大阪公立大学大学院医学研究科 脳神経外科学教室

(旧 大阪市立大学)

髄膜腫
ホーム > 腫瘍性疾患(髄膜腫)
Contents
研修体験記
研究業績
研究業績
過去のイベント

基本的な情報

概要

 髄膜腫は脳表近くに発生する円蓋部髄膜腫は比較的容易に摘出できますが、脳の深部から発生する鞍結節部髄膜腫蝶形骨縁髄膜腫錐体斜台部髄膜腫大孔部髄膜腫などの頭蓋底髄膜腫は非常に手術が難しく以前は治療に難渋した疾患でした。当院では、以前からこの頭蓋底髄膜腫の外科的治療に積極的に取り組み良好な結果を得ています。このホームページでは髄膜腫一般の特徴と当施設の治療方針、成績をご説明します。

 下の写真は頭蓋骨の模型を用いて、頭蓋底髄膜腫の発生部位を示した写真です。黄色は嗅窩部髄膜腫、水色は鞍結節部髄膜腫、赤色は蝶形骨縁および前床突起部髄膜腫、緑色は錐体斜台部髄膜腫、青色は大孔部髄膜腫です。この写真からも頭蓋底髄膜腫は脳深部に存在することがわかります。


特徴

 脳は2枚の髄膜(クモ膜、硬膜に包まれています。この膜から発生する腫瘍を髄膜腫と言います。多くは良性で、女性に多く発生することが知られています。亡くなった方(女性)を解剖すると、5-8%に見つかるといわれています。髄膜は脳の全周を包んでいますから、脳表の何処からでも発生します。

 髄膜腫は見つかればすぐ手術するわけではありません。何らかの症状がある場合には手術をします。症状がなくても大きくなっている場合、小さくても深部にある場合には手術をすることがあります。

治療方法

 髄膜腫は基本的に良性腫瘍であるため、外科的切除が最も効果的な治療法です。しかし同じ髄膜腫と言っても発生部位、周囲の神経や血管との関係、腫瘍の硬さなどにより、手術の難易度が全く異なるため、髄膜腫は発生部位別に治療法が検討されることになります。

 手術以外の治療法としては定位放射線照射があります。この治療にはガンマナイフ、エックスナイフ、サイバーナイフなどがありますが、いずれも腫瘍に対して、集中的に放射線を照射する治療法です。当院では、エックスナイフと言う定位放射線治療装置があります。小さな髄膜腫に対しては有効な治療法です。しかし長期成績がまだ十分でないこと、ごくまれですが照射により腫瘍が悪性化するような場合があります。

 治療方法の選択は、@外科的切除の難易度、A患者さまの全身状態(患者さまに重篤な合併症が存在する場合には定位放射線照射が有用であると考えられます)、B腫瘍の増大速度(たとえば無症状の小さい腫瘍に経過観察を行って腫瘍の増大がほとんど認められない場合にはそのまま未治療で経過観察を行うこともあります)などを考慮して総合的に判断します。

さらに詳しく知りたい方へ

部位別特徴と治療法・治療成績

●鞍結節部髄膜腫(模型の図の水色)
 視神経が脳から出て眼窩の中に入る両視神経管の間に鞍結節という部位があります。後方には下垂体を入れるトルコ鞍と言う場所があります。この鞍結節から発生した髄膜腫が鞍結節髄膜腫です。多くは視力、視野障害で発症し、放置するとやがて失明に至ります。この部位は手術で視力の回復あるいは視力の維持を図ることが最も重要です。

 手術は腫瘍の大きさにより異なりますが、当施設では両側の前頭部の頭蓋骨をあけて治療を行う両側前頭開頭で手術を行っています。この方法は両側の視神経に対して最も愛護的な手術だと私たちは考えています。

 治療成績は一般的には術後約20%に視力視野の悪化があると言われています。そのほか髄膜炎などの感染症、髄液漏といって髄液が漏れる合併症が起こると言われています。また両側前頭開頭で治療を行った場合は嗅覚が低下することがあります。

 当施設では最近10年間で29症例の手術を行いました。(この症例数は国内では最も多い症例数の一つだと思います。)術前に視力視野障害が存在した27例では視力視野の改善24例(88.8%)、不変3例(11.2%)、悪化は1例もありませんでした。(visual impairment scoreでの評価)、私たちの治療法では一側の嗅覚低下はほぼ全例に出現しますが、一側嗅覚低下で日常生活上大きな問題となることはあまりないようです。髄液漏の合併症はありませんでした。またこの疾患での手術死亡もありませんでした。



