCD79aが陽性となるため、T細胞関連分子が陰性、
CD22、PAX5が陽性であることを確認する必要があります。
 遺伝子学的特徴
 IGH(免疫グロブリン)の再構成を多くの症例で認められますが、T細胞受容体再構成
が見られる症例も存在します。遺伝子異常が明らかなものでとして以下の7型が挙げら
れています。
 B lymphoblastic leukaemia /lymphoma with recurrent genetic abnormalities
  1.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with t(9;22)(q34;q11.2); BCR-ABL1
(BCR-ABL1を伴うBリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 22番染色体上のBCR遺伝子と9番染色体上のABL1遺伝子の転座を有するB細胞性リ
ンパ芽球性腫瘍です。急性リンパ性白血病全体の20?30%に認められ、成人急性リン
パ性白血病の最も高頻度遺伝子異常ですが、小児では3%に留まります。成人急性リン
パ性白血病においても年齢依存的であり、40歳代に発症のピークが見られます。治療
にはチロシンキナーゼ阻害剤が使用されるようになり、完全寛解率は50-80%、3年生
存率は55%(チロシンキナーゼ阻害剤登場前までは成人10%以下、小児でも20?40%)
と予後は改善しております。
 形態学的には特徴的なものはなく、表面抗原分析ではCD19、CD10、TdT陽性であり、
時に骨髄系マーカーであるCD13、CD33も陽性となります。CD117陰性、CD25が陽性と
なることがあります。BCR領域の切断点の違いによってp210kD BCR-ABL1とp190kD
BCR-ABL1の2種類の融合蛋白を生じます。小児急性リンパ性白血病では前者、成人
急性リンパ性白血病では後者が約半数を占めます。切断点の違いが病態に及ぼす影
響については明らかにされていません。

  2.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with t(v;11q23); MLL rearranged(MLL
再構成Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 11番染色体上のMLL遺伝子と他の染色体上の遺伝子間の転座を有する病型です。
11q23欠失のみでMLL遺伝子再構成を伴わない急性リンパ性白血病については本病型
に含まれません。
 1歳未満乳児急性リンパ性白血病の70-80%がMLL再構成を伴うのに対してそれ以外
の症例では5-10%と稀な病型です。
 一般的には成人3年生存率10-20%、小児では 5年生存率 10-35%と報告されていま
す。MLL遺伝子は40種類以上の異なる遺伝子間で転座を起こすことが報告されていま
すが、急性リンパ性白血病ではt(4;11)(q21;q23)MLL-AF4が最も高頻度に認められ、
小児・成人ともに予後不良とされています。
 形態学的には他のB細胞急性リンパ性白血病と変わらず、表面抗原分析ではCD10陰
性のproB細胞急性リンパ性白血病パターンをとることが多く、CD15も陽性となります。
遺伝子異常は前述したMLL-AF4が最も高頻度であり、次にt(11;19)(q23;p13)MLL-
ENL(T細胞急性リンパ性白血病でも認められます)、t(9;11)(p22;q23)MLL-AF9(急性
骨髄性白血病でも認められます)などの高頻度に認められます。

  3.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with t(12;21)(p13;q22); TEL-AML-1
(ETV6-RUNX1)(TEL-AML1(ETV6-RUNX1)を伴うBリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 12番染色体上のTEL(ETV6)遺伝子と21番染色体上のAML1(RUNX1)遺伝子間の転
座を有するB細胞性リンパ芽球性腫瘍です。
 小児急性リンパ性白血病で高頻度に認められる転座であり、予後不良因子を有さない
小児では長期生存が90%と極めて予後良好な疾患です。
 形態学的に特徴的な所見はなく、表面抗原分析ではCD19、CD10陽性、CD34が陽性
のことが多く認められます。通常お染色体分析では転座は検出されませんが、FISH法、
RT-PCR法により検出可能です。新生児期にTEL-AML1が検出され、その後に白血病
が発症した症例が報告されています。

  4.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with hyperdiploidy(高二倍体性Bリンパ
芽球性白血病/リンパ腫)
 染色体数が50本以上の異常を呈するB細胞性リンパ芽球性腫瘍です。染色体数はほ
とんどの症例で66本未満です。転座などの構造異常は認められません。乳児、成人で
は稀で小児で高頻度に認められます。
 臨床的には初診時白血球数の低値が特徴的に認められます。高2倍体白血病細胞は
メソトレキセートなどの抗癌剤に高感受性であることが報告されておち、予後良好な疾患
です。
 形態学的には特徴的な所見はなく、表面抗原分析ではCD19、CD10陽性、CD34が陽
性のことが多く認められます。

  5.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with hypodiploidy(低二倍体性Bリンパ
芽球性白血病/リンパ腫)
 染色体数が46本未満の異常を有するB細胞性リンパ芽球性腫瘍です。急性リンパ性白
血病の5%、に認められますが、45本未満の典型例は1%未満と稀です。一般的に染色
体数と予後が相関する傾向があり、特に一倍体性では予後不良と報告されています。

  6.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with t(5;14)(q31;q32); IL3-IGH(IL3-
IGH転座Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 5番染色体上のIL3遺伝子と14番染色体上のIGH遺伝子間の転座により、IL3遺伝子
の過剰発現を来します。臨床的には好酸球増多を特徴的に認められますが、稀な疾患
であり、治療や反応性、予後については不明です。
 急性リンパ性白血病の1%未満と稀です。形態学的に特徴的な所見はなく、表面抗原
分析ではCD19、CD10陽性であり、芽球が少なくても好酸球増加を伴う場合には本疾患
の可能性を念頭に置く必要があります。

  7.B lymphoblastic leukaemia/lymphoma with t(1;19)(q23;p13.3); E2A-PBX
(TCF3-PBX1)(E2A-PVX1(TCF3-PBX1)転座Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫)
 19番染色体上のE2A(TCF3)遺伝子と1番染色体上のPBX1遺伝子間の転座を有する
B細胞性リンパ芽球性腫瘍です。E2Aの転座パートナーとして稀にHFL遺伝子の関与す
るt(17;19)が認められるため、E2A再構成のみでの診断には注意を要します。また高二
倍体性B細胞急性リンパ性白血病などにおいてE2A、PBX1の関与しないt(1;19)が認め
られる例は本例には含めません。成人よりも小児に多く認められる染色体異常であり、
preB細胞急性リンパ性白血病の20-25%を占めます。小児では予後良好、成人では予
後不良であると報告されています。形態学的な特徴はなく、細胞表面抗原分析では
CD19、CD10、細胞質μ鎖陽性のpreB細胞のパターンを取ります。細胞質μ鎖陰性で
もCD9強陽性、CD34陰性?弱陽性の場合には本疾患を念頭に置く必要があります。

 T lymphoblastic leukaemia/lymphoma
 Tリンパ芽球性白血病はT細胞系列中型、細胞質は狭小、裸核状で核小体は不明瞭な
芽球が骨髄・末梢血に認められます(T acute lymphoblastic leukemia、T-ALL)。これ
らの細胞がリンパ節および節外臓器を侵すときにはTリンパ芽球性リンパ腫(T
lymphoblastic lymphoma、T-LBL)とされますが、両者は厳格に区別されることはあり
ません。
 小児ALLの15%、成人ALLの25%がT-ALLであり、またリンパ芽球性リンパ腫の85-
90%がT-LBLです。T-ALLの場合には末梢血白血球数は著明に増加し、縦隔腫瘤、リ
ンパ節、皮膚、肝脾、中枢神経、生殖器に腫瘤を形成することがあります。
 組織像は前述した細胞が均等で密に単調に増殖し、多数の核分裂像が認められま
す。バーキットリンパ腫で認められるような核片を貪食した組織球が混在してstarry
sky appearance(星空像)が見られることもあります。免疫染色ではterminal
deoxynucleotidyl transferase(TdT)陽性となりますが、CD1a、2、3、4、5、7は陽性率
が一定しません。CD7、細胞質内CD3(CD3のみがT細胞系列を決定するのに重要なマ
ーカーです)は多くの症例で陽性となります。CD4、CD8はしばしば両者陽性となることが
あり、CD10も発現することがあります。少数の症例でB細胞マーカーであるCD79aが陽
性となることも見られます。骨髄系マーカーについてもCD13、CD33、CD117が発現する
ことがあり、骨髄系マーカーの発現が必ずしもT-ALL/LBLを否定するものではありませ
ん。遺伝子学的検査ではT細胞受容体の再構成が見られることが多いのですが、20%
程度の症例で免疫グロブリン重鎖の再構成が認められます(Pilozzi E, et al. J Pathol
188:267, 1999)。染色体検査では30%に14q11.2(α、δT細胞遺伝子上)の遺伝子変
化、またTAL1(1q32)の変化が見られます。

MATURE B-CELL NEOPLASMS
Chronic lymphocytic leukaemia/small lymphocytic lymphoma(慢性リンパ性白
血病/小リンパ球性リンパ腫)
慢性リンパ性白血病の定義
@ 小型(球状から軽度核形不整を示す)成熟リンパ球の単クローン性増殖
A 腫瘍細胞は末梢血、骨髄、リンパ節、脾臓で増殖
B 末梢血中に少なくとも3ヶ月以上、腫瘍性リンパ球が5,000/μl以上認められる
C 組織内病変では増殖中心を形成する
D 腫瘍性Bリンパ球にはCD5ならびにCD23が共発現
E 小細胞性リンパ腫の名称は非白血病状態の慢性リンパ性白血病を組織学的に診断
した場合に用いる
欧米では全白血病の20-30%を占め、最も頻度の高い白血病であるのに対して、本邦
では2%以下と稀な白血病です。CLL/SLLとしては本邦では1.3%、欧米では6.7%を占
めております。診断時平均年齢は70歳、男性にやや多い傾向が見られます(1.5-2:1)。
 下記に示す臨床病期分類が予後を推測するのに役立ちます。この病期分類に加えて
免疫グロブリン重鎖遺伝子可変領域の体細胞変異はないCLL例は体細胞変異がある
CLL例と比較すると予後不良であると報告されています。また表面抗原ZAP-70、CD38
の発現、ATM・p53遺伝子異常を引き起こす11q、17p、6q欠失等の染色体異常が予後
不良因子と報告されています。
臨床病期分類
@ 修正Rai分類(生存期間)
低リスク 0:末梢血リンパ球数5,000/μl以上か、骨髄中のリンパ球40%以上(10年以
上)
中リスク I:病期0+リンパ節腫大(9年)
      II:病期0+脾腫または肝腫(どちらかまたは両方)(5年)
高リスク III:病期0+貧血(ヘモグロビン値11g/dl未満)(2年)
     IV:病期0+血小板減少(血小板数10万未満)(2年)
A Binet分類(生存期間)
A: 末梢血リンパ球数5,000/μl以上か、骨髄中のリンパ球40%以上、腫大領域2カ所以
内(10年以上)
B:病期A+腫大領域3カ所以上(5年)
C:ヘモグロビン値10g/dl未満または血小板数10万未満(2年)
*腫大領域:ワルダイエル輪を含む頭頸部リンパ節、腋窩リンパ節、鼠径部リンパ節、
肝臓、脾臓(リンパ節は1cm以上を有意な腫大と定義)

 腫瘍細胞は小型リンパ球として表現され、核網は凝集し、核小体は認められない。前
リンパ球は通常2%以下ですが、病勢が悪化した場合には前リンパ球が増加、55%を越
えると前リンパ球性白血病と診断されます。それ以下の場合にはCLLとして取り扱われ
ます。細胞質が広い比較的大型のリンパ球が出現(非典型CLL細胞)する場合がありま
すが、核網は凝集し、核小体は認められません。本邦ではCLLの40%にこのような腫瘍
細胞が出現します。
 CLLの10%以下の症例でびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に進行、これは
Richter症候群と称されます。前述した免疫グロブリン体細胞変異がないCLLではCLLと
同じクローンがDLBCLへ進展、体細胞変異があるCLLではCLLと異なるDLBCLが発症
するとされています。また1%以下の症例では古典的ホジキンリンパ腫への進展が認め
られます(体細胞変異があるCLLがほとんど)。CLLの経過中に増殖活性が増大し、前
リンパ球の増加を伴うことがあります(CLL with increased prolymphocyte)、前述した
ように末梢血リンパ球の55%以上を前リンパ球が占めるとB-PLLと定義されます。

B-cell prolymphocytic leukaemia(B細胞性前リンパ球性白血病)
 B細胞前リンパ球性白血病(B-PLL)は本邦では約0.08%、欧米では0.1%と稀な疾患
であり、リンパ性白血病の1%を占めます(男女比1:1、症例の大部分が60歳以上)。末
梢血中のリンパ球が著増し、ほとんどの例で脾腫を伴いますが、リンパ節腫脹は目立ち
ません。WHO分類において、その定義は@前リンパ球(核網は中等度凝集、明瞭な核
小体を有する中型の細胞)が末梢血、骨髄、脾臓を主体に増殖する疾患、A末梢血中
リンパ球増多(10,000/μl以上、その55%以上が前リンパ球)、B除外項目としてCLL急
性転化、前リンパ球増多を伴う慢性リンパ性白血病、前リンパ球の形態を示すリンパ増
殖性疾患でt(11;14)(q13;q32) (この染色体異常を呈する疾患はマントル細胞リンパ腫)
がないもの、となっております。
 B-PLLはB細胞マーカー(CD19、CD20、CD22、CD79a、CD79b、FMC7)が強陽性で
あり、CD5、CD23陽性が少なく、サイクリンD1過剰発現は認められません。
 多くの症例で脾腫とB症状が見られます。腫瘍増殖のため、骨髄抑制を来たし、貧血、
血小板減少が見られます。摘脾により症状は改善しますが、治療の反応性は乏しく生存
期間中央値は30-50ヶ月と報告されています。
 形態学的にはマントル細胞リンパ腫の腫瘍細胞と鑑別するのが困難です。B-PLLでは
複雑な染色体異常が多く見られ、半数に17p欠失やp53遺伝子変異が関連しています。

Splenic marginal zone lymphoma(脾濾胞辺縁帯リンパ腫)
 病理組織学的にリンパ腫細胞が脾臓の白脾髄あるいは白脾髄の辺縁帯に一致して浸
潤・増殖する低悪性度B細胞リンパ腫です(Schmid C, et al. Am J Surg Pathol 16:
455, 1992)。末梢血、骨髄浸潤を来しやすくvillous lymphocyte(絨毛リンパ球)が見ら
れることがあります。欧米では2%程度、本邦ではそれよりも稀な疾患です。欧米では免
疫性血小板減少性紫斑病と貧血の合併またC型肝炎ウイルス感染者に発症率が高いと
報告されています(Mele A, et al. Blood 102:996, 2003)。診断が困難な場合が多く(摘
脾されることが少ないため)、慢性リンパ性白血病と診断されている症例もあるものと考
えられます。
 中年-高齢者に好発し、性差は認められません。臨床症状はほとんど認められず、画
像検査では脾腫は見られるものの腫瘤形成をすることはほとんどありません。骨髄、末
梢血(白血化)への浸潤、脾門部リンパ節腫脹以外への箇所への浸潤は非常に稀で
す。
 摘脾された脾臓所見では白脾髄に一致して胚中心と薄いマントル帯の外側に明るい
層(辺縁帯に一致)を形成、細胞は小型-中型で軽度の不整形核と中等度の明るい胞体
を持つ細胞が主体となります(少数の大型細胞も混じる)。胚中心は萎縮-やや腫大と
様々であり、白脾髄全体を腫瘍細胞で占められる場合もあります。形質細胞へ分化を示
すことも稀にあり、その時には単クローン性形質細胞様細胞(あるいは形質細胞)の増
加を認めることもあります。大型細胞のシート状増殖はびまん性大細胞型B細胞リンパ
腫への移行を示唆します。骨髄あるいは末梢血で認められる腫瘍細胞は時に好塩基性
を示す中等度の胞体を有した成熟傾向が見られるリンパ系細胞であり、自然乾燥標本
では絨毛突起(villi)を認めます。表面マーカーではCD19、20、22、24、27、FMC7、
sIgM、BCL2が陽性となり、CD3、10、43、cyclin D1、CD30、CD56、BCL6は陰性です。
一部の症例でCD5(20%)、CD23(30%)、CD25(25%)、sIgDが陽性となります。形質
細胞への分化を伴う症例では免疫染色でκあるいはλが単一的に陽性を示します。染
色体異常は80%以上の症例で見出され、3q異常、12q異常、7q22-36欠失および1、3、
6、7、8、12、14に異常が報告されています。
 低悪性度、低侵襲性のリンパ腫であり、長期生存が見込まれます。経過観察、化学療
法、欧米では摘脾が行われますが、10%程度がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ移
行することが報告されています(Camacho FI, et al. Am J Sur Pathol 25:1268,
2001)。

