氏名

吉川 貴仁 (Yoshikawa Takahiro)

大学院医学研究科・教授

最終学歴

大阪市立大学 大学院医学研究科 内科学専攻(医学博士)

資格

総合内科学会専門医、呼吸器学会専門医、呼吸器内視鏡学会専門医、アレルギー学会専門医、日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本臨床スポーツ医学会評議員、日本体力医学会評議員、日本アレルギー学会代議員、日本時間生物学会評議員、日本呼吸器学会代議員、日本障害者スポーツ協会認定障害者スポーツ医

現在の仕事

運動と

@食欲・習慣・肥満
A酸化/糖化産物・肥満
B免疫に関する研究

呼吸器疾患に関する研究

@遺伝子解析
A喘息危険群
B誘発喀痰解析

得意なこと

絵を描くことと、食べること

不得意なこと

スポーツ(観戦は好き)

好きな言葉 受容、感謝、柔軟性(いずれも難しいけど)

メールアドレス


2011年ECSS(リバプール)の口頭発表にて
2011年ECSS(リバプール)の口頭発表にて


<研究テーマ一覧>
・研究テーマ-1 : 【食・動・脳連関−食欲調節の内分泌系と脳神経活動に注目して】
・研究テーマ-2 : 【運動と糖化産物−AGEsに注目して】
・研究テーマ-3 : 【運動と免疫】
・研究テーマ-4 : 【気管支喘息予備群の若年者に関する研究】
・研究テーマ-5 : 【呼吸器疾患に関する遺伝子学的研究】
・研究テーマ-6 : 【誘発喀痰法を用いた呼吸器疾患の気道病態に関する研究】

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研究テーマ-1:【食・動・脳連関−食欲調節の内分泌系と脳神経活動に注目して】
 (大学院生の上田真也先生とともに)

 

運動  →  消化管ホルモン → 食欲 の可能性

『運動したらおなかが空く?案外、そうでもないみたい・・・』

 

発想のヒントは、自らの生活の反省と外来の患者さんから(食事と運動の相互関係) :

@ 病院の外来で肥満や糖尿病患者さんの生活指導をしていても <食欲や食習慣>をコントロールするのがいかに難しいかを実感します(私自身も患者さんのことを偉そうに言えません)。

・・・あなたも、思い当たることはありませんか?

・ コーラやソーダが大好きでやめられない糖尿病患者さん、
・ ご近所さんからの<もらいもの>は、残すと『もったいない』ので全部食べてしまう方、
・ 夕食のすぐ後に続けて、スナック菓子に手をのばしてしまう方、
・ ガツガツと一気に多量のものを食べてしまう方、など(早食い。大食い。“ビンジ・イーティング (Binge-eating) ”)


A 一方、このような肥満の方々にはエネルギー消費の目的で中等度レベルの有酸素運動を勧めます。

(身体に溜まったを燃やしましょう!)

 

B しかし、こうした減量目的の運動を行うことは、 <食欲>をかえって増してしまうのか、あるいは減らしてくれるのかは明確にはわかっていません。

ゴルフなどの運動のあとは ビールや食事がおいしいように…

 

C これまで、高強度運動では食欲不振の現象( exercise-induced anorexia )は報告されています(激しく運動したらゲッソリ食べられなくなる)。

 

D 最近、ある種のホルモン (物質) が、胃腸などの消化管から分泌されて、脳の食欲中枢に働き、 食欲調節に重要な役割を発揮することが認識されています。

たとえば、

食欲増進に働くグレリン(Ghrelin) というホルモン (胃袋が空のときに、脳に食べたいと思わせるホルモン)

食欲抑制に働くペプチド YY(PYY)グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)というホルモン (胃腸に食べ物が(十分)入ったときに、脳に <あぁ、もういいよ、食べなくてもと思わせるホルモン)

PYY には、いくつかの種類があり、 PYY1-36 、 PYY3-36 などがあります。これらの種類をまとめて、総(total) PYY とも呼びます。

また、 GLP-1 にもいくつかの種類があり、 GLP-1(7-36)amide 、や GLP-1(9-36) など多くの種類があります。

図 -1 食行動や食欲に関わりうる諸要因と消化管ホルモン

 

F そこで、現在、私の研究グループでは、種々の強度や種類の運動に伴う食欲や食事量の変化に、こういった 消化管ホルモン(食べたくなるホルモン、食べたくなくなるホルモン)の働きがどのように関わるかを検討しており、大学院生の上田先生とともに種々の知見を得ています。

 

さあ、説明を始めましょう。

 

  

