多発性骨髄腫治療2

-移植-

 化学療法の項で記載しましたようにMP療法、多剤併用化学療法のみでは生存期間の
延長は期待できないことから、大量化学療法を前処置治療とした自家造血幹細胞移植
が試みられるようになりました。自家造血幹細胞移植と標準量化学療法の無作為試験
により治療関連死亡を増加させることなく、完全寛解率、無イベント生存率、全生存率を
改善させることが証明されました。サリドマイド、ボルテゾミブの登場もあり、今後、初期
治療の治療戦略が変わる可能性がありますが、現時点では65歳以下で移植条件を満
たし、移植に関して同意が得られる症例に対して有用な初期治療と考えられます。自家
造血幹細胞移植施行前に十分な腫瘍量の減少と造血細胞を傷害することなく移植に十
分量の幹細胞を採取可能な治療法の選択が重要となります。

A.自家造血幹細胞移植
 自家造血幹細胞移植は65歳以下の治療を要する骨髄腫症例に対する標準的治療と
なっております。移植方法には自家骨髄移植あるいは自家末梢血幹細胞移植がありま
すが、後者が推奨され、前述したように末梢血幹細胞採取のための治療が重要となりま
す。
 (1) 寛解導入療法兼末梢血幹細胞採取のための治療
 自家末梢血幹細胞移植前に行われる寛解導入療法を兼ねた造血幹細胞採取のため
の治療として現時点で標準的な治療法はビンクリスチン、ドキソルビシン、デキサメタゾ
ン併用療法(VAD療法)を施行後、エンドキサン大量療法あるいはエトポシド大量療法と
顆粒球コロニー刺激因子を併用した末梢血幹細胞採取となります。Rajkumarらは未治
療症候性骨髄腫207例をデキサメタゾン群 104例、デキサメタゾン・サリドマイド併用群
103例に割り付け、その治療成績と幹細胞採取が可能であったか否かを評価した結果、
デキサメタゾン・サリドマイド併用療法は奏効率63%、41%とデキサメタゾン単独療法よ
りも有意に良好な結果が得られております。従って欧米では寛解導入療法を兼ねた末
梢血幹細胞採取のための治療法としてデキサメタゾン・サリドマイド併用療法が使用され
ております。
 (2) シングル自家末梢血幹細胞移植
 1996年Attalらがメルファラン(140mg/sq)とtotal body irradiation(8Gy)療法を前治
療とした自家末梢血幹細胞移植がMP療法をはじめとする従来の化学療法よりも無イベ
ント生存率、全生存率ともに有意に優れていたことを報告しました。治療関連死亡は3%
前後であり、完全寛解例も40-50%に得られるものの、その多くは再発し、本邦における
5年生存率は46.3%と報告されています。

(2)タンデム自家末梢血幹細胞移植
 自家末梢血幹細胞移植の成績向上を目的として自家末梢血幹細胞移植を連続2回施
行するタンデム自家末梢血幹細胞移植が検討されてます。両者の比較試験の結果から
初回移植でvery good partial responseあるいはnear CRに到達しなかった症例に対す
るタンデム自家末梢血幹細胞移植の有用性が明らかにされました。しかしながらCR例
ではその有用性は明らかではなく、また7年生存率、無イベント生存率は42%、20%であ
ったことより、長期予後改善のため更なる治療戦略が必要と考えられます。

(3)自家造血幹細胞移植後の維持療法
 サリドマイドの維持療法としての有用性を確認するためにBarlogieらは668例の骨髄腫
症例(performance status 0〜2、75歳以下の進行性ないし症状を有する未治療骨髄
腫症例)を自家末梢血幹細胞移植後、サリドマイド投与群(323例)、サリドマイド非投与
群(345例)に割り付け、その予後について解析を行いました(全体として85%が初回の自
家末梢血幹細胞移植を受け、67%の症例がタンデム自家末梢血幹細胞移植を受けまし
た)。サリドマイド投与群はサリドマイド非投与群と比較してCR率、無イベント生存率は有
意に優れておりましたが、全生存率は両群間に有意差は認められませんでした。有害事
象としてサリドマイド投与群は深部静脈血栓症発症率が高く、また洞性徐脈から失神発
作が38例に発症しましたが、サリドマイド非投与群間の治療関連死亡発生率に有意差
は見られておりません。全生存率に明らかな有意差が認められなかったことより、タンデ
ム自家末梢血幹細胞移植のような強力な治療後に残存した骨髄腫細胞に対してはサリ
ドマイドはそれほどの効果が期待的ないものと考えられます。

B.同種造血幹細胞移植
 同種造血幹細胞移植では超大量化学療法の抗腫瘍効果のみならずドナーリンパ球が
骨髄腫細胞を攻撃する効果(移植片対骨髄腫効果)が期待できます。しかしながら骨髄
腫が平均年齢65歳前後と高齢者中心の疾患であり、骨髄破壊的移植(移植のサポート
なしでは自家造血能の回復が見込めない強度の治療)では治療関連死亡が多くなり、ま
たそれを乗り切ったとしても急性移植片対宿主病、感染症による移植関連死亡もまた若
年者と比較すると多くなります。従って、同種造血幹細胞移植による再発率の減少は生
存率に反映されず、骨髄破壊的同種移植は骨髄腫の治療戦略からははずれていまし
た。
 1990年代に高齢者あるいは臓器障害を有する症例に対して前治療強度を減弱させた
骨髄非破壊的同種移植が登場しました。EBMTの報告では3年全生存率41%、無進行
生存率21%、Shimazakiらの報告においてもそれぞれ38.5%、18.8%となっております。
完全寛解に至った症例においてその予後は良好ですが、前治療歴の長い症例、進行期
症例においては効果は期待できないと報告されております。
 進行期症例では骨髄腫細胞が多数残存しているため骨髄非破壊的同種移植のメリッ
トが十分発揮できない考えられます。Krogerらは進行期骨髄腫に対してメルファランに
よる自家移植後にフルダラビン、メルファランおよび抗胸腺細胞グロブリンを用いた骨髄
非破壊的同種移植を施行したところ(タンデム自家・ミニ移植)、移植関連死亡11%、完
全寛解率73%(自家移植後は18%)と報告しました。タンデム自家・ミニ移植とタンデム
自家移植との無作為試験では高リスクを対象とした試験では全生存率、無イベント生存
率に有意差は認められなかったものの、Brunoらが行ったミニ移植の前処置を2Gyとし
たタンデム自家・ミニ移植はタンデム自家移植よりも全生存率、無イベント生存率ともに
良好な結果が得られたと報告しております。

今後、自家移植、同種移植、サリドマイド、ボルテゾミブを組み入れた最も治療効果の高
い治療戦略の確立が待たれるところです。


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