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HOME > 教室のご案内 > 医局だより > VICTRYがCJASNに掲載されました

医局だより

2020年度

「VICTORY試験: 大阪市大からの新しいエビデンス」

庄司哲雄(昭和60年入局、血管病態制御学研究教授)

 血液透析患者を対象としたランダム化比較試験であるVICTORY試験の論文が、このたびCJASNにアクセプトされました。研究内容ご紹介させていただきたいと思います。少し「イントロ」が長くなります。
 血液透析患者で高頻度に認められる二次性副甲状腺亢進症(SHPT)の薬物治療としては、従来から活性型ビタミンD(VDRA)が用いられてきました。一方、VDRAには血清CaやPを上昇させる働きがあり、高用量の使用を制限される場面も経験されていました。その後、カルシウム受容体作動薬(カルシミメティクス)と呼ばれる新しいカテゴリーの薬剤が登場し、intact PTHを下げるのみならず血清Ca、Pの低下作用もあるため、臨床での有用性が期待され、VDRAとの使い分けについていろいろな意見・議論がありました。しかし、KDIGOのCKD-MBDガイドラインではVDRA、カルシミメティクスの使い分けや優先順位についての記載はありません。それは両者を比較するRCTがなかったからです。「論より証拠」ということです。では、どういうアウトカムに注目して比較すればいいのでしょうか?
 CKDとくに透析患者においては血管石灰化が問題視されています。石灰化ストレスを評価する新しい血液検査としてserum calcification propensity (T50)が開発され、T50が長い血清ほど石灰化ストレスが低いという指標です。T50が低い値の患者ほど血管石灰化が強いこと、大動脈のstiffnessが高いこと、死亡率が高いことが報告されています。SHPT治療にはT50を延長させる治療法が望ましいのではなか?この点においてはVDRAよりカルシミメティクスが優れるのではないかと考えました(仮説1)。
 また、透析患者では全体の3分の2が65歳以上であり、高齢者で問題になるサルコペニアや認知機能障害にどう対応するかという喫緊の課題があります。ビタミンDには多面的作用が知られており、観察研究ではビタミンD欠乏と筋力低下、サルコペニア、認知機能低下の関連が報告されていました。であれば、SHPT治療において、VDRAはカルシミメティクスに比較し、握力保持に優れている(仮説2)かもしれませんし、認知機能保持に優れている(仮説3)かもしれません。これらの仮説を検証するために実施したのがVICTORY試験です。
 対象はSHPTを呈する血液透析患者さんで、425人が仮登録され、326人がエテルカルセチド治療群(カルシミメティクス群)とマキサカルシトール治療群(VDRA群)にランダムに割り付けされ、12カ月間の治療経過を追跡しました。第一評価項目は血清T50の変化量、第二評価項目は握力の変化量、第三評価項目は認知機能の変化量で、これはDASC-21を用いて評価しました。その結果、第一評価項目はマキサカルシトール治療群に対してエテルカルセチド治療群で有意なT50延長(石灰化ストレス軽減)効果が認められましたが、握力や認知機能に対する効果に両群で差はありませんでした。
 結果の解釈になりますが、直接血管石灰化への効果を検証はしてはいないものの、石灰化ストレス軽減を目的とする場合にはエテルカルセチド治療の有益性がより大きいことになります。一方、サルコペニアや認知機能低下に対しては、いずれの治療でも大差はないものと考えられます。もちろん、いくつかのリミテーションはありますが、VICTORY試験の結果は、SHPTの薬物療法を選択するうえで参考にしていただけるものであり、ガイドラインにも引用される成果ではないかと考えております。
 本研究は小野薬品工業さまからの研究費で実施した特定臨床研究で、臨床研究法に基づいて実施いたしました。モニタリングを実施し監査も受けております。学術的な価値のみならず適正な実施にも胸を張れるものがあり、次世代の先生方の手本になれるように精一杯頑張りました。
 今回の研究の「めだま」はT50 測定でした。T50測定を担当した仲谷慎也講師は、先行研究の論文を読んでT50測定をゼロから立ち上げてくれました。しかし、大阪市大測定T50値がゴールドスタンダードであるCalciscon社の値とずれていたらどうしようかと内心不安だったと思います。そこで血清サンプルをスイスのCalcisconに冷凍で空輸し測定してもらった(もちろん有料です)ところ、大阪市大法と同等の測定値になっており、われわれの妥当性が示されました。この結果を見て、仲谷慎也先生は大変満足するとともに、安堵したことと思います。今後は、我々のT50測定を用いた臨床研究を展開していこうと胸を膨らませています。すでに仲谷慎也先生は亜鉛とT50の関係を論文化していますし、森 克仁(腎臓病態内科学准教授)もコホート研究でT50の意義を検証し論文作成中です。一緒に研究してみたいと思う先生は大歓迎ですので、ご連絡ください。
 このような臨床試験が実施できたのも、現在公立大学法人大阪理事長をお務めの先々代教授西澤良記先生、先代の稲葉雅章先生、そして現在の繪本正憲教授が中心となって築き上げ維持されている大学と関連病院の先生方との強固な連携、および充実した研究環境があってのことと、感謝の気持ちでいっぱいです。また、医療統計学教授 新谷 歩先生、同特任助教加葉田大志朗先生、同特任准教授吉田寿子先生、医薬品・食品効能評価学特任講師藤井比佐子先生、CCRI太田恵子先生をはじめ大変多くのアカデミアの先生方にお力をお貸しいただきました。本当にありがとうございました。最後に、研究に参加いただいた患者様への感謝の気持ちを述べて、VICTORY試験のご報告とさせていただきます。

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