WHO分類-骨髄系腫瘍(2008)

骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative neoplasms)
(1)原発性骨髄線維症(Primary myelofibrosis)
 原発性骨髄線維症は骨髄において主として巨核球と顆粒球系細胞が増加する骨髄増
殖性腫瘍です。その診断基準を下記に示します。

 診断基準
 大項目
1.細網線維または膠原線維化を伴った巨核球の増殖と異型があること、あるいは細網
細胞の増生が認められない場合は巨核球の増殖と異型に加え、顆粒球系細胞の増加と
しばしば赤芽球造血の抑制を特徴とする骨髄細胞成分の増加を伴う事(前線維期)
2.慢性骨髄性白血病、真性赤血球増加症(真性多血症)、骨髄異形成症候群、他の骨
髄増殖性腫瘍の診断基準を満たさない
3.JAK2V671F変異やMPL W515K/Lのような、造血細胞のクローン性増殖を示す所見
がある、あるいはクローン性増殖の所見が認められない場合は、骨髄の線維化や変化
が、感染症、自己免疫疾患、慢性炎症、ヘアリー細胞白血病や他のリンパ系腫瘍、転移
性腫瘍、中毒による骨髄障害などによる反応性変化ではないこと
 小項目
1. 末梢血に赤芽球、骨髄芽球が出現
2. 血清LDHの増加
3. 貧血
4. 触知可能な脾腫
大項目3つすべてと、4つの小項目のうち2つを満たした時に、原発性骨髄線維症と診
断する。
 
 2005年に骨髄増殖性腫瘍における分子異常としてJAK2の恒常活性型変異である
JAK2V617F変異、2007年にトロンボポイエチン受容体であるMPLのW515変異が本態
性血小板増加症および原発性骨髄線維症で発見されました。原発性骨髄線維症におけ
るV617F変異の出現率は約50-60%、MPL変異は5-10%であり、残りの30-40%の症
例において、どのような遺伝子異常がかかわっているのかは不明です。
 約20-30%の症例は健康診断や他の疾患のために医療機関を受診した際にたまたま
指摘される脾腫、貧血、白血球増多、血小板図他、白赤芽球症や血清LDHの増加が診
断の契機となります。
 診断年齢中央値は66歳、男女比は2:1と男性に多く見られます。初期の「前線維期」に
は骨髄線維化は見られず、本態性血小板血症と類似した著明な血小板増加のみが唯
一の所見の時期があり、進行すると骨髄への細網細胞、膠原線維沈着、骨硬化が生じ
ます。それに伴い貧血、血小板減少、末梢血への骨髄芽球、赤芽球、LDH上昇が生じま
す。染色体異常は約30%に見られ、髄外造血により脾腫が約90%、肝腫が約50%の症
例に認められます。全身症状として全身倦怠感、呼吸困難、体重減少、夜間盗汗、微
熱、体重減少、出血傾向が見られます。
 前線維期に診断される症例は30-40%で骨髄検査では過形成性、好中球系と異型を
伴う巨核球が増加しています。赤芽球系は減少しています。慢性骨髄性白血病、多血
症、本態性血小板血症と比較すると原発性骨髄線維症では巨核球の異型が著明であ
り、診断のポイントとなります。巨核球は小型、著明な大型、裸核、成熟障害(核/細胞
質大)などが認められます。線維期は骨髄での細網線維、膠原線維増生が著明で、異
型を有する巨核球がシート状に増加、骨硬化期には後半な不規則な骨梁が骨髄の50%
を占めるようになります。髄外造血は肝脾が主ですが、リンパ節、腎臓、副腎、硬膜、消
化管、肺、胸膜、胸部皮膚、軟部組織に生じることがあり、赤芽球系、顆粒球系の幼若
細胞、またしばしば巨核球が主要な構成細胞として認められます。
 原発性骨髄線維症の臨床像は幅広く、その予後も1年未満から10年以上と個々の症
例によって異なっております(線維期に診断された症例の生存期間中央値は3-7年、前
線維期に診断された症例の10年生存率は72%、15年生存率は59%)。主な死因として
は骨髄不全(感染症、出血)、血栓症、門脈圧亢進症、心不全、急性骨髄性白血病への
転化などが挙げられます。現時点では造血細胞移植のみが唯一の治癒を望みうる治療
ですが、治療関連死亡が比較的高率であることが指摘されております。従って、予後不
良群を抽出し、造血幹細胞移植を含む積極的な治療を進めるか否かを判断するために
は適切な予後判定を行う事が重要となります。2009 年にInternational Working Group
for Myelofibrosis and Treatment(IWG-MRT)よりInternational Prognostic Scoring
System(IPSS)が報告されました。下記に診断時のみならず臨床経過に伴うリスクの出
現を含め評価できるシステムdynamic IPSS(DIPSS)、移植適応年齢である65歳未満
の症例のために別にage-adjusted DIPSS(aaDIPSS)を記載します。
DIPSS
0 point:年齢65歳以下、白血球25000以下、ヘモグロビン10g/dl以上、末梢血芽球比率
1%未満、全身症状なし
1 point: 年齢66歳以上、白血球25000超、末梢血芽球比率1%以上、全身症状あり
2 point:ヘモグロビン10g/dl未満
*Low:0、Intermediate-1:1-2、Intermediate-2:3-4、high:5-6

aaDIPSS
0 point:白血球25000以下、ヘモグロビン10g/dl以上、芽球1%未満、全身症状なし
1 point: 白血球25000超
2 point:ヘモグロビン10g/dl未満、芽球1%以上、全身症状あり
*Low:0、Intermediate-1:1-2、Intermediate-2:3-4、high:5-7