Hairy cell leukaemia(ヘアリー細胞白血病)
 卵円形核および毛髪状の突起を含む広い細胞質からなり、緩慢な(indolent)小型B細
胞腫瘍で、骨髄、末梢血および脾臓(赤脾髄)で増殖されるものと定義されます。HCLに
は亜型が存在します(HCL variant、HCL-v)。
 欧米では中年男性(女性の4.5-5倍)に多く、リンパ性白血病の約2%を占めます。本
邦では稀な疾患であり、病型としては日本型HCL(HCL-jv)が多く、HCL-vは少ないと報
告されています(HCL:HCL-v:HCL-jv=9:2:29)。
 増殖巣としては骨髄、末梢血、脾臓ですが、肝臓、リンパ節、皮膚に浸潤することもあ
ります。検血では汎血球減少が認められ、末梢血に出現するHCL細胞数は比較的少な
く、単球の減少が特徴的です。HCLの腫瘍マーカーとしては可溶性CD22の有用性が報
告されています。治療はクラドルビンの登場により予後は良好となり、長期寛解が得ら
れるようになりました(10年全生存率は90%以上)。またリツキシマブを併用することによ
り、更に有効率は高まるものと考えられます。生存率が延長したことで悪性リンパ腫、甲
状腺腫様などの二次発癌が問題となっています。 
 サイズは小型-中型、核は卵円形-腎形、核小体は不明瞭であり、核網は比較的凝
集、核分裂像はみられません。細胞質は淡明-弱好塩基性で全周性に突起を有します。
時に棍棒状-空胞状の細胞質内封入体を有します。風乾標本よりも自然乾燥標本の方
が有毛の確認しやすくなります。ほぼ全例で少なくとも一部の細胞は酒石酸抵抗性酸ホ
スファターゼが強陽性となります。しかしこの発現はHCLに特異的ではなく、慢性リンパ
性白血病/小細胞性リンパ腫、濾胞辺縁帯リンパ腫、セザリー症候群でも陽性となりま
す。細胞表面抗原分析ではCD11c、CD25、CD103、CD123に加え、CD19、CD20、
CD22、CD79a、PAX5、CD40L、CD72、FMC-7、アネキシリンA1などが陽性となりま
す。細胞表面免疫グロブリンはIgMまたはIgGが陽性となりますが、IgMとIgGがともに陽
性となる場合があります。CD5、CD10およびCD23は通常陰性となります。多くの症例で
Ig重鎖遺伝子は体細胞突然変異を完了しており、IgMとIgGの同時発現例ではクラススイ
ッチの障害が生じています。特徴的な染色体異常は報告されていません。
 骨髄像は基本的に骨髄組織に不連続病巣が形成、腫瘍細胞が細胞質に富むため核
と細胞質膜が目立ち、honeycoumb appearanceあるいはfried egg appearanceと呼ば
れる独特の形態を呈します。病変部以外は顆粒球系細胞が減少し、赤芽球系細胞が目
立ちます

*Splenic B-cell lymphoma/leukaemia, unclassifiable(脾B細胞リンパ腫/白血病-分
類不能群)
  #Splenic diffuse red pulp small B-cell lymphoma(びまん性赤脾髄小型B細胞リ
ンパ腫)
 骨髄、末梢血、脾臓が病変の主座となります。リンパ腫より白血病に近い型ですが、
白血球数、血小板数は低値となり、貧血は認められません。腫瘍細胞は脾濾胞辺縁帯
リンパ腫に類似しております。細胞質は好塩基性を示し、骨髄では類洞内浸潤が特徴的
に認められます。赤脾髄での増殖は脾洞および脾索でみられます。
 腫瘍細胞は酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ陰性、細胞表面抗原ではCD11c陰性(また
は陽性)、CD25陰性、CD103陰性(または弱陽性)、CD123陰性(または弱陽性)、CD5
陰性、CD23陰性となります。

  #Hairy cell leukaemia-variant(有毛細胞白血病亜型)
 本邦ではHCL日本亜型がHCL群の半数例を示し、HCL-vと類似性があります。
 HCLよりやや発症年齢は高く、HCLのように性差は見られません。病変部位は骨髄、
脾臓が基本であり、検査所見ではHCLとは異なり白血球数の増加が見られ、また単球
の減少は認められません。クラドルビン、ペントスタチン、インターフェロンαなどHCLに
奏効する治療薬に対して抵抗性を有し、その予後はHCLよりも不良となります。
 細胞形態はHCL細胞とは異なり、大小不同、核中央に明瞭な核小体が単一で見られ、
細胞質膜の網状突起は全周性ではなく、核は分葉核また2核のことがあり、PLLに近い
形態を取ります。形質転換が起こると(約6%)、大型で不整核をもつ芽球が増加しま
す。酒石酸抵抗性酸ホスファターゼは陰性、細胞表面抗原はCD11c、CD103は陽性とな
りますが、CD25、CD123は陰性となります。IL-2Rβ、IL-2Rγは発現、FMC-7、
CD19、HLA-DR、CD22陽性、CD5、CD23は陰性となります。表面免疫グロブリンは
HCLと同様にIgMおよび/あるいはIgGが陽性となります。

Lymphoplasmacytic lymphoma(リンパ形質細胞性リンパ腫)
 Waldenstrom's marcroglobulinemia(Waldenstromマクログロブリン血症)
 リンパ形質細胞性リンパ腫(lymphoplasmacytic lymphoma、LPL)とWaldenstromマ
クログロブリン血症(Waldenstrom's marcroglobulinemia、WM)はWHO分類では同一の
項目に並列して挙げられています。WMでは腫瘍細胞は通常骨髄で増殖しますが、リン
パ節、脾臓、肝臓に高頻度に浸潤し、末梢血にも出現することがあります。臨床症状とし
ては肝脾腫(15-20%)、リンパ節腫大(15%)が認められます。
 LPL/WMの腫瘍細胞は小型のBリンパ球であり、様々な程度に形質細胞あるいは形
質細胞様リンパ球への分化傾向を示します(すべて同一クローンであると考えられま
す)。 表面マーカー解析では表面免疫グロブリンはIgMを発現し、時にIgDを同時に発
現しています。表面免疫グロブリン軽鎖はκかλどちらかに偏っています。CD19、
CD20、CD22、CD79などの汎B細胞マーカーを発現し、時にCD11c、CD25、FMC7も陽
性の場合があります。CD5、CD23は通常陰性(10〜20%で陽性)であり、慢性リンパ性
白血病との鑑別に役立ちます。形質細胞への分化傾向が強い場合にはCD138が陽性、
CD20が陰性となります。リンパ節においてはリンパ洞を残しながら腫瘍細胞は濾胞間に
びまん性に増殖し、偽濾胞を形成せずに進展します。腫瘍細胞は小リンパ球、形質細胞
様のリンパ球ないしは形質細胞で、Dutcher bodyと呼ばれるPAS染色陽性の核内封入
体を有することがあります。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫へ進展することも報告され
ています。現在のところ、LPL/WMに頻度が高い染色体異常として6番染色体長腕(6q)
の欠失が報告されていますが、その病態的意義は明らかではありません。6q-例は進行
が早く生存期間が短いと報告されています。
 臨床像としては大量のIgM(3g/dl以上)のため、過粘稠症候群を起こします(10-
30%)。赤血球凝集に伴って、視力障害(ソーセージ様眼底)や脳血管障害が合併しま
す。自己免疫疾患の合併も起こり、クリオグロブリン血症、末梢神経障害(ミエリンに対
する抗体活性によりミエリンが融解)、Mタンパクの変性物沈着によるアミロイドーシスを
合併することもあります。多発性骨髄腫とは異なり、IgM以外の免疫グロブリンの抑制は
軽度です。IgMが3000 mg/dl未満、骨髄中の異常細胞の割合が10%未満で特に症状の
ない場合をIgM monoclonal gammapathy of undetermined significance(MGUS)と呼
ばれますが、他のMGUSと比較すると進行しやすく、年に1-5%がLPL/WMに移行しま
す。
 臨床経過は緩徐であり、全生存中央値は5年以上です。臨床症状としては過粘稠症候
群(10-30%の症例)が見られ、赤血球凝集のために視力障害(ソーセージ様眼底)、脳
血管障害を生じることがあります。Mタンパクが自己抗体としての活性を有する場合には
クリオグロブリン血症、末梢神経障害(ミエリンに対する抗体活性)が生じます。その他と
してアミロイドーシス、凝固障害・出血症状(Mタンパクが凝固因子、フィブリン、血小板と
結合)を合併することがあります。死因としては原病の悪化、悪性度の高いリンパ腫へ
の進展、感染、治療による二次性白血病が挙げられます。予後をスコアリングシステム
で評価する報告も見られます。international prognostic scoring systemでは@血小板
10万以下、Aβ2マイクログロブリン3μg/ml以上、B IgM 7,000 mg/dl以上を予後不良
因子として、5年生存率を算出するとスコア0、1が87%、2で68%、3-5で36%と報告され
ています。その他の予後不良因子として高齢、汎血球減少、低アルブミン血症、末梢神
経障害などがあります。
 治癒することはほぼなく、症状のない場合には未治療で経過観察すべきであるとされ
ています(Ghobrial IM, et al. Lance Oncol 4: 679, 2003)症状がある場合には次に挙
げる治療が施行されます。効果判定については非ホジキンリンパ腫の効果判定を当て
はめるのは困難であり(Mタンパクが存在するため)、International Workshop(2006)の
判定基準が使用されます(Kimby E, et al. Clin Lymphoma Myeloma 6: 380, 2006)。
治療法を概説します。
(1)アルキル化剤を中心とした化学療法
 クロラムブシル、メルファラン、シクロフォスファミドなどの経口アルキル化剤による治
療が標準的治療とされてます。有効率としてはおおよそ50%ですが、完全寛解が得られ
ることは稀であり、有効であった場合にその中止時期の判断も難しい治療法です。ステ
ロイド剤を併用しても効果に変わりはありませんが、自己免疫疾患が合併している場合
には有効です。これらの薬剤に加えてアントラサイクリン系、ビンカアルカロイド、ニトロ
ソウレアを併用した化学療法の検討も行われていますが、その有用性は明らかにされて
いません。 このアルキル化剤が長期間に渡って使用された場合には二次性の骨髄異
形成症候群、急性白血病のリスクが高まります。(Annibali O, et al. Cancer 103: 582,
2005) 。
(2)プリンアナログを中心とした化学療法
 プリンアナログであるフルダラビン、クラドリビンを中心とした化学療法も施行されてお
ります。有症状、未治療WM 118例に対してフルダラビンを投与したところ、50%以上の
IgMの減少が40%の症例に認め(完全寛解 3例)。効果発現までの期間は2.8ヶ月、無進
行生存期間中央値は43ヶ月、生存期間中央値は84ヶ月と報告されています
Dhodapkar MV, et al. Semin Oncol 30: 220, 2003)。治療終了後もMタンパク減少が
続くことが認められており、プリンアナログの免疫抑制作用によるものと推定されていま
す。しかしながらリンパ球減少が著明となるため、特に日和見感染症の併発に注意を要
します。
サルベージ療法としてのフルダラビンとシクロフォスファミド、ドキソルビシンおよびプレド
ニン併用療法の比較試験では、有効率はそれぞれ28%および11%とフルダラビンが優
れた効果を示しております(効果持続期間も延長)(Leblond V, et al. Blood 98: 2640,
2001)。
(3)抗体療法(抗CD20抗体リツキシマブ)
 LPL/WMの腫瘍細胞はCD20陽性(形質細胞に近く分化するとCD20発現は減弱します
が)であり、リツキシマブ治療の効果が期待できます。未治療例34例、既治療例35例に
対するリツキシマブ治療ではIgMの50%以上減少はそれぞれ35%および20%、効果持
続期間中央値は27ヶ月、効果発現期間は緩やかで3ヶ月以上と報告されました(Gertz
MA, et al. Leuk Lymphoma 45: 2047, 2004)。IgMが6,000mg/dl以上の症例では効果
は乏しいとされています。
(4)多剤併用化学療法(リツキシマブ併用も含む)
 LPL/WMに有効なアルキル化剤とクラドリビン、フルダラビンあるいはリツキシマブを
併用することにより有効率を高めようとする試みもなされております。37例の未治療WM
に大してシクロフォスファミドとクラドリビン併用療法を行ったところ、部分寛解以上を
84%に認め、寛解持続期間中央値は36ヶ月と良好な成績が報告されています(Weber
DM, et al. Semin Oncol 30: 243, 2003)。
(5)造血幹細胞移植
 自己造血幹細胞移植を併用した大量化学療法は治療抵抗性あるいは再発後のWMで
その有効性が報告されています(Anagnostopoulos A, et al. Biol Blood Marrow
Transplant 12: 845, 2006)。同種造血幹細胞移植の報告は少なく、移植が成功した場
合には長期間の完全寛解が得られますが、治療関連死亡率が高いのが問題となりま
す。骨髄破壊的骨髄前処置を用いた場合には移植後3年無進行生存率は31%であった
ものの非再発死亡率が32%と報告されております。非再発死亡率を減少させるために
骨髄非破壊的前処置を用いた移植(いわゆるミニ移植)が施行され、良好な成績が報告
されております(Ueda T, et al. Bone Marrow Transplant 28: 609, 2001)(Treon SP,
et al. Cancer Treat Res 142: 211, 2008)。
(6)ボルテミゾミブ
多発性骨髄腫に適応をもつボルテミゾミブをLPL/WM10例(再発ならびに治療抵抗例)
に対して投与したところ、6例に部分寛解が得られ、その再増悪するまでの期間が11ヶ
月と報告されています(Dimopoulos MA, et al. Haematologica 90: 1655, 2005)。
(7)サリドマイド・レナリドマイド
 多発性骨髄腫に適応となっているサリドマイドならびに本邦では未発売であるサリドマ
イド誘導体であるレナリドマイドは単独あるいはデキサメタゾン、リツキシマブを併用する
ことにより優れた成績が報告されております。

* Heavy chain disease(重鎖病)
 重鎖病は免疫グロブリン重鎖のFc部分に相当するM蛋白が血清や尿中に出現する疾
患です。産生される免疫グロブリンの種類によってγ重鎖病α重鎖病μ重鎖病の3
疾患が含まれます。重鎖は通常は完全型ではなく欠損型であり、多くは軽鎖(κ鎖、λ
鎖)との結合ができません。血清免疫泳動法ではMピークとして血清免疫電気泳動法や
免疫固定法による診断が必要となります。
  # Alpha heavy chain disease(α重鎖病)
 免疫グロブリン重鎖のうち、IgAの重鎖を産生するものをα重鎖病と呼称します。地中
海沿岸、アジア南西部、北アフリカに多い疾患で日本では稀です。多くは消化管に病変
を有し、その結果、消化吸収不良症候群となり、下痢、体重減少、腹痛などを来します
(消化管型)。消化管型では小腸の少なくとも近位側半分以上とその近接するリンパ節
に腫脹が認められます。胃、大腸にも病変を認めることがあります。肝脾腫、リンパ節腫
脹の頻度は多くありません。稀に呼吸器型として気道浸潤を呈するタイプが報告されて
います。病変はStage A:びまん性に密な形質細胞様〜リンパ形質細胞様の細胞が粘膜
限界膜に浸潤、Stage B:形態異常を伴う形質細胞〜リンパ形質細胞、免疫芽球様細胞
が粘膜下に浸潤、Stage C:免疫芽球性リンパ腫細胞が潰瘍を形成し、腸管壁深く浸潤
の3期に分類されます。症状としては消化不良症候群による貧血、低カリウム、低カルシ
ウム、低アルブミン血症が見られます。重鎖は血清中に証明されないことがあり(特に病
状が進行すると重鎖分泌が低下)、腸液、胃液に存在することがあります。病変の中心
は十二指腸・空腸であり、内視鏡検査が重要です。Stage Aではピロリ菌除菌で病変が
消失する例があります。Stage B、Cではリンパ腫に準じた治療が行われます。

  # Gamma heavy chain disease(γ重鎖病
 γ重鎖病はリンパ形質細胞系細胞が異常γ鎖を産生するリンパ増殖性疾患です。こ
の異常γ鎖は軽鎖(κ鎖あるいはλ鎖)結合部を欠き、軽鎖を持ちません。稀な疾患で
あり、1964年にFranklinらが第一報を報告(Franklin病とも呼ばれます)以来、報告は約
130例程度に留まります。好発年齢は60〜70歳、性差はありません。臨床症状は悪性リ
ンパ腫、特にlympoplasmacytic lymphoma(リンパ形質細胞性リンパ腫)に類似しま
す。全身リンパ節、節外(ワルダイエル輪、消化管、骨髄、肝脾、末梢血、骨髄)に腫瘍
細胞が認められます。自己免疫疾患の合併(特に慢性関節リウマチ)が多く、そのほ
か、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、全身性エリテマトーデス、シ
ェーグレン症候群、慢性甲状腺炎などの合併が報告されています。血液検査ではほぼ
全例に貧血を認め、末梢血中に異型リンパ球、形質細胞様細胞の出現、好酸球増加を
伴うことがあります。血清蛋白電気泳動では正常よりやや幅広い、または正常のγ分画
を認めます。リンパ節生検ではリンパ球、形質細胞様リンパ球、形質細胞、免疫芽球、
組織球、好酸球などの多彩な細胞が増殖しております。免疫染色では細胞質にγ鎖を
認めますが、軽鎖は認めません。CD79a、CD20、CD138は陽性ですが、CD5、CD10は
陰性です。染色体異常は半数以上に見られますが、特異的なものはないとされていま
す。無症状例では無治療経過観察となりますが、進行の早い症例については多剤併用
化学療法、フルダラビン、CD20発現例にはリツキシマブ併用化学療法などが行われま
す。予後は数週間〜数年と様々な報告があります(1年〜7.4年)。

  # Mu heavy chain disease(μ重鎖病)
 軽鎖を欠くモノクローナルなμ鎖を産生する成熟リンパ球〜形質細胞までの分化段階
にあるB細胞性腫瘍です。重鎖病の中でもμ重鎖病は最も報告数が少ない疾患です。
腫瘍細胞の増殖部位は末梢血、骨髄、脾臓および肝臓です。通常、リンパ節腫脹は見
られません。臨床検査では貧血、血小板減少、白血球分画での相対的あるいは絶対的
リンパ球増加がみられます。末梢血中に慢性リンパ性白血病を疑わせる小型成熟リン
パ球が増加、形質細胞様リンパ球も存在します。これらの細胞の表面抗原はCD19、
CD20、CD38、HLA-DR陽性で慢性リンパ性白血病と同様ですが、CD5は発現しており
ません。染色体検査で特異的異常は見られません。治療としては化学療法(クロラムブ
シル、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、プレドニン)、放射線療法などが行われてい
ました。治療は奏効しますが、平均生存期間は24ヶ月と予後不良であるこが報告されて
います。

