骨髄異形成症候群
Refをクリックしていただくとreference abstractが表示されます(Pub Med)
本文は血液診療第5巻第1号の論文を改変し、掲載しております。

MDSでは血球の形態異常を伴います。赤芽球系においては核が多核の細胞

好中球ではペルオキシダーゼ染色陰性好中球、環状核を有する細胞

巨核球系では小型の細胞、巨大血小板などが見られます。

この形態異常に加えて、白血病細胞が見られます。

解説
はじめに
 骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome、MDS)は造血幹細胞レベルで生じる
後天性造血障害で、骨髄では血液細胞が造られるものの、その血液細胞が血管内に移
動できないために生じる血球減少(無効造血)と白血病細胞が存在するため急性骨髄性
白血病に移行する可能性の高い予後不良の疾患です。
 本邦におけるMDS患者の有病率は15歳以上の人口10万人あたり3人と推定されてい
ます。2004年度に行われた調査では登録された15歳以上のMDS患者400例において男
女比は2:1で年齢中央値は65歳でそのピークは61歳から70歳に見られ(Ref 1:通山 
薫:骨髄異形成症候群-この難解な疾患へのアプローチ. 臨床血液 47:167-175,
2006)、今後の高齢者社会の進展により罹患患者数の増加が予想されています。

診断
 MDSは1982年にBenettらによってFrench-American-British(FAB)分類が提唱さ
れ、この疾患の概念が広く知られるようになりました(Ref 2)。新WHO分類は1999年に提
唱され(Ref 3)、2001年に成書(Ref 4:Brunning RD, et al: Myelodysplastic
syndromes. Jaffer ES, et al.(ed), World Health Organization Classification of
Tumors. Pathology and genetics, Tumor of Haematopoietic and lymphoid tissues,
pp61-73, IARC press, Lyon, 2001)となり、更に2002年にはVardimanらによってMDS
診断の詳細な基準(Ref 5)が示され、現在、広く使用されるようになりました(表1)
 WHO分類はFAB分類を踏襲しておりrefractory anemia(RA、不応性貧血)、
refractory anemia with ringed sideroblasts(RARS、鉄芽球性貧血)が異形成の程度
により、それぞれ二つに分類されます。すなわち赤芽球系のみの異常をRA、RARS、複
数血球に異形成が認められる場合にはそれぞれrefractory cytopenia with
multikineage dysplasia(RCMD)、RCMD with ringed sideroblastsと分類されます。
FAB分類では骨髄での芽球比率が5%以上20%未満でrefractory anemia with
excess of blasts(REAB)、20%以上30%未満でRAEB in transformation(RAEB in
T)と分類されていました。WHO分類ではRAEBを骨髄の芽球比率が5%以上10%未満で
RAEB-1、10%以上20%未満でRAEB-2に分類し、芽球比率が20%以上を急性白血病
と分類されます。従ってWHO分類ではREAB in tが除外されています。
WHO分類では好中球減少や血小板減少があり、顆粒球系あるいは巨核球のいずれか
に形態異常がある症例はMDS-U(MDS-unclassifible)として分類されます。また特有の
染色体異常(5番目の染色体長腕の単独欠損)を有する症例は5q-症候群として分類さ
れます。5q-症候群は女性に多く、不応性貧血、血小板数は正常ないし増加、巨核球の
形態異常(小型で単核の巨核球)などを特徴とした症候群であり、予後良好とされていま
す。MDSにおける各血球の形態学的異常については検鏡者によって形態異常の判定が
異なることがあり、その診断については慎重を要し、WHOでは最終診断を下すまで6ヶ月
間経過をみることを勧めています。

