抄録

臍帯血移植後に合併した自己免疫性甲状腺疾患の1症例.
臍帯血移植後の自己免疫性甲状腺疾患の合併は稀であり、allo-reactionに関連して発症すると言われている、我々は臍帯血移植後に破傷した自己免疫性甲状腺疾患の1症例について報告する。[症例]41歳、男性(甲状腺疾患既往なし)。2007年3月、再生不良性貧血と診断。同年にATG+ CyA施行するも効果不良。最多決意食目的で当科紹介となった。Fludarabine+ Melpharan+ TBIによる前処置の後、2009 年12月にHLA一抗原不適合臍帯血をドナーとして同種造血幹細胞移植を施行した。GVHD予防にはTacrolimus、mycophenolate mofetilとした。Day13に皮疹、下痢、発熱を認めたためpre-engraftment-immune-reactionと診断、mPSL 1mg/kg/day投与を開始、症状は改善傾向のため早期に漸減とした。Day19に好中球の生着を認めた。Day35に皮膚GVHD(stage 3、Grade 2)を認めたが、ステロイド外用にて軽快した。Day39より原因不明の発熱が持続。Day60に熱源精査で施行したFDG-PETにて両側甲状腺にSUV 6.3異常集積、血液検査にてFT3↑、FT4↑、TSH↓、TRAbおよびTPOAb陽性また、甲状腺生検にてT細胞を主としたリンパ球の浸潤を認めたため、橋本病を基礎にした無痛性甲状腺炎と診断した。症状は発熱、頻脈、血小板減少であり、プロプラロノール+ ヨード・グリセリンの内服にて改善。以後は症状の再燃はなく、甲状腺ホルモン補充は必要とせず経過している。[結果・考察]臍帯血移植後の自己免疫性甲状腺疾患の合併という稀な症例を経験した。我々は文献的考察を加え報告する。

非寛解期に同種造血幹細胞移植(HCT)を施行された白血病患者の長期生存に寄与する因子の検討.
[背景]非寛解期でHCTを施行された白血病患者の予後に年齢、予後不良染色体、HCT時の腫瘍量などが影響すると報告されているが、5年以上の長期生存に関わる因子については十分に検討されていない。[対象・方法]1999年1月-2009年7月に当科で非寛解期にHCTを施行された42例(年齢中央値39歳、15-67歳、de novo AML 17例、ALL 12例、CML-AP 2例、MDS/AML 10例、PCL 1例)を後方視的に解析した。PIFは7例、AML/ALLではpoor-riskが22例含まれていた。HCT前の骨髄blast数の中央値は26%(0.2-100%)、6例は中枢神経病変であった。ソースは血縁BM 3例、PB 13例、非血縁BM 20例、CB 6例。前処置はintensified myeloablative 9例、myeloablative 1例、reduced-intensity 22例(うち14例は前処置3週以内に化学療法を施行)、HLAは31例がA、B、DR一致、3例が1抗原不一致、7例が2抗原不一致(うち5例がCB)、1例が3抗原不一致であった。GVHD予防はcalcineurin単独5例、calcineurin+ sMTX 32例、calcineurin+ MMF 2例、なし 3例。5年以上の生存を長期生存と定義した。[結果]好中球生着は79%、生着中央値は17日(9-32日)、5例がHCT後早期に死亡(4-20病日)、評価可能37例における2-4度急性GVHD累積発症率は38%、評価可能24例における慢性GVHDは50%(1例のみ限局型)。生存者の観察期間中央値は85ヶ月で、5年OSおよびLFSは19%、17%、5年NRMは38%であった。OSに影響する移植前因子の単変量解析では、予後不良染色体、骨髄blast数(>26%)、MDS/AML、CBが有意に予後不良と関連していた(p<0.05)。慢性GVHD発症あり・なしの5年OSはそれぞれ66.7%、0%であった(p<0.001)。[結語]慢性GVHDにより誘導されるGVL効果は活動性白血病患者の長期生存または治癒に重要な役割を果たす可能性がある。

同種骨髄移植後に横断性脊髄炎を合併した急性リンパ性白血病.
[緒言]造血細胞移植後の中枢神経合併症としては感染症、免疫抑制剤による脳症、reversible posterior leukoencephalopathy(RPLS)など多岐に亘る。今回我々は同種移植後に横断性脊髄炎を合併したALLの1例を経験した。[症例]40歳、女性。2009年10月、Ph陽性ALLと前医にて診断され、molecular CRの状態で2010年5月に同種骨髄移植目的にて当科紹介入院となった。L-PAM(70mg/sqm×2)、TBI 12Gy/5frを前処置として、HLA-A、B、DR allele一致の女性ドナー骨髄(ABO一致)を移植した。GvHD予防はsMTX+ CyAにて行った。Day28に好中球生着が得られ、非不意GvHD(Grade II)を合併したがステロイドで軽快。CyA漸減中のDay90前後より背部痛が先行した後に嚥下障害、下肢筋力低下、痛覚異常が出現し、約2日で高信号病変を認め、横断性脊髄炎と診断した。髄液検査では一般、好酸菌培養、CMV、HHV-6、VZV、HSV、細胞診いずれも陰性であり、明らかな感染、再発を示唆する所見は得られなかった。一方で細胞数9個/μL、蛋白102mg/dLと蛋白細胞解離を示し、免疫学的機序の関与も疑われた。mPSL投与後に痛覚障害、誤嚥症状は改善傾向を示し、現在も治療中である。[考案]造血細胞移植後に非感染性の横断性脊髄炎を合併した報告は検索し得た限り数報が散見されるのみで、同種移植に伴う免疫学的機序が病因として示されている。治療に関してはステロイドに良好な反応を示すと報告されているが、本症例もステロイド投与以降に感覚障害の回復を認め、有効性が示された。文献的考察を加えて報告する。

当科におけるPh陽性ALLの同種造血幹細胞移植成績及び予後因子の検討.
[背景]Ph陽性ALL の根治的治療には同種造血幹細胞移植が必要であると考えられているが、非血縁者骨髄移植(uBMT)における予後因子に関するまとまった報告は少ない。また移植時分子遺伝子学的CRであることの予後への影響は未だ定まっておらず、TKI世代では移植の予後因子に変化が生じている可能性もある。
[目的・対象と方法]2001年10月?2010年6月に当科においてuBMTを施行されたPh陽性ALL16例(男性13例、女性3例、年齢中央値50歳)の治療成績および予後因子を後方視的に解析した。
[結果]生存者の観察期間中央値は28ヶ月(3-79ヶ月)。1例を除く全例で移植前にTKIが投与されていた。骨髄破壊的前処置は8例であり、HLAは1例を除く全例でA、B、DR allele一致、GVHD 予防は全例CsA+MTXであった。2年OS・2年LFSはそれぞれ71%、58%、また2年TRM・再発率はそれぞれ13.5%、28.1%であった。移植前病気が分子遺伝子学的CRとそれ以外の群での比較において、2年LFSは89%対0%(p=0.001)と有意差を認めた。移植前病気が血液学的CR1とそれ以外の群で比較すると2年LFSは70%対30%(p=0.10)と有意差傾向を認めた。またLFSに対する予後因子の単変量解析では分子遺伝子学的CR(HR 0.06(95% CI:0.01-0.53)が予後因子として有意差を認め、移植前血液学的CR1(HR 0.28(95% CI: 0.06-1.43)、p=0.13)が有意傾向を示した。
[結論]uBMTに限局した解析においても移植前疾患状態が予後に影響する因子であり、中でも分子遺伝子学的レベルでの CRの有無が移植予後に大きく影響する可能性が示唆された。

