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Diarrhea during the conditioning regimen is correlated with the occurrence of severe acute graft-versus-host disease through systemic release of inflammatory cytokines.
前処置治療中の下痢は炎症性サイトカインの全身放出によって重症急性移植片対宿主病発症に関連する
 移植片対宿主病(graft-versus-host disease、GVHD)は同種造血幹細胞移植における大きな障害である。GVHD発症を予測するために多くの指標が用いられているが、その発症予測は未だ困難であり、急性GVHD発症をできる限り正確に予測することは大きな挑戦である。移植前処置中や移植後早期に生じる全身性炎症性サイトカイン放出は急性GVHD発症に大きな原因となる。更に移植前処置により消化管は障害を受け、下痢は前処置治療中の一般的な症状である。そのため、我々は前処置関連の下痢と、前処置中・移植後早期の全身性炎症性サイトカイン放出、急性GVHD発症における関連を検証する前向き研究を行った。本研究によって下痢の期間が5.5日以上あること、最大量が8.72ml/kg以上あること、移植3日前から移植日までの平均下痢量が7.94ml/kg以上あることがGrade II-IVの急性GVHD発症の要因であることが判明した。それらの3つのうち1つ以上を満たす下痢を重症下痢と定義した。また下痢と急性GVHDが前処置中と移植後早期の血清TNF-α値やIL-6値と関連することが初めて示された。本研究によって、前処置治療中の下痢は急性GVHDの予測指標として活用できる可能性があることが示され、下痢と急性GVHDの関連を説明できる機序を示すことができた。前処置関連の重症下痢を発症した患者に対して、障害を受けた消化管からの炎症性サイトカイン放出を抑制する目的で低用量ステロイドを使用することで急性GVHDの発症を減少させることができる可能性がある。
平成22年12月27日
吉田全宏

Allogeneic hematopoietic cell transplantation for hematologic malignancy: relative risks and benefits of double umbilical cord blood.
造血器悪性腫瘍に対する同種造血幹細胞移植:複数臍帯血を用いることの相対的危険性と有益性.
 臍帯血移植は血縁・非血縁に適格なドナーがいないときの代替ドナーとなりうることが示されてきた。成人において細胞数が臍帯血移植を成功させる上で最も大切な因子である。細胞数2.5×10^7/kg未満またはCD34数1.7×10^5/kg未満では生着不全、高い非再発死亡率と関連している。複数臍帯血移植はこの細胞数を可能にした。しかし現時点では他の移植源との比較における危険性、有益性に関しては確立されていない。
 フレッドハッチンソン癌研究センターとミネソタ大学において造血器悪性腫瘍に対して血縁者(matched related donor、MRD)、非血縁者(matched unrelated donor、MUD)、1抗原不一致非血縁者(mismatched unrelated donor、MMUD)、複数臍帯血(double umbilical cord blood 、dUCB)を移植源とし、骨髄破壊的前処置後移植を施行した536例について解析を行った。
 @5年白血病非再発生存率はdUCB 51%、MRD 33%、MUD 48%、MMUD 38%と4つのグループで同等であった。
 A再発の危険性はMRD 43%、MUD 37%およびMMUD 35%と比較するとdUCB 15%と低値であったが、非再発死亡率はMRD 24%、MUD 14%と比較するとdUCB 34%と高値であった。これらの結果は45歳以下の症例に限っても同様であった。
 dUCB移植で早期非再発死亡率が高かったため、移植後第100病日での白血病非再発生存者について解析を行った。このグループにおいてもdUCB移植の再発危険性が最も低値を示した。病勢、診断から移植までの期間、診断時・移植時の年齢で補正し、多変量解析を行った結果も同様であった。
 非再発死亡率はdUCB移植では好中球生着遅延が深く関与している。他の移植源に比較して好中球で1週間、血小板で4週間遅延していた。HLA不一致が大きいにもかかわらず急性GVHD II-IV発症は最も低率であった(MUD、MMUDが高率)。慢性GVHDに関してはdUCB移植で最も低率であった。
 結論として我々は造血器悪性腫瘍でMRD、MUDのいない患者にはUCB移植を考慮することを勧める。3.0×10^7以上のunitがないときにはdCBTが代替となる。dUCB移植の再発率低下は興味あるところであり、このメカニズムを明らかにするために更なる研究が求められる。

平成22年12月20日
西本光孝

Consensus conference on clinical practice in chronic graft-versus-host disease (GVHD): first-line and topical treatment of chronic GVHD.
慢性移植片対宿主病における臨床診療の統一見解会議-慢性移植片対宿主病に対する第一選択および局所的治療.
 患者の高齢化、非血縁、末梢血幹細胞使用の増加で慢性移植片対宿主病(chronic graft-versus-host disease、cGVHD)は増加傾向だが、病態整理は急性GVHD(acute GVHD、aGVHD)と比べて不明な点が多く、治療のエビデンスも殆どない。第一選択のステロイドですら統一見解が得られているとは言えない。診断も重症度分類、病期、効果判定も十分なものがなかった。
 今回、2009年にcGVHD会議を行い、臨床試験、後ろ向き解析、学会発表、症例報告、レビュー論文、実地臨床などを踏まえてガイドラインの策定を目指した。参加国はドイツ、オーストリア、スイス。cGVHDのエビデンスは殆どないため、殆どはカテゴリーCとエビデンスIIIレベル。cGVHD診断はNIH基準に基づいて行い、次に古典的cGVHDをaGVHDとの重複かあるいは遅発性aGVHDかを区別。重複であれ、遅発性aGVHDであれ、aGVHD徴候をもつものは予後が悪いという報告があるが議論の余地があるところである。cGVHDでは血小板減少と進行性タイプが予後不良とされているが、従来の進行性cGVHDはその中に移植後第100病日以降のaGVHDも含まれて解析されているので解釈は限定的となる。ステロイド抵抗性の定義の統一もない。1mg/kg/日のステロイドを2週間使用しても進行するのは抵抗性として妥当と考えられる。
[慢性GVHD病期]
Mild: 発症臓器1-2、臓器徴候の重症度1(肺は含まず)
Moderate: 発症臓器3以上、臓器徴候の重症度 2(あるいは肺のみ)
severe: 発症臓器3以上、臓器徴候の重症度3(あるいは肺を含み2)
全身治療 
Mild GVHDの治療
 局所ステロイドのみor全身ステロイドのみ。再発リスクの高い患者では局所療法が選ばれる傾向だがステロイド以外の抗炎症作用薬(筋膜や関節に対して)、ウルソ(肝障害に対して)を使用。局所ステロイド治療は症状がある限り続行、全身ステロイドも少なくても4-8週はGVHD再燃を防ぐ点で投与した方が良い。小児科では成長遅延の危惧から、非悪性疾患では移植片対腫瘍効果が不要なので早期からの局所ステロイドが好まれる。肝障害や筋膜炎は全身ステロイド選択。減量prednisone(PDN)について良いか悪いかのエビデンスはない。

Moderate GVHDの治療
 第一選択はPDN1mg/kg/day全身投与か、相当するmethyl-prednisolone(mPSL)。
1980年代にExtensive cGVHDに、PDN+他の免疫抑制剤(azathioprine, cyclophosphamide)で治療成績向上という報告。Plt10万以上のcGVHDに、PDN単独 vs. PDN +azathioprine比較試験ではPDN aloneが有意に良好な成績を示したため、通常リスクのextensive cGVHDに関して標準治療となった。同様に通常リスクにCsA追加有無で比較されているが全生存率(overall survival、OS)もGVHD治療成績も有意差が認められなかった。PDN量(1mg/kg/day)は、これより高用量も低用量についても比較試験は無いため、低用量PDNについて検討する余地がある。
 フレッドハッチンソンの提案:PDN1mg/kg/dayを2週間、6-8週かけて 1mg/kgを隔日投与まで減量した後2-3カ月続けるあるいはそのまま減量を続けて10-20%/月の割合で減量(調査では31施設中26施設は2週間後症状がactiveでなければ減量を開始)。
 ジョーンズホプキンスの提案:GVHD治療反応したうち90%は、隔日投与まで減量後、3カ月以内にさらに減量。
 CRの患者は10-20%/monthで減量可能だが、まだ治療に反応中の場合その量で維持し、3ヶ月以内に再評価。減量中に再増悪した場合にはステロイド再増量が反応得られるかもしれない。3カ月後治療反応ない場合、次の治療検討。
 優位性不明:隔日投与vs. 連日、朝一回vs.分割投与、PDN vs. mPSL
 Calcineurin inhibitor(シクロスポリン、タクロリムス)の役割
 第一選択治療としてのステロイドに比べて役割がはっきりしない。小規模な研究で検討されている。非ランダム化試験FH(20年前):ハイリスク40例(複数臓器のcGVHD, 血小板10万未満)に対して、PDN1mg/kg とCsA 6mg/kg×2回/日 (隔日投与、交互に服用)の成績は9カ月後CR率33%、4年OS51%(同様の時期にPDNのみハイリスク患者38名のコホートデータがCR率16%、OS26%)この研究により、治療にCNIを加えるという戦略が使われてきた。Kocらの比較試験:Plt 10万以上新規cGVHD患者287例、PDN隔日投与+CsA隔日投与(交互服用)vs. PDN隔日投与で3年TRM移植関連死亡は有意差なし。二次治療に進んだ割合、免疫抑制中止率、悪性疾患の再発、OSも差がなし。PDN +CsA交互服用で無進行生存率が劣っていた。Progressive cGVHD 45例で、PDN +CsA交互服用で移植関連死亡が増加、5年OSが劣っていた。ただし、PDN +CsA交互の群では、有意に大腿骨頭壊死減少、ステロイド合併症の減少可能性示唆。この研究は骨髄破壊的かつBMの移植のデータ。(現在は骨髄非破壊的、PB使用が増え、免疫抑制もより長期間で、PDN+CNI併用について否定しきれない。第一選択治療としてタクロリムスの報告は少なく、経験のみの報告。
@ cGVHDに関してのCNIの役割についての報告は少なく、広く推奨できない。
A 標準リスク患者(De novo, quiescent GVHD、血小板10万以上)では、CsA併用はステロイド関連合併症リスクの高い患者では考慮されてよい(高齢女性、合併症など)。
B CsAとFK506を比較したものはないが、実地臨床や間接的エビデンスでは差がないと示唆されている。
C CNI隔日投与に関して有意なデータがないので、通常臨床では毎日投与されているハイリスク(血小板10万未満、progressive)cGVHDに対するCNI併用については確定できない。

Sever cGVHD治療
 Moderate cGVHDと基本的に同じ。治療が長期化する為、ステロイド+CNI併用のメリットは合併症減少の面であるかもしれない。また、CNI減量中に起こったcGVHDはCNI併用メリット有りそうだが、検討されてない。3薬剤使用(+サリドマイドなど)については比較試験を行ったところ有意差は認められず。2薬剤使用、ステロイド+non-CNI(MMF、Rapamycin,、ECP)についてもまだ評価は定まっていない。アザチオプリン併用については、有意に効果がみられたが、有意に生存率をおとした。ECPは感染関連死亡率を上昇させないので、希望のある併用療法、またはfirst lineになる可能性がある。

Progressive onset cGVHDの治療
 予後は悪いとされている。発症はステロイド+CNI併用がほとんどの施設で施行されている。PDN減量中+CNI中にprogressive onset cGVHD発症した場合にはPDNを増量して、MMF、 ECPを加えると回答。3薬剤を使用は感染症合併による死亡率の上昇が報告されておりMMFよりはECPの方がよい可能性が示唆されている。もしくはCNIをmTOR inhibitor (Rapamycinやエベロリムス)に変更するか。
 アザチオプリン
 cGVHDに関して「治療効果」あり。標準リスク(Plt>10万)cGVHDに対しては、PDN+アザチオプリン併用 vs. placebo併用の比較試験で非再発死亡率が40%vs.21%と上昇、OSが47%vs. 61%と有意に低下。アザチオプリンはfirst lineのcGVHDにおいて併用されるべきではない。
 サリドマイド
 第二選択薬剤として「治療効果」あり。第一選択薬剤としてはCsA+ PDNにサリドマイドを併用する/しないの2つの比較試験では効果の増強なし。CsA+ PDNにサリドマイドを200-800mg/day加えるか加えないかの研究(成人新規cGVHD患者)で、(1アーム27名)で、6カ月後、効果、死亡率は変化ないが、副作用(便器、嗜眠、神経障害)は頻繁にみられた。
2つめの研究は1アーム26名、ハイリスクcGVHD(血小板低値、progressive)患者で200mg/day以上のサリドマイドを投与、その結果、副作用が強く耐容性がなく(神経障害と好中球減少の為)93%が中央値53日で中止となった。
 MMF
 MMFは第二選択薬剤としてよく用いられる。第一選択薬剤としては、cGVHD診断14日以内にCsA、 FK506に加えてplaceboかMMFを加える比較試験が施行されたが、効果は期待できないとして途中中止となった。OSはMMF群で少し低く(87% vs. 74%)治療成功率はMMF併用でも増加せず。血小板減少、再発、感染症リスクは上げる(ステロイド併用下での解釈)、PDNの量が減らない。3薬剤目で加えるMMFは利点がない。PDNやCNIが減量中での使用はあり得る。初期治療でCNIの代わりになるか、ステロイド早期減量が必要な群などは候補となるが、2薬剤目としてのMMF(ステロイドに併用)については、評価されていない。
 ECP
 ステロイド抵抗性やステロイド合併症のある患者で研究された。GVL効果を阻害せず安全性が高い。専門家は早期使用を薦めている。小児やlimited cGVHDにはECPを第一選択薬剤として使用するように記載。新規診断cGVHD(肝臓または肺病変あり)に対してのECP併用の前向きPhase II study進行中(ウイーン大学)。UpfrontのECPはpromisingだが評価待ち。

 局所治療
 GVHDは病態生理的には全身病変だが、症状は局所のことも多く、局所療法は治療選択となる。
 Mild GVHDはよい適応(口内、皮膚)で、全身療法が必要でない例もある。とくに再発リスクの高い患者ではGVL効果を消さずに済むのでよい。全身に広がらないかを注意深く見極める必要あり。
 Moderate/severe cGVHDでは、局所療法は、全身状態に加えて使用されるが、特に口内病変では局所療法を抑えるのに重要。光学療法は皮膚病変に対して。また、全身ステロイドに対して多くは効果がみられても局所的に効果にばらつきがあった場合、使用されることがある。局所療法は副作用が少ないので、全身ステロイド量を減らせたり、治療効果を増強させる意味合いで使用される。小児では選択する意味が高い。
 皮膚cGVHDの局所治療
 一番多くみられる部位で、皮膚限局cGVHDも多い。苔癬化病変が早期、晩期病変としては表層や深部の硬化病変で強皮症様となる。QOLや活動性を落とす。局所療法の適応は、それのみでも、全身療法と併用でも利点があると思われるが、皮膚病変が広範な時は、軟膏は使用困難である。局所のCNIも使用されるが、大量に使用されると全身の副作用が出現する。
 皮膚に対してのPUVA
 PUVAは乾癬や皮膚Tリンパ腫、苔癬、局所の強皮症で標準治療。retrospectiveでもprospective研究でも検討済み。40人のPUVA治療患者のretrospectiveな解析では高い奏効率(40人中31人)。PUVAは副作用が少なく効果がみられる治療であるが、皮膚が改善しても全身の症状の改善とは関連がない。方法:8-methoxypsoralen(8-MOP)を服用2時間後にUVA0.6mg/kg照射(もしくは8-MOPの0.005-0.0006%クリーム、もしくは最終濃度0.5-1mg/lの8-MOP入浴)。内服後24時間は、皮膚と眼のUV防護が必要。典型的な治療方法: 3-4日/週、効果あれば徐々に漸減。UVのdoseは0.5J-1J/cm2。UVAは苔癬化病変には効果がある。強皮症には効果が薄く、毒性が出やすい。ボリコナゾールやST合剤で毒性(光アレルギー)が増強。内服8-MOPの副作用に嘔気と軽度肝障害。
 UVA1
 UVA1は長波長のUVA(340-400nm)で、強皮症で使用。Calzavaraらは、9人の皮膚cGVHD(4人苔癬化病変、5人強皮症様病変)患者にUVA1使用し、全員に反応ありと報告。(CR5名で、強皮症様患者も)。Wetzigらのretrospectiveな報告では、10名の皮膚cGVHD患者(7人苔癬化病変、3人強皮症様病変)にUVA1治療を行い、6名CR、3名PR。UVA1のdoseは50J/cm2を週3回。治療を早期に終了すると皮膚病変は再燃。High-doseのUVA1治療は、光に対して敏感な患者に対してUV防護の必要がないことと、全身性の副作用がないこと。
 UVB 
 Narrow band UVB(311nm)と、broad band UVB(280-320nm)は皮膚cGVHDに対して使用される頻度が多くなってきた。しかし、エビデンスは限られている。Enkが1998年に、5名(苔癬化病変3名、強皮症2名)の患者にbroad band UVBを使用→苔癬化病変の患者のうち2名反応あり、強皮症様病変の患者には反応なし。UVA1やPUVAと違い、深層まで到達しない。UVB治療は3-5回/w。
 Protopic (局所タクロリムス) 
 Protopic 0.1%はアトピー性皮膚炎の治療薬。10名のステロイド依存性皮膚cGVHD患者についてretrospectiveに解析(Eladら)。全身療法(様々)との併用。→7名で反応あり、1名CR。濃度0.03%で2-3回/日(→0.1%まで増量)耐容性があった18名のprotopic 0.1%を皮膚cGVHDに使用(ChoiとNghiem)→72%が反応し、紅斑や皮疹が消失。ただし再燃率高く2名で効果消失し、全身治療が必要となった。一番の利点は、全身性CNIの使用量を減らせることである。ステロイドでみられるような皮膚萎縮は見られない
 Pimecrolimus (Eidel)
(注;pimecrolimus[商:Elidel(Novartis)日本未開発]はアスコマイシン(ascomycin)から誘導されたマクロライドで、T-リンパ球による前炎症性サイトカインの産生を阻害し、皮膚肥満細胞及び好塩基球から炎症性メディエーターが遊離されるのを防ぐ。FK506と同様、アトピー性皮膚炎の局所療法としては確立。Ziemerらは、小児で繰り返し苔癬化病変を発症する小児のcGVHDがCRに達したと報告。Protopicよりも良い点は耐容性。顔はステロイド治療避けた方が良いので良い適応かもしれない。
 局所ステロイド
 皮膚疾患に対して標準治療。cGVHDに関して系統的に評価されていないが頻繁に使用されている。耐容性がよいが、皮膚感染のリスク上昇、創傷治癒遅延、皮膚萎縮を起こす。一般的に、首から下はmiddleかupper-mid strength、後者は2週間を超えて使用すべきでない。顔にはhydrocortisoneなどの低力価のステロイドを使用するべき、効果が薄い時は局所CNIを考慮する。

 口腔粘膜のcGVHD局所療法
 BMTでは一番頻度の高いcGVHDが口腔粘膜病変(PBでは2番目)。通常全身治療に反応が悪く、全身性のcGVHD病変の重症度との関連がない。cGVHD患者では口腔のウイルス、真菌性病変が多いので、十分な診断と予防的口腔衛生、真菌予防などが行われる必要がある。二次性悪性疾患発生のリスク上昇に注意。
 Budesonide 局所治療
 口腔粘膜局所療法でBest result。Eladらの報告では、12名の患者全員が、budesonide rinseで反応し、うち7名はgood responseかCRであった。Sariらは、retrospective, matched pair研究で、全身療法に±budesonideを比べた。(−12名、+11名)。2群間で、budでは口腔病変の反応率は83%、コントロールでは36%。吸収率:健常者では口内の2%しか吸収されないが、口腔cGVHD患者では10%吸収。budの効果に関して、Phase II studyが終了したところだが、結果はまだ。Phase III trialでは、budを発泡性のタブレットにしている。(現在進行中)。商品化されたものでは、Budenofalkカプセルを砕いて5-10mlの水に溶かす必要がある。rinseは、3回/日、各10分間。
 Dexamethasone  
口腔cGVHD患者16名のretrospective解析。0.1mg/mLのDexa rinseを4回/日。9名CR, 2名効果あり、5名反応なしで、効果はあって副作用も少ない様。高濃度0.4mg/mLのDexaが、現在Phase II trialの最中。Dana-Farberでは、局所Dexaと、局所FK506を比較。Dexa rinseは市販薬はないので調整が必要。
 Triamcinolone Flucinonide, Clobetasole, Betamethasone Dipropionate, PDN局所治療 
トリアムシノロン(ケナログなど)は、感染のない口腔炎症病変に対して適応。頻繁に使用されているが、効果を評価されたことはない。通常一日1-2回使用される。
 CsA 局所治療
  Epsteinらは、11名の口腔cGVHDでDexa含む前治療に効果がない例のCsA rinseの効果retrospectiveな解析を行った。CsA rinse 2回/日。11名中7名が反応した。別の研究では、高力価の局所ステロイドもしくは局所+全身療法でも口腔内苔癬化病変がactiveな患者に対して、hydrooxypropyl celluloseベースのCsA軟膏を用いた。4名中3名の潰瘍性病変の患者で50%以上の改善。苔癬化病変に良いかも→RCT必要。
 Topical FK506
 よく用いられる。Eckardtらは、3名の抵抗性口腔病変が局所FK506で改善したと報告。軟膏をGVHD病変に2回/日。Fricainらは、3名の口腔cGVHDに長期的な効果があったと報告。Albertらは、pilot研究で、FK506局所治療が6名でCRかgood PR、4名がPR、2名が残存したと報告。Sanchezらは、0.1%FK506を3回/日×2カ月間使用すると、口腔病変がCRになると報告。最近、Dexa(0.5mg/5mL)とFK506(0.5mg/5mL)の口腔内rinseが提唱され、Phase II RCTで、DexaとFK506の局所治療が比較されている。
 口腔内Phototherapy
 Retrospectiveな解析で、7名の口腔cGVHD患者に口腔内PUVA施行。減量methoxypsoralen使用後1時間でUVA照射。3-4日間/週で徐々に0.5Jまで増量していく。7名中4名が局所でCR。2名改善、1名NR

 Intestinal GVHD 局所治療
 全身性治療併用も、単独使用もある。局所での作用機序の理解も必要。たとえば、Budesonide内服は大腸遠位までは届かないし、カプセルは食道に作用しない。
 Budesonide
 13名のGI cGVHDのretrospectiveな解析で、3mg3回内服、CR7名、PR1名。1名はGIではCRだったが多臓器で症状が残った。薬剤中止にて3名が再燃。他の部署のGVHD悪化が3名。やはりbudesonideの作用は「局所」であることを示唆している。Mild/moderate cGVHDでは耐容性が良い。
 Beclomethasone 
  GI cGVHDでprimary treatmentで全身ステロイドのみより全身ステロイド+Beclo併用を比較したRCTで、Beclo併用のほうが効果あり、生存率も改善した。Iyerらは、1st lineの全身治療をして減量中症状がflareした例をステロイド抵抗性とし、13名の抵抗性患者にBeclo 2mg4回をコーンオイルに混ぜて投与。(CsAやmPDNは継続。)3名CR、6名PR、4名NR。最近の報告では、33名で86%の反応率があるとの報告もあり、副作用の少ない有用な選択かもしれない。

 眼のcGVHD
 頻度が多い合併症で、QOLを落とす。結膜炎、偽膜、瘢痕性結膜炎、乾燥性角結膜炎、上皮の欠損や角膜潰瘍など。涙腺の破壊を伴うと非可逆的となる。人工涙液、涙管プラグ、局所免疫抑制剤が使用される。
 眼のステロイド局所治療
 Robinsonらは、7名(2名は局所治療のみ、5名は全身性免疫抑制剤使用にても眼の症状改善がなかった例)のcGVHDの症状として瘢痕性結膜炎を呈した患者の報告で、Predonisolone 1%の点眼4回/日(から漸減)で、全員CRとなった。1名はその後再増悪したが、2次治療にて反応。全員で炎症は治癒したが、涙液産生の点では改善せず。21名のシェーグレン症候群の患者での、mPSL 1%の点眼薬を3-4回/日使用して2週間後漸減で、57%はCR, 残りの43%も改善。DEXAの点眼薬でも同様の報告あり。副作用としては角膜の菲薄化、感染性角膜炎、眼圧上昇、緑内障、白内障。短期使用にとどめるべきで、注意深い眼科医の診察が必要。
 眼のCsA局所治療
ドライアイ877名(うち31%はシェーグレン)のplacebo control RCTが行われ、CsA0.1% or 0.05%点眼を2回/日使用で、60%がシルマーテスト上著明な改善あり(涙液産生の点で改善)。症状も乾燥範囲も改善。0.05%の方が結果よく、慢性GVHD予防にCsA点眼とCsA含有インプラント埋め込みのPhase II試験が現在行われている。少数の症例報告では、CsAの効果は示されている。副作用としては、眼の灼熱感、しみるような感じ、角膜の発赤などだが、CsAの濃度依存性。0.05%の方が良いかも。

 肺GVHDの局所治療
BO, BOOP, 間質性肺炎など。病態生理の理解が十分でないが、cGVHDのBOに対する局所治療の報告あり。病態生理の理解にはBO診断に生検が必要。局所治療は構造変化を起こす前の初期段階で有用かもしれない。
 肺のステロイド局所治療
Bergeronらの報告が唯一:retrospective解析、進行性のairflow obstructionの初期段階で、吸入budesonide(商品名ではパルミコート)と長時間型気管拡張剤formoterol(β2 agonist)(商品名では合剤のシムビコート)を使用した。13名のmild -moderateのBO患者で、持続する改善効果を示し、臨床的にも、呼吸機能検査でも改善を示した。フォローアップ期間12.8カ月(5−29ヶ月)。造血幹細胞移植後BOに対する肺移植後の成績では、retrospectiveな解析で、吸入フルチカゾン(商品名フルタイド)高用量で17名に効果がみられた。budesonide/formeterolの前向き研究が現在進行中。

 外陰/腟部cGVHDに対する局所治療
 cGVHDの症状としては比較的頻繁。大概口腔や眼の症状と関連している。
軽症では無症候だが、重症では硬化と構造変化をもたらす。患者は大抵自発的には申告しない。局所/全身性ホルモン治療が効果があるかもしれないが、殆どの患者は全身または局所の免疫抑制治療が必要。
 局所ステロイド
 外陰cGVHD、苔癬化病変にクロベタゾールジェルと、ベタメサゾンジェル/軟膏の効果の研究→
60人のコホート研究、ヒドロコルチゾン25mg腟錠を一日2回で80%の反応率がみられた。
クロベタゾールは苔癬化病変に一定の効果がみられた。
 局所CNI 
 局所タクロリムス、ピメクロリムス、CsAが外陰・腟のcGVHD苔癬化病変に対して使用された。自覚症状では、局所ステロイドよりも局所タクロリムスは高い効果が見られた。2回/日使用で4週間(その後漸減)。ステロイドと違って、局所の真菌・最近感染リスクを上げない。
平成22年12月13日
中前美佳

Impact of donor CMV status on viral infection and reconstitution of multifunction CMV-specific T cells in CMV-positive transplant recipients.
サイトメガロウイルス陽性移植患者におけるウイルス感染症および多機能サイトメガロウイルス特異的T細胞再構築に関するドナーサイトメガロウイルス感染状態の影響.
[医療関係者以外の方へ]白血球の一つにリンパ球と呼ばれる免疫担当細胞があります。リンパ球はT細胞、B細胞、NK細胞に分類され、T細胞の中に多機能CD8陽性T細胞と呼ばれる細胞が存在します。サイトメガロウイルス抗体が存在するドナーから移植を受けると最終的にはドナー免疫環境が患者の中に作り出されます。するとサイトメガロウイルス感染が生じてもサイトメガロウイルス感染に対する免疫を記憶しているドナー由来の多機能CD8陽性T細胞がサイトメガロウイルス感染症を抑制することが本研究から判明しました(サイトメガロウイルス陽性ドナーからの移植が患者の予後改善をもたらすとは言えません)。
 造血幹細胞移植後のサイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)陽性患者(R+)におけるCMV感染制御に関してCMV特異的CD8+T細胞の再構築は必要不可欠である。今回、ウイルス学的にCMV再活性を追跡できた178名のR+レシピエントのうち、62名について6-colorフローサイトメトリーを用いてCMV特異的CD8陽性T細胞の機能解析を行った。CMVセロネガティブドナー(D-)から移植を受けたR+レシピエント(D-/R+)はD+/R+の移植患者に比較してTNF-α・MIP-1β・CD107・INFγを発現する多機能CD8陽性T細胞の再構築が不良であった。D-/R+移植患者ではCMV再活性の時期に豊富に産生されるINF-γ分泌性の単機能CD8陽性T細胞と違って多機能CD8陽性T細胞は移植後少なくとも1年に渡り相対的欠落状態にあった。D-/R+患者は抗ウイルス薬の再会、長期投与を要する頻度が高かった。これらの知見は移植片対宿主病、ステロイド治療といった移植前後の各種因子で統計学的に補正した後も有意であった。これらの解析からD+/R+患者では多機能CMV特異的T細胞がより多く産生され、D-/R+患者に比較して抗ウイルス治療を要する度合いが低くなることが示唆される。抗ウイルス治療の期間、再投与の必要性を減らすことができるという点でD+ドナーはR+レシピエントの同種移植予後改善をもたらすものと言えるが、これは多機能CMV特異的CD8陽性T細胞の増加に裏打ちされたものと考えられる。
平成22年11月29日
林 良樹

Prospective evaluation of allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation from matched related and matched unrelated donors in younger adults with high-risk acute myeloid leukemia: German-Austrian trial AMLHD98A.
若年成人高リスク急性骨髄性白血病に対するHLA一致血縁者あるいは非血縁者をドナーとした同種造血幹細胞移植に関する前向き評価.
[略語] 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)、HLA一致血縁者ドナー(matched related donors、MRDs)、非血縁者ドナー(matched unrelated donors(MUDs)、同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、allo-HSCT)、完全寛解(complete response、CR)
[医療関係者以外の方へ]急性骨髄性白血病の予後に関連する項目として染色体異常(遺伝子異常)、初回化学療法に反応不良、があります。これらの項目を満たす症例を高リスク群(267例、移植を受けた症例162例、受けることができなかった症例105例)として血縁者、非血縁者からの移植成績を解析しています。5年生存率は移植を受けることができなかった症例が6.5%であるのに対して移植を受けた162例では25.1%であり、明らかに生存率の上昇が認められました。年齢、移植前処置内容、そして血縁者、非血縁者ドナーからの移植においても統計学的有意差は認められず、60歳までの症例に限定されますが、高リスク群AML は血縁者間、非血縁者間造血幹細胞移植によって予後は改善されるものと結論しています。
[はじめに]すでに提唱されている臨床的、生物学的予後因子のうち、白血病細胞における細胞遺伝子学的および分子遺伝子学的異常がAML症例にとって最も重要な予後因子と考えられている。核型をもとにして若年成人症例は3つのリスク群に分類される。最近では分子遺伝子学的マーカーであるNPM1、CEBPA、FLT3がこの分類体系に組み込まれるようになった。これらの細胞遺伝子学的高リスク症例では完全寛解に到達したとしても化学療法あるいは自家移植といった寛解後療法の治療成績は悪かった。更に寛解導入療法への反応性は重要な予後因子であると言われている。骨髄中の芽球が25%以下に減少しない患者の長期予後は不良である。過去の研究ではMRDsからのallo-HSCTはCRに達した高リスク症例の予後を改善するというエビデンスが存在する。しかしCR1に達した症例の中で予後不良の細胞遺伝子学的異常を有する患者が任意選択されており、むしろ大多数例は化学療法抵抗性であることが高リスクとして分類されている傾向がある。
 近年、初期治療抵抗性の血液疾患症例に対するMRDsとMUDsからのallo-HSCTを評価する第II相試験が行われており、長期性生存率35-45%という期待できる結果が報告されている。AMLGSの治療介入試験であるAMLHD98Aの主な目的の一つは予後不良な細胞遺伝子学的異常を持つおよび/または寛解導入療法に反応不良な若年成人高リスクAML例に対して行われたMRDsとMUDsからのallo-HSCTの有用性を評価することであった。
[目的]本研究は高リスクAML症例に対して施行したMRDsおよびMUDsからのallo-HSCTの効果を評価する多施設治療介入試験である。
[患者および方法]1998年から2004年の間にAMLの844例(年齢中央値48歳、範囲16-62歳)がリスク別に構成された治療戦略を含んだプロトコールであるAMLHD98Aに登録された。高リスクとは予後不良な細胞遺伝子学的異常の存在および/または寛解導入療法に反応不良なものと定義された。
[結果]844例のうち267例(32%)が高リスク群に割り当てられた。これら267例中51例はCRに至ったが、予後不良な細胞遺伝子学的異常があった。残りの216例(81%)は寛解導入療法に反応不良であった。診断してから中央値147日後に高リスク群267例のうち162例(61例)がallo-HSCTが施行された。移植源に打ち分けはMRDs(62例)、MUDs(89例)、ハプロドナー(10例)、臍帯血(1例)であった。5年生存率は移植を受けることができなかった105例が6.5%であるのに対して移植を受けた162例では25.1%であった。多変量解析ではallo-HSCTが有意に予後を改善することが示されたが、MRDsとMUDsの間で有意差は認められなかった。
[結論]若年者高リスクAMLにおけるallo-HSCTは有意に予後を改善させる効果があり、MRDsとMUDsでは同等の効果が期待できる。

[結果・高リスク群解析]267例の高リスク群症例のうち220例が死亡、全生存期間中央値は12.6ヶ月、5年全生存率は17.6%であった。移植できなかった105例の5年全生存率は6.5%、移植を受けた162例の移植日からの5年全生存率は25.1%であった。高リスク群例年齢中央値は48.9歳、移植できなかった症例は55.3歳、できた症例は45.5歳と有意差を認めた。MRDsあるいはMUDsからの移植は有意に死亡率を減少させること、またより高い白血球数、予後不良の細胞遺伝子学的異常、寛解導入療法に反応不良は有意に死亡率を上昇させることが判明した。前処置内容間(骨髄破壊的あるいは骨髄非破壊的前処置)で累積再発率、累積死亡率に有意差は認めなかった。また移植後の累積再発率はMRDs、MUDsあるいはハプロドナー、臍帯血からの移植間で明らかな有意差は認めなかった。
平成22年11月22日
井上敦司

Bone marrow graft-versus host disease: early destruction of hematopoietic niche after MHC-mismatched hematopoietic stem cell transplantation.
骨髄移植片対宿主病:主要組織適合抗原不一致造血幹細胞移植後に生じる早期造血ニッチの破壊.
[はじめに] 感染症が併発していない骨髄抑制が同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、allo-HSCT)ではしばしば観察され、これは骨髄がGVHDの標的になっている可能性を示唆する。allo-HSCTの死因のおよそ30 %を骨髄機能不全による感染症や出血、免疫再構築遅延が占めている。しかしながらGVHDによる造血不全の機序は未だ不明である。臨床的にはGVHDによるリンパ球減少があり、ドナーT細胞のFas-Fas ligandシグナルがGVHDによるBリンパ球産生不全に関与している可能性が報告されている。骨表面の骨髄での造血は骨芽細胞や類洞辺縁にある内皮細胞によって支持されており、更に類洞辺縁にある内皮細胞周囲や骨内膜に存在するCXCL12(chemokine CXC motif ligand 12)が豊富な細網細胞(CAR cell)の骨髄造血維持への関与が考えられている。本研究では主要組織適合抗原不一致のマウス移植モデルを用いて骨髄GVHD、特に造血ニッチに対する機序を調べた。
 移植片対宿主病(graft-versus host disease、GVHD)は骨髄不全の大きな危険因子であるが、GVHDによる造血不全の機序はほとんど分かっていない。骨髄ストローマニッチ(骨髄間質細胞環境)がGVHDの標的になるという仮説を立てた。今回、我々は主要組織適合複合体不一致のマウス移植モデルで骨髄間質細胞と、特にBリンパ球を補強する骨芽細胞が早期に破壊されることで造血不全が生じることを示した。抗CD4抗体投与によってBリンパ球の産生は改善し、移植片対腫瘍効果は維持されていた。Fas-Fas ligandのシグナルを阻害することでBリンパ球の産生は一部回復した。今回の研究では骨髄に対するGVHDの主な標的が骨芽細胞であることや、交代療法により免疫の再構築が促進できる可能性を示した。
[考察] 骨髄微小環境は線維芽細胞様細胞、脂肪細胞、骨芽細胞、内皮細胞などの様々な細胞から形成されている。最近の研究では骨芽細胞や血管系が造血幹細胞の自己複製や分化の維持に重要であることが分かってきた。CAR細胞も骨髄ニッチでの造血幹細胞の維持やBリンパ球の造血に重要な役割を果たしており、Bリンパ球分化段階で他の細胞とは異なる極めて重要な役目を果たす。今回の結果ではGVHD発症時にCAR細胞数は有意な変化は認められなかったが、CAR細胞機能不全として説明できるかもしれない。骨芽細胞はmesenchymal stem cell由来と推定されているが、その起源は明らかではない。骨芽細胞系は造血幹細胞ニッチを形成し、Bリンパ球の分化を支持しているが、血管内皮細胞、線維芽細胞またCAR細胞との相互作用はほとんど分かっていない。我々にモデルでは骨芽細胞の分化がGVHDで障害されているように思われる。
 実験系の結果では骨髄芽細胞は全身GVHDが出現前にはほぼ破壊されており、CD4陽性リンパ球の浸潤が骨髄で観察され、またB細胞造血も抑制されていた。すなわち骨髄GVHDは重症全身GVHDの二次的反応ではなく、全身GVHD発症前に独立して完成されることを意味する。
平成22年11月15日
中前博久