これまで調べた結果

ポイント1. 高強度のみならず有酸素運動でも、 (肥満者でも、非肥満者と同様に)運動後の食欲・食事量を抑制させることを示すデータを得ています。



 

さらに、この食欲・食事量の抑制に、運動中に血液内へ分泌される食欲抑制型の消化管ホルモンが関わることが判明しました。

つまり、食欲抑制型の消化管ホルモンが多く出る人ほど、運動中の食欲や食事量は大きく落ちるようです

グラフで表すと以下のようになります。



 

備考

ポイント2. 消化管ホルモンの運動中の分泌量の変化に関して、運動強度別・種類別に興味深いデータを得ています。

 

 

一方、運動強度別にみた食欲抑制型の消化管ホルモン(PYYとGLP-1)に関する観察では、両ホルモンで異なる血中動態を認めました


 

 

これまで<食欲>について述べてきましたが、食欲というのはそんなに単純なものではありません。下に示すようにいろいろな<食欲>があります。

 


 

これまでの我々の研究は、上記のhungerに近いものかもしれません。しかし、本当に現代人にとってコントロールすべきなのは、hunger以外の部分かもしれません。

これらの食欲に対して運動がどのような役割を果たすかについて、今後もさらに検討していきます。

最近、新たに脳機能イメージング手法を用いて、上記の単なる<Hunger>を越えて、より高次の脳機能に関して広く検討しており、興味深いデータを得ています。

 

以上の結果におけるこれまでの代表的な報告や発表


欧文総説:

Yoshikawa T, Ueda S, Fujimoto S. Gut hormone and exercise - New perspectives for exercise-induced changes in appetite and energy balance. Jpn J Clin Physiol 2009; 39: 179-87. (Invited Review in English)
< http://www.meteo-intergate.com/journal/jsearch.php?jo=cc8jjapf&ye=2009&vo=39&issue=4 >

・ Yoshikawa T. (2011) 'Exercise-Eating Linkage' Mediated by Neuro-Endocrine Axis and the Relevance in Regulation of Appetite and Energy Balance for Prevention of Obesity. In: Gianluca Aimaretti with Paolo Marzullo and Flavia Prodam, editors. Update on Mechanisms of Hormone Action - Focus on Metabolism, Growth and Reproduction. InTech OPEN ACCESS.http://cdn.intechweb.org/pdfs/22057.pdf

Yoshikawa T, Fujimoto S. Association of appetite and energy balance with exercise through endocrine mechanism. J. Phys. Fitness. Sports Med. 2012: 1 (2); 211-7.

 

和文総説:

・吉川貴仁. 運動と食欲−消化管ホルモンからみた運動と食事のタイミング−(総説). 日本臨床スポーツ医学会誌. 2010; 18: 240-6.

 

原著論文:

Yoshikawa T, Tanaka M, Ishii A, Watanabe Y. Suppressive responses by visual food cues in postprandial activities of insular cortex as revealed by magnetoencephalography. Brain Res (online 2014.5.8.)(腹八分の食意欲の論文
< http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006899314005198 >

Yoshikawa T, Tanaka M, Ishii A, Fujimoto S, Watanabe Y. Neural regulatory mechanism of desire for food: revealed by magnetoencephalography. Brain Res 2014; 1543: 120-7.
< http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S000689931301500X >

Yoshikawa T, Tanaka M, Ishii A, Watanabe Y. Association of fatigue with emotional eating behavior and the response to mental stress in food intake in a young adult population.Behav Med 2013 (accepted).

Yoshikawa T, Tanaka M, Ishii A, Watanabe Y. Immediate neural responses of appetitive motives and its relationship with hedonic appetite and body weight as revealed by magnetoencephalography.Med Sci Monit 2013; 19: 631-40.
< http://www.medscimonit.com/abstract/index/idArt/889234 >

Yoshikawa T, Orita K, Watanabe Y, Tanaka M. Relationship between appetitive motives and non-exercise lifestyle in a young adult population. Med Sci Monit. 2013; 19: 289-94.
< http://www.medscimonit.com/abstract/index/idArt/883891 >

Yoshikawa T, Orita K, Watanabe Y, Tanaka M. Validation of the Japanese version of the Power of Food Scale in a young adult population. Psychol Rep 2012; 111(1): 253-65.
< http://www.amsciepub.com/doi/abs/10.2466/08.02.06.15.PR0.111.4.253-265?journalCode=pr0 >

Ueda S, Yoshikawa T, Katsura Y, Usui T, Fujimoto S. Comparable effects of moderate intensity exercise on changes in anorectic gut hormone levels and energy intake to high intensity exercise. J Endocrinol. 2009;203:357-64.
< http://joe.endocrinology-journals.org/cgi/content/abstract/203/3/357 >