表1 骨髄異形成症候群に対するWHO分類
末梢血
骨髄
Refractory Anemia(RA) 貧血 赤芽球系の形態異常のみ
芽球<1% 芽球<5%
環状鉄芽球<15%
RA with ringed sideroblasts(RARS) 貧血 赤芽球系の形態異常のみ
芽球<1% 芽球<5%
環状鉄芽球15%以上
Refractory cytopenia with
multilineage dysplasia(RCMD)
血球減少 2系統以上において10%以上の細胞に形態異常を認める
芽球<1% 芽球<5%
アウエル小体なし アウエル小体なし
単球<1000/μl 環状鉄芽球<15%
RCMD and ringed sideroblasts(RCMD-RS) 血球減少 2系統以上(赤芽球系、顆粒球系、巨核球)において10%以上の細胞に形態異常を認める
芽球<1% 芽球<5%
アウエル小体なし アウエル小体なし
単球<1000/μl 環状鉄芽球15%以上
Refractory anemia with excess blasts(RAEB-1) 血球減少 1〜3系統(赤芽球系、顆粒球系、巨核球)において形態異常を認める
芽球<5% 芽球5%以上10%未満
アウエル小体なし アウエル小体なし
単球<1000/μl 
RAEB-2 血球減少 1〜3系統(赤芽球系、顆粒球系、巨核球)において形態異常を認める
芽球5%以上20%未満 芽球10%以上20%未満
アウエル小体あり/なし アウエル小体あり/なし
単球<1000/μl
MDS unclassified 血球減少 顆粒球系あるいは巨核球のいずれかに形態異常を認める
芽球<1% 芽球<5%
アウエル小体なし アウエル小体なし
MDS associated with isolated del(5q) 貧血 低分葉核を有する巨核球が正常ないし増加
芽球<5% 芽球<5%
血小板数は正常ないし増加 アウエル小体なし
5番染色体長腕の単独欠損

予後因子
(1)WHO classification-based Prognostic Scoring System(WPSS)
 後述するIPSSで用いられていた染色体異常は症例数が少なく、その取り扱いについて
は議論となりました。1992年から2002年にイタリアのグループはMDS467例を対象とした
後方視的解析を行い、WHO分類による予後因子としてWHO分類の病型、IPSSによる染
色体所見および輸血依存性の有無が重要であることを報告しました(Ref)。このグルー
プはドイツのグループとの共同研究で、これらの予後因子から構成される「WHO分類に
基づく予後スコアリングシステム(WHO classification-based prognostic scoring
system(WPSS))を新たに作成しました(表2)(Ref)
 予後因子は診断時だけでなく追跡期間中にデータをとり、経時的変化を組み入れた
time-dependent analysisを行って算出しております。症例は各スコアーの合計によって
5つのサブグループ、すなわちvery low(score 0)、low (score 1)、intermediate
(score 2)、high (score 3,4)、very high (score 5,6)に分類されました。イタリアのグル
ープ(Learning cohort)ではそれぞれ全生存期間中央値は103、72、40、21、12ヶ月、5
年間での白血病移行率は6、24、48、63、100%でいずも有意差が認められております。
これをドイツのグループが集積したMDS症例に当てはめて検討したところ(Validation
cohort)、全生存期間中央値は141、66、48、28、9ヶ月、5年間の白血病への移行リス
クは3、14、33、54、84%で有意差が認められておりま全生存期間中央値、白血病への
移行リスクについてはLearning cohortおよびValidation cohort間で有意差は認められ
ませんでした。

表2 WHO分類に基づくMDS予後スコアリングシステム(WPSS) 
予後変数
Score value
0
1
2
3
WHO分類
RA,RARS,5q-
RCMD,RCMD-RS
RAEB-1
RAEB-2
染色体
良好
中間
不良
-
輸血依存性
No
Regular
-
-
染色体
良好:正常核型、-Y、del(5q)、del(20q)
不良:7番染色体の異常、または複雑核型(3種類以上の異常)
中間:上記以外の染色体異常
輸血依存性
4ヶ月間で、少なくとも8週に一度の赤血球輸血が必要.
Scoring
very low(score 0)、low (score 1)、intermediate (score 2)、high (score 3,4)、very
high (score 5,6)