Dyslipidemia after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation: evaluation and management.
同種造血細胞移植後の脂質代謝異常:評価と管理.
 現在、全世界で毎年約15,000〜20,000人の患者が造血幹細胞移植を受けており、長期生存者が急速に増加している。移植後の長期経過観察の目的は"原病の治癒"から"晩期移植後合併症の同定と治療"に移ってきている。重篤な合併症の一つは治療関連心血管疾患である。造血幹細胞移植後の患者は心血管疾患が早期に起こりやすい。脂質代謝異常やその他の危険因子関連の心疾患は晩期非再発疾患や死亡の一部を占める。本レビューは脂質代謝異常のリスクや原因、移植後心血管疾患の影響について取り組んだ。免疫抑制療法、慢性移植片対宿主病、他の長期合併症は脂質代謝異常管理に影響を及ぼす。現在移植患者における脂質代謝異常の評価・管理についてガイドラインは存在しない。我々は移植患者に推奨される扱いを要約した。
[はじめに] 同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、allo-HSCT)は血液疾患の効果的な治療と認識されている。移植、支持療法の進歩によって、生存期間の延長がみられ、今後さらに成績はよくなると予測される。それに伴い起こり得る晩期合併症は増えており、あらゆる臓器が晩期合併症の標的となりうる。移植対象年齢、ドナーの種類、移植適応がより広範になってきている背景もあり、HSCT後の晩期合併症に関する知識はますます重要になっている。HSCT経験のないアメリカやイギリスの一般人では、心血管疾患は第1の死因である。LDL-Cの上昇や高トリグリセリド、低いHDL-C等の脂質異常は心血管疾患のリスク因子である。他のリスクとして加齢、高血圧、糖尿病、喫煙、CRPなど炎症マーカーの上昇が挙げられる。多くの研究がHSCT後心血管疾患の有病率の増加を認めると報告し、移植患者の心血管疾患についての研究が始まっている。HSCT後の生存が延長し、心血管疾患のリスクや他の続発症の管理はますます重要になってきている。我々は現在のHSCT後患者の心血管疾患のリスクファクターと実際の発病について要約し、移植患者の脂質代謝異常の評価・管理に焦点をあてた。
[造血幹細胞移植後の心血管合併症] 移植後少なくとも2年生存した患者のうち、自家造血幹細胞移植(autologous-HSCT、auto-HSCT)患者の約70%、allo-HCST患者の約80%が長期生存すると予測される。移植2年より後では死亡率は徐々に減少するものの、移植後15年の時点で一般人の2.9倍の高さとなっている。allo-HSCT患者で移植から平均9.5年観察された研究では原病の再発と慢性移植片対宿主病が死亡の最多原因であったが、その次に多かったのが心疾患による死亡であった(3%)。心合併症による死亡は一般人口の2-3倍高く起こる。少なくとも移植後2年生存している369人の患者を対象とした研究ではallo-HSCT後患者の2.2%に冠動脈疾患が起こり、末梢血管障害が1.9%に起こった。この研究の観察期間中60人が死亡したが、このうち5%は冠動脈疾患により死亡していた。Tichelliらはallo-HSCT後最低1年生存している患者の心血管イベントの頻度を評価、移植後15年の時点で6%の患者に動脈血栓症が起こったと報告した。患者を心血管疾患のリスクファクター別に分けて解析したところ、(高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、body mass index高値、体を動かさない、喫煙)リスクファクターが3つある患者の心血管疾患は17%に起こり、リスクファクターが2つ以下の患者で心血管疾患を起こした患者は4%であった。auto-HSCTとallo-HSCT患者の心血管イベントを15年調査した研究では心血管疾患(冠動脈疾患、卒中、末梢血管障害)を起こした患者はallo群で7.5%、auto群で2.3%であった。年齢で補正したところ、allo移植患者はauto移植患者に比べて7倍心血管疾患イベントを起こしやすいという結果であった。移植時年齢も心血管疾患発症の重要因子であり、20年フォローの研究で移植時20歳以下の患者は8.7%、20-40歳の患者は20.2%、40-60歳の患者は50.1%にイベントが発生した。
 総合すれば、これらの研究はallo-HSCT後の患者は心血管系の合併症が起こりやすく、心血管疾患のリスク因子も多く抱えているということを示している。HSCT患者で心血管イベントが起こりやすいのは、実証されたリスク因子に加えて、GVHDが血管壁に及ぼす影響が関係しているかもしれない。GVHDと血管壁との関係はTNF-αやIL-6のようなサイトカイン、免疫抑制剤やステロイドの影響も含む。これらの因子は心筋肥大を助長し、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、腎臓病のリスクを増す。移植後の長期内分泌障害は動脈硬化を進展させ、心血管障害の一因となる。移植前〜移植において血液疾患患者は心血管にダメージを与えることで知られるアントラサイクリン系のchemoの治療や胸部放射線照射をうけており、心血管障害リスクがより高い。
[HSCT後の脂質代謝異常と他の心血管疾患発症の危険因子] 移植群は糖尿病に3.65倍、高血圧に2.06倍なりやすく、allo-HSCT群はauto-HSCT群と比べてより高血圧が進行、新たに脂質代謝異常を起こすリスクまた高血圧となるリスクも高い。メタボリックシンドロームは腹部脂肪、脂質代謝異常、高血圧、血糖高値に特徴付けられる心血管疾患危険因子重積状態である。最近の研究ではallo-HSCT後86例の49%がメタボリックシンドロームであり、コントロール群(258名)と比べて2.2倍の有病率だったと報告されている。また少なくとも1年生存したHSCT群(71%が免疫抑制剤服用を継続していた)のうち脂質代謝異常と評価された者は8.9(カナダ)〜56%(アメリカ)と報告されている。Taskinenらは小児期にHSCTを行った23例のうちステロイド投与中の患者を除いても39%に高トリグリセリド血症が認められたと報告している(対照群の急性リンパ性白血病に対して化学療法のみ行った群(N=13)では8%)。alloまたはauto-HSCT後5年で完全寛解を維持している85例を対象とした研究では34%がメタボリックシンドロームであった。対照群の一般人は15%であった。メタボリックシンドローム患者の29例中24例が高トリグリセリド血症、18例がlow HDL-Cであった。また移植後長期生存者の高血圧有病率は5〜48.7%、移植後1年後の患者では高血圧の有病率は70%と報告されている。
[造血幹細胞移植後脂質代謝異常の原因] 肥満、家族性高脂血症(200人に1人の頻度)、家族性高コレステロール血症(500人に1人)のような脂質代謝異常の原因をもつ者は移植患者の中にもいる。アルコール大量摂取はトリグリセリドを増加させるため、脂質代謝異常の患者に含まれる。コントロール不良糖尿病はコレステロールやトリグリセリドを増加させ、脂質代謝異常を薬剤抵抗性にさせる。原病の合併症、治療、移植は脂質代謝異常を悪化させる。性腺機能低下は子供時代に治療をうけた患者によく見られ、排卵障害は女性の移植患者によく見られる。性腺機能低下や成長ホルモンの欠乏はインスリン抵抗性、メタボリックシンドロームを引き起こし、脂質異常に関連している可能性がある。性機能低下は移植患者の45%にみられ、拡張期高血圧や脂質代謝異常を進展させる。ネフローゼ症候群もまた脂質代謝異常を引き起こしたり、もともと存在した脂質異常を悪化させたりする。肝臓の慢性移植片対宿主病は深刻な胆汁うっ滞性肝疾患を引き起こすとともに重度の高コレステロール血症も引き起こす。これは肝内胆汁うっ滞、血中胆汁リポタンパク質の環流、lipoprotein X、胆汁うっ滞性肝疾患にみられる異常リポプロテインが原因と考えられている。極端な高コレステロール血症(総コレステロール1000mg/dl以上)の合併は網膜のコレステロール性血栓塞栓症や肺cholesterolomaなどを引き起こす。
 GVHD治療に使われる薬剤もまた脂質代謝異常の重要な原因である。脂質代謝異常は免疫抑制剤を投与されている固形臓器移植患者の45-80%に見られる。固形臓器移植患者の脂質代謝異常危険因子は年令、タンパク尿、肥満、高血圧治療薬使用、グルココルチコイド量、シクロスポリン、シロリムスである。  グルココルチコイドは脂質代謝経路に直接作用し、体重増加と高血糖によって間接的に脂肪レベルを上げる。脂質系の変化はVLDL、総コレステロール、トリグリセリドを増し、HDL-Cを減らす。
 シクロスポリンはLDLレセプターに結合、ブロックすることで胆汁酸合成を阻害すると考えられており、肝リパーゼ活性を増しリポタンパクリパーゼを減少させ、LDL-Cを増す。移植症例でないシクロスポリン投与症例でも、LDL-Cが増加すると報告されている。最近の研究で、腎移植患者で腎機能が保たれている患者で総コレステロールやLDL-Cが増加していると報告されている。シクロスポリンはまたプレドニゾン代謝を阻害し、グルココルチコイド作用を増強させるとも報告されている。
 タクロリムスはコルチコステロイドと同時に投与されるとき、脂質レベルを増加させる。シクロスポリンに比べるとタクロリムスは脂質代謝にそれほど影響を与えず、同時に投与することによってステロイドの投与量を減らせるとされている。固形臓器移植患者で、シロリムスは総コレステロールとトリグリセリドを増加させ、シロリムス投与をやめてもコレステロール値などがベースラインに戻るのに4週間かかる。シロリムス投与をうけた肝移植患者の49%、腎移植患者の40%に高脂血症の進展がみられた。
MMF、アザチオプリンは脂質代謝に影響するあるいは高脂血症を誘導するといったことは報告されていない。ステロイドとシクロスポリンは高血圧やグルコース代謝異常のような心血管障害のリスク因子を増加させる。タクロリムスとシロリムスもグルコース代謝異常を大きく引き起こしうる。高脂血症治療薬と免疫抑制剤の併用時には相互作用に注意すべきである。高トリグリセリドは特に膵炎のリスク因子である。アメリカの膵炎の1-4%は高トリグリセリド(1000mg/dl以上)によって引き起こされている。
 要約すると、cGVHDのような移植の合併症はその機序により脂質代謝異常に直接影響を与えうる。移植そのものが持つ特性が脂質代謝異常を引き起こすかどうかはまだ分かっていない。我々の臨床経験では、コントロール不良の糖尿病に続いて、免疫抑制剤が続発的に脂質代謝異常を引き起こすのを最もよく経験する。脂質代謝異常の発生については病歴や移植前のリポプロテイン値もよく関連する。
[高脂血症治療薬] 心血管疾患リスク、併存疾患、重度の脂質代謝異常、他の薬剤の相互作用を考慮して使用すべきである。最近移植した患者、免疫抑制剤使用中の患者も考慮すべきである。移植後間もない期間は免疫抑制剤やその他の原因で脂質代謝異常が進行しやすいが、移植後長期間経過し、免疫抑制剤を服用していなくても脂質代謝異常は進行することがある。移植後早期でも長期経過後でも、脂質代謝異常は心血管疾患のリスクになる。治療のためライフスタイル変更を考慮する時期や薬物による治療開始時期はリスクレベルによって変化する。ATP-IIIによる勧告では、LDL-Cが一番の指標であり、HDL-Cやトリグリセリドは二次的な指標である。すでに冠動脈-心疾患のある患者、また冠動脈-心疾患リスク(糖尿病、腹部大動脈瘤、頸動脈狭窄症、末梢動脈の障害)を1つでも持っている患者はハイリスク患者とみなす。各患者において10年心血管疾患イベントリスクのリスク分類を行うべきである(low, moderate, moderately high, high)。リスク評価ツールを使用する際は移植後の免疫抑制剤を開始する前のlipoproteinのベースライン値を測定することが望ましい。なぜなら薬剤により誘発された脂質代謝異常は10年心血管疾患イベントリスクの過大評価を引き起こす可能性があるからである。重度の高トリグリセリド(500mg/dl以上)の患者は膵炎のリスクを下げるためにも500mg/dl以下に減らすことが目標である。Framinghamリスクスコアが移植患者にそのまま適用できるわけではないが、心血管疾患リスクの評価、治療の指針に有効な手段である。動脈硬化は非常に慢性的に進行し、移植前からリスク因子を持っている患者にとっても潜在的に存在する病態である。移植後長期生存している患者で、糖尿病、脂質代謝異常、高血圧のような従来よく知られたリスク因子を持つ患者は心血管疾患のより高いリスクありと考えられる。
 長期的な心血管疾患リスクにおける移植の影響を決定できた大規模な研究は今までにない。長期の脂質の治療は冠動脈-心疾患リスクの降下と悪性疾患やその他移植後の疾患による死亡との兼ね合いである。もし基礎疾患が数年以内に再発すると予想されるあるいは移植合併症のために生命予後がよくないと予想される場合は、脂質の値が高くても容認されるであろう。しかし5〜10年の生存が見込めるのであれば、心血管疾患の併存や死亡を減らすために、一般人と同じように心血管リスク管理を行うのは当然である。さらなる研究が必要ではあるが、最近のevidenceに基づき考えると、40歳以上のallo-HSCT患者やリスク因子を1つでも持っている患者は冠動脈-心疾患のハイリスク患者(10年リスク20%以上)とみなすべきであると思われる。
[造血幹細胞移植患者における脂質代謝異常の管理] 高脂血症治療の目的は2つである。1)将来の心血管疾患リスクを下げる。2)高トリグリセリド患者については、膵炎を予防する。一般人で強いエビデンスのある脂質降下治療(HMG-CoA reductase inhibitors :スタチン)は移植患者においても臨床的価値があるかどうかの評価には限界がある。腎臓・心臓移植患者でのスタチンのprospective randomized clinical trialで、心血管疾患にかかる割合が改善され、安全性にも問題なかったという報告がある。冠動脈-心疾患リスクが高くない患者であれば最初の対処として生活習慣の変更のみに取り組むのがよい。もし脂質レベルが患者の目標値を上回っていたら、相互作用に気をつけつつ薬剤による治療も考慮すべきである。移植後長期間経過し、免疫抑制剤なしで安定している患者であれば、まず生活習慣の変更をすすめる。ただし、生活習慣の変更を促したあともその効果があらわれないようであれば、治療の強化を遅滞なく開始すべきである。免疫抑制剤の服用が無く、GVHDもない患者であれば、脂質代謝異常に対する治療は一般人とほとんど同じである。スタチンは最もよく使用される薬剤であるが、薬剤の選択と量の決定については注意しなくてはならない。シクロスポリンのcytochrome P450 3A4による代謝は薬剤相互作用の鍵となる因子であり、スタチン(lovastatin、simvastatin(リポバス)、atorvastatin(リピトール))もこの経路で代謝されるため、スタチンの血中濃度が上がり筋疾患のリスクになる。タクロリムスやシロリムスも同様の経路で代謝されるが、シクロスポリンは細胞膜のtransporter multidrug resistant protein 2にも作用するため、スタチンの毒性に最も強く影響する。アゾール系抗真菌薬やnondihydropyridine calcium channel blockers(ベラパミル、ジルチアゼム)、マクロライド系抗生物質のようなCYP3A4阻害薬は移植患者によく使用される。pravastatin(メバロチン)、rosuvastatin(クレストール)、fluvastatin(ローコール)はCYP3A4阻害薬と別経路で代謝されるため、同時投与できる。子供の腎移植患者ではpravastatinが高コレステロール治療薬として安全に使用されている。atorvastatinもまた心移植患者でのlow dose(10-20mg/day)の投与の安全性が証明されている。pravastatinを40mg/dayにまで増量しても脂質代謝異常のコントロールが不良の場合は代わりにatorvastatinの使用が勧められている。稀だが重要なスタチンの副作用にトランスアミナーゼの上昇、筋炎、横紋筋融解症がある。スタチン投与開始後、一般人であれば投与後8-12週後にトランスアミナーゼの測定をするが、移植患者で免疫抑制剤投与中の者、active liver GVHDの可能性がある者は2-4週以内に測定するべきである。GVHDを発症した移植患者のスタチン治療を扱った大規模な前向き臨床試験は無いが、いくつかの研究は安定した慢性肝疾患(特に非アルコール性脂肪肝)のある患者にもスタチンは安全に使用できることを明らかにしている。興味深いことに、スタチンの免疫修飾効果が急性GVHDを抑制するという報告もある。トランスアミナーゼが中等度上昇程度(正常値の3倍以内)であれば、適切なモニタリング下にてスタチンは普通に使用できる。肝酵素の著明な上昇、非代償性肝硬変、急性肝不全の患者ではスタチンの使用を避けるべきである。
 胆汁酸吸着剤は少しのLDL-C減少効果があり(15-30%)、シクロスポリンを含む様々な薬剤の吸収を抑制する効果がある。古くからある胆汁酸吸着剤(colestipol / cholestyamine(クエストラン))は免疫抑制剤投与中の患者には使用すべきでない。colesevelamは新しい胆汁酸吸着剤で、免疫抑制剤と同時併用できるが、薬剤濃度を測定すべきである。胆汁酸吸着剤はトリグリセリドを上昇させる可能性があり、高トリグリセリド患者には禁忌である。ezetimibe(ぜーチア)は以前にシクロスポリンとの相互作用でezetimibeの濃度が12倍に上がったという報告があったが、固形臓器移植患者では安全に使用できると報告されている。胆汁酸吸着剤はスタチンに比べて効果が低く、心疾患に対する影響も証明されていないため、LDL降下薬としては2番手と考えられる。
 高トリグリセリド患者には、他の薬剤も必要かもしれない。スタチンはトリグリセリドを7-30%減少させるので、軽度な高トリグリセリド血症(<400mg/dl)には有効である。中等度〜重度の高トリグリセリド血症には、オメガ3脂肪酸(エパデール、ソルミラン)とナイアシン系薬(ユベラN、ペリシット)の使用を考慮すべきである。ナイアシンはLDL-Cを約16%、トリグリセリドを約38%減少させ、HDL-Cを約22%増加させるとされており、シクロスポリンや他の免疫抑制剤との相互作用も特にない。患者によっては高トリグリセリド血症や高尿酸血症を多少悪化させたり、顔面紅潮や消化管障害の副作用があらわれたりする。認容性が低い場合はナイアシンの徐放剤を用いるとよい。ナイアシンはコレステロール、トリグリセリドが両方高い患者にも適している。オメガ3脂肪酸はシロリムスが引き起こした高トリグリセリドの治療に使用されており、他の状況下でも安全に使用できる。オメガ3脂肪酸はトリグリセリドの肝臓での合成を減少させ、結果トリグリセリドを35-45%減少させる。HDL-CやLDL-Cへの影響はわずかだが、副作用がほとんどない。オメガ3脂肪酸は血小板の凝集を阻害する作用があるが、今まで血液疾患のない患者での調査で有意な出血の発生などの副作用は報告されていない。オメガ3脂肪酸はアスピリンとclopidogrelの両方の抗血小板薬を投与されている患者でも、出血エピソードの増加はなかったと報告されている。高トリグリセリド患者において、コントロール不良の糖尿病、高血糖は顕著にトリグリセリド値を悪化させるため、この場合は糖尿病の治療を強化すべきである。
 フィブラート系薬剤(ベザトール、リピディル)はトリグリセリドを20-50%減少させ、重度の高トリグリセリド血症(>500mg)に対してよく使用されている。胆石症、消化管障害、筋疾患などの副作用が出る可能性がある。スタチンと併用したとき、腎機能障害のある患者、シクロスポリンと併用したときに、特に筋疾患の副作用リスクが上昇する。スタチン+フィブラート系薬剤を腎機能障害のある患者や、免疫抑制剤と併用するときは非常に注意しなければならない。ゲムフィブジルはグルクロン酸化阻害によってスタチンの血中濃度を1.9-5.7倍に上げるとされており、スタチンと併用する場合はフェノフィブラート(リピディル)の方がよい。しかし、フェノフィブラートはクレアチニン上昇を引き起こす。また腎移植患者では可逆性の移植腎機能不全をひきおこすことがあると報告されている。
[まとめ] 脂質代謝異常やその他の心血管疾患のリスク因子はallo-HSCT患者で増加している。リスクはauto-HSCT患者よりallo-HSCT患者の方が上回っている。リスクの1つは免疫抑制剤によるものだが、そのほかにも未知の機序が関与していると考えられる。移植後の生存率が高くなるにつれ、心血管疾患のような移植後長期経過後におこる疾患の予防や治療の重要性が増している。脂質代謝異常の管理は心血管疾患のリスク管理において重要である。LDL-Cのコントロールは心疾患リスクを減らすためにまず重要であり、重度の膵炎リスク回避のために重度の高トリグリセリド血症(>500mg/dl)の治療もすべきであるCPK値のベースラインは測定すべきであるが、症状のない患者に毎回検査を行う必要はない。CPKの軽度上昇は臨床的に重要でないからである。ただし、患者の筋肉の状態については毎回問診し、もし症状がある場合はCPK測定すべきである。AST、ALTはベースラインを測定し、脂質代謝異常の治療開始後12週以内にも測定すべきである。普通、AST、ALTが正常値上限の3倍以内であればスタチン治療に問題はない。トランスアミナーゼの上昇は移植患者ではよくみられるため、増悪が無い限り経過観察でよい。今日でも、造血幹細胞移植が心血管疾患へ与える影響は明らかではない。ATP-IIIガイドラインの掲げるLDL-Cの目標値をそのまま移植患者に適応するかどうかは、併存疾患も考慮に入れなければならない。免疫抑制剤投与中の患者は脂質代謝異常を引き起こしやすいし、薬剤相互作用も多い。スタチン治療はLDL-Cを下げる一般的な治療で、一般人には心血管疾患リスクを下げるために使用されている。移植患者でも同様にスタチン治療を考慮すべきである。副作用を最小限にするために、スタチンの種類、量の選択は重要である。LDL-Cのコントロールが悪いときはナイアシン、エゼチミブ(ぜーチア)、colesevelamを2nd lineとして考慮する。高トリグリセリド血症が軽度〜中等度の場合は安全性が非常に高いオメガ3脂肪酸を推奨する。重度のトリグリセリド血症で免疫抑制剤投与中の患者、スタチン治療も必要な患者、腎機能障害がある患者にはフィブラート系薬剤も考慮する。スタチン併用で、トリグリセリドも高くHDL-Cが低い患者にはナイアシンの追加を考慮してよい。
平成22年11月8日
相本 蘭

A prospective randomized controlled trial comparing PCR-based and empirical treatment with liposomal amphotericin B in patients after allo-SCT.
同種造血幹細胞移植後患者を対象にしたリポソーマル化アンホテリシンBのPCR結果に基づいた治療および経験的治療の前向き無作為比較試験.
 我々は同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、allo-SCT)後、経験を基にしたリポソーマル化アンホテリシンB(L-AMB)治療とPCRの結果を基にしたL-AMB治療の有効性と安全性を比較検討した。allo-SCT患者は無作為にL-AMBによるPCRの結果に基づいた先制的治療(A群198例)または経験的抗真菌治療(B群211例)に割り付けられた。A群ではPCRが1回陽性または広域抗生剤抵抗性の発熱性好中球減少症が120時間続いた後に治療が開始された。B群では抗生剤抵抗性の発熱性好中球減少症が120時間続いた後にL-AMB投与が開始された。患者背景や臨床的特徴はバランス良く配置されていた。A群の112例(57.1%)とB群の76例(36.7%)が抗真菌治療を受けた(p<0.0001)。A群の12例とB群の16例が侵襲性真菌症(確定)を発症した。第30病日までの生存曲線は密にPCRをモニタリングされた場合には良好な予後を示したが(死亡率1.5%vs.6.3%、p=0.015)、第100病日では有意な差は認められなかった。第100病日では2群間で侵襲性真菌症発症率と生存に差は認められなかった。allo-SCT後にPCRを使用する有用性を評価するには更なる試験が必要である。
L-AMBは発熱性好中球減少症において1mg/kgの量での有効性が報告されており、また必要時は3mg/kgまで安全に増量することができる。
平成22年11月1日
康 秀男

Donor selection for natural killer cell receptor genes leads to superior survival after unrelated transplantation for acute myelogenous leukemia.
急性骨髄性白血病に対する非血縁者間移植後の予後によい結果をもたらすNK細胞受容体遺伝子によるドナー選択.
 Killer-cell immunoglobulin-like receptor(KIR)遺伝子は様々な免疫原性システムを形成している。グループAおよびB KIRハプロタイプはそれぞれに特徴的な動原体(Centromeric、Cen)およびテロメア(Telomeric、Tel)の遺伝子を含むモチーフを有している。移植予後改善のためのドナー選択ができるようにすることを目的としてBはプロドナーにより与えられる臨床的有益性に対し、これらのモチーフがどれくらい影響するかについて比較検討した。KIRの遺伝子型が判明しているドナーからの非血縁移植を受けた1409例(AML:1086例、ALL:323例)を解析した。ドナーのKIR遺伝子型はAMLでは移植予後に影響したがALLではしなかった。Aハプロタイプモチーフと比較すると、動原体性側およびテロメア側のBモチーフはともに再発予防と生存の延長が見られ、Cen-Bのホモが最も強い独立因子であった。Cen-B/Bホモのドナーでは再発累積発症率は15.4%であり、Cen-A/Aドナーでは36.5%であった(P<0.001)。全体としてB遺伝子を含むモチーフを2つ以上有するドナーではHLA一致・不一致の両条件の移植において有意な再発率の減少が認められた(P=0.003)。HLAが一致している可能性のある非血縁ドナーに対するKIR genotypingを行う事で、好ましいKIR遺伝子の組み合わせをもつgraftを用いて移植できる可能性が高まる。この結果を適用すればAML症例のDFSの改善が可能である。
[はじめに]
AMLは急性白血病として最も多く、アメリカでは年間12000例の発症が認められる。ハイリスクあるいは再発症例は造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation、HCT)により治癒する可能性がある。HCTの成功は化学療法および放射線療法、そしてドナーT細胞を介したGVL効果が合わさった白血病細胞除去によるものである。HLA class IおよびIIアリルは非血縁者ドナー選択における最も重要な基準であるが、ドナー性別・CML感染有無、年齢といった因子もまた移植予後に関係している。NK細胞はまず癌細胞を殺傷する細胞として発見され、その後、先天性免疫の重要な要素であることがわかってきた。CD8+killer T細胞同様、NK細胞の変化や機能はHLAクラスIを認識するNK細胞受容体を介してコントロールされる。これらのリガンドと受容体の相互作用においてC 型レクチンファミリーに属するCD94やNKG2AといったNK細胞受容体(抑制性)に対するHLA-Eリガンドのように保存されているものもあるが、その他多様性に富むものもある。KIRリガンドと呼ばれるHLA-A 、B、Cの多型性に富むそれぞれのエピトープを認識するKIRが存在する。この遺伝子的多様性の結果、ドナー由来のNK細胞がHCTにおいて有益な移植片対白血病反応を惹起しうる。HLA class Iに基づくドナーとレシピエント間のリガンドの違いによって予測されうるNK細胞による有益な同種反応はまず極度にT細胞を除去した移植源を用いるハプロ移植において報告され、その後の移植設定でも報告された。HLAとKIR遺伝子は異なった染色体に独立して存在しており、HLA一致移植においてもKIRが一致する例はほんの一部でしかない。たとえばHLA一致同胞の25%がKIR一致であるが、非血縁HLA一致ドナーではKIR一致はほとんどいない。個人のもつKIRハプロタイプの最も単純な分類はハプロタイプの含む遺伝子の内容によりグループAとBに分ける方法である。この分類を用いた場合、すべての個人はA/A遺伝子型(A のホモ)かそれ以外(B/x、1つまたは2つBを持つ)に分類可能である。2009年Bloodに著者らはA/Aドナーと比べてB/xドナーはAMLに対する非血縁ドナーからの移植予後を改善するが、レシピエントのKIR遺伝子型は影響しないことを報告している。KIR Bハプロ胃タイプは登録されている非血縁ドナーの約2/3に見られることから(日本では44%との報告あり)、多くの場合KIR Bを有するドナーを選択することになり、多くの移植ではランダムに好ましいパターンのドナーが選択されているため、単にKIR Bを有するドナーを選択するだけでは生存率を改善しそうにはない。Bハプロタイプドナーのこうした効果をもたらすメカニズムはまだ不明である。今回の解析の目的は特定のB特異的遺伝子がAMLの移植予後を改善するかどうかを調べることを目指すものである。
[考察より]
NK細胞は移植後最初に回復するリンパ球集団であり、同種反応性NK細胞の生着は多くの有益性をもたらす。すなわち@移植片対宿主病頻度の低下、A拒絶率の低下(host T細胞をNK細胞がつぶす)、B再発を減らす、C生着を改善(NK細胞からのサイトカイン放出により)、D免疫再構築を早め、感染症を減らす(NK細胞の抗ウイルス活性を介して)。AMLに対するハプロ移植においてドナーのHLA class Iの型にレシピエントの持っていないKIRリガンドを含んでいるときNK細胞が同種反応をもたらし再発を減らすことが報告された。活性型KIRの影響に関しては様々な移植設定において急性移植片対宿主病を増やすあるいは逆に減らすなど様々な報告が見られる(本邦骨髄バンクの報告は前者)。前述したように活性型KIRが多いKIR Bハプロタイプはドナーの2/3に認められるため選択上、どのKIR Bドナーが生存に対し最も有益であるかを考慮する必要がある。NMDPにおいてKIR Bを2つ以上含むドナーを選択することはランダムでは31%であったが、意図した場合は67%に挙がる。同様にCen B/Bドナーを選択できる可能性は11%から31%に上がる。HLA遺伝子型確認の際に得ることができるドナーのDNAサンプルにてKIR遺伝子型検査を追加することは可能である。これによって全体として再発が22%減少する可能性がある。
平成22年10月25日
中根孝彦

Long-term follow-up of patients with follicular lymphoma receiving single-agent Rituximab at two different schedules in trial SAKK 35/98.
濾胞性リンパ腫に対して2つの異なるスケジュールを用いて行ったリツキシマブ単剤治療の長期経過観察報告-SAKK35/98研究.
[医療関係者以外の方へ]濾胞性リンパ腫は低悪性度リンパ腫です。化学療法が有効ですが、細胞増殖が緩やかであるため臨床的に完全寛解例と判定された症例でも5年以上経過後に再発を経験しやすいタイプのリンパ腫です。リツキシマブ(商品名リツキサン)が登場し、完全寛解率上昇、生存期間延長が得られました。リツキシマブは長期的に使用しても副作用が少ないため、欧米ではリツキシマブ維持療法を臨床研究に組み入れて施行しており、本論文も合わせ、リツキシマブ維持療法は生存期間の延長に寄与することが報告されています。
[目的]濾胞性リンパ腫に対して週に1回、計 4週間のリツキシマブ単剤による寛解導入治療後、経過観察群と2ヶ月毎計4サイクルのリツキシマブ維持療法を行う群に割り付けた臨床研究の長期経過観察の結果について報告する。
[方法ならびに対象]先行治療群138例、無治療群64例の濾胞性リンパ腫に対して週1回4週間のリツキシマブ単剤による寛解導入を行い、無進行であれば経過観察する群(A群)と2ヶ月毎の計4サイクル、リツキシマブを投与する群に割り付けた(B群)。
[結果]経過観察中央値9.5年で無イベント生存期間中央値はA群13ヶ月、B群24ヶ月であった(P<0.001)。A群では8年での無イベント生存率は5%、B群では37%であった。無イベント生存に対する予後良好因子はB群であること(危険率0.59、P=0.009)が多変量解析で唯一挙がり、化学療法歴、病期、Fc-gamma RIIIA受容体タイプは挙がらなかった。リツキシマブによる長期毒性は認められなかった。
[結論]B群において長期寛解を維持する症例が存在、特に前治療歴のなくかつリツキシマブによる寛解導入に対して有効例に多く認められた。
[リツキシマブ維持療法]
@ SAKKグループ:初発(前治療歴例を含め)、リツキシマブ単剤で寛解導入後(1週毎4回投与)に進行例以外でリツキシマブ維持療法(2ヶ月毎に計4回)を施行したおところ、無イベント生存期間・率が上昇。
A ECOG:初発進行期にCVP療法を 8コース施行後、部分寛解以上でリツキシマブ維持療法を施行する(1週毎に連続4回を1サイクルで、6ヶ月毎に2年間計4サイクル16回投与)。無イベント生存期間、全生存期間が有意に延長した。
B EORTC:再発難治の濾胞性リンパ腫にCHOP、CHOP-Rに割り付け、部分寛解以上でリツキシマブ維持療法(2年間計8回投与)を施行した。維持療法は無進行生存期間を両群で延長させた。
C GLSG:再発濾胞性リンパ腫(マントルリンパ腫含む)をFCM療法、R-FCM療法に割り付け。部分寛解以上でリツキシマブ維持療法(1週毎に連続4回を1サイクルとして6ヶ月毎に1年間計2サイクル8回投与)、寛解維持期間はリツキシマブ維持療法が有意に延長。
D PRIMA:初発進行期・高腫瘍量の濾胞性リンパ腫に第一選択治療としてリツキシマブ併用化学療法を施行後、部分寛解以上でリツキシマブ維持療法を2ヶ月毎に計12回施行。2年無進行生存期間が有意に延長。

平成22年10月4日
寺田芳樹

Effect of graft source on unrelated donor haematopoietic stem-cell transplantation in adults with acute leukaemia: a retrospective analysis.
成人急性白血病における非血縁者間造血幹細胞移植移植源の影響-後方視的解析.
[医療関係者以外の方へ]臍帯血移植はHLA一致血縁者、非血縁者ドナーが見つからない患者さんにとって骨髄移植、末梢血幹細胞移植に次ぐ第3の移植方法です。今回の報告は骨髄破壊的移植(骨髄機能を全廃させる強力な治療を行う)を行った急性白血病患者さんについて臍帯血移植が非血縁者ドナーのいなかった場合の代替移植法になりうるか否かについて調査した報告です。再発による死亡を除外した移植関連死(移植片対宿主病あるいは感染、出血等による死亡)はHLA一致非血縁者間骨髄移植・末梢血移植に比べて多く認められたものの、白血病無再発死亡率は同等の成績でした。従って、非血縁者ドナーがいなかった場合には臍帯血移植は急性白血病の移植法の1つとなると結論しています。
[背景]臍帯血(umbilical-cord blood、UCB)は、特に成人のHLA一致非血縁ドナーが得られない場合、末梢血幹細胞(peripheral blood progenitor cells、PBPC)や骨髄(bone marrow、BM)の代替え移植源として考えられている。成人急性白血病におけるUCBの位置づけの決定および現在の移植源の妥当性を検討した。
[方法]16歳以上で急性白血病に対してUCB、非血縁PBPC、非血縁BMを移植源として移植を施行した症例についてCox回帰分析を用いて後方視的に無再発生存(leukemia-free survival)および他の結果を比較検討した。前処置は骨髄破壊的前処置を施行(ブスルファン8mg/kg以上および全身放射線照射10Gy以上)、移植歴のある症例は除外した。2002年から2006年に移植を受けた1525例のうち、165例がUCB、888例がPBSC、472例がBM移植を受けた。UCBはHLA-A・Bの血清レベルおよびDRB1アリルレベルで6/6座一致が10例、1座不一致が40例、2座不一致が115例であった。PBPCとBMはHLA-A・B・C・DRB1のアリルレベルで8座一致がそれぞれ632例と332例、1座不一致がそれぞれ256例と140例であった。
[結果]UCB群のLFSは8座一致・1座不一致のPBPC・BM移植群のLFSと同等であった。しかし移植関連死はUSB群でPBPCおよびBMの8座一致群より有意に高かった(それぞれP=0.003、P=0.003)。Grade II-IV急性移植片対宿主病および慢性移植片対宿主病はUSB群で8座一致のPBPCよりも低かった(それぞれP=0.002、P=0.003)。8座一致BM群と比較して慢性GVHDはUCB群で有意に低かった(P=0.01)(急性GVHDは差を認めず)。
[解説]これらの結果は成人急性白血病でHLA一致非血縁ドナーがいない場合、そして速やかな移植を必要とする場合、UCBを選択する妥当性を示唆するものである。
* 補足:4-6/6座HLA一致臍帯血移植、8/8座HLA一致末梢血幹細胞移植、8/8座HLA一致骨髄移植、7/8座HLA一致末梢血幹細胞移植、7/8座HLA一致骨髄移植の順に記載
@ 寛解時に移植を行った場合、2年白血病無再発率はそれぞれ44%、50%、52%、39%および41%であった。
A 非寛解時に移植を行った場合、2年白血病無再発率はそれぞれ15%、17%、17%、17%および14%であった。
B 移植後42日時点における好中球生着率はそれぞれ80%、96%、92%、96%および94%であった。
C 移植後6ヶ月時点における血小板生着率は63%、88%、82%、80%および84%であった。
D 移植後2年における移植関連死亡率は37%、24%、22%、38%および34%であった。

平成22年9月29日
相本瑞樹

Outcomes of bacteremia due to Pseudomonas aeruginosa with reduced susceptibility to
piperacillin-tazobactam: implications on the appropriateness of the resistance breakpoint.
ピペラシリン-タゾバクタム感受性低下緑膿菌による菌血症の転帰-耐性か否かを見極めるポイントの
適合性に関する推論.
Tam VH, et al. Clin Infect Dis 46:862-67, 2008
[背景]緑膿菌による菌血症は深刻な臨床転帰と関連している。最近の知見では適切な経験的治療の
重要性が強調されているが、感受性の低下した緑膿菌にpiperacillin-tazobactam(以下PIPC/TAZ)が
使用されることに対しては議論が生じている。
[方法]我々は2002年から2006年までに生じた緑膿菌血症に関して後方視的コホート研究を行った。患
者は細菌検査データベースから同定され、関連する臨床データ(人口学的特性・基礎状態での
APACHE[Acute Physiology and Chronic Health Evaluation] Uスコア・菌血症の原因・治療)が電子
カルテから回収された。全患者に対して、菌血症が判明してから24時間以内に適切な経験的治療が施
行された。PIPC/TAZを投与された患者とその他の抗生剤を投与された患者(コントロール)を比較し
た。1次アウトカムは菌血症が判明した後の30日死亡率とした。
[結果]全部で34例の菌血症例にPIPC/TAZ感受性低下菌(MICが32か64の感受性と報告されるもの)
が認められ、7例にPIPC/TAZが投与された。2グループ間(PIPC/TAZ投与群とコントロール群)の基礎
状態に有意な差は認められなかった。30日死亡率はPIPC/TAZ群で85.7%、コントロール群で22.2%(P
=.004)であった。院内生存期間はPIPC/TAZ群で有意に短かった(P<.001)。多変量解析で年齢と
APACHEUスコア調整後の30日死亡率もPIPC/TAZによる治療(OR, 220.5; 95%CI, 3.8-12707; P=.
009)と関連が認められた。
[結論]PIPC/TAZに対する感受性が低下した緑膿菌による菌血症の際、PIPC/TAZによる治療は死亡
率の増加と関連があった。現在のCLSI(Clinical Laboratory Standards Institute)のPIPC/TAZに対
する耐性か否かを見極めるポイントが適正かを判断するために更なる研究が必要である。

平成22年9月13日
吉田全宏

Chemoimmunotherapy with a modified hyper-CVAD and rituximab regimen improves outcome
in de novo Philadelphia chromosome-negative precursor B-lineage acute lymphoblastic
leukemia.
新規発生フィラデルフィア染色体陰性B前駆細胞急性リンパ芽球性白血病に対するhyper-CVAD+リツ
キシマブ併用療法(hyper-CVAD療法変法はその予後を改善する.
[医療関係者以外の方へ]
急性リンパ性白血病に対する化学療法はフィラデルフィア染色体陽性か陰性かにより変わります。フィ
ラデルフィア染色体が陽性の場合には慢性骨髄性白血病で使用されているイマチニブ(商品名グリベ
ック)やダサチニブ(商品名スプリセル)を化学療法に併用することで寛解率、生存率の上昇が得られ
ています。フィラデルフィア染色体が陰性でかつCD20という細胞表面に発現する抗原陽性症例に対す
る新たな治療法を開発、その成績を示したのがこの論文です。CD20抗原に対して特異的に攻撃をす
るモノクローナル抗体リツキシマブ(商品名リツキサン)をhyper CVADという急性リンパ性白血病治療
で有効とされる治療法に併用する治療が本論文で紹介されています。従来、リツキシマブは悪性リンパ
腫に対する治療薬として開発されており、急性リンパ性白血病に使用した場合の成績は明らかではあ
りませんでした。本邦においても保険適応となっておらず大規模な研究は行われておりません。本研究
はフィラデルフィア染色体陰性CD20抗原陽性急性リンパ性白血病60歳以下の若年者において寛解維
持率、全生存率が従来のリツキシマブを併用しないhyper CVAD療法と比較すると良好な成績を収め、
有望な治療法であることが確認されました。
[目的]成人新規発症B前駆細胞急性リンパ芽球性白血病(adult de novo B precursor acute lymphoblastic leukemia、B-ALL)におけるCD20発現は予後不良因子であり、強度が高い治療法であるhyper-CVAD療法にCD20に特異的なモモノクローナル抗体であるリツキシマブを用いた化学免疫療法が試されていた。他の変法で行われてきた事としてはアントラサイクリン系の強化、中枢神経予防のためのリスクに応じた髄注回数の変更、早期あるいは後期の強力な治療の追加、6ヶ月までの維持強化療法の延長などがあった。
[対象および方法]フィラデルフィア陰性B-ALLと診断された282例の青年および成人が標準あるいはhyper-CVAD変法で治療された。後者ではCD20発現が20%以上であれば、標準量のリツキシマブを治療に組み込んだ。
[結果]完全寛解達成は95%で、3年間の完全寛解持続率と全生存率はそれぞれ60%および50%であった。60歳以下の若いCD20陽性群では完全寛解維持族率と全生存率がhyper-CVAD標準療法と比べ変法の方が優れていた(70%vs.38%、p<0.001、75%vs.47%、p=0.003)。陰性群では有意差は認められなかった(45%vs.50%、28%vs.32%)。
[結論]hyper-CVAD療法にリツキシマブを加える変法は若年CD20陽性のフィラデルフィア陰性B-ALLの予後を改善する。
CD20はシグナル伝達を活性化して細胞周期や分化に影響を与えるカルシウムイオンチャンネルとして機能する。NF-κBやERK1/2などを含む生存シグナルの活性化は抗アポトーシス作用を持つBcl-2蛋白やBcl-2遺伝子の過剰発現をもたらす。CD20発現はこれらのメカニズムを介して薬剤耐性をうみ、結果的に再発をもたらす白血病クローンの存続につながる。
全体の完全寛解率は95%であった。低い完全寛解率は高齢者群で観察された(高齢者88%vs.若年者97%、p=0.02)。治療法やCD20発現の有無による完全寛解率に差は認められなかった。微少残存病変についてはhyper-CVAD変法で治療された93例で評価され、CD20陰性群(58%)と比べリツキシマブで治療されたCD20陽性群(81%)で陰性の頻度が高かった。
経過観察中央値は64ヶ月であった。長期間寛解を維持する因子としてはPSがよいこと、白血球数低値、血小板数高値、治療開始前のアルブミン値が比較的高い事であった。全生存率が悪化する因子としては高齢、白血球数高値、血小板数低値、血清クレアチニン値高値、アルブミン値低値、β2-ミクログロブリン高値が挙げられた。全生存率について多変量解析を行うと、予後良好因子として若年者、白血球数低値、血小板数高値、リツキシマブを使用している治療が挙げられた。

平成22年9月6日
備後真登

Life expectancy in patients surviving more than 5 years after hematopoietic cell
transplantation.
造血幹細胞移植後5年以上生存している症例の生存予測.
[目的]幹細胞移植は血液腫瘍やその他の疾患を治癒させ得るが、遅発性の合併症も生じる。これまで
生存者における移植後期の合併症発症についての評価がなされてきたが、幹細胞移植後患者の長期
平均余命に関しては評価されていない。
[対象および方法]我々は1970年から2020年に行われた同種、自家幹細胞移植後、少なくとも5年以上
原病の再発なしに生存した2574例の死亡率、推定される平均余命および死亡原因を評価するため、
標準的手法を用いて解析を行った。
[結果]移植後20年での生存率は80.4%であった。22923人/年の経過観察期間中、357例が死亡した。
移植後、少なくとも30年間お死亡率は予測される母比率と比べて4-9倍多核、移植年齢にかかわら
ず、平均余命は一般人口での平均余命と比べて30%短いと見積もられた。死亡原因は順に二次発
癌、原病再発続いて感染、慢性移植片対宿主病、呼吸器疾患、心血管疾患であった。
 本研究では5年以内の再発がないことが前提であったが、悪性腫瘍の再発が死亡の原因の最も大
きなものであった(死因としては新たな悪性腫瘍か再発かについて区別はなされていない)。再調査さ
れた自家移植後の生存者65例のうち29例(45%)、同種移植後の生存者274例のうち29例(15%)の
死亡が再発によるものであった。85例が致死的非血液腫瘍であり、口腔咽頭がん(17例)、消化器癌
(16例)、脳腫瘍(12 例)であった。肺線維症は呼吸器疾患による25例の再調査での死亡原因のうち
16例に関係していた。二次発癌と呼吸器疾患による死亡は高齢生存者よりも5-44歳の生存者におい
て、より高頻度に生じた。C型肝炎による全ての死亡は移植やドナー血輸注のC型肝炎がスクリーニン
グされ始めた1990年以前の移植患者に生じていた。その他の感染による死亡は慢性移植片対宿主病
を伴う症例(再調査での死亡原因28例、標準化死亡:20例)において、その他の患者(再調査での死亡
原因:7例、標準死亡:4.8例)よりも多く認めた。
[結論]原疾患の再発なしに幹細胞移植後少なくとも5年間生存した症例は高確率で更に15年間生存す
る。しかし、平均余命は完全に元のものに戻らない。患者の苦痛を減らすと共に、治療関連合併症を
減らす更なる努力が必要である。

平成22年8月30日
岡村浩史

Care for imminently dying cancer patients: family member's experiences and
recommendations.
臨死期担癌患者のケア:家族の経験と提案.
[目的]緩和ケアの基本原則は患者とその家族のサポートであるが、その双方の身体的・精神的負担の
ために臨死期のケアは重要となる。また患者、家族ともに完全な症状コントロールによる安楽が終末期
ケアに不可欠と考えているが、終末期における包括的なケアについての研究は今まで数少ない。加え
て、患者、家族と医療者間でのコミュニケーションが質の高いケアに不可欠であることは広く認識されて
はいるが、臨死期担癌患者ケアについては更に研究されていない。一方で、終末期患者の多くは意識
生命でない場合も多いが、医療者のコミュニケーションを問題視する遺族は多い。今回、遺族が感じる
苦痛を明らかにすることと、その原因を通して臨死期ケアを改善する目的で本調査を企画した。
[方法]本研究はJapan Hospice Palliative Care Evaluation(J-HOPE、日本ホスピス緩和ケア評価)
の一環として実施された。緩和ケア病棟(palliative care unit)で永眠された20歳以上の患者の、20歳
以上の遺族を参加基準とした。遺族住所が不明な場合、また自己記入式質問用紙への回答が回答者
にとって精神的苦痛となりかねないと担当医が判断した場合は除外した。2004年11月から2006年9月
までの期間に95施設の認可PCUで家族を亡くした670の遺族が対象となった。質問用紙作成にあた
り、患者を亡くした際の家族が感じた苦痛(5件法)と家族が感じた臨死期ケア改善の必要性(4件法)と
の2つのprimary end pointを設定した。次にこれらに関連する因子(家族が受け取った情報、医療者
のふるまい、永眠された際の環境)に関して調査した。解析に当たっては2つのグループに分けた。苦
痛に関しては「非常に苦痛を感じた」(high-distress群)、「苦痛を感じた」、「少し苦痛を感じた」、「それ
程苦痛を感じなかった」および「苦痛を感じなかった」(low-distress群)、ケア改善の必要性に関しては
「非常に必要」、「かなり必要」および「ある程度必要」(high-need群)と「それ程必要性を感じなかった」
(low-need群)に分類された。
[結果]質問用紙は670家族に郵送され、回収は492家族(76%)に得られた。そのうち434回答が有効
回答とされた(67%)。
 家族の苦痛は「非常に苦痛を感じた」15%、「苦痛を感じた」29%、「少し苦痛を感じた」18%、「それ
程苦痛を感じなかった」6.5%、「苦痛を感じなかった」1.2%であった。
 ケア改善の必要性は「非常に必要」1.2%、「かなり必要」4.4%、「ある程度必要」37%、「改善する必
要はない」58%であった。
 80%以上の家族に予想される臨床経過が伝えられた。患者の聴覚が残っている事(76%)、および
永眠の際には痛みを感じていないことの保証(60%)が伝えられている。一方、十分な病状説明がない
まま急変の危険性だけを説明された家族が約1/3(36%)を占めた。医療者の行動に関して、患者に意
識があった際と同様のケアを提供することを約70%の回答者が担当医および看護師よりアドバイスさ
れていた。その一方で患者の死について簡略な説明しか受けなかった、あるいは急変の可能性のため
に不要な制限をされていたことを負担に感じた、さらには患者に聞こえるのが相応しくない会話を病室
でされた、と10-20%の遺族が回答した。
 臨終の環境については70%以上の遺族が死後ケアに対して十分な配慮があったこと、悲嘆のため時
間を割く環境が提供されたこと、家族が揃って以降に死亡確認を行う保証を受けていた。それとは逆に
10%以下ではあったが、永眠される際に病室の外からスタッフの話し声が聞こえた、あるいは患者に
寄り添うことを許されなかった家族もみられた。
 苦痛についてのlow-distress群と比較するとhigh-distress群で若い患者(p<0.001)、死亡確認時
に病室の外からスタッフの話し声が聞こえたこと(p=0.008)、意識下にあった時と接し方が変わったこと
(p=0.019)、患者入院時に家族の健康状態が不良(p=0.025)、患者と家族の続柄(p=0.044)が因子と
して寄与した。
 多変量解析ではhigh-distressについて患者年齢、永眠時に病室外からスタッフの話し声がきこえた
ことが独立した因子であった。患者と遺族の続柄に関しては配偶者が最も影響が強かった。
[考察]スタッフが安楽を保証すること、患者が永眠する際には疼痛の自覚がないと確証することは、ケ
ア改善の必要性を感じる頻度を下げる重要な因子と判明した。苦痛の軽減は包括的な緩和ケアの重
要な要素であると従来されているが、今回の研究においても疼痛や他の身体症状もマネージメントが
最重要項目であることが再認識された。臨死期ケアにおいてはスタッフと患者・家族間のコミュニケー
ションが重要であることが明らかになった。今回の調査では患者・家族と医療者のコミュニケーションで
1.どのようなケアを実践することを家族に指導すること、2.十分に悲嘆にくれる環境を提供すること、3.
臨終の際に室外からスタッフの話し声が聞こえない環境を確保すること、の3つが重要な要素として挙
げられた。家族がどのように患者をケアするかを指導することは、ケア向上の必要性に対する独立した
因子となった。終末期患者の家族が死亡時のケア方法に悩み、適切なケアに関する助言を必要として
いることが数多く報告されている。この点に関して医療従事者からアドバイスを行うことは、急速に病状
が悪化するような終末期患者とその家族間の関係を良好にする。患者の永眠を悲嘆する時間を家族
が十分に許されることもケア改善の必要性に対して独立した因子であった。加えて、家族が患者に付き
添うことの許可、希望を損なわない言葉、家人が揃うまで死亡確認を行わないこと、もケア改善に必要
な因子であった。家族の中には患者が臨死期にあること、および臨終の際に同席を望む家族に連絡す
るようにおい得てほしい、と希望される家族も少なくないことが報告されている。家族が不在の際に急
変により患者が永眠した場合、その遺族は罪の意識や怒り、あるいは後悔の念を抱くとされている。今
回の調査でも家族に悲嘆のための時間を提供すること、付き添いの許可、家族を勇気づける言葉、歌
人が揃って以降の死亡確認が終末期ケアにとって重要であり、望まれる点であることが示された。ま
た、永眠の際に病室外からスタッフの会話が聞こえることも遺族の悲嘆を強くすることが明らかになっ
た。更に、患者の聴覚が維持されることを伝えることや、死後ケアに対して配慮することも患者ケア改
善に対しての要求性に影響を示した。これは医療者は患者が意識下にある状態と同様の接し方が必
要であると、我々は解釈している。患者が会話不能になった場合、また反応を示さなくなった場合、言
語でのコミュニケーション喪失を悲しむ家族は多い。これまでにも緩和ケア専従者は患者の聴覚や感
覚が終末期にも残り、家族からの言葉や手を添えることが安楽となり、関係の継続性期待させるもので
あると強調している。今回の調査も同様に患者の耳は聞こえている状態だと説明されることは、精神的
支えとなるケアであることが示唆された。
 今回の研究において1.2%の遺族が終末期ケア改善を強く望むと回答した一方で、45%の遺族が強
い悲嘆を感じたと回答している。この差は、患者の喪失は遺族に強い悲しみをもたらしていても日本に
おけるPCUでの終末期ケアがおおむね適切なものであることの証左であるのかもしれない。
 臨死期患者のケアに関し、症状緩和や患者ケア方法の指導、十分な悲嘆の場の提供、病室外へ外
の会話が届くことのない配慮が重要でることを今回提示した。このような研究が進むことによって更に
スタッフが啓蒙され、今後、その結果が患者や家族に還元されるだろう。

平成22年8月23日
間部賢寛

Long-term outcome of EBV-specific T-cell infusions to prevent or treat EBV-related
lymphoproliferative disease in transplant recipients.
移植患者に発症するEBウイルス関連リンパ増殖性疾患の予防あるいは治療法としてのEBウイルス特
異的T細胞輸注療法の長期的効果.
[医療関係以外の方へ]移植後リンパ増殖性疾患は固形臓器移植、造血幹細胞移植後に発生するリン
パ球あるいは形質細胞増殖の総称で、EBウイルス感染に伴う過形成病変からEBウイルス陽性(ある
いは陰性)の悪性リンパ腫まで含んだ疾患です。この疾患は早期病変、多形性病変、単形性病変の3
種類に分類することができ、前2者は免疫抑制剤の減量(ないしは中止)によって軽快する場合があり
ます。しかし多形性病変の一部と単形性病変は抗癌剤(リツキシマブを含め)を用いた治療が必要とな
ります。EBV関連移植後リンパ増殖性疾患(EBV-LPD)発症予防あるいは発症した場合にはその治療
に免疫力を利用する方法があります。ドナー血液からEBV特異的細胞傷害性Tリンパ球(EBV-CTL)を
選択し、試験管内で増殖、この細胞をEBV-LPD発症の危険度が高い症例に予防的あるいはEBV関連
リンパ腫を発症した症例に対して治療的に輸注しています。リンパ腫発症がない101例に予防的EBV-
CTL輸注を行うことによって、15年の経過観察でEBV-LPDの発症はありませんでした。EBV-LPDを発
症した13例に対して治療としてEBV-CTLを輸注することによって11例が完全寛解となり、長期間再燃
なく経過しております。現時点では施設が限定されるもののEBV-LPDの予防、治療に有効な手段とな
ることが期待されています。
[はじめに]免疫標的療法は正常組織を巻き込むことなく腫瘍を除去するできる可能性がある治療であり、すでに多くの悪性疾患で選択的モノクローナル抗体療法が確立、実用化されている。しかしながら抗腫瘍効果としては十分とは言えず、また組織分布にも限界がある。こうした限界は細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell、CTL)を用いた免疫療法で打破できる可能性があり、微小血管壁をすり抜け腫瘍で充満した部位にも到達し、腫瘍抗原を捉えて自己増幅し、細胞障害メカニズムにより殺腫瘍効果を発揮することが可能と考えられている。EBウイルス(Epstein-Bar virus、EBV)によるリンパ増殖性疾患(lymphoproliferative disease、LPD)は造血細胞移植あるいは臓器移植後の免疫抑制患者に生じ、T細胞免疫療法の臨床適用性を評価できる疾患である。移植後のEBウイルス関連リンパ腫は免疫原性の強い腫瘍でEBVA3を始めとしたウイルス抗原を発現し、それゆえそれらに適合するように選択されたEBV特異的細胞傷害性T細胞(EBV-CTL)での制御を期待することができる。本論文ではポリクローナルEBV-CTLを輸注し、造血幹細胞移植後症例におけるEBV免疫の再構築を図る治療戦略を計画、EBV-LPD発症ハイリスク症例に対する予防効果と臨床的にリンパ腫まで進展した症例の治療効果を検証している。
[要約]EBV関連腫瘍に対する免疫標的療法においてEBVにより刺激された免疫系を用いたT細胞免疫
療法はこれまで難治であった病態にも踏み込める可能性がある。長期的効果、安全性、実用性を検証
するため、造血幹細胞移植後のEBV-LPDに対する予防あるいは治療としてEBV-CTL輸注を受けた3
施設114例について調査を行った。毒性は軽度で、接種部位局所の反応性浮腫が主なものであった。
予防的輸注を受けた101例にLPDの発症はなく、確定診断がついた、あるいは疑診されたEBV-LPD13
例では治療的輸注によって11例において完全寛解を維持している。本研究で用いたCTLの遺伝子修
飾成分により最長9年にわたりCTLの機能解析を行う事ができた。補足の解析では患者特異的CTLラ
インの構築、試験と輸注にかかる費用は6095ドルであり、これは他のLPD治療法と比較しても遜色が
なかった。CLT治療は安全かつ有効な方法として移植後LPD予防・治療に適用できるものと考えられ
る。作製方法も確立され、今後、再現性を失うことなく他施設での治療にも使用できるものと考えられ
る。

平成22年8月9日
林 良樹

Hematopoietic stem-cell transplantation for acute leukemia in relapses or primary induction
failure.
再発あるいは初回寛解導入療法不応急性白血病に対する造血幹細胞移植.
[医療関係以外の方へ] 急性白血病の化学療法は種々の抗癌剤が開発され、進歩してきましたが、そ
の成績は現在でも満足できるものではありません。特に初回治療が効果なかった症例、初回治療に反
応して寛解状態となったものの再発した症例に関しては化学療法のみでは予後不良であるのは明らか
です。そこで同種移植が実施されますが、その治療効果については定まった見解が得られていませ
ん。この論文を作成した施設は国際的なデータセンターに集積された2255例を分析して移植前にどの
ような因子を持っている症例が予後不良か、について調査しました。急性骨髄性白血病では@初回寛
解期間が6ヶ月未満であった場合、A末梢血に白血病細胞が見られた場合、BドナーがHLA一致血縁
者以外であった場合、C一般活動指数が低下している場合、D染色体異常が予後不良な型であった
場合、の5つが予後不良因子として挙がりました。実際、この項目が0個であった症例の3年生存率は
42%でしたが、3つ以上有していた症例では6%と低下していました。急性リンパ性白血病の場合には
@初回治療が効果なかった場合あるいは2回以上再発している場合、A骨髄中に白血病細胞が25%
以上認められる場合、Bサイトメガロウイルスに感染したことのあるドナーから移植する場合、C移植
時年齢が10歳以上の場合、の4つが予後不良因子として挙がりました。この項目が0個あるいは1個で
あった症例の3年生存率は46%、3個以上有していた症例では10%と低下していました。初回治療に効
果がなかった症例あるいは再発した症例に対する移植は上記に挙げた因子を基に分類することによっ
て長期生存が得られるグループが存在するものと結論しています。
[目的]寛解導入療法、再寛解導入療法に不応性の急性白血病症例は移植を受けなかった場合、その
予後は不良である。しかし非寛解症例に対する移植の有益性については定まった評価は得られていな
い。移植前の状態を様々な視点から評価することによって、より良好な予後を得ることができるサブグ
ループを規定できるのではないかと仮定した。
[対象と方法]The Center for International Blood and Marrow Transplant Researchに1995年から
2004年の10年間で再発あるいは骨髄破壊的治療で非寛解であった急性白血病に対して移植を施行し
た2255例が報告されている。生存者の追跡期間の中央値は61ヶ月であった。我々は移植前の状態を
多変量解析で評価し、生存予後を規定する巣子大亜リングシステムを見出した。
[結果]3年全生存率は急性骨髄性白血病では19%、急性リンパ性白血病では16%であった。急性骨髄
性白血病では第一寛解期の期間が6個月未満、末梢血中の白血病細胞の存在、HLA一致血縁以外の
ドナー、Karnofsky or Lansky scoreが90未満、細胞遺伝子学的に予後不良型、という5つの移植前項
目が有意な予後不良因子であった。急性リンパ性白血病では初回寛解導入不応性あるいは2回目以
上の再発、25%以上の骨髄中白血病細胞、サイトメガロウイルス血清陽性のドナー、10歳以上の年
齢、といった移植前項目が予後不良因子であった。スコアが0点の急性骨髄性白血病例の3年全生存
率は42%であったが、スコアが3点以上の症例は6%であった。またスコアが0点あるいは1点の急性リ
ンパ性白血病例の3年全生存率は46%、スコアが3点以上の症例では10%であった。
[結論]移植前の状態によって分類されたサブグループは、それぞれ異なる結果を示した。急性白血病
の一部の症例では再発時に移植を行うことで長期生存を得ることができるかもしれない。