Ueda S, Yoshikawa T, Katsura Y, Usui T, Nakao H, Fujimoto S, Changes in gut hormone levels and negative energy balance during aerobic exercise in obese young males. J Endocrinol. 2009 Apr;201:151-9.
< http://joe.endocrinology-journals.org/cgi/content/abstract/201/1/151 >

・ 上田真也, 吉川貴仁, 桂良寛, 臼井達矢, 外林大輔, 中雄勇人, 藤本繁夫. 肥満者における一過性の中等度運動が消化管ホルモンの分泌と食事摂取量に及ぼす影響. 肥満研究. 2009; 15: 69-74.

・上田真也、吉川貴仁、桂 良寛、中雄勇人、鈴木崇士、藤本繁夫.一過性の中等度運動が消化管ホルモンと食欲・エネルギー摂取量に及ぼす影響〜若年男性に関する症例検討〜関西臨床スポーツ医科学研究会誌. 2008;18:17-20.

 

国際学会発表:

Yoshikawa T, Ueda S. Usui T. Comparable effects of moderate intensity exercise on changes in anorectic gut hormone levels and energy intake to high intensity exercise. 第 16回ヨーロッパスポーツ科学会(ECSS)総会 口頭発表(2011 .7 .8)イギリス・リバプール

 

国内シンポジウムなど:

吉川貴仁 、藤本繁夫 運動と食事・消化管ホルモンの関係 第 45 回日本臨床生理学会総会 <シンポジウム 4. 生体機能に及ぼす運動と休養と栄養 > ( 2008.11. ) 東京

吉川貴仁 、藤本繁夫 運動と食事・消化管ホルモンの関係 第 20 回日本臨床スポーツ医学会総会 <シンポジウム . 生活習慣病対策としての運動と食事の関係 - 効率の良いタイミングについて> ( 2009.11. ) 神戸 < http://20rinspo.jtbcom.co.jp/program.html >

 

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研究テーマ-2:【運動と糖化産物−AGEsに注目して】

 

運動  →  糖化産物の変化 → 動脈硬化への影響 の可能性

 

<Advanced Glycation End-product(AGE)>とは、糖分とタンパク質、脂質、核酸などが化学反応(メイラード反応)を起こしてできるものです。3-デオキシグルコソン(3-DG)、Pentosidine、カルボキシメチルリジン(CML)、メチルグリオキサール(MG)などを初め、無数の化学物質が知られています。体内で、<AGE>は体内の高血糖や酸化ストレスが原因となって形成され、血管組織などに徐々に蓄積され、動脈硬化が進展すると考えられています。さらに肥満では生体内に酸化ストレス・耐糖能異常のような条件が重なるため、これらの物質がますます蓄積するように働きます体の中から発生するのみならず<AGE>は牛乳の加熱殺菌やベーカリー製品、コーヒー焙煎など加熱加工を含んだ食品の生成過程でも形成され、食事の際に体内に取り込まれます。

我々は、腹部肥満のリスクをもつ若年者から中高年まで対象者を広くとって、世代間を通した<AGE>の形成・蓄積動態と動脈硬化との関連を解析しています。さらに、こういった対象者の方々に種々の運動・食事指導を行い、<AGE>やアディポサイトカインを介して動脈硬化の進展にどのような影響を与えるのかを調べています。

<これまでの成果および展開>

@ 血液中の<AGE>のいくつかの成分は、糖尿病患者のみならず、肥満者(年齢を問わず)では体脂肪や食事に関連して異常が認められ、運動・栄養指導によりこれらの一部の異常が、変化・改善することを報告しています。

A 今後、これらの現象を動脈硬化の進行度合いとリンクさせて解析していく予定です。

とくに若年者に関して、動脈硬化と関連する<AGE>成分が、もし早期(若年層)から生体に蓄積され始めるならば、その個人の長い将来を考えると、すでに発病している患者群と同様(あるいはそれ以上に)深刻な問題になると考えられます。このような<AGE>蓄積予備群と予想される若年者を早期に発見して、運動と食事両面からその蓄積を防ぐことは動脈硬化進展の初期予防に重要であると考えます。

 

原著論文

Yoshikawa T, Miyazaki A, Fujimoto S. Decrease in serum levels of advanced glycation end-products by short-term lifestyle modification in non-diabetic middle-aged females. Med Sci Monit 2009;15:PH65-73.  < http://www.medscimonit.com/abstract/index/idArt/869663 >

 

国内シンポジウムなど:

吉川貴仁 . 持久運動による若年期からの肥満予防―糖化・酸化ストレスと最終糖化産物(AGE)との関連. デサントスポーツ科学 . 2008 ; 29: 38-45.