Plasama cell neoplasms(形質細胞腫瘍)
  Monoclonal gammapathy of undetermined significance(MGUS)(意義不明の
単クローン性γグロブリン血症)
 MGUSは骨髄腫とは異なり化学療法の対象とはなりません。欧米の報告では50歳以
上の男性の4%、女性の2.7%に認められ、加齢とともに増加することが報告されていま
す(Kyle RA and Rajkumar SV. Br J Haematol 139:730, 2007)。血縁者にMGUSある
いは骨髄腫が存在するとMGUSの罹患率が高くなるという報告も見られます(Vachon
CM, et al. Blood 114:785, 2009)。骨髄腫は国際骨髄腫ワーキンググループによって
MGUS、くすぶり型骨髄腫、症候性骨髄腫に分類されています。 MGUS はM蛋白がIgG
では3000mg/dl未満、IgAでは2000mg/dl未満、Bence Jones蛋白1000mg/24時間未満
であり、かつ骨髄の形質細胞が10%未満で、骨髄腫以外のM蛋白を呈する疾患が存在
しないものと定義されています。
 骨髄腫でみられる遺伝子異常、染色体転座はMGUSでも見られ、MGUSは前骨髄腫
状態と言えます。長期経過観察では10年で17%、20年で34%のMGUS症例が骨髄腫に
移行すると報告されています(他死因を考慮すると11%程度)。
 M蛋白のタイプが非IgG型、M蛋白量が1500mg/dl以上、free light chainのκ/λ比が
以上を示す症例が高リスクとされ、骨髄腫への進展率が高いと報告されています
Rajkumar SV, et al. Blood 106:812, 2005)。

  # Plasma cell myeloma

   Solitary plasmacytoma of bone(骨孤立性形質細胞腫)
 病変が1カ所の骨あるいは骨髄に局在していることと生検組織の病理診断により本疾
患の診断が決定されます。国際骨髄腫ワーキンググループの分類では骨孤立性形質細
胞腫は@血清およびまたは尿中にM蛋白を検出しない(時に少量のM蛋白を検出)、A
単クローン性の形質細胞の増加による1カ所のみの骨破壊、B非病変部の骨髄におけ
る形質細胞のびまん性増殖がなく多発性骨髄腫に相当しないこと、C全身骨X線検査正
常および脊椎と骨盤MRIが正常、D形質細胞増殖に関連した臓器・組織障害がないこと
と定義されています。
 本邦での発生頻度は不明ですが、全形質細胞腫瘍の3-4%を占めます。発症年齢中
央値は50-55歳で、多発性骨髄腫より10歳程度若く、男性に多いと報告されています(2
-4:1)。
 病変のほとんどは造血巣である赤色髄から発生しています。病変部位は脊椎骨、頭蓋
骨、腸骨、大腿骨、鎖骨の順に多くなります。症状は骨痛、病的骨折が初発症状として
多く、単純レントゲンで病変が確認されない場合もあり、その際にはMRIによる検索が必
要となります。またPET/CTの有用性が報告されております。
 患者の約25%に血清およびまたは尿中に少量のM蛋白が認められます。これは治療
後に消失するため、腫瘤が消失した後もM蛋白が存在した場合には多発性骨髄腫の存
在を考える必要があります。

  # Extraosseous plasmacytoma

   Monoclnal immunoglobulin deposition disease(MIDD)(単クローン性免疫グ
ロブリン沈着病)
 単クローン性免疫グロブリン沈着病(MIDD)は形質細胞腫瘍などのMタンパク産生腫
瘍が存在し、産生された免疫グロブリンの一部が臓器や軟部組織に沈着し、ときに臓器
障害を引き起こす疾患です。形質細胞腫瘍が十分に腫瘍量を増して臨床的に顕性化す
る前に沈着したMタンパクによる症候が問題となります。MIDDは沈着する免疫グロブリ
ン由来タンパクの化学的性状の違いにより原発性アミロイドーシス、軽鎖沈着病、重鎖
沈着病、軽鎖および重鎖沈着病に分類されます。
 @Primary amyloidosis(原発性アミロイドーシス)
 異常免疫グロブリン軽鎖由来のアミロイド(ALアミロイド)が全身の諸臓器に沈着し、
臓器機能障害を引き起こす疾患です。アミロイドはコンゴレッド染色により特有な複屈折
性を示します。免疫グロブリンに由来するアミロイドとしては重鎖由来のAHアミロイドー
シスが知られていますが、その頻度は極めて低いものです。
 ALアミロイドの前駆タンパクである異常免疫グロブリンは骨髄中に存在する単クロー
ン性の形質細胞やリンパ球から産生されます。今回、改訂された新WHO分類では骨髄
腫随伴性を含めたすべての全身性ALアミロイドーシスを原発性と一括して扱っていま
す。有病率としては人口100万人当たり6.1人と推定されています。本症の身体所見とし
ては巨舌、唾液腺腫大、眼瞼・顔面・頸部の皮下出血、臓器として早期から侵されやす
い部位として心臓、肝臓、腎臓、消化管、末梢神経が挙げられます。心臓に病変が及ぶ
と拡張機能障害から起立性低血圧、血圧低下、脈圧減少を起こして最終的に難治性心
不全を発症します。腎臓を侵された場合にはネフローゼ症候群を呈することが多く、末
梢神経障害としては手根管症候群が多く見られます。時に手袋・靴下型感覚障害を主体
とした多発神経炎を呈します。症状を発現すると進行は速く、診断からの平均生存期間
は約2年とされています。骨髄腫随伴例では更に予後不良となります。クレアチニン、β
2ミクログロブリン上昇、肝腫大、体重減少、尿中へのλ型軽鎖排出が予後予測因子い
挙げられています。
 骨髄中の形質細胞は軽度増加、組織中のアミロイド検出にてはコンゴレッド染色が用
いられています。アミロイドはコンゴレッド染色によって赤橙色かつ無構造の沈着物とし
て観察され、偏光顕微鏡下ではapple greenと呼ばれる独特の偏光を示します。確定の
ための生検は腎臓、消化管(胃・十二指腸)、腹壁脂肪が選択されます。コンゴレッド染
色以外ではアミロイド前駆体蛋白に対する抗体を用いた免疫組織学的診断もも用いら
れます。

 A単クローン性軽鎖重鎖沈着病(monoclonal light and heavy chain deposition
diseases、MIDD)
 MIDDのうち、沈着物がアミロイド構造を呈さないものと定義されています。軽鎖沈着
病、軽鎖重鎖沈着病、重鎖沈着病の3病型を包括します。本邦においてMasaiらの報告
では腎生検5443例中軽鎖沈着病は6例(0.11%)、軽鎖重鎖沈着病6例(0.11%)、重鎖
沈着病は1例(0.02%)の頻度となっております。
 軽鎖沈着病は多発性骨髄腫の合併頻度が高く、その診断率は腎障害合併多発性骨
髄腫症例でどの程度まで腎組織の検索を行うかによって異なります。重鎖沈着病、重鎖
軽鎖沈着病の報告例は非常に稀です。沈着臓器は腎臓が第一の標的であり、蛋白尿と
腎機能障害を呈します。次いで肝臓、心臓が障害されやすく、肝機能障害、不整脈、心
不全を合併、特に軽鎖沈着病は多発性骨髄腫に合併する率が高いため予後不良となり
ます。重鎖沈着病は多発性骨髄腫の合併頻度が少なく、腎外沈着症の合併が少なく予
後は比較的良好とされています。

 BPOEMS syndrome(POEMS症候群(骨硬化型骨髄腫))
 クロウ・深瀬症候群、骨硬化型骨髄腫と同義です。本症候群は形質細胞増殖性疾患
を基盤として多発性神経炎による末梢神経障害、臓器腫大(肝脾腫)、浮腫・胸腹水、皮
膚症状(剛毛、色素沈着、血管腫)、骨病変、M蛋白血症などを呈する全身性疾患で、本
邦で多く報告されています。1968年深瀬らが詳細な臨床像をまとめ、疾患名をCrow-深
瀬症候群としましたが、欧米では主要症状であるpolyneuropahty、organomegaly、
endocrinopathy、monoclonal plasma cell dysorder、skin lesionの頭文字をとって
POEMS症候群と呼ばれています。
 稀な疾患であり、成人に多く、形質細胞腫瘍の1-2%と推定されています。1995年の高
月らの報告では男女比1.5:1、発症年齢中央値は男女ともに48歳であり、多発性骨髄腫
と比較すると好発年齢は若年です。本邦の全国調査では硬化性骨病変、M蛋白糖のモ
ノクローナルな形質細胞増殖を確認できない症例が存在していますが、欧米の診断基
準は多発性神経障害、単クローン性形質細胞増殖疾患が最重要項目とされています。
この診断基準を満たした症例の生存中央値は165ヶ月、ばち状指あるいは溢水症状を
きたした症例の平均生存期間はそれぞれ31ヶ月、79ヶ月と有意に短いことが報告されて
おります。1996年に血管内皮増殖因子(VEGF)が異常高値であることが報告されてお
り、2007年に改訂された診断基準では診断基準の大項目に組み込まれました。
 POEMS症候群の治療はメルファラン、プレドニンを中心とした治療では改善が得られ
ず、自家末梢血幹細胞移植によって末梢神経障害の改善のみならず長期寛解、生命予
後改善が得られることが報告されました。今後、サリドマイド、レナリドマイドあるいはボ
ルテゾミブによる治療による効果が報告されるものと考えられます。
 骨硬化型骨髄腫は骨梁の線維化と骨硬化性病変を特徴とする形質細胞腫瘍です。骨
硬化型骨髄腫のうち約半数が末梢神経炎などのPOEMS症候群の症状を呈します。これ
らの骨硬化性病変で増殖している形質細胞においてVEGF産生亢進が報告されていま
す。POEMS症候群にキャッスルマン病を合併する場合があり、この内、IL-6が高値を示
した症例も報告されています。POEMS症候群ではM蛋白は微量であり、骨髄中、形質細
胞の増加は著しくなく(5%)、増殖傾向も認められません。M蛋白はIgG型かIgA型で、軽
鎖はほぼ全例λ型と報告されています。
 神経障害は可逆的であり、その発症は高VEGF血症により微小血管の透過性が亢進
し、血液神経関門の破綻によって神経内圧の亢進がミエリン障害を引き起こし、脱髄性
障害に至る過程が報告されています。

Extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue
(MALT lymphoma)(節外性濾胞辺縁帯リンパ腫(粘膜関連リンパ組織リンパ腫))
 粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue: MALT)の節外性濾胞辺
縁帯リンパ腫(extranodal marginal zone lymphoma of MALT)は様々な臓器に発症す
るリンパ腫です。発症頻度では胃(10-36%)、小腸(5-24%)、大腸・直腸(2-10%)、頭
頸部(ワルダイエル輪等)(8?34%)、眼窩(眼付属器)(1?5%)、中枢神経系(1?10%)、
肺・胸膜(1-5%)、骨(3-11%)、軟部組織(2-9%)、乳腺(2-11%)、皮膚(2-11%)、
尿路生殖器(3-12%)と報告されています(Zucca E. Ann Oncol (suppl 4):iv77-iv80,
2008)。節外性リンパ腫全体ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large cell
B-cell lymphoma、DLBCL)63%、MALTリンパ腫18%、濾胞性リンパ腫(follicular
lymphoma、FL)11%の順、臓器別では小腸ではDLBCL70%、FL17%、MALTリンパ腫
35%、軟部組織ではDLBCL71%、FL14%、MALTリンパ腫6%、骨、精巣、副鼻腔、乳
腺はそれぞれDLBCLが83、92、86、67%と報告されています。MALTリンパ腫に比較的
特徴的な発生臓器としては皮膚(49%)、眼付属器(62%)が挙げられます。 
 増殖細胞は胚中心細胞に類似しているため中心細胞様細胞と呼ばれます。小型-中
型、核に若干のくびれを有し、核小体は不明瞭です、これらの細胞よりも細胞質に富ん
だ細胞は単球様B細胞と呼ばれます。また小型細胞、形質細胞様細胞も認められ、形
態学的には多彩な細胞が認められます。増殖細胞は初期には濾胞辺縁帯パターンを取
り、反応性リンパ濾胞を取り巻くように増殖します。進行すると病巣融合、濾胞の破壊に
よりびまん性となります。特徴的所見としては中心細胞様細胞と上皮成分との間で形成
されるlymphoepithelial lesion(LEL: 3個以上の腫瘍細胞からなる集簇が上皮細胞間あ
るいは上皮に囲まれた腔内に浸潤し、上皮を破壊する像)が挙げられます。また中心細
胞様細胞が残存リンパ濾胞胚中心に侵入する傾向があり、follicular colonizationと呼
ばれます。この場合には濾胞性リンパ腫との鑑別が重要となります。びまん性大細胞型
B細胞リンパ腫への移行については明確な判定基準はありませんが、大型細胞が充実
性あるいはシート状に増殖している場合に診断されます。MALTリンパ腫の成分が残存
しているようであればその記載が付記されます。
 腫瘍細胞の免疫表現型では汎B細胞マーカーが陽性、細胞膜表面あるいは細胞質内
IgM、CD11c、CD43が陽性となりますがMALTリンパ腫に特徴的なマーカーは同定され
ていません。follicular colonizationの場合には混在する大型細胞が腫瘍成分か本来の
中心芽球かの鑑別にはBCL2、CD10およびBCL6染色が参考(FCの大型細胞は陰性)
になります。

Nodal marginal zone lymphoma(節性濾胞辺縁帯リンパ腫)
 節性濾胞辺縁帯リンパ腫はリンパ節腫脹を特徴とする節性B細胞リンパ腫であり、診
断時に節外病変、脾臓への浸潤を認める症例は除外されます。C型肝炎ウイルスの関
与が20-24%症例で報告されています。
 臨床症状はほとんどが無症状であり、局所および全身リンパ節腫脹で発症します。年
齢中央値は58-62歳、女性が多く、病期III、IVは41-82%、IPI 0/1が31-57%(IPI 3/4
が5-9%)と報告されています(Mollejo M, et al. Hematol Oncol 23:108, 2005)。
 腫瘍病変はリンパ節濾胞辺縁帯および濾胞間が主体であり、結節構造は保たれてい
ます。腫瘍細胞は単球様B細胞であり、表面マーカーではCD19、20、79a、BCL-2、43
陽性となりますが、CD5、10、BCL-6、cyclin D1は一般的には陰性となります。CD23は
約30%に認められ、細胞表面IgMが高率に陽性となります。染色体異常としてはトリソミ
ー3を50-70%に認められる他、トリソミー18、7を認めることがあります。粘膜関連リン
パ組織リンパ腫で見られるt(11;18)(q21;q21)は認められません。細胞遺伝子学的検査
へはIg重鎖遺伝子異常が高頻度に検出されます。濾胞性リンパ腫との鑑別はCD10、
BCL-6陽性、t(14;18)(q32;q21)が検出される、マントル細胞リンパ腫との鑑別はCD5陽
性、cyclin D1陽性により可能となります。
 他の低悪性度リンパ腫と同様に化学療法により治癒することが困難ですが、生存期間
中央値は10年と長期生存を認めます(5年生存率55-79%)。標準的治療は確立されて
いませんが、リツキサン導入により予後改善が期待されています。約10-15%にびまん
性大細胞型B細胞リンパ腫への進展が認めることがあります。
 治療は限局期の場合には放射線単独、リツキサン単独、アルキル化剤、プリンアナロ
グ、経過観察など種々の選択肢(逆に言えば確立された治療法が存在しない)がありま
すが、5年生存率は75-80%と予後良好と言えます(Ferreri AJ, et al. Crit Rev Oncol
Hematol 63:245, 2007)。放射線単独と放射線治療後+化学療法の比較試験において
も両者間に有意な差は認められませんでした(Aviles A, et al. Eur J Cancer B Oral
Oncol 32B:420, 1996)。進行期で腫瘍量が少ない症例に対してはリツキサン単独治
療、高齢者では経過観察が選択されます。進行期で腫瘍量が多い症例においても標準
的治療は存在しませんが、多くの症例でリツキサン併用化学療法が選択されます(無病
生存期間は短いものの生存期間は延長されます(5.5年)(Berger F, et al. Blood 95:
1950, 2000))。フルダラビン+ミトキサントロン併用療法後奏効例にリツキサン投与した
場合には観察期間中央値39ヶ月で無病生存率74%と報告されています
(Economopolous T, et al. Leuk and Lympoma 49: 68, 2008)。若年者で自家造血幹細
胞移植奏効例が報告されていますが、今後、多数例での検討が必要です。
 Thieblemotらの報告では節性濾胞辺縁帯リンパ腫、粘膜関連リンパ組織リンパ腫、脾
濾胞辺縁帯リンパ腫の予後を検討したところ、粘膜関連リンパ組織リンパ腫が最も予後
が良好であり、消化管型が95%、非消化管型が86%、一方、節性濾胞辺縁帯リンパ腫
は50-60%と報告されています(Thiblemont C, Coiffier B. Curr Treat Opinions
Oncol 7:213, 2006)。IPI 0-3症例において5年生存率を検討した報告においても節性濾
胞辺縁帯リンパ腫は57%、粘膜関連リンパ組織リンパ腫は74%と後者が予後良好でし
た(Nathwani BN, et al. J Clin Oncol 17:2486, 1999)。