平成22年8月2日
井上敦司

A boost of CD34+-selected peripheral blood cells without further conditioning in patients with
poor graft function following allogeneic stem cell transplantation.
同種造血幹細胞移植後に起こった移植片機能不全に対して前処置治療なくCD34陽性細胞選択採取
を行った末梢血採取検体輸注は有効である.
[医療関係以外の方へ] 同種造血幹細胞移植後に提供者の血液が患者血液と完全に置き換わること
を完全キメリズムが達成されたと言います。一部の症例では完全キメリズムが達成されても血球回復
が得られない症例が存在します。この患者さんを血球回復させる手段として同じドナーからの再移植が
考えられます。この場合には抗癌剤を用いた前処置後に施行するのが通常ですが、この研究では前処
置治療を施行することなくドナーの骨髄あるいは末梢血を輸注することにより造血回復を促進させる方
法を検討しています。この施設ではA群:経過観察のみの群、B群:採取した骨髄あるいは顆粒球コロ
ニー刺激因子を使用して採取した末梢血検体を輸注する群、C群:顆粒球コロニー刺激因子を用いて
採取した末梢血から造血幹細胞に発現しているCD34抗原を持っている細胞のみを特殊な方法で選択
的に採取して輸注する群の3群に分けて、研究を行っています。最も効果的、すなわち血球回復が得ら
れ、かつ急性移植片対宿主病発症が少なかったのはCD34陽性造血幹細胞を選択的に採取したC群
であることがわかりました。また回復が得やすい症例は移植後に全く血球回復が得られない群よりも一
旦、血球回復が得られたもののその後減少してしまった群ということも判明しました。抗癌剤また放射
線治療を施行することなくドナーから採取した移植検体(特にC群)を輸注することは移植後血球減少
(完全キメリズム達成例)に対する有望な治療法であることがわかりました。
[背景]同種造血幹細胞移植後(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、allo-HSCT)、
一部の患者は移植片機能不全(poor graft failure、PGF)を発症する。ドナー骨髄または末梢血を輸
注することで機能を促進、これによって血球回復効果また非再発死亡について有益であるか否かにつ
いてはわかっていない。
[対象・方法]allo-HSCT後に完全キメリズムにもかかわらずPGFを発症した症例について、血球回復を
目的とした細胞輸注あり/細胞輸注なしの群を比較検討した。対象症例にはprimary PGF(移植後血
球回復せず)、secondary PGF(一旦完全に血球回復したがその後減少)が含まれる。PGF 54例の内
訳はドナー細胞輸注なし(20例、Group A)、CD34陽性細胞選択などの操作を施行しない骨髄および
末梢血(顆粒球コロニー刺激因子は使用)(14例、Group B)、顆粒球コロニー刺激因子を用いて採取
した末梢血検体からCD34陽性細胞を選択採取した群(20例、Group C)であった。細胞輸注を施行す
る細胞には前処置化学療法を施行していない。3群で病期、ドナータイプ(血縁/ 非血縁、primary
PGF/secondary PGF、完全ドナーキメラ、PGF持続期間について群間差は認められなかった。
[結果]3系統の血球回復はGroup A、B、Cそれぞれにおいて40%、36%および75%に認められた(P=
0.02)。多変量解析では3系統の血球完全回復が起こりやすいのはsecondary PGF、末梢血CD34陽
性細胞選択採取した症例であり、ドナータイプの影響はなかった。
非再発死亡率はGroup A、B、Cでそれぞれ55%、64%および20%(P=0.06)でGroup Cが有意に低
く、また3系統完全血球回復と密接に関連していた。PGFが直接死因となったのはGroup A、B、Cでそ
れぞれ30%、21%、10%、急性ならびに慢性移植片対宿主病が死因となったのは5%、36%および
10%であった。
[結論]@PGF症例では末梢血CD34陽性細胞選択輸注は急性GVHD発症リスクが低くかつ血球回復が
得られる可能性が高い、ACD34選択採取等の操作を加えない群(Group B)は輸注を行わない群(
Group A)に比べても生存率の上昇が得られない。B非再発死亡率は末梢血採取検体を使用した時
が最も低くなる。PGF症例に対して次に幹細胞を提供する手段を議論するのに有益なデータと考えられ
る。

平成22 年7月26日
中前美佳

Therapy of relapsed leukemia after allogeneic hematopoietic cell transplantation with T cells specific for minor histocompatibility antigen.
同種造血幹細胞移植後再発白血病に対する副組織適合抗原に対する特異的T細胞を用いた治療.
[医療関係以外の方へ] 白血病に対する同種移植後に危惧されるのは移植片対宿主病による重篤な合併症と白血病の再発です。移植前には組織適合抗原といわれるHLAが一致するドナーを選び、移植を行います。この一致させなければならないHLAは主要組織適合抗原と呼ばれるもので主としてHLA-A抗原、B抗原、DR抗原(最近ではC抗原)がそれに当たります。しかし、これらの主要組織適合抗原を一致させていてもドナーリンパ球が患者組織を攻撃する反応である移植片対宿主病は多くの症例で発症します。これに関与しているものが副組織適合抗原と呼ばれるものでドナーリンパ球がこの副組織適合抗原を攻撃することによって移植片対宿主病を生じ、その一方で白血病細胞を攻撃する移植片対白血病効果が生み出されます。この施設では患者血球には反応を示すものの移植片対宿主病の攻撃組織の一つである患者皮膚には反応しないドナーリンパ球(細胞障害性Tリンパ球)を体外で増加させた後に患者に戻して、再発白血病に対する効果を検討しています。この治療を受けた7例のうち3例に細胞障害性Tリンパ球が反応を示した副組織適合抗原が判明しました。7例中5例に一時的ではありましたが、血液、骨髄中から腫瘍細胞が消失しています(完全寛解)。輸注されたリンパ球には寿命があり、次第に減少していくため、この効果を維持するためにはリンパ球輸注を繰り返すあるいは体内で増加させるような手段の開発が必要ですが、移植後再発白血病に対して予後を改善させることができる治療法として期待が持てます。
[要約]
副組織適合抗原特異的ドナーT細胞による養子免疫療法は移植後の白血病再発予防あるいは治療となる可能性がある。計7例の主要組織適合抗原一致の同種造血幹細胞移植後に体外で増幅した臓器特異的なドナー由来のCD8陽性細胞障害性T細胞を再発白血病患者の治療に用い、安全性、移植した細胞障害性T細胞の生体内寿命、治療反応について評価を行った。抗白血病効果を示し、安全に投与できた3例で細胞障害性T細胞の標的分子を同定した。3例で肺毒性が出現し、1例は重症であった。肺毒性は細胞障害性T細胞の標的副組織適合抗原の肺での発現レベルと関係していた。移植された細胞障害性T細胞は最大21日存在し、5例が一連の治療後に一過性ではあるが完全寛解に達した。これらの結果は特異的ドナーによる養子免疫療法で移植後再発白血病に対して移植片対白血病効果を選択的に増強できる可能性を示唆するものである

平成22 年7月12日
中前博久

Adherence is the critical factor for achieving molecular responses in patients with chronic myeloid leukemia who achieve complete cytogenetic responses on imatinib.
イマチニブ内服により細胞学的完全寛解に至った慢性骨髄性白血病患者において分子遺伝子学的寛解に到達するためには治療遵守が重要な意味を持つ.
[医療関係以外の方へ] 慢性骨髄性白血病はフィラデルフィア染色体を認め、この染色体異常がもたらす遺伝子異常が原因となって発症する造血器悪性腫瘍です。現在、慢性骨髄性白血病治療にはイマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブの3種類の薬剤が使用され、高い有効率が報告されています。慢性骨髄性白血病ではこれらの薬剤によってまずフィラデルフィア染色体が消失すること(骨髄検査で20細胞にフィラデルフィア染色体が認められなくなること、細胞遺伝子学的完全寛解)、次に細胞遺伝子学的完全寛解に到達した症例が遺伝子学的手法を用いて数百万レベルの細胞でBCR-ABL融合遺伝子が認められなくなること(分子遺伝子学的完全寛解)が治療目標になります。本論文はこの分子遺伝子学的寛解そして分子遺伝子学的完全寛解をもたらす要因のひとつとして"イマチニブを医師の指示通りに服用すること"であることを科学的に証明した論文です。
[要約]
[目的]イマチニブ投与中の慢性骨髄性白血病において分子遺伝子学的反応のレベルは患者により大きく異なる。この差は治療の遵守の違いに由来する可能性がある。
[方法]イマチニブ400mg/日投与を中央値59.7ヶ月間(25-104ヶ月間)受け、細胞遺伝子学的寛解に達した87例の慢性骨髄性白血病患者の治療遵守についてmicroelectronic monitoring deviceを用いて3ヶ月間調査した。治療遵守と分子遺伝子学的反応のレベルを比較し、影響があると考えられた他の因子についても解析を行った。
[結果]治療遵守率の中央値は98%(24-104%)であった。23例(26.4%)が90%以下の治療遵守率であり、そのうち12例(14%)が80%以下であった。90%以下か90%超かと、6年後にBCR-ABLが3log以上減少している率(=分子遺伝子学的寛解達成率)には強い相関関係があった(90%以下28.4%対90%超43.8%、P<0.001)また分子遺伝子学的完全寛解達成率についても同様に強い相関関係があった(90%以下0%対90%超43.8%、P=0.002)。多変量解析では分子遺伝子学的寛解達成と関連した独立因子は治療遵守率とmolecular human organic cation transpoter-1(hOCT1)のみであった。治療遵守率は唯一の独立した細胞遺伝子学的寛解予測因子であった。治療遵守率が80%以下の患者で分子遺伝子学的寛解を達成した患者は一人もいなかった。イマチニブを増量された患者の治療遵守率は低かった(86.4%)。イマチニブを増量された患者では治療遵守率は分子遺伝子学的寛解未達成の独立した因子であった(P=0.006)。
[結論]イマチニブ治療を数年続けている患者では治療達成率の低下が分子遺伝子学的寛解が得られない主な原因である可能性がある。

平成22年7月5日
相本 蘭

Transplantation of allogeneic hematopoietic stem cells for adult T-cell leukemia: a nationwide retrospective study.
成人T細胞白血病に対する同種造血幹細胞移植:本邦における後向き研究.
[医療関係以外の方へ] 成人T細胞白血病はHTLV-I(ウイルス)が原因となる白血病です。その治療には難渋し、化学療法で完治する率は低いのが現状です。現在、種々の薬剤が開発されており、化学療法にも期待が寄せられていますが、現時点で有効な治療法の一つとして同種造血幹細胞移植が挙げられます。本論文は本邦における成人T細胞白血病の移植データを集計した結果をまとめたものです。386例が対象となり、全体の生存率は33%でした。この生存率を低下させた因子は@高齢(>50歳)、A男性、B完全寛解以外の疾患状態、C臍帯血の使用であることが統計学的に明らかになりました。移植に関連した死亡率(感染症、移植片対宿主病など成人T細胞白血病と無関係の原因で死亡した率)は43%、成人T細胞白血病の再発あるいは進行による死亡率は24%でした。条件が揃えば同種造血幹細胞移植は有効な治療法であるものと考えられます。
[要約]同種造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation、HSCT)はHTLV-Iが原因である難治性成熟T細胞腫瘍の成人T細胞白血病(adult T cell leukemia、ATL)に対する根治療法として増加してきている。我々は異なる移植源で同種HSCTを受けたATL386例の効果について比較した。HLA一致血縁者骨髄移植または末梢血幹細胞移植154例、HLA不一致血縁者骨髄移植または末梢血幹細胞移植43例、非血縁者間骨髄移植99例、単一ユニット臍帯血移植90例であった。観察期間中央値41ヶ月(1.5-102ヶ月)で全対象例の3年全生存率は33%であった。多変量解析により生存率を有意に低下させる4つの患者因子が判明した。@高齢(>50歳)、A男性、B完全寛解以外の疾患状態、C臍帯血の使用(HLA一致血縁移植片使用に対して)。移植関連死亡は臍帯血移植患者で多核、原病関連死亡率は男性患者または完全寛解以外で移植した患者で高かった。血縁者からの移植例ではドナーHLV-I陽性が原病関連死亡率に悪影響を与えた。結論として移植関連死亡を減少させる一層の取り組みが必要であるが、現在、利用可能な移植源からの同種HSCTは選択されたATL患者において有効な治療法であるものと考えられた。
[結果]
生着と移植片対宿主病:移植後30日以上生存した評価可能な310例のうち、生着不全はHLA不一致血縁者間移植で35例中2例(6%)、臍帯血移植で70例中12例(17%)に認められた。Grade II-IVの急性移植片対宿主病はHLA一致血縁者間移植で140例中69例(49%)、HLA不一致血縁者間移植36例中20例(56%)、非血縁者間骨髄移植91例中40例(44%)、臍帯血移植66例中29例(44%)であり、多変量解析ではその発症率は4群間で有意な差は認めなかった。慢性移植片対宿主病は評価可能195例中94例(48%)に認め、HLA一致血縁者間移植に比べて臍帯血移植において発症率が有意に低かった(hazard ratio 0.25)。
再発と原病進行:移植後30日以上生存した333例のうち136例に観察期間中央値76日(1-1964日)でATLの再発・進行が認められた。再発はHLA一致血縁者間移植で141例中52例(37%)、HLA不一致血縁者間移植37例中19例(51%)、非血縁者間骨髄移植85例中27例(32%)、臍帯血移植70例中38例(54%)に認めた。
生存率:386例中、観察期間中央値41ヶ月(1.5-102ヶ月)で125例が生存、101例が完全寛解で生存している。3年全生存率は全対象例で33%、HLA一致血縁者間移植で41%、HLA不一致血縁者間移植24%、非血縁者間骨髄移植39%、臍帯血移植17%であった。
移植関連死亡と原病関連死亡:評価可能376例の161例(43%)に移植関連死亡を認めた。3年移植関連死亡累積発症率はHLA一致血縁者間移植で37%、HLA不一致血縁者間移植43%、非血縁者間骨髄移植42%、臍帯血移植52%であった。多変量解析では臍帯血移植で移植関連死亡が高かった。ATL原病死亡は90例(24%)に認められた、3年原病関連死亡の累積発症率はHLA一致血縁者間移植で21%、HLA不一致血縁者間移植32%、非血縁者間骨髄移植19%、臍帯血移植30%であった。多変量解析では完全寛解以外での移植、男性で原病関連死亡が高かった。
ドナーのHTLV-Iの有無が結果に及ぼす影響:ドナーHLTV-I結果が確認されており、移植後完全寛解を維持あるいは達成している113例のうち、ATL再発は生存者の観察期間中央値40ヶ月(7.3-102ヶ月)でHTLV-I陽性ドナーからの48例中18例(38%)、HTLV-I陰性ドナーからの65例中16例(25%)に認められた。多変量解析ではHTLV-I陽性ドナーからの移植は原病関連死亡で有意であった。


平成22年6月28日
康 秀男

Strong association between respiratory viral infection early after hematopoietic stem cell transplantation and the development of life-threatening acute and chronic alloimmune lung syndromes.
造血幹細胞移植後早期の呼吸器ウイルス感染症と生命を脅かす急性あるいは慢性同種免疫肺症候群発症と強い関連がある.
[略語]allo-LS: alloimmune lung syndrome(同種免疫肺症候群)、HSCT: hematopoietic stem cell transplantation(造血幹細胞移植)、BOS: bronchilitis obliterans syndrome(閉塞性細気管支炎)、IPS: idiopathic pneumonia syndrome(特発性肺炎症候群)、BOOP: bronchiolitis obliterans organizing pneumonia(特発性器質化肺炎)
[はじめに]成人HSCT症例の30-60%が術後肺合併症を経験し死亡の主要因となる。小児においても10-25%の発症の報告があり、死亡のリスクを増加させる。過去には多くの術後肺合併症は感染に直接関連していたが、今日ではIPSやBOSといった非感染性術後肺合併症が多く視られるようになってきている。呼吸器ウイルス感染はHSCT患者の1-56%で視られる。過去の多くの報告では、上気道感染から下気道感染への進行を調べており、この進行に対するリスク因子を考察している。一部の施設から早期の呼吸器ウイルス感染は後期の閉塞性肺障害と関連していると報告している。また最近、肺移植症例において呼吸器ウイルス感染と同種免疫の関連についても報告されている。肺移植症例において、移植後100日未満での市中呼吸器ウイルス感染後に急性および慢性拒絶反応を発症しやすいことが報告された。HSCT後のBOS、IPS等の同種免疫性の肺疾患はある特定のトリガーにより肺が同種免疫の標的臓器になることが示唆されている。この同種免疫発症のプロセスは次の3つのステップよりなると考えられている。@組織障害→A炎症性サイトカインの放出→BTリンパ球の活性化と流入。我々はHSCTにおいて市中呼吸器ウイルスの存在がallo-LSの引き金となっていると考え、小児HSCT症例において本前向き研究を行い、こうした呼吸器ウイルスがallo-LSの発症や全生存率に与える影響を検討した。
 IPS、BOS、BOOPを含むallo-LSはHSCT後の重症合併症である。110例の小児の集団において30例がallo-LSを合併した(18例がIPS、12例がBOS)。多変量解析では移植後早期の呼吸器ウイルス感染がallo-LS発症の重要な予測因子であった(p<0.0001)。この事は調べられたすべてのウイルスにおいて示された。多変量解析においてallo-LSは死亡率を増加させる唯一の予測因子であった(p=0.04)。逆に急性移植片対宿主病に対する免疫抑制剤の長期投与はallo-LS発症を抑える効果を認めた(p=0.004)。「早期の風邪ウイルスの呼吸器感染により、肺は同種免疫の標的となる」という仮説が考えられる。

平成22年6月21日
中根孝彦

Risk-adapteed dose-dense immunochemotherapy determined by interim FDG-PET in advanced-stage diffuse large B-cell lymphoma.
進行期びまん性大細胞型B細胞リンパ腫における治療半ばで行うFDG-PETのリスク評価に従って治療強化を行う免疫化学療法.
[目的]びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma、DLBCL)において2-4サイクル後の化学療法後に施行されるFDG-PETの結果は予後に影響することが報告されている。しかしながら免疫化学療法においてこの治療半ばで行われるFDG-PET(interim FDG-PET)で陽性を示していても良好な予後を示すことがある。interim FDG-PETによってリスク評価を行う連続免疫化学療法において、このinterim FDG-PETが実際に有用であるか否かについて明らかにするため前向き研究を実施した。
[方法]2002年3月から2006年11月まで4サイクルの強化R-CHOP療法後(リツキシマブ、エンドキサン、アドリアシン、ビンクリスチンおよびプレドニン)にinterim FDG-PETを施行した。PET陰性ならば3サイクルのICE療法(イホスファミド、カルボプラチンおよびエトポシド)による地固め療法を施行した。PET陽性ならば生検を施行し、生検で病変が残存していた場合にはICE療法後に自家造血幹細胞移植を施行、残存が確認されなかった場合には3サイクルのICE療法を施行した。
[結果]経過観察中央値44ヶ月において全生存率ならびに無進行生存率はそれぞれ90%および79%であった。97例がinterim FDG-PET検査を受けた。59例が陰性、その内51例が無進行症例であった。38例が陽性で全例生検が施行され、33例が残存病変なく、その内26例が地固め療法(ICE療法)後、無進行を維持している。interim FDG-PET陽性/生検陰性例の無進行生存率はPET陰性例と有意差は認められなかった(P=0.27)。
[結論]今回の強化免疫化学療法ではinterim FDG-PETの予後予測の有用性を証明することはできなかった。臨床試験外ではinterim FDG-PETで残存病変が疑われた場合(陽性)には治療変更前に生検による評価を推奨する。

平成22年6月14日
寺田芳樹

Serum ferritin as risk factor for sinusoidal obstruction syndrome of the liver in patients undergoing hematopoietic stem cell transplantation.
血清フェリチン値は幹細胞移植患者における類洞閉塞症のリスクファクターになる.
[はじめに]以前、肝静脈閉塞症(veno- occlusive disease、VOD)と呼ばれていた類洞閉塞症(sinusoidal obstruction、SOS)は幹細胞移植後の最も生命を脅かす合併症の1つである。それは高ビリルビン血症、疼痛を伴う肝腫大、体重増加のうち、少なくとも2つ以上の所見の出現によって診断される。同種造血幹細胞移植患者においてSOSは移植関連死亡の1/3を占め、その致死率は50%としている報告もみられる。SOSの頻度は報告によって様々であり、小児移植患者では1〜2%である一方、成人の造血器悪性疾患における移植患者では50%以上とも言われている。移植前処置はおそらくSOSの腫瘍な原因であるが、その他の要因もあるものと考えられる。移植前の肝疾患、ウイルス性肝炎、サイトメガロウイルス血清反応陽性、前処置治療の強度、ブスルファン、ゲムツズマブ、エストロジェン、プロゲステロン、メソトレキセート、エベロリムス、アシクロビル、アムホテリシン、バンコマイシンの投与、HLA不一致もしくは非血縁幹細胞移植はSOSのリスク増加と関連している。近年、移植前の鉄過剰と感染症のリスク増加、移植関連死亡の増加といった移植患者の予後との関連について報告され始めている。それに加え、2つの臨床研究で鉄過剰症がSOSのリスクファクターである可能性が示唆されている。
 SOSは幹細胞移植症例にとって重大な合併症である。移植前の高フェリチン血症が移植後のSOSのリスクであるかどうかを確かめるために、移植427例について後方視的解析を行った(自家移植179例、同種移植248例)。移植前に血清フェリチンが測定された。SOSと診断された患者と診断されなかった患者において原疾患、移植の種類、イマチニブ、ブスルファン、ゲムツズマブ、バンコマイシン、アシクロビル、メソトレキセート投与歴、全身放射線療法の有無、移植前血清フェリチン値をファクターとして単変量ならびに多変量解析を行った。移植後中央値10日目(2〜29日)にSOSが88例(21%)に合併した。多変量解析では同種移植(OR=8.25)、イマチニブ投与(OR=2.60)、ブスルファン投与(OR=2.18)、血清フェリチン値>1,000ng/dl(OR=1.78)がSOSのリスクファクターであった。移植前血清フェリチン値はSOSの独立したリスクファクターであった。この結果より、移植前に鉄キレート剤を使用する前方視的研究が必要であるものと考えられる。

平成22年6月7日
岡村浩史

Phase I/II study of combination therapy with sorafenib, idarubicin, and cytarabine in younger patients with acute myeloid leukemia.
若年者急性骨髄性白血病に対するソラフェニブ、イダルビシンおよびシタラビン併用療法の第I/II相試験.
[FLT3]FLT3は受容体型チロシンキナーゼであり、主として造血幼若細胞の発現、骨髄内皮細胞より産生されるリガンド(FL)が結合すると二量体を形成し、そのチロシンキナーゼが活性化される。FLT3は血液細胞の分化・増殖と造血幹細胞の自己複製に重要なシグナル伝達を行う。単量体として存在するFLT3分子はFL非結合時にはATP結合部位であるP-loopとA-loopとJM領域が立体構造上近接して閉鎖し、ATPが結合しにくくすることにより自己活性化を抑制している。細胞外領域にFLが結合するとFLT3分子は二量体を形成し、細胞内領域の立体構造が変化してATPが結合可能となる。この結果、FLT3分子のチロシン残基がリン酸化されることによりFLT3キナーゼが活性化され、主として細胞内シグナル伝達機構(RAS/MARK、STAT5)を活性化し、細胞増殖・分化抑制・抗アポトーシスに関与するシグナルを活性化する。FLT3の変異が起こると常に二量体が形成され、FLの刺激を受け、細胞増殖を起こす。
[はじめに]FMS-like tyrosine kinase-3(FLT-3)は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)の治療標的として有望である。FLT-3遺伝子の膜近傍ドメインにおけるinternal tandem duplication(ITD)は若年者AMLの25%に起こっており、その重複するDNAの長さは3-400以上と幅がある。このような変異は構造的にキナーゼ活性を持つ機能的な蛋白を生み出し、下流のSTAT5やMAP kinaseの経路を活性化する。lestaurtinib、midostaurin、tandutinibのような多くの低分子キナーゼ阻害剤はFLT3の自己リン酸化を阻害することで細胞増殖を抑制しアポトーシスへ導く。これらの薬剤はAML患者に有効であることが報告されており、化学療法と同時あるいは化学療法後に使用された場合には標準的な抗癌剤と相乗的に作用する。ソラフェニブは傾向の小分子蛋白で、元々はRAF/MEK/ERK経路を標的としたRaf-1キナーゼの阻害剤として開発されたが、FLT3やVEGFRを含むキナーゼにも阻害作用を有する。
[目的]65歳以下のAML患者におけるソラフェニブとシタラビン、イダルビシン併用療法の効果と毒性をみるために行われた。
[対象と方法]第I相試験では化学療法と併用可能な用量を決定するために再発AML10症例に対して、段階的な用量のソラフェニブが投与された。その後の第II相試験で、未治療AML51症例(年齢中央値53歳、18-65歳)に対してシタラビン 1.5g/sq持続静注4日間(60歳以上ならば3日間)、イダルビシン12mg/sq静注3日間、ソラフェニブ400mg1日2回7日間の併用療法が行われた。
[結果]38例(75%)が完全寛解に達した。FLT3変異を持つ患者については15例中14例(93%)が完全寛解に達し(15番目の患者はCRp(complete response without platelet recovery)、FLT3 wild type(WT)の36例では24例(66%)が完全寛解を達成した(3例がCRp)。FLT3変異を持つ症例はFLT3 WT症例よりもCRを達成しやすかった(p=0.033)。また観察期間中央値54週(8-87週)において1年生存率は74%であった。FLT3変異を有する症例では観察期間中央値62週(10-76週)において10例が再発し、5例が完全寛解を維持していた。
[結論]ソラフェニブは安全に化学療法と併用でき、FLT3変異を有する症例にはFLT3シグナルを阻害することで高率に完全寛解をもたらす。

平成22年5月31日
備後真登

Significance of myelofibrosis in early chronic-phase, chronic myelogenous leukemia on imatinib mesylate therapy.
骨髄線維化を有する新規発症慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ治療の意義.
[はじめに]イマチニブの出現はフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)患者の予後を改善した。イマチニブ治療によって新規発症CML患者の70-90%で細胞遺伝子学的完全寛解が得られ、30-50%の患者に分子生物学的部分寛解(bcr/abl融合mRNAがPCR定量で0.05-0.1%未満)が、10-40%の患者で分子生物学的完全寛解(bcr/abl融合mRNAが検出されない)が得られた。生存期間中央値は約15-16年になると予想される。CMLに対する他の治療法より有効であるイマチニブはその出現前の予後因子であった年齢やクローン数の意義を減少させた。CML診断時の骨髄線維症所見や疾患の進行に伴う線維症の出現は予後不良因子である。骨髄のレチクリン線維症はCML診断時に40%の症例に認められ、これらの症例は予後不良であると報告されている。CML症例に対するインターフェロンα治療により骨髄線維症所見が改善したという報告はあるが、その有効性は疑問視されている。イマチニブ治療の骨髄線維症改善効果はより確かで再現性がある。この効果はbcr/ablに関する機序とは独立して、CML症例の予後を改善する可能性がある。
[背景]骨髄線維症はCML症例の予後不良を予測させるものとして報告されているが、より有効な治療法として登場したイマチニブが骨髄線維化を伴ったCMLの予後を改善させるか否かについては不明である。新規発症CML症例について治療前の骨髄線維症の評価と、イマチニブ治療後の骨髄線維症の反応と生命予後に関して評価を行った。
[方法]レチクリン線維の分類はreticulinの量と分布パターンにより行われ、Grade 1-4に分類された。Grade 1は出血や技術的な細胞消失がない部位の25%未満、Grade 2は25-50%、Grade 3は50-75%、Grade 4は75%以上をレチクリン線維が占めているものと定義した。
[結果]イマチニブにより治療された新規発症慢性期CML198例を研究対象とし、予後と骨髄レチクリン線維の関連に関して分析を行った。年齢中央値は49歳(16-84歳)で、80例が女性であった。診断からイマチニブ治療開始までの期間の中央値は1.0ヶ月(0-8.2ヶ月)であった。イマチニブ治療前の線維症の程度はGrade 0-1が55例(28%)、Grade 2が68例(34%)、Grade 3が46例(23%)、Grade 4が29例(15%)であった。重度線維症(Grade 3-4)は75例(38%)で認められ、その比率は既報と同様であった。Grade3-4の線維症は有意に好塩基球の比率が高く、高齢・貧血・脾腫が特徴的であった。線維症の程度と血小板増多症には関連を認めなかった。重度線維症はより高いSokal riskと関連していた。細胞遺伝子学的反応、生存期間と脱落までの期間はGrade 4では悪かった。細胞遺伝子学的完全寛解はGrade 4症例では76%、その他の症例では89%であった(P=0.07)。3年累積生存率は87%と97%であり有意差が認められた(P=0.04)。
[結論]イマチニブ治療を受けている重度の線維症を有する新規発症CML症例の予後は以前よりも良好であったが、Grade 4の線維症を有する症例(15%)の予後は依然として不良であった。

平成22年5月24日
吉田全宏

Analysis of t(15;17) chromosomal breakpoint sequences in therapy-related versus de novo acute promyelocytic leukemia: Association of DNA breaks with specific DNA motifs at PML and RARA loci
治療関連および新規発生急性前骨髄球性白血病におけるt(15;17)染色体切断点配列の解析.
Hasan AK, et al. Genes, Chromosomes & Cancer
[はじめに]急性前骨髄球性白血病に特徴的な転座であるt(15;17)(q22;q21)では15番、17番染色体での遺伝子内あるいは遺伝子外でのDNA切断により再構成が起こる。Topo IIを標的とする化学療法剤は遺伝子外での2本鎖DNAを切断するが、topo II阻害剤がt-APLの病理に関与することが既報により示唆されている。化学療法剤の生物学的影響と遺伝子異常とが関連するため、治療関連白血病はleukaemogenesisの重要なメカニズムを調査する機会となる。Mitoxantroneによって影響を受けたtopo IIがPMLおよびRARAの切断を修復することでt-APLではt(15;17)が形成されることを以前報告した。de novo APLにおけるt(15;17)の分子学的解析に関した既報ではPMLおよびRARAでの切断点に関して特徴のあるmotifはみられず、randomな切断点を示していた。今回、先行するtopo IIを標的とした薬剤投与の有無によるPMLとRARAの切断点の違いを調査した。
治療関連急性前骨髄球性白血病(therapy related acute promyelocytic leukemia、t-APL)23例およびde novo APL25例においてPML、RARA遺伝子切断点について比較した。23例のt-APL症例のうち、18例で先行疾患に対してtopoisomerase II(topo II)阻害剤であるmitoxantroneが投与されていた。mitoxantroneが投与されていたt-APL症例の39%においてPML側のDNA切断点は8塩基対からなる"hot spot"に集中しており、de novo APL例には見られなかった(p=0.007)。一方のRARA遺伝子ではt-APLの65%、de novo APLの28%がintron 2(region B)の3'側に集中した。de novo症例(P=1.00)と比較して、t-APL症例(p=0.001)ではRARAにおけるregion Bに切断点が有意に集まることがscan statisticsにより判明した。このRARA region Bの300塩基対下流領域はtopo IIと極めて相同性を示す好塩基配列を示した。PML、RARAともにt-APLとde novo APLとで切断点の分布が異なることにより、その発生機序の違いが示唆された。

平成22年5月17日
間部賢寛

Comparison of two pretransplant predictive models and a fllexible HCT-CI using different cut off points to determine low-, intermediate-, and high-risk groups: the flexible HCT-CI is the best predictor of NRM and OS in a population of patients undergoing allo-RIC.
低リスク、中間リスク、高リスクについて異なるカットオフポイントを定義したflexible HCT-CIと他の2つの移植前予測モデルとの比較-flexible HCT-CIは強度減弱同種造血幹細胞移植を施行した患者群において非再発死亡と全生存率を予測するための最も優れたシステムである
[はじめに]同種造血幹細胞移植後の死亡率、特に移植関連死亡率を知ることは患者にとって移植治療を受けることに対する利益を見積もる上で重要なことである。Charlson Comorbidity Index(CCI)は癌患者に対する様々な治療後の予後や慢性的な状態について予測するものであるが、造血幹細胞移植に対しては適していない。従って造血幹細胞移植に特価したモデルが必要である。シアトルのグループは2つの造血幹細胞移植の特化したモデルを報告してきた。2005年、SorrorらはCCIを修正し、非再発死亡を予測する移植前の17の合併症を算定したhematopoietic cell transplantation comorbidity index(HCT-CI)を報告した。更に近年ではParimonらが患者年齢やドナータイプ、移植前処置などを含めたhe pretransplantation assessment of mortarity (PAM) modelを報告した。以降、様々な研究によって臍帯血移植、自家移植におけるHCT-CIの有用性が確認されている。生存率や非再発死亡においては研究によって結果に差が見られ、予測と一致しないものもある。強度減弱同種造血幹細胞移植に関しては生存率や久居発死亡についての合併症モデルでの解析がなく、確認が必要とされていた。
造血幹細胞移植(特に同種移植)において、予後予測因子として患者併存症が組み込まれるようになってきている。以前、シアトルのグループは移植関連でないCCIを改良するために、多数の症例を解析し、hematopoietic cell transplantation comorbidity index(HCT-CI)やPAM modelなどのスコアリングシステムを発展させてきた。これらのcomorbidity(共存症)indexが他施設や他の疾患における臨床研究や基礎研究において適応可能かどうかについて調査されている。我々は次施設における194例の強度減弱同種造血幹細胞移植について後方視的に解析し、PAMスコア(低リスク9-16点、中間リスク17-23点、高リスク24-30点、超高リスク30点以上)、CCI(低リスク0点、中間リスク1-2点、高リスク3点以上)、HCT-CI(低リスク0点、中間リスク1-2点、高リスク3点以上)、flexible HCT-CI(低リスク0-3点、中間リスク4-5点、高リスク5点以上)について比較した。移植前のスコアの中央値はHCT-CI 3.5点、PAM 22点、CCI 0点であった。flexible HCT-CIは非再発死亡に関しては最もよい予測システムであった。flexible HCT-CIでは移植後100日目の非再発死亡、2年の非再発死亡はそれぞれ4、16、29%(p<0.01)、19、33、40%(p=0.01)であった。しかし、HCT-CI、PAM、CCIは非再発死亡については有効な予測システムではなかった。flexible HCT-CIがHCT-CI、PAM、CCIよりも有効な予測システムであることがc統計で確認された。2年全生存率においてもflexible HCT-CIが最も有用な予測システムであった。結論として我々の単施設における研究ではflexible HCT-CIが2年の非再発死亡ならびに全生存率を最もよく予測するものと考えられた。

平成22年5月10日
西本光孝

Donor statin treatment protects against severe acute graft-versus-host disease after related allogeneic hematopoietic cell transplantation.
ドナーに対するスタチン治療は血縁者間造血幹細胞移植後の重症急性移植片対宿主病を予防しうる.
[はじめに]治療抵抗性の急性移植片対宿主病(acute graft versus host disease、acute GVHD)は同種移植(allogeneic hematopoietic cell transplantation、HCT)後の死亡率に影響し、有効な予防および治療法が切望されている。近年、スタチンで知られる高脂血症薬HMG-CoA還元酵素阻害剤は免疫機構を変えうることが示されてきている。スタチンは自己抗原、同種抗原に対する免疫応答を弱めることが明らかにされたが、そのメカニズムは多様である。マウス実験においてMHC不適合HCT前の10日間、ドナーもしくはレシピエントどちらかがスタチン投与を受けることで、急性GVHD関連死亡が減ることが明らかにされている。最近の報告では血液悪性疾患に対する血縁・非血縁双方からのHLA適合・不適合を含むHCT67例にてHCT時にスタチン治療を受けていた10例では非治療群に比して2-4度の急性GVHD発症が低下していた。しかし少数例であり、結論的な事は言えないものであった。加えてこの報告ではドナーのスタチン治療の影響については述べられていない。今回、我々は567例のHLA一致同胞間HCTに関してドナーおよびレシピエントのスタチン使用と腫瘍な移植結果の関連を後方視的に解析した。
2001年〜2007年の間にHLA一致同胞間HCTを受けた567例の血液悪性疾患患者を対象として、スタチンの使用とGVHDリスクの関連を後方視的に解析した。ドナー、レシピエントともにスタチン投与を受けていない群(D-/R-:464例)に比較するとドナーのみスタチン投与を受けていた群(D+/R-:75例)では3-4度急性GVHDの発症リスクが低かった。ドナー、レシピエントともにスタチンを使用した群(D+/R+:12例)では3-4度急性GVHDのリスクは減少することが示唆されたが、レシピエントのみスタチンを使用した群(D-/R+:16例)ではGVHD予防に寄与していなかった。慢性GVHD、再発、非再発死亡率、前脂肪率についてはドナーもしくはレシピエントのスタチン投与は有意な影響を与えなかった。スタチン関連のGVHD予防効果はシクロスポリンで移植後免疫抑制を施行した患者に限定して認められ、タクロリムス投与患者では認められなかった(P=0.009)。この結果により、ドナーのスタチン治療は対象の悪性疾患への免疫制御を弱めることなく重症急性GVHDを予防しうる有望な戦略となる可能性が示唆された。

平成22年4月26日
林 良樹

Effect of complete remission and responses less than complete remission on survival in acute myeloid leukemia: A combined Eastern Cooperative Oncology Group, SOuthwest Oncology Group, and M.D. Anderson Cancer Center Study.
急性骨髄性白血病において真の完全寛解はいわゆる完全寛解(血小板回復のない)よりも生存に及ぼす影響は少ない.
2003年に完全寛解(complete remission, CR)より少し緩い基準のCRp(complete remission with incomplete platelet recovery、血小板回復のないCR)が導入された。急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)の研究にはCRとCRpをまとめて解析したものが多いが、生存にもたらす影響は明らかではない。新規AMLに対してCRの効果と予後を6823例のデータを用いて後方視的解析を行った。これをMDアンダーソンにおけるCRp例と比較した。シタラビンベースの治療を受けて3-5年生存している症例の少なくとも94%は、最初かサルベージ療法後にCRに達していた(限られたデータではあるがシタラビンを含まない初期治療を受けた症例も同様)。CR例はCRp例よりも3-5年生存率は高くなる傾向がある。治療前予後リスクで予後良好AMLではCRpよりもCRに至る可能性が高かった。多変量解析ではCR例の無再発生存率はCRp例よりも長かった。CRpは治療抵抗性の状態のAMLより生存率は高い。CRpは臨床的意義はあるものの、新規発症AMLについてはCRとCRpは独立した評価項目とすべきである。
平成22年4月19日
中前美佳

Clonal expansion of T/NK-cells during tyrosin kinase inhibitor dasatinib therapy.
チロシンキナーゼ阻害剤であるダサチニブ治療中のT/NK細胞のクローナルな増殖.
[はじめに]慢性骨髄性白血病は悪性腫瘍の原因として分子メカニズムが初めて同定された癌腫である。BCR-ABLチロシンキナーゼを標的として阻害することで慢性骨髄性白血病の治療は大きな変化を遂げた。イマチニブは最初に臨床応用されたチロシンキナーゼ阻害剤で慢性骨髄性白血病の標準的治療となっとり、フィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病の治療にも用いられている。ダサチニブは第二世代のチロシンキナーゼ阻害剤でイマチニブ抵抗性の慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病にしようされている。ダサチニブのキナーゼ抑制のプロファイルは広く、イマチニブが抑制できないようなSRC、TECキナーゼに対しても抑制作用がある。このことは治療効果を高める可能性があるが、長期的な正常細胞への効果は大部分が不明であり、副作用が強まる可能性もある。今までのところは、チロシンキナーゼ阻害剤の副作用は比較的許容範囲であるが、薬剤の中止すべき副作用である骨代謝異常のような予想外の副作用が生じる症例も存在する。細菌、in vitroの研究においてT細胞、NK細胞の活性化や増殖をダサチニブが強く抑制することが報告されている。in vitorでのダサチニブの推定される免疫収束作用については今のところほとんど調べられていない。慢性骨髄性白血病とフィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病において我々は有意な大顆粒リンパ球の増加をダサチニブ治療中に認めた。更に包括的な分析によって、アメリカおよびヨーロッパの異なる施設のより多くの症例を調査、ダサチニブ関連の血液リンパ増殖反応の臨床的、生物学てきな側面について調査した。さらに国際第II相試験でのフィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病46例の別の患者集団においてダサチニブ関連の血液リンパ増殖反応について分析した。ダサチニブ関連の血液リンパ増殖反応はT細胞またはNK細胞のクローナルな増殖であり、共通した臨床的、biological特徴を有し、自己免疫反応様の副作用と著明な予後改善に結びついていることが判明した。
ダサチニブは広域なスペクトルを持つチロシンキナーゼ阻害剤でBCR-ABLとSRConcoproteinに優位に作用して抑制することで予想のつかない薬物反応が現れる可能性がある。我々はダサチニブ治療中に22例に末梢血リンパ球の著明な増加を認めた。このリンパ球のクロナリティーと免疫表現型、臨床症状の分析を行った。大顆粒リンパ球の急速なリンパ球増加(peak count range 4-20×10^9/μl)が治療開始から3ヶ月後に観察され、治療期間を通して持続していた。15例では細胞傷害性T細胞、7例ではNK細胞の表現型を有しており、全例クローナルな増殖を認めた。腸炎や胸膜炎などの副作用は22例中18例で見られ、LGLの急速な増加が先行していた。細胞傷害性T細胞は胸水中や腸生検標本でも確認された。ダサチニブに対する反応は良好であった。予想に反して長期間にわたる寛解状態が進行期白血病で観察された。46例のフィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病の第II相臨床試験ではリンパ球の増加を伴った症例で予後が優れていた。ダサチニブはキナーゼ阻害によって予後の改善につながる通常から逸脱した免疫反応を惹起する可能性がある。
平成22年4月12日
中前博久

Phase I study of KW-0761, a defucosylated humanized anti-CCR4 antibody, in relapsed patients with adult T-cell leukemia-lymphoma and peripheral T-cell lymphoma.
ヒト抗CCR4抗体(KW-0761)の再発成人T細胞白血病・リンパ腫および末梢性T細胞リンパ腫に対する第I相試験.
[はじめに]この10年間、癌治療においてモノクローナル抗体が進歩し、効果を挙げている。造血器悪性疾患ではモノクローナル抗体であるリツキシマブがB細胞リンパ腫の標準的な治療となり、予後を著明に改善している。対照的にT細胞性の造血器悪性疾患の予後は非常に悪い状態が続いている。末梢性T細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T-cell細胞リンパ腫の5年生存率は32%、成人T細胞白血病に至っては14%にすぎない。新規発症成人T-cell白血病における第III相試験では多剤併用化学療法(LSG-15)の方が、隔週で行うことにより薬量を強化したCHOP療法よりも有効であることが証明されている。しかし3年生存期間中央値と生存率はそれぞれ約13ヶ月、24%と十分なものとは言えない。CCR4はヘルパーT細胞(type 2)と調整T細胞上で発現しているケモカイン受容体である。我々も含め多数の研究にてCCR4が特定のT細胞性悪性腫瘍膜表面上に発現していることが示されてきた。このことから我々は再発性、治療不応性のT細胞リンパ腫に対して、このCCR4が免疫療法として有用な分子標的薬になるかもしれないと仮定した。effector cell上のFcγ受容体への結合能を増やし、抗体依存性細胞障害を強化したヒト抗CCR4抗体であるKW-0761を開発した。
*[目的]KW-0761”抗CCR4抗体”は抗体依存性細胞障害活性を示すものである。この第I相試験は再発したCCR4陽性の成人T細胞白血病・リンパ腫または末梢性T細胞リンパ腫の症例で、KW-0761の安全性・薬物動態・第II相試験で推奨される用量・有効性を評価したものである。[方法]16例がKW-0761の投与を受けた。回数・用量に関しては0.01mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kgの4段階の投与量が設定され、決められた投与量を週1回のペースで軽4週間の投与を行った。[結果]15例はプロトコール治療を完遂した。1例(1.0mg/kg)のみが、grade 3の薬量限界毒性、皮疹、発熱性好中球減少症またgrade 4の好中球減少症が認められた。その他のgrade 3-4の治療関連毒性はリンパ球減少(10例)、好中球減少(3例)、白血球減少(2例)、帯状疱疹(1例)、急性注入反応/サイトカイン放出症候群(1例)であった。用量が増えるにつれて、毒性の重症度、頻度が増えることはなかった。また用量は最大耐用量に達しなかった。従って、第2相試験で推奨される用量は1mg/kgと決定した。KW-0761に対する自己抗体を検出された症例はいなかった。血中濃度の最大値、トラフ値、第0日〜第7日のKW-0761の曲線下面積はKW-0761の投与量と投与回数が増えるとともに拡大する傾向があった。5例(31%)がobjective responseに到達した。5例のうち2例が完全寛解、3例が部分寛解となった。[結論]
KW-0761はすべての用量レベルで許容され、再発のCCR4陽性成人T細胞白血病あるいは末梢性T細胞リンパ腫に対して潜在的な有効性を示した。今後、用量1.0mg/kgでの第II相試験で証明されるものと考えられる。
平成22年4月5日
井上敦司

Use of procalcitonin to reduce patient's exposure to antibiotics in intensive care units (PRORATA trial): a multicntre randomized controlled trial.
集中治療室における抗菌剤使用を減少させるためプロカルシトニンの利用(PRORATAトライアル):多施設無作為コントロール試験.
Bouadma L, et al. Lancet 375: 463-74, 2010
*[背景]集中治療室では抗菌薬の治療期間を減らすことは多剤耐性菌の出現抑制につながる。我々の目的は抗菌薬投与期間を減少させるためのプロカルシトニンのアルゴリズム(情報処理において対象となる問題を解決するための一定の手順)効果を確立することである。[方法]多施設、前向き、patallel-group、open-labelの研究である。プロカルシトニン群(311例)とコントロール群(319例)に1:1で割り付けた。研究者は割り付け前は誰がどちらの群に割り付けられるかわからなかったが、割り付け後明らかにした。プロカルシトニン群に割り付けられた症例は測定したプロカルシトニン値によって抗菌薬投与を開始・終了し、コントロール群は標準ガイドラインに沿って抗菌薬の投与を行った。薬剤の選択、投与に関する最終決定は主治医の判断にゆだねられた。患者は集中治療室に3日以上入室していると予想され、細菌感染である疑いが強く、18歳以上であった。primary endpointは第28病日、第60病日の死亡率(非劣性試験)と第28病日までの「抗菌薬投与のなかった日数」であった。[結果]9例が研究より除外され、307例のプロカルシトニン群、314例のコントロール群で解析を行った。第28病日、第60病日時点の死亡率はプロカルシトニン群はコントロール群に比べて劣ってはいなかった(第28病日 21.2%対20.4%、第60病日 30.0%対26.1%)。プロカルシトニン群はコントロール群よりも有意に抗菌薬を投与されなかった日数が長かった(14.3日対11.6日)。[結論]外科患者でない集中治療室入室中の症例をプロカルシトニンアルゴリズムに沿って治療することは抗菌薬の暴露や有害事象を減らすことにつながる。