(2)International Prognostic Scoring System(IPSS)
 MDSはFAB分類、WHO分類に関わらず病型によってその予後は不均一となります。治
療法の選択にはその予後を推定する必要があるため、予後に関するスコアリングシステ
ムが提唱(Ref 6)され、頻用されています(国際的予後予測スコアリングシステム、
International Prognostic Scoring System; IPSS)。骨髄中の芽球比率、血球減少を
きたしている血球系の数、染色体異常の3種類の因子から構成されています(表3)。こ
のIPSSの問題点は20%以上を占めるRAEB in T例ではWHO分類での適応が困難(前
述したように急性骨髄性白血病に分類されるため)になる点にあり、今後、見直されるも
のと考えられます。

表3 国際予後スコアーシステム(IPSS)
予後変数
Score value
0
0.5
1
1.5
2
骨髄中芽球(%)
<5
5〜10
-
11〜20
21〜30
染色体
良好
中間
不良
-
-
血球減少
なし/1系統
2系統/3系統
-
-
-
染色体
良好:正常核型、-Y、del(5q)、del(20q)
不良:7番染色体の異常、または複雑核型(3種類以上の異常)
中間:上記以外の染色体異常
血球減少
ヘモグロビン<10g/dl、好中球減少<1800/μl、血小板数<10万/μl
白血球数が12000/μl異常の慢性骨髄単球性白血病は除外する

リスクカテゴリー
スコア
生存中央値(年)
全年齢層
60歳以下
低リスク
0
5.7
11.8
中間リスク-1
0-1
3.5
5.2
中間リスク-2
1.5-2
1.2
1.8
高リスク
2.5以上
0.4
0.3