造血幹細胞移植後再発した悪性リンパ腫患者家族が在宅療養選択後に体験したこと.
移植後再発時に在宅療養を選択した患者の家族が、在宅療養中体験した内容及び再発後決定から在宅療養で医療者に求めるケアの内容を明らかにすること。[方法]対象は在宅療養を選択したDLBCL再発20歳代女性患者の家族。在宅移行後の体験など半構成的質問紙を用いて面接を行いデータ集積した。面接後に会話記録として文章に起こし、在宅療養中体験した内容をコードとして抽出し質的帰納的分析した。[倫理的配慮]遺族面談を行い精神的な何低の見られた時期に口頭と文章で研究の説明を行った。研究協力は自由意志に基づく選択であること、拒否されても不利益は生じないことを説明し承諾を得た。個人が特定されないようにプライバシーの保持に配慮した。[結果]:患者は化学療法で寛解3年後に中枢再発し、抗癌剤治療するが効果なく自家移植を受けた。退院後に腰髄再発を認めたが、患者は再移植せずに在宅療養を選択し永眠された。家族の体験の内容は、『家族との間で苦しむ体験』『患者の希望を支え続ける体験』『患者らしさを支える体験』『家族が一緒に過ごす体験』『患者の病状悪化を感じる体験』『医療者の支援に助けられた体験』『介護疲れの体験』が語られた。医療者に望むケアは「希望をもてる状況も必要」「医師決定の判断となるはっきりとした状況説明」「安心して看てもらっているという環境」などだった。[考察]家族は患者の意志を尊重しながらも家族間で葛藤していた。療養の中で患者が希望を見いだし、それを家族が察して患者らしさをさせていた。家族は一緒に過ごす体験により癒される一方、病状の進行を目の当たりにして介護疲れでの苦悩もあった。在宅療養の移行時の看護として、希望、安心のもてる環境の保証などが示唆された。

移植病棟における患者医療者交流会の実践報告.
[はじめに]移植病棟では緩和ケアチームが介入しているが、病棟スタッフは患者とゆっくり話す機会がなく介入の難しさを感じていた。そこで双方が時間を共有する機会を意図的につくることにより、コミュニケーションや心理的ケアのきっかけができるのではないかと考えた。今回、患者・医療者交流会として「思いやりカフェ」(以下カフェとする)を立ち上げ実践した。その内容について検討したので報告する。[目的]カフェの実践を振り返り、良かった点と今後の課題を明確にする。[方法]対象は研究目的など説明のうえ参加に同意が得られた患者、医療者。データ収集は研究者が独自に作成した半構成的質問紙表を用いて面談を行い、良い点、改善点などを抽出し類似するものをまとめ分析した。[倫理的配慮]参加は自由意志であり、得られた回答は個人が特定されないよう配慮した。[結果・考察]カフェへの参加について患者はしやすかったと答えていたが、初めての参加は、少し勇気がいると答えていた。知人がいたり、レクリエーションが好みのものであれば、参加のきっかけになると思われる。交流ができたと感じている人は多いが、個々のカフェに参加する目的に違いがあったため物足りなさを感じる方もおられた。しかし、色々な人と交流することにより励みとなった、色々は足がしたいと答えており、交流会開催のニードは高いと考える。医療者の意見としては、患者の違った面がみられ、その後の会話がスムーズになったという意見もあった。[まとめ]カフェ開催により交流ができた。課題は参加しやすい内容を考案していることが必要。会における医療者は、ファシリテーターとしての役割が必要となり更なるスキルアップが求められる。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を発症した同種造血幹細胞移植ドナーの1例.
症例は27歳男性。10年前に実弟の造血幹細胞移植ドナーとなり、17歳時に骨髄、更に1年後末梢血幹細胞を提供した。平成20年11月に右側腹部腫瘤を指摘、下部消化管内視鏡検査で上行結腸に多発腫瘤・潰瘍性病変を認め、通過障害も認めたためA総合病院外科にて右半結腸切除術を施行された。摘出病理標本からびまん性大細胞B細胞リンパ腫の診断となり、当院紹介となった。患者はその後化学療法(R-CHOP療法)を6コース施行し、完全寛解に至っている。同種造血幹細胞移植が一般的になるに伴い、移植ドナーの悪性腫瘍発症の報告が近年散見されるようになっている。重要な事例であると考え、文献的考察を加え報告する。

プリン誘導体投与後にアデノウイルス(AdV)-出血性膀胱炎(HC)を来した悪性リンパ腫の2例.
[症例1]69歳男性。2005年両足の痛みで初診、原発性マクログロブリン血症を診断。R-CHOP、SBZ無効で、2007年多関節炎、末梢神経障害も併発。2008 年1月からFludarabine内服6コースでM蛋白ほぼ消失。休薬観察中の2009年5月からM蛋白再度増加。約25日後軽快。[症例2]71歳男性。2002年に腸閉塞で緊急CF。回盲部から直腸の著明な隆起性病変でマントル細胞リンパ腫と診断。R-CHOP療法無効、MECP/CHOP交代療法でCR。2006年に腸間膜リンパ節腫脹、全大腸にポリープ様隆起で再発。2007年1月に骨髄浸潤。R-FCM療法でCR。2008年に腸間膜リンパ節増大、2009年1月からFludarabine内服3コースは不応。10月に2-CdA単独療法で血球減少さらに増悪。11月末から頻尿、血尿、発熱で入院。尿AdV陽性。発症約28日後に軽快。[考察]プリン誘導体は強力な免疫抑制作用により低悪性度悪性リンパ腫に対して有効だが、非移植患者でもAdV-HCのリスクを高める。

Autoimmune hemolytic anemia with trisomy X chromosome abnormality.
三染色体異常を認めた自己免疫性溶血性貧血.
先天的異常として三染色体異常(47、XXX)を持つ女性が自己免疫性溶血性貧血を発症した。患者は68歳女性、重度の貧血のため精査目的にて当院に紹介された。骨髄検査では顆粒球系、赤芽球系および巨核球に異形成は認められなかった。血液検査では直接クームス試験が陽性、赤血球不規則抗体が多数検出され、ハプトグロビンならびにヘモグロビン低値が認められた。骨髄および末梢血20細胞全てに47,XX,+Xの染色体異常が認められた。我々は三染色体異常を持つ自己免疫性溶血性貧血と診断した。プレドニゾロンを2週間経口投与を行ったところ、ヘモグロビン値は9.5g/dlまで改善を示した。
(抄録:英語)

Early start of Bortezomib may contribute to better survival of Japanese multiple myeloma patients.
早期ボルテゾミブ投与は本邦多発性骨髄腫生存により影響を及ぼす.
多発性骨髄腫の治療としてボルテゾミブは生存によい影響を与えていることは世界的に明らかにされているが、本邦では2006年末にその使用が認められたところであり、本邦多発性骨髄腫患者の臨床データは限定されている。我々は2006年4月から2010年3月に化学療法を受けた骨髄腫56例(男性27例および女性29例、IgG型32例、IgA型14例、IgD型3例、BJP型6例および非分泌型1例)について後方視的に解析を行った。初回治療時の患者年齢中央値は68.5歳(42-85歳)であった。IMWG分類では、貧血(66.1%)、骨病変(64.3%)腎機能障害(23.2%)および高カルシウム血症(17.9%)が主要臓器障害であり、これが治療開始の目安となった。18例において初回デキサメタゾン大量療法数コース直後にボルテゾミブを投与した(group I)、16例においてセカンドラインあるいはサルベージ療法として他の治療後にボルテゾミブを投与した群(group II)および22例がボルテゾミブ投与なく治療を行った(group III)。経過観察期間が短期間であったため統計学的に有意差は認められなかったが、2年生存期間はgroup I、II、IIIそれぞれ94.4%、84.6%および72.1%であり、ボルテゾミブ早期投与は生存によい影響を与えていることが示唆された。
(抄録:英語)