 これらのシステムでは新たなリスクの出現に伴い、予後がどのように変化するかを予
測することが可能であり、病勢の進行に合わせた治療方針の決定に寄与することが期
待されています。
 染色体異常については13q-および20q-単独異常は予後良好であることが報告されて
います。JAK2変異についてはJAK2 allele burdenが25%未満の症例は陰性あるいは
25%以上の症例よりも貧血、白血球減少をきたしやすく、感染症などによる死亡率が高
いため、予後不良と報告されています。
 現時点では原発性骨髄線維症の治療は完治を目指した造血幹細胞移植と症状緩和
を目指した治療の2つから成ります。サリドマイド誘導体、JAK2阻害剤についても寛解に
至る症例は稀であり、貧血改善、脾腫、全身症状の軽快といった緩和的な効果を期待
する治療と言えます。
(1)JAK2阻害剤:正常なJAK2もほぼ同等な抑制作用があり、臨床試験においても骨髄
抑制が高頻度に見られております。従って細胞遺伝子学・分子遺伝子学的完全寛解を
目指すことは困難であり、過剰なサイトカイン産生抑制などによる脾腫、全身状態の改
善が期待されています。
(2)サリドマイド誘導体:サリドマイドとその誘導体は免疫調整剤(immunomodulatory
drugs、IMiDs)として、サイトカイン産生抑制、血管新生抑制など様々な生物学的効果を
発揮すします。原発性骨髄線維症では貧血の改善、脾腫軽減などの作用を示すことが
報告されています。レナリドマイドとプレドニン併用療法では30%に貧血の改善、42%に
脾腫の軽減が得られています。
(3)造血幹細胞移植:標準的造血幹細胞移植(骨髄破壊的前処置)において移植年齢は
38-54歳、5年生存率は47-61%であったものの1年以内の非再発死亡率は20-48%と
高率でした。治療関連死が多かったこと、移植年齢の拡大を目的で近年、骨髄非破壊
的移植が積極的に試みられています。EBMTの報告では年齢中央値55歳(32-68歳)で
あり、全103例33例が血縁者間、70例が非血縁者間移植を受けております。移植源は
99例に末梢血幹細胞が使用されていました。1年非再発死亡率は16%、5年無再発死亡
率、全死亡率はそれぞれ51%、67%であり、年齢55歳以上、HLA不一致ドナーからの
移植が生存率を下げる因子として抽出されています。 JAK2V617F陰性群では治療関
連死、再発率ともに高く、全生存率は有意に低下することが判明しました。イギリスから
報告された骨髄破壊的移植と骨髄非破壊的移植の後方視的解析では3年非再発死亡
率はそれぞれ41%、32%、再発率は15%、46%という結果でした。

(2)真性赤血球増加症(真性多血症)(Polycythaemia vera)
 下記の診断基準を満たす赤血球増加疾患であり、JAK2遺伝子変異(V617F)および
JAK2エクソン12の遺伝子変異によりWHO分類第4版診断基準に遺伝子変異が盛り込ま
れております。前者はPVの97%、JAK2エクソン12変異はJAK2 V617F変異のないPV
症例の大半に認められます。下記に診断基準を示します。二次性赤血球増加症では検
出されません。

診断基準(WHO分類2008年度)
大基準
1. ヘモグロビン値が男性18.5g/dL、女性16.5g/dLを超える。もしくは赤血球量増加を示
す他の所見の証明
・ ヘモグロビン値もしくはヘマトクリット値が年齢、性別、居住地の高度を考慮した基準
値の99パーセントタイルを超える
・ ヘモグロビン値が男性で17g/dL、女性では15g/dLを超え、かつ個々の症例の基準値
(鉄の補充により補正されない)より、2g/dL以上上昇している場合
・ 赤血球量が予測値の25%以上を超える
2. JAK2 V617Fもしくは機能的に類似したJAK2変異が存在
小基準
1. 骨髄生検において赤芽球系、顆粒球系および巨核球系細胞の著明な増殖により過
形成を示す
2. 血清エリスロポイエチン低値
3. 内因性赤芽球コロニー形成
 2つの大基準と1つの小基準を満たすか、1つの大基準と2つの小基準を満たす

 本邦での年間発生率は人口10万人あたり2人と推定されています。診断時年齢は50-
60歳代が多く、男性にやや多く発症します(1.2-2.2倍)。検査上、白血球増加(好中球、
好塩基球の増加)時折、未熟白血球(芽球以外)が出現、血小板増多は50%以上の症
例で認められます。骨髄検査では造血3系統の増加が認められますが、各系統の比率
に著しい差は認められません。巨核球系において異形成が目立つことがあります。染色
体異常は10-20%の症例で認められ、病勢が進行するにつれて多くなります。+8、+9、
del(20q)、del(13q)、del(1p)が多く見られますが、特異的な異常は報告されていません。
 病期については赤血球増加が見られる前多血症期、明らかな循環赤血球量が見られ
る多血症期、血球減少、無効造血、骨髄線維症、髄外造血が見られる多血症後線維化
期の3期に分類されています。
 総赤血球量増加、血液粘度の上昇によって血流のうっ滞が生じます。好中球、好塩基
球増加、時に未熟な白血球が見られますが、芽球は一般に認められません。血小板増
加は50%以上の症例で認めます。約15%の症例でPV診断後約10年を経てpost-PV
MF(消耗期)の状態に移行します(下記)。この時期になると原発性骨髄線維症よりも予
後は不良であり、大部分の症例が診断後約3年未満で死亡します。無治療の多血症症
例の平均寿命は18ヶ月と報告されています。死因としては血栓症(30%)、骨髄異形成
症候群或いは急性骨髄性白血病(20%)、他の悪性腫瘍(15%)、出血、骨髄線維症と
なっています。

多血症後線維化期(post-PV MF)診断基準
必須項目
1. 以前にWHO分類でPVと診断されている
2. grade 2-3、grade 3-4の骨髄線維化が見られる

付加的項目(2項目を有する)
1. 貧血がある、あるいは抗癌剤を投与されていないにもかかわらず瀉血の必要がな
い、あるいは抗癌剤投与の必要がない
2. 白赤芽球症を認める
3. 脾腫を認める
・ 左肋骨弓から5cm以上の脾腫を触知
・ 新たな脾腫を触知できる
4. 以下の症状が2つ以上見られる
・ 6ヶ月間に10%以上の体重減少がある
・ 盗汗
・ 説明できない37.5℃以上の発熱

