大阪市立大学大学院医学研究科細胞機能制御学教室


細胞機能制御学での研究テーマ

1. 滑脳症は代表的なヒトの中枢神経系の形成不全で、脳の“しわ”がない病気です。リン症的には滑脳症は重度の精神遅滞とてんかん発作を特徴としています。我々はこの滑脳症の分子機構に挑んでいます。滑脳症の原因遺伝子・LIS1は代表的なモータータンパク質である細胞質ダイニンの制御因子であることを突き止めました。細胞質ダイニンは細胞内でのオルガネラや小胞の分布や移動、神経細胞における軸索輸送、細胞分裂時の染色体分配など、発生期における神経細胞の遊走など重要な役割を果たしています。細胞質ダイニンは微小管上をマイナス端に向かって走るモータータンパク質ですが、一方で細胞質ダイニンは微小管のプラス端に向かっても移動することができます。これまで細胞質ダイニンがどのように微小管のプラス端に向かっても移動するのかは不明でした。我々はLIS1が細胞質ダイニンを微小管上に固定する機能があることを明らかにしました。さらに微小管−LIS1−細胞質ダイニンの複合体がキネシンによって微小管のプラス端に向かって運搬されることを証明しました。つまりLIS1は細胞質ダイニンが微小管上を循環し、正常な局在を維持するのに必須の因子であることを解明しました。現在この研究をさらに発展させ、LIS1が細胞質ダイニンを微小管上に固定するメカニズムを生物物理学的な解析を駆使して明らかにしています

2. LIS1は細胞質ダイニンを微小管上に固定する機能がありますが、このことはLIS1が結合した細胞質ダイニンは不活性な状態であることを示しています。つまり、細胞質ダイニンは適切な条件で活性化され、再び微小管のマイナス端に向かった運動を再開させる必要があります。我々はLIS1と結合した細胞質ダイニンがどのように活性化されるかの解明に取り組んでいます。このメカニズムは細胞内でどのようなシグナルが細胞内での物質輸送を制御しているかと密接に結びついており、細胞生物学における重要な研究課題です。

3. 滑脳症は難治性の中枢神経系の形成不全で有効な治療法はありません。我々はLIS1がタンパク質分解酵素のカルパインによって分解されることを発見しました。滑脳症はLIS1のヘテロの変異によって起こる先天性の疾患ですが、滑脳症の細胞においてはLIS1のタンパク質は正常に比較して半分はあるわけです。我々はカルパイン阻害剤がLIS1の分解を抑制し、LIS1タンパク質の量を回復させることを明らかにしました。さらにカルパイン阻害剤が滑脳症の治療薬として有望であることを証明しました。我々はカルパイン阻害剤を用いた独創的な滑脳症の治療法の確立に挑戦しています。

4. LIS1LIS1の結合タンパク質であるNDEL1は細胞質ダイニンの制御だけでなく微小管ネットワークの制御も行っています。微小管ネットワークの制御は神経細胞における神経突起の進展や神経細胞の遊走にも密接に結びついており、LIS1NDEL1は神経突起の進展や神経細胞の遊走の制御因子でもあります。一方、我々はNDEL1mitotic kinaseであるAurora-Aの基質となり、微小管ネットワークの再編を制御していることを証明しました。Aurora-Aは細胞分裂している細胞で重要な役割を果たしていますが、非分裂細胞における役割は不明でしたが、我々はAurora-Aが神経細胞における神経突起の進展にも重要な役割を果たしていることを明らかにしました。現在はこの研究を発展させ、神経細胞の遊走におけるAurora-Aの役割について解明を進めています

5. PP4は中心体特異的な脱リン酸化酵素です。我々はPP4NDEL1のリン酸化の制御を通して微小管ネットワークの制御をしていることを明らかにしました。PP4はさらに細胞移動の制御にも深く関与していることを突き止めました。この研究をさらに発展させ、PP4の発生における中枢神経系の形成における役割の解明に取り組んでいます。