 上の写真は術前(左)、術後(右)のMRI写真です。赤矢印は視交叉を示しています。術前は腫瘍により神経が上方に圧迫され、視交叉が確認できませんが、術後は腫瘍がすべて切除され視交叉がよく確認できます。この患者さまでは、視力視野が著明に改善しました。

左の写真は術中写真です。赤矢印は視神経、黄矢印は腫瘍、白矢印は視神経を栄養している小さな血管です。手術顕微鏡で丁寧にこの血管を残しながら、腫瘍摘出を進めることが視機能温存に重要であると考えています。
●蝶形骨縁髄膜腫、前床突起部髄膜腫(模型の図の赤色)
 蝶形骨縁に髄膜腫が発生した場合、それが脳表に近い外側型であるか、視神経、内頚動脈に近い内側型であるかで手術の難しさが異なります。内側型蝶形骨縁髄膜腫、前床突起部髄膜腫では、内頚動脈と腫瘍の癒着の程度が手術摘出度、危険度などに影響するため、手術難易度は特に患者さまごとに異なります。腫瘍のある側に前頭骨、側頭骨にまたがって頭蓋骨をあけて腫瘍を摘出します。内頚動脈と剥離が不可能な場合にはその部位に薄く腫瘍を残すことになります。無理な摘出により内頚動脈を損傷した場合には片麻痺、意識障害など大きな合併症を引き起こす危険があるからです。

 当施設では最近10年間に34症例の手術治療を行いました。(この症例数は国内では最も多い症例数の一つだと思います。)幸い片麻痺など重篤な合併症は一例もありませんでした。しかし視神経、内頚動脈とどうしても剥離できなかった部位については一部腫瘍を残した患者さまがあります。

 

 上の写真は大きな蝶形骨縁髄膜腫の術前、術後のMRI写真です。どちらの腫瘍も内頚動脈との癒着がなかったため、全摘出することができました。
●錐体斜台部髄膜腫(模型の図の緑色)
 この部位は腫瘍が、嗅神経、視神経をのぞくすべての脳神経を巻き込んでいる可能性があること、脳底動脈、内頚動脈など重要な血管と近接しているなどの理由から、すべての脳外科手術の中で最も難しい腫瘍の一つです。当施設では耳の奥の骨である錐体骨を切除して広い視野を得た上で腫瘍を摘出する経錐体到達法を早くから導入し、この腫瘍を安全に摘出するよう努力してきました。

 治療の方針は脳神経麻痺、片麻痺などの合併症を起こさずに、可能限りたくさん腫瘍を摘出することです。脳神経や血管とどうしても剥離できない部位は定期的に画像検査を行った後に、定位放射線照射を行うことがあります。

 この腫瘍は頻度が少なく、日本で多数の症例を経験している施設はほとんどないため一般的な手術危険度、合併症はほとんどわかりません。当院では最近10年間で43例の錐体斜台部髄膜腫の治療を行いました。(この症例数は国内では最も多い症例数の一つだと思います。)幸いこの10年間手術死亡は1例もなく、片麻痺も過去10年間出現していません。

 

 上の写真は大きな錐体斜台部髄膜腫の術前、術後のMRI写真です。右錐体骨を切除して腫瘍に到達する経錐体到達法で腫瘍を安全に切除しました。

まとめ

 髄膜腫はその発生部位により治療の難しさが非常に異なります。そのため、一例一例に腫瘍と脳神経、血管との位置関係などを詳細に検討した上で、合併症を起こさず最大切除を行うことが治療の原則です。合併症は起こさずとも切除があまりに不十分であれば、手術を行った効果がほとんどありません。逆に全身状態の悪い高齢の方の小さな腫瘍では定位放射線を照射したほうがよいなど症例ごとに治療法を適切に判断する必要があります。最近では施設の脳腫瘍症例数などが雑誌で発表されていますが、これは脳腫瘍すべての総数であって髄膜腫とくに頭蓋底髄膜腫の総数を示しているものではありません。治療をされる場合には担当先生から十分に説明を聞かれた後、疑問点を解決してから治療を受けられることをおすすめします。

プレスリリース原稿(2014.11.4)の詳細はこちら PDF