* 補足:真性多血症が造血幹細胞のクローン性疾患であることは1970年代に報告され
ています。本態性血小板血症についても巨核球系細胞のみの異常ではなく、真性多血
症と同様に赤血球系、顆粒球系も巻き込んだ造血幹細胞レベルでのクローン性疾患で
あることが示されています。真性多血症症例由来の骨髄細胞を用いて、赤芽球系前駆
細胞のin vitroのコロニー形成能が検討され、これらの骨髄細胞は赤血球系造血因子
であるエリスロポイエチンを添加しなくても赤芽球系コロニーが形成されることが見出さ
れました。これらのコロニーは診断基準に記載されているように内因性コロニーと称され
ます。また真性多血症例の骨髄前駆細胞はエリスロポイエチンのみならず種々のサイト
カイン(造血因子)に対する感受性が亢進していることが明らかになっております。また
本態性血小板血症の骨髄前駆細胞もエリスロポイエチンに対する感受性が亢進してお
ります。巨核球系造血因子であるトロンボポイエチンに対する感受性は本態性血小板血
症例では亢進しておりますが、受容体の発現は真性多血症、本態性血小板血症例とも
に低下していると報告されています。受容体そのものの変異はその後の研究でも明らか
にされなかったことより、造血因子受容体よりも下流のシグナル伝達分子であるチロシ
ンリン酸化酵素JAK2、signal transducer activator of transcription(STAT)3と
STAT5に焦点が当てられました。Vainchenkerらはこれら酵素の抑制因子(インヒビター
を用いて酵素活性を抑制、正常骨髄細胞によるEPO以前性のコロニー形成だけでなく
真性多血症例の骨髄細胞による内因性コロニー形成も減弱されることを報告、JAK2遺
伝子を解析したところ617番目のアミノ酸のバリンがフェニルアラニンに置換するV617F
変異を検出しました。この変異は真性多血症だけではなく本態性血小板血症、原発性骨
髄線維症でも認められています。

(3)本態性血小板血症(Essential thrombocythaemia)
 WHO分類第4版におけるETの診断基準を下記に示します。以下4つの項目がすべて満
たされる必要があります。

1. 血小板数45万以上が持続すること。
2. 骨髄生検では大型成熟巨核球を伴う巨核球系細胞の増生が主たる所見であり、顆粒
球造血の亢進、左方移動、赤血球造血の亢進は明らかではない。
3. 真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症、BCR-ABL1陽性慢性骨髄性白血病、骨髄
異形成症候群および他の骨髄系腫瘍のWHO分類に合致しないこと。
4. JAK2 V617Fあるいはクローン性を示す他のマーカーが証明されるか、JAK2 V617F
陰性の場合は反応性血小板増多症の根拠が認められないこと。

 年間発生率は10万人に1-2.5人、女性にやや多く、年齢中央値は60歳代ですが、10-
20%の症例は40歳以下で診断されます。脾臓における髄外造血は盛んではありません
が、血小板の蓄積される場所として大部分の症例で脾ときに肝腫が認められます。症状
としては全身倦怠感、出血、頭痛、手足のしびれなどの知覚症状、めまいなどが存在し
ます。生命予後は比較的良好であり、10年生存率は60-80%と報告されています。骨髄
検査では著明な巨核球増加が見られ、異形成を伴う巨核球も散見され、PVとの鑑別は
困難となります。

急性骨髄性白血病および関連前駆細胞腫瘍(acute myeloid
leukaemia(AML)and related precurssor neoplasms
(1)特定の遺伝子異常を有するAML
t(8;21)(q22;q22)、inv(16)(p13.1q22)、t(16;16)(p13;q22)、t(15;17)(q22;q22)を有する
場合は末梢血や骨髄の芽球比率に関係なく、AMLと診断します。
均衡型染色体転座/逆位を有するAML
@t(8;21)(q22;q22);RUNX1-RUNX1T1を有するAML
 t(8;21)転座に関わるAML1遺伝子はRUNX1と呼ばれ、造血細胞で機能する転写因子
であり、血小板造血、リンパ球分化あるいは造血幹細胞制御に重要な役割を果たしてい
ます。t(8;21)転座が起こり、RUNX1(AML1)-RUNX1T(ETO、MTG8)融合遺伝子が形
成されるとAML1機能が阻害され、AMLが発症の原因となります。ほとんどの症例が
FAB分類のAML M2に当たり、芽球は分化傾向を示します。

Ainv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22);CBFβ-MYH11を有するAML
 芽球が増加するのに加え、好酸球が増加するのが特徴的で、FAB分類のAML M4Eo
に当たります。inv(16)(p13.1q22)またはt(16;16)(p13.1;q22)によってCBFβ-MYH11の
融合遺伝子が形成されます。CBFβは前述したRUNX1と二量体を形成して骨髄系細胞
の分化に関与します。その複合体形成がCBFβ-MYH11形成によって損なわれ、白血
病が発症します。AML1やCBFβはcore binding factor(CBF)、これらの異常を有する
白血病をCBF白血病と呼びます。化学療法に対する反応が良好であり、予後良好です。

Bt(15;17)(q22;q12);PML-RARAを有するAML
 FAB分類ではM3に相当します。promyelocytic leukemia(PML)/レチノイン酸受容体
α(retinoic acid receptorα(RARα)融合遺伝子によってキメラ蛋白が合成され、そ
の蛋白により白血球の分化が妨げられ、発症します。APLにおけるRARA遺伝子のパー
トナーとしてはPML以外にt(5;17)(q23;q12);ZBTB16-RARA、t(5;17)(q23;q12);NPM1-
RARA、t(17;17)(q11.2;q12);Stat5B-RARAなどが知られています。