輸血後鉄過剰症に対する経口鉄キレート剤Deferasiroxの使用経験.
[目的]輸血後鉄過剰症に対し国内でのDeferasiroxの投与は、当初使用開始血清フェリチン高値例に対しての投与が散見され、死亡や副作用による投与中止症例が多かった。しかし使用実態が変化し、血清フェリチン低値からの投与開始例が増加しつつある。血液疾患に伴う輸血後鉄過剰症に対してDeferasiroxを使用投与した60例において、効果・副作用・継続率を検討した。[患者背景]MDS26例、AA24例、PRCA3例、AML2例、ET1例、MM1例、PM1例、MF1例の径60例。年齢24-84歳(中央値68歳)。観察期間中央値182日。Deferasiroxの初期投与量5-20mg/kg。免疫抑制剤(CyA)併用は20例。[成績]治療効果は、投与前の血清フェリチン値369-14794ng/ml(中央値2296.5ng/ml)が投与6ヶ月後342-9940ng/ml(中央値1932ng/ml)と低下、Deferasiroxの用量依存的な血清フェリチン値の減少が得られた。60例のうち観察終了時にDeferasiroxが継続されていたのは33例(55%)だった。中止は、原疾患の悪化に関連又は死亡した14例(23.3%)と、Deferasiroxの副作用による8例(13%)だった。6ヶ月以上投与継続した例で血清フェリチン値は有意に減少し、それに伴いAST、ALTも減少した。造血機能の改善を2例に認めた。副作用については、19例が吹く要注視・休薬(腎障害8 例、腹部膨満感3例、食欲低下2例、皮疹2例、全身倦怠感2例、悪心1例、浮腫1例)を必要とした。Crは可逆的であったが23例(38%)で施設基準値以上に達した。血清フェリチン値の維持を目的にDeferasirox 5-10mg/kg/日にて投与した群においては、休薬・中止に至る症例が少なく、血清フェリチン値を維持することができた。[結論]Deferasiroxによる除鉄効果が得られたが、副作用による休薬・中止、死亡例が散見された。副作用によりDeferasirox増量困難な例も見られ、輸血後鉄過剰と診断後早期にDeferasirox投与を開始することが重要と考えられる。

クローン病治療中に発症した、CD13、33陰性の急性骨髄単球性白血病の1例.
症例は32歳男性。1993年にクローン病と診断され、ステロイド、サラゾスルファピリジンなどで治療されていたが、コントロール不良で腹痛・下痢を繰り返していた。2003年4月よりアザチオプリン・インフリキシマブ併用療法を開始し、腹痛・下痢などの症状改善を認め、以降、インフリキシマブを4-10週毎に維持投与されていた。2010 年3 月、外来定期検査時に末梢血中に芽球の出現を認めたため、当科紹介となった。骨髄検査を施行したところ、顆粒を有し、ペルオキシダーゼ染色陽性、二重エステラーゼ染色陽性の白血病細胞を32%認めた。染色体検査では20/20細胞で46XY、t(1;11)(q21;q23)、add(8)(q22)、FISH検査でもMLL遺伝子の異常シグナルを96%でみとめ、急性骨髄単球性白血病(WHO分類AML NOS)と診断した。白血病細胞表面抗原解析においてはCD13、CD33、CD34、CD14、CD56陰性、CD15、CD64、CD65、CD117、HLA-DR陽性であり、骨髄系に特徴であるCD13、CD33の発現は認められなかった。ダウノルビシン、シタラビンにて寛解導入療法を開始し、現在、治療中である。クローン病に対しアザチオプリン・インフリキシマブ治療中に発症し、骨髄系の細胞表面抗原CD13、CD33が欠損している急性骨髄単球性白血病は稀であり、文献的考察を加えて報告する。

HLA一致同胞からの骨髄移植後再燃の重症再生不良性貧血に対し、同一ドナーからのRIC-PBSCTを施行した一例.
[緒言]血縁者間骨髄移植後に血球回復を得るも、混合キメリズムを経て再燃した重症再生不良性貧血に対し、同一ドナーからの末梢血幹細胞移植にて再度完全ドナー型キメリズムを得た症例を経験したので報告する。[症例]33歳、女性。2004年血小板減少を指摘され、その後汎血球減少が進行し、重症再生不良性貧血と診断。2005年12月、ATG(リンフォグロブリン)+CsAにて加療するも無効、若年で挙児希望のためにRISTを選択し、2007年6月。Flu(30mg/sq×6)+CY(60mg/kg×2)+ATG(ゼットブリン5mg/kg×5)を前処置としてHLA一致同胞からの骨髄移植を施行。GVHDはなく、Day+17に好中球生着を得たのち順調に血球回復を認め、Day+29に骨髄全血:完全ドナー型、末梢血T細胞:混合キメリズム(レシピエント22%)となった。生着後から約7ヶ月間、輸血非依存性であったが、徐々に血球減少が進行し、再び輸血依存に陥った。キメリズムに関しては、骨髄全血:完全ドナー型、末梢血T細胞:レシピエント30%弱の混合型のまま推移し、血球減少と併せて原病再燃と診断。DLI、CD34陽性細胞輸注などを含めて検討の結果、2010年3月12日(初回移植後32ヶ月)、同一ドナーより末梢血幹細胞移植を施行。前処置にはFlu(30mg/sq×4)+CY(300mg/sq×4)+ATG(サイモグロブリン7.5mg/kg)+TBI 3Gyを、GVHD予防にはCsA+sMTXを用い、移植CD34陽性細胞数は3.9×10^6/kgであった。好中球、血小板についてはDay+13で生着し、Day+26には末梢血T細胞にて完全ドナー型キメリズムを得て、現在までGVHDを認めず無輸血経過観察中である。[考察]本症例の初回移植後再燃については、混合キメリズムを認めた経緯から、レシピエントCTLの残存が影響していた可能性が考えられる。RISTでの再移植に際して、同一ドナーを用いた場合の治療戦略は定まっていないが、幹細胞数に期待できる末梢血幹細胞を用い、生着の担保として低線量TBIを含む本レジメは、有効であるものと示唆される。

遺伝子組み換えトロンボモジュリン(rTM)が有効であった産科DICの3症例.
症例1:30歳、女性。妊娠33週に常位胎盤早期剥離による子宮内胎児死亡により、緊急帝王切開術が施行された。術中出血性ショック状態となりDICを発症。rTM380U/kgの投与を開始した。rTM投与3日目には循環動態及びDICの改善を認めた。症例2:31歳、女性。妊娠37週に腹部緊満及び妊娠高血圧症にて入院。血液検査にて、肝機能異常、血小板減少を認めHELLP症候群と診断され緊急帝王切開術が施行された。術後の血液検査にてDICと診断されrTM380U/kgの投与を開始した。rTM投与3日目に肝機能の改善が認められ、DICからの離脱も確認された。症例3:39歳、女性。妊娠40週3日目に3856gの男児を経膣分娩。分娩後より弛緩出血が持続し双手圧迫でも止血困難なため、腹式子宮全摘術が施行された。術中出血性ショック状態となりDICを発症。rTM380U/kgの投与を開始した。rTM投与6日目にはDICの改善が認められた。考察:rTMは生体内のトロンビンの生成量に応じて抗凝固作用を発揮できると考えられており、臨床上出血の助長なく抗凝固作用が期待できる新規DIC治療薬である。しかし産科DICに対するrTMの有効性は確立されておらず、今回産科DICを発症した3症例にrTMを使用したところ奏功したため、今後有用な治療戦略となり得ると考えられた。