治療
 治療法は(1)保存療法のみ(輸血など)、(2) 抗癌剤を使用しない薬物療法、(3) 抗癌
剤を用いた化学療法、(4)同種造血幹細胞移植(allogeneic hematopoietic stem cell
transplantation、allo-HSCT)に分類できます。MDSは一律な疾患ではなく、分類が多
岐にわたっているため予後および治療法も異なってきます。一般的にはFAB分類では
RA、RARS、IPSSではlow、INT-1が低リスク群に分類されています(Ref 7:内山 卓ほ
か:不応性貧血(骨髄異形成症候群)診療の参照ガイド. 臨床血液 47:47-68,2006)
しかしながらWHO分類で言うRCMD(RAに複数血球の異形成を伴う)では予後不良であ
ることが報告(Ref 8)されており、注意が必要となります。
 allo-HSCTはMDSを治癒させる唯一の治療法ですが、特に高齢者の多いMDSでは合
併症を有する症例も稀ではなく、移植関連死亡(移植前治療、移植片対宿主病、感染症
等による死亡)が非常に多くなるものと考えられます。後述するように移植前治療を弱め
た骨髄非破壊的移植が開発され、高齢者に対するallo-HSCTも可能となってきました。
加えて更に安全に施行するために合併症の点数化することによって、年齢だけではなく
移植前の臓器障害を総合的に評価し、移植をより安全に施行できる症例を選択する試
みが提唱されております(Ref 9)
 低リスク患者に対する治療は血球減少が軽度で、臨床症状に乏しい場合には経過観
察あるいは不定期の輸血、血球減少が著明で輸血を頻回に要する症例に対しては抗癌
剤を使用しない治療、すなわち抗胸腺グロブリン、シクロスポリンなどの免疫抑制療法、
エリスロポイエチン、顆粒球コロニー増加因子などのサイトカイン療法、ビタミンK2、ビタ
ミンD3などを用いた分化誘導療法、サリドマイドなど新規薬剤を用いた治療などがあり
ます。それぞれについて簡単に説明いたします。
(1) 経口鉄キレート剤
支持療法のみが治療となるMDS症例は輸血依存性になる場合が多く、長期間に及ぶ輸
血による鉄過剰摂取状態となります。鉄過剰状態は肝臓・心臓・膵臓に障害をもたらし、
重症化すると肝硬変、心不全に伴う心筋症・不整脈、糖尿病を発症し、予後不良となり
ます。この鉄を体外へ排出する薬剤をキレート剤と言い、注射薬製剤(デスフェラール)
しかなく、持続的投与は難しく、輸血のたびの投与あるいは月1-2回の定期的投与が一
般的となっています。2005年11月に米国で認可されたデフェラシロクスは経口剤であり、
連日投与によりデスフェラールを持続投与と同等の効果があるとされています(Ref
10)。デフェラシロクスと鉄が結合して複合体を作り、胆汁を介して大部分が糞便に、一
部が尿中に排出されます。便秘・下痢、湿疹が10-20%出現するものの重大な副作用は
ないと報告されています。2008年6月に本邦でも使用可能となりました。LeitchらはIPSS
-Low/Int-1の症例を対象としてデフェラシロクスを用いた鉄キレート療法がMDS症例の
予後を改善するか否かについて後方視的に検討したところ、デフェラシロクス使用群は
非使用群と比較すると明らかに生存期間の延長(80%vs44%)が認められたことを報告
しております(Leitch et al: Improved survival in patients with myelodysplastic
syndrome (MDS) receiving iron chelation therapy. Blood 108: 108(abstract
249))。従ってWPSSの予後因子の一つである輸血依存性の原因が過剰鉄によるもので
あるとすればデフェラシロクスの使用によって予後不良因子として成立するかについて
今後、検討が必要となります。
(2) 免疫抑制療法
 MDSの治癒が可能な治療法は造血幹細胞移植ですが、MDSは前述したように高齢者
に多いために骨髄破壊的な前処置治療によるHSCTは困難であり、現在、骨髄非破壊
的前処置治療によるHSCT(reduced intensity allo-HSCT、RIST)が試みられていま
す。しかしながらRISTは今のところ評価が定まっておらず、特に低リスクのMDSについ
てallo-HSCTの適応については慎重でなければならず、抗癌剤を用いない薬物療法が
考案されてきました。MDSの発症原因の一つに免疫異常(特にTリンパ球)が考えられ、
欧米を中心に低リスクMDS症例に対して免疫抑制療法が施行されております。
1. anti-thymocyte globulin(ATG)
 MDSに対するATG療法は1997年にMolldremらによって報告(25例)され(Ref 11)
