役に立つ英語

はじめに

 残念ながら、我々の母語である日本語は、世界の共通語ではありません。学術論文の多くは、現在、英語で書かれています。世界基準での情報を入手するためには、英語論文は避けて通れません。とはいえ、英語の論文は特殊な単語やフレーズを用いているため、読むのに一苦労します(それが英語の良いところでもありますが)。ということで、少しでも支援に慣ればと考え、よく出る単語やフレーズをまとめることにしました。教えるというよりも、私自身の学びのためでもあります。
 学生の頃、英文論文がスラスラ読めたらとあこがれていました。今でも苦労はしていますが、読んだり書いたり、それなりにはできている気がします。ということで、理想の自分を思い浮かべながら、一緒に学びましょう。

1. 接頭辞と接尾辞

 英語では、語源を理解することで、格段に語彙が増える。そのルーツとなる語幹はもちろんのこと、接頭辞・接尾辞を知ることで、効率よく語彙を増やすことができる。最初に、接頭辞、接尾辞を含む英単語の例を紹介する。

  1. epi-とpara-
  2.  epi-は上方を表し、para-は傍を表す接頭語である。例えば、epiglottisは、glottis(声門)の上にあるという意味で、喉頭蓋と訳す。parathyroid glandは、thyroid gland(甲状腺)の右上、右下、左上、左下の四隅にある内分泌腺で、副甲状腺と訳す。尚、thyroidの-oidは、「〜様の」という接尾辞で、「扉の様な」という意味である。
    その他の例
    接頭辞 : 例
    epi- : epinephrine
    para- : parameter
    * epinephrineとadrenalineは同じ意味だが、語源が異なる。epiもadも「上方」のと、nephrもrenalも「腎臓」という意味で、adrenal glandは副腎と訳し、エピネフリンもアドレナリンも副腎から分泌されるホルモンである。

  3. -emiaと -osis
  4.  -emiaは血液の状態を、-osisは疾患の状態を表す接尾辞で、それぞれ「〜血症」「〜症」と訳すことが多い。例えば、candidemiaは、Candida(カンジダという真菌)が血液にいる状態を表し、カンジダ血症と訳する。-emiaを-osisに変えると、candidosisになり、Candidaによる疾患という意味でカンジダ症と訳する。その他の例についても以下に示す。
     -emiaや-osisがつく用語はしばしばカタカナで表記されることもある。
    その他の例
    接尾辞 : 例
    -emia : bacteremia, anemia, acidemia, alkalemia
    -osis : nephrosis, acidosis, alkalosis, aspergillosis

  5. -otomyと-ectomy
  6.  -otomyは切開(切離、切断)で、-ectomyは切除を表す接尾語である。例えば、lobotomyは葉切断、lobectomyは葉切除という。lobeはleaveと同じ語源の葉っぱという意味である。ただし、医学用語で、lobeというのは、大きなひと塊を指す。また、lobotomyは通常脳の葉切断を、lobectomyは肺の葉切除を指すことが多い。
     英語に置き換えると、-otomyはincisionで、-ectomyはexcisionである。違いが分かりにくいが、-otomyは切り口を入れるだけで切ったものを取り除かないことを示し、-ectomyは切りとることを意味する。

  7. -philiaと-phobia、-penia
  8. -philiaは「好む」という意味で、-phobiaは「恐怖」「嫌悪」という意味である。

    例としては、
    Haemophilius ヘモフィルス属(細菌)は血液を好む
    hemophilia 血友病
    photophobia 羞明 光(photo)を怖がるという意味
    などがある。
    血球のneutrophil、basophil、eosinophilも、それぞれ、好中球、好塩基球、好酸球と訳すのは、中性、塩基性、酸性の色素で染まるためである。
    -peniaは乏しいという意味で、neutropenia(好中球減少)、sarcopenia(サルコペニア、筋肉が少ない状態)などのように用いる。

  9. -oma, -oid
  10.  -omaは「腫瘍」という意味で、-oidは「似ているもの、偽物、もどき、類」という意味である。
    例えば、
    carcinomaは癌腫、carcinoidは癌腫に似ているもの(カルチノイド)。androidも、人間に似ているという意味である。
    その他、sarcomaは肉腫、sardoidoisisはサルコイドーシスと訳す。

  11. poly-とoligo-
  12. polyとoligoは、それぞれ「多い」「少ない」という意味である。
    例えば、
    polypeptide、oligopeptideのように用いる。それぞれ、ポリペプチド、オリゴペプチドと訳すが、意味としては、アミノ酸が沢山つながったものがポリペプチド、数が少ないものがオリゴペプチドである。ただし、どこまでがポリでどこまでがオリゴか明確な決まりはない。

  13. tachy-とbrady-
  14. tachyは「頻度が多い」、bradyは「頻度が少ない」という意味である。
    例えば、
    tachycardia(頻脈)、bradycardia(徐脈)のように用いる。
    tachypnea(頻呼吸)、bradypnea(徐呼吸)という言葉もある。

  15. cep(ceph)-
  16. 頭(もしくは脳)を表す。
    例えば、
    biceps brachii(上腕二頭筋)、Cephalosporium(セファロスポリウム属の真菌、頭に胞子(spore)を持っていることから)、encephalitis(脳炎)など。