平成22年3月29日
相本 蘭

Decision analysis of peripheral blood versus bone marrow hematopoietic stem cells for allogeneic hematopoietic cell transplantation.
同種造血幹細胞移植における末梢血と骨髄使用に関する解析.
[略語]GVHD(graft versus host disease、移植片対宿主病)、BMT(bone marrow transplantation、骨髄移植)、aGVHD(acute GVHD、急性移植片対宿主病)、cGVHD(chronic GVHD、慢性移植片対宿主病)、NRM(nonrelapse mortality、原疾患残存または進行なしの死亡率)
末梢血造血幹細胞と骨髄造血幹細胞は同種造血幹細胞移植における移植源として選択肢となる。無作為比較試験と患者個々のデータを集めた大規模解析(individual patient data meta-analysis、IPDMA)によって骨髄移植例と末梢血幹細胞移植例では末梢血幹細胞移植例の方が再発率が低く、急性移植片対宿主病または慢性移植片対宿主病の発症率を増加させることが判明した。決断モデル(decision modeling)はこれらの代替治療に関連するリスクと利点を定量的に統合し、急性移植片対宿主病または慢性移植片対宿主病を有する移植後再発患者では生活の質(quality of life、QOL)が低下するということを生存するのに不利な点として組み入れることによって、すべてのモデルの仮定に対する感度分析が可能となる。我々は末梢血幹細胞または骨髄を使用する決断を示し解析するために外的に妥当なマルコフモデルを構築し、移植後状態の推移確率(たとえばGVHDと再発)とIPDMAと関連文献からのQOLの不利な点を推定した。ここで重要なのはこのIPDMAは骨髄破壊的前処置で治療された主にT細胞非除去HLA一致血縁ドナーを有する成人症例のデータを統合していることである。この状況においてモデルは全生存とquality-adjustedの生存予測値の療法において骨髄より末梢血幹細胞が7ヶ月の有利を持って勝っていることを示した。感度分析はIPDMAからの各変数の値と文献からのQOLの不利な点の範囲を通してこの結論を支持していた。しかしながら骨髄移植は1年再発率が5%未満の状況においては適正な治療線りゃおくである。末梢血幹細胞移植は骨髄移植が適正な結果をもたらしてくれる再発率がとても低い状況を除いては全生存とquality-adjustedんお生存予測値の両者において適正な幹細胞源である。

平成22年3月15日
康 秀男

High-dose cyclophosphamide as single agent, short-course prophylaxis of graft versus-host disease.
移植片対宿主病のシクロフォスファミド大量単独短期投与による予防.
[略語]GVHD(graft versus host disease、移植片対宿主病)、BMT(bone marrow transplantation、骨髄移植)、aGVHD(acute GVHD、急性移植片対宿主病)、cGVHD(chronic GVHD、慢性移植片対宿主病)、NRM(nonrelapse mortality、原疾患残存または進行なしの死亡率)
[はじめに]GVHDは未だ同種骨髄または末梢血幹細胞移植において主要な合併症であり、最適な予防法は未だ確立されているわけではない。標準的GVHD予防はカルシニューリン阻害剤であるシクロスポリンまたはタクロリムスにメソトレキセート、ミコフェノール酸モフェチルまたはシロリムスを組み合わせる方法である。しかしながらHLA一致同胞からのBMTでさえaGVHDは33-55%にみられ、非血縁者BMTドナーでは更に多い。カルシニューリン阻害剤はaGVHDは抑制するが、24ヶ月投与されてもcGVHD頻度を減らすのには効果的ではない。シクロフォスファミド大量療法は造血幹細胞への毒性がないことを含む安全性の側面をもつため、同種骨髄移植後暗線に投与することができる。マウスモデルにおいて移植後大量投与後、シクロフォスファミドは同種反応を引き起こすT細胞の増殖を標的とし、GVHDを抑制することに成功した。この安全性と効果はハプロミニ移植におけるタクロリムスおよびミコフェノール酸モフェチルとの併用において既に示されている。これらを背景にT細胞非除去HLA一致骨髄破壊的前処置での同種骨髄移植における単独GVHD予防としての移植後シクロフォスファミド大量療法を評価するために第I相・第II相研究を施行した。
シクロフォスファミド大量投与は免疫抑制はするが造血幹細胞を保存する可能性があることから、骨髄破壊的同種骨髄移植の単独GVHD予防として用いられてきている。今回、進行期血液悪性疾患患者117例(年齢中央値50歳(21-66歳)にシクロフォスファミド大量療法を施行した。78例がHLA一致血縁、39例がHLA一致非血縁ドナーであった。全例がブスルファン、シクロフォスファミドを用いた骨髄破壊的前処置を受けた。第一の評価項目としては2-4度のaGVHD頻度、第二の評価項目は原疾患残存または進行なしの死亡率(NRM)、cGVHD頻度、全生存率、無進行生存率とした。2-4および3-4度のaGVHD頻度はそれぞれ43%、10%、第100病日および2年NRMはそれぞれ9%と17%であった。2年OSおよびEFSはそれぞれ55%、39%で、移植時寛解例に限ると63%、54%であった。生存患者の観察期間中央値26.3ヶ月において、cGVHDの累積発症率は10%であった。これらの結果は移植後シクロフォスファミド大量療法はブスルファン、シクロフォスファミドを前処置治療としたHLA一致骨髄移植に対するaGVHDおよびcGVHDに対する単剤予防として効果的であることを示唆するものである。

平成22年3月8日
中根孝彦

Empirical versus preemptive antifungal therapy for high-risk, febrile, neutoropenic patients: a randomized, controlled trial.
高リスク発熱性好中球減少症症例に対する経験的抗真菌治療と予防的抗真菌治療の比較:無作為コントロール試験.
Cordonnier C, et al. Clin Infect Dis 48:1042-51, 2009
[はじめに]経験的抗真菌治療は抗菌薬不応性の発熱性好中球減少症に対して死亡率を減らすことができるため標準的治療となっている。解熱を含めた複合的なエンドポイントを第一エンドポイントとして経験的治療の有用性を明らかにした報告は多数ある。発熱だけでは侵襲性真菌感染症には特異性はなく、細菌ではCTやガラクトマンナンなどの新しい診断法が早期診断に有用となってきました。リポソーム化アンフォテリシンとカスポファンギンは真菌に対する経験的治療においてアンフォテリシンに比較すると安全性が高いが医療費がかさむ。抗菌薬無効の発熱性好中球減少症が続いたときに抗真菌剤を開始せず侵襲性真菌感染症の早期補助診断で陽性時に抗真菌剤を開始することで(予防的治療)医療費が削減されたという報告もある。しかしながら予防的治療を経験的治療、両者の生存に関する報告はない。今回、抗菌薬不応性発熱性好中球減少症に対して両者の無作為コントロール試験を行った。主要評価項目を好中球減少回復後2週間での生存とした。
[背景]造血器悪性疾患の広域抗菌剤が無効な発熱性好中球減少症症例において真菌剤による経験的治療は標準的な治療となってきている。近年、真菌症の診断率が向上し侵襲性真菌症の早期診断が可能となってきている。早期の真菌剤投与を遅らせても同等の生存率と毒性、医療費を下げることが可能であると考えられる。[方法]前向き無作為非劣性試験で経験的治療と予防的治療を比較検討した。経験的値竜王は抗菌薬投与で解熱しない場合や再燃する症例に抗真菌薬を投与することと定義し、予防的治療は抗菌薬を投与して4日以降に臨床的、画像的あるいはガラクトマンナンなどで深在性真菌症を疑った時に抗真菌薬を投与することと定義した。抗真菌薬は日々の腎機能をチェックして1mg/kg/日のアンフォテリシンBか3mg/kg/日のリポソーム化アンフォテリシンBとした。主要評価項目は好中球減少から回復して14日目での生存率とした。[結果]登録した293症例の好中球減少(好中球数500 未満)の期間中央値は18日(5-69日)であった。intention-to-treat解析で経験的治療群の全生存率は97.3%、予防的治療群で95.1%と有意差は認められなかった(非劣性が証明された)。侵襲性真菌感染症がほぼ間違いないあるいは確定された症例は予防的治療群が経験的治療群より多く認めた(それぞれ13/143 vs. 4/150、P<0.05)。ほとんどの真菌感染が導入療法で発症した(予防的治療群12/73 vs. 経験的治療群 3/78、P<0.01)。予防的治療群で腎毒性の減少は認められなかったが、35%の抗真菌剤の医療費削減が可能であった。[結論]予防治療群は死亡率を増やさず侵襲性真菌感染症を増やし、抗真菌剤の医療費は減らした。経験的治療は導入療法において生存率の向上が得られると考えられる。

平成22年3月1日
寺田芳樹

A phase III study of infliximab and corticosteroids for the initial treatment of acute graft-versus-host disease.
急性移植片対宿主病の初期治療としてのインフリキシマブとコルチコステロイドの第III相試験.
[略語]aGVHD(acute graft-versus-host disease、急性移植片対宿主病)、ATG(anti-thymocyte globulin、抗胸腺細胞グロブリン)、TNF-α(tumor necrosis factor-α)、IL-1(interleukin-1)、INFγ(interferonγ)
[はじめに]同種移植患者では aGVHDはおおよそ20-50%に発症するがステロイド治療が標準的初期治療である。しかしgrade 2以上のaGVHDのaGVHD患者の50%がステロイド治療に反応し、残りはステロイド不応性・抵抗性である。不応性の患者は2次治療に関わりなく、70%の死亡率である。ステロイド増量やATG、daclizmabなどの薬剤を加えても効果は得られていない。よって不応性のaGVHDの進行を食い止めるための予防法や治療法が必要となる。aGVHDは3つの時期に分けることができる。最初の時期は抗癌剤や放射線による毒性由来の組織傷害の時期である。傷害された組織はTNF-αやIL-2、INFγなどのサイトカインからなる炎症性の環境を作り出す。次の時期には炎症サイトカインを伴ったレシピエントとドナーの抗原提示細胞が引き金となってドナー由来のT細胞を活性化する。第3の時期は活性化したドナーT細胞がFas-Fasリガンドやperforin、granzyme B、TNF-αなどのサイトカインを賛成し、レシピエントの細胞を攻撃する。したがって単球、マクロファージ、Tリンパ球やNK細胞によって産生されるTNF-αはこの過程においてaGVHDと深く関わっている。血清TNF-αレベルの高値がGVHDの発症増加と関連していることも知られている。従ってTNF-αを減らすことがaGVHDの治療の1つの方法であると考えられる。RAやクローン病の治療薬であるinfliximabはマウス/ヒトIgG1キメラ抗体でヒトのTNFαに高率に結合する。後方視的な研究では消化管GVHDにおいてステロイド不応性のGVHDに対して59-67%の効果が報告されている。我々はaGVHD初期にinfliximabを投与し
その臨床効果を評価した。
ステロイド不応性aGVHDに対してinfliximabを用いた抗TNF-α治療が有効であることが示されてきた。新たにaGVHDと診断された患者に対し、ステロイドにinfliximabを併用することで効果が得られるか、非盲検第III相試験を行った。63例が無作為にmPSL単独群とinfliximab併用群に振り分けられた。年齢中央値は47歳(20-70歳)、64%が男性であった。それぞれ53%と51%がHLA一致血縁者から移植を受けた。aGVHDは67%がgrade 2、33%がgrade 3-4、また部位別では皮膚が62%、消化管が53%、肝臓が7%であった。mPSL単独群とinfliximab併用群それぞれの奏効率は移植後第7病日では78%および52%、第28病日では58%および62%、またGVHD関連死亡32%および38%、非再発死亡率36%および52%、全生存率28%および17%といずれも有意差を認めなかった。ステロイド単独治療と比較してinfliximabを用いた抗TNF-α治療を併用することは新たにaGVHDと診断された患者に対して効果がないことが示された。

平成22年2月15日
西本光孝

Impact of cytomegalovirus reactivation after umbilical cord blood transplantation.
臍帯血移植後のサイトメガロウイルス再活性化の影響.
[略語]UCB(umbilical cord blood、臍帯血)、BM(bone marrow、骨髄)、CMV(cytomegalovirus、サイトメガロウイルス)、GVHD(graft versus host disease、移植片対宿主病)、DFS(disease free survival、無病生存)、OS(allover survival、全生存率)、TRM(transplantation related mortality、移植関連死亡)
[はじめに]UCBは造血幹細胞移植の代替ドナーソースとしてその利用が増加しており、BMに比べ、比較的勘弁で安全な採取が可能、迅速に取得することができ移植血液媒介ウイルス感染症の可能性も低いことなどのメリットがある。またドナー・レシピエント間HLA の相違にもかかわらず、重症GVHDの危険が低い特性もある。UCB T細胞は免疫学的にナイーブなため、レシピエントに対する受動免疫を示さないが、移植後の抗原特異性免疫再構築の遅延とウイルス感染症の増加という懸念がある。実際、UCB移植後のCMV特異的CD4およびCD8陽性Tリンパ球が少ないことや、ウイルス感染症罹患率の増加を示す報告もある。CMVは幹細胞移植後の合併症と死亡率に大きく影響すると考えられるが、CMV再活性、ステロイド治療、T細胞除去、年齢が上げられている。CMV再活性がドナー、レシピエント双方から生じうるPB、BMとは違って、UCB移植後においてはほとんどの場合宿主内因性に生じる。これは新生児のCMV感染が稀でCMV感染しているユニットは一般にバンク保存はされず、また臨床使用されることもないことによる。これまでのところ、UCB移植後のCMV再活性の頻度およびリスクについてのまとまった報告はなく、本研究にてその頻度と移植成績への影響について検討し、CMV既感染レシピエントにおける再活性化のリスク因子についてもあわせて検討を行った。
UCB移植における移植前のCMV未・既感染状態と移植後CMV再活性化および感染症の関連について調査し、報告する。1994年?2007年の間に血液悪性疾患にてUCB移植を施行した332例のうち、54%がCMV抗体陽性であった。移植前のレシピエントCMV未・既感染状態は急性および慢性GVHD、再燃、DFS、OSには影響しなかった。しかしCMV抗体陽性者はday100のTRMが高い傾向にあった(P=0.07)。CMV再活性は51%(92/180)に認めたが、骨髄破壊的造血幹細胞移植、骨髄非破壊的造血幹細胞移植間に差は認めなかった(P=0.33)。同様にUCBユニット数、HLA一致度、CD34およびCD3陽性細胞数、KIR遺伝子ハプロタイプも再活性に影響しなかったが、リンパ球回復が早いことは再活性に関連していた(P=0.02)。CMV再活性は急性GVHD(P=0.97)、慢性GVHD(P=0.65)、TRM(P=0.88)、再燃(P=0.62)、生存(P=0.78)とは相関しなかった。CMV感染症は移植前CMV抗体陽性患者の13.8%に発症したが、これは高いTRM(P=0.01)、低いOS(P=0.02)と関連していた。このようにレシピエントの移植前のCMV未・既感染状態および再活性はCBT結果に有意な影響を与えないものの、CMV感染症への進展は移植成績を引き下げるリスクとして残るものと考えられる。

平成22年2月8日
林 良樹

Allogeneic hematopoietic stem cell transplantation using reduced-intensity conditioning for adult T cell leukemia/lymphoma: impact of antithymocyte globulin on clinical outcome.
成人T細胞白血病/リンパ腫に対する強度減弱前処置を用いた同種造血幹細胞移植: 臨床結果に及ぼす抗胸腺グロブリンの影響.
[略語]ATLL(adult T cell leukemia/lymphoma、成人T細胞白血病/リンパ腫)、TRM(transplantation related mortality、移植関連死亡)、RIST(reduced intensity stem cell transplantation、強度減弱造血幹細胞移植)、Flu(fludarabin、フルダラビン)、Bu(busulfan、ブスルファン)、ATG(antithymocyte globulin、抗胸腺グロブリン)、GVHD(graft versus host disease、移植片対宿主病)、GV-ATLL(graft versus ATLL、移植片対ATLL)
[はじめに]ATLLは急性型、リンパ腫型は生存中央値が約1年という予後不良疾患であるが、骨髄破壊的造血幹細胞移植で40-45%生存できるという報告もある。しかし患者層が高齢者ということもあり、骨髄破壊的移植ではTRMが40-45%あり、移植適応を狭めている。ATL-NST1研究では50歳以上の患者15例にRIST(Flu 180mg/m^2、Bu 8mg/kg、低用量ATG(5mg/kg))で移植を行い、安全性は認めたものの15例中9例が再発(66.7%)、うち7例は100日以内の再発であった。生着とGVHD予防のために用いたATGが再発率の増加をもたらした可能性、あるいはATL細胞の増殖速度がドナー由来のGV-ATLL効果をもたらす以前に上回ってしまった可能性が考えられた。この結果を踏まえ、ATL-NST2研究としてNST1の前処置治療からATGをぬいた治療法を検討した。
ATLLに対しての移植治療は効果的であるが死亡率も高い。以前行ったATL-NST1研究(15例)でFlu、BuおよびATGを前処置治療に用いたが、今回NST2(14例)ではATGを加えずに移植を行いNST1と比較することでATGの効果面を検討した。今回のNST2レジメンにおいても速やかな血球生着は得られ耐容できる治療法であった。3年全生存率および無増悪生存率はそれぞれ36%および31%であった。HTLV-1プロウイルス量はPCR法で62%が陰性化していた。NST1と比較すると完全ドナーに移行した日数が有意に遅延していた。早期再発は減少傾向であったが、全生存率、無増悪生存率は有意な減少は認められなかった。NST1およびNST2両者で検討すると、急性GVHD grade I-II発症のみが全生存率、無増悪生存率に対して有意な良好因子であった。GV-ATLL効果と高齢者でATGを加えない移植が耐容できることが示唆されたが、ATGが組み込まれた前処置の臨床的有意性は示すことができなかった。

平成22年2月1日
中前美佳

Relapse risk after umbilical cord blood transplantation: enhanced graft-versus-leukemia effect in recipients of 2 units.
臍帯血移植後の再発リスク:複数臍帯血移植は移植片対白血病効果を強める.
[略語]AML(acute myeloid leukemia、急性骨髄性白血病)、ALL(acute lymphoblastic leukemia、急性リンパ性白血病)、CR(complete response、完全寛解)、LFS(leukemia free survival、白血病無再発生存率)、GVL(graft-versus-leukemia disease、移植片対白血病効果)、GVHD(graft-versus-host disease、移植片対宿主病)
[はじめに]現在、代替造血幹細胞源として非血縁臍帯血が増加傾向にある。非血縁臍帯血移植の利点は(1)ドナーが速やかに見つかり、利用できること、(2)HLAミスマッチにもかかわらずGVHDの発症が低いことが挙げられる。GVHDは再発との関連があるために、当初、非血縁臍帯血のGVL効果が不十分ではないかという懸念があった。しかしながら、多くの担肢節、多施設共同研究によって、その懸念はかなり払拭されてきた。非血縁臍帯血移植には安定した生着のため少なくとも2.5×10^7/kgが必要であるというコンセンサスが出来上がっているが、成人では常に確保できる量ではない。非血縁臍帯血をより広く利用できるようにするための戦略として、幹細胞のin vivo expansionや骨髄内輸注、homing促進のための抗CD26抗体、stem cell nicheに影響する副甲状腺ホルモンなどがある。筆者らは十分な単一臍帯血が得られない患者で、輸注幹細胞を増やす目的で複数臍帯血移植を開発してきた。以前の解析では2番目に加えた臍帯血が有意に生着率の高いことを認めた。今回の研究では治療方針や支持療法、経過観察の方法やendpointの定義がかなり一定した担肢節において骨髄破壊的臍帯血移植における白血病再発の危険因子の同定を試みた。また本研究は複数臍帯血が急性白血病の再発にどのような影響を与えるかについて初めて解析を試みた報告である。
本研究では骨髄破壊的臍帯血移植における白血病再発の危険因子の同定を試みた。AML88例、ALL 89例に対して単施設で移植を行った。47%がsingle unitを用いた臍帯血移植、53%がdouble unitを用いた複数臍帯血移植を受けた。前処置はシクロフォスファミド+全身放射線照射±フルダラビンで行った。再発率は26%で多変量解析ではCR3以上で再発率が増加(p<0.01)、複数臍帯血移植で再発の少ない傾向(p=0.07)が認められた。更に再発は複数臍帯血移植を行ったCR1ならびにCR2で有意に低かった(p<0.03)。LFSはsingle unitの臍帯血移植で40%、複数臍帯血移植で51%であった(p=0.35)(有意差が現れなかったのはサンプルサイズが小さいことが影響していると考えられる)。CR1、CR2は再発リスクが低いと考えられているが、複数臍帯血移植におけるGVL効果はむしろCR1、CR2の患者で認められた。

平成22年1月25日
中前博久

Phase II trial of concurrent radiation and weekly cisplatin followed by VIPD chemotherapy in newly diagnosed stage IE to IIE, nasal, extranodal NK/T-cell lymphoma: Consortium for Improving Survival of Lymphoma Study.
初発病期IE-IIE鼻腔、節外性NK/T細胞リンパ腫に対する放射線療法と1週毎のシスプラチン投与後のVIPD療法の第II相試験.
[略語]ENKTL(extranodal, NK/T-cell lymphoma、節外性NK/T細胞リンパ腫)、CCRT(concurrent chemoradiotherapy、併用化学放射線療法)、VIPD(etoposide (100mg/sq、day1〜3)、ifosfamide(1200mg/sq、day 1〜3)、cisplatin(33mg/sq、day1〜3) and dexamethasone(40mg、day1〜4))
[はじめに]ENKTLはCHOP療法やCHOP様治療といったアントラサイクリン系薬剤を中心とした抗癌剤治療に対して反応性に乏しいが、それは多剤耐性をもたらすP-glycoproteinが頻繁に発現するためである。最初の治療として放射線療法を選択した場合、化学療法よりもよい治療成績が報告されている。しかし、ENKTLに対し放射線治療を単独で行った場合、病期が初期または治療終了後2年以内であったとしても、しばしば局所的または全身性の再発が認められる。従って、病期IE、IIEのENKTLに対して治療効果・生存率を向上させる治療戦略が求められている。以前より、治療効果・生存率と放射線量との関連性は示唆されているが、放射線量の最小化は副作用と二次発癌のリスク軽減のため考慮されなければならない。本論文では放射線増感剤として1週毎のシスプラチン投与と40Gyの放射線照射を組み合わせたCCRTを考案、CCR後の全身性再発リスクを考慮して、P-glycoproteinに影響を受けないイホマイドとメソトレキセートまたEBウイルスに効果的なエトポシドを組み合わせた全身化学療法を追加し、その治療成績を掲載している。
[目的]我々はearly-stageのENKTLに対し有効である放射線療法を基盤とし、CCRT後にVIPD療法を3コース施行する治療戦略の第II相試験を行った。
[対象と方法]新たに病期IE、IIEと診断された鼻腔ENKTLと診断された30症例に対してCCRT(40〜52.8Gy)の放射線療法と1週毎のcisplatin 30mg/sqを施行した。またその後にVIPD療法を施行した。
[結果]すべての症例がCCRTを完遂し、そのうち22例が完全寛解、8例が部分寛解であった。CCRT後の完全寛解率は73.3%であった。30例中26例はVIPD3コースを完遂した(残る4例のうち2例は途中断念、2例は感染症にて完遂できず)。全奏効率は83.3%(25/30例)寛解率は80%(24/30例)であった。毒性では1例がCCRT中に嘔気(grade 3)を認め、29例中12例は好中球減少(grade 4)を認めた。3年の無進行生存率と全生存率はそれぞれ85.19%、86.28%であった。
[結論]病期IE、IIEの鼻腔型ENKTLの症例にとって、frontlineCCRTが最良の治療法と考えられる。

平成22年1月18日
井上敦司

Hepatosplenic gamma-delta T-cell lymphoma: clinicopathological features and treatment.
肝脾γδT細胞リンパ腫:その臨床病理学的特徴と治療について.
肝脾T細胞リンパ腫は末梢性リンパ腫の中でも稀なタイプであり、アントラサイクリン系抗癌剤を含む標準的な化学療法では効果が期待できず、最適な治療法が未だに確立されていない。今回、我々は病理学的に肝脾γδT細胞リンパ腫と診断された15症例について、臨床的特徴と治療結果について総括した。化学療法を受けた14例のうち7例が完全寛解に達し、そのうち3例は造血幹細胞移植を行った。完全寛解持続期間中央値は8ヶ月(2-32ヶ月)であり、現時点で生存している4例ではそれぞれ、5、8、12、32ヶ月において完全寛解を維持していた。全生存期間中央値は11ヶ月(2-36ヶ月)であった。完全寛解に達した患者の全生存期間中央値は13ヶ月であったのに対して、完全寛解に達しなかった症例では7.5ヶ月であった。予後不良因子として男性患者、治療で非寛解であること、免疫不全の既往があること、γ鎖のTCR再構成がないこと、が挙げられた。肝脾γδT細胞リンパ腫の病態生理について更なる理解と、新たな治療法の確立が必要である。
肝脾T細胞リンパ腫は1990年に初めて報告されてから現在まで、文献上確認できるものでは100例にも満たない。肝脾γδT細胞リンパ腫という名称はREAL分類で定義されたものであり、後にその中にαβ型も存在することが判明したため、新WHO分類では肝脾T細胞リンパ腫と定義されている。病理学的には肝臓の類洞、脾臓の静脈洞・赤脾髄、骨髄の静脈洞内に腫瘍性T細胞の増殖を認めるのが特徴であり、そのT細胞の表現型は通常CD2、3陽性、CD4、5、8陰性、CD7(±)、TCRγδあるいはαβ陽性である。細胞遺伝子学的にはisochromosome 7q、trisomy 8を認めることがある。約10-20%の症例は腎移植、心臓移植、ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病、炎症性腸疾患、マラリア感染等の免疫不全をベースに発症する。

平成22年1月4日
井上恵里


The effect of smoking on allogeneic transplant outcomes
同種移植の結果に及ぼす喫煙の影響
Abbreviation:CML(chronic myeloid leukemia、慢性骨髄性白血病)、NS(non-smoker、非喫煙者)、PCS(past or current smoker、過去および現在の喫煙者)、TRM(transplantation related mortality、移植関連死亡)、QOL(quality of life、生活の質)、RR(relative risk、相対的危険度)
国際血液・骨髄移植調査センターのデータを利用して、我々はCML症例を対象としたNSとPCSの同種移植結果を比較した。CMLの第一慢性期に2193例のNSと625例のPCSがHLA一致の同胞または非血縁者ドナーからの移植を受けた。我々は喫煙量の影響を調査するために年10パック以内または1日1パック以下の喫煙歴がある者をlow dose smoking group、年10パック以上かつ1日1パック以上の喫煙歴がある者をhigh dose smoking groupと定義した。結果はヨーロッパ骨髄移植グループのリスクスコアと一致した。同胞から移植を受けた患者を対象として多変量解析を行うと、再発リスクはNSよりもPCSの方が高率であった(RR=1.67、P=0.003)。ただし喫煙量については一貫した結果が得られなかった。5年間で痰変量解析するとhigh dose smoking group、NSのTRMはそれぞれ50%、28%であった。また多変量解析を行うと再発率は1.57(P<0.001)であった。5年全生存率はNS 68%、low dose smoking group 62%、high dose smoking group 50%(P<0.001)であった。喫煙は非血縁者間移植では様々な項目に特に有意差をもたらなさかったが、これは非血縁者間移植ではhigh dose smoking groupの症例数が少なかったためかもしれない。CMLの同胞間からの移植の場合、喫煙は全生存率を下げる。人口統計学、呼吸機能、QOLデータを記述した前向き研究が可能であれば、よりよい結果がもたらされるであろう。

平成21年12月28日
相本 蘭

Disease-specific analyses of unrelated cord blood transplantation compared with unrelated bone marrow transplantation in adult patients with acute leukemia.
成人急性白血病症例を対象に非血縁者間骨髄移植と比較した非血縁者間臍帯血移植の疾患特異的解析.
Abbreviation: AML(acute myeloid leukemia、急性骨髄性白血病)、CBT(cord blood transplantation、臍帯血移植)、BMT(bone marrow transplantation、骨髄移植)、ALL(acute lymphoid leukemia、急性リンパ性白血病)、OS(overall survival、全生存率)、HR(hazard ratio、危険率)、CI(confidence interval、信頼区間)、TRM(transplantation related mortality、移植関連死亡)、PBSCT(peripheral blood stem cell transplantation、末梢血幹細胞移植)
我々は骨髄破壊的移植を受けたAML484例(CBT 173例、BMT 311例)とALL336例(CBT 114例、BMT 222例)を対象としてCBTレシピエントとHLAアリル一致BMTレシピエントの疾患特異的解析を行った、多変量解析ではAMLにおいてCBTレシピエントの方がOSは低く(HR 1.5、95%CI 1.0-2.0、p=0.028)、無白血病生存率も低かった(HR 1.2、95%CI 1.1-2.0、p=0.012)。再発率はAMLの2群間で差を認めなかった(HR 1.2、95%CI 0.8-1.9、p=0.38)。しかしながらTRM率はCBTレシピエントで高い傾向であった(HR 1.5、95%CI 1.0-2.3、p=0.085)。ALLにおいては再発率(HR 1.4、95%CI 0.8-2.4、p=0.19)、TRM(HR 1.0、95%CI 0.6-1.7、p=0.98)において2群間に有意な差は認めなかった。また同程度のOS(HR 1.1、95%CI 0.7-1.6、p=0.78)と無白血病生存率(HR 1.2、95%CI 0.9-1.8、p=0.28)に寄与していた。
・AML症例ではCBレシピエントの方が移植時に進行期白血病をより多く含んでおり、CBレシピエントは非血縁者ドナー探しの後期での代替幹細胞源として用いられていた。ALLのCBレシピエントの多くがフィラデルフィア染色体を有しており、これはALLの悪性度と相関し、多くの症例において緊急移植を要することになるので、この点ではCBTの方がBMTよりも有利である。
・再発率はAML、ALL両者ともにCBT、BMT、2群間に有意な差は認めなかった。成人ALLでは第一寛解期での非血縁者間BMT/PBSCTと血縁者間BMT/PBSCTとで予後に有意な差は認めないとの報告があり、ALL症例では移植時の疾患状態の方が幹細胞源よりも予後に影響する因子であるかもしれない。
・AML症例では有意な差は認められなかったが、CBTレシピエントで高いTRM傾向が見られたことが、CBTレシピエントのOSとTRMに関係しているかも知れない。
・AMLとALLにおける結果の違いは化学療法歴の違いや前処置治療の違いがあるかも知れない。
・AMLのCBTレシピエントでは年齢中央値がALL症例よりも4歳高く、AMLのCBレシピエントでの高い死亡率に影響している可能性がある。
・我々はAML、ALL症例で予後の違いを見出した。これは代替ドナーの研究において疾患別解析の重要性を示唆している。

平成21年12月21日
康 秀男

High-risk HLA allele mismatch combinations responsible for severe acute graft-versus-host disease and implication for its molecular mechanism.
重症急性移植片対宿主病を生じる高危険度HLAアリル型の組み合わせとその分子学的機序に関する推察.
同種造血幹細胞移植において、アリルレベルでのHLA座不一致移植の臨床的結果に対する効果が明らかになってきている。しかしそれぞれのHLAアリル不一致の組み合わせの効果についてはほとんど知られていないし、それが急性移植片対宿主病を引き起こす分子機構は依然不明である。日本骨髄移植推進財団を通じて移植された5210組のドナー-患者ペアを解析した。HLAA-A・B・C・DRB1・DQB1・DPB1アリルを後方視学的に確認した。重症急性移植片対宿主病に対するHLAアリル不一致の組み合わせおよび6HLA座におけるアミノ酸置換座の影響を解析した。重症急性移植片対宿主病に対し、全部で15の有意な高リスクHLAアリル不一致の組み合わせと、1つのHLA-DRB1-DQB1一連の不一致の組み合わせが同定され、高リスク不一致以外の不一致の存在に関係なく、その高リスク不一致数が重症急性移植片対宿主病の頻度に密接に関連していることが明らかとなった。その上HLAクラスIにおける6つの特異的なアミノ酸置換が、重症急性移植片対宿主病の原因であることが判明した。この結果はHLA分子に基づく急性移植片対宿主病のメカニズムを明らかにする根拠を示唆する。こうした「Non-permissive mismatch」を認識することで、適切なドナー選択に際し、有益となるであろう。

平成21年12月14日
中根孝彦

Quantitative PCR Analysis for Bcl-2/IgH in a Phase III Study of Yttrium-90 Ibritumomab Tiuxetan As Consolidation of First Remission in Patients With Follicular Lymphoma.
進行期濾胞性リンパ腫第一寛解期に対するyttrium-90 (90Y)標識イブリツモマブ・チウキセタン(ゼバリン)による地固め療法でのBcl-2/IgH遺伝子の定量PCR解析.
[目的]初回寛解期(CR/PR)の進行期濾胞性リンパ腫に対するyttrium-90 (90Y)標識イブリツモマブ・チウキセタン(ゼバリン)による無作為比較試験 (FIT study)が施行され地固め療法の安全性と有効性を評価した。bcl-2 PCR陰転化とそのPFSへの影響を検討するため今回MRDで検討した。
[患者]414例の(90Y-ibritumomab, n = 208; control, n = 206)の血液検体でRT-PCR法で検討した。186例がbcl-2 rearrangementを示していて今回のRQ-PCR検討の適格症例とした。
[結果]ゼバリン治療群で90%のbcl-2 PCR陰転化を認め、一方control群では36%であった。bcl-2 PCR陰転化例で検討しても、ゼバリン治療群がmedian PFSを有意に延長していた(40.8 v 24.0 months in the control group; P < .01, hazard ratio [HR], 0.399)。初回登録時にbcl-2 PCRが陽性例においても、ゼバリン治療群でmedian PFSを有意に延長していた(38.4 v 8.2 months in the control group; P < .01, HR, 0.293)。
[結論]ゼバリン治療でPCR陽性細胞はより多く根絶でき、PFSの延長へとつながる。

平成21年12月7日
寺田芳樹

Primary testicular diffuse large B-cell lymphoma: A population-based study on the incidence, natural history, and survival comparison with primary nodal counterpart before and after the introduction of rituximab.
精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫:リツキシマブ導入前後での発症比率、自然経過、生存率に関するpopulation-based study.
[目的]米国における精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫について節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較したその罹患率、生存率の動向、予後因子、臨床的予後を決定するためにpopulation-based study(地域住民をベースにした研究)。
[患者]Surveillance・Epidemiology・End Result(SEER)データベースより1980-2005年に診断された患者で調査された。リツキシマブ導入の生存率における潜在的影響を研究するために2000年をカットオフポイントとした。
[結果]769例の症例を精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と同定した。診断時の年齢中央値は68歳。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫罹患率は年代とともに増加し、白人で最も高率であった(黒人の2倍)。全生存期間中央値は4.6年で3、5、15年の疾患特異的生存率は71.5%、62.4%および43.0%であった。疾患特異的生存率を悪化させる独立した予測変数は高齢、1986年以前の診断、進行期(III期、IV期)、左精巣浸潤、手術や放射線を受けていないことであった。放射線治療の使用は年代毎の変化は明らかではなかった。精巣と節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例は同時に解析され、精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は全生存率、疾患特異的生存率を良くする独立した予測変数であった。節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と異なり、2000年以後に診断された精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の疾患特異的生存率は改善されていなかった。
[結論]精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の罹患率は増加している。節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較すると精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫症例の予後は良いが、晩期の疾患関連死のリスクは高かった。臨床診療へのリツキシマブ導入は精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の予後を改善しなかった。

平成21年11月30日
廣瀬朝生
精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では対側の精巣からの再発が高い。予防的放射線照射を受けなかった症例の再発率は42%とする報告も見られる。対側精巣への予防的放射線照射は精巣再発を防ぎ、全生存率を改善する。米国では40%未満の症例しか放射線療法を受けておらず、最近になりthe National Comprehensive Cancer Networkは精巣びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する予防的精巣照射を臨床的診療ガイドラインに組み入れた。上述したように精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は節性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較すると全生存率、疾患特異的生存率はよいことが確認された(限局期が多いことに関係する)。しかし精巣原発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は持続する疾患関連死亡により生存曲線は交差し、10年無進行生存率は33%と低下している。手術と放射線療法(恐らくは予防的精巣照射)のどたらも受けた症例の疾患特異的生存期間は14.3年で、両方の治療を受けていない症例では9.4年であり、この結果は疾患関連死亡を防ぐための予防精巣照射の価値を支持するものである。

High-dose cytarabine plus high-dose methotorexate verus high-dose mesotorexate alone in patients with primary CNS lymphoma: a randomized phase 2 trial.
中枢原発リンパ腫症例に対するキロサイド・メソトレキセート大量療法とメソトレキセート単独療法:無作為2相試験.
[背景]中枢原発リンパ腫に対する治療としてメソトレキセート大量療法は一般的な治療法であるが、多剤併用療法がメソトレキセート単独治療よりも優れているか否かについては証明されていない。我々は新たに中枢原発リンパ腫と診断された患者にキロサイド大量療法を加えた効果について検証した。
[方法]無作為オープン第2相試験は6カ国24施設で行われ、79例(非ホジキンリンパ湯、脳神経・眼に限局した症例は除く、年齢18-75歳、performance status 0-3)がエントリーし、4コースのメソトレキセート単独療法群とメソトレキセート・シタラビン大量療法群に振り分けられた。治療は3週間毎に施行され、全脳照射を加えた。プライマリーエンドポイントは化学療法後の完全寛解率。解析はintention to treat で行った。
[結果]化学療法後、メソトレキセート大量療法群は7例(18%)、メソトレキセート・キロサイド大量療法群は18例(46%)が完全寛解となった。部分寛解はそれぞれ9例ずつで奏効率はそれぞれ40%、69%であった。グレード3-4の血液学的毒性はそれぞれ15%、92%とメソトレキセート・キロサイド大量療法群で多く認められた。4例が治療関連毒性により死亡した(それぞれ1名、3名)。
[考察]75歳以下の中枢原発リンパ腫症例ではメソトレキセート単独療法よりもメソトレキセート・シタラビン大量療法の方が治療成績を向上させ、毒性も許容範囲内であった。

平成21年11月16日
西本光孝

High-dose daunorubicin in older patients with acute myeloid leukemia.
高齢者急性骨髄性白血病に対する高用量ダウノマイシンの使用.
[背景]急性骨髄性白血病患者の長期生存には完全寛解は必要不可欠である。ダウノルビシンは寛解導入療法のキードラッグであるが、至適量は未だ定まっていない。通常、高齢患者には45-50mg/sqが投与されている、
[方法]急性骨髄性白血病もしくはハイリスク不応性貧血と新たに診断された60-83歳の患者(平均年齢67歳)にシタラビン200mg/sq/日を7日間持続投与に加えて、ダウノルビシンを3日間投与、45mg/sq/日(通常投与群)が411例、90mg/sq/日(高用量群)が402例にランダムに振り分けられた。
[結果]完全寛解率はダウノルビシン高用量群が64%であったのに対して、通常投与群は54%であった(P=0.002)。1サイクル終了後の完全寛解率はそれぞれ52%、35%であった(P=0.001)。両群間に血液学的毒性と30日死亡率に有意な差は認めなかった(それぞれ11%、12%、P=0.08)。生存率に有意な差は認めなかったが、60-65歳においては高用量群で完全寛解率(73%、51%)、無イベント生存率(29%、14%)、全生存率(38%、23%)と差が認められた。
[結論]60歳以上の急性骨髄性白血病患者においてダウノマイシン高用量投与群は通常投与群と比較すると血液毒性に差は認めず、また反応性が良好であることが判明した。

平成21年11月9日
吉村卓朗

Impact of macrophage infiltration of skin lesions on survival after allogeneic stem cell transplantation: a clue to refractory graft-versus-host disease.
同種造血幹細胞移植後の生存に関する皮膚へのマクロファージ浸潤の影響-治療抵抗性移植片対宿主病の見極め-
マクロファージは貪食のほか、抗原提示、サイトカイン分泌等の多様な機能を有する細胞である。最近、連続的な生検データをもとにレシピエントのマクロファージが抗原提示およびサイトカインを分泌することにより、CD8陽性T細胞の活性化と増殖につながり、急性移植片対宿主病に寄与していることが明らかにされた。そこで急性移植片対宿主病におけるマクロファージの関与に注目し、特に皮膚でのマクロファージ浸潤と治療抵抗性移植片対宿主病の関係について検討を行った。
移植後100日以内の皮膚急性移植片対宿主病症例において、治療前の生検104検体を後方視的に検討し、浸潤細胞のタイプと臨床経過との関連を解析した。CD8陽性T細胞、CD163マクロファージ、CD1a陽性樹状細胞を200倍にて4視野カウントを行ったところ、CD163陽性細胞>200(many macrophage、MM)が治療抵抗性移植片対宿主病の有意な予後因子であった(P=0.02)。46例のステロイド治療患者においてはMMが治療抵抗性急性移植片対宿主病の有意な予後因子であった(P=0.03)。MMを有する患者の全生存率はCD163陽性マクロファージ<200例に比較すると明らかに不良であり、皮膚へのマクロファージ浸潤は治療抵抗性移植片対宿主病の指標であり、また予後不良因子となり得るものと考えられた。

平成21年11月2日
林 良樹

Timing and severity of community acquired respiratory virus infections after myeloablative versus non-myeloablative hematopoietic stem cell transplantation.
骨髄破壊的および骨髄非破壊的造血幹細胞移植後の市中呼吸器ウイルス感染症の時期と重症度
[背景]呼吸器ウイルス感染は移植後の死亡原因として問題である。下気道感染、重複感染になると重症化する。骨髄非破壊的移植では感染率が減少する可能性があるものと考え、調査を行った。
[方法]後向きコホート研究、呼吸器ウイルスとしてパラインフルエンザ1-4型、インフルエンザA型、B型、RSウイルス、ライノウイルスについて骨髄破壊的移植と骨髄非破壊的移植を比較した。
[結果]呼吸器ウイルス全体の感染率は骨髄破壊的移植も骨髄非破壊的移植も同様であったが、自家移植では低率であった(骨髄破壊的移植33/420(7.9%)、骨髄非破壊的移植150/1593(9.4%)、自家移植37/751(4.9%)、P<0.0001)しかし、移植後100日以内では下気道感染は有意に骨髄非破壊的移植が低率(骨髄破壊的移植34/1593(2.1%)、骨髄非破壊的移植1/420(0.2%)、自家移植16/751(2.1%)、P=0.005)下気道感染は合併感染が多く、死亡につながりやすい。
[結論]呼吸器ウイルスの感染において、経過観察期間全体での下気道感染率は骨髄破壊的移植、骨髄非破壊的移植でも同様であるが、移植後100日以内での感染率は骨髄非破壊的移植では低率である。
平成21年10月26日
中前美佳
市中呼吸器感染症(パラインフルエンザ1-4型、インフルエンザA 型、B型、RSウイルス、ライノウイルス)は移植後の致死的な合併症である。感染率は市中とあまり変わらないと考えられるが、感染すると重症となり、また真菌感染などを合併し、呼吸機能障害を起こす。骨髄非破壊的移植が高齢者などの従来、移植適応でなかった症例に対して適用されるようになり、また抗癌剤毒性が低いために外来で行われることが多い。抗癌剤量が少ないことは、移植後早期の感染率低下が期待されるが、移植後期では移植片対宿主病や免疫抑制剤使用のためにサイトメガロウイルスや真菌感染発症の可能性が高くなる。骨髄非破壊的移植がこのような呼吸器ウイルスの感染率与える影響は判然としておらず、上気道感染が下気道感染へ進展するリスクや致死率などは不明であった。

Phase III prospective randomized double-blind placebo controlled trial of Plerixafor plus granulocyte colony-stimulating factor compared with placebo plus granulocyte colony-stimulating factor for autologous stem-cell mobilization and transplantation for patients with non-Hodgkin's lymphoma.
非ホジキンリンパ腫症例における自家造血幹細胞動員および移植に対するPlerixafor、顆粒球コロニー刺激因子および偽薬、顆粒球コロニー刺激因子の第三相前向き無作為二重盲検試験 .
[目的]本研究は非ホジキンリンパ腫症例において自家移植のための造血幹細胞を動員させるCXCR4抗体であるPlerixafor(AMD3100、CXCケモカイン受容体(CXCR4)と結合しているケモカイン産生間質細胞から派生した因子であるSDF-1を可逆的に阻害する小分子として最初に登場した新薬)の安全性と有効性を評価するものである。
[対象および方法]本研究は多施設で施行された第三相無作為二重盲検試験である。対象は第一、二寛解期あるいは部分寛解の状態で自家移植を必要とする非ホジキンリンパ腫症例である。顆粒球コロニー刺激因子投与4日目夕方から最高で4日間連続Plerixafor(AMD3100、240μg/kg)か偽薬が皮下投与された。5日目から幹細胞採取を行った。CD34陽性細胞を5×10^6/kg以上採取するまで最高4日間要した。Primary end pointは4日以上採取を行った中でCD34陽性細胞を5×10^6/kg以上採取できた症例比率で示している。
[結果]この報告では298例を12ヶ月経過観察したものである。Plerixafor群150例のうち89例(59%)、偽薬群の148例のうち29例(20%)がprimary end point(P<0.001)を満たした。Plerixafor群135例(90%)と偽薬群82例(55%)は最初の動員後に移植を受けている。生着までに要した期間は両群に有意な差は認められなかった。Plerixafor関連の副作用として最も頻度が高かったのは胃腸障害と注射部位反応であった。
[結論]Plerixafor群は忍容性が高く、また移植に最適なCD34陽性細胞を短期間で採取可能であった。
平成21年10月19日
井上恵里

Evaluation of NIH concensus criteria for classification of late acute and chronic GVHD.
晩期発症急性および慢性移植片対宿主病分類に関するNational Institute of Health(NIH、米国国立衛生研究所)によりまとめられた基準の評価.
歴史的に100日以降の移植片対宿主病は臨床症状が急性移植片対宿主病と区別できない場合も慢性移植片対宿主病として扱われてきた。2005年にNational Institute of Health(NIH)により臨床研究のための慢性移植片対宿主病の診断と分類の新たな基準の提唱のためのコンセンサス会議が主催された。コンセンサス会議により、臨床研究では持続性、再燃、遅発性の急性移植片対宿主病を含む晩期発症急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病を鑑別するために、時期よりも臨床症状を用いるべきであるとされた。我々は1994年から2000 年の間に過去に慢性移植片対宿主病と診断された740症例をNIHの慢性移植片対宿主病の診断基準に照らし合わせて予後を評価した。NIHの診断基準による慢性移植片対宿主病有無は生存、非再発死亡、疾患の再発、全身治療の期間と有意な相関は認めなかった。先行する晩期発症急性移植片対宿主病のあるNIHの慢性移植片対宿主病患者では有意に非再発死亡の危険性が高く、NIHの慢性移植片対宿主病の治療期間が長かった。我々の結果はNIHの推奨基準をサポートする結果となり、臨床研究では適切に晩期発症急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病の患者を区別する必要があることが示された。
平成21年10月5日
中前博久
現在の推奨基準では急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病を時期ではなく臨床症状で分類すべきとしており、おおきな移植片対宿主病カテゴリーが存在し、かつそれぞれのカテゴリーにサブカテゴリーがある。急性移植片対宿主病の大きなカテゴリーには移植後あるいはドナーリンパ球輸注後100 日以内に生じる古典的な急性移植片対宿主病が含まれる。また移植後あるいはドナーリンパ球輸注後100日以降に生じる持続性、再燃、遅発性の急性移植片対宿主病も大きなカテゴリーに含まれている。この論文ではこのサブカテゴリーも晩期発症急性移植片対宿主病として取り扱われている。診断的(diagnostic)、典型的(distinctive)な慢性移植片対宿主病以外の移植片対宿主病は急性移植片対宿主病と診断することになる。慢性移植片対宿主病の大きなカテゴリーには慢性移植片対宿主病だけに特徴的な臨床症状を有する古典的慢性移植片対宿主病が含まれる。また急性移植片対宿主病に診断的あるいは典型的な慢性移植片対宿主病症状を動じに有しているoverlap syndromeもこのカテゴリーに含まれている。

Hematopoietic SCT for peripheral T-cell lymphoma.
末梢性T細胞リンパ腫の対する造血幹細胞移植.
高リスクの末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma、PTCL)は侵攻性B細胞リンパ腫に比較すると、通常の化学療法の成績は劣っている。我々はPTCL症例に対してfrontlineあるいはサルベージ療法として造血幹細胞移植を行った最近のデータを総説する。後方視的研究によるとサルベージ療法としての自家造血幹細胞移植(autologous stem cell transplantation、ASCT)は侵攻性B細胞リンパ腫と同様にPTCLでも有用な方法であり、また高リスク群第一寛解期症例で地固め療法として行った場合でも従来の化学療法に比較するとその成績は良好である(長期無進行生存率>50%)。最初のfrontlineの前方視的研究ではASCTは実現可能で移植関連死亡も5%未満と低く、第一寛解期での地固め療法として非常に良好な結果が出ているが、約25%の症例は腫瘍の進行のためにASCTを受けることができなし。従って化学療法に感受性のある症例を増やすための新しい治療法が求められている。更に移植後に完全寛解に達した症例の25-30%が再発しており、これら化学療法抵抗性症例に対して同種造血幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation、allo-HSCT)を行うと移植片対腫瘍効果によって生存曲線の安定(プラトー)(長期無進行生存率約50%)が得られるのではないかと期待されている。この観点からallo-HSCTの臨床試験が現在進行中である。
平成21年9月28日
井上恵里

