大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

頚動脈狭窄症
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基本的な情報

概要

 頚動脈狭窄症とは、脳へ血液を送る頚動脈の内腔が、動脈硬化症、稀には炎症や外傷などによって狭くなる病気です。狭窄によって血液の流れが妨げられると、脳への酸素や栄養分の供給ができなくなったり、血流の流れの乱れによってできた血の固まり(血栓)が血管を閉塞し、様々な症状をもたらします。症状は一時的なこと(一過性脳虚血発作)もあり、後遺症を残すこと(脳梗塞)もあります。脳梗塞を起こすと、その部位に応じた神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次機能障害など)を呈し、重症の場合には、寝たきりや植物状態、さらには生命に関わることもあります。また、無症状でも狭窄の度合いが大きいと、数年以内に神経症状を呈する可能性が高くなります。当施設の特色はこの頚動脈狭窄症に対して血管内治療(ステント治療)を主に行い、良好な結果を得ていることです。

治療

 このような頚動脈狭窄の治療手段としては、内科的治療と外科的治療があります。内科的治療は、高血圧症、高脂血症、糖尿病などの動脈硬化増強因子のコントロールや狭窄部に起こる血栓症を予防するための薬物治療です。外科的治療は、狭窄を解除して血液の流れを改善する血行再建という治療で、内膜剥離術と血管内治療があります。狭窄が軽度であると内科的治療だけで様子を見ることができる場合もありますが、狭窄の強い場合には外科的治療が望まれます。

以下に内膜剥離術と血管内治療(ステント治療)について説明します。

さらに詳しく知りたい方へ

内膜剥離術

内膜剥離術という手術は厚生省および保険の認可を受けた歴史のある手術です。
全身麻酔下に病変部である頚部血管を露出し、動脈硬化に陥った血管内膜を剥ぎ取る治療です。手術中に血流の遮断時間が長くなったり、両側性病変や高位病変および放射線治療後病変などは治療による合併症の出現する危険性が高くなります。一方、血管内治療としては、局所麻酔下に、風船カテーテルで狭窄部を拡げる経皮的血管形成術や、さらに、これに以下に説明する「ステント」を併用する方法があります。これらの外科的治療はすべての病変で可能なわけではなく、狭窄の部位や程度、患者さまの全身状態や合併する病気などによって、どちらも可能な場合があります。狭窄率が70%以上(血管径が7割以上小さくなっている)の症候性の狭窄に対し、内科的治療での再発作率は11%で、外科的治療では3%に減じることができます。

ステント治療

 この項では当施設で特に力を注いでいる「ステント治療」について説明します。ステント治療では血管の内腔から狭窄部に金属のメッシュでできた円筒状の内張り(ステント)を入れて狭い血管を拡げます。従来、血管内治療としては、経皮的血管形成術(保険の認可を受けている)が行われていましたが、十分な効果がなかったり、再狭窄をきたしたり、血管の壁が裂けたりすることがあったため、「ステント治療」が開発されました。本治療は既に心臓や手足に血液を送る血管では広く行われており、最近、脳血管疾患にも用いられるようになりました。しかしながら国内ではこの治療を行っている施設は限られており、保険治療として認可されるまでには普及していません。具体的には脳血管撮影と同じく、カテーテル検査室にて局所麻酔(時には全身麻酔)で行われ、通常、大腿部のつけ根から直径約2〜3mm程度の管(カテーテル)を血管内に入れ、これを狭窄のある血管の近くに進めます。検査と異なり、両足の大腿部のつけ根からカテーテルを挿入することもあります。これらのカテーテルの中を通して狭くなった血管へ風船つきのカテーテルを誘導し、中等度の血管拡張を行った後、ステントを誘導して留置します。ステントのサイズにはいくつかの種類があり、病変の状態によって選択されます。本治療は大変有効な治療方法ですが、国内では、主に上肢に血液を送る鎖骨下動脈を除いて、まだステントの保険適応が認められておらず、専用のステントがありません。このため、心臓や手足の血管や胆管などに用いられているステントなどが用いられますが、その使用にあたっては、患者さまの十分な理解と承諾が必要です。また、カテーテルを目的部位にまで誘導できなかったり、極端に血管が細く、狭い箇所を通すことができないとステント治療を断念せざるを得ないこともあります。

手術合併症・続発症について

本治療法は、全身麻酔を行って頚部の皮膚切開を必要とせず、また、長時間血行を遮断せずに、血行再建が行えるのが大きな利点です。しかし、すべての外科的治療には何らかの危険性を伴います。これらの多くは、従来の経皮的血管形成術に伴って起こるものと同様です。ステント治療はこれらを改善するために導入されていますので、その頻度は経皮的血管形成術に比べると低いと考えられています。また、病変の部位や程度、性状等によっても危険性の程度が異なります。しかし、稀ですが、どのような場合でも合併症が起こる可能性はありますので十分に理解してください。
  1. 脳梗塞
    カテーテル壁などに生じた血栓や圧排、変形された動脈硬化班のかけらが遠位部の血管につまって脳梗塞が起こる可能性があります。これを予防するために薬物治療を併用して、血栓ができにくくしたり、動脈硬化のかけらが飛ばないような工夫を行います。脳梗塞の発生率は、欧米の多数例の報告では、重症2%、軽症2%程度となっています。脳梗塞が起こるとその部位に応じた様々な神経症状(運動麻痺、知覚障害、言語障害、視機能障害、高次機能障害、重症の場合、寝たきりや植物状態、生命の危険)を来たす可能性があります。
  2. 脳出血
    狭窄部が拡張されると脳に急速な多量の血液が流れることによって脳出血を来たすことがあります。脳出血が起こるとその部位に応じた神経症状を来たす可能性があります。
  3. 血管解離
    血管の拡張に伴う血管壁の変形などによって血管の壁が裂ける(血管解離)ことがあります。従来の経皮的血管形成術に比べると、ステント治療では血管解離を来たすことはほとんどありません。血管解離の多くは無症候性ですが、稀に出血や血栓形成による脳梗塞を来たす可能性があります。
  4. 徐脈低血圧
    内頚動脈起始部には血圧や脈拍をコントロールする受容体が存在し、治療後に徐脈や低血圧が出現することがあります。昇圧剤の投与で対応しますが、急性心停止に至った例の報告もあります。
  5. その他
    大腿部のつけ根の血管穿刺部位は治療が終わると圧迫止血しますが、後に穿刺部位に出血が起こることがあります。出血に伴って、血腫形成による痛み、貧血や血圧低下、動脈瘤形成などが起こること(穿刺部異常)があります。また、造影剤によるアレルギー、ショック、腎機能障害、神経障害、撮影時の放射線被爆による一過性の脱毛などが稀に起こりえます。これらは脳血管撮影や経皮的血管形成術と同様です。

術後の検査、処置について

治療後は、血圧、脈拍等の確認や神経症状の有無を注意深く観察します。通常、終了後から飲水や食事は可能ですが、座ったり歩行したりできるのは足の付け根の短い管を抜いてから半日程度たってからとなります。一定期間点滴治療及び内服薬の投与が行われます。また一定期間ごとにCT,MRI,超音波検査、脳血管撮影などが、必要に応じて行われます。本治療では、留置したステントの内側や近傍の血管の内膜の増殖が起こって再び血管が狭くなる(再狭窄)の可能性が時にありますが、現在のところ、術後6ヶ月で2-3%とされています。しかし、未だ長期の経過観察の結果は知られていません。再狭窄による神経症状が起こることは稀ですが、起こった場合には、狭窄部に対する再治療(風船カテーテルによる拡張、ステントの追加留置)などを要することがあります。