吉川貴仁、藤本繁夫、宮崎愛子 健常女性に対する運動介入が最終糖化産物(AGEs)に及ぼす影響. 第 54 回日本透析医学会学術集会<ワークショップ 7 透析患者に酸化的ストレスをどう抑えるか〜薬剤から運動まで>

 

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研究テーマ-3:運動と免疫(大学院生の臼井達矢先生とともに)

 

 

現代人の多くは、精神的・身体的ストレス(ストレッサー)となる様々な侵襲要因に対して、『戦う』か『逃げる』か( fight or flight )しながら日々を過ごしています。そのために、生体は 視床下部‐下垂体‐副腎皮質ホルモン系( HPA 系) 交感神経系( SA 系) を作動させ、コルチゾールなどのストレスに対応するホルモン(ストレスホルモン)を血中に放出します。その結果、生体には種々の影響が出てきます。

その一つとして、 激しい運動ストレスを強いられるアスリートでは、上気道感染に対して身体が弱くなる と報告されています。原因としては、免疫グロブリン A ( IgA )などの抗菌物質の減少など種々の免疫防御因子の変化が考えられていますが、 ストレスホルモンとの関係はまだ十分解明されていません

  

 

そこで、我々は 種々の身体的・精神的ストレスによるストレス応答系(ホルモン・神経)が、免疫系にどのように作用し 、その結果として 感染症や免疫・アレルギー疾患 の罹患にどのように影響するかを調べています。

<これまでの成果>

@ 最近、 Defensin や Cathelicidin などの新規抗菌ペプチド が、口腔・気道を初め全身の局所免疫にとって重要な働き手として注目されています。

これらのペプチドは感染症の際に出てくる サイトカイン(T NF- αや INF- γ) により上皮細胞からの分泌が促進されると報告されており、 運動中にもこれらのサイトカインは増加 するため、これらの新規抗菌ペプチドの分泌も増加する可能性があります( A )。

一方、動物実験を用いた報告では、 精神的ストレスとそれに伴うストレスホルモン(内因性ステロイド)の増加により、これらのペプチドの分泌が抑制されて、感染症が治りにくいという報告もあります( B )。

我々は、抗菌ペプチドのうち、 human defensin-2 ( HBD-2 )や LL-37( ヒトの Cathelicidin) の唾液中の濃度が、長時間の高強度運動(最大酸素摂取量の 75% の自転車運動×1時間)により増加するものの(上記 A を反映)、運動中に唾液コルチゾールが増加した人ほど、これらの抗菌ペプチドの増加は抑制された結果(上記 B を反映)を得ました。

このように、運動ストレス中に、免疫系はサイトカイン系とストレスホルモン系の両方の影響を受けるものと考えられます。

 

原著論文

・ Usui T, Yoshikawa T, Orita K, Ueda S, Katsura Y, Fujimoto S, Yoshimura M. Changes in salivary antimicrobial peptides, immunoglobulin A and cortisol after prolonged strenuous exercise. Eur J Appl Physiol. 2011; 111:2005-14.
< http://www.springerlink.com/content/cx511568376q1050/ >

・ Usui T, Yoshikawa T, Ueda S, Katsura Y, Orita K, Fujimoto S. Effects of acute prolonged strenuous exercise on the salivary stress markers and inflammatory cytokines. Jpn J Phys Fit Sport. 60, 3, 295-304, 2011.

・ Usui T, Yoshikawa T, Orita K, Ueda S, Katsura Y, Fujimoto S. Comparison of salivary antimicrobial peptides and upper respiratory tract infections in elite marathon runners and sedentary subjects. Jpn J Phys Fit Sport 2012; 1(1): 175-81.