Loss of mismatched HLA in leukemia after stem-cell transplantation.
幹細胞移植後の白血病における不一致HLA の消失.
背景:HLA部分一致血縁ドナーからの造血幹細胞移植は再発リスクの高い血液悪性疾患患者に対し有望な治療である。この移植に関連するドナーT細胞の輸注は移植後免疫再構築及び残存腫瘍コントロールをもたらしうる。
方法:患者は急性骨髄性白血病または骨髄異形成症候群で、血縁ドナーからのハプロ移植およびT細胞輸注をうけた43名であった。移植後、骨髄の形態に加え、STRおよびHLAタイピングを用いたキメリズムの評価を行った。白血病突然変異体のゲノム再構成は、ゲノムHLAタイピング、マイクロサテライトマッピング、およびSNP(一塩基変異多型)配列にて解析した。元の白血病細胞及び、突然変異を起こした白血病細胞に対する免疫反応は、リンパ球混合培養を用いて解析した。
結果:ハプロ移植及びT細胞輸注後再発した患者17人中5人において突然変異体となった白血病細胞を認めた。突然変異した白血病細胞においては、染色体6pの片親性ダイソミー(普通は父母から1本ずつもらう染色体が、片方の親から2本もらった状態になること)により、ドナーハプロタイプとは異なる側のHLAハプロタイプが失われていた。移植後のドナー及び患者のT細胞は変異した白血病細胞を認識しなかったが、診断時の元の白血病細胞は効果的に認識され殺傷された。
結論:ハプロ一致造血幹細胞移植及びドナーT細胞輸注後、白血病細胞は不一致のHLAハプロタイプを欠失する事でドナーの抗腫瘍効果から逃れることができ、この現象により再発が起こる。

平成21年9月14日
中根孝彦

Optimal use of G-CSF administration after hematopoietic SCT.
造血幹細胞移植後の至適なG-CSF投与法.
造血幹細胞移植後、G-CSFは好中球の生着を早めるため、また長引く好中球減少による感染症などの罹患、死亡を最小限にするために広く用いられている。しかしながら、造血幹細胞移植後のG-cSFの最適な使用方法というものは定まっていない。このレビューは自家および同種造血幹細胞移植後のG-CSF使用についてのエビデンスを評価するために行った。コントロール群(プラセボまたはG-CSF非投与)対G-CSF投与群の比較研究、G-CSF開始日の比較研究、患者によっての至適投与法を設定した研究を評価した。好中球、血小板の生着、移植後の入院日数、感染や移植片対宿主病などの合併症、生存など様々な結果を評価した。結論として自家および同種造血幹細胞移植におけるG-CSFの使用方法についてエビデンスレベルを設けた。
平成21年9月7日
相本 蘭
自家移植
G-CSF投与群vs.非投与群
@好中球生着が早い
A血小板生着時期には影響を与えない
B発熱性好中球減少症に対して特に有効性はない(治療的抗菌薬投与期間を短くすることについては不明瞭
C入院期間を短縮する
G-CSF投与早期群(1日目)vs遅延群(5-7日目)
@好中球の生着時期に差は認めない
A血小板生着に影響はない
B発熱性好中球減少症の出現期間に差は認めない
C治療的抗菌薬投与期間、入院期間に差は認めない

同種移植
G-CSF投与群vs.非投与群
@好中球生着が早い
A血小板生着時期には影響を与えない
B発熱性好中球減少症に対して特に有効性はない
C入院期間については差を認めない
D移植片対宿主病発症率に差を認めない
E治療関連死亡、無病生存率、全生存率に差を認めない
G-CSF投与早期群(1日目)vs遅延群(5-7日目)
@好中球の生着時期に差は認めない
A血小板生着に影響はない
B急性移植片対宿主病発症率に差は認めない
C入院期間に差は認めない

Cumulative incidence in competing risks data and competing risks regression analysis.
競合リスクデータ存在下における累積発症と競合リスク回帰分析.
競合リスクは医学研究において一般的に発生する。例えば、がん研究において治療関連死亡と再発は共に興味ある重要なアウトカムであり、よく知られている競合リスクである。競合リスクデータの解析では、累積発症率推定のためのカプランマイヤー法などの標準的な生存解析手法、累積発症率曲線比較のためのログランク検定、共変数の評価のための標準的cox modelは不正確でバイアスの入る結果につながる。本論文では、競合リスク存在下での興味あるイベントの累積発症率を計算する手法、競合リスク存在下での累積発症率曲線を比較する手法、競合リスク回帰分析を行う手法を含む競合リスクデータ解析について述べる。仮想データ例と実際のデータを用いて、標準的生存解析を行った場合とそれに対応した競合リスクデータ解析を行いそれら3つの手法を比較した。カプランマイヤー推定によるバイアスの原因と大きさについても詳述した。
平成21年8月31日
康 秀男

Maintenance rituximab after cyclophosphamide, vincristine and prednisone prolongs progression-free survival in advanced indolent lymphoma: results of the randomaized phase III ECOG 496 study.
進行期低悪性度リンパ腫に対するシクロフォスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニン治療後のリツキサン維持療法は無進行生存率を延長する.
[目的]進行期低悪性度リンパ腫の標準的化学療法後にリツキサンの維持療法を施行することにより無進行生存率が改善するか否かについて検討を行った。
[対象と方法]病期III-IVの低悪性度リンパ腫に対してシクロフォスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニン療法(CVP療法)後完全寛解〜stable diseaseの症例を初回の腫瘍量やCVP療法後の残存病変、組織で層別化し、経過観察群とリツキサン維持療法群(375mg/sq/週を4回施行、これを6ヶ月毎に2年間施行)の2群に無作為に割付を行った。
[結果]311例(濾胞性リンパ腫が282例)のCVP療法後の適格症例は経過観察群が158例、リツキサン維持療法群が153例であった。最も高い効果を示したのはリツキサン維持療法群で22%、経過観察群で7%(P=0.0006)の症例であった。毒性は両群でかなり低率であった。割付後の3年無進行生存率はリツキサン維持療法群68%、経過観察群33%(危険率0.4、P=4.4×10^-10)、濾胞性リンパ腫においてはそれぞれ64%、33%(危険率0.4、P=9.2×10^-8)であった。濾胞性リンパ腫国際予後指数、腫瘍量、残存病変、組織で分けてもリツキサン維持療法群が良好な成績を示した。3年全生存率はそれぞれ92%、86%(危険率0.6、P=0.05(log-rank one- sided))、濾胞性リンパ腫ではそれぞれ91%、86%(危険率0.6、P=0.08(log-rank one- sided))であった。腫瘍量が多い症例にた大してリツキサン維持療法は有効であった(全生存率)(log-rank one-sided P=0.03)。
[まとめ]このECOG1496研究が化学療法後リツキサン維持療法が無進行生存を有意に延長させた最初の報告である。
平成21年8月24日
寺田芳樹

Relapse risk in patients with malignant diseases given allogeneic hematopoietic cell transplantation after nonmyeloablative conditioning.
骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植を受けた悪性疾患患者の再発リスク.
骨髄非破壊的同種造血細胞移植は腫瘍根絶効果のある移植対腫瘍効果(GVT)に依存している。我々は病気の特性に従って再発リスクを評価した。1997年から2006年の間834人の患者(平均年齢55歳、5-74歳まで)、498人は血縁間、336人は非血縁間、2Gyの全身放射線療法のみは171人、全身放射線療法+Fludarabine(90 mg/sq)が663人であった。再発率(人年)は非再発による死亡率を競合させ、29の異なった疾患とステージで解析された。全体の再発率は0.36であった。完全寛解に入っている慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、低悪性度非ホジキンリンパ腫またはマントル細胞リンパ腫(完全寛解+部分寛解)、完全寛解を維持している高悪性度非ホジキンリンパ腫は再発率が0-0.24と最も低かった。対照的に進行した骨髄疾患やリンパ性疾患の再発率は0.52以上のハイリスクであった。ホジキンリンパ腫または高悪性度非ホジキンリンパ腫を除いたリンパ増殖性疾患で非寛解または完全寛解を維持している骨髄悪性疾患の再発率は0.26−0.37(標準リスク)であった。結論として低悪性度リンパ増殖性疾患の患者が最も低い再発率あった。一方、進行した骨髄疾患やリンパ性疾患は骨髄非破壊的同種造血細胞移植では高い再発率である。進行した骨髄疾患やリンパ性疾患は造血幹細胞移植前の殺細胞治療が必要と考えられる。
平成21年8月17日
吉村卓朗

Intensive glucose control after allogenieic hematopoietic stem cell transplantation: a retrospective matched-cohort study.
同種造血幹細胞移植後の厳格な血糖コントロール.
厳格な血糖コントロール(intensive glucose control、IGC)がよい結果をもたらすことはいくつかの研究で示されているが造血幹細胞移植における効果ははっきりとは示されていない。2006年6月〜2007年5月、同種造血幹細胞移植後、IGCを維持、かつ前処置治療、移植細胞源、年齢、ドナーを一致させたコホートを用いて臨床的検討を行った。統計にはCox回帰モデルを使用した。IGC群は標準血糖コントロール群よりも血糖は低値であった(116.4mg vs. 146.8mg、P<0.001)。またIGC群は標準血糖コントロール群と比較すると重篤な感染症(14% vs 46%、P=0.004)、菌血症(9% vs 39%、P=0.002)の発症率が低率であった。有意差は認められなかったもののIGC群は腎機能悪化(19% vs. 37%、P=0.36)、CRPの上昇(18% vs. 38%、P=0.13)が抑制されていた。造血幹細胞移植後におけるIGCは有益であるものと考えられる。IGCはより大きな前向きランダム化研究により評価すべきである。
平成21年8月10日
西本光孝

Etanercept, mycophenolate, denileukin, or pentostatin plus corticosteroids for acute graft-versus-host disease: a randomaized phase 2 trial from the Blood and Marrow Transplant Clinical Trials Network.
Etanerccept、mycophenolate、denileukinあるいはpentostatinおよびcorticosteroidを用いた急性移植片対宿主病治療.
同種移植治療の成否を大きく左右する急性移植片対宿主病については、その予防法の確立により発症リスクは下がったとはいえ、依然として35-50%がgrade II-IVの急性移植片対宿主病を発症し、その標準的治療である鉱質コルチコイドを用いて治療しても、完全寛解に到達する症例は25-41%に留まる。奏効率の改善を目的として、これまでanti-thymocyte globulin(ATG)、CD5-immunotoxins、IL2-antagonistsの併用が検討されたものの、移植片対宿主病制御、生存率の双方を改善しうるものではなかった。ステロイド抵抗性急性移植片対宿主病の二次治療は様々な報告があるが、その奏効率はおよそ40%であり、死亡率も70%近くと満足のいくものではない。このためステロイド抵抗性となる前に有効な治療戦略を講じることが、急性移植片対宿主病制御に関して重要となる。過去、単施設からあ急性移植片対宿主病に有効な薬剤の報告はあるが、その内、本研究を組む時点でステロイドと併用において有望な薬剤が4剤リストアップされた。急性移植片対宿主治療に関し、Etanerccept、mycophenolate、denileukinあるいはpentostatinの4剤について、急性移植片対宿主病初期治療におけるステロイド併用の4-arm phase 2研究を施行した。

mycophenolate+ステロイド群は皮膚・内臓双方の急性移植片対宿主病に対して奏効した。初期移植片対宿主病治療戦略として有望であり、今後、mycophenolte+ステロイド群とplacebo(偽薬)+ステロイド群の比較試験を計画している。
平成21年8月3日
林 良樹

Toll-like receptor 4 polymorphisms and aspergillosis in stem-cell transplantation.
造血幹細胞移植におけるToll-like recptorの多形成と侵襲性アスペルギルス症.
Toll-like recptors(TLRs)は真菌に対する免疫反応を担っている分子である。我々な同種造血幹細胞移植患者において侵襲性アスペルギルス症の発症リスクに影響を与えるTLRの多形成について調査した。336例の同種造血幹細胞患者とその非血縁ドナーの集団においてTLR2、TLR3、TLR4、TLR9の20種類のsingle-nucleotide polymorphisms(SNPs)について解析した。解析結果は103症例と263例のコンロトール群で評価を行った。2つのTLR4ハプロタイプ(S3とS4)で有意に侵襲性アスペルギルス感染のリスクが上昇した。S4のハプロタイプにおいてはTLRの機能に影響を与える強い連鎖不均衡の1063A/G「D299G」と1363C/T「T399I」の2つのSNPsを有していた。Validation StudyではドナーハプロタイプS4で有意に侵襲性アスペルギルス感染のリスクが上昇していることがわかった。S4と侵襲性アスペルギルス症の関係は血縁ドナーでは認められず、非血縁ドナーで有意であった。さらにドナーがS4を有していることと、ドナーあるいは患者がサイトメガロウイルス抗体陽性であること、あるいはその双方が、3年の侵襲性アスペルギルス症発症と非再発死亡に有意な関係があった。
平成21年7月13日
中前博久
 同種造血幹細胞移植における侵襲性アスペルギルス症は増加しており、12%に及ぶ報告も見られる。アゾール系、エキノキャンディン系の抗真菌薬の開発にもかかわらず1年死亡率は50〜80%に至る。よって移植前にハイリスク患者を同定しておくことは非常に意義のある予防戦略である。TLRsは免疫担当細胞の細胞表面にある微小管に結合している分子模型(受容体タンパク)で、特定の分子を認識するのでなく、ある一群の分子を認識するのでパターン認識受容体と呼ばれている。いくつかのアダプター蛋白を介して転写因子を活性化させて炎症性サイトカインの産生や適応免疫を活性化する。アスペルギルス症は自然(先天性)免疫細胞をTLR2やTLR4を介して活性化させる。TLRsの多形成といくつかの病原菌の易感染性と関係があり、TLR結合分子における変異は遺伝性免疫不全症と関係している。

The incidence of and risk factors for venous thromboembolism (VTE) and bleeding among 1514 patients undergoing hematopoietic stem cell transplantation: implications for VTE prevention.
造血幹細胞移植を施行した1514例における静脈血栓症の発症とその危険因子について:静脈血栓塞栓症予防への推察
静脈血栓塞栓症は血液悪性腫瘍患者で診断される機会が増加している。しかしながら造血幹細胞移植を受けた患者における静脈血栓塞栓症の危険因子ははっきりと分かっていない。我々は造血幹細胞移植後の患者1514例について、静脈血栓塞栓症と出血の発症率およびその危険因子を調査した。静脈血栓塞栓症予防のための治療は実施していない。移植後第180病日までに70例の患者が静脈血栓塞栓症を発症した(4.6%、95%信頼区間(CI):3.6%-5.8%)。そのうち50人(3.6%)はカテーテル関連、11人(0.7%)はカテーテル非関連の深部静脈血栓症 9例(0.6%)は肺塞栓症であった。静脈血栓塞栓症患者の34%は発症時の血小板数が5万以下であり、13%は血小板が2万以下であった。多変量解析では、過去に静脈血栓塞栓症の既往歴があること(オッズ比(OR)2.9、95%CI:1.3-6.6)、移植片対宿主病発症(OR2.4、95%CI:1.4-4.0)が静脈血栓塞栓症発症に関与していた。臨床的に重要な出血は230例に起こり(15.2%、95%CI:13.4%-17.1%)、55例(3.6%、95%CI:2.7%-4.7%)の患者では致命的な出血をきたした。出血発症には、抗凝固療法の存在、移植片対宿主病発症(OR2.4、95%CI:1.8-3.3)、肝静脈閉塞症発症(OR2.2、95%CI:1.4-3.6)が関与していた。造血幹細胞移植患者では静脈血栓塞栓症は主にカテーテル関連で発症、臨床的に重要な出血に比べると3倍頻度が少ない合併症である。これらの知見は造血幹細胞移植患者における静脈血栓塞栓症予防法の選択の際に考慮すべき根拠となるであろう。
平成21年7月6日
井上恵里

Prolonged survival of patients with peripheral T-cell lymphoma after first-line intensive sequential chemotherapy with autologous stem cell transplantation.
自家造血幹細胞移植を含めた強力な化学療法を繰り返す第一選択化学療法により末梢性T細胞性リンパ腫症例の生存が延長される.
末梢性T細胞性リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の中では稀なタイプである。WHO分類では末梢性T細胞性リンパ腫は3つのサブグループが表記されている。それはperipheral T cell lymphoma, not otherwise specified(PTCL, NOS-非特異型末梢性T細胞性)、anaplastic large cell lymphoma(ALCL-未分化大細胞型リンパ腫))、angioimmunoblastic T-cell lymphoma(AIL-血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫)である。その臨床経過は侵攻性であり、多剤併用化学療法施行例においてもその生存期間中央値は約2年である。第一選択化学療法は確立されておらず、骨髄破壊的前処置を用いた自家造血幹細胞移植の役割が検討されてきている。
[目的]第一選択化学療法ならびに骨髄破壊的前処置と自家造血幹細胞移植を施行した末梢性T細胞性リンパ腫の長期予後を分析することである。
[対象と方法]化学療法のプロトコールはCHOP-21(PACEBO)を3コース、続けてイフォスファミド、メソトレキセートがベースの治療法であるIVAMを1サイクル、そして末梢血幹細胞動員を目的としたHAMで構成されている。最終的に骨髄は快適前処置としてBEAM200を行い、自家造血幹細胞移植を施行する。
 2000年から2007年に84例の侵攻性高リスクの悪性リンパ腫症例が本プロトコールで治療を受けた。このうちPTCL18例(PTCL, NOS 10例、ALK陰性ALCL 3例、ALK陽性ALCL 2例、ALK不明ALCL 2例、AIL 1例)の治療成績について報告する。
[結果]11例(61%)の症例が完全寛解となり、3例(17%)は部分寛解であった。また4例は治療効果が得られなかった。奏効率は77.8%であった。経過観察期間中央値25.7ヶ月において9例(PTCL, NOS 6例、ALK陽性ALCL 2例、ALK陰性ALCL 1例)に再発または進行が認められ、4例が死亡した。再発した1例は同種造血幹細胞移植にて治療された。2年の無進行生存率は52%、2年全生存率は71%であった。
[考察]化学療法感受性を有する末梢性T細胞性リンパ腫症例では強力な第一選択化学療法、骨髄破壊的前処置を用いた自家造血幹細胞移植により長期生存が期待できる。
平成21年6月29日
井上敦司
*IVAM療法
ifosphamide 1500mg/sq, day1-5
etopoisde 150mg/sq day1-3
cytosine arabinoside 100mg/sq day1-3
methotrexate 3g/sq day5

*HAM療法
cytosine arabinoside 2g/sq×2, day1, 2
mitoxantrone 10mg/sq, day2,3

Sleep disturbances and emotional distress in the acute course of hematopoietic stem cell transplantation.
造血幹細胞移植急性期における睡眠障害と感情障害.
最近の調査では造血幹細胞移植中の様々な症状が睡眠の質に有害であると報告されている。本研究では造血幹細胞移植患者の睡眠の質を調査して、社会人口統計学、医学、身体、精神的な因子がどう影響しているのかを調査した。入院前に50名の患者を評価し、44名が研究に参加、32名が移植後第100病日(±20)を迎えた。評価の手段としてはPittsburg Sleep Quality Index (PSQI)、sleep diary (sleep quality)、the European Organization for Research and Treatment of Cancer Qulity of Life Qestionnaire Core 30(health-related quality of life)、the Hospital Anxietry and Despression Scale(treatment-specific distress、HADS-D)を用いた。睡眠の悩みを抱えている患者は入院前は32%、入院中は77%、他院後は28%であり、入院中に最も問題が多かった。睡眠障害の要因として、主なものは騒音とトイレを使用しないといけないことであった。他の期間と比べて入院中は有意に睡眠の質が悪かった。睡眠障害の進行時間と移植の種類(自家移植か同種移植か)には有意な相関関係が認められた。造血幹細胞移植後の睡眠障害は身体機能、全身倦怠感、治療に伴う苦痛によって引き起こされており、一般の人の睡眠障害の因子とはそれほど関係がなさそうである。
平成21年6月22日
相本 蘭

Understanding diagnostic tests 3: receiver operating characteristic curves.
診断的検査を理解するために 3:ROC曲線.
多くの臨床検査結果は定量的で、連続的尺度で与えられる。疾病の有無の診断を補助するために、正常または異常の判別のcut-off pointが選択される。検査の感度と特異度はcut-off pointとして選択される値によって変化する。ROC曲線は診断的検査の精度を記述、比較するための作図技術であり、x軸に1-特異度、y軸に感度をプロットしていうことで描かれる。適正なcut-off pointを決定するためによく用いられる2つの方法は(0,1)に最も近いROC curve上の点を求める方法とYouden indexがある。ROC曲線下面積は診断学的検査の総合的な性能を教えてくれる。本論文で、検査結果に対する適正なcut-off pointを選択、検査の診断精度を評価、検査の有用性を比較するためにどのようなROC曲線が用いられるかを説明する。
結論:ROC曲線は可能なすべてのcut-off pointでの検査の感度・特異度を計算し、-1特異度に対し感度をプロットしていくことで得られる。この曲線は検査結果に対する適正なcut-off pointを選択、検査の診断精度を評価および異なる検査の有用性を比較するために用いられる。
平成21年6月15日
康 秀男

Phase III trial of consolidation therapy with Yttrium-90-Ibritumomab Tiuxetan compareed with no additional therapy after first remission in advanced follicular lymphoma.
進行期濾胞性リンパ腫の初回寛解後地固め療法としてYttrium-90-Ibritumomab Tiuxetan投与を行う群と無治療コントロール群の第III相比較試験.
[目的]初回寛解に至った進行期濾胞性リンパ腫に対してYttrium-90-Ibritumomab Tiuxetan(商品名ゼバリン)による地固め療法の有効性と安全性を評価するために、国際無作為第3相試験を行った。
[対象と方法]初回寛解導入療法後に完全寛解(complete response、CR)/不確定完全寛解(unconfirmed CR、Cru)/部分寛解(partial response)が得られたCD20陽性の病期III/IVの濾胞性リンパ腫例をYttrium-90-Ibritumomab Tiuxetan群(リツキサン250mg/sqを第1日目と第7日に投与、Yttrium-90-Ibritumomab Tiuxetan14.8MBq/kg(但し、最高量を1184MBqまでとする)を第7日に投与)と地固め療法を行わないコントロール群の2群に無作為割付を行った。
[結果]全414例(地固め療法群208例、コントロール群206例)が77施設から登録された。地固め療法群において無進行生存率の有意な延長が認められた(観察期間中央値3.5年、地固め療法群36.5ヶ月vs.コントロール群13.3ヶ月、P<0.0001)。寛解導入療法後効果別においてもPR例では29.3ヶ月、6.2ヶ月(ハザードリスク0.304、P<0.0001)、CR/CRu例では53.9ヶ月、6.2ヶ月(ハザードリスク0.613、ハザードリスク0.154)と無進行生存率の延長を認めた。また無進行生存率の中央値は濾胞性リンパ腫国際予後指標の各リスク群において延長を認めた。寛解導入療法後のPR例がゼバリン投与によって77%がCR/CRuとなり、最終のCR率は87%であった。Yttrium-90-Ibritumomab Tiuxetanの主な毒性は血液毒性であり、またgrade 3/4の感染症が8%に認められた。
[考察]進行期濾胞性リンパ腫に対するYttrium-90-Ibritumomab Tiuxetanによる地固め療法は強い毒性はなく無進行生存期間を2年延長、また初回寛解導入療法においてPRであった症例を完全寛解に至らせることが可能であった。
平成21年6月8日
寺田芳樹

Evaluation of mycophenolate moferi for initial treatment of chronic graft-versus-host disease.
慢性移植片対宿主病に対する初期治療としてMMFの評価.
mycophenolate meferi(MMF、商品名セルセプト)はステロイド不応性慢性移植片対宿主病(chronic graft-versus-host disease、cGVHD)に対する2次治療薬として有望な選択肢である。我々はMMFの追加によりcGVHDの初期全身治療の効果を改善させることができるかを評価するために二重盲検による対施設共同研究を行った。対象は230名で設定した。Primary end pointは2次治療を要しないcGVHDの消失および2年以内の全ての全身治療の中止。中間解析でpriamry end point達成率がMMF群74例で23%、コントロール群77例で18%であり、予定通り研究を完遂したとしてもprimary end pointに有意差が出る可能性が低いことから本研究は4年で終了した。MMF群のコントロール群に対する死亡に関するハザードリスクは1.99であった。MMFはcGVHD初期全身治療に加えるべきではない。
平成21年6月1日
中根孝彦
追加
cGHVDは同種移植後高い罹患率および死亡率をもたらす合併症であり、一般的に高用量ステロイドおよびカルシニューリン阻害剤投与が行われる。多くの患者では2年異常の全身治療の継続を要し、ステロイド長期投与は感染症、ミオパチー、虚血壊死、骨粗鬆症、耐糖能異常、高血圧、小児の発育遅延、体重増加、体型変化、皮膚萎縮、皮膚線条、白内障、情緒不安定、睡眠障害といった多くの合併症を引き起こす。ステロイド投与量や投与期間を減らして疾患コントロールが可能な毒性の少ない治療ができればcGVHD合併患者が得る利益は大きい。MMFはmycophenolic acid(MPA)をエステル化した薬剤で経口投与後速やかに吸収、水酸化されてMPAとなる。MPAはinosine monophosphate dehydrogenaseを選択的・可逆的に阻害し、リンパ球におけるプリン体合成のde novo pathwayをブロックする結果、細胞内のGTPプールを枯渇させる。過去の報告ではMMFはステロイド不応性cGVHDの2次治療として、小児・成人に関わらず効果的であることが示唆されている。2ちの大規模な調査結果では高リスクあるいはステロイド不応性cGVHDに大使、MMFが他の薬剤よりも高頻度に選択されている。これらの報告はMMFを初期治療に加えることでcGVHD患者の予後を改善させる可能性を示唆している。cGVHDの初期全身治療の効果を改善させることを第一の目標とし、その結果として免疫抑制療法のより早い中止によって、ステロイドの合併症や2次治療の必要性を減らし、再発以外の原因での死亡を減らすことを期待して研究を行った。

Guidelines for management of pediatric and adult tumor lysis syndrome: an evidence-based review
小児および成人腫瘍崩壊症候群の管理に関するガイドライン:エビデンスに基づいた総説
[目的]腫瘍崩壊症候群は検査学的腫瘍崩壊症候群と臨床的腫瘍崩壊症候群のいずれかに分類され、重症度分類が確立されている。しかしながら腫瘍崩壊症候群患者のリスクに見合った治療のためには、標準化ガイドラインが必要とされている。
[対象と方法]小児と成人の造血器悪性疾患ならびに腫瘍崩壊症候群についての専門家が臨床的エビデンスならびに標準的治療に基づいた腫瘍崩壊症候群に関するガイドラインを編集した。関連文献として総説も用いられた。
[結果]新しいガイドラインでは腫瘍崩壊症候群に発展するリスクがある患者の予防方法と治療方法について述べている。最も優れた方法は予防薬投与である。ハイリスク患者では輸液rasburicase、中間リスク患者では輸液、アロぷりニールまたはrasburicaseを用いる。低リスク患者では緊密に観察することである。腫瘍崩壊症候群の初期治療も上記に類似、積極的に輸液と利尿を図り、それに加えて高尿酸血症にはアロプリノールまたはrasburicaseを用いる。アルカリ化は推奨されていない。成人でのrasbulicase使用ガイドラインはあるが、この薬剤についてアメリカでは小児患者のみ使用が許可されている。
[結論]腫瘍崩壊症候群によって生じる重篤な合併症にはハイリスク患者の性格な評価と迅速な治療が要求される。リスクファクターを分析することにより、適切な治療が行うことが可能である。
平成21年5月25日
吉村卓朗
腫瘍崩壊症候群を起こすリスクファクター
特徴
リスクファクター
疾患
バーキットリンパ腫
リンパ芽球性リンパ腫
びまん性大細胞リンパ腫
急性リンパ性白血病
急速増殖および治療に迅速に反応する固形癌
腫瘍量
巨大腫瘤(径10cm以上)
LDH上昇(正常値の2倍以上)
白血球数増加(25000/μl以上)
腎機能
腎不全の徴候
乏尿
基礎尿酸値
血清・血漿尿酸値7.5mg/dL以上
効果的および急速な抗腫瘍療法
腫瘍種類に従った疾患特異的治療

患者層別リスク
腫瘍疾患
高リスク
中間リスク
低リスク
非ホジキンリンパ腫
バーキットリンパ腫お
よびリンパ芽球性リン
パ腫、バーキット急性
リンパ芽球性白血病
       
急性リンパ芽球性白血病
白血球数10万以上
白血球数5万-10万
白血球数5万以下
急性骨髄性白血病
白血球数5万以上、単
芽球性
白血球数1万-5万
白血球数1万以下
慢性リンパ性白血病
     白血球数1万-10万、
フルダラビンによる治

白血球数1万以下
他の造血器悪性疾患(慢性骨
髄性白血病および多発性骨髄
腫)および固形腫瘍
    治療への迅速な反応
が期待される急速進
行期
その他の症例


Dasatinib crosses the blood-brain barrier and is an efficient therapy for central nervouus system Philadelphia chromosome-positive leukemia.
ダサチニブは血液・脳関門を通過し中枢神経系浸潤フィラデルフィア染色体陽性白血病に対して有効な治療である.
 BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブはフィラデルフィア染色体陽性急性白血病の治療にと用いられるが、血液・脳関門を通過しにくいため中枢神経再発の予防効果はない。イマチニブと2つの特異的SRC/BCR-ABLのキナーゼ阻害剤であるダサチニブについて頭蓋内フィラデルフィア染色体陽性白血病マウスモデルを用いて基礎的な比較を行った。中枢神経フィラデルフィア染色体陽性白血病患者に対するダサチニブの臨床効果を評価した。基礎的実験では、ダサチニブは生存率は上昇したが、イマチニブは頭蓋腫瘤増大を抑制することはできなかった。中枢神経病変の安定化および縮小はダサチニブ投与を続けることにより達成できた。成人および小児の中枢神経フィラデルフィア染色体陽性白血病患者11例に対してダサチニブの実質的な効果を明らかにした。評価可能な11例の長期にわたる反応は臨床的に有意であり、7例が完全寛解に到達した。3例においてダサチニブ治療中に単発性中枢神経再発が生じた。3例中2例がダサチニブ抵抗性であるBCR-ABLの変異が生じていた。ダサチニブはイマチニブ治療中に再発した中枢神経病変を有する症例に対して頭蓋内病変をコントロールすることが可能であり、実質的臨床効果を有している。
平成21年5月18日
西本光孝
11例症例は全例ダサチニブ初回投与。5例(45.5%)が髄腔内注入を併用した。7例(63.6%)が完全寛解に到達(髄注併用は3例、4例が単独投与)。7例中5例が再発、2例は3ヶ月、5ヶ月間完全寛解を保っている。3例はダサチニブ投与中に中枢神経に再発した(全例髄注非併用例、またT315、V299Lのpoint mutationあり)。3例が部分寛解(髄注併用例2例)。

Analysis of risk factors for outcomes after unrelated cord bolld transplantation in adults with lymphid malignancies: A study by Eurocord-Netcord and Lymphoma Working Party of the European Group for Blood and Marrow Transplantation.
成人リンパ系悪性腫瘍に対する非血縁臍帯血移植後の予後に関する危険因子.
[目的]リンパ系悪性腫瘍に対する臍帯血移植の危険因子に関する検討。
対象:非血縁臍帯血移植を受けたリンパ系悪性腫瘍104症例(年齢中央値41歳)。移植に用いた臍帯血の68%がHLA2座不一致。26例が複数臍帯血移植例。病型:非ホジキンリンパ腫61例、ホジキンリンパ腫29例、慢性リンパ性白血病14例であり、87%が進行期での移植であった。追跡期間の中央値は18ヶ月。
[結果]第60病日までに好中球が生着した症例は84%であった。CD34陽性細胞数が多い症例で良好であった。1年時点での非再発死亡率は28%であった。低線量全身放射線療法施行例で低率であった(P=0.03)。1年時点での再発・進行した症例は31%、複数臍帯血移植例で低率であった(P=0.03)。1年時点での無進行生存率は40%であり、@化学療法感受性を有する症例と有しない症例ではそれぞれ49%、34%(P=0.03)、A全身放射線療法を含む前処置症例、含まない症例ではそれぞれ60%、23%(P=0.01)、B輸注細胞数の多い症例、少ない症例ではそれぞれ49%、21%(P=0.009)といずれも有意差を認めた。
[結論]臍帯血移植は成人進行期リンパ系悪性腫瘍に対して有効な治療法である。よりよい結果をもたらす因子としては化学療法感受性を有する病勢、低線量全身放射線療法および十分な輸注細胞数であった。
平成21年5月11日
林 良樹
低悪性度リンパ腫については非再発死亡率20%、無進行生存率60%、全生存率68%と良好な成績であった。この群については最も多くの症例に骨髄非破壊的前処置が選択されてきたが、治療反応は良好であるものと考えられる。一方、ホジキンリンパ腫、進行期非ホジキンリンパ腫については治療成績は不良であったが、これには骨髄破壊的前処置の強い治療毒性のために非再発死亡率が上昇した事、そして高い再発率が影響したと考えられる。慢性リンパ性白血病については無進行生存率は43%、全生存率は51%であり、他の移植源を用いた骨髄非破壊的同種移植と同等の成績であった。

Nonmyeloablative allogeneic hematopoietic cell transplantation in relapsed, refractory, and transformed indolent non-Hodgkin's lymphoma.
再発、治療抵抗性、組織学的転化が生じた低悪性度非ホジキンリンパ腫に対する骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植.
[目的]
化学療法抵抗性の低悪性度または組織学的転化を生じた非ホジキンリンパ腫の有効な治療方法として骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植は妥当であるか、その検証。
[方法]
化学療法抵抗性の低悪性度または病理学的転化を生じた非ホジキンリンパ腫62症例。血縁者移植が34例、非血縁者移植が28例、前処置治療はフルダラビン30mg/sq×3日間±全身放射線療法2Gyであった。9例は1抗原以上のHLA不一致。16例は同種移植前に組織学的転化が生じていた。20例は自家造血幹細胞移植後に進行期症例であった。年齢中央値は54歳、平均的に6レジメン治療を施行されている。平均観察期間は移植後36.6ヶ月であった。
[結果]
3年の時点で、推定全生存率は52%、無進行生存率は43%であった。組織学的転化した症例では全生存率は18%、無進行生存率は21%であった。低悪性度症例の血縁者間造血幹細胞移植では推定3年全生存率は67%、無進行生存率は54%と良好な成績であった。急性移植片対宿主病 grade 2〜4は63%、grade 3〜4は18%に発症した。広汎型慢性移植片対宿主病は47%に発症した。生存者の最終KPSの中央値は85%であった。
[結論]
骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植は再発、治療抵抗性の非ホジキンリンパ腫症例、特に高齢であり治療歴の長い患者層でも十分許容できる無病生存率をもたらした。特に組織学的転化していない症例において血縁者間造血幹細胞移植の成績は良好であり、KPSも保たれている。
平成21年4月27日
中前美佳

Graft-versus-lymphoma effect for aggressive T-cell lymphomas in adults.
成人進行期T細胞リンパ腫における移植片対リンパ腫効果について
[目的]
進行期T細胞リンパ腫は成人の非ホジキンリンパ腫の10〜15%を占め、B細胞リンパ腫に比較すると予後不良と報告されている。
[患者ならびに方法]
同種造血幹細胞移植を施行した77例の進行期T細胞リンパ腫の後ろ向き解析を行った。
[結果]
タイプ別にはanaplastic large-cell lymphoma 27例、peripheral T-cell lymphoma not other specified 27例、angioimmunoblastic T-cell lymphoma 11例、hepatosplenic γ/δ lymphoma 3例、T-cell granular lymphocytic leukemia 1例、nasal natural killer/T-cell lymphoma 3例、non-nasal natural killer/T-cell lymphoma 1例、human T lymphotropic virus-1 lymphoma 2例、entreropathy-type T-cell lymphoma 1例であった。57例の症例が骨髄破壊的前処置を受けた。70例がHLA一致ドナー、60例が血縁ドナーであった。移植時の疾患状態としては31例が完全寛解、26例が部分寛解であった。5年治療関連死亡率は33%、5年全生存率は57%、5年の無イベント生存率は53%であった。多変量解析では移植時に化学療法抵抗性であったこと(不変、抵抗性あるいは進行性)、移植後にgrade 3-4の急性移植片対宿主病を発症すいたことが、生存率に対する最も強い予後不良因子であった(p=0.03)。移植時の疾患状態は5年無イベント生存率に対しても有意な影響を与え(p=0.003)、HLA不一致のドナーは移植関連死亡を増加させた(p=
0.04)
[考察]
・移植後の無病生存率が60%近くとなり、移植後18ヶ月を経過するとその率はプラトーに達する傾向が認められた。
・化学療法抵抗性の症例においても5年全生存率が29%であるのは特記すべき事である。これらの症例は通常の化学療法では治癒が困難であり、移植の恩恵を受けたものと考えられる。
・移植片対主要効果によって、同種造血幹細胞移植は治癒をもたらす治療法としての可能性を秘めている。
・移植時期は重要な問題である。本研究では移植前に2コース以上の化学療法を受けた症例の方がより良好な生存率と無イベント生存率が得られ、診断から移植までの期間が12ヶ月未満の患者の方が治療関連死亡は低くなる傾向がみられた。これらの結果から同種造血幹細胞移植は化学療法に対して感受性を有している状態でなるべく早く行うべきと考えられる。
・治療強度減弱前処置は治療関連死亡を減らすものとしてエビデンスがあり、前治療でなるべく腫瘍量を減らしてから同種造血幹細胞移植を行う方法が今後注目されるであろう。
平成21年4月20日
井上恵里

International peripheral T-cell and Natural Killer/T-cell lymphoma study: Pathology findings and clinical outcomes.
国際的な末梢性T細胞リンパ腫およびNK/T細胞リンパ腫の研究:病理学的所見と臨床的経過
(目的)
peripheral T-cell lymphoma(末梢性T細胞リンパ腫、PTCL)とNatural Killer/T-cell lymphoma(NK/T細胞性リンパ腫、NKTCL)は頻度が低く一般的に予後不良とされる非ホジキンリンパ腫の亜型である。
(患者と方法 )
世界の22施設で1990から2002年に新規診断(未治療)のPTCLとNKTCLの1314例のコホートで、これらの症例の組織生検、免疫学的マーカー、分子遺伝学的な情報と臨床情報を4名の血液病理医によって再評価を行い、WHO分類に従って分類した。
(結果)
PTCLとNKTCLの診断は全症例のうち1153(87,8%)例で確認し、最も頻度の高いサブタイプは末梢性T細胞リンパ腫分類不能型(25.9%)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(18.5%)、NKTCL(10.4%)、成人T細胞白血病/リンパ腫(9.6%)であった。診断の間違い(誤分類)10.4%に認め、ホジキンリンパ腫 3%、B細胞性リンパ腫 1.4%、分類不能型(2.8%)あるいはリンパ腫ではなかった(2.3%)等であった。地理的分布によって様々なサブタイプの頻度差を認めた。アントラサイクリン系薬剤を含むレジメンの使用は 末梢性T細胞リンパ腫分類不能型、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫においては予後の改善にはつながらなかったが、ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫においては予後の改善に関与していた。
(結論)
WHO分類はPTCLとNKTCLのサブタイプを定義するのに役立つ。しかしながら専門家による血液病理レビューは正確な診断に重要である。これらのリンパ腫のほとんどのサブタイプは標準療法では予後は悪く、予後を改善させるため新規薬剤による治療が必要である。
平成21年4月13日
井上敦司

Initial therapy of acute graft-versus-host disease with low-dose prednisone does not compromise patient outcomes.
低用量プレドニンによる急性移植片対宿主病の初回治療は患者予後を損なうことはな
我々は急性 GVHD に対する標準量のステロイド(プレドニゾン換算で 2 mg/kg )に代わる初期治療としての低用量のステロイド(プレドニゾン換算で 1 mg/kg )が予後悪化させないという仮説を立てた。 2000-2005 年に移植を受け、 GVHD に対する初期治療として標準量ステロイド (n=386) あるいは、低用量ステロイド (n=347) を受けた 733 例についてレトロスペクティブに検討した。 100 日までの平均プレドニゾン換算積算投与量は低用量ステロイド群、標準用量ステロイド群でそれぞれ 44 mg/kg と 87 mg/kg であった。調整後の予後は 2 群で有意な差は認めなかった。 OS (HR, 1.10; 95% CI, 0.9-1.4),   Relapse (HR, 1.22; 95% CI, 0.9-1.7)、NRM (HR,1.06; 95% CI, 0.8-1.5). 発症時に Grade III/IV の GVHD 患者は症例数が少なくサブ解析で結論的なことは言えなかった。 多変量解析においては侵襲性真菌感染症のリスク (HR, 0.59; 95% CI, 0.3-1.0) と入院期間 (HR, 0.62; 95% CI, 0.4-0.9) が低用量群で有意に減少した。低用量の糖質コルチコイドによる初期治療は Grade I/II の GVHD 患者においては、疾患のコントロールや死亡率に影響せず、ステロイドの毒性を減少できると我々は結論した。
平成21年4月6日
中前博久

Treatment of sickle cell anemia mouse model with iPS cells generated from autologous skin.
自己皮膚から産み出したiPS細胞を用いた鎌状赤血球症モデルマウスの治療
最近、マウスとヒトの線維芽細胞に4種の転写因子を導入して胚性幹細胞様状態にレプログラムできることが証明された。しかし、そのような誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell(iPS細胞)による治療法の可能性は定かではない。我々はヒト化鎌状赤血球症モデルマウスを自家iPS細胞から実験系で得られた血液前駆細胞の移植によって治療した。これは遺伝子導入によってヒトヘモグロビンS遺伝子を治すことで成功した。この結果はリプログラムの導入と遺伝子・細胞治療を組み合わせた治療法の原則を証明した(長所@拒絶がなく免疫抑制剤が不必要、A相同組換えによって遺伝子欠損を修復できること、B必要な細胞に分化させられること)。リプログラムにレトロウイルスと癌遺伝子を使用することが問題であり、iPS細胞がヒトの治療に使われる前に解決しなければならない。
平成21年3月30日
百瀬 大

Quantitative assessment of WT1 gene expression after allogeneic stem cell transplantation is a useful tool for monitoring minimal residual disease in acute myeloid leukemia.
急性骨髄性白血病において同種造血幹細胞移植後のWT1遺伝子定量は微少残存病変を監視するのに有益な方法である
 WT1の過剰発現は急性骨髄性白血病(acute myelocytic leukemia、AML)を含むいくつかの悪性腫瘍で認められる。骨髄のWT1定量は同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell transplantation、alloHSCT)のAML患者で微小残存病変のマーカーとして、または再発の兆候をつかむために有用と考えられる。 AMLの患者38人(男性16人女性22人)のWT1を診断時、移植時、移植後に定量検査した。すべての患者で診断時のWT1は高値を示しており(平均4189、中央値3495、範囲 454-13923 copies WT1/10*4 Abl )、 移植時には25人(66%)の患者がCcR(complete cytologic remission)であり、13人(34%)が治療抵抗性または再発であった。移植時CcRであった患者のWT1は、そうでない群と比べて有意に低値で あった(P=0.004)。HSCT後CcRに到達したり、CcRを維持した患者のWT1値は急速に低下していた。6人の患者(13%)はHSCT後に再発し、彼らは全員再発前WT1が上昇していた。この6人のうち5人は原病死し、1人はドナーリンパ球輸注と化学療法でWT1レベルを減らせた。また、WT1と他のマーカー(がある時)は、発現の具合が一致していた。本研究の結果、同種移植後のWT1発現レベルと同種移植前後のAMLの状態は完全に一致していた。特定のマーカーがないAMLでもWT1を利用してAMLの臨床的な再発を予期できると考えられる。同種移植後のWT1レベルが上昇し、移植片対宿主病発現が無い症例は、 免疫抑制剤の減量やドナーリンパ球輸注の検討も必要と考えられる。
平成21年3月23日
相本 蘭

Plasmablastic lymphoma of the oral cavity: a rapidly progressive lymphoma associated with HIV infection.
口腔内形質芽球性リンパ腫:HIV感染に伴い急速に進行するリンパ腫
 口腔の形質芽球性リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の1型で、1997年に初めて報告された。我々はHIV感染者で進行する口腔の炎症と歯痛で発症した形質芽球性リンパ腫の症例を報告する。また文献検索で得られた形質芽球性リンパ腫の全例をまとめた。形質芽球性リンパ腫は免疫抑制状態特にHIV infectionと強い関連性を認めた。 形質芽球性リンパ腫の病態は十分解明されてないが、Epstein-Barr virus (EBV)の存在が生検標本でよく認められ、EBVがこの形質芽球性リンパ腫の原因として考えられている。口腔の炎症についての鑑別診断として、感染と悪性腫瘍が考えられ、生検は正確かつ迅速に診断するために不可欠である。治療は化学療法が主体で、 抗レトロウイルス療法も重要であろう。 形質芽球性リンパ腫は免疫抑制と強く関わり、他の疾患と誤診されやいため、 感染症医はこの新規の疾患についてしっかりと認識すべきである。
平成21年3月9日
寺田芳樹

Pediatric-inspired therapy in adults with Philadelphia chromosome-negative acute lymphoblastic leukemia: the GRAALL-2003 study.
フィラデルフィア染色体陰性成人急性リンパ性白血病に対する小児レジメンの応用治
(目的)  
いくつかの後ろ向き研究により青年期や十代の急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia、ALL)には成人の化学療法レジメンより小児のレジメンの方が有効であることが報告されている。この第2相研究では 60 歳までの成人 ALL 患者に小児レジメンに準じてプレドニゾロン、ビンクリスチンおよび L-アスパラギナーゼといった非骨髄毒性の薬剤を増量した治療を試みた。 
(対象および方法)
2003 年から 2005 年の間に 225 人の成人(年齢中央値 31 歳、 15-60 歳)Ph 陰性ALL患者が GRAALL2003 プロトコルに登録された。このプロトコルはいくつかの小児治療の選択肢を含み、また例えばハイリスク ALLにおける同種移植といった成人に使われる選択肢も組み込まれている。この結果は LALA94 での 15-55 歳の 712 人の結果と後ろ向きに比較された。
(結果)
CR率は 93.5 %。 42 ヶ月時点でのEFSは 55 %( 95 % CI 48-62 %)、でOS は 60 %( 53-66 )であった。年齢は重要な予後不良因子であり、 45 歳が最適なカットオフ値であった。
高齢者では若年者と比較して治療関連死は 23 % v5 %(P< .001 )、 第1寛解期 中の死亡は 22 % vs.5 % P<.001 )と高率で、一方再発率は 30 % v32 %と差はなかった。 CR 率(P=.02 )、 EFS(P<.001 )、OS( P<.001 )は LALA94 と比較して良好だった。 
(結論)
小児治療に準じた治療は、少なくとも 45 歳までの成人ALLの予後を著明に改善させると示唆される。
平成21年2月23日
百瀬 大

Intensive Chemotherapy Followed by Hematopoietic Stem-Cell Rescue for Refractory and Recurrent Primary CNS and Intraocular Lymphoma.
中枢神経原発リンパ腫および眼窩内リンパ腫の治療抵抗症例に対する自家移植の前向き多施設共同研究
(目的)
  再発中枢神経原発リンパ腫の予後は不良である。今回、免疫が保たれている成人のMTX 大量療法抵抗性中枢神経原発リンパ腫 や眼窩内リンパ腫に対する自家移植併用大量化学療法の前向き多施設共同研究の結果を報告する。
(対象および方法)
 サルベージ療法は 2 サイクルの大量シタラビンおよびエトポシド併用療法 (CYVE療法) で構成されている。大量化学療法は、チオテパ / ブスルファン / シクロフォスファミドの併用療法である。 43 例(年齢中央値 52 歳、 23-65 歳)の症例で、再発例 22 例・治療抵抗例 17 例・ 部分寛解例 4 例であった。 CYVE 療法の治療関連死のため 3 例については化学療法感受性( CYVE 療法に対して効果があり)の評価ができなかった。 20 例 (47 % ) が化学療法感受性を有しており、そのうち 15 例に対して自家移植併用大量化学療法を施行した。 CYVE 療法抵抗例のうち 12 例に対し自家移植併用大量化学療法を施行した。自家移植を施行した 27 例のうち 1 例を除いて完全寛解となった。
(結果)
 観察期間中央値 36 ヶ月で、生存期間中央値は全症例では 18.3 ヶ月、自家移植症例では 58.6 ヶ月であった。無増悪生存期間中央値は全症例で 11.6 ヶ月、自家移植症例で 41.1 ヶ月であった。 2 年 全生存率 は全症例で 45 %、自家移植症例では 58 %であった。 2 年無増悪生存率は全症例で 43 %、自家移植症例で 58 %であった。
(結論)
 自家移植併用大量化学療法は、再発・治療抵抗性中枢神経原発リンパ腫 に有効である。
平成21年2月16日
岡本秀一郎

