研究内容


 

 我々の研究室では初感染の麻疹(はしか)ウイルスが脳内に持続感染した結果生ずる小児の遅発性ウイルス感染症(slow virus infection)のひとつである亜急性硬化性全脳炎 (Subacute Sclerosing Panencephalitis: SSPE)*の発症機構をウイルス学的側面から追求しています。特に,神経病原性を持たない麻疹ウイルスがどのようにして強力な神経病原性を示すSSPEウイルスに変異してしまうのか,どの変異がそれを担っているのかという点に焦点を合わせて,遺伝子レベルから動物レベルまで幅広い解析技術を駆使して研究を進めています。 また,麻疹ウイルス野外株はマクロファージ系やリンパ球系細胞に発現しているCD150分子を宿主リセプターとして侵入しますが,この分子は上皮系細胞には発現していません。なぜこのウイルスが,CD150分子を発現していない脳内神経細胞やグリア細胞に感染するようになるのか,SSPEウイルスはどのような分子をリセプターとして利用しているのか大変興味のあるところです。  
 この予後不良の病気に対し,臨床レベルではイソプリノシンやインターフェロンの投与が試みられていますが,その効果は芳しくなく,新規の特異的かつ効果的な治療法の出現が期待されています。我々はこれまでの成果を基礎に,全く新しいアイデアに基づいた予防法や治療法の開発を、発達小児医学分野と共同で、主に動物実験レベルで試みています。  また,大阪市立環境科学研究所と共同で,市内での非細菌性食中毒のアウトブレークに検出される下痢症ウイルスの分子疫学的解析を行っています。その感染源と流行の実態を把握することにより,流行予測や予防に医療の現場に還元したいと考えています。

*日本においては発症児の多くは2歳以下で自然麻疹に罹患しており,自然麻疹罹患児の100万人当たり10数人に発症している。現在では麻疹ワクチンの接種によりその発症頻度は十分の一以下に低下している。麻疹罹患後6?8年たって運動障害や知能障害を初発症状としてあらわれ,徐々に進行し,数年から十数年の経過をとり,死に至る。


1) SSPE(亜急性硬化性全脳炎)ウイルスの神経病原性発現機構の解析
2) SSPE発症に伴う麻疹ウイルス脳内変異機構の解析
3) SSPEウイルスの新規エントリーリセプターの検索
4) 麻疹ウイルス病原性発現に対する発熱の役割
5) 麻疹ウイルスの分子疫学
6) 下痢症ウイルス(Norovirus) の分子疫学