  Paediatric nodal marginal zone lymphoma(小児節性濾胞辺縁帯リンパ腫)
 節性濾胞辺縁帯リンパ腫は小児期に発症するものは成人とは異なる臨床病理学的特
徴を有します。小児においては非常に稀な疾患であり、まとまった報告はほとんどありま
せん。男児が圧倒的に多いと報告されています。頸部リンパ節などの頭頸部リンパ節腫
脹で発症、成人と異なり全例Stage Iと報告されています(Taddesse-Heath L, et al.
Am J Surg Pathol 27:522, 2003)。無病生存率は94%と予後良好です。病理学的には
濾胞間領域と濾胞辺縁帯の拡大が認められますが約2/3の症例で胚中心進展性異形
成様病変が認められます。本病変はIgD染色で明瞭となり、通常の胚中心進展性異形
成と比較すると濾胞辺縁が不整で、濾胞内には増殖した濾胞辺縁帯細胞が浸潤してい
ます。反応性過形成との鑑別点として免疫グロブリン重鎖のクローナルな再構成が認め
られることが挙げられます。

Follicular lymphoma(濾胞性リンパ腫)
 濾胞性リンパ腫は胚中心を構成するB細胞(中型の中心細胞と大型の中心芽球)が腫
瘍化したものであり、通常は明瞭な腫瘍性胚中心様構造が1個以上存在しています。炎
症などに伴う反応性リンパ濾胞過形成とは異なり核分裂像およびアポトーシス体を貪食
する核片貪食マクロファージは目立ちません。濾胞性リンパ腫では腫瘍細胞は濾胞内で
は均一な増殖を示しますが、反応性リンパ濾胞過形成の胚中心は増殖能を反映して明
帯、暗帯という極性が認められます。また病理上 gradeが設けられており、grade 1(強
拡大1視野あたり大型芽球が5個以上)、2(6-15個)、3A(16個以上で中型細胞の混在
があるとき)、3B(16個以上で中型細胞の混在がないとき)に分けられます。臨床的には
grade1、2が低リスク群、grade3(特にgrade3B)は中リスク群に分類され、aggressiveリ
ンパ腫の一画と認識されています。濾胞性リンパ腫では進展によりびまん化する症例が
あり、胚中心様構造を呈さないびまん化した成分を伴うことがあります。濾胞性部位が
75%以上は濾胞性、25-75%は濾胞性とびまん性、25%未満は部分的濾胞性と表現さ
れます(100%はびまん性)。びまん化した領域に大型の中心芽球を多数認めるときは
(強拡大で15個以上)濾胞性リンパ腫に伴うびまん性大細胞型リンパ腫と記載されま
す。腫瘍細胞の表面抗原としてはCD10、BCL2、CD20、CD79a陽性ですが、CD5、
cyclinD1、CD3は陰性となります。細胞遺伝子学的検査では4種類に大別されます。
18q21.3/BCL2転座(80%)、3q27/BCL6転座(15%)、18q21.3/BCL2+3q27/BCL6転
座(5%)、その他(10%)。18q21.3/BCL2転座をもつ細胞は胚中心で起きる異常と胚中
心後の異常を付加的に獲得し種々の組織型をとります。胚中心で獲得する主な異常は
3q27/BCL6転座と8q24/MYC転座です。grade 3の一部の症例ではMUM1(IRF4/
MUM1)を発現しています。MUM1はびまん性大細胞型リンパ腫を胚中心B細胞型と非胚
中心B細胞型に分類する際に必要なマーカーであり、陽性例は原則非胚中心B細胞型と
され、FLでMUM1を発現している症例の多くがびまん性大細胞型リンパ腫の成分を有し
ているとされています。
 欧米では全リンパ腫の20-30%を占めますが、東欧、アジアおよび発展途上国での頻
度は低く、本邦では近年増加傾向が認められています(18.2%、2004-2008年集計、成
人リンパ腫治療研究会報告)。発症年齢中央値は60歳代で、若年者の発症はまれであ
り、男女比は1:1.7と女性に多いと報告されています。成人リンパ腫研究会は発症年齢中
央値56歳(25-82歳)、男女比は1:1と報告しています。
 基本病態はリンパ節性であり、診断時には全身に広汎なリンパ節腫大を認めることが
多く、一部症例では後腹膜に巨大腫瘤(長径が10cm以上)を形成することがあります。
他臓器への浸潤、特に脾臓、骨髄、末梢血への浸潤頻度は高く、病期III期、IV期が大
半を占めます。一方、一部の症例は消化管、皮膚、眼付属器、唾液腺、乳腺、精巣など
節外部位に限局性に原発することがあります。特に骨髄浸潤は40-70%に認められ、骨
梁に沿って帯状に認められます。この腫瘍細胞の多くが小型であり、形態のみでは腫瘍
細胞と診断が困難であるため、免疫染色が併用されます(従って骨髄血のみならず骨髄
生検が重要となります)。消化管浸潤病変はmultiple lymphomatous polyposis所見を
有します(マントル細胞リンパ腫、節外性濾胞辺縁帯リンパ腫でも認められますが十二
指腸病変はろほう性リンパ腫に比較的特徴的です)。血液検査ではLDHは比較的低値、
sIL-2Rは高値を示します。全身状態は病期に比較すると保たれています。
予後予測モデルとして2004年にFLIPIが提唱されました(Solal-Celigny P, et al. Blood
104:1258, 2004)。予後因子として@年齢≧60歳、A病期≧III、Bヘモグロビン≦12.0g
/dl、C血清LDH>正常値上限、Dリンパ節浸潤領域数>4が挙げられています。予後
不良因子を有する数によりlow(因子数0、1)、intermediate(2)、high(3以上)の3群に
層別化され予後予測が可能です。問題点としては若年者の後腹膜巨大腫瘤形成例が
low gradeに分類されやすい点、高齢者の多発性リンパ節腫大例は待機(watchful
waiting)が可能とされていますが高リスク群に分類されることが多いことなどが挙げられ
ます。

Primary cutaneous follicule centre lymphoma(原発性皮膚濾胞中心性リンパ腫)
 リンパ濾胞に見られるcentrocyteとcentroblast様の腫瘍細胞が結節型、びまん性増
殖を示します。中年に後発し、頭皮や前額部、体幹に結節や腫瘤が単発、紅色〜紫紅
色の局面が現局性に生じます(時に多発性病変形成あり)。腫瘍細胞はCD20、79a、bcl
-6陽性、bcl-2は陰性ないし弱陽性となります。胚中心後に発現するやや分化した段階
の細胞(リンパ濾胞の出口あたりに位置するlate centrocyte)が有するMuM-1/IRF4
(multiple myeloma-1/interferon regulatory factor-4)は陰性となります(Sundram
U, et al. J Cutan Pathol 32:227,2005)。5年生存率は95%と予後良好な疾患群です。

Mantle cell lymphoma(マントル細胞リンパ腫)
 マントル細胞リンパ腫は胚中心のマントル帯を構成するB細胞が腫瘍化したリンパ腫
です。その頻度は全悪性リンパ腫の7-8%(本邦では3%前後)、非ホジキンリンパ腫の3
-10%を占めます。発症の中央値は60歳代で男女比2:1と男性に多い疾患です。全身リ
ンパ節腫脹を主とする節性リンパ腫ですが、経過中に節外部位、骨髄、消化管、肝臓、
脾臓に浸潤する頻度が高くなります。時にリンパ節腫脹を欠き、末梢血、骨髄浸潤を中
心に見られることもあります(腫瘍細胞は前リンパ球様であり、CD5、CD20陽性、
CD10、CD23陰性となります)。診断時には80%以上の症例が病期III、IVの進行期であ
り、消化管病変が存在すれば体重減少(B症状)を有します。診断時、血清LDH値は正
常範囲内、performance statusも良好(0、1)の症例が多く見られます。
 腫瘍細胞は慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫と濾胞性リンパ腫における中
心細胞との中間型で、サイズは中型、核縁不整、核小体は不明瞭で各クロマチンは凝
集(成熟傾向)しています。病変リンパ節においても増殖細胞に大型細胞はなく、不明瞭
な結節構造(孤在性、非貪食性組織球、硝子化小血管)が見られます。細胞表面抗原は
汎B細胞抗原であるCD19、CD20、CD22、CD79a、FMC-7陽性およびCD5、CD38、
CD43が陽性となります。通常はT細胞関連抗原、CD10、CD21、CD23は陰性です。表
面膜免疫グロブリンはIgM/IgD、軽鎖はλ鎖がκ鎖よりやや多く認められます(3:2)。症
例は少数ですが、5%以下でCD5陰性、10%の症例でCD23陽性、芽球様形態をとる
aggressive亜型ではCD10が陽性になることもあります。組織検体を用いた免疫染色で
特徴的な所見としては核内cyclin D1陽性が挙げられます細胞表面抗原検査では検出
できない)。cyclin D1は細胞周期と関連があり、細胞増殖期の腫瘍細胞が多ければ
cyclin D1発現は増強します。BCL-2は陽性、BCL-6は陰性となります。染色体異常とし
てはt(11;14)(q13;q32)が認められます。
 マントル細胞リンパ腫は病理組織学的には低悪性度B細胞リンパ腫とされますが、進
行期においてCHOP療法完全寛解率は20-60%、寛解例も早期に再発するため、治癒
に至る症例は少数です。5年生存率は約25%、生存曲線は5年以降も平坦化せず10年
生存率が約10%となります(Fisher RI, et al. Blood 85:1075, 1995)。The
International Lymphoma Study Groupの分類においても5年生存率が10%程度とな
り、予後不良のリンパ腫とされています(The Non-Hodgkin's Lymphoma
Classification Project. Blood 89:3909, 1997)。
限局期治療(非bulky・病期I・II)
マントル細胞リンパ腫は放射線に対する感受性が高く、限局期症例では放射線療法の
有用性が高いものと考えられています。26 例の少数な検討では放射線療法±化学療
法と化学療法単独(あるいは経過観察)群における無増悪生存率はそれぞれ68%、
11%と放射線療法群が良好な成績を示しています(Leitch HA, et al. Ann Oncol 14:
257-262, 2003)。
進行期治療
(1)化学療法:Meusersらはマントル細胞リンパ腫においてアントラサイクリン系抗癌剤は
全生存率を改善しないと報告されています(Meusers P, et al. Hematol Oncol 7: 365,
1989)。しかしInternational Prognostic Index(IPI)が低あるいは低中リスク群に限れ
ばアントラサイクリン系抗癌剤を含む化学療法は有意に予後を改善するという報告もあ
ります(Zucca E, et al. Ann Oncol 6:257, 1995)。リツキサン単独治療では完全寛解に
至る症例は少なく、初回治療としては使用されていません。リツキサンをCHOP 療法と
併用(CHOP-R療法)すると、完全寛解率48%、全奏効率96%と優れた成績が報告され
ていますが、その大半が再発・再燃するために無増悪生存期間中央値は16.6ヶ月に留
まり、長期の改善は得られておりません(Howard OM, et al. J Clin Oncol 20: 1288,
2002)。CHOP-R療法とCHOP療法との無作為比較試験では完全寛解率はそれぞれ
34%、7%、全奏効率も94%、75%とCHOP-R療法が優れた成績(Lenz G, et al. J
Clin Oncol 23: 1984, 2005)であり、初回治療としてCHOP-R療法が標準的治療と考え
られていますが、前述したように無増悪生存期間の改善が得られておらずCHOP-R療
法ではマントル細胞リンパ腫の治癒は期待できません。
(2)移植
工事中

*Diffuse large B-cell lymphoma, not otherwise specified

T-cell/histiocyte rich B-cell lymphoma(T細胞/組織球に富むB細胞リンパ腫、
THRLBCL)
 THRLBCLは反応性のT細胞および組織球を背景に腫瘍性と考えられる大型のB細胞
が散在する病変です。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の10%未満と稀な病型であり、
中年男性に多く、リンパ節を主病変としますが、骨髄、肝臓、脾臓に病変が見られること
が多く、過半数の症例が進行病期で発見されます。
病理組織学的には小リンパ球(T細胞)および組織球、好酸球を背景として、大型細胞
(形態学的に多彩、中心芽球、Reed-Sternberg細胞様)が孤在性に分布しています。集
簇病変は認められません。この大型細胞が腫瘍細胞であり、CD19、CD20、表面免疫グ
ロブリン軽鎖(κ鎖あるいはλ鎖)陽性(胚中心B細胞型)、CD23陰性となります。通常、
EBウイルスは陰性です。共通した染色体異常は明らかではありませんが、4q、Xp-q、
18q21および17p領域の異常が指摘されています。一般的には化学療法抵抗性であり、
予後不良の病型とされています。
鑑別疾患として最も重要となるのは結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫ですが、こ
の病型からTHRLBCLに進展する例があり、その際には鑑別は困難となります。

Primary diffuse large B-cell lymphoma of the CNS(中枢神経系原発びまん性大
細胞型B細胞リンパ腫)
 中枢神経系原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(primary diffuse large B-cell
lymphoma of the central nervous system、CNS DLBCL)は血液脳関門があるため、
治療法は他のリンパ腫と異なっております。その治療反応は乏しく、予後不良です。定
義的には全身性あるいは二次性脳リンパ腫、免疫不全関連リンパ増殖性疾患は除外さ
れます。原発性脳腫瘍の約2-3%、全非ホジキンリンパ腫の1%以下、節外性リンパ腫
の2-4%とされており、稀なタイプのリンパ腫です。
 年齢中央値は53-57歳、性差は男性にやや多い傾向があります。症状として病変部位
に基づく麻痺や感覚障害、精神行動上の変化、脳圧亢進症状(頭痛、嘔気、嘔吐)、痙
攣が認められます。髄膜浸潤、眼内浸潤も見られます。80%程度が大脳(前頭葉、基底
核、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の順)、約60%が単発で、20-40%が多発病変で発症しま
す。CTでは90%以上の症例で等-高吸収域で周囲に浮腫を伴います。MRIでは腫瘍は
T1強調画像で軽度低信号、T2強調画像では等信号を呈します(周囲の浮腫はT1では低
信号、T2では高信号)。FDG-PET/CTも有用な検査です。髄液検査では5-30%の症例
に異常が認められます。

Primary cutaneous DLBCL, leg type(原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ
腫、下肢型)
 皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の内、腰から下、特に下腿に生じる症例は高齢
女性に多く、予後不良であり、亜型として分類されました(5年生存率55%)。腫瘍細胞は
centroblastやimmunoblast様の大型細胞であり、B細胞マーカーに加えて、bcl-2と
MuM-1/IRF-4(multiple myeloma-1/interferon regulatory factor 4)が陽性となりま
す(Paulli M, et al. Hum Pathol 33:937, 2002)。bcl-6陽性例も多くみられますが、
CD10は陰性となります。腫瘍細胞起源はリンパ濾胞でのB細胞の最終段階であるlate
centrocyteと推定されています。

EBV positive LBCL of the elderly(加齢性EBウイルス陽性大細胞型B細胞リンパ
腫)
 Oyamaらはびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の腫瘍細胞におけるEBウイルスの陽
性率を検討したところ、年齢が高くなる(50歳以上に発症)につれて陽性率が高くなるこ
とを報告しました(Oyama T, et al. Am J Surg Pathol 27:16, 2003)。しばしば節外臓
器に病変を認め、組織像ではHodgkin and Reed-Sternberg細胞に類似した細胞の出
現が認められます。この腫瘍細胞はEBNA2が陽性であることより、加齢に伴う免疫不全
を背景として発症するものと考えられています。腫瘍細胞の多いlarge cell lymphoma
subtypeと腫瘍細胞が少なく反応性細胞浸潤が目立つpolymorphous subtypeという2つ
のサブタイプに分類されます。

DLBCL associated with chronic inflammation(慢性炎症を伴ったびまん性大細胞
型B細胞リンパ腫)
 長期間にわたる慢性炎症が基になり発生するEBウイルス関連びまん性大細胞型B細
胞リンパ腫です。本邦に多く発生し、そのほとんどは肺結核、結核性胸膜炎に対する人
工気胸術の合併症として膿胸の既往を有する膿胸関連リンパ腫(Iuchi K, et al.
Cancer 60:1771, 1987Aozasa K, J Clin Exp Hematol 46:1771, 2006)ですが、胸腔
以外にも発症します(骨(慢性骨髄炎、インプラント)、関節、皮膚、軟部組織)。臨床症
状としては胸痛、背部痛、呼吸器症状、発熱、胸部レントゲンでは胸腔に10発症年齢51
-86歳(平均年齢70歳)で男性に多く(約90%)、通常10年以上経過している慢性炎症を
持っています。膿胸関連リンパ腫では胸腔形成術から平均43年(19-64年)で発症して
います(Narimatsu K, et al. Ann Oncol 18:122, 2007)。高齢者に多く発症するため、
十分な治療を行えず、5年全生存率は25-35%と報告されています。
 病理所見としてはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と同様な組織像を示し、更に壊
死、血管侵襲像、多形性(大小不同を示す細胞、胞体は広く、核異型、多核の細胞を含
む)を伴います。腫瘍細胞の表面抗原分析ではB細胞マーカーを有し(CD19、CD20、
CD22、CD79a、PAX5)陽性を示します。B細胞マーカーは欠落することがありますが、
PAX5は必ず陽性となります。EBウイルスに関しては大型細胞の核にEBER in situ
hybridizationで陽性シグナルが認められ、latent protein 1(LMP1)がリンパ腫細胞膜
に陽性となります。EBV-nuclear antigen 2(EBNA2)も陽性となり、latency IIIとなるこ
とが多いとされています。B細胞マーカーが陽性となることより、通常はT/NK細胞マーカ
ーは陰性ですが、しばしばT細胞マーカー(CD2、CD3、CD4、CD7)が陽性となることが
あり注意が必要であり、その免疫学的診断にはPAX5の反応性が重要となります。染色
体では特徴的な異常は報告されていません。