PML targeting eradicates quiescent leukaemia-initiating cells.
PML 標的による休止期 白血病幹細胞の根絶
Nature 453:1072-8, 2008 
 腫瘍維持の原因となる ' がん始原細胞 ' の小集団の存在が白血病において確実に証明されてきている。この概念は現在、固形腫瘍において検証されている。白血病始原細胞は−特に静止期にあるが−化学療法や標的治療に抵抗性であると考えられており、再発につながる。 CML は系統的造血幹細胞疾患であり、がん始原細胞集団は現行治療では根絶されず、投薬中断により再発につながる。我々は造血幹細胞維持における PML がん抑制蛋白の重要な役割を明確にし、 PML を薬剤で阻害することにより静止期白血病始原細胞とおそらくはがん始原細胞を標的とした新規治療戦略を提示する。
平成21年2月9日
康 秀男

Primary prophylaxis of invasive fungal infections in patients with hematologic malignancies. Recommendations of the infections diseases working party of the German Society for Haematology and Oncology.
造血器悪性疾患患者に対する侵襲性真菌感染症の第一予防投与:ドイツ血液腫瘍学会感染症ワーキンググループの推奨
 造血器悪性疾患において抗真菌剤の予防投与の標準法というのは広く認められていない。ドイツ血液腫瘍学会のワーキンググループは抗真菌剤予防投与の提言のために、血液内科医や感染症専門医をレビュー委員に任命した。抗真菌剤予防投与の臨床試験の弁腱データベースを系統的に検索、検索された研究は委員の間で共有された。データは著者のうち2名によって抜粋された。E-mail会議を通じて委員の合意を得た。レビュー委員は提案された提言について検討を行い、今回の提言が完成した。16922名の造血器悪性疾患患者を含む計86の研究が対象となった。2-3の研究のみが他と異なる結果を述べていた。
@400mg/日のフルコナゾール投与は侵襲性真菌感染症の罹患率を下げ、重症移植片対宿主病を発症している同種移植患者と急性骨髄性白血病患者、骨髄異形成症候群患者の侵襲性真菌感染症による死亡率、更には全体的な死亡率も下げていた。
A600mg/日のポサコナゾールは急性骨髄性白血病患者、骨髄異形成症候群患者、移植片対宿主病を発症している同種移植患者に推奨される。
Bフルコナゾール400mg/日は移植片対宿主病が発症するまでの同種移植患者の侵襲性真菌感染症予防に推奨される。
CリポゾーマルアンフォテリシンB吸入は好中球減少が長引いた症例の侵襲性真菌感染症予防に推奨される。
平成21年2月2日
相本 蘭

Granulocyte concentrates: prolonged functional capacity during storage in the presence of phenotypic changes.
顆粒球濃縮製剤:保存によって表面抗原の変化を伴うが機能的能力は保持される
[背景]顆粒球輸血は化学療法による好中球減少が長期間−重症の真菌、細菌感染につながる-の患者に対するつなぎ治療として提案されている。標準治療抵抗性の場合、感染症の制御には十分な数の顆粒球が必要である。本研究の目的はgranulocyte-colony stimulating factor/dexamethasone(G-CSF/Dex)で動員された輸注用顆粒球の機能的特徴と有効性を評価することである。
[方法]白血球分離製剤からの顆粒球を用いて表面抗原、血管内皮細胞との相互作用、運動性、殺菌能、寿命を調べた。顆粒球は16例の長期好中球減少の重症小児患者(顆粒球機能不全患者は除く)にin vivoで輸血された。
[結果] G-CSF/Dexによる顆粒球の動員により表面形質が変化した(CD62L発現の低下、CD66b、CD177の増加)。顆粒球の内皮細胞に相互作用する能力(転回)、接着、通過)と種々の病原体に対する殺菌能は動員やアフェレーシス、放射線照射の影響は受けなかった。24時間の保存後でさえ、顆粒球は機能的に未処置ドナーから分離されたものと区別できなかった。顆粒球輸血は16例中11例、70%に有効と考えられ、輸注開始後1−2週間以内に臨床的回復が認められた。
[結論]採取された顆粒球においてCD2L発現がdownregulation、同時にCD117がuprelulationにされていたことによって内皮細胞との正常の相互作用が説明できるかも知れない。他のすべての調べられた顆粒球機能は真菌に対する殺菌能を含め正常であった。顆粒球濃縮製剤はin vitroで少なくとも24時間は死滅したり機能を失うことなく保存が可能である。In vivoで示されたように、顆粒球輸血は致死的感染症の好中球減少小児患者に対する有効な治療になるかもしれない。
平成21年1月26日
康 秀男

Risk factors for acute graft-versus-host disease after human leukocyte antigen-identical sibling transplants for adults with leukemia.
成人白血病に対するHLA一致同胞間移植後の急性移植片対宿主病の危険因子
[目的]急性移植片対宿主病(acute graft-versus-host disease、aGVHD)はHLA一致同胞間移植後の重大な合併症であり、死亡原因となる。aGVHDの危険因子に関する大規模な登録研究はこの20年間は報告されていない。移植関連技術の進歩とともに予後因子が変化している可能性がある。
[対象と方法]1995-2002年に全世界226施設からInternational bone marrow transplantation registry(IBMTR)に報告された1960例(成人急性非リンパ性白血病、急性リンパ性白血病および慢性骨髄性白血病)のHLA一致同胞間移植後に発症するaGVHDの危険因子について解析した。結果はaGVHDが原因ではない死亡を競合リスク(competing risk、追跡研究中に、ある結果へのリスク状態から対象を除いてしまう原因となる事象)とし、2-4度のaGVHD発症までの期間として評価を行った。
[結果]2-4度aGVHDの累積頻度は35%(95%信頼区間:33-37%)であった。多変量解析で有意であった危険因子は次に挙げる7因子であった。
RR、relative risk(相対危険度、あるリスク因子への暴露群と非暴露群の疾病のリスク比、従って後述した項目の左項目がaGVHD発症リスクが高い)
@移植前処置治療においてシクロホスファミド・全身放射線療法vs.ブスルファン・シクロフォスファミド(RR=1.4、p<0.0001)
A18-39歳の症例における末梢血幹細胞移植vs.骨髄移植(RR=1.43、p=0.023)
B骨髄移植を受けた患者における患者年齢40歳以上vs.18-39歳(RR=1.44、p=0.0005)
C慢性骨髄性白血病vs.急性非リンパ性白血病/急性リンパ性白血病(RR=1.35、p=0.0003)
D人種が白人・黒人vs.アジア系・スペイン系(RR=1.54、p=0.0003)
EKPSが90未満vs.90-100(RR=1.27、p=0.014)
F患者・ドナーのサイトメガロウイルス感染歴が陰性vs.陽性(RR=1.20、p=0.014)
疾患別に層別化した解析では慢性骨髄性白血病に関しては上記@-Fが同様に有意であったが、急性非リンパ性白血病/急性リンパ性白血病ではE、Fは有意ではなかった。
[考察]今回の解析では過去に報告されたいくつかの因子が危険因子として確認された。一方、新たな危険因子として見つかったものと、有意ではなくなった因子も認められた。今回の新たなデータは個人の危険評価の補助となると同時に、いくつかの生物学的な疑問を提示している。
平成21年1月19日
中根孝彦

 Donor lymphocyte infusion in the treatment of first hematological relapse after allogeneic stem-cell transplantation in adults with acute myeloid leukemia: a retrospective risk factors analysis and comparison with other strategies by the EBMT acute leukemia working party.
 同種造血幹細胞移植後第一血液学的再発を来した成人急性骨髄性白血病症例に対するドナーリンパ球輸注:後ろ向き危険因子の解析と他の治療戦略との比較(EBMT急性白血病研究班)
[目的]同種移植後に再発を認めた急性骨髄性白血病患者においてドナーリンパ球輸注の有効性の評価を行った。
[患者ならびに方法]移植後再発の399例の急性骨髄性白血病患者で、ドナーリンパ球輸注を含めて治療を行った171例とドナーリンパ球輸注を含まない治療を行った288例で後向きな分析を行った。2つのグループの全生存率の比較を行い、更にドナーリンパ球輸注施行群ではより詳細なリスクファクターの評価を行った。
[結果]観察期間中央値はそれぞれ27ヶ月と40ヶ月、2年全生存率は21±3%、9±2%であった。全症例での予後良好因子は年齢(37歳以下)、寛解維持期間(移植後5ヶ月以上)、ドナーリンパ球輸注施行であった。ドナーリンパ球輸注施行群であった。ドナーリンパ球輸注施行群で多変量解析を行った結果、予後良好因子として再発時の腫瘍量(骨髄での芽球が35%以下)、女性、良好な遺伝子型、ドナーリンパ球輸注に寛解であることであった。2年生存率は寛解時にドナーリンパ球輸注を施行もしくは良好な染色体核型の患者で56±10%、低形成もしくは非寛解でのドナーリンパ球輸注施行群では15±3%であった。
[考察]ドナーリンパ球輸注は移植片対腫瘍効果を起こすという更なる根拠となったが、その効果は限定的であることも判明した。移植後再発急性骨髄性白血病においてドナーリンパ球輸注前に腫瘍量を減らすための治療戦略や、他の治療法を検討しなければならない。

平成21年1月5日
岡本秀一郎



 Autologous stem-cell transplantation as first-line therapy in peripheral T-cell lymphomas: Results of a prospective multicenter study.
 末梢性T細胞リンパ腫の第1選択治療としての自家幹細胞移植-前向き多施設共同研
 (目的)末梢性T細胞リンパ腫(peripheral T-cell lymphoma、PTCL)は通常の化学療法を行っても予後不良の稀な疾患である。PTCLに対する骨髄破壊的前処置を用いた自家造血幹細胞移植の位置づけは未だ明確にされていない。我々はPTCLに対するupfrontの自家造血幹細胞移植について初めての多施設前向き研究を行い、安全性、有効性に優れていることを報告した。今回、本研究に関する最終的な報告を行う。
 (患者および方法)治療はCHOP療法6コース後、キサメタゾン、カルムスチン、メルファラン、エトポシドおよびシタラビンあるいはエトポシド、メチルプレドニゾロン、シタラビン、シスプラチン併用療法を施行した。血球回復期に末梢血幹細胞採取を行った。これらの治療により完全寛解あるいは部分寛解に至った症例に対して骨髄破壊的前処置(シクロフォシファミドおよび全身放射線照射)後、骨髄破壊的移植を行った。
 (結果)2000年6月から2006年4月に83例が登録された。分類不能型PTCL(n=32)および血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(n=27)が主な組織型であった。83例のうち55例(66%)が自家造血幹細胞移植を受けた。自家造血幹細胞移植が施行されなかった症例について主な理由は疾患の増悪であった。自家造血幹細胞移植後の完全寛解率は56%、部分寛解率は8%であり、overall responseは66%であった。観察期間中央値33ヶ月において43例が生存し、完全寛解例の3年全生存率ならびに無病生存率はそれぞれ48%および53%で、3年無進行生存率は36%であった。
 (結論)今回の前向き研究の結果からPTCLの自家造血幹細胞移植の重要性が示され、更に無作為試験にて評価すべきである。移植率を上げるために移植前の化学療法の改良が必要である。

平成20年12月22日
寺田芳樹

  Association of serum interleukin-7 levels withh the development of acute graft-versus-host disease.
 インターロイキン-7は急性移植片対宿主病発症と関連する
 (目的)悪性疾患治療における同種造血幹細胞移植成績向上は移植片対宿主病によって制限される。Interleukin-7(IL-7)はT細胞の恒常性を維持する主要なサイトカインであり、マウスモデルでは急性移植片対宿主病発症に関与する。Interleukin-2やtumor necrosis factor-αなどの炎症性サイトカインとは逆に、IL-7は急性移植片対宿主病との関係については十分解明されていない。HLA一致同胞からの骨髄非破壊的移植の前向き試験いおいて、単一な治療法を受けた31例の患者の血清IL-7レベルと急性移植片対宿主病の関係を評価した。移植片対宿主病予防はシクロスポリンとメソトレキセートを用いた。血清IL-7濃度とリンパ球数を研究参加時、移植日(移植前)、移植後12ヶ月に測定した。
 (結果)IL-7レベルはT細胞数と逆相関していた(P<0.00001)。急性移植片対宿主病は第7病日、第14病日のIL-7レベルと有意に相関し(P<0.00003)、ドナーCD34+細胞数も同様の結果が得られた(p=0.01)。第14病日のIL-7レベルは急性移植片対宿主病の重症度とも相関していた(p<0.0001)。ロジスティック回帰モデルにおいて、患者が急性移植片対宿主病を発症するか否かを判断するのに、これらの因子は高い感度(86%)特異度(100%)を示した。
 (結論)これらのデータは、IL-7が急性移植片対宿主病の発症に重大な役割を果たすという基礎実験を支持し、またIL-7経路の制御を通して急性移植片対宿主病を予防・治療するという新たな試みの合理的基盤となる。
平成20年12月15日
百瀬 大

 Finding of kinase domain mutations in patients with chronic phase chronic myeloid leukemia responding to imatinib may identify those at high risk of disease progression.
 イマチニブ抵抗性のない慢性期慢性骨髄性白血病患者においてBCR/ABLのキナーゼドメインの変異は病期進行の高リスク群を識別できる
 BCR/ABL遺伝子のキナーゼドメイン(kinase domain、KD)の変異は慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia、CML)患者でのイマチニブ(商品名グリベック)への抵抗性に関連することが知られている。しかしながら慢性期(chronic phase、CP)のCML患者においてイマチニブに反応している時点での変異の頻度や予後への影響は不明である。対象はイマチニブで治療されている319例のCML-CP患者。174例は診断後6ヶ月以内の患者(early CP:ECP)148例は診断後6ヶ月以上(late CP:LCP)であった。治療への反応性に関わらず、direct sequence法でルーチンに変異の検索を行った。5年間での変異の頻度はECP、LCPでそれぞれ6.6%、17%であった。214例(67%)が遺伝子学的寛解complete cytogenetic response、CCyR)を達成した。「変異があり、他にイマチニブ抵抗性の原因がない」ことはCCyR消失と病期進行の強い予後因子であった。しかしながら変異の検出からCCyR消失までは21ヶ月、病期進行までは16ヶ月と比較的長期間であった。244番目を除くPループの変異は、他の部位の変異と比べ、病期進行の高リスク因子であった。
*結果追加
 @多変量解析ではKD変異出現の独立した予測因子はLCPとSokal scoreでのhigh risk群であった。
 APFSの独立した予測因子はCCyR達成(良好因子)とKD変異の出現(不良因子)であった。
 B血液学的寛解(complete hematological response、CHR)消失前に変異が検出された場合において高度の耐性を示す(in vitroで)症例では無進行生存率(progression free survival、PFS)が有意に低下しているこが判明した。同様にPループに変異のある患者の予後は不良であることが示された。
 C治療開始後2年の時点でCHRを維持していた250例の患者に限定してKD変異が予後に与える影響を解析した。多変量解析ではPFSの独立した予後因子は変異の有無・細胞遺伝子学的効果の有無であり、Sokal score、付加的染色体異常の有無は予後因子とはならなかった。
 D53例(17%)の患者では一度も細胞遺伝子学的効果が得られず、初回反応抵抗性と分類した。それらの患者ではKD変異の有無は予後に影響しなかった。したがって、KD変異の有無は二次的な治療抵抗例でのみ予後に影響すると考えられた。 
*考察概説
 これまでの研究はイマチニブ抵抗性の患者や病勢が進行した患者を対象としたものであった。この研究ではイマチニブ抵抗性の有無に関わらずCP症例を経時的に観察することにより、KD変異の出現がCCyRの消失とPFSに関連していることを示すことができた。変異を認めた37例中17例で病勢が進行した。そのすべての患者で病期進行が明らかとなる前に変異が検出された。KD変異が予後因子となることを示すために「全患者」・「治療開始2年後に血液学的寛解を維持している患者」それぞれについて予後解析を行った。KD変異の検索は予後予測に有用であると考えられるが、すべての患者について検査を行うのは現実的ではない。細胞遺伝子学的効果が不十分な場合あるいはCCyRでもBCR/ABLの減少が不十分ではない場合(遺伝子学的寛解に至っていない場合)などでは年に2回のKD変異の検索を行うのが、妥当な判断と考えられる。特にSokal scoreで高リスク群の場合には有用であると考えられる。
説明
 CMLではイマチニブに抵抗性となる症例が10%程度存在する。耐性化の原因としてはBCR/ABL依存的なものと非依存的なものがある。BCR/ABL依存的な機序として最も明確になっているのはBCR/ABLの変異である。変異の後発部位はイマチニブ結合部、Pループ、activationループの3ヶ所である。変異によりイマチニブへの抵抗性が異なり、すべての変異がイマチニブ抵抗性を来たすわけではない。たとえば、T315Iはイマチニブのみならずダサチニブ・ニロチニブに耐性になるのに対し、M244Vはイマチニブに抵抗性とならない。これまでの報告はイマチニブ耐性例や急性転化例などでの検討であり、その40-90%に変異が認められると報告されている。しかし、慢性期の症例での変異の発生頻度は不明であり、また検査方法により感度が大きくなることも問題となる。

平成20年12月8日
武岡康信

Greater impact of oral fluconazole on drug interaction with intravenous calcineurin inhibitors as compared with intravenous fluconazole.
フルコナゾール経口投与はフルコナゾール静注よりもカルシニューリン阻害剤血中濃度を高める.
目的
フルコナゾールとカルシニューリン阻害剤(シクロスポリンおよびタクロリムス)間の相互作用が立証されているにも関わらず、フルコナゾールの投与方法(経静脈投与か経口投与か)の違いがカルシニューリン阻害剤との相互作用にどのような影響を及ぼすかについては十分に解明されていない。我々はフルコナゾール投与方法の違いによって経静脈投与されているカルシニューリン阻害剤との相互作用がどう変化するかについて解析した。
方法
同種造血幹細胞移植を施行された53例で、経静脈投与されているシクロスポリンまたはタクロリムスの血中濃度がフルコナゾールを経静脈投与から経口投与に切り替えた後、どのように変化するか、検討を加えた。
結果
フルコナゾールを経口投与に変えると、シクロスポリンもタクロリムスも血中濃度が有意に上昇した。
結論
カルシニューリン霜害剤に対して、フルコナゾールは経静脈投与よりも経口投与の方がより血中濃度を高める影響が強い。フルコナゾールの投与方法を変更する際には十分注意してシクロスポリンおよびタクロリムスの血中濃度モニタリングを行う必要がある。
平成20年12月1日
相本 蘭

Case-control comparison of at-home and hospital care for allogeneic hematopoietic stem-cell transplantation: The role of oral nutrition.
同種造血幹細胞移植における自宅治療症例および病院治療症例の比較-経口栄養の役割.
背景
 同種造血幹細胞移植後、入院管理よりも自宅管理することで急性移植片対宿主病を減らすことができた。
方法
 1998年3月から2006年12月までに当施設では601例の同種造血幹細胞移植を施行した。その内、76例が自宅での同種造血幹細胞移植をできる条件を満たしていた。対照群として年齢、性別、診断、病期、前処置治療、幹細胞源(骨髄、末梢血あるいは臍帯血)、ドナーのタイプ(血縁者か非血縁者)、免疫抑制状態を一致させた76名が選択された。経口摂取カロリーは同種造血幹細胞移植後21日までkcal/kg/日として記録された。
結果
 自宅治療群の方が入院治療群よりも多くのカロリーを経口摂取できていた(p<0.05)。自宅にいた日数と経口摂取量には相関関係が認められた(p=0.004)。多変量解析でgrade 2-4の急性移植片対宿主病と菌血症は経口摂取が少ない症例ほど、発症していた(p<0.0001)。死亡は慢性移植片対宿主病が発症しないと多く認められた(p=0.012)。自宅治療群の5年生存率は65%、入院治療群は47%であった(p=0.04)。
結論
 入院よりも自宅治療により経口摂取を促した方が急性移植片対宿主病の罹患率は減少し、生存率にもよい影響を与える可能性がある。

平成20年12月1日
相本 蘭

Long-term disease-free survival after Gemtuzumab intermediate-dose cytarabine, and mitoxantrone in patients with CD33+ primary resistant or relapsed acute myeloid leukemia.
初回寛解導入療法抵抗性あるいは再発性急性骨髄性白血病に対するgemtuzumab(商品名マイロターグ)、中等量キロサイドおよびミトキサントロン併用療法は長期無病生存を期待できる
 治療抵抗性もしくは再発したCD33陽性急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)に対するgemtuzumabと中等量シタラビンとミトキサントロン併用療法の効果と安全性について検討を行った。対象は治療抵抗性18例および再発44例のCD33陽性AML 62例であり、年齢中央値は55.5歳であった。治療法はGemtuzumab 9mg/sq(第4日)、シタラビン 1g/sq(12時間毎、第1-5日)、ミトキサントロン 12mg/sq(第1-3日)のスケジュールで行った。経過観察中央値は26.5ヶ月。31例(50%)が完全寛解(CR)、8例が血小板回復のない完全寛解(CRp)、全反応率(OR: CR+ CRp)は63%であった。再発AMLの方が抵抗性AMLよりも有意にORは良く(73%対39%、P=0.007)、CD33発現が98%以上のAML例の方が98%未満のAMLよりもORは有意に良好であった(79%対52.3%、P=0.03)。2年の全生存率、無イベント生存率、無病生存率はそれぞれ41%、33%および52%であった。治療時の白血球数>20,000/μl、high-riskの染色体異常、寛解後治療なし、が予後不良因子であった。年齢、病期、CD33の発現率は生存率には影響を与えなかった。早期死亡が4例、grade3-4の高ビリルビン血症が16%(10例)、肝静脈閉塞症が3%(2例)に併発した。本治療法は抵抗性・再発のCD33陽性AMLに有用なサルベージ療法であると考えられるが、他の治療より優れているかは、あるいは標準的治療法と成り得るか、についてはランダム化第3相試験での検討が必要である。

平成20年11月17日
相本瑞樹

The impact of soluble tumor necrosis factor receptor etanercept on the
treatment of idiopathic pneumonia syndrome after allogeneic hematopoietic
stem cell transplantation.
 同種造血幹細胞移植後に併発するidiopathic pneumonia syndromeに対する可溶
性TNFレセプターであるエタネルセプトによる治療効果
 Idiopathic pneumonia syndrome(IPS)は造血幹細胞移植後のびまん性、非感染性
の急性肺障害である。IPSの併発により呼吸不全を来たし、その死亡率は50%を超え
る。これまでの臨床研究において発症に関する重要なファクターとしてtumor
necrosis factor-α(TNF-α)が挙げられている。我々はIPS患者15例(年齢中央値
18歳、1-60歳)に対してTNF-α阻害薬であるetanerceptとcorticosteroid併用療法を
施行した。etanerceptは0.4mg/kg(最大投与量25mg)皮下注で週2回、最大8週間投
与された。感染性肺合併症は見られず、etanercept治療の耐容性は良好であった。
15例中10例が完全寛解(試験期間内の酸素投与の中止)となった。完全寛解までの期
間の中央値は7日(3-18日)で、73%の症例が28日間以上生存した。IPS発症は肺胞
洗浄液中と血漿でいくつかの炎症性蛋白の上昇と関連し、治療の反応は肺と全身の
炎症改善と相関していた。etanerceptとcorticosteroid併用療法は安全かつ高い反応
率を示しており、予後を改善するものと考えられた。
IPSの危険因子としては全身放射線治療、高齢、重症移植片対宿主病。また発症率
は骨髄破壊的移植の方が骨髄非破壊的移植の方が低率。
IPSは同種移植後の7-15%の症例に、移植後中央値14-42日で発症、その死亡率は
50-80%に及びます。病因として移植前処置の直接毒性、潜在性肺感染症、炎症性サ
イトカイン、特にTNF-α、による障害が考えられています。IPSは自家移植後にも報告
されていますが、主として同種移植後の免疫学的因子がその発症に重要な関連があ
るとされ、特に急性移植片対宿主病発症がIPSにしばしば先行するため、両者に何ら
かの因果関係があるではないかと推測されています(IPSが肺移植片対宿主病の重症
型なのか急性移植片対宿主病に関連したサイトカイン活性化により続発したものなの
かは明確にされておりません)。
IPS診断基準
1.広汎性肺胞障害(a+b+c)
a.胸部レントゲンあるいはCTにおける多葉性浸潤像
 b.肺炎症状:咳嗽、呼吸困難感あるいはラ音
 c.生理学的検査異常:動脈-肺胞間酸素圧勾配の増加あるいは酸素補充療法が必

2 下部気道感染症の否定(a or b)
 a.細菌性および非細菌性微生物が肺胞洗浄液で陰性
 b.外科的肺生検陰性

平成20年11月10日
康 秀男

Direct intrabone transplant of unrelated cord-blood cells in acute leukaemia: a phase I/II study.
急性白血病に対する骨髄内非血縁者臍帯血移植の第I/II相試験
[背景]
成人臍帯血移植においては約20%に生着遅延あるいは生着不全が起こる。この臨床第I/II相試験の目的はドナー由来の好中球および血小板生着を評価することで、臍帯血の新たな投与ルート(骨髄内)の安全性と効果を確立することである。
[方法]
イタリアのサンマルチノ病院において非血縁者間移植の適応となった急性白血病患者のうち、HLA一致ドナーの見つからなかった患者がこの研究に参加し、臍帯血移植が施行された。第一寛解期が8例、第二寛解期が10例、進行期・不応性が14例であった。HLA一致度は一座不一致が9例、二座不一致が22例、三座不一致が1例であった。臍帯血は濃縮され、5ml注射筒4本に分注、全身麻酔下で急速に後上腸骨稜より輸注された。輸注細胞数中央値は2.6(1.4-4.2)×10^7/kgであった。primary endpointは骨髄内臍帯血移植後の好中球および血小板の回復、secondary endpointは急性移植片対宿主病の頻度、再発率、全生存率とした。
 前処置 @全身放射線照射(12Gy)+シクロフォスファミド、Aチオテパ+トレオスルファン+フルダラビンおよび強度減弱レジメンBフルダラビン+シクロフォスファミド+全身放射線療法(2Gy)(2例)を用いた。移植片対宿主病はシクロスポリン+ミコフェノール酸モフェチル(MMF)+抗胸腺細胞グロブリン(ATG)により予防した。
 骨髄内臍帯血移植法 骨髄内移植前にジメチルサルフォキシドを生食+デキストラン+アルブミンで洗浄除去。その後、20ml生食+デキストラン+アルブミンに再溶解し、5ml注射筒4本に分注した。第一例は通常の骨髄検査と同様に局所麻酔で施行したが、疼痛が強く、以後の症例ではプロポフォールで短期鎮静を行い、8-15分後に骨髄内臍帯血移植を施行した(非挿管下で側臥位で施行)。標準的な骨髄穿刺針(14G)を患者の後上腸骨稜に数cm挿入、約0.5-1.0ml吸引し、骨髄腔内に針が留置されていることを確認し、その後に輸注を行った(2-3cm間隔を空けて計4本を輸注)。
[結果]
対象は2006年3月31日から2008年1月25日までの間に臍帯血移植を施行された連続した32名(急性骨髄性白血病20例、急性リンパ性白血病12例、年齢中央値36歳(16-64歳))。骨髄内最多血輸注時および輸注後での合併症は認めず。進行期4例は移植後12日以内に死亡。残りの28例では好中球回復(500/μl以上)中央値23日(14-44日)、27例の血小板回復(2万以上)中央値36日(16-64日)であった。全ての患者は移植後30日から最終フォローアップ時点まで完全ドナーキメリズムを保っており、早期完全ドナーの生着が示唆される。III-IV度の急性移植片対宿主病発症はなし。死因は移植関連死亡5例、感染症7例、再発4例であった。観察期間中央値13ヶ月(3-23ヶ月)で16例が生存し、完全寛解を維持している。
[考察]
今回の検討の結果、骨髄内臍帯血移植はHLA不一致で細胞数が少ない臍帯血が移植された場合でも生着不全を引き起こさないことが示唆された。

2008年10月27日
中根孝彦
臍帯血移植は(体重当たりの)有核細胞数が少ないと好中球、血小板の回復の遅れ、生着不全を起こしやすくなります。従って、成人の場合には小児に比較するとこれらの合併症の頻度が高くなります。生着不全は10-20%以上と様々な報告があり、これが臍帯血移植の死亡率の高さに影響しています。本研究は臍帯血を骨髄内に輸注することにより造血幹細胞のhoming(造血の場である骨髄内への移動)が改善する結果、血球回復が改善するという仮説を立て、実施しています。この仮説は次の知見に基づいています。@経静脈投与された造血幹細胞の10-15%程度しか造血可能な部位に定着しない(おそらくは他臓器で失われてしまうため)。Aマウスモデルにおいて致死量の放射線療法を行った後に骨髄内に造血幹細胞を輸注した方が経静脈投与した場合よりも造血幹細胞の再生は10倍効率的であった。B臍帯血移植後の生着の遅れは不十分な細胞数によるものではない。実際、臍帯血移植を施行された小児の方が移植後一年後には骨髄移植よりも優れた造血幹細胞巣を有している。

 Long-term progression-free survival of mantle cell lymphoma after intensive front-line immunochemotherapy with in vivo-purged stem cell rescue: a nonrandomized phase 2 multicenter study by the Nordie Lymphoma Group.
 生体内腫瘍細胞除去後に造血幹細胞を採取、この検体を用いた自家造血幹細胞移植を併用した強化免疫化学療法を第一選択することによりマントル細胞リンパ腫の長期無増悪生存率が維持される(Nordie Lymphoma Groupの無作為割り付けを行わない多施設第2相臨床試験)
 マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma、MCL)は治癒が困難な病型であり、自家造血幹細胞移植の治療強度を強めた免疫化学療法の前向き大規模研究は未だに実施されていない。今回の臨床第II相研究では2nd Nordic MCL trialとして連続して登録された66歳未満の初発未治療マントル細胞リンパ腫160例に対して、治療強度を強めた免疫化学療法、すなわちリツキシマブ、シクロフォスファミド、ビンクリスチン、ドキソルビシンおよびプレドニゾロン併用療法(maxi-CHOP)とリツキシマブおよびシタラビン大量療法の交代療法を施行した。効果が認められた症例に対してリツキシマブによる生体内腫瘍細胞除去後に造血幹細胞を採取、この検体を用いてカルムスチン、エトポシド、シタラビンおよびメルファラン併用大量化学療法あるいはカルムスチン、エトポシド、シタラビンおよびシクロフォスファミド併用大量化学療法後、自家造血幹細胞移植を行った。奏効率(完全寛解率+部分寛解率)は96%、完全寛解率は54%であった。6年全生存率は50%、無イベント生存率は56%および無増悪生存率は66%であり、5年以降の再発は見られていない。多変量解析ではKi-67が無イベント生存率に対して唯一の予後因子であった(すなわちKi-67発現率が高い症例は予後不良)。非再発死亡率は5%であった。移植片や移植後の患者におけるPCR法での分子遺伝子学的検討を行ったが多くの症例で陰性であった。1st Nordic MCL trialと比較すると無イベント生存率、全生存率、無増悪生存率、分子遺伝子学的寛解期間、PCRでの腫瘍細胞陰性幹細胞採取検体比率は有意に良好であった。生体内腫瘍細胞除去自家造血幹細胞移植を併用し治療強度を強めた免疫化学療法はマントル細胞リンパ腫症例に対して長期にわたり無増悪生存期間を延長、おそらくは治癒に導く可能性が示唆された。
平成20年10月20日
寺田芳樹
Ki-67核抗原は細胞増殖と関連しており、細胞周期(G1、S、G2、M期)を通じて発現しています細胞分裂をしていない細胞(休止期G0期)の細胞には発現していません。Ki-67抗原に対するモノクローナル抗体は腫瘍の増殖を評価する上で有用であることが報告されています。免疫組織化学染色で計数した細胞中に占めるKi-67陽性細胞数として定量化(Ki-67 index)されます。Ki-67 indexが低値の場合には組織学的に低悪性度の腫瘍、高値の場合には中・高悪性度の腫瘍であることと強く関連しています。
マントル細胞リンパ腫について
1.高齢者、男性に多く、年齢中央値は65歳。非ホジキンリンパ腫の約5%を占める。
2.多くが進行期で、骨髄、肝臓、消化管等の節外性病変が多い。白血化も見られる。
3.中枢神経病変が多く、特に再発例に見られる。
4.予後因子MIPM(年齢、performance status、LDH、WBC、Ki-67 index)がIPI、FLIPIよりも鋭敏である。
5.CHOPおよびmodified CHOP療法は奏効率は良いものの、長期予後は不良。
6.リツキシマブ併用により奏効率、生存率が改善する。
7.シタラビン大量療法を組み込むことにより予後が改善される。リツキシマブ併用hyper CVAD/MA併用療法が奏効率98%、5年無病生存率48%と良好。SWOGの追試では奏効率は良いものの、毒性が問題。また治療を終えた症例については後期再発が多い。
8.自家造血幹細胞移植は有効であるが、再発が問題。特に移植片への腫瘍細胞の混入が問題となる。
9.フルダラビンおよびリツキシマブ併用療法、ベンダムスチンおよびリツキシマブ併用療法、放射免疫療法(Ibritumomab tiuxetan等)、ボルテゾマブが新たな治療法として挙げられる。特に自家造血幹細胞移植が受けることができない高齢者に対してこれらの治療は有望である。
10.同種移植については骨髄非破壊的移植においても移植関連死亡が多くup frontの適応ではない。第2寛解期以降は予後不良であり、若年でかつ骨髄非破壊的移植であれば有望。

 Wilms' tumor 1 gene mutations independently predict poor outcome in adults with cytogenetically normal acute myeloid leukemia: A Cancer and Leukemia Group B study
 WT1遺伝子の変異は、成人の正常核型急性骨髄性白血病において独立した予後不良因子である(CALGBからの報告)
目的
染色体異常がない(cytogenetically normal、CN)急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)においてWilms' tumor 1(WT1)遺伝子の変異が、予後に与える影響を解析した。
患者と方法
60歳未満で新規発症のAML患者196名を対象とした。WT1遺伝子のエクソン7、9の変異を検索した。FLT3の増幅(FLT3-ITD)、FLT3のチロシンキナーゼドメインの変異(FLT3-TDK)、MLLの増幅(MLL-PTD)の変異、NPM1の変異、CEBPAの変異、ERGとBAALCの発現レベルも合わせて検索した。
結果
21名(10.7%)の患者でWT1の変異が認められた。変異の有無によって寛解導入率は変化しなかった(WT1変異群76%、無変異群84%、P=0.36)。WT1変異群と無変異群において3年無病生存率はそれぞれ13%および50%(P<0.001)、3年全生存率はそれぞれ10%および56%(P=0.009)と有意に変異群の予後は不良であった。
多変量解析では無病生存率についてCEBPA変異群、ERG発現量およびFLT3-ITD/NPM1分子学的危険群とは独立した予後不良因子であった(P=0.009、ハザード比2.7)。またWT1変異は全生存率についてCEBPA変異群、FLT3-ITD/NPM1分子学的危険群および白血球数と独立した予後不良因子であった(P<0.001:ハザード比3.2)。
結論
我々は十分に治療された若年者CN-AML患者においてWT1変異は非常に悪い予後を示すことを最初に報告した。これからの試みとしてCN-AML患者について分子遺伝子学に基づいた危険因子評価の一部としてWT1ならびに危険因子に基づいて層別化された治療法を組み入れるべきである。

平成20年10月13日
武岡康信

 A multicenter prospective phase 2 randomized study of extracorporeal photopheresis for treatment of chronic graft-versus-host disease.
 慢性移植片対宿主病に対する体外循環式光化学療法の多施設前向き第2相無作為試験
 慢性移植片対宿主病は寛解を維持している造血幹細胞移植に制限を加える主たる合併症である。今回、ステロイド治療でコントロール不良の皮膚慢性移植片対宿主病に対して通常治療(コントロール群)と通常治療にフォトフェレーシス(体外循環式光化学療法:extracorporeal photopheresis、EPC)を併用した治療(EPC群)の治療効果を比較した。主要評価項目は12週時点での体の10ヶ所のtotal skin score (TSS)における治療前からの変化割合の盲検的量的比較とした。95名がECP群(n=48)と通常治療群(n=47)に無作為割り付けされた。12週におけるTSSの改善率中央値はECP群で14.5%、コントロール群で8.5%であった(p=0.48)。ステロイド投与量を50%以上減量でき、かつTSSが25%以上減少した患者はECP群で8.3%、コントロール群で0%であった(p=0.04)。皮膚の完全・部分寛解の非盲検的評価ではECP群で有意に改善が見られた(p<0.001)。ECPは概して忍容性が良好であった。これらの結果よりECPには慢性移植片対宿主病におけるステロイド減量効果があると示唆される。
平成20年9月29日
百瀬 大

 Donor lymphocyte infusions: the long and winding road: how should it be traveled?
ドナーリンパ球輸注:その長期にわたる変則的な治療法をどのように適応すべきか?
 ドナーリンパ球輸注は移植片対腫瘍効果を引き出す事を目的として同種移植後にしばしば施行される。輸注のタイミングは適応症により異なっている(例えば腫瘍再発後の治療目的、T細胞除去移植や骨髄非破壊的移植後の再発予防、完全ドナーキメリズム獲得のためなどがある)。ドナーリンパ球輸注の最適な施行時期・併用治療・細胞数・細胞構成などは明らかになっていない。しかしドナーリンパ球輸注を施行した慢性骨髄性白血病全例において3年無病生存率は60%、分子学的・細胞遺伝子学的再発症例では90%に及ぶ。他の造血器悪性疾患では50%以下の反応であり、3年無病生存率は20-50%程度である。多発性骨髄腫における全反応率は40-45%で、再発時に有益と考えられる。一方、ホジキンリンパ腫、骨髄不全、急性リンパ性白血病においては再発時のドナーリンパ球輸注は推奨されない。適応症に関係なく、ドナーリンパ球輸注施行後の治療関連死亡率は5-20%で1/3の患者が急性もしくは慢性移植片対宿主病を発症する。ドナーリンパ球輸注に伴う合併症発症のリスクはドナー源、輸注細胞数、ドナーリンパ球輸注前の治療などが関連していると考えられる。しかし、これらは明確になっていないが、これまでの報告からドナーリンパ球輸注は再発後早期に施行すべきで、またT細胞除去後の患者は予防的ドナーリンパ球輸注を施行すべきであるものと考えられる。また腫瘍量が多い場合や疾患が進行性の場合にはドナーリンパ球輸注を施行前に腫瘍量を減少させておいた方が効果的である。
平成20年9月22日
岡本秀一郎
 同種移植を施行した造血器悪性腫瘍のおよそ40%が再発し、移植後死亡の一般的な原因となっています。移植片対宿主病は移植後死亡の15%に関与していますが、移植片対宿主病は移植片対腫瘍効果に密接に関係しています。それは移植片対宿主病を減少させるために行われるT細胞除去移植が再発のリスクを増加させることからもわかります。移植後再発に対して移植片対腫瘍効果を期待して免疫抑制剤減量・中止、ドナーリンパ球輸注が行われます。
急性骨髄性白血病(EBMTからの報告)
 移植後再発の急性骨髄性白血病399例に対してドナーリンパ球輸注施行群171例(124例(73%)がドナーリンパ球輸注前に化学療法を受け、84例は未治療)、ドナーリンパ球輸注未施行例228例に分けて解析。2年全生存率はドナーリンパ球輸注群で21%、未施行群で9%と前者で優れております。多変量解析ではドナーリンパ球輸注を施行時に腫瘍量が少ない(白血病細胞35%以下)症例において、細胞遺伝子学的寛解・生存率は優れていました。
骨髄異形成症候群
 2つの報告があります。@MDS 16例での報告。12例が2回以上ドナーリンパ球輸注が施行されております。3例がドナーリンパ球輸注前に化学療法が施行され、4例がインターフェロン投与が行われています。2例ドナーリンパ球輸注前に完全寛解となっております。14例中3例がドナーリンパ球輸注後に完全寛解を達成しましたが、最終的に14例が原疾患で死亡、完全寛解となっていた2例は肺合併症で死亡しております(5年以上経過)。AMDS 14例での報告。生存期間中央値は17ヶ月、原疾患で8例が死亡しております。2例がドナーリンパ球輸注後に完全寛解を達成しております。急性移植片対宿主病は完全寛解を達成した2例も含めて7例に認めています(grade IIが多い)。これらの報告ではドナーリンパ球輸注前の化学療法が効果的で有ったかどうかは不明ですが、筆者がドナーリンパ球輸注前に腫瘍量を減少させておくことは有益であると論じております。
多発性骨髄腫
 3つの報告があり、全142例にドナーリンパ球輸注が施行されました。移植片対腫瘍効果は明らかに認められ、移植片対宿主病と移植片対腫瘍効果との間には相関関係が見られ、100×10^6/kg以上のドナーリンパ球輸注が有効でした。急性移植片対宿主病は142例中57例(40.1%)、慢性移植片対宿主病は63例(44.4%)に発症、ドナーリンパ球輸注の効果は57例(40.1%)に見られております(2報告 107例では完全寛解と部分寛解に分けており、完全寛解は21例(19.6%)、部分寛解は31例(29.0%))。全生存期間中央値はLokhorstらの報告(54例)では23ヶ月、無進行生存期間中央値は19ヶ月と報告されています。移植関連死亡は13例(9.2%)に認められております。
結論
 進行の比較的遅い疾患の同種移植後再発(慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、一部の悪性リンパ腫)ではドナーリンパ球輸注により移植片対腫瘍効果が発動し、有効と考えられます。その適応時期は慢性骨髄性白血病では分子・細胞遺伝子学的再発時、多発性骨髄腫では早期にM蛋白が認められた時期、悪性リンパ腫患者ではPETで検出された早期が最適な施行時期と考えられます。急性骨髄性白血病のような急速に白血病細胞が増加する疾患においては腫瘍量を減少させる必要があり、ドナーリンパ球輸注を施行の適応は限定的です。
腫瘍量の多い場合や急速に進行する疾患ではドナーリンパ球輸注前の化学療法が有効。輸注細胞数の限界は段階的に増加させても、単回輸注でも同じであり、実際には総輸注細胞数で既定されている可能性があります。100×10^6/kg以上よりも多い細胞を輸注した場合には移植片対宿主病の発症率は増加していますが、それ以下の少ない細胞数でも認められています。非血縁者移植の場合には細胞数は1 log少なくすべきであると結んでいます。


 WHO classification and WPSS predict posttransplantation outcome in patients
with myelodysplastic syndrome: a study from the Gruppo Italiano Trapianto di
Midollo Osseo (GITMO)
 WHO分類とWPSSを用いることで同種移植を施行した骨髄異形成症候群症例の予後が予測できる-GITMOグループの解析より-
 1990年〜2006年に骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome、MDS)で同種造血幹細胞移植を受けた患者におけるWHO分類WHO classification-based Prognostic Scoring System(WPSS)が生存に与える影響を評価した。
 5年全生存率はRAで80%・RCMDで57%・RAEB-1で51%・RAEB-2で28%・AML/MDSで25%(P=0.001)であった。5年の再発率はそれぞれ9%・22%・24%・56%・53%(P<0.001)であった。5年の移植関連死亡率はそれぞれ14%・39%・38%・34%・44%(P=0.24)であった。多変量解析でWHO分類は全生存率(P=0.017)・再発率(P=0.01)に有意な影響を与えていた。輸血依存性は全生存率を低下(P=0.01)・移植関連死亡率増加(P=0.037)と関連していた。一方、WPSSは全生存率(P=0.001)・再発率(P<0.001)に有意な影響を与えていた。RAEBを除くと多系統の異型性・輸血依存性が全生存率(それぞれP=0.001・P=0.009)と移植関連死亡率増加(それぞれP=0.013・P=0.031)に有意な影響を与えていた。
 これらの患者ではWPSSを用いることで全生存率・移植関連死亡率について2群に分ける事ができた。これらのdataはWHO分類とWPSSはMDS患者の移植での予後予測に有用である事を示唆している。
平成20年9月8日
相本瑞樹

 Impact of different post-remission strategies on quality of life in patients with acute myeloid leukemia.
 異なる寛解後治療戦略が急性骨髄性白血病症例にもたらす”生活の質”への影響
[背景]
 急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia、AML)に対して同種造血幹細胞移植(allogeneic stem cell transplantation、alloSCT)と、通常化学療法(chemotherapy、chemo)で治療した場合、これらが”生活の質”(quality of life、QOL)に及ぼす影響は未だにはっきりしていない。それは長期のfollow-up studyが無いためである。ドイツのAML-Intergroupは第1治療から少なくとも5年再発なく経過した患者のQOLの調査を行った。
[対象と方法]
EORTC Quality of Life Core Questionnaireを評価に使用した。この質問に818人中419人が返答した。診断時の年齢の中央値は42才、follow-up期間の中央値は8年であった。170例が移植を受け(121例が同種、49例が自家移植を施行)、249例が通常化学療法を受けた。
[結果]
 ECOG PSで、alloSCT vs chemoではPS 0の者はそれぞれ45%、60%であり、障害者手帳所持率はそれぞれ60%、35%であった。身体機能、痛みを除いて、すべてのQLQ-C30項目は移植患者のほうが悪い結果であった。余暇の活動性、社会的生活での活動性、お金の問題、性的な問題、有害事象などは移植患者の方がchemo群よりも頻繁に起こっていた。多変量解析では、合併症があること、45才以上、alloSCT後であることがQOLを下げる重要な危険因子であった。
[結論]
 通常Chemoと比べて、alloSCTの方が長期的にQOLに対し悪い影響を与えている。治療法の選択・検討時に今回の研究結果が参考となるだろう。
平成20年9月1日
守口 蘭

 Erythropoietin and granulocyte-colony stimulating factor treatment associated with improved survival in myelodysplastic syndrome.
 エリスロポイエチンと顆粒球コロニー刺激因子併用療法は骨髄異形成症候群症例の予後を改善する
目的:骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)の生存と白血化に対するeythropoiethin(EPO)とgranulocyte-colony stimulationg factor(G-CSF)併用療法の効果を調べること。
対象・方法:我々はEPO+G-CSFで治療され患者(n=121)とMDS未治療患者(n=237)の長期間の結果を比較し、後のエントリーを扱った多変量Cox回帰分析で初めて全ての主要予後因子(WHO分類、核型、血球減少、輸血必要性の程度、年齢、性)で補正を行った。
結果:EPOとG-CSF併用療法の赤血球反応率は39%で、平均反応期間は23ヶ月(3-116+ヶ月)であった。多変量解析では、治療は生存の改善と関係していた(ハザード比 0.61、95%CI 0.44-0.83、p=0.002)。興味深いことに、正の結果は主に毎月RBC 2単位未満必要な患者において見られた。治療は骨髄中芽球の増加や予後不良核型をもつ患者群を含む、どのサブグループにおいても急性骨髄性白血病発症率とは関係なかった。
結論:担癌患者の予後に関してEPO治療は潜在的な負の効果を有するという最近の報告から考えると、MDSにおいて白血病発症は常に起こりうるリスクであるということが本研究によって明らかとなった。我々はEPOとG-CSF併用療法によってMDS患者の貧血を治療することは白血化のリスクに影響を与えずに輸血必要性がない患者や低い患者の予後に良好な結果をもたらすかもしれない。
平成20年8月25日
康 秀男