骨髄異形成症候群の経過中に発症した後天性血友病Aの1例.
【はじめに】後天性血友病Aは第VIII因子抗体産生により重篤な出血症状を来たす稀な疾患である。今回、骨髄異形成症候群(MDS)の経過中に後天性血友病Aを発症した症例を経験したので報告する。【症例】67歳女性。自己免疫疾患の既往なく、平成20年頃からMDS(RAEB1)に対してPSL 10mg/日を内服中。平成22年4月初旬から両側前腕と下腿の皮下出血、腫脹、疼痛が出現、血液検査にてAPTT 80秒、PLT 13.8万/μL、PT 10.4秒、第VIII因子活性(FVIII) 1%、抗体価(In) 13.8BU/mLより後天性血友病Aと診断した。4月16日より止血目的に活性型プロトロンビン複合体製剤 100U/kgを12時間毎3回投与と抗体除去目的にPSL 1mg/kgを開始した。PSL投与3週間ではIn低下を認めず、PSL漸減とCPA 2mg/kgを開始した。CPA内服6週間でFVIII 5%であったが、In 2.4BU/mLと著明な低下を認めた。以後ADL向上目的にリハビリテーションを開始、日常生活運動強度で再出血が無いことを確認し、以降PSLと CPA内服にて治療継続中である。【考察】後天性血友病Aは稀な疾患ゆえAPTT単独延長の場合、積極的にFVIIIとIn測定が必要である。また治療期間中は安静が原則だが高齢者の場合、長期安静でADLが低下するため、止血状況を確認の上リハビリテーション等でADL改善を図る必要がある。更に抗体価は長期間残存することも多く、リハビリテーションの開始時期や施行強度の判断が今後の検討課題である。

POEMS症候群に類似の病態を呈したクリオグロブリン血症合併MALTリンパ腫の1例.
【症例】58歳、男性。平成20年から両下腿に皮疹が出現し、近医でアナフィラクトイド紫斑と診断されていた。平成21年末頃から下腿の疼痛、しびれと運動障害を自覚するようになり平成22年2月に近医を受診したところ、肝脾腫、腹腔内および鼠径リンパ節腫脹とsIL-2R上昇が認められたため、悪性リンパ腫を疑われ当院紹介受診となった。当院での精査の結果、1)下肢neuropathy、2)肝脾腫、3) 潜在性甲状腺機能低下症、4)IgM-k型M蛋白血症、5)皮疹および血漿VEGFの著明な上昇(293pg/ml)が認められたためPOEMS症候群が疑われた。その後、右耳下腺部腫脹も出現したため、同部および鼠径リンパ節と肝生検を行った結果、MALTリンパ腫と診断された。また、下腿皮疹はクリオグロブリン血症性皮疹と判明し、下肢の神経症状と併せてMALTリンパ腫関連のM蛋白血症に起因した血管炎症状と考えられた。このPOEMS症候群に類似の病態を呈したクリオグロブリン血症合併MALTリンパ腫の1例に関して、若干の文献的考察を加えて報告する。

多発性骨髄腫の経過中にplasmablastic transformationを来した1例.
[症例]73歳、男性。7年前、M蛋白血症を認め骨髄検査などにて多発性骨髄腫(IgG型、λ-type、DS IIIA、ISS II)と診断し、少量MP療法を継続していた。平成21年8月に咳嗽が出現し、8cm大の縦隔腫瘤を認め、胸腔鏡下生検を行い、plasmablastic transformation of myelomaと診断した。VAD療法2コースにて縮小傾向となったが、3コース目には増大し局所放射線照射40Gyを施行した。PRのためサリドマイド維持療法を勧めたが経済的理由のため拒否された。平成22年1月には汎血球減少進行、胸壁・肺病変の出現にて増悪したため、MCNU-VMP療法を試みたものの効果を認めなかった。ボルテゾミブは間質性肺炎のため使用できなかったため、緩和治療目的にて転院となった。多発性骨髄腫の経過中にplasmablastic transplantationを来す症例は稀であると考えられ、文献的考察を加え報告する。

軟部組織へのびまん性浸潤にて再発したHHV-8(-)HIV(-)・primary effusion lymphoma様リンパ腫の2例.
 Primary effusion lymphoma(PEL)は腫瘍病変を欠き、体腔液中で腫瘍細胞の増殖を認めるリンパ腫である。HHV-8との関連を認め、多くはHIV感染者であるが、同様の病態を示すHIV、HHV-8陰性例も少なくなく(PEL様リンパ腫)、疾患概念は必ずしも明確ではない。びまん性の軟部組織浸潤にて再発したPEL様リンパ腫2例を報告する。[症例1]男性。81歳時、胸腹水・心嚢液にて初発、CVP療法にて完全寛解。84歳時、腹水貯留にて再発し、Rituximab単独治療にて再々発、R-THP-CVP療法にて寛解。[症例2]男性。81歳時、胸腹水にて初発、R-CVP療法にて完全寛解。83歳時、頸部?縦隔軟部組織にびまん性浸潤、扁桃・精巣浸潤にて再発、R-THP-CVP療法にて再寛解。85歳児、頸部?縦隔に同様の再々発、R-ECVP療法にて寛解。[考案]PELの予後は著しく不良とされるが、HHV-8・HIV陰性例(PEL様リンパ腫)の予後は必ずしも不良ではないことが示唆されている。本2例は、再発を反復したが化学療法への感受性は高くそれぞれ9年、5年以上の生存が得られている。ともに高齢でEBV抗体価の所見を有し末梢血中のEBV-DNAが高値であった。加齢性免疫不全との関連からも興味ある病型と思われる。

EDTAによる血小板衛星減少を認めた健常人の1例.
 症例は23歳女性。骨髄移植ドナーとして平成20年10月に入院。老間までに健康上の問題を指摘されたことはない。術前検査として血液検査・胸部レントゲン・呼吸機能検査を施行し特記すべき所見を認めなかった。血算:WBC 9200/μl、RBC 467万、Hb 13.6g/dl、Ht 41.1%、PLT 35.2 万。白血球分画に異常は認めなかった。EDTA混和血での末梢血塗抹標本で好中球周囲に吸着した血小板を認めた(血小板衛星現象:platelet satellitism)。クエン酸混和血では血小板吸着は抑制されており、EDTAにより惹起された反応であると考えられた。血小板衛星現象は偽性血小板減少症の亜型として報告が散見される。血清中に存在する免疫グロブリンの関与など、原因については諸説あるが詳細は未だ明らかではない。今回血小板減少を伴わない健常人に血小板衛星現象を認め、興味深い事例と考え報告する。