Lymphomatoid granulomatosis(リンパ腫様肉芽腫症)
 リンパ腫様肉芽腫症は血管中心性、血管破壊性のリンパ増殖性疾患です。リンパ節
外に浸潤し、EBウイルス陽性B細胞が出現します。大型B細胞の割合により悪性度に差
が認められます。
 90%以上の症例で肺浸潤が認められます。その他の病変として脳、腎臓、肝臓、皮膚
への浸潤が認められますが、リンパ節、脾臓への浸潤は稀です。
 咳嗽、息切れ、胸痛などの呼吸器症状、発熱、体重減少、神経症状、関節痛、筋肉
痛、消化器症状などが認められます。
 多くの症例で肺結節性病変が認められます。特に両側の中下肺野に病巣が見られ、
大結節は中心が壊死、空洞を形成することがあります。この結節性病変は腎臓、脳にも
見られることがあります。組織学的には血管中心性、血管破壊性のリンパ球浸潤所見
が特徴的です(形質細胞、免疫芽球、組織球を混じます)。EBウイルス陽性細胞は免疫
芽球様、ホジキン細胞様の多形細胞の形態を取ります。免疫染色ではEBウイルス陽性
B細胞はCD20陽性です(CD30が時に陽性、CD15は陰性)。背景のリンパ球の多くは
CD3、CD4陽性細胞が占めます。
 組織学的グレードがあり、背景に認められる反応性リンパ球に対するEBウイルス陽性
B細胞の割合によって決定されます。グレード1、2と3を区分することが予後推定に重要
となります。
グレード1:細胞形態異常を伴わず、多様なリンパ球浸潤が認められる。大型リンパ球は
ほとんどなく、通常、壊死は部分的である。EBER in situ hybridizationによってEBウイ
ルス陽性細胞は1強視野あたり5細胞未満。
グレード2:反応性細胞を背景に大型リンパ球や免疫芽球が混在する。CD20陽性大型細
胞の小集簇が認められる場合がある。しばしば壊死が認められ、EBER in situ
hybridizationでは1強視野中5-20個のEBウイルス陽性細胞が認められる。
グレード3:反応性細胞は認められるが、大型異型B細胞が大集簇を示す。多形細胞、ホ
ジキン細胞様異型細胞をしばしば認め、多くの場合、壊死が広範囲に及ぶ。EBER in
situ hybridaizationにおいて1強視野中50個以上のEBウイルス陽性細胞が検出され、
シート状増生が見られることもある。

Primary mediastinal (thymic) large B-cell lymphoma(前縦隔(胸腺)原発大細胞
型B細胞リンパ腫)
 組織像からはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に分類されますが特徴ある臨床、病理
像からWHO分類では独立した疾患単位で扱われます。欧米では非Hodgkinリンパ腫の2
-4%を占めるとされていますが、本邦では全悪性リンパ腫の0.25%、全DLBCLの0.
75%、節外性症例の1.4%の発症率であり、非常に稀な病型です。発症年齢中央値は
37歳、男女比は4:6と女性にやや多い傾向が見られます。
 症状としては前縦隔の硬化性腫瘤、そのために上大静脈症候群、咳嗽、胸痛などの
圧迫症状、また胸水、心嚢液貯留を来す症例が多く見られます。前縦隔以外にリンパ節
あるいは他臓器への進展が見られます。治療は化学療法、特にリツキシマブを併用した
R-CHOP療法ならびに前縦隔への放射線療法が一般的に行われ、治療への反応性は
良好と報告されています。
 病理学的な特徴として腫瘍細胞集団を線維性間質が取り囲む、胞巣形成を思わせる
病変(compartmentalization fibrosis)を形成します。腫瘍細胞は豊富な淡明胞体と多
形性・分葉状の核を有しています。細胞表面形質分析ではCD45、CD19、CD20、
CD22、CD79aなどのB細胞マーカーを発現しております。またBCL2、BCL6などの転写
因子の発現も認められます。CD5、CD10、CD15、CD21は陰性、CD30は陽性ですが部
分的かつ弱陽性となります。染色体検査では2番、9番、X染色体などの増幅が認められ
ます。免疫グロブリンの再構成は見られますが、免疫染色では確認できない事が多いと
されています。

Intravascular large B-cell lymphoma(血管内大細胞型B細胞リンパ腫)
 血管内大細胞型B細胞リンパ腫は腫瘍細胞が血管内、特に毛細血管内において特徴
的な選択的増殖を示します。その診断は難しいため、現在でも生前診断は80%程度に
留まっています。たとえ診断がついても臓器障害が進行した症例が多く、予後不良の疾
患です。Muraseらにより、従来腫瘤形成を伴わない血球貪食症候群を主徴とする大細
胞型B細胞リンパ腫が血管内大細胞型B細胞リンパ腫ということが明らかにされました。
亜群としてアジア亜型と皮膚亜型が報告されています。アジア亜型は本邦を中心とした
東アジア諸国からの報告が多く、血球貪食症候群、血球減少症など、急激な臨床経過を
示します(Murase T, et al. Br J Haematol 111:8216, 2000)。皮膚亜型は欧米に多く、
全例が女性であり、比較的予後良好とされています。
  発症年齢中央値は67歳(41-85歳)、性差は見られません(Murase T and
Nakamura S. Leuk Lymphoma 33:459, 1999)。腫瘤形成が見られないため、診断部位
としては骨髄、肝臓、脾臓、皮膚、肺などが報告されています。多くの症例で発熱、体重
減少、貧血もしくは血小板減少、肝脾腫が認められます。また骨髄における血球貪食
像、骨髄、末梢血への腫瘍細胞浸潤が見られます。
 血管内大細胞型B細胞リンパ腫は腫瘤形成を伴わず、中-大動静脈を除くあらゆる血
管内で増殖します。骨髄、肺、肝臓、脾臓などの臓器の血管内腔あるいは類洞内に水
泡状核を有する大型腫瘍細胞が観察できます。肉眼的に確認できる病変がなくても皮
膚生検(Asada N, et al. Mayo Clin Proc 82:1525, 2007)、骨髄生検、肝生検などが生
前診断に有用と報告されています。腫瘍細胞はB細胞性であり、CD20が陽性となりま
す。CD5陽性例が約1/3 に認められます。その他、BCL-2が陽性(91%)、CD10、BCL
-6は10-30%の症例で陽性となります。
 前述したように予後不良な疾患であり、3年全生存率は30%程度に留まります。
Shimadaらはリツキサン併用化学療法が本疾患に有効であること報告していますが、中
枢神経再発が多い点を指摘しております。(Shimada K, et al: J Clin Oncol 26:3189,
2008)。

ALK positive large B-cell lymphoma(ALK陽性大細胞型B細胞リンパ腫)
 anaplastic lymphoma kinase(ALK)を発現する大細胞型B細胞リンパ腫です。稀な疾
患であり、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫全体の1%以下であるものと考えられていま
す。男性に多く見られ(男女比は3:1)、各年齢層に及びます。リンパ節を主病変とします
が、縦隔、鼻腔、舌、小腸、骨・軟部組織など種々の臓器を侵します。
 病理組織では核小体の目立つ、大型の免疫芽球様細胞のびまん性増殖が認められ、
核偏在を伴った形質芽細胞様の細胞が観察されることもあります。
 免疫組織学的にはALKは全例で陽性、形質細胞のマーカーであるCD138また
epithelial membrane antigen(EMA)も全例で陽性となります。形質細胞への分化を示
すこともあり、免疫グロブリンの軽鎖(κ、λ)のいずれか一方が陽性となることがありま
す。CD20陽性例は約3%、CD79a陽性例は約20%、CD30陽性例が約12%、CD4陽性
例が約64%に認められます。染色体検査ではALK発現の原因となる染色体転座が見ら
れます。報告ではt(2;17)(p23;q23)を有する症例が最も多く(遺伝子としてはCLTC)、
NPMを転座相手とするt(2;5)(p23;q35)は少数と報告されています(NPM-ALK融合蛋白
が癌発現に関わっています)。発見時、進行期(病期III、IV)で見つかる例は予後不良と
報告されています(CD20陽性例が少数であるため、リツキサン併用ができず)(Beltran
B, et al. J Hematol Oncol 2:11, 2009)。進行期での予後は生存中央値11ヶ月と報告さ
れています。

Plasmablastic lymphoma(形質芽細胞性リンパ腫)
 形質芽細胞性リンパ腫(Plasmablastic lymphoma、PBL)はB細胞性免疫芽球に類似
の大型細胞がびまん性に増殖するリンパ腫です。多くは口腔内原発ですが、他の部位
(多くは節外(粘膜・上皮組織、軟部組織))に発生します。ヒト免疫不全症ウイルス感染
者で最も頻度が高く、他に免疫不全症例、高齢者に発症します。EBウイルスは大部分
の症例で陽性となります。形質細胞腫、骨髄腫症例にPBL様腫瘍が発症することがあり
ますが、これはPBLへのトランスフォーメーションと考えられます。形質細胞に関連する
分子(CD30、CD38、CD138、EMA、MUM1など)が陽性、CD79aは2/3の症例で陽性、
細胞質内免疫グロブリンは過半数例で検出されます。CD56は口腔粘膜型では陰性、分
化型で陽性となることがあります。細胞増殖マーカーであるKi67陽性率は高く、またEB
ウイルスの組み込みが2/3の症例で証明されます。ヒトヘルペスウイルス8は陰性です。
臨床経過は極めて進行型であり、予後不良な疾患です。

(ヒトヘルペスウイルス8(human herpes virus 8、HHV8)関連多中心性キャッスルマ
ン病に発生した大細胞型B細胞リンパ腫)
 ヒトヘルペスウイルス8(human herpes virus 8、HHV8)関連多中心性キャッスルマン
病に発生した大細胞型B細胞リンパ腫です。HHV8陽性で、IgM産生型形質芽細胞に類
似の大型細胞のびまん性増殖が見られます。主要病変はリンパ節、脾臓であり、カポジ
肉腫、原発性浸出性リンパ腫の合併が見られることもあります。
 リンパ節および脾臓において胚中心の萎縮・硝子化、マントル帯の拡大、濾胞間領域
への形質細胞・血管の増生と濾胞間領域の形質細胞と並んで種々の程度、HHV8陽性
形質芽細胞が増殖しております。増殖細胞はHHV8潜在核抗原およびIL-6陽性、細胞
質内IgMは強陽性でλに限られております。CD20は陽性・陰性、CD38は大半の例で陰
性、CD79a、CD138は陰性となります。化学療法抵抗性であり、予後は不良です。

Primary effusion lymphoma(原発性浸出液リンパ腫)
 原発性浸出液リンパ腫(primary effusion lymphoma、PEL)は大細胞型B細胞リンパ
腫であり、通常は腫瘍を形成せず体腔内で増殖し、漿液性浸出液が認められます。
HHV8陽性であり、多くの場合免疫不全症を伴っています。二次的に対空に近接して腫
瘤を形成する例もあります。HIV感染者に発症した場合、その増殖細胞はEBウイルスも
陽性となりますが、EBウイルスの遺伝子発現は部分的であり、リンパ腫発症とは直接的
には関与していない可能性が高いものと考えられています。
 大部分の症例がHIVに感染し、重症の免疫不全状態の若年?中年男性ですが、臓器移
植を受けた症例にも発症します。また HHV8感染者の多い地域では免疫不全症のない
高齢者にも発症します。増殖細胞は大型ですが、形態学的な特徴は均一ではありませ
ん。免疫表現型としてHHV8潜在核抗原陽性、EBER陽性ですが、LMP1は陰性です。形
質細胞に関連する分子(CD30、CD38、CD138)が陽性となりますが、細胞膜免疫グロブ
リン、汎B細胞抗原は陰性であることが多く認められます。T細胞抗原の異常発現(腫瘍
性)が見られることがあります。遺伝子学的にもIg遺伝子が陽性となりますが、T細胞受
容体遺伝子の再構成が見られることもあります。
 予後は極めて不良であり、化学療法、免疫療法に抵抗性を有し、生存期間中央値は6
ヶ月未満と報告されています。

Burkitt lymphoma(バーキットリンパ腫)
 組織学的には比較的小型で異型性の少ない腫瘍細胞が増生、"Starry sky"(アポト
ーシスに至った腫瘍細胞をマクロファージが貪食するために浸潤した像)像が特徴的で
す。免疫学的検討ではB細胞マーカーの他に胚中心(germinal center)由来であること
を反映してCD10が陽性となり、BCL-2、TdTは陰性となります。増殖期細胞のマーカー
であるKi-67が陽性となります。遺伝子学的にはMYC遺伝子(8q24)とIgH遺伝子
(14q32)との転座、再構成が特徴的です。その亜型としてt(2;8)(p12;q24)、t(8;22)(q24;
q11)がみられることがあります。改訂前の基準ではMYC遺伝子転座がバーキットリンパ
腫診断の必須項目となっていましたが、バーキットリンパ腫の中でも5%程度の症例は
MYC遺伝子転座が認められないことHummel M, et al. N Engl J Med 354:2419,
2006もあり、今回の分類では必須項目から除外されました。以前は予後不良リンパ腫
に分類されていましたが、短期強力化学療法の導入により予後が改善されました(全生
存率:短期強力化学療法群MYC転座あり74%、なし100%、CHOP療法群MYC転座あり
22%、なし44%)(Cairo MS, et al. Br J Haematol 120:660, 2003Adde M, et al.
Semin Oncol 25:33, 1998)。

B-cell lymphoma, unclassifiable with features intermediate between diffuse
large B-cell lymphoma and Burkitt lymphoma(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とバ
ーキットリンパ腫の中間の特徴を有する分類不能型のB細胞リンパ腫)
 びまん性大細胞型B細胞リンパ腫とBurkittリンパ腫の中間の概念です。形態学的に
Burkittリンパ腫が疑われるにも関わらず、BCL-2陽性、MYC陰性、Ki-67陽性率が低
率である等の場合がこれに当たります(Haralambieva E, et al. Am J Surg Pathol 29:
1086, 2005)。組織学的にはバーキットリンパ腫よりも大小不同で不均一な核、比較的
明瞭な核小体を有する腫瘍細胞から成り立っております。弱拡大ではバーキットリンパ
腫と同様に"Starry sky"像を取るためバーキットリンパ腫との鑑別が困難となります。

B-cell lymphoma, unclassifiable with features intermediate between diffuse
large B-cell lymphoma and classical Hodgkin lymphoma(びまん性大細胞型B細胞リ
ンパ腫と古典的ホジキンリンパ腫の中間の特徴を有する分類不能型のB細胞リンパ腫)
 Hodgkin病における結節硬化型と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫は縦隔が好
発部位であり、病理学的にその鑑別が困難なリンパ腫です(Traverse-Glehen A, et
al. Am J Surg Pathol 29:1411, 2005)。形態学的にHodgkin病・結節硬化型が疑われ
るにもかかわらずCD20抗原が陽性あるいは縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫の組織像
であるのにCD15、CD30が陽性である症例がこれに当たります。ホジキンリンパ腫、縦
隔大細胞型リンパ腫と比較すると予後不良であり、標準的治療法は確立されていませ
ん。

MATURE T-CELL AND NK-CELL NEOPLASM
T-cell prolymphocytic leukaemia(T細胞性前リンパ球性白血病)
 TdT陰性、CD1a陰性、CD2、CD3、CD7、CD52、TCL1陽性の顆粒に乏しい好塩基性
細胞質と核小体を伴う円形〜楕円形もしくは核異型を伴う小型〜中型の異型リンパ球
が末梢血、骨髄、リンパ節、肝脾、時に皮膚で増殖する進行性リンパ系腫瘍です。30歳
以上の成人に発症(平均発症年齢は65歳)、予後不良であり、平均生存期間は1年未満
です。

T-cell large granular lymphocytic leukaemia(T細胞性大型顆粒性リンパ球性白
血病)
 CD3、CD8、TCRαβ陽性、80%以上の症例でCD16、CD57陽性、CD5、CD7は減弱
あるいは陰性である顆粒を有する大型リンパ球が増加、6ヶ月以上持続する疾患です。
細胞は比較的豊富な細胞質を持ち、アズール顆粒が認められます。成人(45-75歳)に
発症し、末梢血、骨髄、肝脾に病変(脾腫が特徴的)が認められますが、リンパ節への
浸潤は稀です。ほとんどの症例が緩徐進行性で、平均生存期間は約13年です。関節リ
ウマチの合併、自己抗体、血中免疫複合体、高γグロブリン血症が認められます。

Chronic lymphoproliferative disorder of NK cells(慢性NK細胞増多症)
 末梢血にNK細胞が6ヶ月以上にわたって2,000/μl以上の増加が持続する疾患です。
反応性か腫瘍性かの区別は困難であり、様々な病態が含まれているものと考えられて
います。診断基準は@6ヶ月間以上のリンパ球増加、ACD3陰性、CD16、CD56陽性の
形質を有するリンパ球の増加、BNK細胞白血病・リンパ球がみられないことが挙げられ
ています。発症平均年齢は53歳であり、多くの患者が緩徐な進行で、病勢の進展を認め
る症例は稀です。多くは無症候性であり、一部、好中球減少、貧血が認められますが、
リンパ節腫大、肝脾腫、皮膚浸潤は稀であり、EBウイルスは陰性です。
 形態学的には中型のクロマチン凝集が認められる円形核を有し、微細?粗大なアズー
ル顆粒、細胞質はやや好塩基性を示します。CD16陽性、CD56陰性?弱陽性、CD5陰
性、CD11a陽性、CD57陽性、cytoplasmicCD3はしばしば陽性、細胞傷害性蛋白は陽
性となります。染色体検査は正常核型を示します。NK細胞が活性化される原因は不明
ですが、ウイルス感染がその病因の一つではないかと考えられています。