 

国際学会発表:

・ Usui T, Yoshikawa T , Orita K, Fujimoto S. Changes in salivary antimicrobial peptides, immunoglobulin A and cortisol after prolonged strenuous exercise . 第 16 回ヨーロッパスポーツ科学会( ECSS )総会 ポスター発表(2011. 7 .7)イギリス・リバプール

 

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研究テーマ-4:【気管支喘息予備群の若年者に関する研究】
(呼吸器病態制御内科学 金澤准教授からの御指導のもと、大学院生の野村奈穂先生とともに

 

アトピー素因と無症候性気道過敏性を有する若年成人と気管支喘息の発症危険群

 

気管支喘息 は現在世界中で増加している呼吸器疾患の一つで、その病態には大気汚染や衛生状態の改善 (hygiene hypothesis) などの環境要因と遺伝的要因が複雑に関与すると考えられています。患者さんの多くは発作性呼吸困難や咳嗽などの喘息特有の症状を経験しますが、その臨床所見・形質( phenotype )や背景因子は各患者間で種々多様 であり、共通の発症メカニズムを追求することは容易ではありません。

そこで、喘息発症の遺伝的要因の解明を進めるために、予防医学の観点から、発症に至る前のより源流 ( 前駆状態 ) となる分岐点に眼を向けることも必要であると考えます。

 

気管支喘息の患者さんの共通の特徴は、気道過敏性と気道炎症であります。

下図に示します通り、 無症状(無症候 Asymptomatic の人の中には、まるで気管支喘息患者さんと同じような、<気道過敏性>を有する人がおられます。
気道過敏性はAirway hyperresponsiveness;AHRあるいはBronchial hyperresponsiveness;BHRと呼びます。

上の図の真ん中の列(Asymptomatic subjects with BHR)の人たちは、無症候(Asymptomatic)なのに、図の右列(Asthmatic patients:喘息患者)と同程度に気道過敏性を有していることを意味します。
なお、Methacholine PC20の値が低い人のほうが、低い(薄い)濃度のメサコリン液(気道刺激物質)の吸入で気道が容易に細くなりやすい(気道過敏である)ことになります。

そこで、成人喘息予備群とされる無症候性気道過敏性の若年成人群を対象とした 誘発喀痰を用いた気道病変の解析や遺伝子解析を含めた種々の検討を進めております。

 

最近、私の研究グループでは、誘発喀痰を用いた研究(下記研究テーマ 6 を参照)により知見を得ております。

有症状(気管支喘息)患者さんの気道内部には(アレルギー性の)炎症病態が認められることが、広く認知されており、誘発喀痰内にも炎症細胞(好酸球)や、種々の炎症性物質(インターロイキン (IL)-4 や IL-5 、 IL-13 などのサイトカイン)の量が多くなっています。

同年代の有症状(喘息)患者と比較してこの(無症候性、すなわち無症状の)危険群では、喀痰中の Eosinophils (好酸球)という炎症細胞や IL-5 や IL-13 濃度などで示される気道炎症の程度は極端に少ない一方(下の表と2つのグラフを参照)、気道過敏性は気管支喘息患者と同程度に存在することを示しました。このことより、気道過敏性の有無には気道炎症は直接関与しない一方、喘息症状の出現には気道炎症の出現が必要であることを証明しました(Nomura N. et al. Respirology 2007;12:516-22)。

また、気道炎症と喘息症状出現の前からすでに(前駆状態で)、気道過敏性のみを伴う気道構造の何らかの変化が存在し、それが将来の有症状喘息への進展を左右する可能性が考えられます。我々は、気道構造のうち、気道上皮、とくに気道上皮増殖因子の受容体(Epidermal growth factor receptor:EGFR)に注目し、その遺伝子多型のパターンが、無症候性気道過敏性(喘息予備群)と非予備群の間で異なることを見出しました(Yoshikawa T. et al. Med Sci Monit 2010 accepted)。

すなわち、気管支喘息が発症する前の段階で、すでに何らかの体質が(気道構造物に)存在していて、気道過敏性や将来の気管支喘息発症の要因になっている可能性が考えられます。

(無症候性気道過敏性を有する若年成人の誘発喀痰の拡大像、 400 倍)

 

また、別の研究で、我々は、上記のような無症候性気道過敏性を有する(小児喘息の既往のない)若年成人群と、小児喘息の既往を有するが現在は無症状の若年成人群を比較しました(ここでは前者をNever-asthmatics with AHR、後者をPast-asthmaticsと呼びます)。両群とも将来の気管支喘息の危険群とみなされますが、現在までそれらを直接比較検討した研究はありません。なお、正常コントロール群として、無症候性気道過敏性も小児喘息の既往もない若年成人群をあわせて調べました。上記の対象は全て、花粉症などの何らかのアトピー素因を有しております。

PS20とは、気道収縮物質であるメサコリンの吸入により、気道が元の太さから20%細くなった時点で感じる呼吸困難感を、0(全くない)〜10(最大)までの数字で表現したものです。