Hyper-CVADで寛解導入後、molecular remissionに到達した成人E2A-PBX1陽性ALLの2例.
 【症例】初発の成人E2A-PBX1陽性ALL患者2例(60歳女性、49歳男性)、初診時、両例とも骨髄検査にて白血病細胞の増殖を認めた。フローサイトにて、腫瘍細胞表面抗原はCD10+、CD19+、HLA-DR+、CD20-、CD13-、CD33-、CD34-、CD3-であった。染色体検査にて t(1;19)転座、E2A-PBX1キメラmRNAが検出され、E2A-PBX1陽性ALL(intermediate precursor B cell)と診断した。両患者に寛解導入療法として、Hyper-CVADによる寛解導入療法を施行した。化学療法1コース施行後の骨髄評価にて、 E2A-PBX1キメラmRNAは検出感度以下まで低下しており、分子学的寛解に到達していることがわかった。【考察】ALLの中でも成人E2A- PBX1陽性ALLは稀で、予後不良因子とする報告が多く、第一寛解期での移植を勧める論文が多い。しかし、寛解導入に最適な化学療法レジメンについての考察は少ない。我々は、Hyper-CVADにて寛解導入を行い、早期にmolecular remissionに到達した成人E2A/PBX1陽性ALL患者2例を経験したので報告する。

縦隔原発NHL(DLBCL)の化学療法後、大動脈解離を発症した1例.
 【症例】78歳、女性。初発の縦隔原発NHL(DLBCL)
【現病歴】2009年3月25日内視鏡下生検にて、NHL(Diffuse large B-cell lymphoma, lung, mediastinum)と診断。4月14日に当院血液内科受診。臨床病期診断(Ann Arbor)は、2A期。4月19日〜THP-COP療法施行。治療後、sIL-2Rの低下、CXPにて縦隔腫瘍の縮小を認めた。以降、3コースの化学療法を入院にて実施。7月27日外来にて化学療法4コース目施行した。day7に38.2℃の発熱を認め、day8に近医受診し、抗生剤処方。day9に症状改善しないため、当院受診。血液検査で、WBC 1100、Hb 9.6、plt 10.8万、CRP 13.56とFNを示唆する所見であったが、胸部造影CTにて、血栓閉鎖型大動脈解離、心エコーにて上行大動脈〜腕頭動脈起始部までintimal flapを認め、新規発症のStanford A型大動脈解離と診断。高齢、血栓閉塞を認めたため、保存的に治療した(降圧療法+疼痛除去)。CTにて増悪認めず、症状改善のため退院。現在、外来通院中でNHLの再発、大動脈解離の増悪を認めない。以上、縦隔NHLに対する化学療法施行中にFNを疑う臨床症状を呈する大動脈解離を経験したので報告する。

急性前骨髄性白血病(APL)に合併した播種性血管内凝固症候群(DIC)に対しリコンビナントトロンボモジュリンを用いた2症例の検討.
APL合併DICでは線溶系の活性を認めヘパリン類の使用が躊躇される場合が多い。リコンビナントトロンボモジュリン(rTM)は,生体内のトロンビンの生成量に応じて抗凝固作用を発揮できると考えられており,臨床上出血の助長なく抗凝固作用が期待できるDIC の画期的薬剤である。当院では、2症例のDIC合併APLに対しrTMを使用した。
症例1:44歳、男性。現病歴:入院1日目、厚生省診断DIC診断基準で3点、急性期DIC診断基準で5点でありDICと診断し、rTM、ガベキサートメシル酸塩を開始。入院5日目よりAPLに対しAPL204で加療を開始。
症例2:79歳、女性。現病歴:入院1日目、厚生省診断DIC診断基準で3点、急性期DIC診断基準で7点でありDICと診断、rTMで加療を行った。入院3日目よりATRA内服を開始。
2症例ともDICに対しrTMで加療しDICの悪化を認めず、十分な化学療法を施行することができ寛解に至った。rTMの作用機序より今後APL合併 DICに対し第一選択となる可能性がある。そのため、APL合併DIC症例でのrTMの使用症例の集積が重要であると考えられ、考察を交え報告する。

β遮断薬(Carvediol)により抗ガン剤による薬剤性心筋症が改善し、同種造血幹細胞移植を施行し得た急性骨髄性白血病の1例.
[症例]65歳、女性。急性骨髄性白血病(FAB分類;M0)と診断。IDA+AraC療法(3+7)にて寛解導入療法を施行し、1コースで寛解となった。寛解導入療法を施行し、1コースで寛解となった。寛解導入化学療法前の経胸壁心臓超音波検査では左室収縮能(LVEF)は57%と良好であったが、化学療法後には34.4%と低下しPS3(NYHA分類III)となった。寛解後療法として少量キロサイド療法を2 コース施行しながら心機能の回復を期待したが、収縮能の回復は得られず全身倦怠感が持続した(PS2、NYHA分類II;寛解導入療法後より1年が経過)。骨髄中の白血病細胞は著増することなく経過したが、末梢血WT1は陽性・陰性化を繰り返し、初発時に認めた染色体異常も観察されるようになった。心機能低下のため強力な地固め療法の施行は困難であり、再発の可能性も懸念される状態であった。心機能の改善を期待しβ遮断薬(Carvediol)による治療を開始。治療開始後2週間後よりPS1と改善、LFEFの改善も認めた(35→46%)。β遮断薬開始6ヶ月後にかけてLVEF50%程度安定し心不全兆候も消失したため、Flu(180mg/m^2)+BUS(12.8mg/kg)を前処置としてuBMTを施行した。移植後(day+62)は心不全兆候も認めず良好に経過している。[まとめ]本症例はイダマイシンによる心筋炎が強く疑われた。アントラサイクリン系抗ガン剤による心筋炎は不可逆な心筋障害を引き起こし予後は不良とされる。心機能低下例では強力な治療を行うことが困難となることが多いが、β遮断薬による治療が奏効し同種造血幹細胞移植を施行し得た。

造血細胞移植患者の口腔粘膜障害に対するグリセリン含嗽の有効性.
[ 背景・目的]移植患者の口腔ケアには多角的な介入が不可欠と言われている。当科では口腔ケア指導、口腔内アセスメント(J-COG)、PAG含嗽を導入していた。しかし、PAG含嗽は味や間食から継続使用できないことが多く中止した。疼痛対策としてペインクリニックと連携し移植後早期からの積極的な麻薬投与を統一した。その結果、ブラッシングが実施しやすくなったが、患者自身の移植に左右され個人差が大きかった。また飲水や含嗽が不可な重症例もあった。そこで継続できる保湿ケアとしてハチアズレ・グリセリン含嗽(以下グリセリン含嗽とする)を導入し、この機に介助方法を統一し、重症化を防ぐことが必要であると考えた。この研究の目的はグリセリン含嗽の有効性を検討し当科における口腔粘膜障害対策の問題点、課題等を導き改善することにある。[研究方法]対象:造血細胞移植を受けた患者22名。グリセリン含嗽非使用群12名、グリセリン含嗽使用群10名。データ収集方法:有熱期間、麻薬使用量・日数、禁食日数、有症期間、口内炎:咽頭炎グレード3以上の日数についての各項目でデータを収集した。データ解析方法:マンホイットニーU検定。[結果]含嗽使用群において有熱期間と禁食期間が短いとの有意差傾向があった。しかし、他の要因の可能性は粘膜障害のグレード判定の評価基準や経口摂取への関わり方の統一がされておらず、グリセリン含嗽使用の効果とは言い切れない。だが、継続使用できている患者が大部分であり、患者・スタッフの口腔ケアに対する意識向上の一助となった。今後の課題としてスタッフの知識向上、患者指導の強化、口腔内アセスメント評価基準の統一、NST連携での食事指導、歯科との連携等が導き出された。

