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概要

智・仁・勇の探求

大阪公立大学大学院医学研究科 救急医学
溝端康光

『論語』憲問に曰く、仁者は憂へず、知者は惑はず、勇者は懼れず。
 論語において、「智・仁・勇」は君子の三徳の道として、「仁者は人を愛して常に楽易であるために憂へない、智者は義を見ること明らかであるから、ことの是非善悪を知り決してその処置に惑ふようなことはない、勇者はその心道義に合しているから己を懼れない。」と説かれています。この「智・仁・勇」は、大阪公立大学(前、大阪公立大学)医学部建学の精神となり、優れた医療人を育成する基本理念とされています。私は、救急医療に携わる者にとって、「智・仁・勇」を探求することは、他の領域の医療従事者よりも一層重要な道であると考えています。
 「救急は体力勝負ですね」とよく言われます。とんでもない誤解です。確かに救急医療では、24時間常に目の前の患者に全力で向き合うことが求められます。これは個人の「体力」ではなく、「マンパワー」により解決できる課題です。救急医療の本質は、自らが直面する様々な事態あるいは個々の患者が有する多種多様の問題に対し、データと情報をもとに経験と理論を駆使して常に思考し最善の解決策を見出すことにあります。災害医療、多発外傷、多臓器不全など二つとして同一の状況にない事態に対応するためには、広く「智」を探求し、使いこなすことが求められます。
 医療者には「仁徳」が必要であることは論を待ちません。特に、患者や家族に対して、常に思いやりをもって真摯に対応することが求められるます。ただし、それだけでは優れた救急医療を提供することはできないと考えます。救急医療はチーム医療の最たるものであり、共に働く多職種のメンバーに対して、お互いに敬意を払いつつ、優れた良いチームを作ることに取り組み続けなければなりません。そのためには、常に自らの「仁」を探求し、高める努力が必要であると考えています。
 日々の救急医療において、急速に病態が変化する患者に対し、限られた時間内で限られた情報をもとに意思決定を行い、正しいと考えられる処置・治療を実践するという、勇敢な姿勢が我々救急医療者には求められます。処置・治療を開始するまでに必要な検査を済ませ、事前の討議において具体的手法を決定し、万全の準備下に治療を実践できる他領域とは大きく異なるものです。しかし、その姿勢を有するからこそ、国難とも言える災害等において常に救急医療者が活躍してきたのです。「勇」を探求し、挑戦し続ける医療従事者こそが様々な場面で強く求められていると考えています。
 2020年1月の初めての国内陽性患者、2月のダイヤモンド・プリンセス号の寄港以来、我が国を襲ったコロナ禍は、医療体制を逼迫させ、なかでも救急医療体制を大きな逆境に陥れました。コロナ患者への対応のため、本来の救急医療を提供できず苦汁を嘗めた救急医療者も多いと思われます。一方、コロナ禍において最も活躍したのが救急医療者であることは誰もが認めるものです。多くの救急医療者にとって、コロナ禍という逆境において、「智・仁・勇」を探求し、初めて直面した様々な問題を解決することで新たな「力」をつけることができたことも事実であろうと思います。
 ダーウィンの著書「種の起源」によれば、環境の変化に適応して、運良く生き続ける場を見いだしたものが、自然淘汰を勝ち抜き「進化」を遂げて種を増やすとされています。一方、救急医療従事者は、その本質において積極的に逆境とも言える環境の変化に適応し続けており、その経験をもとに自身の能力を高め、常に「進化」していることを自ら誇りとすべきであると思います。

医療従事者の方へのメッセージ

教育方針

救急医の育成

① 救急医の育成

当科の救急科専門医プログラムは、救命救急医療を目指す医師のみでなく、Acute Care Surgeryに取り組みたい医師、ER診療を実践したい医師、外科・内科・整形外科等の他領域とのダブルボードを取得したい医師の要望を叶えることのできるものです。具体的には18の病院と連携し、専攻医が幅広くプログラムを選択できるように作成しています。
専門医取得後は、大学病院、救命救急センター、二次救急医療機関等で実診療に携わり、高い臨床能力を修得するとともに、常に学術的思考を鍛錬しながら修練を続けていけるようにしています。

② 危機対応能力を備えた医師の育成

救急医が修得すべき最も重要な能力は危機対応能力です。救急診療において、患者の生命の危機に的確に対応することが求められることは言うまでもありません。加えて、超緊急患者の受入れや多数傷病者対応など救急医療体制の危機に対し、人的・物的資源を的確にマネジメントできる能力が必要です。
また、医療機関内における安全管理体制において、RRS・コードブルーなど、救急医が担う役割は、医療安全における危機管理の一つであると言えます。
加えて、災害医療やメディカルコントロール体制など、社会における医療体制の危機への取り組みも重要です。

③ 外傷外科医(Acute Care Surgeon)の育成

当科では、外傷外科医を目指す医師に対し、実診療での修練に加え、段階的な教育の機会を提供しています。

  • JATEC受講による外傷初期診療の理解と習得
  • 外科医としての基本的な手技の習得(外科専門医プログラム参加)
  • アニマル・ラボでの外傷外科技能の習得(ATOM、DSTC、ASSET等)
  • アニマル・ラボ指導による知識・技術の向上(ATOM、DSTCインストラクター資格取得)
  • ご献体を用いた外傷手術手技修練(大阪公立大学独自プログラム)
  • 海外トラウマセンターでの短期間集中修練(インドAIIMS等)
  • 救命救急センターにおける診療での実践

④ ノンテクニカルスキルの修得

救急医療において、質の高いチーム医療を実践するためには、個々のノンテクニカルスキルを高めるとともに、チームとしての能力を向上させる必要があります。
当科では独自に開発したNoTAM(Non-Technical skills for Acute Medicine)コースを医師・看護師を対象に開催するとともに、診療シミュレーションを業務として繰り返して行い、チーム医療の質向上に取り組んでいます。