近畿先天代謝異常症研究会 事務局
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最新更新日 2023.5.24

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研究会からのお知らせ
研究会抄録集 事務局・その他

<特別講演>

 

「タンデムマス・スクリーニングの対象疾患とその特徴」

福井大学医学部 看護学科

重松 陽介 先生


 先天性有機酸代謝異常症、脂肪酸酸化異常症、および一部のアミノ酸代謝異常症については、新生児期濾紙血中のアシルカルニチンとアミノ酸をタンデム質量分析計で分析することによりスクリーニング出来る疾患が存在する。このような疾患の病態や治療法の研究が進む中で、突然死とか急性発症後の神経学的予後の悪さが注目され、早期治療を目指して新生児マススクリーニングシステムの整備が進められている。また、その一方で、不幸な転帰を経験した家族からは医療関係者のこれらの疾患への理解の不足を指摘する動きもある。
しかし、これらの疾患の臨床症状は多様である。同じ疾患名であっても、新生児期に急性発症する重症型から、環境条件によっては一生発症することが無いと考えられる最軽症型まである。
最軽症型はプロピオン酸血症やイソ吉草酸血症で知られており、特にわが国においてはこの型のプロピオン酸血症患者がスクリーニングで多く見つかっている。飢餓遷延時に重篤な神経学的後遺症を残した症例や心筋症合併例も知られていることから、慎重な対応が必要と思われる。
重症例の治療は困難である場合が多く、スクリーニングの有用性は少ないように見えるが、例えば、新生児期急性発症で死亡した場合でも、スクリーニングで診断が得られれば、その後の対応のための重要な情報となる。移植医療なども視野に入れた対応も望まれる。
一方で、これらの対象疾患の頻度は極めて稀であり、早期発見・早期医療介入の効果の実証は短期間では困難という事情もある。
突然死がキーワードである脂肪酸酸化異常症のスクリーニングについては、採血時期と精密検査法に関し、少し問題がある。脂肪酸酸化異常症の代名詞でもある中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症のわが国における頻度は、フェニルケトン尿症と同様かそれ以上に、欧米と比べ低いと考えられている。一方、アメリカのタンデムマス・スクリーニングで発見された日本人患者が希でなく存在する。わが国のスクリーニング用採血は、脂肪酸異化亢進がおさまりスクリーニング指標が陽性になりにくいいような遅い時期に行われていることが1つの原因として考えられる。また、陽性になったとしても、再採血検査を繰り返すことで更に偽陰性となってしまうおそれがある。これらの採血時期や精密検査法については改善・改良が試みられている。
複数の対象疾患のスクリーニング指標が同一であるため、その内のある特定の疾患は対象疾患から外すという作業が困難となることがある。C5OHアシルカルニチンを指標としてスクリーニングする5つの有機酸代謝異常症の内、3-ケトチオラーゼ欠損症は偽陰性が多く対象疾患として適切でないように見えるが、どちらにしても尿有機酸分析により化学診断する。また、3メチルクロトニル-CoAカルボキシラーゼ欠損症の母親がスクリーニングされてくるので、精密検査としての尿有機酸分析実施には親の同意が必要である。
新生児への一部の抗生剤投与は、イソ吉草酸血症スクリーニングの偽陽性率上昇の大きな原因になっている。二次検査法の開発により、再採血を必要とせず初回濾紙血での検査で対応できるようにしている。
希少疾患であるが故の治療薬の入手困難という事情もある。高チロシン血症1型は濾紙血中サクシニルアセトン定量によりスクリーニング可能であるが、治療薬であるNTBCは個人輸入に頼らざるを得ない。
以上、対象疾患とその特徴について、自験例を交えながら解説する。



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