Ct(9;11)(p23;q34);MLLT3(AF9)-MLLを有するAML
 MLL遺伝子転座を有する白血病は急性リンパ性白血病や二次性白血病にもみられま
す。AMLでは単球性白血病に多く認められますが、すべてに共通した異常は見出されて
いません。

Dt(6;9)(p23;q34);DEK-NUP214を有するAML
 AMLの1-2%を占め、急性前骨髄球性白血病、急性巨核芽球性白血病以外の病型、
特に分化型、骨髄単球性白血病に多く、好塩基球の増加があり、形態学的に異形性を
伴っております。DEK-NUP214の融合遺伝子により、細胞質内蛋白の核内移行を障害
します。約70%の症例でFLT3-ITD変異を合併し、一般的に予後は不良です。

Einv(3)(q21q26.1)またはt(3;3)(q21;q26.2);RPN1-EVI1を有するAML
 血小板数が正常〜増加を伴うことが多い白血病です。多血球系に異形成を伴い、巨
核球は増加、多核分離、単核、小型の細胞が認められ、予後不良です(亜ヒ酸が有効で
あるという報告あり)。複雑核型、第7番染色体の異常も認められます。慢性骨髄性白血
病急性転化時もこの染色体異常が認められることがあります。

Ft(1;22)(p12;q13);RBM15-MKL1を有するAML
 Down症候群を伴わない新生児(特に女児)の巨核芽球性白血病として多く発症しま
す。形態異常を伴い、表面抗原分析で芽球はCD45陰性となることが多く、注意を要しま
す。

遺伝子変異を有するAML
@NPM1遺伝子変異を有するAML
 核内リン酸化物質であるNucleophosmin(NPM)分子はリボゾーム形成に重要な役割を
果たす他、細胞外からのストレス刺激による細胞死を回避する機能が知られており、癌
抑制遺伝子として機能している可能性が報告されています。しかし遺伝子変異を起こす
ことで腫瘍発症に促進的に働きます。AMLの遺伝子変異では頻繁に認められるもので
小児では2-8%、成人では27-35%、特に正常核型成人AMLの45-64%に認められま
す。NPM1変異AMLの5-15%において染色体異常(+8、del(9q))が報告されています。核
内物質であるNPMが変異を起こすことにより核外(細胞質内)に輸送され、細胞質内に
蓄積、その発現を免疫染色で診断します(NPM1変異)。NPM1遺伝子変異はFLT3遺伝
子変異と強い相関を有しており、FLT3遺伝子変異陽性AMLの50%以上においてNPM1
遺伝子変異が認められます。FLT3遺伝子陰性でNPM1遺伝子変異陽性群においては
長期予後良好であることが複数の施設の検討で判明しております。

ACEBPA遺伝子変異を有するAML
 CCAAT(enhancer-binding protein-α)(CEBPA)は好中球の分化・増殖に関わる重
要な転写遺伝子です。このCEBPA遺伝子に変異が起こると好中球分化機能が阻害さ
れ、結果的にAMLが発症することとなります。CEBPA変異は正常核型AMLの15-18%
に見られ(de novo AMLの6-15%)、NPM1とは異なり他の遺伝子変異と相関は見られ
ません。正常核型でCEBPA変異を伴うAMLは予後良好とされていますが、FLT3-ITD変
異が22〜33%に認められ、これらの変異を有する症例の予後は現在のところ不明で
す。

*FLT3(FMS-like tyrosine kinase)遺伝子は免疫グロブリン様細胞外ドメイン・膜貫通
ドメイン・膜近傍ドメイン・2つの細胞内キナーゼドメインから形成される膜結合レセプタ
ー・チロシンキナーゼであるFLT3をコード、正常造血細胞の増殖・分化・生存に関与して
います。定常状態ではレセプターはモノマーで存在し、ダイマー(二量体)を形成すること
によって細胞内シグナルが伝達されます。FLT3リガンドがレセプターに結合すると、
FLT3はダイマーを形成し、細胞内シグナルが伝達され、キナーゼドメインがリン酸化、
その後、様々なシグナル伝達経路が活性化されます。FLT3のヒト造血器腫瘍における
遺伝子変異はinternal tandem duplication(ITD)とチロシンキナーゼのエクソン20にお
ける点突然変異(point mutation)が知られています。このような変異型FLT3により
FLT3受容体のリガンド非依存性のダイマー形成・自己リン酸化を介して恒常的活性化
をもたらし、細胞内のシグナル伝達経路が活性化されて、異常増殖を示します。しかしな
がらin vitroでは変異型FLT3のみでは骨髄増殖性腫瘍の発症は見られても、急性白血
病発症には至っておらず、細胞分化の異常をもたらす変異(RUNX1-RUNX1T1、PMA-
RARα等)も併せて必要であると考えられています。

