大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

聴神経腫瘍
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基本的な情報

概要

 聴神経腫瘍は耳の奥の内耳道内から発生する良性腫瘍です。内耳道内では顔面神経、音を聞く蝸牛神経と併走して前庭神経が走行しています。このため、聴力や顔面神経を温存して腫瘍を摘出するのには、熟練した脳外科手術手技を必要とします。このため、手術成績は施設により大きく異なります。 また定位放射線照射といって放射線を集中的に照射する治療もこの疾患には有効です。このため、施設により手術を優先したり、定位放射線照射を優先したりと、治療法に若干のばらつきがあるのがこの疾患の特徴です。当院では以前から積極的に聴神経腫瘍に対する外科的切除に取り組み良好な結果を得てきました。術前聴力、腫瘍の大きさ別に当院での治療方針についてご説明します。

特徴

 聴神経腫瘍は前庭神経から発生する良性脳腫瘍です。

前庭神経とは、平衡機能に関する神経であり、耳の奥(内耳)にあり、脳幹部からでると顔面神経と蝸牛神経(音を聴くための神経)と伴走しながら、内耳道(耳の奥にある骨のトンネル)入ります。この腫瘍は神経を包む鞘から発生する腫瘍です。

聴神経腫瘍の症状は、ふらつき、耳鳴り、聴力低下、聴力喪失、顔面のしびれ、小脳失調症の順位に症状を出します。時に水頭症を伴い、痴呆症状、視力障害を来します。また晩期になると脳幹の圧迫等により死に至ります。

 左の図は聴神経腫瘍(ピンク色)、VII顔面神経(オレンジ色)、VIII蝸牛神経(赤色)の位置関係を示した模式図です。顔面神経は腫瘍の成長方向によりa, b, cなど走行が様々です。腫瘍を摘出しこの近接した神経を温存する必要があります。

さらに詳しく知りたい方へ

治療方針

 頭聴神経腫瘍は良性腫瘍であるため、やはり外科的切除が最も有効な治療法です。ただし良性であるため、どんな大きさでも見つかれば手術を行うと言うわけではありません。大きさ別に大まかな治療方針を説明します。

大きさ1.5cmまでの腫瘍

 この大きさでかつ術前の聴力が保たれている患者さまでは、手術により聴力を温存しかつ腫瘍を摘出できる可能性があります。当院ではこの大きさの腫瘍では、聴力温存率は約70%です。手術により顔面神経麻痺が出現した患者さまはありません。ただし30%の患者さまは手術により逆に有効聴力が消失します。聴神経腫瘍は経過を見るとやがて聴力は消失しますが、その時期は不明です。このため、聴力温存を希望される患者さまには手術を行うことがあります。片側の聴力がやがて消失することを受け入れていただける患者さまにはそのまま定期的に画像検査を繰り返します。あるいは定位放射線照射と言って腫瘍に集中的に放射線を照射する方法があります。定位放射線照射にはガンマナイフ、エックスナイフ、サイバーナイフなどがありますが、当院にはエックスナイフがあります。

大きさ1.5cmから3.0cmの腫瘍

 この大きさではすでに聴力低下を認めている患者さまがほとんどです。このため聴力温存を目的として手術治療を行うことはほとんどありません。この大きさで腫瘍摘出を行った場合、術後に顔面神経麻痺が生じた患者さまはこれまでありません。このため当院では、腫瘍が3.0cm以内であれば画像検査を繰り返し、増大がみられれば手術治療、あるいは定位放射線照射をおすすめしています。ただしこの判断は年齢も考慮する必要があります。高齢の方であれば、聴力低下以外の症状が出現するまで経過をみる場合もありますし、若年のかたであれば早めの手術をおすすめすることがあります。

大きさ3.0cm以上の腫瘍

 この大きさでは、顔面神経と腫瘍が強く癒着し、術後に顔面神経麻痺が出現する可能性が高まります。特に3.0cm以上の大型聴神経腫瘍は手術が非常に難しいと言われています。当院では最近10年間で24例の大型腫瘍を経験しましたが、術後顔面神経機能が悪化したのは1例のみでした。95%以上腫瘍が摘出できた患者さまは70%でした。30%の患者さまでは顔面神経麻痺を起こさないためには腫瘍を一部残存させる必要がありました。残った腫瘍については経過観察を行った後に、定位放射線照射を行っています。

 次に手術法についてご説明します。左の図は皮膚切開の部位と開頭部位を示したイラストです。水色線が皮膚切開を黄色円が開頭範囲を示します。

 手術は大きさにかかわらず原則的に同じ手術法になります。患者さまは全身麻酔後手術を行う側を上にした横向きの姿勢になって頂き手術を受けて頂きます。後頭部から頚部の耳の後ろに約10cmの長さの弧状の皮膚切開を加え、筋肉をわけて後頭骨を出し、後頭骨を約3.5−4cmの幅で切除します。硬膜という硬い膜を切開し、左の小脳を正中に圧排しながら腫瘍を露出します。手術中は、薄くなった顔面神経を見つけるために顔面神経刺激装置を使います。また、蝸牛神経(音を聞くための神経)の電気診断も行いながら、可能な限り、聴力の温存に努め腫瘍摘出を行っています。

  

 上の写真は術中写真です。内耳道をあけて腫瘍を摘出し、顔面神経、蝸牛神経を傷つけない様丁寧に剥離し、最終的には神経機能を温存し腫瘍を摘出しています。

  

 上の写真は直径3.8cmの大型聴神経腫瘍の患者さまの術前(左)術後(右)のMRI写真です。手術により顔面神経麻痺を来さず、すべての腫瘍を摘出することができました。