 Is BAL useful in patients with acute myeloid leukemia admitted in ICU for severe respiratory complications?
 気管支・肺胞洗浄は重篤な呼吸器合併症で集中治療室に入院した急性骨髄性白血病症例に対して有益か?
 急性呼吸不全(acute renal failure, ARF)を呈した血液悪性疾患患者において気管支・肺胞洗浄(bronchoalveolar lavage, BAL)は診断手段として重要であると考えられている。しかし急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)患者において、この侵襲的な手技のbenefit/risk比はおそらく低いと思われる。今回の研究では、ARF又は肺浸潤を呈しICU管理を受けた175人の血液悪性疾患患者(AML又はリンパ系悪性腫瘍(lymphoid malignancy, LM))に施行されたBAL結果を解析した。
 BALは明らかな診断がついている場合や気管支鏡の適応外である場合を除き、121人に施行された(53/73 AML患者(73%)、および68/102 LM患者(67%))。生命を脅かすような合併症は 12/121(10%)に認めた。BALで診断がついたのはAML患者で47%(25/53)、LM患者で50%(34/68)。微生物感染が明らかになったのはAML患者で12/53人(23%)、LM患者で28/68(41%)(P<0.005)。BAL結果により重要な治療の変更が行われたのは、AML患者で17%(9/53)、LM患者で35%(24/68)(P=0.039)。 今回の研究により、ARFでICU管理を受けたAML患者において、感染性の診断に対するBALの診断的有用性は低い傾向にあり、BAL結果による治療変更率が低いことが明らかになった。 
平成20年8月18日
中根孝彦

Phase II multicenter study of Bendamustine plus Rituximab in patients with relapsed indolent B-cell and mantle cell non-Hodgkin's lymphoma.
再発低悪性度B細胞リンパ腫ならびにマントル細胞リンパ腫患者に対するベンダムスチンならびにリツキシマブ併用療法の多施設共同研究(Phase II).
J Clin Oncol online July 14, 2008
 ベンダムスチンは非ホジキンリンパ腫に対して複数の機能を有し、その臨床効果が期待される抗癌剤である。本研究では成人再発低悪性度B細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫でリツキサン治療に抵抗性でない67症例に対してベンダムスチンおよびリツキシマブ併用療法の効果を評価した。
 リツキシマブ375mg./sqを第1日、ベンダムスチン90mg/sq(静注)を第2、3日に投与した。これを1コースとして28日間隔で4-6コース施行した。リツキサン追加投与を1コース目の1週間前と最終コースの4週間後に投与した。66例(年齢中央値60歳)がそれぞれの薬剤を1回以上投与されてた。
 Primary endpointの全奏効率(overall response rate、ORR: complete response(CR)+ inconfirmed complete response(CRu)+ partial response(PR))は92%(CR 41%、CRu 14%およびPR 38%)であり、奏効期間中央値は21ヶ月、無増悪生存期間中央値は23ヶ月であった。これらの効果は低悪性度リンパ腫とマントル細胞リンパ腫で有意な差は認めなかった。この治療は耐用であり、主な毒性は骨髄抑制(好中球減少 grade 3/4 36%、血小板減少 grade 3/4 9%)であった。
 ベンダムスチンおよびリツキシマブ併用療法は再発性低悪性度B細胞リンパ腫やマントル細胞リンパ腫に有効な治療法であった。
平成20年8月11日
寺田芳樹
 旧東ドイツで開発されたアルキル化剤とプリン誘導体の骨格を合わせ持つ抗癌剤である。本邦では第I相試験が終了している。

Mesenchymal stem cells for treatment of steroid-resistant, severe, acute graft-versus-host disease: a pilot II study.
ステロイド抵抗性重症急性移植片対宿主病に対する間葉系幹細胞を用いた治療:第2相試験.
はじめに
 重症移植片対宿主病は同種造血幹細胞移植後の致命的な合併症である。間葉系幹細胞は実験系あるいは生体内において免疫反応を調整する。我々は間葉系幹細胞が移植後移植片対宿主病を改善させるかを検討した。
方法
 欧州骨髄移植グループにおける他施設共同研究第2相試験として、ステロイド抵抗性の重症急性移植片対宿主病患者に対して体外増幅法を用いた間葉系幹細胞により治療を行った。治療効果、移植関連死、その他の有害事象を間葉系幹細胞投与から60ヶ月観察した。
結果
 2001年10月から2007年1月まで55例が治療を受けた。骨髄由来間葉系幹細胞数の中央値は患者体重あたり1.4×10^6(0.4-9×10^6)/kgであった。27例が1回投与、22例が2回投与、6例が3-5回投与された、細胞はHLA一致同胞ドナー(n=5)、半合致ドナー(n=18)、HLA不一致非血縁ドナー(n=69)から提供された。30例が完全寛解、9例が部分寛解を得た。細胞輸注時ありは直後に副作用を認めた患者はいなかった。寛解率はドナー、HLA一致度とは関連しなかった。3例が腫瘍を再発し、1例が新規にレシピエント由来の急性骨髄性白血病を発症した。完全寛解が得られた症例は部分寛解、非寛解症例と比較すると細胞輸注1年後の移植関連死亡率は低く(それぞれ11/30(37%))、18/25(72%)、p=0.002)、移植後2年全生存率は高かった(それぞれ16/30(53%))、4/25(26%)、p=0.018)。
結論
 体外増幅させた間葉系幹細胞はドナーに関わらず、ステロイド抵抗性急性移植片対宿主病に対し有効な治療となりうる。
平成20年8月4日
百瀬 大

移植後の肺障害(特にびまん性肺胞出血について)
Bio Bone Marrow Transplant 2006
 1995年-2004年までの1919例移植症例(自家移植を含む)についてびまん性肺胞出血(diffuse alveolar hemorrhage、DAH)と感染性肺胞出血(infectious alveolar hemorrhage、IAH)に分けて検討。116例肺胞出血(DAH 45例、IAH 71例)。肺胞出血の危険因子は高齢、同種移植、骨髄破壊的前処置、重症急性移植片対宿主病(grade 3以上)であった。IAH群ではCBT、TBIの使用例が多く見られた、出血から60日後の生存率はDAH群16%、IAH群32%(p=0.08)であった。ステロイド治療を受けた症例の60日生存率は26%であり、受けなかった群(25%)と比較して有意な差は認めなかった。殆どの出血は移植後30日以内に発症、85%が人工呼吸器の使用を必要とした。DAH、IAHともに原因は多くの要因から成り、かつ臨床症状に違いは認められないため臨床上区別するのは困難であった。
*移植後180日以内の肺胞出血の発症頻度は自家・HLA一致血縁者・HLA一致非血縁者・臍帯血移植においてそれぞれ、2%・8%、6%、7%であった。
*生着前(生着の5日以前)・生着期(生着前の5日以内)・生着(生着の5日以後)のそれぞれの発症率は21%・27%・52%であった。生着期に発症した群の生存率は50%と他の群に比べて有意に良好であった(p<0.01)。
Bone Marrow Transplant 2007
 2002年-2004年、移植後に気管支鏡を受けた223例を対象とした。87例(39%)で出血が確認された。出血の87%は移植後3週間以内に生じていた。53例(61%)は感染なし、34例(39%)は感染あり、であった。出血+感染を生じている群において最も予後は不良であった。移植後30日以内発症・30日以後発症で予後に差は認められなかった。感染・心不全・化学療法・放射線療法・早期の生着・移植片対宿主病・サイトカインなどが発症に関わっている可能性が高い。血管内皮が移植片対宿主病の標的になるためという可能性もある。肺胞洗浄液(60-120mlの生理食塩水を使用)を用いてウイルス(CMV、RSV、Flu A)を含め病源体検索したところ43%が陽性であった。培養のみ64%、細胞診のみ21%、培養+細胞診11%、ウイルス陽性4%であった。カンジダ・アスペルギルス。緑膿菌などは免疫抑制下ではコロナイゼーションがしばしば見られる微生物であり、その病的意義の解釈は難しい。
Leukemia 2003
DAHは肺胞上皮から単純に液体が漏出するのではなく、赤血球を通過させているため、DAHと血痰には関連性はない。DAHについてミネソタ大学の同種移植症例(922例)では5%に発症した。自家末梢血幹細胞移植症例においても発症することよりG-CSF使用や早期生着との関連、サイトカインとの関連が考えられている。ミネソタ大学では1/3は血球減少期に発症している。DAHと移植片対宿主病の関連についても議論されているが、DAHの多くの症例では高用量のステロイドが投与されていることが多いため、解釈は困難である。骨髄非破壊的造血幹細胞移植や移植片対宿主病予防法の違いでDAH発症率に変化があるか否かについては興味深い。肺胞洗浄液内好中球が2%以上存在した場合にDAH発症リスクになる。
Current Opin Oncol 2008
 DAHの頻度は骨髄非破壊的造血幹細胞移植では減少しない。血痰は20%以下、発熱は60%の症例に認められる。Peri-engrafment respiratory distress syndrome(PERDS)は生着症候群の肺症状であるが、DAHの1/3も生着期に生じ、PERDSの1/3にDAHをDAHを伴う。PERDSはステロイド治療への反応は良好である。しかしながらIPS、DAHともに致死率は70-90%と予後不良である。
Clin Chest Med 2004
生着前の期間では前処置に伴う肺水腫も考える。気管支鏡、肺胞洗浄ともに診断のための重要な手段であるが、その結果が治療方針や予後を改善させるか否かについては議論が分かれるところである。
平成20年7月28日
武岡康信

Dasatinib induces rapid hematopoietic and cytogeneic responses in adult patients with Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia with resistance or intolerance to imatinib: interim results of a phase 2 study.
ダサチニブはイマチニブ抵抗性・不耐性フィラデルフィア染色体陽性成人急性リンパ性白血病患者に血液学的および細胞遺伝子学的寛解をもたらす: 第2相試験中間報告.
 フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Philadelphia chromosome-positive acute lymphoblastic leukemia、Ph-positive ALL)は急激な経過をたどる予後不良の疾患である。ダサチニブは新たな経口BCR-ABL/SRC family kinase inhibitorで既にイマチニブ抵抗性・不耐性のPh-positive ALL患者に治療効果が認められている。我々は36例の患者でダサチニブ140mgの耐性・安全性・効果を評価するために第2相試験の中間検討の結果を報告する。最小8ヶ月の経過観察期間でダサチニブは十分な血液・細胞遺伝子学的治療反応を示した。major hematologic responseは42%(15/36)の患者で達成され、そのうち67%は進行せずにmajor hematologic responseを維持している。complete cytogeneic responseは58%(21/36)で達成された。イマチニブ抵抗性のBCR-ABL変異の存在はダサチニブ治療の妨げにはならなかった。ダサチニブによる副作用は6%(2/36)の症例が治療継続困難であった。可逆的副作用として多く認められたのはgrade 1あるいはgrade 2の副作用であったが、重度の副作用として発熱性好中球減少症が認められた。このよな血球減少はダサチニブ減量によりコントロール可能であった。ダサチニブはPh-positive ALLの治療において安全で効果的な治療であり、治療成績向上のため重要な選択肢と考えられる。
平成20年7月14日
岡本秀一郎

Efficacy of glutamine-supplemented parenteral nutrition on short-term survival following allo-SCT: a randomized study
経静脈栄養にグルタミンを追加することによって同種造血幹細胞移植後の短期的生存率が改善する-無作為試験より
 HLA一致同胞より移植を受けた53人の血液疾患患者をランダムに同一窒素含有点滴にグルタミン追加投与群と非投与群(27人対26人)に割り当て、移植後100日、180日の生存率、感染、急性移植片対宿主病、入院期間、好中球減少期間、腸管漏出率(ラクツロース、マンニトールを服用してもらい、6時間後、9時間後に採尿→腸管漏出が亢進していた場合にはラクツロース/マンニトール比が増加)を調査した。両群間で年齢、性別、疾患、病気、治療に差はなかった。移植後180日での性zんりつはグルタミン投与群で74%、非投与群で46%であった(p=0.03)。移植後100日での生存率もグルタミン投与群が良好であった(p=0.05)。ほとんどの死亡は移植後100日以降に起こり、特に非投与群でその傾向が顕著であった(非投与群の10/26(39%)、グルタミン投与群4/27(15%)。死因としては移植片対宿主病が多く(8/21(38%))、特に非投与群でその傾向が強かった(6例のうち5例は100日以内に死亡)。他の項目はグルタミン投与の影響をほとんど受けなかった。腸管漏出率もグルタミン量に影響を受けなかった。ルタミン投与は同種造血幹細胞移植において、移植後の短期生存率を改善する有効な手段であるという結果が得られた。腸管漏出率がグルタミン投与の影響をうけなかったことから考えて、グルタミンの効能は粘膜保護作用とは違った機序によるものと考えられた。グルタミン投与群は移植片対宿主病死が少ない傾向にあるが、これはグルタミンの免疫調整機能によるものではないかと考えられる。
*移植片対宿主病発症率は両群で差は認めなかった(グルタミン投与群63%vs.非投与群54%)。またgrade III-IVの急性移植片対宿主病発症率も差は認めなかった(26%vs.31%)。腸管移植片対宿主病を発症した症例は20例であり、グルタミン投与群が11例、非投与群が9例であった。
解説
同種造血幹細胞移植の前処置治療は治療関連死亡を引き起こす可能性があり、予後に影響します。特に骨髄破壊的前処置治療は粘膜炎を引き起こし、十分な経口摂取の妨げとなります。グルタミンは腸管粘膜細胞の主要なエネルギー源であり、胃〜直腸までのすべての消化管粘膜細胞の活動維持、細胞増殖のためのエネルギー源になり、更に各種消化管ホルモンなどの産生を促進します。またリンパ球などの免疫担当細胞のエネルギー基質であり、腸管由来の免疫能を促進する作用を有しております。この研究ではグルタミンが腸管粘膜バリアを保護し、免疫細胞の増殖を促すことによって移植関連毒性が抑制されるという過程のもとにグルタミン投与群と非投与群の二重盲検試験を行っております。
平成20年7月7日
守口 蘭

High prevalence of early-onset osteopenia/osteoporosis after allogeneic stem cell transplantation and improvement after bisphosphonate therapy.
同種造血幹細胞移植後早期より骨減少症/骨粗鬆症が多く発症し、ビスフォネート治療により改善する
 2000年から2005年までの間に当施設で同種造血幹細胞移植を初めて施行された102例について後視方学的調査を行い、移植後6ヶ月以内と6ヶ月以降の骨減少症/骨粗鬆症発症率を評価した。移植後にdual energy X-ray absorptiometry、DXA:二重エネルギーX線吸収測定法→X線撮影による客観的な骨密度測定法)が施行されたのは46例で残り56例はDXAは施行されなかった。移植後6ヶ月以内にDXAを受けた患者の約半数(13/27:48%)が骨減少症/骨粗鬆症を発症しており、移植後6ヶ月以降にDXAを受けた症例でも同様の発症率であった(9/19:47%)。正常群と骨減少症/骨粗鬆症群間で症例の特徴に有意に異なるものは見られなかった。DXAの施行時期に関わらず、腰椎よりも大腿骨の方が移植後の骨密度減少をより強く来す傾向が見られた。骨減少症/骨粗鬆症症例はビスフォスフォネート治療を受け、そのうち41%が再度DXAが施行された。治療後、顎骨壊死(ビスフォスフォネートの副作用)を来した症例はおらず、腰椎では有意な骨密度改善が認められたが、大腿骨では有意な改善は得られなかった。このことは腰椎に比べて大腿骨における骨密度減少が骨吸収抑制治療に抵抗性であることを示唆している。我々の調査結果より、骨減少症/骨粗鬆症は移植後早期・後期どちらにも起こりうる合併症であり、腰椎の骨密度減少に対してはビスフォスフォネート治療の効果が期待できるものと考えられる。
 尚、過去の研究調査では移植片対宿主病治療に用いられるステロイドが移植後の骨密度減少を来す最も強い要因であることが報告されているが今回の検討では骨減少症/骨粗鬆症発症とステロイド使用についての関連性は見出せなかった。移植後の骨密度減少を来す他の要因として性腺機能低下、副甲状腺機能亢進、骨細胞や骨髄間葉系細胞に対する直接毒性等が提唱されているが、移植後早期から骨密度減少が生じることから、移植してまもなく体内で起こる各種サイトカイン変化が骨密度減少を助長する重要な要因となっているのではないかと考える。
解説
 骨減少症/骨粗鬆症は病的骨密度減少を来す病態であり、次第に骨が希薄化・脆弱化していくために骨折のリスクが増えます。一般的に骨密度減少と骨折のリスク増加には一定の相関があり、骨密度が10-15%減少すると骨折のリスクは約2倍に増えると報告されています。DXAはその正確性・利便性・非侵襲性・低コストであることから最も広く用いられている検査法です。骨減少症/骨粗鬆症とそれに伴う骨折のリスクの発生率は高齢者、特に閉経後の女性で最も有意に増加する。また骨減少症/骨粗鬆症は固形臓器の移植後に起こる合併症としてもよく知られている。更に、造血幹細胞移植後にも骨減少症/骨粗鬆症の発症し、その骨密度減少は移植後6-12ヶ月目に起こることが多く、実際には移植後40日から4-6年後までの広範囲にわたる時期に起こり得ることが報告されています(中には10-12年間持続した症例もあり)。通常、移植前には骨密度は正常範囲内であることが多いのですが、一部の症例では原疾患あるいは強力な抗癌剤治療により移植前から骨減少症/骨粗鬆症の発症率が高い場合も存在します。大腿骨頸部と腰椎は骨評価のために最も頻繁に測定される部位ですが、これら2つの部位では移植後の骨密度減少の程度や範囲に差があることが報告されています。腰椎に比較すると大腿骨では骨密度減少が著明に生じ、長期間経過観察すると腰椎の骨密度は回復するのに対して、大腿骨の骨密度は持続的に減少することが報告されています。この差をもたらす具体的なメカニズムについては明確にされておりません。
平成20年6月30日
和田恵里


Retrospective nationwide survey of Japanese patients with transfusion-dependent MDS and aplastic anemia highlights the negative impact of iron overload on morbidity/mortality.
日本における輸血依存性骨髄異形成症候群および再生不良性貧血患者について鉄過剰が合併症・死亡に悪影響を及ぼすことが明らかになった全国規模のレトロスペクティブ調査
 [目的]骨髄異形成症候群と再生不良性貧血は輸血療法を必要とする日本で最も一般的な貧血症である。今回、これらの疾患患者における鉄過剰・鉄キレート療法および死亡の関係をレトロスペクティブに調査した。[方法]骨髄異形成症候群、再生不良性貧血、赤芽球ろう、骨髄線維症およびその他の計292症例のデータを収集した。これらの患者が直近の1年間に受けた赤血球輸血量の平均値は61.5単位であった。43%がデフェロキサミン療法を受けていたが、デフェロキサミンの連日投与が行われていた患者はわずか8.6%であった。全体で75症例が死亡し、そのうち24.0%の死因が心不全、6.7%が肝不全であった。これら患者の97%でフェリチン値が1000ng/mL以上であった。全調査対象のうち、心機能および肝機能の異常はそれぞれ21.9%(14/64)、84.6%(11/13)であった。デフェロキサミンを用いた効果的な鉄キレート療法により、血清フェリチン値、肝酵素値、空腹時血糖値にそれぞれ改善が認められた。[結論]重度の鉄過剰患者の死亡率は高く、主な死因は心不全と肝不全であった。連日あるいは持続的な鉄キレート療法は血清フェリチン値が1000ng/mLを超えた時点で開始すべきである。
 人体は鉄を排出する生理的機能を持たないため、患者は輸血量が増えるに従って急速に鉄過剰状態に達します。老廃赤血球や傷害のある赤血球が細網内皮マクロファージによる処理を受けて放出される鉄分が過剰に蓄積するとトランスフェリン(鉄輸送蛋白、1g当たり1.25μgまでの鉄と可逆的に結合)が飽和状態となり、血清内に非トランスフェリン結合鉄が循環するようになります。その結果、鉄はフェリチン(23%の鉄を含む鉄蛋白複合体で腸管粘膜内腔から血漿への鉄の貯蔵や輸送を制御)とヘモジデリン(酸化第2鉄が食細胞の消化により生じた黄金色あるいは黄褐色の不溶性蛋白、多くの組織、特に肝臓、脾臓、骨髄にフェリチン分子より大きい顆粒として見出されるが、37%ほどの高含量の鉄を有する)の形で肝臓、心臓、膵臓、脳および関節の実質細胞内に沈着することとなります。これらの臓器における鉄イオンを介した毒性(肝細胞のリソソーム破壊、コラーゲン生成ならびに線維化、さらには心臓や脾臓細胞における脂質過酸化)はうっ血性心不全、不整脈、肝硬変、肝細胞癌、インシュリン抵抗性糖尿病、関節炎、疲労、性機能障害などの様々な症状を引き起こします。また鉄過剰は全身免疫に直接影響を及ぼすため、ウイルス、細菌、がん細胞が鉄を利用しやくすくなる状況をもたらします。

Fludarabine/i.v.BU conditioning regimen: myeloablative, reduced intensity or both?
フルダラビン/静注用ブスルファン前処置は骨髄破壊的か、強度減弱的か、あるいはその両者?
 本研究において、我々はフルダラビンおよび骨髄破壊的量の静注用ブスルファン(12.8mg/kg)併用前処置治療(FluBU)を骨髄性あるいはリンパ性悪性疾患成人患者36例(年齢中央値44歳:範囲18歳〜61歳、標準リスク10例、高リスク26例)に対して行い、HLA一致血縁者(16例)あるいは非血縁者(20例)をドナーとして同種造血幹細胞移植を施行した。造血幹細胞移植源は28例に末梢血、8例に骨髄が用いられた。ウサギ抗胸腺細胞グロブリン(7mg/kg)が21例に使用された。グレードII-IVおよびIII-IVの急性移植片対宿主病はそれぞれ19%、14%の症例に出現、慢性移植片対宿主病は評価可能30例のうち11例に出現した(37%)。生存症例経過観察中央値737日(範囲:152日〜1737日)のおいて、標準リスク群および高リスク群における全生存率はそれぞれ80%および35%、無イベント生存率はそれぞれ70%および31%であった。移植関連死亡は標準リスク群では10%、高リスク群では19%に認められた。移植後再発は標準リスク群で20%、高リスク群で46%に見られた。FluBU前処置治療は限られた血液および非血液毒性のみであり、他の標準的骨髄破壊的治療に匹敵する抗腫瘍効果を有しているものと考えられた。

*前処置治療スケジュールはフルダラビン30mg/sq/day(12例)もしくは40mg/sq/day(24例)×4日間(第-9病日〜第-6病日)、その後にBU3.2mg/kg×4日間(第-5病日〜第-2病日)である。急性移植片対宿主病予防はメソトレキセート15mg/sq(第1病日)、第3、6、11病日に10mg/sqとタクロリムス(第-2病日)によって行った。タクロリムスは移植片対宿主病あるいは再発がない限り、血中濃度を5〜15ng/mlになるように調整。
平成20年6月23日
相本瑞樹

HLA-haploidentical bone marrow transplantation for hematologic malignancies using nonmyeloablative conditioning and high-dose, posttransplantation cyclophosphamide.
骨髄非破壊的前処置と移植後大量シクロフォスファミドを用いたHLA-haploidentical骨髄移植.
 外来における部分的HLA不一致(haploidentical)血縁ドナーからT細胞非除去骨髄非破壊的骨髄移植後の生着不全と急性移植片対宿主病を予防するために移植後高用量シクロフォスファミドの安全性と有効性を評価した。
 進行期血液悪性腫瘍67例、発作性夜間血色素尿症1例が移植後第3病日(28例)あるいは第3、4病日(40例)にシクロフォスファミド50mg/kg(点滴静注)を投与された。好中球回復(500/μl以上)、血小板回復(20000/μl以上)までに要した平均期間はそれぞれ15日および24日であった。生着不全(腫瘍が原因でなく、ドナー細胞が5%未満)は評価可能66例中9例(13%)に認め、1例が死亡した。第200病日までにGrade II-IV、III-IVの急性移植片対宿主病を発症した症例はそれぞれ34%、6%であった。移植後シクロフォスファミドを1回投与された症例よりも2回投与された症例の方が広汎型慢性移植片対宿主病の発症リスクがわずかながら低い傾向であった(p=0.05)。1年の非再発死亡率、再発の累積発症率はそれぞれ15%および51%であった。移植後2年における全生存率ならびに無イベント生存率はそれぞれ36%ならびに26%であった。リンパ系腫瘍症例は骨髄系腫瘍症例に比べて無イベント生存率が良好であった(p=0.02)。移植後シクロフォスファミドを用いた骨髄非破壊的前処置を用いたHLA-haploidentical骨髄移植は致死的生着不全や重症急性移植片対宿主病および慢性移植片対宿主病の発症率は許容できるものである。しかしながら再発が問題であり、これは前処置治療が弱かったことあるいは予後不良症例がほとんどであったことも原因と考えられたが、移植後高用量シクロフォスファミドにより腫瘍特異的ドナーT細胞を除去あるいは不活性化したことによる移植片対腫瘍効果を減弱したことも原因として挙げられる。
解説
 同種造血幹細胞移植は一般的にはHLA一致同胞からの移植成績が最も優れています。しかしながら同種造血幹細胞移植が必要とされる症例のうちHLA一致同胞が見つかるのは約1/3です。HLA一致同胞がいない場合には@非血縁ドナー、A臍帯血、B部分的HLA不一致またはhaploidentical血縁ドナーが移植片の候補として挙げられます。どの患者も生物学的に親、子供ならば100%、兄弟ならば50%の確率で両親から受け継いだ(あるいは子供に受け継がせた)HLAの片方のHLA(本論文ではA、B、C、DR、DQ)は一致します。これをhaploidenticalと言います。従って、このhaploidentical血縁者はHLA-A、B、C、DR、DQ 10抗原(HLAは2組で対をなすため5抗原×2組)のうち1〜5抗原不一致ドナー(一致率が1/10抗原〜5/10抗原)となるわけです。このhaploidentical血縁者をドナーとした移植はHLA一致移植と比較すると患者自身およびドナーT細胞の過剰な同種反応によって生着不全や重症移植片対宿主病を引き起こすことになります。重症移植片対宿主病は成熟T細胞を完全除去あるいは同種反応に関わるT細胞を選択的に除去することにより減らすことが可能ですが、免疫不全からの各種感染症や再発による死亡率が高率となります。従ってhaploidentical移植の毒性を減弱させるためには感染症や腫瘍に対する免疫能を保持しながら生着不全、移植片対宿主病を抑制することが必要となります。
 シクロフォスファミドは免疫抑制作用の強い抗癌剤で、同種移植前処置治療としての使用法は確立されています。しかしながらマウスを用いた実験ではシクロフォスファミドを用いた移植前処置は同種移植後の急性移植片対宿主病の危険性を増加させることが報告されています(輸注されたドナーT細胞と関連)。しかし高用量シクロフォスファミドを移植後適切な時期に投与すると生着不全と移植片対宿主病を抑制します。著者らはこの理論をもとにHLA-haploidentical骨髄移植後に高用量シクロフォスファミドを用いたPhase I/II臨床試験を実施しております。
平成20年6月16日
康 秀男

Reduced-intensity conditioning allogeneic transplantation from unrelated donors: Evaluation of mycophenolate mofetil plus cyclosporin A as graft-versus-host disease prophylaxis.
強度減弱前処置治療を用いた非血縁者間同種移植:移植片対宿主病に対するミコフェノレートモフェチルとシクロスポリン予防投与の評価.
 今回、非血縁ドナーからの骨髄非破壊的移植(RIST: reduced-intensity conditioning allogeneic transplantation)(前処置はフルダラビン(Flu)+メルファラン(Mel)またはフルダラビン+ブスルファン(Bu))における、急性移植片対宿主病(GVHD: graft versus host disease)予防としてのシクロスポリン(CyA)とミコフェノレートモフェチル(MMF)の効果を解析した。患者は44例であった。移植時第1寛解期(1st complete remission: CR1)は23%のみであった(下図)。急性GVHD grade II-IVは53%、III-IVは23%の発症率であった。56%はgrade II以上の腸管GVHDを伴っていた。慢性GVHDは全体で93%、広汎型慢性GVHDは63%と高率であった。移植後100日経過時点での評価可能症例の92%はCRであった。2年再発率は25%2年無イベント生存率ならびに全生存率は52%であった(全生存率に有意に影響をもたらした因子は見いだせなかった)。全移植関連死亡は42%であった。ミコフェノレートモフェチル酸(MPA: mycophenolic acid)の薬物動態解析においてその濃度は個体内および個体間にかなりの差が認められたが、3g/日投与下でのAUC(area under the curve: 血中薬物濃度曲線下面積→薬物暴露の程度を表す)は治療領域を示した。Flu +MelまたはFlu +BuでのRISTにおけるCyA +MMF投与は適しているものと考えられる。この組み合わせは急性GVHDのコントロールは許容できるが慢性GVHDの増加をもたらす。また特に腸管急性GVHDを減らすための新たな治療戦略が必要である。

中根孝彦(平成20年6月9日)
診断
急性骨髄性白血病
急性リンパ性白血病
骨髄異形成症候群
慢性リンパ性白血病/前リンパ性白血病
慢性骨髄性白血病
非ホジキンリンパ腫
多発性骨髄腫
骨髄線維症

13
5
7
3
2
8
4
2
移植時状態
第1寛解期
第2寛解期以降
第1部分寛解期
第2部分寛解期以降
活動性病変あり
進行性病変あり
その他(化学療法後骨髄無形成)

10(23%)
11(25%)
2(5%)
4(9%)
9(20%)
4(9%)
4(9%)
年齢:中央値(範囲)
48(17-60)
性別
男性
女性

29(66%)
15(34%)
移植歴あり
19(43%)

Individual physician practice variation in hematopoietic
cell transplantation.
造血幹細胞移植に携わる臨床医個々における診療変度(practice variation)
 理想的には、ある疾患に対する治療は臨床医の違いに関わらず同レベルであること
が望まれる。違いがある場合には、そこに「診療変度(practice variation)」が存在し
ていることになる。「診療変度」は治療法の効果について議論が分かれる場合や臨床
医の治療スタイルにより生じる。望ましくない「診療変度」は、次のような原因により生じ
ると考えられる。エビデンスに基づいた医療の臨床に対する理解の欠如、逆に固執、
臨床医を取り巻く環境、患者の特徴(人種、性別、年齢、収入、家族背景)への配慮、
などである。
目的
 移植施設、国間における造血幹細胞移植に関する診療変度について評価した研究
は存在するが、個々の臨床医における診療変度に関して調査した研究はない。
方法
 インターネットを用いて個々の成人ならびに小児科の移植医に国際的規模で調査を
行った。2005年11月から12月にかけてメールを送付した。Center for International
Blood and Marrow Transplantation Researchのデータベースに"医師"として登録さ
れているアドレスを使用した(3回催促)。2229のメールを送付、570は送信不可能であ
った。1035は返信なし、84は拒否、540から返信があり、うち526(32%)が評価可能で
あった。
 質問内容は臨床医や移植施設に関する質問11個、治療方法の選択に関する質問8
個、成人患者を治療する臨床医に対して骨髄非破壊的移植・骨髄破壊的移植の選択
についての質問6個の計25個の質問。
 成人を対象とした移植医と小児科の移植医において慢性骨髄性白血病、急性・慢性
移植片対宿主病の治療戦略および再生不良性貧血に対する移植源について明らかな
違いが認められる。成人を対象とした臨床医において、種々の患者背景で骨髄非破壊
的移植を選択するか骨髄破壊的移植を選択するかについて意見の一致を見ない。
主だった回答
1.成人再生不良性貧血に対して32%の移植医が骨髄移植ではなく末梢血幹細胞移植
を選択
2.慢性骨髄性白血病患者に対して34.9%の臨床医がイマチニブへの反応に関係なく同
種移植を選択
3.慢性骨髄性白血病急性転化患者に対しては49.5%が急性転化期での同種移植を選

4.慢性移植片対宿主病患者に対してステロイド投与2週間後に改善した場合には65%
が減量を開始
5.急性骨髄性白血病の第2寛解例では78.4%が地固め療法を行わず同種移植を選択
6.急性リンパ性白血病再発患者で再寛解導入後も末梢血に5%程度白血病細胞が残
存していた場合、53%がそのまま同種移植を選択
7.57歳の急性骨髄性白血病患者では34%が骨髄破壊的移植を選択
8.45歳の低悪性度リンパ腫患者に対しては75%が骨髄非破壊的移植を選択
9.Karnofsky Scale 60%で合併症のない34歳の急性骨髄性白血病患者で第3寛解期
に対しては67%が骨髄非破壊的移植を選択
10.34歳、自家移植後の骨髄異形成症候群患者に対しては64%が骨髄破壊的移植を
選択
11.49歳のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病患者で完全寛解、高血圧、
インスリン依存性糖尿病合併していた場合、28%が骨髄非破壊的移植を選択
結論
移植診療について世界的に不均一であるという結果が際だった。その施設あるいは個
人的な好みや偏りは類似した患者にも関わらず異なる移植および治療法を施行する結
果に至る。診療変度の程度によってはその論点をはっきりさせるために臨床試験が必
要となることは明白である。臨床試験が実行できない場合には、こういった観察研究か
ら導き出されたデータが診療を方向付けるための最も利用可能なエビデンスなのかも
しれない。

武岡康信(平成20年6月2日)

Prospective, multicenter randomized GITMO/IIL trial comparing intensive (R-HDS) versus conventional (CHOP-R) chemoimmunotherapy in high-risk follicular lymphoma at diagnosis: the superior disease control of R-HDS dose not translate into an overall survival advantage.
診断時高リスクろほう性リンパ腫における強力化学免疫療法(R-HDS)と通常化学免疫療法(CHOP-R)比較前向き無作為多施設GITMO/ILL試験.
 136例が参加した本無作為多施設共同研究では、モノクローナル抗体登場後の高リスクろほう性リンパ腫(FL)に対する初回治療としての強力化学療法の価値を評価するためにCHOP(シクロフォスファミド、アドリアマシン、ビンクリスチンおよびプレドニン)とそれに続くリツキシマブ(CHOP-R)6コースとリツキシマブを補助的に用いた自家移植併用連続大量化学療法(R-HDS)を比較した。主評価項目として無イベント生存率をintention to treatで解析した。完全寛解(CR)はCHOP-R群で62%、R-HDS群で85%であった(有意差あり、p<0.001)。経過観察中央値51ヵ月で4年無イベント生存率はCHOP-R群で28%、R-HDS群で61%(有意差あり、p<0.001)であったが、全生存率では有意差は認められなかった。分子学的寛解(molecular remission、MR)はCHOP-R群で44%、R-HDS群で80%であり(有意差あり、p<0.001)、これが最も強い独立した予後因子であった。CHOP-R後再発症例のうち71%の症例が救援療法としてR-HDSが施行された。救援療法としてのR-HDSのCR率は85%であり、3年無イベント生存率は68%(経過観察中央値30ヵ月)であった。結論として(1)MRを達成することは両群において疾患コントロールに重要、(2)R-HDSはCHOP-Rに比べて疾患コントロールと分子学的結果について優れた治療法、(3)CHOP-R再発・抵抗例はR-HDSによって良好な結果が得られたことより、R-HDSのようなデザインの治療法は再発・抵抗性FLに対して最も適した治療法となりうる。
寺田芳樹(平成20年5月19日)

Nelarabine induces complete remissions in adults with relapsed or refractory T-lineage acute lymphoblastic leukemia or lymphoblastic lymphoma: Cancer and Leukemia Group B study 19801
ネララビンは成人再発・難治性T細胞性急性リンパ球性白血病/リンパ腫に寛解をもたらす
 ネララビンはデオキシグアノシン誘導体である9-β-D-arabinofuranosylguanineのプロドラッグである。我々はT細胞性急性リンパ芽球性白血病26例(T-cell acute lymphoblastic leukemia、T-ALL)、T細胞性リンパ芽球性リンパ腫(T-cell lymphoblastic lymphoma、T-LBL)13例に対してネララビン治療を行った。全症例が多剤併用療法に少なくとも1回は抵抗性であったか、あるいは完全寛解後に再発した症例であった。ネララビンは隔日(day 1、3、5)に1.5g/体表面積が投与され、22日毎に繰り返された。症例の年齢中央値は34歳(16〜66歳)で32例(82%)が男性であった。完全寛解率は31%、全有効率は41%であった。主な副作用はgrade3、4の好中球減少および血小板減少であり、それぞれ37%、26%の症例に生じた。また1例のみgrade4の神経毒性が発症、意識レベルの低下が見られたが、可逆的であった。無病生存期間中央値および全生存期間中央値はいずれも20週であった。1年生存率は28%であった。ネララビンは許容性がよく、再発・難治性T-ALLおよびT-LBLに対して有意な抗腫瘍効果を有していた。
解説
 成人のT-ALL/T-LBLの80-90%は標準的治療により完全寛解に至りますが、この内の半数は2年以内に再発します。寛解に至らなかった症例はシタラビンを中心としたサルベージ療法では50%の症例に奏効しますが、その寛解期間は短く予後不良です。サルベージ療法後治療として治癒をもたらすことのできる唯一の治療は現時点では同種造血幹細胞移植です。
 ネララビンはデオキシグアノシンアナログのプロドラッグであり、体内でアデノシン脱アミノ酵素によって脱メチル化され、その活性体である9-β-D-arabinofuranosylguanine(ara-G)となります。Tリンパ芽球はこのara-Gに感受性を示し、DNA合成抑制により殺細胞効果を発揮します。
 本臨床研究においては7例に後治療として同種造血幹細胞移植が施行され、5例が生着し、ネララビンが移植関連毒性を増強させないと考察しています。
 ネララビンは本邦においてアラノンジー(グラクソ・スミスクライン)として発売されております。副作用として神経系障害(傾眠、意識レベル低下、けいれん、しびれ感、錯感覚、脱力及び麻痺、脱髄、ギラン・バレー症候群に類似する症状)の兆候が認められた場合には重篤化するおそれがあるので、直ちに投与を中止するなど、適切な対応を行うこと、と警告しております。
百瀬 大(平成20年5月12日)

Outcome of 609 adults after relapse of acute lymphoblastic leukemia (ALL); an MRC UKALL12/ECOG 2993 study.
MRC UKALL12/ECOG2993臨床試験における再発成人急性リンパ性白血病609例の結果について
 完全寛解に達した成人急性リンパ性白血病において、多くの症例は再発する。我々はMRC UKALL12/ECOG2993臨床試験で治療された後に再発した成人急性リンパ性白血病609例について検討を行った。MRC UKALL12/ECOG2993臨床試験の初回成人急性リンパ性白血病の5年生存率は38%であった。これに対して、再発後の5年生存率は7%であった。サルベージ療法後の予後良好因子は(1)年齢(20歳以下で全生存率12%、50歳以上で3%;2P<0.001)、初回寛解持続期間(2年以上で全生存率11%、2年以下で5%;2P<0.001)であった。初回寛解導入治療法は再発後の予後に影響しなかった。再発後に綿密に選択され、造血幹細胞移植を受けることができた症例群では、ある程度の長期生存者を得ることができた。我々は任意抽出された大規模の成人再発急性リンパ性白血病症例群を十分に経過観察したところ、どのような初回治療を受けた症例群であっても現在適用可能な治療法では救命できないとの結論に至った。成人急性リンパ性白血病においては長期生存のための最も優れた治療戦略は再発の阻止である。
岡本秀一郎(平成20年4月28日)

Reduced-intensity allogeneic transplant in patients older than 55 years: unrelated umbilical cord blood is safe and effective for patients without a matched related donor.
55歳以上の症例における骨髄非破壊的同種移植:非血縁者臍帯血移植はHLA一致血縁者がいない症例にとって安全でかつ有効である
 強度減弱前処置治療は合併症、死亡率が低く、高齢者における造血幹細胞移植を可能とした。臍帯血はHLA一致血縁ドナーや非血縁ドナーに代わる移植源として検討されてきた。今回、我々は高齢者に対する臍帯血を用いた強度減弱前処置移植が安全で有効であると仮定し、HLA一致血縁者間移植(n=47)とHLA一致あるいは一座不一致血縁ドナーが存在せず臍帯血移植(n=43)を行った55歳以上の症例における治療関連死と全死亡率を比較した。強度減弱全処置治療法は全身放射線療法(2Gy)とフルダラビンおよびエンドキサン(n=69)、フルダラビンおよびブスルファン(n=16)、フルダラビンおよびクラドルビン(n=5)により施行された。年齢の中央値はHLA一致血縁者間移植と臍帯血移植でそれぞれ58歳(55〜70歳)および59歳(55〜69歳)であった。最も多い疾患は急性骨髄性白血病/骨髄異形成症候群(50%)であった。臍帯血移植を受けた症例では88%が2つの臍帯血、93%がHLA1座あるいは2座不一致臍帯血が使用された。経過観察期間の中央値は27ヶ月(12〜61ヶ月)であった。HLA一致血縁者間移植と臍帯血移植の3年進行停止生存率はそれぞれ30%ならびに34%(p=0.98)、全生存率は43%ならびに34%(p=0.57)で両者に有意差は認められなかった。急性移植片対宿主病II〜IVはそれぞれ42%ならびに49%(p=0.20)、移植後第180病日の移植関連死亡は23%ならびに28%(p=0.36)と同等であった。しかし臍帯血移植群では1年の慢性移植片対宿主病は40%とHLA一致血縁者移植(17%)と比べて有意に高率に発症した(p=0.02)。多変量解析では移植片の種類は移植関連死亡ならびに全生存率に影響はなく、hematopoietic stem cell transplantation comorbidity indexのみが独立した因子であった。臍帯血移植はHLA一致血縁者ドナーのいない高齢者の代替えの移植片となり得るものと考えられる。強度減弱前処置治療を用いた臍帯血移植は年齢およびHLA一致血縁者が存在しないために移植適応外とされていた高齢者について移植適応が広がる。高齢者に造血幹細胞移植を行う際には併存症の評価が重要である。
相本瑞樹(平成20年4月21日)

Successful treatment of hepatic veno-occultive disease after myeloablative allogeneic hematopoietic transplantation of a short course of methylprednisolone
骨髄破壊的造血幹細胞移植後に発症した肝静脈閉塞症に対するメチルプレドニゾロン短期投与は有効な治療法である
 肝静脈閉塞症(hepatic veno-occultive disease, VOD)は造血幹細胞移植後のよく知られた重要な治療関連毒性の一つである。現在のところ、VODの予防および治療法として確立されたものはない。我々はVODと診断された48名の同種移植患者に対して短期間のメチルプレドニゾロン投与を行い、その安全性および有効性について前向きに評価した。メチルプレドニゾロンは1回あたり0.5mg/kgを12時間ごとに(1日2回)経静脈的に問うよし、合計14回(=1週間)の投与で漸減は行わずに中止した。30人(63%)の患者が治療10日後に血清総ビリルビン値が50%以上低下し、反応が見られた(反応群)。単変量解析では非反応群は反応群に比べて、メチルプレドニゾロン治療開始時の(1)総ビリルビン値が高値、(2)体重増加率が大きく、(3)真菌感染症の合併、(4)輸血不応性の血小板減少が有意に認められた。また反応群ではメチルプレドニゾロン治療開始時GPTが高値であり、早期の生着が認められた。反応群では移植後第100日までに25名が生存し、一方、非反応群(18人)では15人が移植後100日以内に死亡し、予測される生存率はそれぞれ58%および10%であった。VODに対するメチルプレドニゾロン治療の有用性について評価をより確実にするために今後、更なる前向きな比較試験が必要と考えられる。
解説
*VODは有痛性肝腫大・黄疸・腹水・原因不明の体重増加として現れる水分貯留といった臨床症状により特徴づけられる症候群です。VODは造血幹細胞移植後に見られる重要な治療関連毒性であり、通常は臨床症状に基づいて診断されています。
VODの臨床的診断基準
シアトル基準
移植後20日以内に下記の2つ以上の所見を認める。
ビリルビン 2mg/dl≧
肝腫大と右腹部痛
腹水あるいは原因不明の体重増加>2%

バルチモア基準
移植後21日以前に認められた高ビリルビン血症≧2mg/dlを認め、さらに以下の所見から2つ以上を認める。
肝腫大(多くは有痛性)
腹水
5%以上の体重増加

VODの経過は軽傷で可逆性のものから重症で多臓器不全に至るものまで多岐に渡ります。

VODの重症度分類
軽症(mild) 治療を要することなく、臨床所見が完全に軽快する。
中等症(moderate) 治療を必要とするが、臨床所見が完全に軽快する。
重症(severe) 移植後第100病日までに、臨床所見が軽快しないか死亡症例。

通常、治療は支持療法が多く、複雑な経過をとらない場合は約半数の症例で自然回復します。VODの発症機序は明らかではありませんが、細胞障害を来す治療、感染症、放射線および低酸素状態などが原因となりマクロファージやその他の網内系細胞から産生されるTNFαやIL-1といったサイトカインがVODの発症に主要な役割を果たしていると考えられています。

和田理恵(平成20年4月14日)

Physical exercise as adjuvant therapy for patients undergoing hematopoietic stem cell transplantation.
 造血幹細胞移植においては、たとえ計画通りに治療が進んだとしても患者はかなりの肉体的、心理的、社会的なストレスを感じる。運動療法(機能訓練)は多様な面で有効であり、移植に伴うストレスを軽減させる可能性がある。2007年5月までに、造血幹細胞移植における運動リハビリテーションについての研究報告が15発表されたが、このうち予想外の出来事、マイナスの効果をもたらしたという報告は1つもなかった。移植治療中〜治療後に有酸素運動を行った 研究が最も一般的であり、筋力トレーニングや有酸素運動と筋肉トレーニングを組み合わせた研究は比較的珍しかった。運動療法の利点は主に身体能力の向上、生活の質(quality of life)の改善、全身倦怠感の軽減であると報告されている。他には、免疫担当細胞の回復が早まる、治療関連毒性の軽減などがあると推測されている。今後、エビデンスに基づいた薬剤/治療と認められることを目的として、既存の方法論的な問題に焦点を当て、この運動療法のより厳格な調査をすること、そして造血幹細胞移植における運動療法の効果を更に上昇させることが必要である。
守口 蘭(平成20年4月7日)

Use of probiotic Lactobacillus preparation to prevent diarrhoea associated with antibiotics: randomised double blind placebo controlled trial.
 目的 : 抗生物質関連下痢症およびC. difficile関連下痢症の予防において、乳酸桿菌属(Lactobacillus)を含むプロバイオティクス飲料の有効性を明らかにすること.
デザイン : 無作為化二重盲検プラセボ対照試験
参加者 : 抗生物質を服用している入院患者135人(平均年齢74歳)。除外基準は、入院時の下痢、下痢の起因となりうる腸疾患、過去4週間以内の抗生物質使用、重症疾患、免疫抑制療法中、腸外科手術、人工心臓弁、リウマチ性心疾患あるいは感染性心内膜炎の既往歴とした。
介入:実薬群の患者には Lactobacillus cazei, L bulgaricus, Streptococcus thermophilusを含有する発酵乳飲料100g(97ml)を、抗生物質投与中ならびに抗菌治療後の1週間に1日2回摂取させた。プラセボ群には長期保存型の滅菌ミルクシェークを摂取させた.
主要評価項目 : 1次評価項目は、抗生物質関連下痢の発症とした。2次評価項目は、C. difficile毒素の検出と下痢発症とした。
結果 : 抗生物質の使用に関連した下痢の発症率は、プロバイオティクス群の7/57(12%)に対し、プラセボ群は19/56(34%)であった(p= 0.007).ロジスティック回帰分析で他の交絡因子を補正すると、プロバイオティクス群における下痢のオッズ比は0.25(95%CI,0.07-0.85)であり、低アルブミンと低ナトリウムも下痢のリスクを上昇させることが示された.C. difficileによる下痢を発症した患者は、プロバイオティクス群の0例に対し、プラセボ群は9/53(17%)(p=0.001)であった.
結論 : L. cazei, L. bulgaricus, S. thermophilusを含有するプロバイオティクス飲料の摂取は、抗生物質関連下痢およびC. difficile関連下痢の発症率を低下させうる。プロバイオティクス飲料を50歳以上の患者に日常的に摂取させた場合、罹患率、医療費および死亡率を低下させる潜在的効果が示唆された. 
康 秀男(平成20年3月31日)

Clinical molecular imaging in intestinal graft-versus-host disease: mapping of disease activity, prediction, and monitoring of treatment efficiency by positron emission tomography.
FDG-PETを用いた腸管GVHDの活動性、予測、治療有効性の評価
 現在のところ消化管GVHDの診断は内視鏡による生検が中心であるが、以下のような問題点がある。
1. 浸襲的な検査であり、血小板減少時などはリスクを伴う
2. 消化管GVHDの病理組織像は非特異的なもの(アポトーシス小体、細胞浸潤)が多く、臨床症状の経過による解釈が必要である
3. GVHDの広がりと内視鏡所見が一致しない場合がある
また、上部・下部による陽性率の差などもあり、消化管GVHDが(下部のみでなく)全腸管に及ぶものかどうかは議論の余地がある。