(2)骨髄異形成関連の変化を有するAML(acute myeloid leukaemia
with myelodysplasia-related features)
 その定義と病型は(a)MDSの既往がある(b)MDS関連の染色体異常がある、(3)多系
統に異形成を認める、の3つの項目のうち少なくとも一つを満たし、かつ(d)化学療法の
既往がない(e)AML with recurrent genetic abnormalitiesにみられる染色体異常が
ない、ものとされています。すなわち、*多血球系統の異形成を伴うAML例(AML with
multilineage dysplasia(AML/MLD))、*MDSまたはMDS/MPNから発症したAML例
(AML arising from previous MDSまたはMDS/MPN)、*MDS関連の染色体異常を有
するAML例(AML with MDS-related cytogenetic changes(AML with MRC))と定義
されます。
 国内の65歳未満の成人初発白血病のうち20%がAML/MLDと診断されていますが、
AML arising from previous MDSまたはMDS/MPNの頻度については不明です。いず
れも化学療法抵抗性であり、予後は不良です。
 骨髄、末梢血ともに顆粒球、赤芽球、巨核球に形態異常が認められます。赤白血病と
の鑑別が問題となることがあります。全有核細胞の50%以上が赤芽球であれば非赤芽
球細胞(全有核細胞から赤芽球、リンパ球、形質細胞などを除去した細胞)の中で20%
以上の芽球が存在する際にM6と診断されます。しかし、形態異常があり、かつ芽球が全
有核細胞において20%を超えているとM6ではなく、AML/MRCと診断します。細胞表面
抗原に一定の傾向は認められません。
*AML/MRCと診断される染色体異常
 1.複雑核型:3つを超える関連しない異常(いずれもAML with recurrent
cytogenetic abnormalitiesに含まれないこと)
 2.不均衡型異常
-7/del (7q)
-5/del (5q)
i(17q)/t(17p)
-13/del (13q)
del (11q)
del (12p)/t(12p)
del (9q)
idic (X)(q13)
 3.均衡型異常
t (11;16)(q23;p13.3)
t (3;21)(q26.2;22.1)
t(1;3)(p36.3;q21.1)
t(2;11)(p21;q23)
t(5;12)(q33;p12)
t(5;7)(q33;q11.2)
t(5;17)(q33;p13)
t(5;10)(q33;q21)
t(3;5)(q25;q34)
通常治療関連疾患に多く見られる。治療関連AMLであった場合にはこれらの染色体
にかかわらずAML/MRCを外れる。

(3)治療に関連した骨髄性腫瘍(therapy-related myeloid neoplasms)
 悪性腫瘍に対する化学療法や放射線療法後に発症してくる治療関連のAML、MDS、
MDS/MPNが含まれます。(1)治療関連MDS(therapy-related MDS: t-MDS)(2)治療
関連AML(therapy-related AML: t-AML)(3)治療関連MDS/MPN(therapy-
related MDS/MPN: t-MDS/MPN)となります。骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative
neoplasm、MPN)からの急性転化については化学療法後であってもこのカテゴリーには
含まれません。またAML with recurrent cytogenetic abnormalities の特異的染色体
異常を有していても治療関連であることが明確な場合にはこのカテゴリーに分類されま
す。治療内容によってアルキル化剤によるもの、トポイソメラーゼII阻害剤によるもの、
放射線照射によるもの、その他の4種類に分けられています。

1. アルキル化剤:メルファラン、シクロフォスファミド、ブスルファン、シスプラチン、カル
ボプラチン、ダカルバジン、マイトマイシン、チオテパ等
2. 放射線治療
3. トポイソメラーゼ阻害剤:エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ミトキサントロ
ン、アクチノマイシン、teniposide、amsacrine
4. その他:代謝拮抗剤(フルダラビン、thipurines、mycophenolate)、抗微小管剤(ビン
クリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、パクリタキセル、ドセタキセル)

 t-MDSとt-AMLは全MDS、AMLの10-20%を占め、t-MDS/MPNもMDS/MPNの10%
と報告されています(国内でのデータはありません)。既往歴としては血液悪性腫瘍と固
形腫瘍が半数ずつ、数%に非腫瘍性疾患で細胞毒性治療を受けた症例もみられます。
t-MDSの場合にはアルキル化剤±放射線治療後、5-10年後に発症、トポイソメラーゼ
阻害剤を含む化学療法例では1-5年後にt-AMLを発症しますが、MDSとしての時期が
なく染色体異常として転座が認められます。染色体異常としては5番、7番の染色体異
常、複雑核型を伴います。均衡型異常が認められる場合があり、形態異常を伴っていま
す。細胞表面抗原に一定の傾向は認められません。予後は一般的には不良であり、特
に5番、7番染色体異常や複雑核型を持つ例は不良で生存期間中央値は1年未満とされ
ています。

(4)特定不能のAML
@AML最未分化型(acute myeloid leukaemia with minimal differentiation)
 形態学的、細胞化学的検索でも骨髄系分化を確認できない白血病です(最も未分化な
白血病細胞からなる)。白血病細胞が骨髄系である証明は細胞表面抗原、電子顕微鏡
下での細胞化学的所見が必要です。FAB分類のM0に相当します。AMLの5%未満と頻
度は少なく、幼児、高齢者にやや多い傾向を認めます。芽球は急性リンパ性白血病細
胞に似た核小体が目立たず、細胞質に乏しい小型の細胞を認めることがあります。細
胞化学的所見ではミエロペルオキシダーゼ染色、スダンブラックイ染色、ナフトールAS-
Dクロロアセテートエステラーゼ染色陰性、α-ナフチルアセテートおよびブチレート・エス
テラーゼ染色は陰性を示します。電子顕微鏡下ではミエロペルオキシダーゼ染色あるい
はスダンブラック染色陽性顆粒を検出することができます。芽球の細胞表面抗原は幼若
な骨髄前駆細胞にみられるCD34、CD38、HLA-DRと骨髄系抗原CD13、CD117、CD33
は陽性で、より分化した骨髄・単球系細胞にみられるCD11b、CD15、CD4、CD64、
CD65は陰性となります。リンパ系B細胞抗原、T細胞抗原は陰性ですがterminal
deoxynucleotidyl transferase(TdT)は50%、CD7は40%の症例で陽性となります。染
色体検査では特異的な異常は見られませんが遺伝子検索ではRUNX1(AML1)遺伝子
の変異が27%、FLT3遺伝子変異が16-22%の症例で認められます。

AAML未分化型(acute myeloid leukaemia without maturation)
 形態学的に成熟傾向を示さない芽球が骨髄の90%以上を占拠します。アズール顆
粒、アウエル小体を有する芽球あるいはリンパ芽球に類似する芽球を認めることがあり
ます。ペルオキシダーゼ染色は3%以上が陽性となります。FAB分類のM1に相当しま
す。AMLの5-10%を占め、全年齢に発症します(成人に多く、発症中央値は46歳)。芽
球の表面抗原分析ではCD13、CD33、CD117が1つ以上陽性となり、骨髄前駆細胞抗原
CD34、HLA-DRは70%の症例で陽性となります。より分化した骨髄・単球系細胞にみら
れるCD11b、CD15、CD4、CD64、CD65は陰性となりますが、例外症例もみられます。B
細胞(CD79a、CD22)、T細胞特異抗原(cCD3)は陰性ですが、CD7が30%、CD2、
CD4、CD19、CD56が10-20%の症例で陽性となります。細胞遺伝子学的には特異的な
染色体異常、遺伝子異常は見出されていません。

