皮膚悪性リンパ腫は皮膚病変を初発症状とする非ホジキンリンパ腫です。皮膚悪性リ
ンパ腫は疼痛、掻痒感などによって生活の質の低下をきたし、しばしば細菌感染症を併 発するため皮膚科における局所療法が必要となります。一部の症例において局所療法 に対して不応性となり(進行期)、内科的治療の対象となりますが、他の病型の悪性リン パ腫に比較すると化学療法に対する反応性が乏しいのが現実です。従って基本的には 皮膚悪性リンパ腫は早期から強力な治療は行わずに長期にわたって症状緩和を図って いくことが治療の第一目標となります。本項では皮膚T細胞リンパ腫について簡単に説 明いたします。
皮膚T細胞/NK細胞リンパ腫WHO-EORTC分類
皮膚悪性リンパ腫の代表的な病型について記載いたします。
(1)菌状息肉腫(Mycoides fungoides、MF)
皮膚原発T細胞リンパ腫の中で最も頻度が高い型です。初期には湿疹病変に類似した
紅斑性局面が見られ(紅斑期、patch stage)、数年〜十数年の経過で扁平浸潤期 (plaque stage)、そして腫瘍期(tumor stage)に移行、リンパ節への浸潤も見られるよ うになります。
組織学的な特徴は真皮乳頭層に小型〜中型の細胞が帯状に浸潤、脳回転状の核を
もつ大型の細胞が少数混在します。表皮向性が見られ表皮下部に腫瘍細胞が集まり Pautriet微小膿瘍と呼ばれる集蔟巣を形成します。また表皮基底層に線状に真皮内リ ンパ球よりも大型、時に周囲をハローで取り囲まれたリンパ球が浸潤する像が見られま す。腫瘍期には表皮向性は失われ大型の細胞が真皮内に浸潤します(臨床症状が出現 する前に起こることもあります)。細胞表面形質はCD3、4、45RO陽性、CD8、CD30陰性 となります。
治療
病期によって異なる治療法が選択されます。初回治療として外用療法、紫外線療法と
多剤併用化学療法と放射線療法を比較した無作為臨床試験の結果では無病期間、予 後に有意な差は認められず(Ref)、化学療法は皮膚科治療に抵抗性になるまで通常は 行われません。
ステロイド外用のみでは反応が不良である場合には紫外線療法が行われます。光感
受性を高めるメトキサレンを内服後に長波紫外線を照射するPUVAおよび最近では 311nm前後の波長を照射するナローバンドUVBが用いられています。両者は同等の効 果がある(Ref)ものの紫外線治療により患者予後を改善するかについては不明とされて います(Ref)。
紫外線療法で効果不十分な場合にはインターフェロンγ(商品名オーガンマ:菌状息
肉腫、皮膚限局型成人T細胞白血病・リンパ腫に適応されます)、エトレチナート(商品名 チガソン:合成ビタミンAであり、角化症治療薬として用いられる)を併用します。インター フェロンγの奏効率は58.3%(本邦12例中)、奏効期間中央値は81日と報告されており ます。世界的にはインターフェロンαが用いられていますが、本邦では承認されておりま せん。インターフェロン単独治療(週3回皮下注)で3-6ヶ月の治療継続によって奏効率45 -64%、奏効期間は4-28ヶ月と報告されております(Ref)。PUVAとの併用療法では奏効 率は90%以上と高い奏効率が得られております(Ref)。インターフェロンはUVB、PUVA 療法に引き続いて維持療法として用いられることがあります。
難治性腫瘤に対しては放射線療法が姑息的に施行されますが、抵抗性の場合にはシ
クロフォスファミド、クロラムブシルメソトレキセート、エトポシド内服、多剤併用化学療法 などが行われます。単剤化学療法の奏効率は62%(完全寛解率32%)、奏効期間は3- 22ヶ月であり(Ref)、特に多く用いられるメソトレキセート(10-50mg/週・経口)療法(対 象は局所療法抵抗性の体表面積10%以上の紅斑・局面を有したT2症例)では奏効率 33%(完全寛解率12%)、奏効期間中央値は15ヶ月と報告されております(Ref)。T3(腫 瘍形成)では効果は期待できませんが、T4期の症例では奏効率58%、奏効期間中央値 31ヶ月と良好な結果が報告されています(Ref)。進行期症例に対する多剤併用療法は 奏効率(81%、完全寛解率38%)は上昇するものの奏効期間に有意差(5-41ヶ月)は見 られないことが報告されています(Ref)。