その結果、
1)気道過敏性(上記と同様にPC20という指標で表します)
Never-asthmatics with AHR群とPast-asthmatics群は同等の(メサコリンに対する)気道過敏性を有すること
2)呼吸機能(FEV1やFEF25-75::いずれも気道の狭さを表します)
Past-asthmatics群は、正常コントロール群に比べて明らかに呼吸機能が低値であり、Never-asthmatics with AHR群はこれらの中間の値をとること
3)血清学的検査(血清免疫グロブリンEをIgEといいます)
Past-asthmatics群ではNever-asthmatics with AHR群と比べ、明らかに(IgEでみた)ハウスダストに対する感作が強いこと
4)呼吸困難指数(メサコリン吸入で20%の気道収縮を起こしたときの呼吸困難度を調べました)
Never-asthmatics with AHR群ではPast-asthmatics群よりも、明らかにメサコリン吸入で気道収縮を起こした場合の呼吸困難度が鈍いこと

が判りました。
( Yoshikawa T. et al. Respir Med 2011;105:24-30 )。

 

原著論文

Yoshikawa T, Kanazawa H. Characteristics of young atopic adults with self-reported past wheeze and airway hyperresponsiveness. Allergol Int. 2012 Mar;61(1):65-73.
<http://ai.jsaweb.jp/pdf/061010065.pdf>

Yoshikawa T, Kanazawa H. Phenotypic differences between asymptomatic airway hyperresponsiveness and remission of asthma. Respir Med. 2011;105:24-30.
< http://www.sciencedirect.com/science/journal/09546111/105/1 >

Yoshikawa T, Kanazawa H, Tanaka J, Fujimoto S, Yamamoto T. Gene polymorphism of epidermal growth factor receptor and airway hyperresponsiveness in young allergic subjects without respiratory symptoms. Med Sci Monit 2010; 16: CR163-71.
< http://www.medscimonit.com/abstract/index/idArt/878497 > (Free online)

・ Nomura N , Yoshikawa T , Kamoi H , Kanazawa H , Hirata K , Fujimoto S . Induced sputum analysis in asymptomatic young adults with bronchial hyperresponsiveness to methacholine. Respirology . 2007 ;12:516-22.  < http://www3.interscience.wiley.com/journal/118536585/abstract >

 

国際学会発表

Yoshikawa T , Kanazawa H, Hirata K. Phenotypic differences between asymptomatic airway hyperresponsiveness and remission of asthma.
第 21 回ヨーロッパ呼吸器学会総会 ポスターディスカッション発表(2011 .9.28)オランダ・アムステルダム

Yoshikawa T , Kanazawa H. Gene polymorphism of epidermal growth factor receptor (EGFR) and airway hyperresponsiveness (AHR) in young allergic subjects without respiratory symptoms.
第 21 回ヨーロッパ呼吸器学会総会 ポスターディスカッション発表(2011 .9.25)オランダ・アムステルダム

Yoshikawa T , Nomura N, Kanazawa H, Hirata K, Fujimoto S. Analysis of airway inflammation in allergic subjects with asymptomatic increased airway response to methacholine.
第 16 回ヨーロッパ呼吸器学会総会< Diagnosis of allergy, asthma and allergic rhinitis > ポスターディスカッション( 2006.9 . )ドイツ・ミュンヘン

 

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研究テーマ-5:【呼吸器疾患に関する遺伝子学的研究】
(呼吸器病態制御内科学 金澤准教授からの御指導のもと、大学院生の梅田喜亮先生とともに)

 

遺伝子(分子)間の相互作用(Epistasis)に着目したアプローチ

 

2 系統の気管支拡張剤(抗コリン剤とβ2刺激剤)の薬剤感受性を左右する遺伝子型の決定

抗コリン剤 β2刺激剤は、各々m3タイプのムスカリン型アセチルコリン受容体m3AChR)β2アドレナリン受容体(β2AR) に作用し、気管支平滑筋の弛緩と気道閉塞症状の改善を生じます(下図)。

これら 2 つの受容体は、同じ気道平滑筋細胞上に存在し、同じGタンパク共役型受容体 (GPCR)であり、 シグナル伝達経路が細胞内で相互作用(crosstalk)しており 、平滑筋細胞内の筋線維の緊張と弛緩のバランスを 2 系統からのシグナルの強弱によりコントロールしています。また、拮抗剤や刺激剤のない平常の条件下であっても、内在性のアドレナリンやアセチルコリンにより常にこのコントロールは作用しています。

そこで、一方の遺伝子(β2AR)の多型が、もう一方の分子(m3AChR)の薬剤反応性に影響を与える可能性(エピスターシス)を考え、COPD患者のβ2AR遺伝子多型とm3型抗コリン剤の気管支拡張作用の強弱という形質の関係について検討しました。

