具体例を挙げることでイメージがしやすいようにするため、細かい点にも触れるが、大きな枠組みをまず理解してほしい。将来的には、より詳しく覚える必要があるが、本講義では、学年相当の範囲にとどめる。
まず覚えておいてほしいのは、作用機序、耐性機序、副作用である。中でも、作用機序をしっかりと理解してから、耐性、副作用を覚えると良い。特に、β-ラクタム系キノロン系アミノグリコシド系マクロライド系テトラサイクリン系が重要である。  β-ラクタム系とキノロン系は種類が多く、使用頻度も高いので、スペクトルを理解して、将来使いこなせるように、基本を身につけてほしい。スペクトルとは、抗菌薬がカバーする範囲のことで、グラム陽性菌〜グラム陰性菌まで広く有効性の期待できる場合は広域と呼び、反対に、特定の菌に効果が限定される場合を狭域と呼ぶ。
 β-ラクタム系は、種類によって狭域〜広域まである。キノロン系薬は、全般的にスペクトルが広く、β-ラクタム系がカバーしない非定型菌にも有効性が期待できる一方、嫌気性菌には若干弱いという特徴がある(ただし、最近のキノロンは嫌気性菌にもスペクトルが拡大している)。その他の3系統は、比較的広域ではあるが、それぞれ以下の理由で、事実上は用途が限られている。マクロライド系は、安全性は高いため、小児には使いやすいが、静菌的であり、また、日本ではマクロライド耐性の肺炎球菌が多いため、第一選択となるのは、非定型菌(特にマイコプラズマ)、カンピロバクターとピロリ菌、MAC症、DPBに事実上限られる。テトラサイクリン系は、主にリケッチアおよびその類縁種に対する第一選択である。歯牙着色という副作用があり、小児への適応は限られる。アミノグリコシド系は、各薬剤でスペクトルが明瞭に分かれる特異的な薬剤で、I〜V群に5つに分類されるが、3つに分類した方がより現実的で、抗結核薬、抗緑膿菌薬、抗MRSA薬の3つに分類するとわかりやすい。
 上記以外に、抗MRSA薬と抗結核薬についての知識が必要であるが、それぞれMRSAと結核の項で述べた通りである。
 以下関連する用語を列挙するので、各自で調べて、確認しておいたほうが良い。

抗菌薬治療にまつわる用語
  • MIC:最小発育阻止濃度。
  • MBC:最小殺菌濃度。
  • 感受性検査法:微量液体希釈法、寒天平板法、ディスク法、E-testなど。
  • バイオアベイラビリティー
  • PK:薬物動態。AUC、Cmax、トラフ、T1/2など。
  • PD:薬力学。MIC、MBC、MPCなど。
  • PK-PD(PK/PDとも):AUC/MIC、Cmax/MIC、T>MICなど。
  • 選択毒性
  • スペクトル(スペクトラムとも):カバーする守備範囲。広域(ブロード)、狭域(ナロー)。
  • CBP:クリニカルブレイクポイント、単にブレイクポイントとも
  • 殺菌・静菌
  • トラフ:最低血中濃度
  • QD:毎日、BD:隔日で、BID:1日2回、TID:1日3回、QID:1日4回

  • 耐性にまつわる用語
  • 一次耐性:自然耐性とも称される。
  • 二次耐性:獲得した耐性を指し、通常、耐性といえば二次耐性を指す。
  • 交叉耐性
  • 排出ポンプ(エフラックスポンプ、エフラックス、ポンプとも)

  • 主な耐性機序と具体例

     1-4の全てに共通するのは、抗菌薬が標的に結合できなくなるということ。また、1と2は、特定の抗菌薬に対する耐性であるが、3と4は非特異的であるため、複数系統に渡って耐性化に関与する場合がある。

    抗菌薬の主な副作用

    2020年3月26日開設 2020年3月26日更新