C クリプトコックスCryptococcus

臨床的分類
酵母様真菌、担子菌類

概要
 3大真菌症の原因菌の中で、カンジダ属やアスペルギルス属に比べて病原性が高く、健常者に感染する酵母の代表である。細胞壁はβ-1,3-グルカンよりもβ-1,6-グルカンを多く含み、β-1,3-グルカン合成酵素に作用するキャンディンには一次耐性を示す。莢膜は、宿主免疫からの回避に関与しており、莢膜のグルクルノキシロマンナン(GXM)抗原は血清診断の抗原ともなっている。環境中に存在すると考えられ、鳩などの糞でよく生育する(鳥の体内にはいない)。原則として、吸入による外因性感染で、呼吸器系、特に肺に一次病巣を形成する。中枢神経系への親和性が高く、AIDSなどの高度な免疫不全では、明らかな肺病変を示さずに中枢神経感染症で発症する事がある。
 クリプトコックス症の大半は、Cryptococcus neoformansが原因である。C. neoformansには2つの変種が知られており、C. neoformans var. neoformansC. neoformans var. gattiiと呼ばれていたが、現在では独立した菌種としてC. gattiiとされるようになってきた*1。本菌は、A、B、C、Dの4つのセロタイプに型別され、他にAとDの混合型であるADがある*2。A、DおよびADはC. neoformans、BおよびCはC. gattiiに一致する。鳥類、特にハトやニワトリの糞で汚染された土壌に多く存在している*3。本菌は、経気道的に体内に侵入し、ほとんどは一次病巣として肺病変で発症(肺クリプトコックス症)するが、脳への親和性が高く、脳髄膜炎を発症することがある。HIV患者においては罹患率が高く、また、明らかな肺病変を示すことなく脳髄膜炎を発症することがあるので、特に注意が必要である。カンジダ属やアスペルギルス属と比較して病原性は強く、健常人にも病気を起こしうるが、健常者の場合には、半数以上が不顕性感染で、検診の胸部レントゲンなどで発見されることが多い。また、発生頻度も、カンジダ症やアスペルギルス症に比べると低く、100万人当たり10人以下である。
*1C. gattiiの高病原性株が近年問題となってきている。
*2AはC. neoformans var. grubii、DはC. neoformans var. neoformansとも呼ばれ、日本での発症のほとんどがAによるものであり、DとADが少数ある。
*3鳥の体内には存在しない。鳥の体温は42℃と高く、C. neoformansの発育には適さない。

参考〜その他の菌種


 Cryptococcus属のうち、上記以外の菌種として、C. laurentiiなどが知られているが、皮膚に常在する菌であり、病原性が明らかに低い。腹膜透析の合併症などの原因となるが1C. neoformansC. gattiiのように肺感染症や中枢神経感染症を起こしにくいことから、これらの菌種による真菌症は、通常、クリプトコックス症に含めない。
  1. Asano M et al. Successful Treatment of Cryptococcus laurentii Peritonitis in a Patient on Peritoneal Dialysis. Intern Med. 54(8):941-4, 2015.