Aggressive NK cell leukaemia(侵攻性NK細胞白血病)
 NK細胞の全身性腫瘍性増殖が認められる疾患です。アジアに多く、発症平均年齢は
42歳で、ほぼ全例にEBV感染が見られます。主な浸潤部位は末梢血、骨髄、肝脾です
が、全身臓器に浸潤、進行は極めて早く、生存期間中央値は2ヶ月未満です。腫瘍細胞
は種々の形態(核網未熟〜成熟、核小体があるもの/ないもの等)を取りますが、細胞
質にはアズール顆粒が認められます。腫瘍細胞表面抗原はCD2、CD56、CD16、細胞
障害性分子(perforin、TIA-1、granzyme B)陽性、CD3はフローサイトメトリー法では陰
性ですが、cyCD3(細胞質内CD3)が陽性であり、骨髄生検での免疫染色が有用です。
進行したextranodal NK/T-cell lymphomaとの鑑別が必要ですが、本病型の方が発症
年齢は若く(10歳程度)、病変が広汎にわたり、またCD16陽性率が高い点が異なってお
ります。貧血、好中球減少、血小板減少、肝脾腫、血球貪食症候群の合併が認められ
ます。

Systemic EBV positive T-cell lymphoproliferative disease of childhood(小児全
身EBウイルス陽性T細胞リンパ増殖性疾患)
 EBウイルスに感染した細胞傷害性T細胞の単一な急激な増加が認められます。小児
〜若年成人の致死的疾患であり、急性EBウイルス感染症あるいは慢性活動性EBウイ
ルス感染症に続発することがあります。アジア、特に日本、台湾で多く認められ、西洋諸
国では稀な疾患です。咳嗽、発熱、全身倦怠感で始まり、数週〜数ヶ月で肝不全となり
ます。検査所見では汎血球減少、肝機能異常が認められ、病変部位としては肝臓、脾
臓、リンパ節、骨髄、皮膚および肺に見られます。腫瘍細胞は明らかな異型が認められ
ない小型リンパ球ですが、時に中型〜大型の異型リンパ球様細胞が出現する場合もあ
ります。腫瘍細胞表面抗原はCD2、CD3、TIA1、EBER陽性であり、CD56は陰性、急性
EBウイルス感染症に続発したものはCD8陽性、慢性活動性EBウイルス感染症に続発し
たものではCD4陽性となります。骨髄では組織球過形成と血球貪食像が認められます。

Hydroa vacciniorme-like lymphoma(種痘様水疱症様リンパ腫)
 昆虫咬傷への過敏(蚊刺過敏症)や日光過敏に伴って生じる小児〜青年に発症する
EBウイルス陽性の皮膚T細胞性リンパ腫です。アジア、中南米(特にメキシコの原住民)
に多く認められます。EBウイルスへの細胞障害性免疫反応の障害と関連している可能
性があります。皮膚、特に顔面に丘疹状の小疱疹、潰瘍、瘢痕を形成、進行した場合に
は発熱、るい痩、リンパ節腫脹、肝脾腫などの全身症状が見られるようになります。皮
膚病変の軽快、再発を繰り返し、全身に広がると進行性になりますが、それまでには10
-15年を要する場合があります。腫瘍細胞は異型性に乏しい小型〜中型の細胞が表皮
〜皮下組織に浸潤、壊死、血管中心性増殖、血管浸潤が認められます。細胞表面抗原
はCD3、CD8陽性であり、しばしばCD56が陽性の場合があります。

Adult T-cell leukaemia/lymphoma(成人T細胞白血病/リンパ腫)
 Adult T-cell leukaemia/lymphoma(ATLL)は1980年代初頭に発見され、その後、レ
トロウイルスであるhuman T-cell leukemia virus type 1(HTLV-1)が原因であることが
判明しました。このウイルスに罹患した場合には血液腫瘍、慢性神経疾患の発症の原
因となることが明らかになっています。ATLLはHTLV-1感染により引き起こされるT細胞
白血病・リンパ腫です。その診断確立にはリンパ球に組み込まれているHTLV-1プロウ
イルスDNAのモノクローナルバンドを証明する必要があります。
感染経路は主として母乳を介した母児感染、男女間感染(男性→女性)、輸血の3通りに
なります。キャリア(HTLV-1抗体陽性者)の発症危険率は年間0.1?0.2%、70歳まで累
積した場合の危険率は2?5%となります。キャリアは全国で100万人以上、年間500?600
人がATLLを発症しております。患者性比はやや男性に多く(1.5:1)、20歳以後の成人に
発症、平均年齢は58歳、患者の出身地の大半は九州・沖縄で、四国、紀伊半島も多く認
められます。症状としては皮膚症状、リンパ節腫脹、肝脾腫、高カルシウム血症などが
挙げられます。白血球数は正常?数十万/μlまで増加、リンパ球は花弁様といわれる特
徴ある形態(急性型が最も形態異常が顕著)を示し、HTLV-1に対する抗体が存在しま
す。白血病細胞の表面抗原分析はCD2、CD3、CD4、CD5、CD25、HLA-DR陽性、
CD7、CD8、陰性でCD3 の発現が減弱しているその型は急性型、リンパ腫型、慢性型、
くすぶり型の4種類に分類されます。キャリアからこれらの型への進展はポリクローナル
なウイルスの組み込みがポリクローナルな組み込みになった時点と捉えられています。
特徴
(1) 急性型:末梢血中の白血球増加、皮疹、肝脾腫、全身リンパ節腫脹、高LDH血漿、
高Ca血症が認められます。ATL細胞の増加が見られ、時に好酸球増加を認めることが
あります。正常T細胞機能の低下により日和見感染症を合併します。
(2) リンパ腫型:リンパ球数が4,000/μl未満、ATL細胞は末梢血に1%以下でリンパ節
病変が主体です。
(3) 慢性型:リンパ球数4,000/μl以上でT細胞が3,500/μl以上で、末梢血中のリンパ球
の軽度増加が見られる。
(4) くすぶり型:リンパ球数が4,000/μl未満、末梢血に少数の異常細胞が認められます
(5%以上)。しばしば皮膚病変、肺病変がみられます。緩徐な経過を辿りますが、急性
型に転化する場合もあり、平均生存期間は約5年である。
慢性型、くすぶり型から非常に長い経過を経て(数年?数十年)、急性型の転化すること
があり(約25%)であり、定期的な観察が必要となります。

 HTLV-1の関連した疾患ならびに合併症としてHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1
associated myelopahty、HAM)、慢性肺疾患、肺日和見感染症(カリニ肺炎など)、難
治性皮膚真菌症、腎不全、寄生虫疾患(糞線虫症など)、ぶどう膜炎などが報告されて
います。

各種病変
(1)リンパ腫型:びまん性に異常リンパ球が増殖します。細胞は中?大型の核をものが混
在、核は深い切れ込みを有する細胞が多く認められます。これらの細胞に切れ込みは
強く、脳回様あるいは分葉が著しい細胞、Reed-Sternberg様の形態を示す巨細胞が見
られることもあります。他の組織型のリンパ腫と似ることもあり、未分化大細胞型リンパ
腫、CD30陽性(ALK陰性)のATLL様未分化大細胞型リンパ腫、小細胞型リンパ腫と同
様の組織型を示す症例が見られます。また血管免疫芽球性T細胞リンパ腫類似の形態
をとる症例も報告されています。
(2)ホジキン様成人T細胞白血病・リンパ腫:前述したようにReed-Sternberg細胞と形態
学的に考えられる細胞が孤在性、集簇性に認められます。これらの細胞はCD30、CD15
陽性で、背景のリンパ球はCD3、CD4陽性、CD8陰性のものが多数認められます。多く
の症例でT細胞受容体遺伝子の再構成が認められます。HTLV-1が組み込まれている
のは巨細胞ではなく、一部のT細胞にあるものと考えられています。
(3)皮膚病変:ATLLでは20?30%の症例で皮疹が認められます。また白血化もなく腫瘍
性リンパ節腫大もない状態で、特異疹が見られることがあり、皮膚型ATLLと診断されま
す。特異疹は腫瘤、小結節、浸潤性紅斑または丘疹であり、腫瘤と丘疹には限局性と全
身性の分布が見られ、また多くの小結節と浸潤性紅斑は全身性です。全身性に浸潤性
紅斑が散布的に認められる場合には菌状息肉腫との鑑別が必要となります。
(4)骨髄病変:白血化した症例にしばしば認められます。中型?大型の核不整のある異常
リンパ球の浸潤が見られます。
(5)消化器病変:広範囲に病変が及ぶことが多く、内視鏡検査では潰瘍、びらん、襞腫
大、隆起や結節型が認められます。浸潤が強くなると腺管の萎縮、消失を伴います。
(6)HTLV-1関連脊髄症(熱帯性痙性不全対麻痺症):緩徐進行性の対称性の脊髄症と
して発症、錐体路障害優位で、軽度の膀胱障害を伴うことがあります。初発症状として
は歩行障害、排尿障害、下肢感覚障害、便秘、腰下肢痛、手指振戦などがあります。脊
髄の前角、側角に脱髄やリンパ球浸潤が見られます。リンパ球には異型はなく、間質、
血管周囲への浸潤が主体です。
(7)肺病変:腫瘍細胞浸潤、日和見感染症による肺感染とともにびまん性汎細気管支
炎、特発性間質性肺炎と診断されるHTLV-1 associated bronchiolo-alvolar disorder
の存在が考えられております。びまん性汎細気管支炎はキャリアに多く、強い呼吸障害
をきたします。

治療
Tsukasakiらによってまとまられた推奨されるATLLの治療戦略の概略を下記に記載いた
します。
(1) くすぶり型と予後不良因子のない慢性型ATLL
・臨床試験があれば参加を考慮
・症状(皮疹・日和見感染など)があればzidovudine(AZT)・Interferonα療法(欧米で
実施、両者ともに本邦では保険適応されておらず)
(2) 予後不良因子のある慢性型ATLLまたは急性型ATLL
(A)予後不良因子が少ない場合
・臨床試験参加
・臨床試験以外であれば:化学療法(LSG-15療法)、AZT・Interferonα療法
(B)予後不良因子が多い場合
・化学療法に引き続き骨髄破壊的あるいは強度減弱前処置を用いた同種造血幹細胞
移植
・化学療法、AZT・Interferonα併用療法に抵抗性の場合には骨髄破壊的あるいは強
度減弱前処置を用いた同種造血幹細胞移植
(3) リンパ腫型
・臨床試験参加
・臨床試験以外であれば
(A)予後不良因子が少ない場合:化学療法への反応が良い場合は化学療法を継続
(B)予後不良因子が多い場合、治療抵抗性である場合:骨髄破壊的あるいは強度減弱
前処置を用いた同種造血幹細胞移植
(4) First lineでの臨床試験
・同種造血幹細胞移植を第一適応として組み入れた治療
・種々の新規薬剤:多発性骨髄腫に使用されるプロテアソーム阻害薬であるボルテミゾ
ミブ、NKκB阻害薬であるDHMEQ、arsenic trioxide+Interferonα併用療法、プリン誘
導体、本邦で開発が進められているヒト化抗CCR4抗体また抗CD25抗体、抗CD2抗体、
抗CD4抗体、抗CD25抗体などが報告されています。
可能であれば骨髄破壊的あるいは強度減弱前処置を用いた同種造血幹細胞移植

予後
(1) 予後:2年生存率、4年生存率は急性型(16.7%、5.0%)、リンパ腫型(21.3%、5.
7%)、慢性型(52.4%、26.9%)、くすぶり型(77.7%、62.8%)と報告されています。
(2) 予後因子:年齢が高齢、血清LDH値上昇、浸潤臓器が複数、performance status
不良というInternational Prognostic IndexがATLLにも当てはまります。

Extranodal NK/T cell lymphoma, nasal type

Enteropathy-associated T-cell lymphoma

Hepatosplenic T-cell lymphoma(肝脾T細胞リンパ腫)
 末梢血やリンパ節のT細胞はα鎖とβ鎖で構成されるT細胞受容体を有するαβ型T
細胞がほとんどでγ鎖とδ鎖で構成されるγδ型T細胞は4-7%です。しかしながら脾
臓、中間ではγδ型T細胞は15-17%と多く認められます。1990年にγδ型T細胞が腫
瘍化したリンパ腫が報告され、肝脾γδ型T細胞リンパ腫と項目分類(REAL分類)され
ましたが、αβ型T細胞も同様な病態を起こすことが判明し、肝脾T細胞リンパ腫として
分類されるようになりました。発症頻度はT細胞リンパ腫の0.2-3.0%、非ホジキンリンパ
腫全体では1%未満と稀なタイプ(Vose J, et al. J Clin Oncol 26:4124, 2008)ですが、
免疫不全や自己免疫性疾患患者に発症することが多いと報告(Khan WA, et al. Am J
Clin Pathol 41:116, 2001)されています。
節外性、全身性、特に肝臓、脾臓、骨髄(血球貪食症候群合併もあり)に著明な浸潤を
来します(通常、リンパ節腫大は見られないため、診断には摘脾が行われます)。検査
所見では血球減少が見られ、特に血小板減少が顕著にみられます。30-50%の症例で
末梢血中に異常リンパ球が検出(5%程度)されます。染色体検査では60-70%の頻度
で7q同腕染色体(同時に8トリソミーを認めることもあります)が認められます(Wang
CC, et al: Genes Chromosomes Cancer 12:161, 1995)。未成年〜若年成人男性(年
齢中央値29-38歳)で、予後不良の進行性のリンパ腫です(αβ型は女性優位)。初回
化学療法への反応性は良好ですが、再発することが多く、平均生存期間は2年未満で
す。骨髄浸潤により、汎血球減少、特に著明な血小板減少がみられます。進行すると白
血化することがあります。腫瘍細胞は中型のリンパ球様細胞であり、骨髄で同定するた
めには表面マーカーでの検討が必要です。CD3、TCRγδは陽性、CD4、CD5、TCRα
βは陰性、CD56は陽性であることが多く、細胞傷害性顆粒はTIA1、granzyme Mは陽
性、granzyme B、perforinは陰性を示します。
 治療としてはCHOP療法が行われていますが、十分な効果は挙がっておりません
Belhadj K, et al: Blood 102: 4261, 2003)。HyperCVAD療法などの強力化学療法に
よる有効例の報告も報告(Tey SK, et al. Am J Hematol 83:330, 2008)されています
が、少数例での検討であることを考慮しなければなりません。化学療法の治療成績は完
全寛解率50%前後、寛解維持期間中央値12ヶ月前後、全生存期間中央値6-16ヶ月と
短期間であり、化学療法のみでは予後不良と考えられます。特異的治療としてペントスタ
チン(Aldinucci D, et al. Br J Haematol 110:188, 2000)(Corazzelli G, et al.
Haematologica 90: 39, 2005)およびフルダラビン、クラドルビンとアレムツズマブ併用
療法(Mittal S, et al. Eur J Haematol 76:531, 2006)(Jaeger G, et al. Ann Oncol
19:1025, 2008)、インターフェロン(Humphreys MR, et al. Leuk Lymphoma 49:1420,
2008)による有効例が報告されていますが、日和見感染症、二次発癌について注意が
必要となります。移植片対腫瘍効果を期待し、同種造血幹細胞移植が試みられていま
す(Konuma T, et al. Leuk Lymphoma 48:630, 2007)。17例の報告では5例が再発、5
例が治療関連毒性により死亡しておりますが、7例が寛解を維持(3-86ヶ月)しておりま
す。今後、強力化学療法、ペントスタチン、フルダラビン、クラドルビンあるいはアレムツ
ズマブおよび同種造血幹細胞移植を組み入れた治療戦略が必要と考えられます。
(皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫)
 皮下組織に浸潤する細胞傷害性T細胞由来のリンパ腫であす。平均年齢中央値は35
歳で女性に多く認められ、血球貪食症候群を合併すると予後不良となりますが、全体と
して5年生存率は約80%です。20%の患者が自己免疫疾患を合併しています。数mm〜
数cm大の皮下結節を形成し、大きいものでは壊死が見られるものの潰瘍形成には至り
ません。血球減少、肝機能障害、血球貪食症候群が15〜20%に認められます。リンパ
節への浸潤は通常認められず、皮下脂肪組織に限局し、表皮、真皮には浸潤しませ
ん。腫瘍細胞は核異型が強く、細胞質は淡明であり、脂肪細胞を取り囲むような分布を
示します。反応性の組織球の増加が認められますが、好中球などの浸潤所見は乏しく、
脂肪壊死が特徴的です。腫瘍細胞表面形質はCD8、TCRαβ、細胞傷害性顆粒陽性、
CD56陰性です。皮膚型γδT細胞リンパ腫との鑑別が重要となります。治療としては通
常、CHOP療法を中心とした化学療法が施行されますが、シクロスポリン、プレドニンに
よる保存的免疫抑制療法が効果的であった報告も見られます(Tsukamoto Y, Intern
Med 45:21-24, 2006)。皮下脂肪織炎T細胞リンパ腫は皮膚型γδリンパ腫に比較する
と予後は良好であり、鑑別が重要となります。