BAML分化型(acute myeloid leukaemia with maturation)
 骨髄あるいは末梢血において20%以上の芽球を認め、好中球への分化傾向(前骨髄
球以上への分化段階の細胞を10%以上認める)が認められます。同時に骨髄において
単球系細胞が20%未満であることが条件となります。急性骨髄性白血病の10%程度を
占めます。すべての年齢層に発症しますが、60歳以上の症例が40%と多くなります。骨
髄は過形成性であり、芽球はアズール顆粒、アウエル小体ともに陰性あるいは陽性とな
ります。骨髄中に前骨髄球以上の分化段階の細胞が10%以上存在し、種々の程度、形
態異常が見られます。芽球の表面抗原分析では骨髄系抗原CD13、CD33、CD65、
CD11b、CD15が1つ以上陽性、CD34、CD117、HLA-DRも陽性のことが多く認められま
す。単球系抗原CD14、CD64は通常は陰性。CD7は20-30%で陽性、CD2、CD4、
CD19、CD56が稀に陽性となります。特異的な染色体異常、遺伝子異常は見られませ
ん。

C急性骨髄単球性白血病(acute myeloid and monocytic leukaemia)
 急性骨髄単球性白血病は顆粒球系と単球系の両方に分化しうる前駆細胞段階で白血
病化したものでFAB分類ではM4に当たります。芽球は骨髄有核細胞の20%以上を占
め、顆粒球系細胞と単球系細胞が骨髄有核細胞はそれぞれ20%以上見られます。末
梢血では単球数が5000/μl以上に増加しております。
 50歳以上の高齢者に多く、急性骨髄性白血病中15-20%を占めます。症状としては歯
肉、皮膚への浸潤、肝脾腫大、中枢神経浸潤を多く認めます。予後は中間〜不良とされ
ます。
 本病型で見られる芽球はギムザ染色のみでは未分化型AMLと分化型AMLの芽球と区
別することが困難です。細胞化学的に単球系細胞が染色(赤茶色)される非特異的エス
テラーゼ染色(ブチレートエステラーゼ染色)顆粒球系細胞が染色(青色)されるクロロ
アセテートエステラーゼ染色による二重染色が本病型の診断に有用です。顆粒球系芽
球は比較的大型、核/細胞質比の大きく、核網繊細、核小体を数個認めます。単球系芽
球は広い胞体を有し、核は円形、核網はレース状に繊細、やや分化した前単球では核
縁は切れ込み、胞体は弱い好塩基性を示し、顆粒状に染色されることがあります。単芽
球はしばしば骨髄に比較して末梢血ではより分化している像を呈します。単芽球はペル
オキシダーゼ染色陰性であることがしばしば認められますが、非特異的エステラーゼ染
色は陽性となります。非特異的エステラーゼ染色は巨核芽球、赤芽球で陽性となること
があり、この場合にはNaF抑制試験で非特異的エステラーゼ染色が陰性化していること
を確認する必要があります。稀に非特異的エステラーゼ染色が陰性となることがあり、こ
の場合には尿中・血中リゾチーム高値、細胞表面抗原分析により単球系芽球を証明す
る必要があります。細胞表面抗原分析ではCD13、CD15、CD33、CD65などの骨髄系抗
原、CD14、CD4、CD11b、CD64、CD36、CD68、CD163などの単球系抗原が陽性となり
ます。CD117、CD34、CD7は時に陽性を示します。染色体検査は様々な異常が認めら
れ、一定の傾向はありません。

D急性単芽球性白血病・急性単球性白血病(acute monoblastic and monocytic
leukaemia)
 FAB分類M5に相当し、単芽球が多数を占めるものを未分化型(M5b)、より分化した
単球が増加しているものを分化型(M5b)としていました。顆粒球系は20%未満であり、
骨髄有核細胞の80%を単球系細胞が占めます。急性単芽球性白血病は急性骨髄性白
血病の5-7%を占め、比較的若年層に多い傾向があります。急性単球性白血病は5%を
占め、発症年齢の中央値は約50歳です。急性骨髄単球性白血病と同様に歯肉、皮膚、
肝脾、中枢神経などへの浸潤(髄外浸潤)、腫瘤形成が多く見られます。播種性血管内
凝固症候群の合併が多く見られます。
 単芽球は比較的大型、核は円形、繊細な核網、明瞭な核小体を有します。胞体は青
染性を示し、豊富で微細なアズール顆粒を少数有し、空胞も認められます。時に偽足様
形態が見られます。アウエル小体を有することは稀です。急性単球性白血病で多く認め
られる前単球は偽足様突起物が目立ち、核縁は切れ込み、胞体の好塩基性も弱く、顆
粒状となり、やや粗大なアズール顆粒、空胞が目立ちます。細胞化学的にはペルオキシ
ダーゼ染色は単芽球で陰性、前単球で軽度陽性であることが多く、非特異的エステラー
ゼ染色は単芽球、前単球ともに陽性ですが、単芽球には陰性、弱陽性の細胞が見られ
ることがあり注意を要します。細胞抗原分析ではCD13、CD33、CD15、CD65などの顆
粒球系抗原に加えて、CD4、CD14、CD11b、CD11c、CD64、CD68、CD36、リゾチーム
などの単球系抗原が陽性となります。 CD34は約30%に陽性、CD117、HLA-DRについ
ては多くは陽性となります。単球系抗原のうち、CD14は単芽球で陰性となることがありま
す。染色体検査で一定の傾向はありませんが、t(8;16)(p11.2;p13.3)では血球貪食症候
群の合併が多いことが報告されています。