2002年に更に61例と症例を増やして報告しています(Ref 12)。対象となったのは輸血依
存性の貧血を示すMDS症例であり、ATG投与によって21例(33.5%)が輸血非依存性と
なり、17例(27.8%)がその効果が平均して36ヵ月持続したと報告しております。2003年
にKillickらは20例中10例(50.0%)、病期別ではRA、RARS 13例中8例(61.5%)、
RAEB 4例中1例(25.0%)と報告(Ref 13)、2004年にStadlerは35例中12例(34.3%)、
病期別ではRA 24例中10例(41.7%)、RAEB 11例中2例(18.2%)と報告しております
(Ref 14)。また2003年にSteensmaが行った8例の検討(RAEB例が8例中6例を占めて
おりました)では有効例がなく、RAEBなどの進行例に対してATGは効果がない可能性が
示唆されています(Ref 15)
2.シクロスポリン
 1998年にJonasovaらがRA16例、RAEB1例に対して14例(82%)に血球増加が見られ
たことを報告(Ref 16)、以後、低リスクMDSに対するシクロスポリンの効果を示す報告が
されております。しかし本治療によりMDSが治癒することはなく、すなわち異形成所見や
染色体異常は消失することなく、シクロスポリンを中止すると血球減少が再び生じること
が報告されています。日本では特発性造血障害調査研究班においてMDS 50例のデー
タが集積され(Ref 17)、60.0%に有効であったと報告されています。治療効果は平均1.
76ヵ月で発現し、IPSSスコアーが0.5以下、予後良好染色体核型などが有効例の条件と
して挙げられています。またPNH(発作性夜間血色素尿症、paroxysmal nocturnal
hematogulobinuria)血球という特殊な赤血球を有する症例、HLADR15という遺伝子を
有する症例(PNH血球の検出率が高い)に特に有効であると報告されています。このこと
はPNH血球を有する症例は免疫異常が原因でMDSを発症したことを示唆しています
(Ref 18)
 シクロスポリンはATGと同等の効果が期待でき、また経口薬であるため外来で簡便に
投与可能であり、quality of lifeを考えると、有益な薬剤と言えます。しかしながら効果が
あったとしてもMDSを治癒させることはなく、血液細胞の異形成あるいは染色体異常は
残存することに注意を要します。
(3)ビタミンK2ならびにビタミンD3
 ビタミンK2は白血病細胞の細胞死を誘導し、また分化誘導(分化した白血病細胞は最
終的には細胞死が誘導されます)をもたらします。一方、ビタミンD3は1980年代を中心
にMDS特にRAに対する治療として投与されましたが、有用性は明らかではありませんで
した。しかしビタミンK2とビタミンD3を併用するとビタミンD3の分化誘導に必要な血中濃
度を下げ、ビタミンD3投与による高カルシウム血症を抑制することが可能、かつ分化誘
導効果が増強されることが報告されました(Ref 19)。ビタミンK2療法についてはMDSに
おける芽球減少や増殖抑制効果、血球数改善例が報告されております(Ref 20)。2003
年より本邦において低リスクMDSに対するビタミンK2単独およびビタミンK2+ビタミンD3
併用療法の研究が行われており、ビタミンK2単独血球減少改善率16.7%、貧血改善
14%、血小板減少改善21%、ビタミンK2、ビタミンD3併用療法では血球減少改善率33.
3%であり、中間解析の段階で併用療法の有用性が示唆されております(Ref 21:宮澤啓
介、大屋敷一馬:MDSに対する新規薬剤の効果-メチル化阻害剤とビタミンK2+ビタミンD3併用
療法-. 血液フロンティア 16:1201-1210, 2006)
(4)サイトカイン療法
 低リスクMDS症例で血清エリスロポイエチン濃度(赤血球増加因子)が高値ではなく、
輸血依存性が低いなどの特徴をもった症例についてはエリスロポイエチン製剤が有効な
場合があります(Ref 22)。またG-CSFはMDSに伴う好中球減少症(Ref 23)の70%程度
に有効であり、エリスロポイエチン製剤との併用によりMDSの血球減少に有効な場合
(Ref 24)がありますが、投与を中止すると再び血球減少が見られ、治癒をもたらすこと
はありません。
(5)新規薬剤
1.レナリドマイド(サリドマイド誘導体)
 2005年、MDSに対する新規サリドマイド誘導体であるレナリドマイドの有効性が報告さ
れました。サリドマイドは血管新生を抑制し、また腫瘍細胞への直接作用により多発性
骨髄腫に用いられておりますが、2005年にはMDSに対する治験薬としてアメリカで認可