Mycosis fungoides(菌状息肉腫)
 菌状息肉腫の初発病変は斑状病変(patch)と言われ、湿疹と間違うような病変から始
まります。次第に拡大、浸潤して局面状病変(plaque)を形成、数年から十数年かけて腫
瘍期に進行します。病期が進行するとリンパ節病変、各種臓器浸潤をきたすようになり
ます。リンパ節病変では時にCD30陽性の大型腫瘍細胞の出現が見られ、ホジキンリン
パ腫類似の病理所見を示すことがあります。腫瘍細胞は切れ込みの強い核型をとるT
細胞(CD2、3、4、5、TCRαβ陽性、CD8陰性)で、cutaneous lymphocyte antigen
(CLA)を有し、表皮向性浸潤のため表皮内にポートリエ微小膿瘍を形成します(腫瘍期
では表皮浸潤はびまん性となり、腫瘍の表皮向性は失われます)。

Sezary syndrome(セザリー症候群)
 脳回状の核をもつ腫瘍性T細胞(CD2、CD3、CD5、CD4陽性、CD8陰性)の皮膚、リン
パ節、末梢血への浸潤を認めるリンパ腫です。臨床的には紅皮症、リンパ節腫脹が認
められ、60歳以上の成人男性に多く見られます。進行性であり、5年生存率は10〜20%
であり、末期になると臓器浸潤が認められます。菌状息肉腫に類似した病態を示します
が、皮膚浸潤を来した腫瘍細胞の表皮向性が欠如する場合があります。

*Primary cutaneous CD30 positive T-cell lymphoproliferative disorders
  #Primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma(C-ALCL)(原発性皮膚型
未分化大細胞リンパ腫)
 全身性未分化大細胞リンパ腫あるいは菌状息肉腫などに続発して生じるCD30陽性腫
瘤を除外する必要があります。原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫はドーム状、局面状
隆起した腫瘍、時には皮下の腫瘤として発症、しばしば腫瘍の中心部が潰瘍化します。
CD30陽性大型リンパ球が通常は表皮向性のないシート状に増殖、反応性リンパ球、好
中球、好酸球を伴います。腫瘍細胞は主としてCD4陽性のことが多く、細胞傷害性分子
であるgranzyme B、Perforin、TIA-1は70%程度で陽性、CLAが陽性で、EMAやALKは
陰性となります。約10%の症例にリンパ節外病変が生じます。治療法は放射線療法が
有効なことが多く、単発の場合には外科的に摘出することもあります。リンパ節病変や
臓器浸潤を生じた症例に対しては多剤併用化学療法を考慮する必要があります。皮膚
未分化大細胞リンパ腫はALKが陰性にもかかわらず、予後は良好と報告されています。

  #Lymphoid papulosis(リンパ丘疹症)
 大型で核異型を有する未分化、免疫芽球、ホジキン病類似の腫瘍細胞からなる慢性、
再発性、自然消退性の皮膚疾患です。皮膚型未分化大細胞リンパ腫と比較すると大型
細胞が少なく好中球を始めとする炎症細胞の浸潤を伴います。皮膚に限局し、体幹部、
四肢にさまざまな段階の丘疹、丘疹状壊疽病変、結節性皮膚病変を作り、それぞれの
病変は数週間で消失して瘢痕を残します。平均年齢中央値は45歳ですが、小児にも発
症します。20%の症例ではLymphoid papulosisに続発して菌状息肉腫、原発性皮膚型
未分化大細胞リンパ腫、ホジキン病を発症することが報告されています(Bekkenk MW,
Blood 95:3653, 2000)。根治的治療法はなく、無治療で経過観察あるいはメソトレキセ
ート内服、紫外線療法が施行されます。

*Primary cutaneous peripheral T-cell lympohomas, rare subtypes
  #Primary cutaneous gamma-delta T-cell lymphoma
  #Primary cutaneous CD8-positive aggressive epidermotropic cytotoxic T-cell
lymphoma

Primary cutaneous CD4-positivve small/medium T-cell lymphoma(原発性皮膚
型CD4陽性小・中細胞型T細胞性リンパ腫)
 腫瘍細胞は小型〜中型CD4陽性T細胞であり、びまん性もしくは結節性に真皮内に病
変を形成(皮下組織への浸潤傾向がみられます)します。通常、紅斑は認められません
が、組織学的に表皮向性が認められる場合には菌状息肉腫を考慮する必要がありま
す。
Peripheral T-cell lymphoma, NOS(非特異型末梢性T細胞リンパ腫)
 節性、節外性成熟T細胞性リンパ腫で上記のどの項目にも当てはまらないものをnot
otherwise specified(NOS)として分類します。欧米においては末梢性T細胞性リンパ腫
の約30%を占め、小児では稀であり、男女比は2対1と報告されています。リンパ節腫大
が病変の主体となりますが、肝脾、骨髄、皮膚、消化管等、様々の臓器への浸潤が見ら
れます。核異型を伴った腫瘍細胞が多彩な像を取って浸潤を示します。免疫学的マーカ
ーとしてはCD4陽性例がCD8陽性例よりも多く見られますが、CD4/CD8二重陽性例も認
められます。また高頻度にCD5、CD7、CD52およびCD4/CD8両陰性例も見られます。T
細胞受容体(TCR)のβ鎖(βF1)は通常発現しております。例外的にCD30(CD15も陽
性)、CD20あるいはCD79aを発現している例も報告されています。増殖活性を示すKi-
67陽性率が高く予後不良と関連しています。

Angioimmunoblastic T-cell lymphoma(血管免疫芽球性T細胞リンパ腫)
 過去、angioimmunoblastic lymphadenopathy(AILD)と呼ばれ、リンパ腫へ進展する
可能性がある反応性病変と考えられていましたが、現在ではT細胞腫瘍であることが判
明し、成熟T/NK細胞腫瘍の一病型としてあげられています。AILTは高齢者の発症が多
く、全非ホジキンリンパ腫の約1-2%、末梢性T細胞リンパ腫の約20%を占めます。病変
の主体はリンパ節腫脹であり、肝脾、皮膚、骨髄への浸潤もしばしば認められ、また胸
水貯留、関節炎、腹水もみられます。臨床検査所見ではポリクローナル高ガンマグロブ
リン血症、免疫複合体、寒冷凝集素、リウマチ因子などが検出され、溶血性貧血を合併
することもあります。3/4の例でEBウイルス感染B細胞(リンパ節傍皮質領域のB細胞性
免疫芽球)の増生(Attygalle AD, et al. Am J Surg Pathol 31:1077, 2007)が見られま
すが、腫瘍T細胞にはEBウイルスの感染は認められません。腫瘍細胞が浸潤したリン
パ節ではリンパ節の基本構造は消失し、周囲への浸潤も認められますが、皮質のsinus
は保たれております。高内皮細静脈の増生を認め、小型〜中型の細胞質淡明な異型性
に乏しいリンパ球様腫瘍細胞(clear cell)が増生しております。反応性の小型リンパ球、
好酸球、好中球、形質細胞、組織球が混在、腫瘍細胞は二次リンパ濾胞の存在する
germinal center T細胞と同じ免疫学的形質(CD2、CD3、CD5およびCD4)を有してお
り、CD10、bcl-6、ケモカインであるCXCL13が陽性となります(Grogg KL, et al. Mod
Pathol 19:1101, 2006)が、腫瘍細胞の量は比較的少なく、フローサイトメトリー法で腫
瘍集団として認識されるのは約20%程度となります。90%以上の症例でT細胞受容体ガ
ンマ鎖の遺伝子再構成(Attygalle AD, et al. Histopathology 50:498, 2007)、20-30%
の症例で免疫グロブリンH鎖の遺伝子再構成も見られ、EBウイルス陽性B細胞との関係
が示唆されています(Tan BT, et al: J Mol Diagn 8: 466, 2006)。染色体検査では90%
以上の症例で異常が見られ(Dogan A, et al: Br J Haematol 121:681, 2003)、特に
trisomy 3、trisomy 5、X染色体の付加異常が高率に認められます(Kumaravel TS,
et al. Leuk Lymphoma 24:523, 1997)。薬剤性リンパ節炎(特にヒダントイン)では免疫
芽球性T細胞性リンパ腫と類似の組織を取ることがあり、注意を要します。
 治療法として確立されたものはなく、CHOP療法を中心とした治療が行われているのが
現状です。末梢性T細胞リンパ腫288例、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫1595例の5
年生存率はそれぞれ41%および52%と報告されており、末梢性T細胞リンパ腫のうち血
管免疫芽球性リンパ腫では31%(寛解率42%)と予後不良であることが報告されていま
す(Gisselbrecht C, et al. Blood 92:76, 1998)。Mouradらは血管免疫芽球性リンパ腫
147例(年齢中央値62歳、病期III以上が81%、B症状が72%、治療法はCHOP類似療
法)において観察中央値68ヶ月で、7年生存率は29%、7年無イベント生存率は23%と報
告しています(Mourad N, et al: Blood 111:4463, 2008)。予後因子としては男性、縦隔
リンパ節腫脹、貧血が予後不良因子として抽出されています(IPIは予後因子として有用
ではなかった)。アントラサイクリン系抗癌剤の有用性はびまん性大細胞型B細胞リンパ
腫を下回るものと考えられることより、血管免疫芽球性リンパ腫が有する免疫学的異常
を除去することによる治療の試みがなされております。その一つとしてシクロスポリン(T
細胞の活性化を抑制)があり、Advaniらは血管免疫芽球性リンパ腫12例に対して投与
し、66%が治療に反応したと報告(Advani R, et al: Leuk lymphoma 48:521, 2007)、
現在、大規模臨床試験が行われています。また腫瘍細胞の増生にEBウイルス感染B細
胞が関与していることが疑われ、リツキサンを使用した臨床研究も行われています。少
数例ではありますが、9例に対して8例が寛解、7例が観察期間中央値12ヶ月で寛解を維
持していると報告されています(Joly B, et al. Blood 106, 2005 [abstract])。血管免疫
芽球性リンパ腫はT細胞、B細胞および血管内皮細胞の活性化および血管新生因子
(vascular endothelial growth factor(VEGF))過剰発現を伴っております。VEGFに対
する分子標的治療薬ベバシズマブが効果を示したとする報告(Aguiar Bujanda D. Ann
Oncol 19:396, 2008)がなされ、ベバシズマブ併用CHOP療法の臨床研究もまた進行し
ております。その他、低用量メソトレキセート、プレドニン併用(Gerlando Q, et al.
Haematologica 85:880, 2000)、サリドマイド(Ramasamy K, et al. Haematologica 91
(8 Suppl):ECR44, 2006)、レナリドマイド(Reiman T, et al. Blood 110, 2007
[abstract])、アレムツズマブ(Halene S, et al. Nat Clin Pract Oncol 3:165, 2006)、
クラドルビン(Sallah S, et al. Br J Haematol 104:163, 1999)、フルダラビン(Ong ST,
et al. Blood 88:2354, 1996)による有効例も報告されております。
 自家移植についてもその有用性は確立されておりませんが移植時期の設定によって
は有力な治療戦略の一つであることが判明してきています。146例の血管免疫芽球性リ
ンパ腫(第1寛解期49例、第2寛解期21例、部分寛解52例、非寛解24例、年齢中央値は
53歳)に対する自家移植の後視方的解析では自家移植前非寛解であった症例のうち化
学療法に感受性があった群での完全寛解率は62%、抵抗性であった群では15%と有意
な差が認められました(Kyriakou C, et al. J Clin Oncol 26:218, 2008)。全体では24ヶ
月、48ヶ月の全生存率は67%および59%、無進行生存率は53%および42%でした。67
例にASCT後中央値7ヶ月で再発または増悪を認め、24ヶ月、48ヶ月での再発率は40%
および51%でした。非再発死亡率は12ヶ月、24ヶ月でそれぞれ5%および7%でした。非
再発死亡率に有意に関与する因子として移植時年齢が60歳以上、移植時に化学療法
抵抗性の状態であること、再発率の増加に有意に関与する因子として移植時に完全寛
解でないこと、自家移植がサルベージ両方として実施されたこと、移植前処置に全身放
射線療法が施行されていないこと、無進行生存率の改善に有意に関与する因子として、
移植時病期が完全寛解であること、移植時のカルノフスキーススコアが80以上であるこ
と、自家移植が第1治療に組み込まれ実施されたことが挙げられています。
 同種移植についても自家移植と同様にその位置づけは確定されていません。移植片
対腫瘍効果により再発率が抑えられることが期待される一方、移植片対宿主病等によ
る移植関連死亡が大きな問題と言えます。これを打破するため骨髄非破壊的同種移植
が実施され、症例数は少ないながらも有用であると報告されていますが、前方視的検討
が必要と考えられます(Corradini P, et al. J Clin Oncol 22:2172, 2004)(Le Gouill
S, et al. J Clin Oncol 26:2264, 2008)。

Anaplastic large cell lymphoma, ALK positive(ALK陽性未分化大細胞型リンパ
腫)
 小児、成人、特に若年成人、男性(男女比1.5:1)に認められるリンパ腫です。ALK遺伝
子に転座によるALK融合タンパク、CD30発現が認められます。リンパ節、リンパ節外と
もに浸潤、節外では皮膚、骨髄、骨、軟部組織、肺、肝への浸潤が認められ、病期III、
IVの症例が70%を占めます。受診時、症例の多くは進行しており、B症状(発熱)が3/4
の症例で認められますが、化学療法、放射線療法の感受性は良好であり、5年生存率
は80%です。腫瘍細胞は偏在する馬蹄形あるいは腎臓形の核を有し、表面形質として
CD30が陽性を示します。CD2、CD5、CD4、CD15、TIA1、granzyme B、perforin、
EMA、CD25が陽性であり、3/4の症例はCD3陰性(他にCD8、BCL2、EBV)です。また
骨髄系表面抗原(CD13)が陽性を示すことがあります(aberrant expression)(Damm-
Welk C, et al. Br J Haematol 138:459, 2007)。T細胞遺伝子再構成は90%の症例で
認められます。一部で表面抗原の発現が認められないnull typeが存在します。B細胞性
の例もありますが、その場合びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫に分類されます。
ALCLに対する標準的治療法は確立されていません。限局期ではCHOP療法+放射線
療法、進行期ではCHOP療法(6-8コース)が行われています。5年生存率はALK(+)お
よびALK(-)71-79.8%および37-46%とALK+はALK-に比較すると予後良好であること
が報告されています。またALK(+)、ALK(-)に関わらずCD56陽性の場合には予後不良
と報告されています。
*ALCL(ALK+)に典型的な染色体異常であるt(2;5)(p23;q35)では2番染色体上のALK
の細胞内キナーゼドメインと5番染色体上のnucleophosmin(NPM)が融合して、キメラ遺
伝子産物(p80NPM/ALK)を形成、ALKを高発現します。このALKはシグナル伝達と転
写活性化により細胞増殖、分化および生存などの過程を制御しているJAK/STAT経路
のstat3に結合することによりリンパ腫発生に関与していることが報告されています。

Anaplastic large cell lymphoma, ALK negative(未分化大細胞リンパ腫)
 未分化大細胞型リンパ腫においてALK陰性例についてはCD30の発現が末梢T細胞性
リンパ腫(分類不能型)においてもしばしば認められます。しかしながらALK陰性未分化
大細胞型リンパ腫はALK陽性例に比べると明らかに予後は不良ですが、末梢T細胞性
リンパ腫(分類不能型)に比べると有意に予後が良好であることが報告(Savage KJ,
2008, Blood 111)され、今後の検討が必要ではあるものの分類に残存することになりま
した。ALK陰性未分化大細胞型リンパ腫は高齢者(40〜65歳、男女比3:2)に多く、進行
性であり、ALK陽性例と比較すると予後に差が認められるため今回の改訂では分離さ
れました。リンパ節、節外(骨、軟部組織、皮膚)ともに浸潤しますが、節外病変はALK
陽性例に比較すると少なくなります。5年生存率は約50%とALK陽性例よりも劣ります。
免疫学的検討ではCD30陽性、ALK陰性、細胞形態学的にはALK陽性例よりも大型で
多形性に富んでいます。null typeも存在しますが、半数以上の例ではT細胞マーカーが
陽性、であり、細胞障害性顆粒も陽性となります。