その結果、β2ARの16番アミノ酸がArg/Arg型の患者では、non-Arg/Arg型の患者よりも、8週間の抗コリン剤吸入治療により有意に1秒量やQOLが改善しました( Umeda N. et al. Respirology 2008;13:346-52 )

 

このような、異なる遺伝子(分子)間で、相互に影響が現れる関係にあるのは、このレセプターに限りません。

 

欧文総説

Yoshikawa T , Kanazawa H. Functional crosstalk between β2-adrenoreceptor and muscarinic acetylcholine receptor: implications for gene-gene interactions and bronchodilatory responses in patients with asthma and COPD . (review article) Current Pharmacogenomics and Personalized Medicine 2008; 6:302-319.
< http://www.bentham.org/cppm/openaccessplus.htm > Free Open access

・ Yoshikawa T, Kanazawa H. Cellular Signaling Crosstalk between Multiple Receptors for Investigation of Pathophysiology in Multifactorial Diseases - What is clinically-relevant crosstalk? Curr Med Chem 2013; 20(9): 1091-102.
< http://benthamscience.com/journal/abstracts.php?journalID=cmc&articleID=107728 >

Yoshikawa T , Kanazawa H, Fujimoto S, Hirata K. Epistatic effects of multiple receptor genes on pathophysiology of asthma ? its limits and potential for clinical application. Med Sci Monit 2014; 20: 64-71.
< http://www.medscimonit.com/abstract/index/idArt/889754 >

 

原著論文

・ Umeda N, Yoshikawa T , Kanazawa H, Hirata K, Fujimoto S. Association of β 2 -adrenoreceptor genotypes with bronchodilatory effect of tiotropium in COPD. Respirology . 2008 ;13:346-52.
  < http://www3.interscience.wiley.com/journal/119415197/abstract >

・ Yoshikawa T, Kanazawa T. Integrated effect of two genotypes with signal crosstalk on airway hyperresponsiveness (AHR). Int J Mol Med. 2012; 30(1): 41-8.
< http://www.spandidos-publications.com/ijmm/30/1/41 >

 

インタビュー記事対談

・Lauren Martz. Susceptibility loci for COPD. SciBX (Science-Business eXchange, by Nature publishing group.) 2009 Apr 9;2(14): 6-7
< http://www.nature.com/scibx/journal/v2/n14/full/scibx.2009.563.html >

 

国際学会発表

・ Umeda N, Yoshikawa T , Kanazawa H, Hirata K, Fujimoto S . Association of beta2-adrenoceptor genotypes with bronchodilatory effect of tiotropium in COPD.
第 18 回ヨーロッパ呼吸器学会総会< Recent advances in the pathogenesis and treatment of asthma and COPD >口頭発表( 2008.10 ) ドイツ・ベルリン

 

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研究テーマ-6:【誘発喀痰法を用いた呼吸器疾患の気道病態に関する研究】

 

 

誘発喀痰標本(健常人、× 400 倍)

 

原著論文

Yoshikawa T , Dent G , Ward J , Angco G , Nong G , Nomura N , Hirata K , Djukanovic R . Impaired neutrophil chemotaxis in chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med . 2007 ;175:473-9.  < http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/full/175/5/473 >

Yoshikawa T , Shoji S, Fujii T, Kanazawa H, Kudoh S, Hirata K, Yoshikawa J. Severity of exercise-induced bronchoconstriction is related to airway eosinophilic inflammation in patients with asthma. Eur Respir J . 1998 ;12:879-84.  < http://erj.ersjournals.com/cgi/reprint/12/4/879 >

・ Kanazawa H , Yoshikawa T , Hirata K , Yoshikawa J. Effects of pranlukast administration on vascular endothelial growth factor levels in asthmatic patients. Chest . 2004 ;125:1700-5.
< http://journal.publications.chestnet.org/article.aspx?articleid=1082451 >

・ Dent G, Hadjicharalambous C, Yoshikawa T , Handy RL, Powell J, Anderson IK, Louis R, Davies DE , Djukanovic R. Contribution of eotaxin-1 to eosinophilic chemotactic activity of moderate and severe asthmatic sputum. Am J Respir Crit Care Med . 2004 ;169:1110-7.  < http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/content/full/169/10/1110 >

・ Kanazawa H, Yoshikawa T. Up-regulation of thrombin activity induced by vascular endothelial growth factor in asthmatic airways. Chest . 2007 ;132:1169-74.
< http://journal.publications.chestnet.org/article.aspx?articleid=1085478&issueno=4 >

 

