研究紹介 |
1.研究概要分子制御生物学は、研究スタッフ(井上 晃)の培ってきた研究に即して開設されました。すなわち、高等生物細胞における遺伝子発現の転写ならびに転写後の制御を研究してきましたが、転写レベルの制御では、現在多くの人々が研究対象とする遺伝子発現の普遍的リプレッサー、ヒストン・デアセチラーゼ、を発見しそう命名しました。また、細胞核の転写活性と核タンパク質リン酸化反応の相関性や、転写因子である甲状腺ホルモン受容体の長鎖脂肪酸による抑制性の調節作用を明らかにしてきました。現在は RNA のプロセッシングや代謝を制御する多機能性のS1タンパク質群 を見出し研究しています。その1つ、 S1-1タンパク質 は発がんへの相関性がつよく示唆される新規のがん関連遺伝子としてこれを検証しています。 |
2.研究テーマ遺伝子の発現過程における転写制御と転写後の制御について研究しています。目下の研究テーマは、転写および転写後制御の両過程に働くS1タンパク質 A - D、および新規がん危険遺伝子候補 S1-1タンパク質です。S1-1 タンパク質の研究では、これをもとに 2008 年の日本分子生物学会・生化学会合同年会 (12 月、神戸 ) のシンポジウム「細胞核内ドメイン構造とその生物学的役割 」をオーガナイズしています。 |
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3.共同研究 |
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S1 タンパク質研究の展開をうけて、学外との共同研究を行っています。
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S1-fibers |
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4.S1 タンパク質細くて極めて長い DNA はさまざまなタンパク質と会合して巨大なクロマチンと呼ぶ複合体を形成し、細胞核に納められています。細胞分裂期にクロマチンは高度に折りたたまれて染色体となります。遺伝子が作用を現わす( = 転写・発現している)クロマチン部分は、構造修飾を受けて伸張した構造を取らねばなりません。 S1 タンパク質は、この転写活性クロマチンの構造解析中に発見したものでした。単離細胞核を穏やかに DNase I で処理して転写活性クロマチンを選択的に消化・細断化し、遊離したクロマチン断片を調べると、 pH 4.9 ではタンパク質の大部分が沈澱する一方、上清に選択的に残る新規タンパク質群がありました。そこでこれらを S1 タンパク質 A - D と命名しました( 1983 年)。 |
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S1 タンパク質群 cDNAs の特異抗体を用いたクローニング中に、新しいタンパク質の cDNA を単離し、 S1-1 と命名しました(1996 年)。 S1-1 は、 RNA 結合タンパク質でアポトーシスを抑制します。また分子内の 5 ケ所には既知転写因子群によく似た部分アミノ酸配列をもつという特徴があります(下図参)。 NCBI は、 アミノ酸残基の 51% が S1-1 と同じである肺がん抑制遺伝子産物の LUCA15 を RBM5 、 S1-1 を RBM10 としてデータベース化しています。 |
転写因子に類似した5つの配列 (同一aa/類似aa)
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