Hodgkin lymphoma(ホジキンリンパ腫)
 本疾患で特徴的なホジキン(H)細胞およびReed-Sternberg(RS)細胞(H/RS細胞)や
lymphocyte predominant(LP細胞)は遺伝子解析により濾胞胚中心B細胞に由来する
ことが証明され、ホジキンリンパ腫と呼ばれるようになりました。
 ホジキンリンパ腫は欧米では悪性リンパ腫の約30%を占めますが、本邦では約8%程
度と頻度の低い疾患です。その治療成績は多剤併用化学療法と放射線療法の進歩に
より改善し、現在では治癒可能な疾患となっております。そのため治療後の心血管疾患
や二次発癌などの遅発性毒性の回避が重要となり、過不足のない治療が求められるよ
うになりました。
ホジキンリンパ腫は結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫(nodular lymphocyte
predominant Hodgkin lymphoma、NLPHL)古典的ホジキンリンパ腫(classical
Hodgkin lymphoma、CHL)の二病型に分類されます。
 CHLは比較的少数のホジキン(H)細胞およびReed-Sternberg(RS)細胞(HRS細胞:
周囲に明庭を有する大きな核小体を伴う大型細胞、単核のものをホジキン細胞、二核
以上の多核のものをReed-)の存在と、その背景に認めるリンパ球、組織球、形質細
胞、類上皮細胞などの反応性増殖、および血管増生、線維化、壊死など特異的な組織
像により定義されます。CHLは更に4つに分類されます。HRS細胞のほとんどすべての
症例でCD30陽性、CD15は75-85%で陽性を示します。LCAは通常陰性、CD20は陽性
ですが腫瘍細胞すべてに陽性になることはありません。HRS細胞においてはBリンパ球
関連分子の発現は抑制されていますが、PAX5/BSAPはほとんどの症例(95%以上)で
陽性であり、HRS細胞がB細胞である証拠となっています。稀にT細胞マーカーの発現が
見られることがありますが、T細胞遺伝子再構成を認めることはなく、aberrantな発現と
されています。約半数例ではHRS細胞にEBウイルスが証明されます。結節硬化型では
その頻度は低率です。免疫染色にてlatent membrane protein(LMP)、あるいはin
situ hybridizationによりEBV-encoded small non-polyadenylated RNAの認識を持っ
て認識されますが、EBV-encoded nuclear antigen(EBNA)-2は陰性であり、Latency
II型を呈します。
(1)結節硬化型ホジキンリンパ腫(nodular sclerosis classical Hodgkin lymphoma、
NSCHL)
膠原線維による結節性病変形成と凹窩細胞(lacunar細胞)の形態を有するH/RS細胞
が見られます。
(2)リンパ球豊富型ホジキンリンパ腫(lymphocyte-rich classical Hodgkin
lymphoma、LRCHL)
H/RS細胞のほかに凹窩細胞やpopcorn細胞を認め、結節性病変を呈する。好中球お
よび好酸球の浸潤はほとんど認めません。
(3)混合細胞型ホジキンリンパ腫(mixed cellularity classical Hodgkin lymphoma)
H/RS細胞の点在とともに組織球性類上皮細胞の増生が顕著に認められます。リンパ
球、形質細胞、好酸球、組織球などの多彩な炎症細胞が背景に認められます。
(4)リンパ球減少型ホジキンリンパ腫(lymphocyte-depleted classical Hodgkin
lymphoma、LDCHL)
びまん性病変を形成、H/RS細胞の絶対数が多く、背景のリンパ球が少ないことが特徴
です。

NLPHLはpopcorn細胞あるいはリンパ球優位型細胞、一般的にはlymphocytic and/
or histiocytic RS cell( L&H細胞)と呼ばれる特異細胞が散見されます。結節性病変
部には濾胞樹状細胞のmeshworkがみられ、周囲には非腫瘍性のリンパ球や組織球の
浸潤が見られます。免疫形質ではCD20、CD79aなどのB細胞マーカーが発現しているま
すが、CD30、CD15あるいはEBウイルスは証明されません。以前はNLPHLの約30%は
LRCHLと診断されていました。

 前述したように本邦では悪性リンパ腫の約8%を占めており、年齢分布ではNSCHLか
らなる若年者層(20歳代)、MCCHLからなる中年者層(50-60歳)にピークを有します。
特にMCCHLは男性が女性に比べ2倍多く認められます。
 多くの症例は無痛性の表在リンパ節腫脹を契機に診断されます。75%の症例で頸部
リンパ節腫脹が初発症状であり、同時に腋窩リンパ節腫脹を有する例が約25%、鼠径
部リンパ節腫脹を有する症例が約10%です。NSCHLの約60%に縦隔病変が認められま
す。 
 診断時に発熱、体重減少、盗汗(B症状)を認めるのは約40%であり、発熱は診断時
の約25%に認められます(Pel-Ebstein型)。抗ヒスタミン薬抵抗性の皮膚掻痒症がリン
パ節腫脹の数ヶ月前より見られることがあります。NSCHLでは縦隔リンパ節腫脹による
呼吸困難、外装、胸痛、嚥下困難、嗄声、上大静脈症候群また胸水、心嚢液貯留が認
められることがあります。非ホジキンリンパ腫と比較すると節外病変で発見されることは
まれであり、診断時には約60%が限局病期(病期I/II)、脾臓への浸潤は約20%(無症
状)、骨髄浸潤は5%程度と報告されています。
 NLPHLはホジキンリンパ腫の約5%と少なく、30-50歳代の男性に多く、ほとんどが限
局病期で進行病期は5-25%です。
 血液検査では約25%で白血球増加を認め、通常は好中球優位でリンパ球は減少しま
す。貧血、血小板減少を認めることは少なく、混酸球増加が見られることがあります。
治療法
I.限局期ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫は放射線感受性の高い腫瘍であり、限局期患者に対して広範囲照射
による放射線単独療法が行われ、長期無病が得られていました。しかし、照射外領域で
の再発率が約25%と高く、晩期障害の発症も増加することが報告されました。欧米での
無作為化比較試験の結果、多剤併用化学療法後領域照射(involved field
radiotherapy、IFRT)を行うcombined modality therapy(CMT)が放射線療法単独に
比べて無病生存率、無イベント生存率が優れていることが報告されました。現在は限局
期ホジキンリンパ腫に対する標準療法としてドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンクリス
チンおよびダカルバジンからなるABVD療法4コースと、その後に20-30GyのIFRTを併用
するCMTが行われています(Noordijk EM, et al. J Clin Oncol 24:3128-3135, 2006)。
イタリアのグループはABVD療法4コース後にIFRTまたは亜全リンパ領域照射
(subtotal lymphoid irradiation、STRI)を行う無作為化比較試験の結果では12年無増
悪生存率はそれぞれ94%、93%、12年全生存率は94%、96%と両者に有意差を認め
ないものの、ABVD+IFRT群の方が急性および晩期毒性が少なかったことを報告してお
ります(Bonadonna G, et al. J Clin Oncol 22:2835-2841, 2004)。また化学療法の回
数を減少、化学療法の強度を軽減しても予後不良因子のない限局期症例では有意差が
ないことが報告されています(Eich HT, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys 58:1121-
1127, 2004)。
 限局期でbulky病変を認めない場合、化学療法単独とCMTとの比較試験の結果、5年
無進行生存率はCMTが良好であったものの5年全生存率には差が見られず、化学療法
単独が治療選択として挙がりますが、現時点では意見が分かれるところです。
II.進行期ホジキンリンパ腫
1970年代以降、進行期ホジキンリンパ腫の治療としてMOPP療法が標準的治療となって
おりましたが、長期生存例の晩期合併症(不妊症、二次発癌など)が問題とありました。
特に治療3-8年経過中に5番あるいは7番染色体異常を伴う骨髄異形成症候群の発症
が報告されるようになりました。その後、MOPP/ABVD交代療法が開発、MOPP療法、
MOPP/ABVD交代療法、ABVD療法の3者間の比較試験ではABVD療法は他の2群に比
べ毒性が有意に低く、ABVD療法とMOPP/ABVD療法の有効性は同等、MOPP療法に
比べ完全寛解率、無進行生存率が優れていることが報告されました。またABVD療法は
MOPP療法に比較すると不妊症や二次発癌などの晩期毒性の発現頻度が有意に低い
ことが明らかになり、ABVD療法が進行期ホジキンリンパ腫の標準治療となりました。本
邦ではJCOGがダカルバジン投与量を375mg/sqから250mg/sqに減量したABVd療法を
実施し、5年全生存率90%、5年無進行生存率76%の生存率と報告しています。
現在はABVD療法が進行期ホジキンリンパ腫の標準的治療として広く行われており、4コ
ースまでに完全寛解となった場合には2コース追加の計6コース、6コースまでに完全寛
解に至った場合には2コース追加し、計8コースまで行っております。近年、治療途中で
FDG-PETを用いて治療の反応性を評価し、治療回数を決定する試みがなされています
(response-adapted therapy)。後方視的研究では化学療法を2コースあるいは3コース
後にPETが陰性となった症例は陽性例と比較すると無進行生存率、全生存率が良好で
あることが報告されました。前方視的研究でも確認され、治療早期のPETの結果で予後
が予測できる可能性があり、PET陰性例では治療回数を減らし、放射線療法を省略、
PET陽性例は治療回数を増やす、あるいは他の治療法に変更するなどの治療介入をす
ることが考えられています。
*再発/難治例に対する治療法
A. 新規治療
ABVD療法に対して約30-35%の症例は再発あるいは難治性である。そのため、dose
intensityを強化した新規治療法が報告されています。
1. BEACOPP療法(Diehl V, et l. J Clin Oncol 16:3810-3821, 1998):1998年に報告さ
れた治療法であり、ブレオマイシン、エトポシド、アドリアシン、エンドキサン、ビンクリス
チン、プロカルバジンおよびプレドニンを併用しております。本治療、ABVD療法、CEC療
法(シクロフォスファミド、ロムスチン、ビンクリスチン、メルファラン、プレドニン、エピル
ビシン、ビンデシン、プロカルバジン、ビンブラスチンおよびブレオマイシン併用)の比較
試験がイタリアより報告(Federico M, et al. J Clin Oncol 27:805-811, 2009)されまし
た。それぞれの5年無進行生存率は68%、81%、78%、5年生存率は84%、92%、91%
であり、無進行生存率に有意差が認められたものの全生存率では有意差は認めており
ません。しかし国際予後因子(Hasenclever D, et al. N Engl J Med 339:1506-1514,
1998)を0-2有する症例においてBEACOPP療法、CEC療法はABVD療法に比較して無
進行生存率に有意差は認めなかったものの、3-7有する症例においては有意に良好で
あることが判明しましたが、どのような症例に本治療法が推奨されるのかについては更
なる検討が必要です。

* 進行期ホジキンリンパ腫における国際予後因子
1. 年齢:45 歳以上
2. 性別:男性
3. 血清アルブミン:4.0g/dl未満
4. ヘモグロビン:10.5g/dl未満
5. Ann Arbor病期分類:病期IV
6. 白血球数:15000/μl
7. リンパ球減少:600/μl未満あるいは白血球数の8%以下

2. Stanford V療法Horning SJ, et al. J Clin Oncol 20: 630-637, 2002):ドキソルビ
シン、ビンブラスチン、メクロレタミン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、エトポシドおよび
プレドニン併用)はABVD療法、MOPP/ABVD療法と放射線療法との併用における晩期
毒性(心・肺毒性、照射野に発症する二次発癌)の減少を目的に治療期間の短縮(12
週)とアルキル化剤、ドキソルビシン、ブレオマイシンの総投与量を減量し、dose
intensityを維持することを目的とした治療法です。観察期間中央値5.4年で5年全生存
率96%と良好な成績が報告され、ECOGが第II相試験を施行したところ、完全寛解率
72%、5年無進行生存率85%、生存率96%と良好な成績が得られております(Horning
SJ, et al. J Clin Oncol 18:972-980, 2000)。

B. 救援療法
 初回化学療法の再発例では完全寛解期間が12ヶ月あれば再度化学療法を施行する
ことにより約40%には長期生存が得られております。しかしながら完全寛解期間が12ヶ
月以内の再発および初回治療抵抗例は通常の化学療法による長期生存率は著しく不
良(0-10%)であり、自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法の適応と考えられて
います(5年無進行生存率は45%程度)。初回治療12ヶ月未満の再発で救援化学療法
が奏効した場合には積極的な自家造血幹細胞移植の対象と考えられます。

HISTIOCYTIC AND DENDRIC CELL NEOPLASMS
Histiocytic sarcoma

Langerhans cell histiocytosis(ランゲルハンス細胞組織球症)
 ランゲルハンス細胞に由来する腫瘍性のクローナルな増殖で免疫染色ではCD1a、
S100に陽性で、電子顕微鏡でBirbeck顆粒が見られます。下記、3種類の疾患が
histiocytosis Xとしてまとめられていました。
Letterer-Siwe病
 乳幼児を侵し、発熱、汎血球減少、をきたし、ランニングシャツとパンツの部分に皮疹
が生じ、次いで肝臓、脾臓、および全身リンパ節腫大、骨へ進展します。
Hand-Schuller-Christian病
 骨破壊、尿崩症および眼球突出を3大症状とします。組織球の肉芽腫病変が先行、次
いでコレステロールを有するマクロファージ(泡沫細胞)が出現します。病巣は主として頭
蓋骨に見られますが、進行すると他の骨、種々の臓器を侵します。
骨の好酸球性肉腫
 骨に孤在性、多発性に組織球の増殖を示す肉芽腫病変です。病巣内には明るい細胞
質を有する組織球が多数出現し、好酸球の浸潤を伴い増す。発症年齢は5-16歳までの
時期に多く見られ、病変を取り除くことで治癒が得られることが多く、予後良好です。

 小児に発症(500万人に5人)、男女比は3.7:1と男性、また白人に多く認められます。臨
床的には単発、多発(全身性含む)、両者認められます。単発性の場合は骨病変が多く
(頭蓋、脊椎、大腿、骨盤、肋骨)、リンパ節、皮膚、肺は少数例です。多発する例は若
年者が多く、皮膚病変、肝脾腫、骨融解像を伴いやすい。孤在性の場合には予後は良
好であるが、若年者および多発の場合には予後はやや不良となる。
 ランゲルハンス細胞の核は彎入、切れ込みが目立ち、ラグビーボール様あるいは木の
葉が折れたような独特な形態をとります。クロマチンは繊細ですが、核小体は不明瞭で
核膜は薄く、好酸性の豊かな細胞質を有します。免疫染色はS100が核および細胞質に
陽性です。ビメンチン、HLA-DR陽性、CD45、CD68、リゾチーム弱陽性、T細胞、B細胞
マーカー、CD30、ミエロペルオキシダーゼ、CD34、EMA陰性、濾胞樹状細胞のマーカー
であるCD21、CD35、CD15は陰性を示します。

Langerhans cell sarcoma

Follicular dendritic cell sarcoma

Fibroblastic reticular cell tumor

Indeterminate dendritic cell tumor

Disseminated juvenile xanthogranuloma

IMMUNODEFICIENCY-ASSOCIATED LYMPHOPROLIFERATIVE
DISORDERS
*Lymphoproliferative diseases associated with primary immune disorders(先天
性免疫異常症関連リンパ増殖性疾患)

*Lymphomas associated with HIV infection(HIV感染症関連リンパ腫)

Post-transplant lymphoproliferative disorders(PTLD)(移植後リンパ増殖性疾
患)
 移植後リンパ増殖性疾患は固形臓器移植、造血幹細胞移植後に発生するリンパ球あ
るいは形質細胞増殖の総称で、EBウイルス感染に伴う過形成病変からEBウイルス陽性
(あるいは陰性)の高悪性度のリンパ腫まで含んだ概念です。拒絶反応予防あるいは治
療で使用するステロイド、カルシニューリン阻害剤などの免疫抑制剤の使用によってTリ
ンパ球の免疫監視機構が低下、これにより移植後リンパ増殖性疾患が発症するものと
想定されています。リンパ腫・骨髄腫の分類中に移植後リンパ増殖性疾患が独立した疾
患概念として記載されたのは2001年のWHO分類が最初です。今回の改訂では早期病
変を低悪性度ないし境界病変に分類し、多形性移植後リンパ増殖性疾患を悪性疾患と
分類しています。

1. 早期病変
形質細胞過形成
伝染性単核球症様病変(濾胞過形成)
2. 多形性移植後リンパ増殖性疾患
3. 単形性移植後リンパ増殖性疾患
B細胞腫瘍:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、形質細胞骨髄腫、
形質細胞腫様病変、その他(小型B細胞リンパ腫を除く)
T細胞腫瘍:末梢性T細胞リンパ腫非特定、肝脾T細胞リンパ腫、その他(成人T細胞白
血病/リンパ腫等)
4. 古典的ホジキンリンパ腫型移植後リンパ増殖性疾患

 発症頻度は移植臓器によって異なり、肺・小腸移植(5%以上)、肝臓、心臓(1?2%)、
腎臓、造血器幹細胞(1%未満)、同一臓器でみると小児における発症頻度が高いと報
告されています。B細胞リンパ腫では約80%がEBウイルス陽性、EBウイルス陽性移植
後リンパ増殖性疾患は移植後1年以内の発生が多く、EBウイルス陰性移植後リンパ増
殖性疾患、T/NK細胞移植後リンパ増殖性疾患は移植後5年前後での発症が多いと報
告されています。

Other iatrogenic immunodeficiency-associated lymphoproliferative disorders
(他の医原性免疫不全症関連リンパ増殖性疾患)
 関節リウマチを代表とする自己免疫疾患などにメソトレキセートの低用量投与療法が
施行された際にリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disorders、LPD)が発症するこ
とが知られています。またリウマチ患者への抗TNF(インフリキシマブ)治療でもB細胞リ
ンパ腫、ホジキンリンパ腫の発生が報告されています。このような症例では投薬を中止
することで自然消退も見られることより医原性疾患の1つとして認識されています。
多く見られるのは前述したメソトレキセート投与に伴うLPDです。MTX関連LPDは多形性
リンパ増殖性疾患、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、古典的ホジキンリンパ腫等様々な
像が認められます。B細胞リンパ腫ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫、濾胞性リン
パ腫、バーキットリンパ腫、節外性濾胞辺縁帯リンパ腫、粘膜関連リンパ組織リンパ腫、
リンパ形質細胞性リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫など多彩で
す。T細胞リンパ腫としては末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、節
外性NK/T細胞リンパ腫(鼻型)が報告されています。メソトレキセート治療を受けた症例
に発生するLPDでは約40%にEBウイルスが証明され、B細胞リンパ腫に比較してホジキ
ンリンパ腫ではその頻度が高くなります。遺伝子、染色体検査では特徴的な所見は認め
られません。治療としては原因薬剤と考えられる薬剤の中断が第一で、薬剤の中止で病
変が消退する症例が約30%に見られます。これらの症例の多くがEBウイルス陽性例で
す。しかしながら薬剤の再投与なく再発する症例も報告されています(Hoshida Y, et al.
J Rheumatol 34:322, 2007)。



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