国内シンポジウムなど

吉川貴仁 、平田一人、金澤 博、吉川純一 運動誘発喘息 第 13 回日本アレルギー学会総会 ワークショップ 3 特殊な喘息の病態 ( CVA, AIA, bronchorrhea など) ( 2001.5. ) 横浜

 

国際学会発表

Yoshikawa T , Shoji T, Fujii T, Kanazawa H, Hirata K, Kurihara N, Yoshikawa J. Severity of exercise-induced bronchoconstriction (EIB) is related to eosinophilic airway inflammation in patients with asthma.
第 94 回アメリカ胸部疾患学会総会・ポスター発表( 1998.5 . )アメリカ・シカゴ

Yoshikawa T , Hirata K, Shiraishi S, Yamada M, Kanazawa H, Kudoh S, Yoshikawa J. Inhaled steroid reduces the severity of exercise-induced bronchoconstriction (EIB) in mild asthmatics.
第 8 回ヨーロッパ呼吸器学会総会・ポスターディスカッション( 1998.9 . )スイス・ジュネーブ

Yoshikawa T , Hirata K, Shiraishi S, Yamada M, Kanazawa H, Kudoh S, Yoshikawa J. Diurnal variation of peak expiratory flow (PEF) is closely related to airway eosinophilic inflammation in patients with mild asthma.
第 8 回ヨーロッパ呼吸器学会総会・ポスター発表( 1998.9 . )スイス・ジュネーブ

Yoshikawa T , Hirata K, Shiraishi S, Kimura T, Okamoto T, Otsuka T, Kanazawa H, Yoshikawa J. Effect of pranlukast on airway eosinophilic inflammation in patients with asthma: randomized double-blind, placebo-controlled trial.
第 95 回アメリカ胸部疾患学会総会・ポスター発表( 1999.5. )アメリカ・サンディエゴ

Yoshikawa T , Hirata K, Shiraishi S, Kanazawa H, Yoshikawa J. Airway inflammation and perception of dyspnea by methacholine-induced and exercise-induced bronchoconstriction.
第 96 回アメリカ胸部疾患学会総会・ポスター発表( 2000.5. )カナダ・トロント

 

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最後に

 

(今ある自分を)受容して、(今ある自分に)感謝して、(今ある中で)柔軟に生きる


研究は、本来、目標を決めて<これを調べるぞ>と始め、進めていくものですが、あえてそれを設定せずに、自由になって、専門分野を狭く固定せずに、<運動>と<呼吸>を別々のテーマにして、能力や資材には限りはあるものの、今自分にできることを柔軟に幅広く開拓していきたいと考えています。藤本教授よりそういった自由な環境をいただけている現状に感謝しながら研究生活を送っています。

話は飛躍しますが、人生の中においても、<こうありたい>という理想や願望をあまり決めつけ過ぎて、そうでなければならない自分を窮屈に感じたり、理想や願望を叶えられない自分に怒ったり落胆することもあるかもしれません。また、高い理想とはいわないまでも、<こんなことは誰にでもできる当たり前のことだ、こうあるべきだ>と思っていても、そんな当たり前なことが得られないこともあります。ときに自分ではどうすることもできない宿命を背負い受け止めなければならないこともあります。精神的・身体的にハンディキャップを抱えている方やその親御さん、病気で命を落とされる患者さんやその家族の方々のことを振り返り、そして自分の家族や自分自身の抱える宿命も含めてそう感じます。

そんなときに、<こんなこともありかもね>とか、<こんな自分でも許してあげよう>という受容のこころや、<こうなったからこそ分かったことがある(ならなければ分らなかったことがある)><常識だ、当たり前だと思っていることでも当たり前ではない>という、今の自分や他者に対する“ 感謝”の気持ちを持って、今ある自分にできることを<広く><柔軟に>考えて、毎日毎日を前向きに生きることができればと願っています。そう考えると<人生に無駄なこと(もの)は何一つもない>と思えますし、新たな<気づき>のチャンスがあると思います。このことは、研究にも通じるところがあるように思えます。

今を楽しく生き、今ある等身大の自分を活かせると思います。もちろん、実際には、<今>だけではなく、将来の夢や希望、もちろん不安も抱えていますが。

いつまでもこのような思いを持ち続けていけるかは自分でも正直わかりません。現実には、ときに自分や身の回りに起こる現実があまりにも重く、<受容>できず、葛藤の中で苦しむことも多くあります。そのようなときでも、時間や体力はかかりますが、<受容>できない自分のことも、また<かわいい自分>として、許してあげる(受け止める)気持ちを持つ努力をしたいと思います。本当に難しいことですが。

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