同種造血幹細胞移植後に合併した腸管嚢胞性気腫症の1症例.
[緒言]同種造血幹細胞移植後での腸管嚢胞性気腫症(PCI)の合併は稀であり、急性GCHDの発症やステロイドの使用に関連して発症すると言われている。我々は同種末梢血幹細胞移植後に発症したPCIの1例について報告する。[症例]47歳女性。2001年、末梢性T細胞リンパ腫と診断。同年に自家末梢血幹細胞移植を施行するも2009年に再発。再寛解導入療法・地固め療法後部分寛解となり、同種移植目的で当院紹介となった。Fludarabine+Busulfanによる骨髄非破壊的前処置の後、20098年6月にHLA一抗原不適合血縁者ドナーより同種末梢血幹細胞移植を施行した。GVHD予防はTacrolimus+短期Methotrexateとした。Day13に好中球生着を認め、Day19に全身に紅斑が出現した。皮膚生検の結果、急性汎発性発疹性嚢胞症との診断であったがmPSL(1mg/kg/day)投与を開始。皮疹増悪のため、mPSL(2mg/kg/day)に増量後、改善傾向となりステロイドの減量を行った。以後、著変なく経過するもday59に施行した原疾患評価目的の腹部造営CTにて盲腸から横行結腸にかけて広がる壁内及び腹腔内、後腹膜腔にガス貯留を認めたため、PCIと診断した。自覚症状は検査1週間前より持続する軽度腹部膨満感のみであり、診察上腹膜炎症状は認めなかった。検査同日から絶飲・ぜっしょくとし、保存的治療にて腹部膨満感は軽快、2週間後の腹部CTにて改善傾向であった。3週間後には食事摂取を開始、現在、症状・画像上の悪化なく経過している。[考案]PCIは粘膜下または漿膜下に多数のガスを認める疾患であり、機序として細菌説、機械説、肺原説、化学説などが提唱されている。我々が経験した症例では高用量のステロイド投与が腸管粘膜の脆弱化が影響していると考えられた。

46,XY,t(9;12)(q34;q22)を有する慢性骨髄増殖性疾患に二度の臍帯血移植を施行した一例.
[症例]56歳男性。2003年に発症。hydroxycarbamide中心に加療中に末梢血中に芽球が出現し、2008年4月よりimatinib 600mg/day開始するも無効。6月19日からDNR-AraC療法にて寛解に至った。8月20日からMIT-AraC療法施行後、10月4日に臍帯血移植施行(前処置TBI(3Gy×4)+AraC(3g/sq×4)+CY(60mg/kg×2)、輸注有核細胞数13.3×10^8、免疫抑制剤CsA 3mg/kg)。day+30でドナー100%キメリズム確認。顆粒球回復はday+29、急性GVHD(-)、であった。なお食欲不振は長期継続したがGVHD、ウイルス感染症は証明されなかった。day+84に退院後、2009年2月より末梢血に好酸球が出現。免疫抑制剤中止するも3月(day+165)に再発。3月21日からMEC、4月24日からDNR+AraC、5月31日からACR-AraC、7月1日からA-PPP施行し再寛解に至った。その後7 月中旬より深在性真菌症及び虚血性腸炎を合併、VCN+L-AMBを長期投与した。肺炎症状改善までVP療法、SPAC、ubenimexを予防投与していたが9月に再発。9月13日よりMIT+MCNU投与後、非寛解状態で10月10日に臍帯血移植を施行(前処置Bu(0.8mg/kg×8)+Flu(30mg/sq×6)+ATG(2.5mg/kg×4)。輸注有核細胞数16.6×10^10、免疫抑制剤CsA3,g/kg分割)。しかしday+18に拒絶確認され、MIT投与にて病勢コントロールを図るも改善せず。11月17日に永眠された。[考察]本症例の染色体はABL1をふくむ染色体異常でありBCR/ABL1白血病に準じた治療を行った。急性転化寛解後に一度目の臍帯血移植を施行したが早期に再発した。長期の胃腸障害がGVHD関連と考え、免疫抑制剤の早期中止を行わなかった点が問題であったかもしれない。また二度目の移植は第二寛解期後の肺炎の改善を待つことで指摘移植時期を逃がした。なお全経過を通してnilotinib、dasatinibの有効性が期待されたが、社会的事情で導入できなかった。

造血細胞移植患者の食事指導マニュアルの作成を試みて.
[背景・目的]移植を受ける患者に対し、食事パンフレットを用いて食事制限の指導を行っている。しかし、患者から「看護師によって言うことが違う」「この間は許可してもらった」との意見が聞かれ具体的な補足説明は指導する看護師に一任されており、指導方法にもんばらつきがあると考える。新人看護師に関しては、不明点も多く患者の質問に答えられないこともあった。パンフレットを改訂し、それを期に医療者が統一した指導ができるようにパンフレットに沿った指導マニュアルの作成が必要と考えた。この研究の目的は、マニュアルの作成である。[方法]対象;血液内科病棟看護師29名。データ収集方法:選択式・記述質問用紙による調査。データ瓶席方法:単純集計。[結果]マニュアル作成前のアンケートの結果により、禁止食品のエビデンスが不明であり、看護師が十分に理解せずに指導しているために、患者の納得のいく説明ができていないことがわかった。また、食品の多様化に伴いパンフレットに記載されていない食品の摂取が可能であるかと質問されることが多く、戸惑っていることが明らかになった。食品の細菌検査を実施、栄養部と連携し、エビデンスに基づいて食事指導マニュアルを作成した。作成後の病棟看護師のアンケート結果を含めて現状を報告する。

造血細胞移植を選択する患者への意志決定支援の現状と課題.
[背景・目的]血液悪性悪性腫瘍疾患患者の中には化学療法抵抗性・移植後の再発などにより、疾患治癒のためには移植を受け津ことが唯一の治療方法であるが、移植に伴う合併症や再発のリスクの高い事例が存在する。患者は医師よりメリット・デメリットとともに情報提供を受けたうえで治療法を選択する必要があり、看護しには患者の主体的な意志決定のための介入が求められる。しかしインフォームド・コンセントの際に看護師が同席できていない場合があり、または同席はしていてもその後の患者の意志決定支援にチームとして積極的に関わることができていないジレンマがあった。そのため研究目的として移植を選択する患者に対し看護師が行っている意志決定支援の現状を明らかにし、支援を強化するための課題について検討することとした。[研究方法]対象:血液内科病棟看護師29名。データ収集方法:選択・記述質問用紙による調査。データ解析:単純集計。[結果]看護師は患者から治療方針や予後についての不安や疑問の訴えを受けたことがあり支援の必要性を感じているが、実際に支援を行うことはできていないと考えていた。その原因として、業務に追われ十分に関わる時間を確保できないというシステム上の問題や、看護師の知識・経験の不足、医師と看護師間・看護師同士での情報共有や連携の不足・意志決定支援の具体的な方法についての理解不足が挙げられた。支援強化のためには効果的な情報共有のための方法を検討し、経験の程度にかかわらず一定のレベルで支援が行えるようなガイドラインの活用が課題となることが考えられた。