E急性赤白血病(acute erythroid leukaemia)
 FAB分類ではM6に相当し、骨髄有核細胞の50%以上が赤芽球で、かつ赤芽球以外の
細胞の20%以上を芽球が占めます。この芽球が20%未満の場合には骨髄異形成症候
群に分類されます。未分化型純粋赤血病は骨髄有核細胞の80%以上が中型-大型の
赤芽球系の幼若細胞で占められ、骨髄系幼若細胞は少数です。赤白血病はde novo型
と骨髄異形成症候群から二次的に移行する場合があります。また稀に骨髄増殖性腫瘍
から移行する場合があります。赤白血病は急性骨髄性白血病の中でも予後不良として
報告されており、中でも複雑な異常核型をとる場合には予後不良となります。分化型赤
白血病では各分化段階の赤芽球が存在、特に未分化な細胞、巨赤芽球様核、多核の
細胞など形態異常が認められます。骨髄は過形成性で、芽球は顆粒形成に乏しく、稀に
アウエル小体を有し、成熟好中球、巨核球の形態異常もしばしば認められます。芽球は
ペルオキシダーゼ染色、クロロアセテートエステラーゼ染色、スダンブラック染色陽性と
なります。赤芽球はPAS染色(periodic acid-Schiff染色)では細胞質が粗大顆粒状あ
るいはびまん性に染色されます。鉄染色で環状鉄芽球が認める場合があります。未分
化型純赤白血病は中型から大型の赤芽球系幼若細胞で占められ、骨髄系幼若細胞は
少数です。細胞質は青染性、顆粒形成には乏しく、時に空胞を有します。ペルオキシダ
ーゼ染色、スダンブラック染色では陰性の事が多く、クロロアセテートエステラーゼ染
色、パス染色が陽性を示します。細胞表面抗原分析では赤芽球はCD13、CD33は通常
陰性、抗MPO抗体による胞体染色も陰性、抗グリコフォリン抗体、抗ヘモグロビンA抗体
による染色は陽性となる。芽球は未分化、分化型AMLと同様のパターンとなります。純
粋赤白血病では芽球はグリコフォリン、ヘモグロビンA陽性、骨髄抗原は陰性となりま
す。HLA-DR、CD34は陰性、CD117が時に陽性となります。染色体は多様な異常を認
めます(5番染色体、7番染色体の変異や欠損、トリソミー8)。-5/del(5q)、-7/del(7q)で
は骨髄異形成関連の変化を伴う急性骨髄性白血病に分類されることがあります。

F急性巨核芽球性白血病(acute megakaryoblastic leukaemia)
 巨核球系の形質を持つ芽球が増加する急性骨髄性白血病であり、FAB分類ではM7に
相当します。芽球が20%以上を占める急性白血病のうち、芽球の50%以上に巨核球系
の形質を認めるものと定義されます。ダウン症候群に関連した急性巨核芽球性白血
病、t(1;22)(p13;q13)、inv(3)(q21q26.2)、t(3;3)(q21;q26.2)などの染色体異常が認めら
れる症例は本疾患群より除外されます。本疾患の急性骨髄性白血病に占める割合は
5%未満と低く、FAB分類を用いた報告では約1%とされています。他の急性白血病と同
様に血球減少による症状を呈することが多いですが、時に血小板増多を示すことがあり
ます。若年成人男性では縦隔の胚細胞腫瘍との関連性が知られています。化学療法に
よる寛解率は43-50%であり、また生存期間中央値は4.5-10.4ヶ月と予後不良です。巨
核芽球は中型-大型(12-18μm)で好塩基性の細胞質を持ち顆粒に乏しい。ブレブや偽
足が認めることがあります。また小型でN/C高のリンパ芽球様の細胞形態を示すことが
あります。細胞化学的にはスダンブラック、クロロアセテートエステラーゼ染色、ミエロペ
ルオキシダーゼ染色陰性、パス染色、酸ホスファターゼ染色、ブチレートエステラーゼ染
色が陽性になることがあります。細胞抗原分析では血小板糖蛋白であるCD41、CD61の
どちらかあるいは両方を発現し、成熟した血小板関連抗原であるCD42は発現していな
いこと多いと報告されています。骨髄系抗原CD13、CD33が陽性になることもあります。
ミエロペルオキシダーゼ染色陰性、リンパ系抗原はTdTを含め陰性ですが、CD7が陽性
となることがあります。

G急性好塩基球性白血病(acute basophilic leukaemia)
 主として好塩基球への分化傾向を認める急性骨髄性白血病です。t(6;9)(p23;q34)を伴
う急性骨髄性白血病や好塩基球増加を認める慢性骨髄性白血病は含まれません。好
塩基球が産生するヒスタミンによる皮疹、胃腸障害が臨床症状として認められることが
あります。非常に稀な疾患であり、予後については明らかではありません(一般的には
予後不良と考えられています)。成熟した好塩基球は少なく、芽球の細胞質には粗い好
塩基性顆粒を認め、この顆粒はトルイジンブルー染色で異染性を示します。鑑別すべき
疾患として肥満細胞性白血病が挙げられますが、光学顕微鏡レベルではその鑑別は困
難とされています。細胞表面抗原分析ではCD13、CD33、CD117、HLA-DR陽性例が多
いようです。

H骨髄線維症を伴う急性汎骨髄症(acute panmyelosis with myelofibrosis)
 過去、急性骨髄線維症と呼ばれていた急速な汎血球減少、骨髄線維化を示す予後不
良な疾患です(急性骨髄性白血病の1%以下)。臨床症状として発熱、骨痛が見られま
すが脾腫は軽度です。化学療法に抵抗性を示し、予後不良な疾患です。骨髄穿刺では
吸引不能(ドライタップ)の事が多く、診断には骨髄生検が必要となります。生検組織は
びまん性に線維化した間質の中に赤芽球系、顆粒球系、巨核球が増加しています。圧
倒的な芽球の増加は認められず20-30%程度とされています。表面抗原分析はドライタ
ップであり、末梢血に認められる場合に限られますが、CD13、CD33、CD117、CD34が
陽性であり、MPOは通常陰性となります。複雑核型、-5/del(5q)、-7/del(7q)染色体異
常が認められた場合には骨髄異形成変化を伴うAMLに分類されます。