 同種造血幹細胞移植後の消化管移植片対宿主病(graft versus host disease、GVHD)発症は一般的に予後不良となる可能性がある。GVHD活動性に対する非侵襲的検査が必要とされているが行われていない。今回の研究ではFDG-PET検査を用いて、同種移植を行ったネズミにおける腸管GVHDに伴う炎症所見を視覚化することができた。腸管GVHDが大腸に顕著に局在することは組織学的にそしてドナー細胞を示すEGFP(enhanced green fluorescent protein)の蛍光鏡面像によって証明された。EGFP陽性ドナーリンパ球によってもたらされる腸管炎症はPET検査におけるFDGの取り込み増加と一致した。これらの基礎的データは移植後20日以上で腸管GVHDが疑われた30症例に対して用いられた。組織学的に証明された17例中14例は腸管、特に大腸へのFDGの取り込みが有意に認められた。組織学的に腸管GVHDの証明が成されていない13例ではFDGの取り込みが認められなかった。FDG-PET検査は腸管GVHDの診断、その局在の確認、治療反応性の予測ならびに経過観察することに感受性、特異性を有する非侵襲的検査であることが判明した。PETを用いた新たな種類の局在病変追跡は新たな知見をGVHDの病態生理学に供与し、GVHD診断の更なる改善をもたらす可能性がある。
武岡康信(平成20年3月24日)

Etanercept plus methylprednisolone as initial therapy for acute graft-versus-host disease.
急性移植片対宿主病に対する初回治療としてのエタネルセプト・メチルプレドニゾロン併用療法.
 急性移植片対宿主病(graft versus host disease, GVHD)は同種造血幹細胞移植後における死亡の主要原因である。このGVHDに対しては、その標準的治療である用量ステロイドにより35%の患者に寛解が得られる。TNF-α が実験的GVHDにおいて重要な効果を発現するという結果から、我々は以前報告した20例のpilot trialにphase 2 trialとして41例を追加、新規発症GVHDに対してステロイドとTNF-α阻害薬であるetanerceptの併用を行った。これら当該患者61人と、同時期に GVHDの初期治療としてステロイド治療のみで行った患者99人の結果を比較した。年齢・前処置・ドナー・HLA一致・発症時のGVHD重症度は両群で同様であった。etanercept使用群では、ステロイドのみ群に比べCR達成率は高かった(69%vs 33%;P<0.001)。この違いは、血縁(79% vs 39%;P=0.01)・非血縁ドナー(53% vs 26%;P<0.01)からの移植両者で認められた。GVHD活動性の指標である血漿中TNFR1濃度はGVHD発症時に上昇し、CRの患者においてのみ有意に低下していた。急性GVHDの初期治療としてのetanerceptとステロイド併用療法は実質的過半数にCRをもたらすとの結論に達した。
中根孝彦(平成20年3月17日)

Six versus eight cycles of bi-weekly CHOP-14 with or without rituximab in elderly patients with aggressive CD20+ B-cell lymphomas: a randomised controlled trial (RICOVER-60)
高齢者のCD20陽性B細胞性aggressive lymphomaに対する6または8コースのCHOP14にリツキサン併用の有無に対する無作為比較試験 (RICOVER-60)
(はじめに)
CHOP (シクロフォスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチンおよびプレドニン併用)療法は非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する治療として一般的に使用されている。高齢者のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の予後は21日毎にCHOP療法を施行するCHOP-21療法の治療期間を14日に短縮したCHOP-14療法あるいはCHOP-21療法にリツキシマブを併用したR-CHOP-21療法の開発によって改善している。今回の無作為比較試験では高齢者のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫例に対する6または8コースのR-CHOP-14療法、6または8コースのCHOP-14療法の治療効果を評価した。
(方法)
1222 例の高齢者(61-80歳)症例が6または8コースのCHOP-14療法にリツキシマブを併用するかしないかを無作為に割りつけた。放射線療法は節外性病変の有無に関係なく診断時の巨大病変に対しては計画した。主評価項目はevent free survival(EFS)、副次評価項目は効果(response)と治療中のPD(progression during treatment)とPFS(progression-free survival)とOS(overall survival)と毒性頻度の評価であった。
(結果)
3 年のEFSは6コースのCHOP-14群では47.2%で、8コースのCHOP-14群では53.0%で、6コースのR-CHOP-14群では66.5%で、8コースのR-CHOP-14群では63.1%であった。6コースのCHOP-14群と比較して、8コースのCHOP-14群では3年のEFSが5.8%改善し、6コースのR-CHOP-14群では19.3%改善し、8コースのR-CHOP-14群では15.9%の改善が認められた。3年のOSは6コースのCHOP-14群では67.7%、8コースのCHOP-14群では66.0%、6コースのR-CHOP-14群では78.1%、8コースのR-CHOP-14群では 72.5%であった。6コースのCHOP-14群と比較して、8コースのCHOP-14群ではOSが1.7%低下し、6コースのR-CHOP-14群OSは10.4%改善し、8コースのR-CHOP-14群では4.8%改善を認めた。6コースのCHOP-14群での多変量解析で判明した予後因子で補正しても、3年のEFSは3群すべて6コースCHOP-14群よりも有意に改善していた。Progression-free survival(PFS)は6コースのR-CHOP14群と8コースのR-CHOP14群で有意な改善が認められた。Overall survival(OS)は6コースのR-CHOP群でのみ有意な改善が認められた。4コース後にPRに達した症例の予後は計8コースの治療を行っても6コース群を上回らなかった。
(考察)
6 コースのR-CHOP-14療法は6コースのCHOP-14療法に比べEFSやPFSやOSを大きく改善させた。今回の検討では治療反応例に対し6コース後に化学療法を追加する必要性はなかった。今回の研究で評価した4つのregimenで、6コースのR-CHOP14療法は高齢者の治療として優先される治療法であるものと考えられた。
寺田芳樹(平成20年3月10日)

 Sexual function changes during the 5 years after high-dose treatment and hematopoietic cell transplantation for malignancy, with case-matched controls at 5 years
悪性腫瘍に対する大量化学療法後の造血幹細胞移植後5年にわたる性的機能の変化について-コントロール群との比較
この前向き試験は、悪性腫瘍に対する骨髄破壊的同種造血幹細胞移植 (allo-HCT) 施行後5年にわたって、性機能の回復、その他の問題についての評価を行ったものである。移植前、患者に性生活についてのアンケートを記入してもらい、移植後の生存者に、移植後6ヶ月、1,2,3,5年後の時点でfollow upを行った。control群にも5年後において評価した。分析の結果、男性と女性では性的活動、総合的な性機能においてどの時点でも差があることが分かった(P<0.001)。男性も女性も、HCT後6ヶ月以後は性的活動数、性機能ともに低下した。性的活動数においては、HCT前に比べて、男性はHCT後1年で74%、女性はHCT後2年で55%に回復した。男性の性機能はHCT後6ヶ月の時点で最も低下していたが、2年後までに改善した(P= 0.02)。一方、女性の性機能はHCT後5年たっても改善しなかった(P=0.17)。HCT後5年の時点で、control群に対し、移植後の患者は性的活動、性機能ともに下回っていた。ほとんどの女性は性的な問題を抱えていると訴えていた(患者群80%、control群61%、P=0.11)。対照的に男性で性的な問題を抱えている者は患者群で46%、control群で21%にとどまった(P=0.05)。このように部分的な回復は認めるものの、性機能の低下はHCT後の患者にとって相変わらず深刻な問題である。この問題を解決するために、更なる検討が必要である。
守口 蘭(平成20年2月25日)

 A new prognostic index (MIPI) for patients with advanced-stage mantle cell lymphoma
進行期マントル細胞リンパ腫患者に対する新規予後指数
IPI(International Prognostic Index) 、FLIPI(Follicular Lymphoma International Index)はそれぞれ、びまん性大細胞型リンパ腫、濾胞性リンパ腫に対する予後指数として確立したが、マントル細胞リンパ腫(MCL)患者では、予後指数として一般的に確立されたものはない。今回我々は、3つの臨床試験の中で治療を受けた、455人の行期MCL患者のデータを用いて、IPI、FLIPI、および新しい予後指数(MIPI:MCL International Prognostic Index)について、OS( overall survival)における予後との関連性を検討した。解析方法については、 Kaplan-Meier estimate (カプラン・マイヤー法)およびlog-rank testにより IPI 、FLIPIを評価し、更にmultiple Cox regression( Cox 回帰分析)を用いて多変量解析を行いMIPIを導き出し、評価した。IPI とFLIPIでは各リスク群における生存曲線の差が十分に出なかったMIPI では年齢、PS(performance status)、LDH、白血球数の4つの独立した予後因子によって、患者はlow risk(44%、OS中央値not reached)、intermediate risk(35%、OS中央値51ヶ月)、high risk(21%、OS中央値29ヶ月)に分けられた。さらに、細胞増殖マーカー(Ki-67)重要な生物学的マーカーであり、予後と強い相関を示すことがわかった。MIPI はMCL患者に特化して用いられる最初の予後指数であり、進行期MCL患者の治療方針決定の際に、リスクにより層別化した判断を可能にする重要な手段となり得る。
和田恵里(平成20年2月18日)

Second Malignancies after Allogeneic Hematopoietic Cell Transplantation
同種造血幹細胞移植後の二次性悪性腫瘍
同種造血幹細胞移植は致死的な疾患に苦しむ患者を治癒し余命を改善し得る。しかし治療生存者が増えるにつれて、二次性悪性腫瘍含めた長期合併症が明らかとなってきている。自家移植と比較し同種造血幹細胞移植は移植後リンパ増殖性疾患のリスクがはるかに高く、移植後リンパ増殖性疾患は移植後1年以内に起こることが多く、EBウイルスと強く関連する。治療関連骨髄異形成症候群と二次性白血病は極めて稀である。自家移植と同種造血幹細胞移植はいづれも二次性固形臓器悪性腫瘍のリスクを増加させる。二次性固形臓器悪性腫瘍の累積発生率はいずれの大規模研究でもここ20年で増加しており、そしてそれは放射線関連二次性固形臓器悪性腫瘍と関連しているようである。全身のモニタリング、注意深いスクリーニング、質の高いかかりつけ医とデータベースが絶対に必要であり、個々の移植施設とその関連施設で二次性悪性腫瘍についての定期的な報告の基盤作りも必要である。プライマリケア医と移植医は二次性悪性腫瘍のリスクを知らなければならない。最も重要なのは二次悪性腫瘍のスクリーニングと予防に関するガイドラインの作成であり、それによって患者に最先端のアドバイスと治療が行える。
相本瑞樹(平成20年2月4日)

Methodologic discussions for using and interpreting composite endpoints are limited, but still identify major concerns.
目的:介入の効果を評価するために複合エンドポイント(CEP)を使用することの原理、起こりうる問題、解決法を調べること。
デザイン・場所:本研究は系統的総説である。我々はMEDLINE、EMBASE、ScienceCitation Indexで1980年から2005年9月の期間に見つかる文献を検索し、有益な可能性のある教科書を調べた。適格記事はCEPについての注釈、分析、議論を以下の領域のいずれかに対して提供したものとした:(1)原理、(2)解釈または意味、(3)利点、(4)限界または概念的問題、(5)使用の推奨。
結果:17の文献と1つの教科書が適格であった。必要サンプルサイズを減らせることと介入の正味の効果を評価できることが最も共通に引用されていた利点であった。最も顕著な不利点として著者らは患者にとっての重要性または治療効果の大きさに関してCEP構成要素間で不均一がある場合に誤解されるリスクを指摘していた。競合リスクからのバイアスを避けるためと治療効果の方向性が構成要素間で異なる場合のCEPの実用性に関して著者間で不一致があった。
結論:方法論者はこれまでCEPに対して限られた注意しか向けておらず、その考え方も時に矛盾している。研究における、また臨床実践指導におけるCEPの役割を確立するためにはさらなる研究が必要である。
康 秀男(平成20年1月28日)

Outcomes after allogeneic hematopoietic cell transplantation with nonmyeloablative or myeloablative conditioning regimens for treatment of lymphoma and chronic lymphocytic leukemia.
リンパ腫および慢性リンパ性白血病に対するの骨髄非破壊的前処置と骨髄破壊的前処置による同種造血幹細胞移植
通常の同種造血幹細胞移植(allo-HCT)はリンパ系悪性腫瘍に対し治癒をもたらしうる治療であるが高い非再発死亡(NRM)が問題となってきた。今回、リンパ腫および慢性リンパ性白血病症例に対する骨髄非破壊的移植(152人)および骨髄破壊的移植(68人)の治療成績を比較した。治療成績は HCT-CI(患者合併症重度によりリスク分類する指標)により層別化された。非骨髄破壊的前処置群は骨髄破壊的前処置群に比べ、高齢者・前治療暦・移植時合併症・非血縁ドナー・寛解状態の患者が多かった。Indolentおよびaggressiveの割合は両コホートで同様に分布していた。両グループにおいて移植時合併症のない患者ではNRM(P =0.74)、OS(P=0.75)、PFS(P=0.40)は同程度であった。これは移植前の変数を調整しても同様であった(P=0.91、0.89、 0.40)。移植時合併症のある患者では、骨髄非破壊的前処置群の方がNRMは低く(P=0.009)、良い生存率を示した(P=0.04)。この傾向は他の変数を調整するとより顕著であった(P<0.001、P=0.007)。更に移植時合併症のある患者では、骨髄非破壊的前処置群の方が adjusted PFSも良い傾向にあった(P=0.01)。移植時合併症のない患者では異なった前処置強度での移植を比較する前向きの比較試験が望まれる。リンパ系悪性腫瘍において移植時合併症のある若年症例は骨髄非破壊的前処置による移植が有益であるかもしれない。
中根孝彦(平成20年1月21日)

 Phase II Trial of a Transplantation Regimen of Yttrium-90 Ibritumomab Tiuxetan and High-Dose Chemotherapy in Patients With Non-Hodgkin's Lymphoma
非ホジキンリンパ腫に対する自家移植前処置としての90Y標識イブリツモマブ併用高用量化学療法の第II相試験
目的 :この第2相試験では高齢や放射線治療歴のため全身放射線照射が不適格な非ホジキンリンパ腫症例に対して90Y標識イブリツモマブを併用した高用量クラムスチン, シタラビン エトポシドおよびメルファラン療法(BEAM療法)の自家移植前処置治療法としての安全性と有効性を評価した。
対象症例と研究方法: 2002 年5月から2006年1月の間、41例の非ホジキンリンパ腫例に対し、自家移植の14日前に標準量の90Y標識イブリツモマブ(14.8 MBq/kg [0.4 mCi/kg])を投与し、その後に高用量のBEAM療法を施行した。
結果: 年齢中央値は60歳で(19-78歳)、前治療回数の中央値は2回(1-6回)であった。組織型はびまん性大細胞型が20例、マントル細胞が13例、ろ胞性が4例、組織転換型が4例であった。中央値18.4ヶ月(5.5-55.3ヶ月)の観察期間で、2年全生存率は88.9%、無増悪生存率は69.8%であった。白血球生着日中央値は11日(9-26日)、血小板生着日中央値は12日(3-107)日であった。有害事象は過去のBEAM療法単独前処置治療法と同等であった。グレード3-4の肺毒性が10例発症した
結論:イブリツモマブをBEAM療法と併用した自家移植前処置治療法はは実行可能で、BEAM療法単独と同等の毒性と許容性がある。無増悪生存率は有望と考えられ、次の研究が必要である。
寺田芳樹(平成20年1月7日)


 Treatment of severe aplastic anemia with antithymocyte globulin and cyclosporin A with or without G-CSF in adults: a multicenter randomized study in Japan
重症再生不良性貧血に対するATG+CsAとATG+CsA+G-CSF:日本における多施設無作為割付試験
成人重症再生不良性貧血(severe aplastic anemia, SAA)に対する免疫抑制療法とgranulocyte colony-stimulating factor(G-CSF)追加の有用性を評価するため無作為試験を行ったので、その結果を報告する。計101人の前治療のないSAA(年齢中央値54歳;19〜75歳)がantithymocyte globulin(ATG)+cyclosporin A(CsA)(G-CSF−群)もしくはATG+CsA+G-CSF(G-CSF+群)に割り付けられた。G-CSF+群で6ヶ月の時点での血液学的な効果はG-CSF−群より高かった(77%対57%;P=0.03)。両群間で感染や発熱のエピソードについては有意差はなかった。G-CSF−群とG-CSF+群でOS(88%対94%)、骨髄異形成症候群/急性白血病の発症率(1人対2人)に有意差はなかった。SAA再発率はG-CSF+群で有意に低かった(4年で42%対15%;P=0.01)。成人のSAAの免疫抑制療法でのG-CSFの役割を明らかにするために更なるフォローアップが必要である。
相本瑞樹(平成19年12月17日)


 The impact of Epstein-Barr virus status on clinical outcome in diffuse large B-cell lymphoma
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の臨床経過に与える、EBウイルスの影響について
EB ウイルス( EBV )感染がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫( DLBCL )の予後に与える影響を明確にするために、我々は DLBCL 患者における EBV 感染状態を調査した。 380 人の全症例の標本で EBER(EBV-encoded RNA-1)ISH(in situ hybridiztion) による EBV 検索を行い、 34 症例( 9 %)が EBER 陽性であった。EBER 陽性率は、 60 歳以上の年齢( P=0.005 )、進行した病期 (P < .001) 、 1 個以上の節外病変( P=0.009 )、 IPI 高値( P=0.015 )、B症状( P=0.004 )、初回治療に対する反応性不良( P=0.006 )と有意に関連していた。 EBER 陽性の DLBCL 患者は、 EBER 陰性患者に比べて、 overall survival(OS) および progression-free survival(PFS) がより悪い結果を示すことが明らかになった。( OS/PFS (EBER+ vs EBER-) : P=0.026/P=0.018 )また、 DLBCL のサブタイプで、非胚中心由来のもの( nongerminal center B-cell-like : non-GCB )では、 EBER 陽性が有意なリスクファクターであり( P=0.045 )、死亡リスクがハザード比 2.9 と高く、より悪い OS を示した。以上のデータをまとめると、 EBER 陽性の DLBCL 患者は、 EBER 陰性患者に比べて、進行速度が速く、治療反応性に乏しく、結果的に OS および PFS がより悪くなると考えられる。
和田恵里(平成19年12月3日)

The role of FDG-PET scans in patients with lymphoma.
リンパ腫症例におけるFDG-PET検査の役割
FDG-PET は、非侵襲的で、3次元表示が可能なことから、リンパ腫の患者において広く用いられる事となってきている。この技術はガリウムシンチや CT よりも感度が高く、特異度も高いとされ、リンパ腫の壊死や線維化と腫瘍の活動性を正確な識別が可能とされている。 PET は治療前の病期診断や再診断、治療中のモニタリングや治療後のフォローアップや組織の形質転換の評価を担うようになり、最近では、新規治療薬の新しい効果判定のマーカーにもなってきている。これらの様々な役割を担う PET のデータには検証が必要である。またさらに PET の解釈には注意を払わねばならない。なぜなら技術的な限界が存在し、 リンパ腫の組織型によって FDG 取り込みに差があり、偽陽性、偽陰性が存在するからである。臨床試験で PET の基準を統一し、この技術を効果判定基準に組むことによって、今後、リンパ腫患者予後向上につながることが期待される。
守口 蘭(平成19年11月26日)

Post-transplant acute limbic encephalitis: clinical features and relationship to HHV6.
移植後辺縁系脳炎-その臨床的特徴とHHV6との関係について
急性辺縁系脳炎は治療関連の免疫抑制下で発症することが報告されており、 HHV6 感染の関与が考えられている。しかしながら、この症候群の臨床的・検査的特徴はよくわかっていない。 我々は 造血幹細胞移植後に急性辺縁系脳炎を発症した 9 人の患者の臨床所見、脳波、 MRI 、検査的特徴を検討した。 HHV6 とこの症候群の関係を調べるため、 2003 年 3月17 日から 2005 年 3月31 日までの間に当施設で施行した造血幹細胞移植患者すべてを対象に脳脊髄液での HHV6 を PCR 法で検索した。患者は前行性健忘、 SIADH 、軽度 CSF 細胞増加、しばしば 臨床的もしくは潜在的 な痙攣を反映している側頭葉脳波異常を中心とした一貫して特有の臨床症候群を呈した。 MRI は T2 、 FLAIR 、 DW-I で海馬回鈎、扁桃体、内側嗅領、海馬に高信号を示した。 HHV6 の脳脊髄液での PCR 分析は最初の腰椎穿刺で9人中6人が陽性であった。すべての患者は ホスカーネット や ガンシクロビル で治療された。長期生存者で認知症の回復は様々であった。1人の患者の脳 剖検 で辺縁系のグリオーシスと扁桃体、海馬で重度の神経損傷を示していた。 2 年間で脳脊髄液の HHV6 を調査したHSCT27症例 のうち、陽性であったのは臨床的に辺縁系脳炎を発症した患者のみであった。同種造血幹細胞移植を受けた患者は明確な神経学的症候群である移植後辺縁系脳炎 発症の危険性がある。治療は積極的な痙攣コントロールとできる限り抗ウイルス治療を行うべきである。移植後辺縁系脳炎は HHV6 が髄液中に存在していることと関係している可能性があるが、ウイルスの病因的役割については更なる調査が必要である。
康 秀男(平成19年11月19日)

Allogeneic stem cell transplantation following reduced-intensity conditioning can induce durable clinical and molecular remissions in relapsed lymphomas: pre-transplant disease status and histotype heavily influence outcome.
骨髄非破壊的前治療を用いた同種造血幹細胞移植は再発リンパ腫の臨床的、分子学的寛解をもたらす-それは病勢および組織型に強く影響を受ける
悪性リンパ腫に対する骨髄非破壊的移植の安全性と効果は未だ明確にはなっていない。我々は多施設共同prospectivephase II trialを施行した。血縁者骨髄非破壊的移植を受けた170人の再発または不応性リンパ腫患者が対象となった。Primary endpointは非再発死亡(non-relapse mortality,NRM)であった。非ホジキンリンパ腫(NHL)は緩徐進行性(LG-NHL):63人、進行性(HG-NHL):61人、マントル細胞リンパ腫(MCL):14人であり、ホジキン病(HD)は32人であった。観察期間の中央値は33 (12-82)ヶ月であった。 3 年のNRMは14% 、 急性GVHDは35% および慢性GVHD は52%であった 。 3 年全生存率 は、LG-NHL :69% 、 HG-NHL :69% 、 MCL :45% 、 HD :32% (P=0.058)であった 。3年再発率はそれぞれ29、31、35、81% (P<0.001)であった。3年再発リスクは濾胞性リンパ腫(FL)と慢性リンパ性白血病(CLL)で有意に異なった (14 vs41%、P=0.04)。分子生物学的寛解はFLとCLLでそれぞれ94%、40%であった(P=0.002)。多変量解析において全生存率(OS)は化学療法不応性疾患 (HR=3.6)、HD(HR=3.5)、aGVHD(HR=5.9)の影響を受けた。骨髄非破壊的移植は緩徐進行性及び進行性NHLに対するサルベージ療法として適切かつ効果的である。 
中根孝彦(平成19年11月12日)

Comorbidity and disease status-based risk stratification of outcomes among patients with acute myeloid leukemia or myelodysplasia receiving allogeneic hematopoietic cell transplantation.
HCT-CIスコアと疾患リスクによる層別化はAMLとMDSに対する同種造血幹細胞移植の予後予測に有用である
 目的: 骨髄異形成症候群(MDS )と急性骨髄性白血病(AML)患者では骨髄破壊的と非破壊的移植で生存率に差が見られなかったという後ろ向き研究報告がある。正確な層別化が前向きの比較試験のデザインのために必要である。
患者と方法: AML(391 例)とMDS(186例)の骨髄非破壊的移植(125例)と骨髄破壊的移植(452例)症例を、疾患の状態だけでなくHCT-CIスコアによる合併症により層別化した。骨髄非破壊的移植例は骨髄破壊的移植例に比べて高齢で移植前の治療が多く、また非血縁者間移植例が多く、HCT-CIスコアーが3点以上の例が多かった。
結果: HCT-CI が0-2の場合の2年間の生存率は、疾患が低risk・高riskで骨髄非破壊的前処置での移植を受けた患者ではそれぞれ70%と57%であったのに対して、骨髄破壊的前処置での移植患者ではそれぞれ78%と50%であった。HCT-CI が3以上の場合の2年間の生存率は、疾患が低risk・高riskで骨髄非破壊的前処置での移植を受けた患者ではそれぞれ41%と29%であったのに対して、骨髄破壊的前処置での移植患者ではそれぞれ45%と24%であった。最もリスクの高い患者で骨髄破壊的移植で非再発死亡が減少(HR 0.5)した以外は、骨髄非破壊的・破壊的移植に有意差は認められなかった。
結論: HCT-CI が低スコアの患者は骨髄破壊的・非破壊的移植の比較のための無作為試験に参加する候補となり得る。疾患が低リスクでHCT-CIが高スコアの患者についてはさらにデータの蓄積が必要。疾患が高リスクでHCT-CIが高スコアの患者に対しては、非破壊的移植に組み合わせた新たな抗腫瘍薬が必要である。
武岡康信(平成19年11月5日)

New myeloablative conditioning regimen with fludarabine and busulfan for allogeneic stem cell transplantation: comparison with BuCy2.
同種幹細胞移植に対するフルダラビン、ブスルファンを用いた新たな骨髄破壊的前処置:ブスルファン、エンドキサンとの比較.
ブスルファン(busulfan,BU)とシクロフォスファミド(cyclophosphamide, CY)による移植前処置(BuCy2)は造血幹細胞移植の標準的な骨髄破壊的前処置と考えられる。今回の研究はフルダラビン(fludarabine, Flu)が骨髄破壊的同種造血幹細胞移植前処置としてCYに取って代わることができるかについて評価した。HLA一致ドナーからの同種造血幹細胞移植を受けた95人の患者で、BuCy2の55名Bu、Flu(BF)の40名について、Fluの有効性を後方視的にCYと比較し評価した。BF群の方が、生着までの期間が短く(P=0.001)、急性と慢性のGVHDと非再発死亡の発生率が低かった。更にBF群のEFSとOSはBuCy2と比較して優位に高かった(それぞれP=0.004,P=0.002)。年齢・原疾患の状態・GVHD予防法、ドナータイプといった因子を調整しても、BFレジメンはEFSとOSの両者に独立した良好なリスク因子であった(それぞれP=0.016,P=0.026)。骨髄破壊的な同種SCTのBuCy2レジメンと比較して、CYをFluに置き換えるのは非再発死亡や移植片対宿主病の観点からより効果的であると考えられる。
赤澤結貴(平成19年10月29日)

 Pure red-cell aplasia following major and bi-directional ABO-incompatible allogeneic stem-cell transplantation: recovery of donor-derived erythropoiesis after long-term treatment using different therapeutic strategies.
主ならびに双方向ABO不適合同種造血幹細胞移植に生じる真性赤芽球癆:種々の治療戦略により長期間を要するがドナー由来の赤芽球造血が回復
 同種造血幹細胞移植において、ドナーとレシピエント間での血液型不適合は移植後の赤芽球低形成に関与するといわれている。今回我々の施設では同種造血幹細胞移植を受けた造血器疾患548人の患者のうち、ABO血液型主不適合・双方向不適合の44人の患者における赤芽球癆(pure red cell aplasia、PRCA)の発症率とその転帰について後方視的解析を行った。主不適合が30人、双方向不適合が14人。移植した単核細胞数の中央値は4.74×10^8/kg(0.1-26.4×10^8/kg)で、CD34陽性細胞数の中央値は3.02×10^6/kg(0.9-21.7×10^6/kg)。好中球生着(>0.5×10^9/l)の中央値は移植後21日(7-32日)で、血小板生着(>50×10*9)の中央値は移植後23.5日(12-109日)であった。急性移植片対宿主病(graft versus host disease、GVHD)は23人(52%)、慢性GVHDは26人(59%)に発症した。6人(13%)がPRCAを発症し、血漿交換、シクロスポリンの早期中止、ドナーリンパ球輸注、エリスロポエチン、アザチオプリン、リツキサン等を用いた多様な治療を行った。これにより、6人中5人は中央値13ヶ月(3-16ヶ月)後に赤芽球の回復を認めた。輸血された赤血球数の中央値は36単位(8-57単位)であった。中央値37ヶ月の観察期間において、PRCA患者群の5年生存率(OS)は66%であった。ABO血液型主不適合は、ドナーの赤芽球生着を遅らせ、その結果長期間にわたって輸血依存性となるため、鉄過剰負荷のリスクを高めてしまう。PRCAの治療は長期を要するが、多くの患者で効果を期待できるだろう。 
和田恵里(平成19年10月15日)
補足
*主不適合:患者血漿中に提供者血液型に対する抗体が存在する場合
A型(提供者)→O型(患者)、B型→O型、AB型→A型、B型、O型
*副不適合:提供者血漿中に患者血液型に対する抗体が存在する場合
O型(提供者)→A型、B型、AB型(患者)、A型→AB型、B型→AB型
*主/副不適合(双方向不適合):患者血漿中に提供者血液型に対する抗体が存在し、提供者血漿中に患者血液型に対する抗体が存在する場合
A型(提供者)→B型(患者)、B型→A型

High incidence of invasive aspergillosis associated with intestinal graft-versus-host disease following nonmyeloablative transplantation.
骨髄非破壊的移植後、腸管移植片対宿主病に高率に発症する侵襲性アスペルギルス
侵襲性肺アスペルギルス症は依然として同種移植の主な合併症の一つである。骨髄非破壊的移植後の外来経過観察中の免疫抑制状態下、侵襲性肺アスペルギルス症と関連のある危険因子を検討している論文はほとんどない。我々はHLA完全一致血縁者間骨髄非破壊的移植後、外来で管理されている125名の患者群でのコホート研究を行った。移植前処置はフルダラビンおよびシクロフォスファマイドで、最低4×10*6個/kgのCD34陽性細胞が輸注された。急性移植片対宿主病予防はタクロリムスとセルセプトで行った。全体で移植後44〜791日(中央値229日)に13人の患者が侵襲性肺アスペルギルス症と診断された。侵襲性肺アスペルギルス症発症のリスク(蓄積)は1年で7%、2年で11%、3年で15%であった。侵襲性肺アスペルギルス症となった患者群は有意に生存率も悪かった(p=0.045)。腸管の急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病の発症が有意に侵襲性肺アスペルギルス症の発症と相関していた(1年で27%対3%、2年で27%対8%、3年で37%対10%)。daclizumabの使用歴は3年での侵襲性肺アスペルギルス症の発症率に有意に相関した(47%対12%)。年齢、性別、疾患、自家移植歴、好中球減少期間、サイトメガロウイルス血症、ステロイドやセルセプトの投薬期間、急性移植片対宿主病と慢性移植片対宿主病の発症が有意に侵襲性肺アスペルギルス症発症に相関が認められた(1年で27%対3%、2年、慢性移植片対宿主病、再入院回数や入院日数はIAの発症とは相関はなかった。多変量解析の結果、腸管の移植片対宿主病(急性と慢性を含めて)のみが1年(P=0.003)、2年(P=0.01)、3年(P=0.005)それぞれの期間において侵襲性肺アスペルギルス症の危険因子として同定された。我々は侵襲性肺アスペルギルス症のリスクが時間とともに増加すること、腸管移植片対宿主病が侵襲性肺アスペルギルス症の重要な危険因子であると結論づけた。現在のところ、骨髄非破壊的移植後の免疫力を具体的に調べられるマーカーはないので、糸状菌に対する予防投与を行うべきハイリスク患者を同定するため、本研究は重要であった。
守口 蘭(平成19年10月1日)


Double Unrelated Reduced-Intensity Umbilical Cord Blood Transplantation in Adults.
成人に対する強度減弱前処置複数臍帯血移植
臍帯血はHLA一致ドナーのいない患者にとって有用な移植源である。成人の単一臍帯血移植では生着遅延や免疫不全に由来した感染症が原因とする移植関連死が多い。この研究ではフルダラビン、メルファランおよび抗胸腺細胞グロブリンを用いた強度減弱前処置を施行後に2つのHLA不一致の臍帯血を用いて移植を行った。臍帯血はお互いに・そして患者と最低HLAが4座以上一致したものであり、凍結前細胞数は最低3.7×107/kgであった。実施21症例(年齢中央値49歳)において白血球生着(好中球数500/μl以上)の中央値は20日、血小板生着(輸血なしで20000/μl以上)の中央値は41日であった。早期生着不全は2例で2度目の臍帯血移植が施行された。後期生着不全は1例であった。GradeU〜Wの急性移植片対宿主病発症頻度は40%であった。移植後第100病日におけるでの移植関連死亡は3例(14%)、1年無病生存率は67%であった。混合キメラ出現は慢性移植片対宿主病の危険因子であった。この研究では成人症例に対する複数臍帯血移植は実施可能であり、そして強度減弱前処置を用いることで良好な抗腫瘍効果を持続させることができることが判明した。
相本瑞樹(平成19年9月10日)

Methylprednisolone infusion in early severe ARDS: results of a randomized controlled trial.
早期重症成人呼吸促迫症候群に対するメチルプレドニン静注療法.
目的:低用量長期メチルプレドニゾロン静注が早期重症成人呼吸促迫症候群患者の肺機能に及ぼす効果を決定すること
デザイン:ランダム化、二重盲検、プラセボ比較化試験
場所:メンフィスの5病院の集中治療部
対象:重症早期成人呼吸促迫症候群(72時間以内)の91症例。60症例(66%)は敗血症。
介入:患者は2:1方式でメチルプレドニゾロン(1mg/kg/日)とプラセボ群に無作為化割付。治療期間は28日までとした。感染サーベイランスと麻痺を避けることをプロトコールの必須項目とした。
主評価項目:primary end pointはday 7までのlung injury score(LIS)の1点減少or抜管
結果intension-to-treat解析*で2群(治療群63名、対照群28名)の反応は第7病日までにはっきりと分かれ、lung injury scoreの1点減少達成(69.8%vs35.7%;p=0.002) あるいは補助なし呼吸(53.9%vs25.0%;p=0.01)の治療群患者の比率は2倍であった。治療群患者はCRPの有意な減少を認め、第7病日までにlung injury scoreとmultiple organ dysfunction syndrome scoresはより低値となった。治療は人工呼吸期間(p=0.002)、集中治療室入室(p=0.007)、集中治療室での死亡(20.6%vs42.9%;p =0.002)を減少させた。治療患者はより感染症発症率が低く(p=0.0002)、感染サーベイランスは発熱のない患者で院内感染の56%を同定した。
結論:メチルプレドニゾロンによる全身炎症の抑制は有意に肺および肺外臓器障害の改善と人工呼吸期間、ICU入室期間の短縮に関与していた。
*intention to treat: 方針通り(臨床試験でプロトコル違反がみられても、はじめの割付通りに解析を行う)
康 秀男(平成19年9月3日)

Diagnostic criteria for hematopoietic stem cell transplant-associated microangiopathy: results of a consensus process by an International Working Group.
移植関連微小血管障害の診断基準-国際ワーキンググループの統一的見解-
移植関連微小血管障害(transplant-associated microangiopahty, TAM))について広く認められている定義はない。国際ワーキンググループにより診断基準を作成した。参加者はそれぞれ、必須項目と非必須項目の候補をリストアップした。必須3項目と必須でない4項目を診断基準の核とした。参加者は16人の患者についてTAMと診断するのが適切か不適切かを点数化した。専門家による(16人の患者についての)TAMの診断基準の候補となった24項目について感度と特異度を評価した。感度・特異度が最高となる組み合わせを、最終的な診断基準とした。TAMは以下の全ての項目を満たすものとした
(1)末梢血中の破砕赤血球>4%
(2)新たに発生した、持続的あるいは進行性の血小板減少、血小板<5万/μl もしくは50%以上の減少
(3)突発性のLDH上昇
(4)ヘモグロビンの低下 もしくは 輸血必要性の増加
(5)ハプトグロビンの低下
この基準の感度・特異度は80%以上である。
武岡康信先生(平成19年8月27日)

Serologically HLA-DR-mismatched unrelated donors might provide a valuable alternative in allogeneic transplantation: experience from a single japanese institution.
HLA血清不一致非血縁者間ドナーは同種移植の候補となりうる:本邦単施設経験より
非血縁者間骨髄移植(uBMT)での血清型HLA-DR不一致の臨床的な意義を明らかにするために、1995-2004までに単施設で施行された血液悪性疾患に対するuBMT123例を評価した。12例が血清型HLA-DRのみの不一致であった。HLA一致移植の82人をコントロールとした。前処置治療は全身放射線照射を基本とした通常の前処置とフルダラビンを基本とした強度減量治療であった。急性移植片対宿主病(GVHD)予防としてタクロリムス+短期メソトレキセート併用療法を用いた。 生着不全は認めず。観察期間中央値期42ヶ月(範囲11-99ヶ月)で4年生存率・4年非再発死亡率・4年再発率はそれぞれ、63%・38%・0%であり、HLA一致移植に匹敵する結果であった。U-W度の急性GVHDは75%に認め、HLA一致移植よりも有意に高かった(42%、p=0.046)。またV-W度の急性GVHDはコントロール群と比較すると高い傾向にあった(27% vs. 10%、p=0.093)。慢性GVHDは評価可能11人中4人で認め、HLA一致移植と変わりはなかった。急性GVHDの頻度は高いものの、血清型HLA-DR不一致移植は日本人においては実施可能であるものと考えられる。
中根孝彦先生(平成19年8月20日)

Epstein--Barr virus early-antigen antibodies before allogeneic haematopoietic stem cell transplantation as a marker of risk of post-transplant lymphoproliferative disorders.
同種造血幹細胞移植前にEBウイルス早期抗原に対する抗体検出は移植後リンパ増殖性疾患発症の危険因子である
同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)後の移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)は臨床的に問題となっている。移植前のEBウイルスの血清状態とウイルス量について移植後PTLD発症した患者(21症例)と発症しなかった患者(28例)を対象として検討した。EA-IgG(early antigen)はPTLD発症患者の21名中12名で検出されたが、発症しなかった患者では28名中2名だけだった。PTLD診断時に末梢血単核球には高値のウイルスが検出されたが、latent infection membrane protein1欠損と関連はなかった。allo-HSCT患者において移植前にEA-IgG検出はPTLD発症の危険因子となりえるであろう。

*latent infection membrane protein: 細胞膜上に発現されるものでEBウイルス関連抗原の一つである。
赤澤結貴先生(平成19年8月13日)

Unrelated donor bone marrow transplants for severe aplastic anemia with conditioning using total body irradiation and cyclophosphamide.
全身放射線療法とシクロフォスファミドを前処置に用いた重症再生不良性貧血に対する非血縁者間骨髄移植
再生不良性貧血に対する非血縁者間骨髄移植は生着不全を克服するため移植前の前処置の強度と密に関連する移植関連死亡が高いため、血縁者間骨髄移植より移植成績が劣る。我々は成人再生不良性貧血例に対し、非血縁者間同種移植の前処置として中等量から高用量全身放射線照射(total body irradiation, TBI)にエンドキサン (120 mg/kg)を併用する前向きの臨床試験を行った。TBI 12、10、8Gy照射の患者数はそれぞれ5、9、26名であった。3年予想生存率はそれぞれ40、44、92%であった。TBI 8Gyの例ではグレード3度以上の治療関連毒性と生着不全は認めなかった。OSに対する有意な因子は、TBIの線量(10Gy以上より8Gyがいい)、cGVHD(limited以下がいい)、donorとrecipient間のHLAタイピング法(DNAタイピングがいい)と、移植前輸血量(90単位以下の輸血量がいい)であった。
寺田芳樹先生(平成19年8月6日)


Micafungin was as effective as―and caused fewer adverse events than―liposomal amphotericin B as first-line treatment of candidaemia and invasive candidosis.
カンジダ血症および侵襲性カンジダ症の第一選択治療薬としてミカファンギンはリポソーム・アンフォテリシンBと同等の効果を有する(加えて有害事象がより少ない)
侵襲的なカンジダ症は重症患者においてしばしば認められる。この研究の目的は16歳以上の患者でカンジダ症に対するミカファンギンとリポソーム・アンホテリシンBの治療効果を比較することである。研究は数カ国で行われたランダム化二重盲検試験である。カンジダ症に対してミカファンギン(100mg/日)とリポソーム・アンフォテリシンB(3mg/kg /日)を比較した試験である。Primary end pointは治療効果である。臨床的および真菌学的検査でも評価をはっきりさせた。264 人の患者がミカファンギン群、267人の患者がリポソーム・アンフォテリシンB群に割り当てられた。ミカファンギン群のうち202人、リポソーム・アンフォテリシンB群のうち190人が解析対象となった。治療効果が得られたのはミカファンギン群で181人(89.6%)、lリポソーム・アンフォテリシンB群で170人(89.5%)であった。治療効果はカンジダの種類、初感染巣、好中球数、APACHEUのスコア、カテーテルの抜去や入れ替えとは無関係であった。治療中の有害事象は深刻なもの、治療停止も含めてミカファンギン群の方がリポソーム・アンフォテリシンB群よりも少なかった。カンジダ症に対してミカファンギンはリポソーム・アンフォテリシンBと同等の効果があり、有害事象は少なかった。
守口 蘭先生(平成19年7月30日)

Extended Lamivudine Therapy against Hepatitis B Virus Infection in Hematopoietic Stem Cell Transplant Recipients
造血細胞移植患者におけるB型肝炎ウイルス感染に対するラミブジン継続治療
ラミブジンは、造血幹細胞移植(HSCT)後のB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化の治療および予防に効果があるといわれている。しかしながら、これまでのstudyのほとんどは予防投与が短期間であり、ラミブジン耐性の可能性が重要視されている。
1984年3月から2002年11月までの間に、71人のHBV表面抗原陽性の造血幹細胞移植患者が今回のstudyに登録され、そのうち16人は移植前からラミブジン治療を受け、移植後もHBV再活性化肝炎を防ぐためにラミブジン治療が続けられた。
ラミブジン治療の効果は、まずこの16人の患者群で、治療の反応性、ラミブジン耐性、ラミブジン中止後のウイルス再増殖という点について、ウイルス学的分析を用いて評価した。それからさらに、すべての患者で、ラミブジン治療が移植後のHBV再活性化肝炎の発生にいかに影響を及ぼすかについて、その効果を評価した。
中央値73週間(19〜153週間)のラミブジン治療期間の中で、まず最初の反応として、血清HBV-DNA量が中央値2.54 log10(-0.28〜6.72)減少を認めた。ラミブジン耐性の変異株は、16人中10人(63%)に認められ、16人中2人(12%)は最終的にviral breakthroughを起こした。ラミブジン中止後中央値30ヶ月の追跡期間中に、11人中3人(27%)がHBV感染症の再発を認めた。変異株の出現にも関わらず、HBV再活性化や重症肝炎による死亡はみられなかった。すべての登録患者において、移植後のHBV再活性化肝炎発生についてCOX回帰モデルを用いて解析すると、ラミブジン治療はハザード比0.122(95%信頼区間0.016-0.908、P=0.040)となり、イベント(肝炎)発生を有意に抑える唯一の因子であることが分かった。
結論として、長期にわたるラミブジン治療は、造血幹細胞移植を予定している患者でHBV再活性化を防ぐために安全かつ有効な治療法であり、移植後のHBV再活性化肝炎の発症を有意に減らすことができる。
和田恵里先生(2007年7月23日)

中枢神経再発および眼内リンパ腫に対する脳室内へのリツキサン投与(Phase I study)
目的
我々は以前にリツキサンの静注は軟髄膜腔への浸透は限られていることを示した。全身リツキサン投与は大細胞型リンパ腫患者のCNS再発や播種のリスクを減らさない、という訳で我々は再燃性CNS−NHL患者に対し髄腔内リツキサン単剤投与のphase I dose-escalation studyを施行した。
症例ならびに方法
プロトコールは5週間かけてOmmaya reservoirからリツキサンの9回注入(10mg,25mg, or 50mg)を計画した。脳室内リツキサンの安全性データを10人の患者で定義した。
結果
最大耐用量は25mgに決定し、急速な頭蓋脊柱軸への分布が明らかとなった。細胞学的変化は6人の患者で認められた;4人がcomplete responseとなった。2人の患者は眼内NHLの改善を認め1人は実質のNHLの改善を認めた。髄膜リンパ腫細胞のPim-2とFoxP1のRNA level高値がリツキサン単剤に対する治療抵抗性と関連性があった。
結論
これらの結果はCNS病変を含むNHLに対し髄腔内リツキサン投与(10 to 25mg)は実現可能で有効であることが示唆された。
康 秀男先生(2007年7月2日)

高リスク急性骨髄性白血病/骨髄異形成症候群に対するフルダラビン、メルファランを用いた骨髄非破壊的前処置による同種造血幹細胞移植
骨髄非破壊的前処置により、高齢あるいは身体機能低下により移植の適応とならない患者に対して 同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)が広く施行できるようになってきている。今回、112人のAML/MDSの患者がfludarabine+melphalan(FM) conditioningでのallo-HSCTを受けた。73%が非寛解。急性移植片対宿主病(GVHD)予防はFK+mini-MTX。年齢中央値は55歳(22-74歳)。ドナーは血縁53%、非血縁47%。生存患者43人のmedian f/u期間は29.4ヶ月(13.1-87.7)。CR率は82%であった。2年OSはCR患者で66%、移植時末梢血にblastのない active disease患者で40%、末梢血中に芽球が存在するactive disease患者で23%であった。多変量解析にて、「移植時active disease」および「2-4度のaGVHD」が生存に負の影響あり。移植時、末梢血中のblastの存在は疾患の進行に影響する因子であった。NRM の頻度は、active diseaseの患者で有意に高かったがPtの年齢の影響は認めなかった。CRの患者のday 100および1yr NRMはそれぞれ0%、20%であった。非血縁ドナーは、active diseaseのPtのみNRMを増加させた。FMでのHSCTにより、一部の高riskのPtの長期間のdisease controlが可能である。
中根孝彦先生(2007年6月18日)

高リスクフィラデルフィア染色体陽性白血病に対する造血幹細胞移植後のイマチニブ予防投与
Blood109: 2791-2793,2007
高リスクのフィラデルフィア陽性(Ph+)白血病に対する同種HCT後にも、しばしば再発が起こる。イマチニブ(グリベック)をHCT後早期に内服開始することにより、Ph+白血病の再発を効果的に予防出来るかもしれないが、実現可能か調査されてこなかった。15人のPh+ALL患者と7人の高リスクCMLの計22名の患者がこの研究に登録され、生着時からHCT後365日までイマチニブを内服した。90日目までは、成人(19名)はイマチニブを平均400mg/日(200〜500mg/日)を内服可能で、小児(3名)では265mg/u/日(200〜290mg/u/日)で内服可能であった。イマチニブ内服に関する最も共通して見られた副作用は、Grade1〜3の嘔気、嘔吐、血清トランスアミナーゼ上昇であった。我々は、イマチニブは最初の治療で耐容可能な強度で、骨髄破壊的同種HCT後早期に安全に内服できると結論付けた。
赤澤結貴先生(2007年6月11日)


造血器悪性腫瘍移植病棟における発熱性好中球減少症に対する細菌予防法と抗菌薬サイクリング療法の臨床的効果について
(抄録)FN(Febrile Neutropenia、好中球減少性発熱)は進行する悪性血液疾患や造血幹細胞移植に予想される合併症である。アメリカのグループがFNに対するフルオロキノロンの予防的内服の効果と安全性、そして経験的抗生物質のサイクリング投与の効果と安全性を決定するための前向きコホート研究を行った。2002年3月から2004年までずっと、好中球減少期間が長引きそうな患者に対してレボフロキサシンの予防内服を行い、FNが出現したら病棟で決めたサイクル計画(病棟でFN患者に使用する抗生剤を統一し、イミペネム/シラスタチン、セフェピムとトブラマイシンの併用、ピペラシリン/タゾバクタムとトブラマイシンの併用、の順に8ヶ月ごとにローテーションさせた)に従った抗生物質で治療を行った。菌血症、耐性菌、合併症の出現率を過去の患者群と比較した。グラム陰性菌の菌血症罹患率はレボフロキサシンの予防内服開始後に減少した。(1000入院日数あたり4.7→1.8日、有意差あり)グラム陽性菌の菌血症罹患率は変化がなかったが、このstudy開始後にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)がよりたくさん検出された。抗生物質をサイクルして使っても、耐性菌が危険なほど出現することはなかった。この study実施期間中、患者の死亡率は変わらなかった。悪性血液疾患病棟と造血幹細胞移植病棟において、予防内服もサイクル計画に従った抗生物質治療も予定通りきちんと行われた。グラム陰性菌の菌血症は耐性菌が大発生することなく有意に減少した。グラム陽性菌についての懸念事項については、さらなる観測が必要である。
守口 蘭先生(2007年5月28日)


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