頚動脈狭窄症とは、脳へ血液を送る頚動脈の内腔が、動脈硬化症、稀には炎症や外傷などによって狭くなる病気です。狭窄によって血液の流れが妨げられると、脳への酸素や栄養分の供給ができなくなったり、血流の流れの乱れによってできた血の固まり(血栓)が血管を閉塞し、様々な症状をもたらします。症状は一時的なこと(一過性脳虚血発作)もあり、後遺症を残すこと(脳梗塞)もあります。脳梗塞を起こすと、その部位に応じた神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次機能障害など)を呈し、重症の場合には、寝たきりや植物状態、さらには生命に関わることもあります。また、無症状でも狭窄の度合いが大きいと、数年以内に神経症状を呈する可能性が高くなります。当施設の特色はこの頚動脈狭窄症に対して血管内治療(ステント治療)を主に行い、良好な結果を得ていることです。
内膜剥離術
内膜剥離術という手術は厚生省および保険の認可を受けた歴史のある手術です。
全身麻酔下に病変部である頚部血管を露出し、動脈硬化に陥った血管内膜を剥ぎ取る治療です。手術中に血流の遮断時間が長くなったり、両側性病変や高位病変および放射線治療後病変などは治療による合併症の出現する危険性が高くなります。一方、血管内治療としては、局所麻酔下に、風船カテーテルで狭窄部を拡げる
経皮的血管形成術や、さらに、これに以下に説明する「ステント」を併用する方法があります。これらの外科的治療はすべての病変で可能なわけではなく、狭窄の部位や程度、患者さまの全身状態や合併する病気などによって、どちらも可能な場合があります。狭窄率が70%以上(血管径が7割以上小さくなっている)の症候性の狭窄に対し、内科的治療での再発作率は11%で、外科的治療では3%に減じることができます。
ステント治療
この項では当施設で特に力を注いでいる「ステント治療」について説明します。ステント治療では血管の内腔から狭窄部に金属のメッシュでできた円筒状の内張り(ステント)を入れて狭い血管を拡げます。従来、血管内治療としては、経皮的血管形成術(保険の認可を受けている)が行われていましたが、十分な効果がなかったり、再狭窄をきたしたり、血管の壁が裂けたりすることがあったため、「ステント治療」が開発されました。本治療は既に心臓や手足に血液を送る血管では広く行われており、最近、脳血管疾患にも用いられるようになりました。しかしながら国内ではこの治療を行っている施設は限られており、保険治療として認可されるまでには普及していません。具体的には脳血管撮影と同じく、カテーテル検査室にて局所麻酔(時には全身麻酔)で行われ、通常、大腿部のつけ根から直径約2〜3mm程度の管(カテーテル)を血管内に入れ、これを狭窄のある血管の近くに進めます。検査と異なり、両足の大腿部のつけ根からカテーテルを挿入することもあります。これらのカテーテルの中を通して狭くなった血管へ風船つきのカテーテルを誘導し、中等度の血管拡張を行った後、ステントを誘導して留置します。ステントのサイズにはいくつかの種類があり、病変の状態によって選択されます。本治療は大変有効な治療方法ですが、国内では、主に上肢に血液を送る鎖骨下動脈を除いて、まだステントの保険適応が認められておらず、専用のステントがありません。このため、心臓や手足の血管や胆管などに用いられているステントなどが用いられますが、その使用にあたっては、患者さまの十分な理解と承諾が必要です。また、カテーテルを目的部位にまで誘導できなかったり、極端に血管が細く、狭い箇所を通すことができないとステント治療を断念せざるを得ないこともあります。
手術合併症・続発症について
本治療法は、全身麻酔を行って頚部の皮膚切開を必要とせず、また、長時間血行を遮断せずに、血行再建が行えるのが大きな利点です。しかし、すべての外科的治療には何らかの危険性を伴います。これらの多くは、従来の経皮的血管形成術に伴って起こるものと同様です。ステント治療はこれらを改善するために導入されていますので、その頻度は経皮的血管形成術に比べると低いと考えられています。また、病変の部位や程度、性状等によっても危険性の程度が異なります。しかし、稀ですが、どのような場合でも合併症が起こる可能性はありますので十分に理解してください。