同種造血幹細胞移植は移植片対リンパ腫効果およびドナーリンパ球による免疫効果
により腫瘍抑制が得られ、完全寛解に至った症例も報告されています(Ref)。高齢者 (50-55歳以上)を対象とした骨髄非破壊的前処置を用いた同種移植では治療抵抗性進 行期4名中3例が生存中央値45ヶ月で無病生存を続けたと報告(Ref)されており、今後、 治療戦略として考慮してもよいものと考えられます。
(2)CD30+cutaneous anaplastic large cell lymphoma(ALCL)
単発ないし限局した潰瘍形成を伴う結節・腫瘤が認められます。この腫瘤を形成する
大型の腫瘍細胞はCD30陽性であり、円形〜卵型、不整型の核と明瞭な核小体、豊富な 細胞質を有する細胞(anaplastic cell)であり、この細胞がシート状に増殖しています。 細胞表面抗原はCD30、CD4(時にCD8)陽性で、他のT細胞系列を示すCD3、CD5など は欠損します。皮膚原発ALCLは節性ALCLとは異なり、EMA陰性、CD15陰性であり、 また染色体検査では節性ALCLで高頻度で認められるt(2;5)転座は皮膚ALCLでは見ら れません。
治療
皮膚外病変がなければ皮膚科的治療が行われます。限局性病変の場合には切除、放
射線療法、多発性している場合には経口抗癌剤(エトポシド等)が投与されます。リンパ 節、臓器浸潤がある場合には多剤併用化学療法が必要となります。一般的には皮膚原 発未分化大細胞リンパ腫は予後良好と報告されております。
(3)セザリー症候群(Sezary syndrome; SS)
紅皮症、全身リンパ節腫脹、皮膚、リンパ節、末梢血への腫瘍細胞浸潤(セザリー細
胞)が特徴です。掻痒を伴う紅皮症、また脱毛、掌蹠の過角化が見られます。病理所見 は菌状息肉腫と同様ですが、表皮内浸潤(表皮向性)が軽度のことが多いとされていま す。菌状息肉腫とセザリー症候群の病期分類についてはInternational Society for Cutaneous Lymphoma(ISCL)とEORTCより下記の分類が提示され、妥当性について の検討が始まっております。
治療
5年生存率は20%前後であり、非常に予後不良であり、有効な治療法が現時点ではあ
りません。同種造血幹細胞移植の効果が期待されますが、高齢発症が多いために施行 例は限られます。
(3)CD30陰性cutaneous large T-cell lymphoma
WHO-EORTC分類ではPrimary cutaneous peripheral T-cell lymphoma,
unspecifiedに相当します。単発、多発する結節、腫瘤が見られ、CD30陽性ALCLよりも 急速に進行し、化学療法に抵抗性を示し、予後不良です。組織像はMFのlarge cell transformationに類似しますが、紅斑は認められません。
(4)皮下蜂窩織炎様T細胞リンパ腫(Subcutaneous panniculitis-like T-cell
lymphoma)
主として下肢に皮下結節を生じ、臨床症状として体重減少、全身倦怠感、発熱を伴い
ます。皮下脂肪織に種々のサイズの腫瘍細胞が浸潤、核破壊、赤血球貪食が見られま す。表面抗原はCD3、CD8、細胞障害性分子であるTIA-1、グランザイム、パーフォリン が陽性、CD4、CD56は陰性となります。
平成20年8月24日初稿
平成20年8月26日TNM分類追加
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