を受けております。しかしながら、その作用機序は現時点では明らかにされておりませ
ん。臨床第I・II相試験においては輸血依存性MDS43例中ヘモグロビンが2g/dlあるいは
輸血非依存性となった症例が21例(49%)、その中でもIPSS low・Int-1 32症例中20例
(63%)を占めていました。また特筆されるのはMDSに見られる染色体異常で最も多く認
められる異常である5番染色体長腕の欠失(deletion 5q、del(5q))を有する12例中10例
(83%)に有効であり、有効10例中9例(90%)が正常核型に回復しております。一方、正
常核型では23例中13例(57%)、del(5q)以外の染色体異常を有する8例では1例(12.5%)
が有効であったと報告しており、del(5q)を有する症例に比較すると有効率は明らかに減
少しております(Ref 25)。引き続き行われた多施設共同研究ではdel(5q)単独異常症例
の方が他の異常をあわせ持つ症例よりも有効率が高く、del(5q)を有しない症例は更に
有効率は低下すると報告されています。従ってレナリドマイドはdel(5q)を有するMDS症
例に対する治療薬として期待できるものと考えられます。
2. デシタビン
生体の各臓器を構成する細胞は遺伝子的には均一ですが、構造、機能は特異的な形
質発現をしております。その発生には多数の遺伝子が発現誘導、抑制制御を受けてお
りますが、個体の完成後、その情報は娘細胞に安定した状態で伝えられます。この特異
的な形質が娘細胞に伝わるのには各遺伝子上に存在するシトシンとグアニンに富む小
領域のメチル化状態が関与します。詳細は省略いたしますが、この部位がメチル化され
ることによって母細胞から娘細胞への遺伝子発現情報の伝達が阻害されます。すなわ
ち腫瘍細胞では癌抑制遺伝子の伝達がメチル化されることによって"沈黙"させられてい
る状態という訳です。この"沈黙"させられている癌抑制遺伝子を再誘導させる(脱メチ
ル化)ことができる薬剤が分子標的療法剤デシタビンです。通常化学療法が適応となら
ない高齢者89例(サポーティブ治療群81例が比較対象)に対して臨床試験が行われ、完
全寛解9%、部分寛解8%、13%に血球回復が認められました。予後不良と考えられる
症例に対しても有効であり、急性白血病へ移行までの期間も延長されたことが報告され
ました(Ref 26)が、その有効性は現時点では決して満足できるものではなく、今後の臨
床研究課題と考えられます。
(6) 化学療法
 FAB分類ではRAEB、RAEB in T、WHO分類ではRAEB-1、RAEB-2、IPSSではInt-2、
Highグループに属する高リスクMDSでは長期寛解、治癒を目指す治療法として化学療
法、移植が選択されます。これら高リスクMDSの全例が化学療法の適応になるものでは
ありません。イタリア、英国ガイドラインともに化学療法の適応はInt-2以上で65歳以下と
しております。また染色体が予後不良群では支持療法の方が化学療法よりも生存率が
よく、予後良好群においては化学療法、特に多剤併用療法でG-CSFを用いた化学療法
において寛解率、生存率もよいと報告されています(Ref 27:伊藤良和、大屋敷一馬:ハイ
リスク骨髄異形成症候群の化学療法:あなたならどう治療しますか. 臨床血液 45: 281-
288,2004)
 従来、高リスクMDSあるいはMDSから移行した急性白血病(MDS/AML)に対する化学
療法は完全寛解に入りにくく、完全寛解に入っても持続期間が短期間、またMDSの年齢
層として高齢者が多いため治療関連死も多く、強力な化学療法よりも著しい骨髄抑制を
避けて合併症の頻度を低下させるキロサイド(Ara-C)少量療法を代表とする少量化学
療法が主流を占めておりました。しかしながら近年、支持療法の発展(成分輸血、抗菌
薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬の進歩、サイトカイン開発等)により、多剤併用療法が見直
されております。日本成人白血病研究グループ(Japan Adult Leukemia Study
Group、JALSG)では1993年より単剤少量療法(Ara-C少量と顆粒球コロニー刺激因子
(G-CSF))と多剤併用化学療法(Ara-C、ミトキサントロン、エトポシド)の予備比較試験
を実施したところ、それぞれの寛解率が32%、56%と多剤併用化学療法による完全寛
解率が高く、多剤併用化学療法を寛解導入療法とする臨床研究をスタートさせました
(JALSG MDS96)。この試験では60歳以上、performance status 2以上、低形成性骨
髄の3つをリスクファクターとして抗癌剤投与量を調整した治療が行われました。その結