シクロスポリン(CsA)+短期メソトレキセート(sMTX)をGVHD予防とした非T細胞除去・非TBI下での骨髄非破壊的非血縁者間同種骨髄移植(u-RIST)の検討.
[緒言]u-RISTではタクロリムスベースのGVHD予防が一般的になりつつある事に加え、ATG・alemtuzumabや生着担保目的での2-4GyのTBIを追加した報告が多い。T細胞除去は感染症や再発リスク上昇の可能性が、TBIは組織障害を通じGVHDを惹起する可能性がある。今回我々はCsA+sMTXをGVHD予防とした非T細胞除去・非TBIでのu-RISTにつき報告する。[対象・方法]患者は2002年9 月-2009年6月に当科でu-RISTを受けた30例(年齢中央値53歳、22-69、AML11例、ALL9例、MDS2例、NHL5例、ATL/L3例)を後方視的に解析した。全例が移植前化学療法歴を有していた(中央値6、1-19)。前処置はFlu180mg/sq+oralBu8mg/kgが12例、Flu180mg/sq+ivBu8mg/kgが18例、HLAは全例血清A、B、DR一致、うち24例がallele6/6一致、5例がDRB1allele1座不一致、1例がA allele1座不一致であった。GVHD予防は全例CsA+sMTX(day1:10mg/sq、day3、5:7mg/sq)。15例が再発高危険群(high群)であった。[結果]観察期間中央値は280日(34-1987)。好中球、血小板生着は各々100%、93%。生着日中央値は16日(12-26)、24.5日(18-291)、day100までの完全ドナーT細胞キメリズム達成率はoralBu群で75%、ivBu群で100%(p=0.03)、2-4および3-4度急性GVHD累積発症率は40%、17%、広範型慢性GVHDは30%であった。2年OSおよびEFSは58%(low/standard群:78%、high群:43%:p=0.04)、52%(low/standard群:72%、high群:33%:p=0.01)、day100および2年TRMは3%、10%であった。[結語]T細胞非除去u-RISTでのCsA+sMTXによるGVHD予防は許容可能であると考えられた。また少なくとも移植前化学療法歴を有する場合、Flu+Buでの骨髄非破壊的前処置は安定した生着と完全キメラ達成(特にivBu8mg/kg)をもたらすものと考えられた。

造血細胞移植患者の退院後の問題点〜外来との連携を試みて〜
[目的]移植患者は退院前に試験外泊をし、日常生活の中での問題点を確認して再指導を受け退院する。しかし、退院後に新たに問題が生じ、患者・家族が不安をかかえたまま生活を送っている。そこで、退院後の日常生活で出現する問題を明確にすることと継続したケアが必要であると考えた。研究の目的は、退院後の問題点を明確にして外帯との連携体制を確立すること。[方法]対象:移植後患者で外来通院している患者延べ47名データ収集・分析方法:規定用紙を用い質問調査を行い、類似する内容をまとめた。[結果]退院後患者の問題点で、1番多かったのは、「ドライマウス」や「ドライスキン」、「食事に関すること」などであった。その他は「子どものこと」、「ペットのこと」、「社会復帰のこと」などであった。外来診察時に対応できる問題点や質問に関しては即時対応し、継続が必要な問題点は記録に残し病棟・外来看護師が閲覧できるようにした。

白血球低下患者における食事内容の検討.
[実験の背景]免疫抑制剤の副作用として、骨髄障害による白血球低下がみられる。白血球の減少により病原体に対する抵抗力が低下して細菌やウイルスが繁殖しやすくなり感染症が発症しやすくなる。そこで各施設において無菌食という名前でオートクレーブを用いた食事が提供されてきたが、オートクレーブを用いて減菌した食事は、見た目、風味が悪い為、摂食量も少なく、患者のQOL低下の一因となる。その為、当院では約10年前より「免疫不全食」という名称でオートクレーブは用いず、一般的な病院食に比べ、より菌を減らす工夫をした食事を提供してきた。[実験の目的]今回更なる食事内容の改善をめざし、当院で約10年間提供している「免疫不全食」の菌数を測定することにより、今まで提供を控えていた料理・食品の提供判断基準、および退院後の食事の摂取可能範囲についての検討を行った。[まとめ]○果物については、皮付きのまま提供する食品以外でも皮の凹凸の少ない食品であれば、皮を?いて蓋をして提供することが可能。○食パンなどのカットされたパンの提供が可能。○今回試料として扱った外食に関しては、摂食可能。[結語]今回の結果より白血球低下患者に提供している免疫不全食の見直しが可能となり、入院中のQOL改善に寄与できる可能性が示唆された。また、患者アンケートで問い合わせの多かった外食についても、今まで控えるように指導していた食品に関して摂食可能であることが分かり、他院後の食品選択の一助となる結果が得られた。

Ara-C+CY+TBIを前処置とした非血縁臍帯血移植の予後因子の当科での検討.
[目的]当科における骨髄破壊的前処置を用いたCBTの成績を後方視的に解析し、予後因子について検討した。[方法]2004年9月から2009年7月までにAra-C+CY+TBI 12Gyを前処置として施行したCBT15例。年齢中央値 40歳(18-53歳)、AML:6、MDS:3、NHL:1、ATLL:4、CNL:1。移植時病期は標準リスク(SR)群(AML、ALL(Ph-)のCR1・2、MDS RA):4、高リスク(HR)群(それ以外):11。移植細胞数は2.84×10^7/kg(1.69-3.99)、CD34陽性細胞数は1.15×10^5/kg(0.48-2.28)、HLAは全例血清型4/6適合、GVHD予防はCsA+sMTX:12/15例であった。[結果]観察期間中央値は287日(10-1532日)で、生着前死亡2例、生着不全1例を除く12例(80%)
で好中球生着を認め、生着後60日までに完全ドナーキメリズムを得た。急性GVHDの累積発症率は2-4度:60%、3-4度: 27%。評価可能11例中の慢性GVHD(extensive)は3例(27%)であった。1-yrOSは47%(SR100%vsHR24%、p=0.04)、1yr-EFSは40%(SR100%vsHR18%、p=0.02)であった。EFSについて単変量解析では移植時年齢が予後不良因子であり(p=0.03;HR1.1)。多変量解析でも同様であった(p=0.03)。移植時病期は単変量、多変量解析ともに有意差傾向を示し(p=0.06;HR0.1、p=0.07)。移植細胞数、移植CD34陽性細胞数、3-4度急性GVHD、診断から移植までの期間は有意差を認めなかった。[考察] 本研究では1yr-OS47%と満足できる成績ではなかったが、高齢かつ移植時病期高リスクの患者が多いことが予後不良因子として影響した可能性がある。骨髄破壊的前処置を用いたCBTに関しては年齢、移植時病期両者を考慮して適応を検討する必要があるものと考えられた。

