大阪公立大学大学院医学研究科
整形外科学Dept. of Orthopedic Surgery, Osaka Metropolitan University Graduate School of Medicine

第5代 高岡邦夫 教授

整形かわら版 No.57(平成14年8月31日発行)より

4月1日付で山野慶樹教授の後任として当整形外科学教室に着任しました。任について日も浅いために、今は教室が置かれている状況や教室員の研究内容などの把握に努めています。教室員の研修でお世話になっている関連病院の先生方とのお付き合いもこれからというところです。当面は円滑な教室運営を目指して組織作りに努力する所存です。大阪市立大学整形外科の熱意ある教室員たちと協力して新しい時代にふさわしい整形外科学教室へと発展させたいものです。

整形外科学は他の分野同様に専門細分化、同時にグローバル化、学際化も進行しています。生命科学技術、情報技術が加速度的に発達し、医学に応用されているからです。最小侵襲手術、コンピューター支援手術(computer navigation surgery, robotic surgery、telesurgery など)遺伝子診断、遺伝子治療サイトカイン療法、組織再生工学などが整形外科でも近未来的に普及してくるでしょう。このような新しい整形外科医療を取り入れ、またその開発に参加することが大学の整形外科教室での大きな役割となっていると思っています。大阪市立大学医学部整形外科学教室の伝統を基礎に高度かつ個性的な教室にすることが目標です。そのためには最新の科学に精通し創造的意思をもって学際的協力に心がけて精進しなくてはなりません。各個人が整形外科の将来をしっかり見据え、目的が明白な基礎的、臨床的研究をすすめて専門度を高めることが必要です。しかし整形外科医として専門度を深める余り他領域への関心がうすれ、医学全体への視野が狭くなりやすいことに留意すべきです。他の専門領域との交流につとめることで専門化細分化された整形外科を統合的にみる努力を忘れてはならないと思います。大阪市立大学整形外科教室が、新しい時代に対応した個性ある教室へ発展することを目標にしたいと考えています。

整形外科でも習得すべき知識や技術が増加してきています。それらを能率的に習得できるように卒後研修システムにも手を加えたいと思っています。研修は多くの経験と論理的思考の積み重ねによって効果的になるはずです。したがって経験豊かで教育熱心な指導医のもとできるだけ短期間におおくの症例を経験できるようなシステムを工夫してみたいと思います。そのために若い研修医には所を選ばず、全国規模で新しい技術がある施設、症例が多い研修施設に出向けるようにできればと考えています。新しい技術を体得した多くの優れた整形外科医を能率よく育成し、教室の関連病院の活性化に寄与することも大学の大きな使命と考えるからです。

教室のみならず、医学部を取り巻く環境が大きく変化していることも大いに考慮しなくてはなりません。「21世紀COEプログラム」のもとに、国による全国医学部のランク付けが行われようとしており、大学間の競争的環境が厳しくなっています。医学部の管理運営組織改革状況、人事制度改革、教育システム改革の推進状況の点検などとともに、各医学部の研究業績評価とその結果に基づいた重点的資源(研究費)配布が次年度から行われます。当医学部も他大学の後塵を拝することのないよう努力しなくてはなりません。教室員一同その気になっております。同門諸氏のご理解ご協力をお願いする次第です。