果、MDS56症例において完全寛解率は53%で通常のAMLの寛解率80-90%に劣るも
のの、治療関連死亡は5%と低率であったことを報告しております(Ref 28)。この
JALSG MDS96で標準投与群と減量投与群で同等の有効率が得られたことより、強力
化学療法と比較的少量化学療法(Ara-C、アクラシノマイシン併用療法)の比較試験
(JALSG MDS200)を行い、2005年4月で登録を終了しております。
 現在、JALSG MDS206GではMDS症例に対して化学療法(イダマイシン・Ara-C)にG-
CSFを加えた多剤併用化学療法の研究を行っております。G-CSF単独では前述したよ
うにMDSに伴う好中球減少に対しては有効ですが、長期的効果はないことが報告されて
います。また白血病細胞を刺激して増加させるか否かについては明らかにされていませ
ん。この治療は抗癌剤を投与する前よりG-CSFを用いて白血病細胞を刺激、休止期に
ある白血病細胞を合成期に導入することにより抗癌剤の効果を増強して寛解率上昇、
予後改善を目的としています。同種移植源がない症例については寛解後治療として地固
め療法3コース、維持・強化療法6コースが設定されており、適した移植源がなくallo-
HSCTが施行できない症例に対して化学療法での長期生存を目指した治療となっていま
す。
(7) allo-HSCT
 allo-HSCTは現在のところMDSを治癒させる唯一の方法となります。一般的となった
骨髄破壊的allo-HSCTは再発率が28-34%、実質的な非再発死亡率が34-54%であ
り、年齢に従って移植関連合併症の頻度ならびに重症度が増加します(Ref 29,Ref 30,
Ref 31)。高齢者が多数を占めるMDSではこの骨髄破壊的治療に関連した死亡が多くな
ります。1991年から2005年に本邦において行われた16歳以上のMDSに対する同種移
植数は1491例であり、そのうち45歳以上が726例(48.7%)を占めており、中高齢者MDS
の同種移植数は年々増加しています(Ref 32:日本造血細胞移植学会:平成18年度全国
調査報告書. pp33-41, 2007)。その理由はフルダラビン、抗胸腺細胞グロブリン、低容
量放射線量を中心とした骨髄非破壊的前処置により化学療法関連死亡が減少、高齢者
あるいは臓器障害を持つ症例に同種移植が拡大されたことによります。
これまでの臨床研究よりMDSに対する骨髄破壊的前処置を用いたallo-HSCTに関する
危険因子が判明してきています。すなわち年齢(高齢)、病期(進行病期)、移植時期(診
断後早期ではない)、MDSのタイプ別の分類(RA、RARSはlow risk<他のグループは
high risk)、IPSSによる分類(int-2、high risk)、移植時の芽球比率(芽球比率が高
い)、染色体異常(予後不良型染色体)であり、更に移植細胞源(骨髄)、移植CD34陽性
細胞数(少ない)が関連することが判明していますRef 33,Ref 34,Ref 35,Ref 36,Ref
37,Ref 38)(括弧内は予後不良因子)。FAB分類別について本邦においてもHLA一致血
縁者BMT、HLA一致PBSCTおよびHLA一致非血縁者BMTについて5年生存率はそれぞ
れRAでは74.3、63.5、61.0%、RAEBでは49.6、37.6、37.0%、RAEB-tでは46.1、40.4、
40.4%と報告されており、病期が進行するに従い、血縁者間、非血縁者間HSCTともに
生存率低下が認められます(Ref 39:日本造血細胞移植学会:平成18年度全国調査報告
書. pp220-233, 2007)
 多くのMDS症例は明らかな病勢の進行がなければ診断後、長期生存が可能ですが、
最終的にMDSの多くの症例は血球減少が進行、あるいは疾患が更に進行性のタイプあ
るいは急性骨髄性白血病に移行、その時点での造血幹細胞移植は成功する可能性が
低くなります。しかしながらMDS患者数が少なくまた治療選択が患者、医師によって異な
るために移植時期についての前向きな比較は施行され難くHLA適合同胞からのHSCT
の最適な移植時期さえ、未だ明らかではありません。CutlerらはLow、Intermediate-1
IPSSグループにおいて、allo-HSCTを遅延させることによって長期生存率は改善、特に
40歳以下の患者群において顕著に改善させたことを報告しています(Ref 40)。一方、
Intermediate-2およびhigh IPSSグループにおいては診断時のallo-HSCTが生存率を
延長させるため、診断早期のallo-HSCTを推奨しています。また移植時期に影響を与え
る一つの要因として移植前の化学療法があります。Nakaiらは化学療法によって寛解が
