RESEARCH

Main Research

当教室における研究は,より実務に則した客観性のある精度の高い死因・障害診断技術の確立や,検死・剖検所見の評価や説明のために資するデータの収集と分析を行うことが最も重要であると考えます.

これまでに,当教室は,

  • 「中枢神経系・内分泌系器官の形態学的および分子生物学的研究-ストレス診断の客観的評価に関する包括的検討-」
  • 「エビデンスに基づく客観的な法医病理診断のための生理生化学検査」

の2つを主要研究テーマとして掲げ,法医学全般に亘る実務主体の研究を行ってきています.

 

I. 法医解剖データの多角的統計分析

概要:法医解剖は外因死や突然死のように広く社会・法的問題を孕む“異状死”について死亡の原因と経過,関与した基礎疾患や合併症などを明らかにするために行われることから,多くの症例では病歴や死亡状況に関する情報に乏しく,その情報の有無に関わらず客観的根拠に基づく評価が求められる.

従来は形態学的所見に大きく依存した診断が行われてきたが,当教室では臨床診断に利用されている種々のバイオマーカーを積極的に剖検診断に適用するとともに,種々の死因による死亡過程に関する分子生物学的分析を行い,診断精度の向上に努めてきた.

その結果,個々の症例に関する法医学的診断を通じ,傷病予防と社会的危機管理のために重要なデータが蓄積されてきている.それらの剖検データを統計学的に分析して公表することにより,1.法医剖検診断精度向上,2.傷病予防および3.犯罪・災害防止に役立つ資料を提供できる。また,データ分析の経過を追って,その都度,当教室の剖検例の鑑定結果にも反映される。

 

II. 法医剖検例の死後CT画像データを用いた死亡過程の病態分析

概要:死後画像検査は病変の局在や位置関係を理解するために有用で,剖検前スクリーニングとして用いられる.また,その検査データをもとに作成した再構成画像は,刑事・民事事件の鑑定資料として傷病や成傷機転の説明にも利用可能である.

特に,死後CT画像の大きな利点は,解剖前の体腔内諸臓器の状態をそのままより詳細に観察できることであり,そのデータを用いて諸臓器の体積,推定重量,さらにはCT値の分布などについて検討できる.

当教室では,剖検例の死後CTデータにおける心臓・肺・脳の体積推定や肺の含気量・含気率,大血管の扁平化率等の種々の指標を用いて,死亡時の呼吸・循環病態の分析や脳浮腫等の定量的評価について検討している.

死後CTデータを用いた心臓,肺,脳や胸・腹部大血管などの形態定量分析は,剖検所見と併せて評価することで死亡過程における心・肺・中枢神経機能評価等の病態分析に役立てている.

 

III. 脳浮腫の進行におけるバソプレシンの役割と重症度評価への応用

概要:本研究の目的は脳血管障害,頭部外傷,呼吸障害や各種中毒,代謝障害など,あらゆる要素で発症する脳浮腫の病態生理を研究し,脳浮腫の進行におけるバソプレシンの役割と脳浮腫の重症度評価に役立てることである.利尿を抑制するホルモンである“バソプレシン”が神経細胞保護に関わることが明らかとなってきている.

バソプレシンの法医診断上の意義を明らかにするべく,脳内のバソプレシンについて免疫組織学的手法および生化学的手法を用い,その変化について検討,更に血中および脳脊髄液中のバソプレシン濃度の変化についても形態学的変化と比較しながら検討を行い,脳浮腫の進行におけるバソプレシンの役割と脳浮腫の重症度評価への応用について検討を行う.

 

IV. 個人の遺伝的要因に基づいた薬物中毒死のリスク評価

中毒関連死では特異的病理所見に乏しいため,その診断は中毒学的検査結果に大きく依存している.しかしながら,薬物乱用者や遷延死例では必ずしも確定的な中毒学所見が得られるとは限らない.治療濃度域でも致死的な副作用が生じることがあり,死因診断に苦慮する場合がある.

当教室ではこれまで全剖検例についてルーチンに病理学的検査・中毒学的検査・生化学的検査を行い,アルコール中毒,覚せい剤や向精神薬などの薬物中毒における病理所見と生化学データを照合・分析してきた.

その結果,系統的な生化学検査によって薬物中毒・関連死の病像の一端が明らかになり,いわゆる横紋筋融解症などの“機能死”における全身障害あるいは熱中症や凍死などの種々の外因死や突然死における死亡過程との相違が明らかとなってきた.

しかしながら,薬物中毒者が持つ個体の内的要因については,病理学的検査や生化学的検査のみでは限界があるように思われる.そこで,当教室では,薬物中毒関連死亡例における薬物動態関連遺伝子の解析を行い,死因究明の確立と,薬物関連死亡例における病態生理について遺伝子学的観点から検討している.

 

V. 法医剖検例における膵臓被膜下および間質内出血の意義と膵臓関連ホルモンの動態について

概要:本研究の目的は,「法医剖検例における膵臓被膜下および間質内出血の意義と膵臓関連ホルモンの動態について」調査することにある.法医剖検例において,肉眼的に膵臓の実質傷害を伴わない間質内出血を観察することがある.

当教室では,膵臓の被膜下ならびに間質内出血の意義について,外分泌および内分泌ホルモンとの関連性を中心に低酸素虚血の観点から系統立てて調査することとした.本研究の結果は, 法医学分野における窒息死診断上の意義のみならず,低酸素・虚血状態における膵臓病態生理の基礎的資料となることが期待される.

 

VI.犯罪・事故被害者遺族の精神的心理的支援のためのアンケート調査

概要:公益と公共の福祉を主たる目的とする法医解剖では,被解剖者と遺族に対する最大限の敬意と配慮が必要で,そのために先見的に目に見える方策を講じる必要がある.

一方,現今,犯罪・事故被害者の遺族の精神心理的支援が社会的課題の1つとなっている.本申請にかかる研究では,被害者遺族の精神心理的支援の方策を探るためのデータ収集を目的として,被害者死亡後の遺族らの生活状況や精神心理的状態について無記名アンケート調査を行う.

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