2. 動詞

 専門用語というと、名詞が多いが、動詞も話し言葉と書き言葉では若干の違いがあり、学術誌では通常の書き言葉よりもさらに少し硬い動詞が多い。例えば、getという動詞が話し言葉ではよく使われるが、書き言葉、特に学術誌では、obtainやacquireを用いることが多い。一つの理由として、getが多義的であり、正確にニュアンスが伝わりにくいということはあると思うが、硬い言葉の方が「すわりがいい」ということかもしれない。

頻度の高い動詞

その他

動詞の名詞化

動詞とその名詞化はできるだけセットで理解しておきたい。
動詞の名詞化は、同形のものや動名詞を除けばおよそ4つのパターンに分類できる。

動詞の名詞化に際しては、上記のreceiveのように、2つ以上の名詞化があり、意味異なる場合がある。

よく使う修飾語(形容詞と副詞)

 動詞と同様、論文では比較的硬い言葉が好まれる。例えば、話し言葉ではveryという言葉がよく使われるが、論文ではextremelyなどで代用されることが多い。

 形容詞と副詞は、しばしば変換されるので、セットで理解しておく。例えば、significantとsignificantlyなどがある。
 また、類義語や対義語をセットで覚えておくと便利である。例えば、absoluteとrelativeなどがある。

  1. probableとpossible
  2.  probableは確からしい、possibleは可能性がある、という意味である。

  3. personal, privateとindividual
  4.  personal, privateとindividualは、日本語では「個人の」と訳すことができるため、違いが分からなくなるが、それぞれニュアンスが異なる。前2者は、基本的には人間に使用される用語である。personalは他人と区別した「個人の」という意味合いで、例えば、personal protective equipment(個人防護具)のように用いる。反対語はsocialである。一方、privateは、公的ではない「私的な」という意味合いである。日本語で訳すときも、プライベートの方がニュアンスが伝わるかもしれない。反対語は、publicである。individualは、「個々の」という意味で、人間の場合にはpersonalとの違いが分かりにくいが、集団において一人一人に着目した「個々」というニュアンスである。individualの反対語はあえて言えばgroupであるが、groupは名詞なので正確には反対語とは言えないかもしれない。

形容詞の名詞化

よく使われる動物の名前

ラテン語日本語
avian, aviumトリ
equineウマ
homo, hominisヒト
lupine, lupusオオカミ
swine, suisブタ
ursine, ursisクマ
bovine, bovisウシ
canine, canisイヌ
feline, felisネコ

解剖学用語

 解剖学用語は、一部をラテン語由来のまま使用することが多い。
 例えば、superior vena cavaの場合、"superior"は英語で「上」を表し、"vena"と"cava"はともにラテン語に由来し、それぞれ、「静脈」と「空洞」を表す。ラテン語は、しばしば後置修飾の形をとる。

血管

運動器

*はラテン語、は英語を表す。ただし、英語の場合も、元々ラテン語由来のものが多い。

参考文献

閑話休題〜語彙カバー率と理解度

 これから英語の勉強をたくさんしてもらおうと思っているが、どれくらいまで語彙が増えればすらすらと読めるだろうか。もちろん、語彙数だけではなく、理解度には様々な因子が絡んでいるが、英文法や日本語の読解力の差がないという前提で考えてみたい。
 文章の中で知っている語彙の割合を、「語彙カバー率」という。どれくらいの語彙カバー率ならば、理解できるかということは、いくつか検証されているようで、95%以上あれば何とか理解できるらしい。これは、20語に1語程度わからない単語があるということである。論文にもよるが、要約(summaryもしくはabstract)部分は、200〜250単語である。したがって、未知語が10個程度までなら何とか読めることになる。ただ、個人的な経験から、要約部分での未知語(特に全く予想できない単語)が5つ以上あるとかなり読むのに苦戦する。未知語にも、全く見当がつかない単語から、訳せないまでも、ある程度見当がつく単語まで幅がある。ということで、全く見当がつかない未知語が2%未満になるように語彙数を増やすのが理想と考える*。
*あくまで個人的見解です。。。
参考資料
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyozai/22/0/22_23/_pdf/-char/ja
試しに、以下の英文を読んで、どれくらい未知語があるか数えてみてほしい。
Unprecedented public health interventions including travel restrictions and national lockdowns have been implemented to stem the COVID-19 epidemic, but the effectiveness of non-pharmaceutical interventions is still debated. We carried out a phylogenetic analysis of more than 29,000 publicly available whole genome SARS-CoV-2 sequences from 57 locations to estimate the time that the epidemic originated in different places. These estimates were examined in relation to the dates of the most stringent interventions in each location as well as to the number of cumulative COVID-19 deaths and phylodynamic estimates of epidemic size. Here we report that the time elapsed between epidemic origin and maximum intervention is associated with different measures of epidemic severity and explains 11% of the variance in reported deaths one month after the most stringent intervention. Locations where strong non-pharmaceutical interventions were implemented earlier experienced much less severe COVID-19 morbidity and mortality during the period of study.(148 words)
出典:Ragonnet-Cronin M et al. Genetic evidence for the association between COVID-19 epidemic severity and timing of non-pharmaceutical interventions Nat Commun. 12: 2188, 2021.

参考となるURLなど