得られたMDS症例の移植後無病生存率は化学療法未施行例と同等(49%)であるもの
の寛解を達成できなかった症例の生存率は明らかに不良(26%)であるため、allo-
HSCT前に化学療法を受けた症例の移植後の無病生存率(34%)は化学療法を受けて
いない症例(48%)に比べて有意に低いことを報告しています(Ref 41)。従って、彼らは
移植前の急速な進行を除いて、移植前に腫瘍量を低下させる目的での化学療法は推奨
しておりません。Nakaiらがまとめた症例は骨髄破壊的前処置が施行された症例でした。
骨髄非破壊的前処置の場合、移植前の化学療法の適応はどうでしょうか?Hoらは
refractory anemiaを除いた46例のMDS症例に化学療法を施行した後、骨髄非破壊的
allo-HSCTを施行した結果、化学療法による完全寛解例と非寛解例では明らかに前者
の予後が良好であり(無病生存率はそれぞれ41%および20%)、骨髄非破壊的allo-
HSCT前に化学療法を行うことを推奨しております(Ref 42)。骨髄非破壊的allo-HSCT
は移植前処置が弱められており、生着後のドナーリンパ球による移植片対腫瘍効果に
期待することになります。
従って、腫瘍進行が早い場合には、GVL効果が現れるまで時間を稼ぐために、前処置
前に抗癌剤治療を追加するなど移植前にはできる限り腫瘍量を減少させる工夫も行わ
れている。
 単施設報告を集めた国際的解析の報告は1998年以前に骨髄破壊的移植を受けた症
例のみであり年齢層は35-40歳で50歳以上はまれでした。実際、大規模研究においても
若年層では3年非再発死亡率はEBMTの報告33)では43%、IBMTR(Ref 35)、シアトルグ
ループ(Ref 34)でそれぞれ37%、40%と高いものとなっています。またドナーがHLA一致
同胞であった場合には無病生存率は29-40%であり、非再発死亡率は37-50%および
再発率は23-48%(Ref 39:日本造血細胞移植学会:平成18年度全国調査報告書. pp220
-233, 2007,Ref 33,Ref 43)、非血縁者ドナーでありかつ骨髄破壊的前処置を用いた場
合には治療関連死は50%以上と報告されております(Ref 44)。そして高齢者層では更に
非再発死亡率は高く、MDS再発には関与しないものの無進行生存率および全生存率に
影響を与えていました。前述した骨髄非破壊的allo-HSCTは骨髄破壊的allo-HSCTと比
べると前処置治療の強度が弱められ、治療関連毒性、移植関連死が減少、これまでの
骨髄破壊的allo-HSCTの前処置治療の副作用が軽減されるため高齢や合併症を有す
る患者に適応となります(Ref 45)。2006年、MDS 836例に対するHLA一致同胞間骨髄
非破壊的移植(215症例)と骨髄破壊的移植(621例)の比較検討が報告されています
Ref 46)。多変量解析では3年再発率は有意に骨髄非破壊的移植において増加、一
方、3年の非再発死亡は減少しております。結果的には3年無進行生存率(骨髄破壊的
移植 39%、骨髄非破壊的移植 33%)、全生存率(骨髄破壊的移植45%、骨髄非破壊
的移植41%)は同様の結果と報告されています。骨髄非破壊的移植後の3年非再発死
亡が低率であり、これらの症例が高齢(骨髄非破壊的移植 73%、骨髄破壊的移植28%
が50歳以上)であったことより、骨髄非破壊的allo-HSCTは高齢者の同種移植法として
有望であるものと結論しております。高齢者に対する骨髄破壊的血縁者間HSCTと骨髄
非破壊的非血縁者間HSCTに違いがあるのかについてはトレオサルファン、ブスルファ
ンからなる骨髄破壊的治療を前処置としてHSCTをMDS、secondary AML26例(年齢中
央値60歳(44-70歳))に対して施行、非血縁者間と血縁者間移植において生存率に有
意差は認められなかったと報告しております(Ref 47)(2年推定生存率ならびに無病生
存率はそれぞれ36、34%)。

おわりに
MDSに対する新規薬剤の開発、化学療法、同種造血幹細胞移植法、支持療法の進歩
により長期生存率は改善しております。しかしながら未だ満足できるものではなく、今
後、これらの治療法を組み合わせた新たなる治療戦略により生存率の改善が得られる
ものと考えられます。また2000年以降、増加している成人臍帯血移植についてはMDS
high risk群13例と少数ではありますが骨髄破壊的臍帯血移植で2年無病生存率が76.
2%と極めて良好な成績が報告(Ref 48)されており、今後、期待が持てる移植法の一つ
と考えられます。

平成20年2月18日初稿
平成20年7月31日追加
平成20年8月31日WPSS追加
トップへ
戻る