(5)骨髄肉腫
 同義語としては緑色腫(chloroma)、顆粒球肉腫(granulocytic sarcoma)、髄外性骨
髄性腫瘤(extramedullary myeloid tumor)があります。骨髄以外の部位に発生する骨
髄芽球由来の腫瘤です。急性白血病の浸潤により腫瘤を形成するものは含まれませ
ん。発症部位としては皮膚、リンパ節、消化管、骨、軟部組織、睾丸にやや多く、多発す
る場合もあります。男性に多く(男女比1.2:1)、発症年齢中央値は56歳と報告されていま
す。

(6)ダウン症候群関連骨髄増殖症
@一過性異常骨髄症
 一過性異常骨髄造血(TAM)は巨核芽球性芽球がダウン症候群新生児の末梢血、肝
臓などで増殖し、臨床的および形態学的に急性骨髄性白血病と鑑別できない状態を呈
した後、数週から3ヶ月の間に自然寛解する特殊な病態です。赤血球、巨核球の発生・
分化に不可欠な転写因子であるGATA1の変異をほぼ全例に認めます。
頻度はダウン症候群の約10%と報告されています。出生後早期より出血傾向、肝脾
腫、呼吸障害、黄疸などを生じます。血液学的には軽度の血小板減少、著明な白血球
増多が見られ、末梢血>骨髄に芽球が認められます。芽球が産生するサイトカインに起
因すると考えられる様々な症状を呈し、肝腫大が進行すると肝線維症、肝不全となりま
す。胸水、心嚢液、腹水、凝固障害、心不全、過粘稠症候群、脾壊死などを合併しま
す。約80%の症例は数週間から3ヶ月で自然寛解しますが、約20%は早期死亡に至り
ます。死因として肝不全、腎不全、呼吸循環不全、凝固障害などで診断時の白血球数が
10万以上および早期産児が早期死亡のリスク因子に挙げられています。事前寛解した
例の25%(TAM全体の20%程度)が4歳までに骨髄異形成症候群を経て、急性巨核芽
球性白血病を発症しますが、その発症を予測可能な因子は現在のところ判明しておりま
せん。
 芽球は赤芽球・巨核芽球胸痛前駆細胞由来と考えられています。芽球細胞質は好塩
基性で粗造な好塩基性顆粒とblebと呼ばれる細胞特記を有します。骨髄では赤芽球系
と巨核球系の細胞の形態異常を認めることがあります。細胞表面抗原分析ではCD34、
CD56、CD117、CD13、CD33、CD7、CD41、CD42、CD61などが陽性となります。


Aダウン症候群関連骨髄性白血病
 ダウン症候群の小児は非ダウン症候群児の10-20倍の頻度で白血病を発症します。
特に生後4年間は急性骨髄性白血病の発症頻度が高く、小児急性骨髄性白血病/骨髄
異形成症候群の10-20%がダウン症候群児であると報告されています。特に急性巨核
芽球性白血病が多く、非ダウン症候群児の約500倍の頻度で発症します。その発症の
40-50%は一過性異常骨髄造血の既往が認められます。芽球比率で骨髄異形成症候
群、急性骨髄性白血病を区別する意義はなく、治療に対する反応性が極めて良好であ
ること、赤血球・巨核球の発生・分化に不可欠な転写因子であるGAT1の変異がほぼ全
例に見られます。
 大部分は4歳までに発症、好中球減少の合併は少なく、発症時は血小板減少、次第に
貧血を伴うようになります。多系統の異形成が見られ、芽球比率が20%未満に留まる骨
髄異形成症候群を経て、12ヶ月以内に白血病化することが多く見られます。治療時期は
出血や貧血に対して繰り返して輸血を要する時が治療開始時期として適切であると報告
されています。Kudoらは中等度キロサイド療法を中心とした治療法により寛解導入率
97%、4年無イベント再発率が83%と良好な成績を報告しています。
 形態異常は白血病化する前より認められます(赤芽球の巨赤芽球性変化、多核化、
巨大血小板等)。芽球は円形-やや不整で、好塩基性の細胞質を有し、粗造な顆粒、
blebを有します。しばしば骨髄において細網線維が増加、dry tapであることが多く、骨
髄生検が必要となります。細胞表面抗原はTAMと同様ですが、赤芽球系形質であるグリ
コフォリンA(CD235a)を有することがあります。

(7)芽球形質細胞樹状細胞腫瘍
 形質細胞様樹状細胞の前駆細胞由来の腫瘍です。樹状細胞には骨髄系前駆細胞を
起源とするものとリンパ系前駆細胞を起源とするものがあり、本疾患はリンパ系前駆細
胞を起源とするplasmacytoid dendritic cellの前駆細胞が腫瘍化したものと考えられて
います。同義語としてはblastic NK cell lymphoma、blastic NK cell leukemia、
agranular CD4+ NK cell leukemia、CD4+CD56+ hematodermic neoplasmが挙げられ
ます。すべての年齢で発症しますが、60歳以上の男性に多く認められます。大多数の症
例に皮膚病変が見られ、骨髄、末梢血浸潤(60-90%)、リンパ節浸潤(40-50%)が認
められます。皮膚病変は孤立性、多発性に結節性、腫瘤性病変であり、潰瘍化は稀とさ
れます。腫瘍細胞は繊細な核網、中型の核、細胞質は比較的豊富であり、アズール顆
粒は目立ちません。細胞表面形質はCD4+、CD43+、CD56+、EBウイルス(EBER-1)は
陰性、T細胞由来ではないのでT細胞受容体は陰性です。病勢は急速に進行、化学療法
に抵抗性を有し、予後不良な疾患です。

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