整形かわら版 No.58(平成14年12月20日発行)より

2002年は近年になく様々な変化の大きな年でした。変革の根源は日本がおかれている経済的政治的な状況の困難さであろうと思います。日本の産業経済低迷に由来する国家、地方自治体財政の逼迫から波及して医療制度や医学教育にまで影響が及んできた構図は同門各位には既にお気づきと思います。またこの経済低迷の原因は日本人がこれまで得意としてきた新しい知的産業が枯渇しているためと言われます。われわれの世代でも初めて経験するデフレ経済は只者ではないように感じられます。発展途上国といわれてきたアジア諸国に既存産業がシフトして従来型の産業が空洞化したためといわれます。復活のための新しい知的産業の模索が現政府の大きな課題となり、医学領域でも新産業創生に向けての圧力が強くなってきています。21世紀はバイオサイエンス関連産業が発展すると早くから予測されてきたにもかかわらず、日本の研究推進策の立ち遅れから、アメリカなどの先進国に大きく水をあけられてしまった焦りがひしひしと感じられます。資源に乏しい日本が国際的競争を制しながら経済的発展を維持するためには科学技術に頼らざるを得ないことは自明の理ですが、そこに遅れが出ていることは一種の国難ともいえるでしょう。文部科学省でも一つの対策としてCOEプログラム(トップ30構想)と称される大学の高度化、層別化をはじめています。今年は全国の医学部が評価されます。市大医学部もその対策を進めていますが、これに選ばれるかどうか今後の医学部の発展に大きく影響するでしょう。市大医学部全体が高度化、個性化しなければ競争に勝ち残れないわけです。整形外科教室も従来の運営様式にとらわれることなく意識改革して医学部の発展に協力しなければなりません。皆で知恵を絞って新しい研究テーマを作り、実績をあげる努力を怠らないよう教室員一同気を引き締めています。

新しい時代、新しい医学に対応して市大整形外科をさらに発展させることを目指して、来年は医局の運営システム、人事の方針、研究体制、研修体制を刷新して見たいと考えています。目標は若い後輩たちが診療、研究に存分に能力を発揮し、大きく成長してもらうことです。平成16年からはじまる2年間の卒後研修の義務化にともなう研修体制の整備も急務となってきました。その内容については未だ明確でないところもあり、また制度としてやや無理なところもあって、効果的な研修システムとなるかどうかは疑問ですが、試行していかざるを得ない状況です。その運営にあたっては大学病院だけではとても無理で、関連病院、同門の先生方にも協力が必須となっています。是非ご協力ください。これも教室、同門会共通の来年の大きな課題と思っています。

最後になりましたが、来年も同門諸氏の更なる発展の年となること祈念いたします。

整形かわら版 No.59(平成15年4月15日発行)より

中東、東アジアの国際情勢の悪化、長引くデフレ不況と国の内外で危機的困難が続いています。敗戦後の平和憲法の下での平和ボケから醒めるのによい機会との声も聞かれます。すべてにグローバル化が進む中、国際社会での普通の国としての独立心、自己責任を回復すべきときなのです。奇跡的な経済復興と繁栄のみを体験してきた世代の一人として、今回は経験のない構造的経済危機とのことであり、今後どうなるのか不安である。国民の底力が試されるときではないかと思います。長い平和、自虐的史観、経済的繁栄の下で育ってきた若い世代の諸君には、この厳しい環境を乗り越えるために、今一度、愛国心、家族愛、組織に対する忠誠心、自己の勇気、勤勉さについての自己再評価をしてみてはいかがでしょうか。連日マスメディアが報ずる諸事象を見ていると明らかに治安が悪化し、モラル低下していると見てよいでしょう。こんなことでこの国は本当に立ち直れるのかやや不安に思うのは私だけではないはずです。忠実、勤勉で忍耐強い古来の国民性の回復と鼓舞を期待したいものです。

医療保険制度、医学教育制度、科学研究システムいずれもおおきく変化しつつあります。大学病院ではこの春から包括医療に移行します。また2年間の卒後義務研修も始まるようです。この夏には医学系研究機関のCOE選定が行われます。このような様々な変化に大学として医学部として、また整形外科教室としても間違わずに対応しなければなりません。診療はもちろんとして教育、研究の活性化、高度化に邁進しなければ社会からの評価維持ができません。同門の若いみなさんの努力に期待しています。

教室でも昨今の医療技術の高度化に対応して新しい技術をできるだけ早く取り入れ、関連病院、同門諸氏に普及させる努力を始めたいと思っています。すでに教室ではマイクロサージャリーや内視鏡手術が行われていますが、さらにコンピューター支援ナビゲーション手術も取り入れます。手術の安全性を高め、正確な手術をするための新しい技術です。現在のところは脊椎手術、膝関節手術で利用予定です。このような技術を普及させるには研修システムが必要です。研究室に訓練用の機材をいれ、誰でもトレーニングできるようにします。また市大整形外科が得意とするマイクロサージャリーの練習を関連病院の若い人たちのために定期的に行うことにしています。奮って参加してください。

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