染色体異常t(16;21)(p11;q22)を有し、臍帯血移植後2年の経過で再発を来した急性骨髄性白血病.
[緒言] t(16;21)(p11;q22)は主にAMLにみられる染色体異常で化学療法に抵抗性、また高率で早期再発を来すとされる。臍帯血移植後約2年の経過で再発を来したt(16;21)を有するAMLを経験した。[症例]58歳女性。既往歴:52歳時Parkinson病(Yahr IV度)。2006年10月、紫斑を主訴に受診。WBC 10340/μl(芽球73%)、Hb 8.5g/dl、Plt 4000/μl、LDH 676IU/lと異常あり、当科入院。骨髄検査にてAML with maturationと診断。20細胞中19細胞にt(16;21)(p11;q22)がみられた。IDA・CAでの寛解導入療法では非寛解であったがParkinson病増悪を合併し、MIT・CAでの化学療法を2回実施し寛解に到達(染色体異常なし)。2007年3月、Flu・Mel・TBIを前処置とし、HLA血清型GvH方向4/6、HvG方向4/6一致・ABO mismatch(donor O(+)→患者B(+))、有核細胞数4.8×10^7/kg、CD34陽性細胞数1.03×10^5/kgの男性臍帯血を移植した。GvHD予防:sMTX+CyA、day+15に好中球500/μl以上と造血回復がみられ、day+36に完全キメラを確認した。消化管aGvHDに起因すると考えられる遷延する嘔吐を合併したがPSL投与で徐々に改善。Parkinson病症状および脳出血後遺症に対して長期の理学療法を要したが杖歩行にて退院。良好なADLで通院されていたが2009年3月再発。化学療法にも不応性となり2009年5月永眠された。[考案] t(16;21)(p11;q22)を伴ったAMLに対して臍帯血移植を施行したが移植後約2年で再発した。Kongらは19例のt(16;21)(p11;q22)について長期生存例が移植例に限られると報告し、この転座については寛解維持目的の移植が望ましいとしている。本症例は既往症のParkinson病のため浅い寛解での移植となったこと、臍帯血をドナーとしておりGvL効果が弱かった可能性などが再発の原因と考えられた。

当院にて自家移植を施行したアミロイドーシスに対する検討.
[緒言]アミロイドーシスに対する自家移植は長期予後を改善させるとの報告があるが、当院で経験した自家移植の4症例を報告する。[症例1]54歳女性。2002年、尿蛋白とCre2.5mg/dlの腎障害があり、腎生検にてALアミロイドーシス(IgA-λ型、腎と胃に沈着)と診断された、VAD療法を3コース行い、MEL100mg/sqにて自家移植を施行した。カリニ肺炎の合併があったが、ST合剤の吸入にて軽快した。2007年に腎不全が悪化し維持透析となった。免疫電気泳動にてIgA-λを認めるが、現在まで生存している。[症例2]53歳、女性。2002年吐血があり、上部消化管内視鏡にてAAアミロイドーシスと診断された。その後、心不全症状にて心筋生検を行い、AAアミロイドーシス(BJP-κ型、胃と心臓に沈着)であった。骨髄にて免疫グロブリン遺伝子の再構成を認め、ALアミロイドーシスに準じた治療法として、VAD療法を3コース行い、MEL100mg/sqにて自家移植を2回施行した。免疫電気泳動にてBJPは消失し、現在まで生存している。[症例3]61歳男性。2002年、肝腫大があり肝生検にてALアミロイドーシス(IgG-λ型、肝と十二指腸に沈着)と診断された。VAD療法を3コース行い、MEL100mg/sqにて自家移植を施行した。免疫電気泳動にてIgG-λを認めるが、現在まで生存している。[症例4]56歳女性。2008年、ネフローゼ症候群があり、腎生検にてALアミロイドーシス(IgG-λ型、腎に沈着)と診断した。VAD療法を3コース施行行い、MEL200mg/sqにて自家移植を行った。免疫電気泳動にてIgG-λを認めるが、現在まで生存している。[結論]アミロイドーシスに対する自家移植は合併症による死亡が多いと報告されているが、適応を選べば安全に施行可能であり、長期生存の可能性を高めることができる。

当科における悪性リンパ腫の対する自己末梢血幹細胞移植の後方視的解析.
[目的]ハイリスク悪性リンパ腫に対する自己末梢血幹細胞移植は比較的安全に行える標準治療となり得るが、併用化学療法は各施設間で異なっている現状である。当科では臓器障害のない60歳以下患者に対してMCECレジメンを中心に選択しており、今回当科で自己末梢血幹細胞移植を施行した悪性リンパ腫49 例について後方視的に検討した。[対象]年齢17?70歳(中央値45.1歳)。男女比35:14。組織型DLBCL28例、PTCL4例、IVL2例、ALCL2例、LBL2例、Burkitt2例、HD2例、AILT1例、MCL1例、FL1例、組織型不明4例。観察期間33?4131日(平均1252 日)。移植病期 寛解32例、部分寛解4例、非寛解13例。IPI high 5例、high-int 11例、low-int 15例、low 5例。輸注CD34+細胞数1.81?22.2×10^6(平均4.06)。併用化学療法MCEC(MCNU 200mg/sq×1+CBDCA 300mg/sq×4+ETP 500mg/sq×3+CPA 5mg/kg×2)33 例、MEAM 12例、その他4例。[結果]全生存率75.5%(37/49)、全無増悪生存率73.47%(36/49)であった。全例で生着を認め、平均白血球回復11.31日、血小板数回復25.1日であり、治療関連死亡は1例(移植後76日脳出血)であった。MCECレジメンでは全生存率81.8%(27/33)(1年93.5%、3年83.2%)、全無増悪生存率78.8%(26/33)(1年87.3%、3年80.3%)であった。また治療関連死亡を認めず、Grade1、2の心障害を4例(9.1%)認めるもいずれも回復し、Grade4以上の非血液毒性は認めなかった。[考察]MCECレジメンは依然として安全性、有効性から推奨される併用化学療法と言える。特にIPI高値や発症から移植までの期間が短い群においてより良好な成績が得られる傾向を認めたが、長期間での成績やMEAM療法との無作為比較検討など症例の集積が必要である。

肺ムコール症を合併した骨髄異形成症候群の一症例.
症例は69歳男子。骨髄異形成症候群の白血化に対して、寛解導入療法として2008年6月よりCAG療法を施行。芽球の減少が乏しく、7月3日より大量キロサイド療法を開始した。7月10日頃から好中球減少に伴う肺炎を認めた。肺以外に明らかな感染源を認めず、各種培養では起因菌を検出せず。7 月16日の時点でβ-Dグルカンは7.4pg/ml、アスペルギルス抗原は陰性であった。7月20日の胸部CTでは大量胸水及び浸潤影を認めた。G-CSF併用下にCFPM、IMP/CS、PIPC、MCFGを投与するも反応乏しく、8月12日に呼吸状態の悪化のため永眠した。病理解剖の結果、右肺炎は肺ムコール症によるものであることが判明した。ムコール感染症は近年報告が散見されるが、血清学的な診断が難しく重要性が増していると考え、ここに報告する。

髄膜腫様の画像を呈して発症し、経過中に多発性骨髄腫への進行がみられた髄外形質細胞腫.
(症例)59歳男性。2005年10月より記銘力低下を来たし前医を受診。CTにて右前頭葉に脳腫瘍があり同年12月に当院脳神経外科入院となった。CT、MRIから中頭蓋下髄膜腫と術前診断され、腫瘍亜全摘術施行。組織にて形質細胞腫と診断され当科紹介となった。骨髄検査を含めた全身検索では他部位に病変なくextramedullary plasmacytomaと診断。残存病変に放射線治療を実施しフォローしていたが、2007年1月にIgG値の上昇がみられ、骨髄検査にて形質細胞増加を伴い多発性骨髄腫への進行と診断。同年11月には頸椎周囲に腫瘤形成も来したためVAD療法、MP療法等を追加したが不応性となり2009年5月転医となった。(考察)extramedullary plasmacytomaは全形質細胞腫の約3%の頻度であるが、発生部位は上気道が90%とその多くを占める。本例は髄膜腫様の画像を呈する単独病変にて発症し、比較的稀と考えられた。若干の文献的考察を加えて報告する。

AraC少量療法後の残存芽球に対しデキサメサゾン投与が著効し、完全寛解に至った高齢者急性白血病.
[症例]73歳、男性。前医にてMDS と診断、経過観察されていたが、芽球増加を認め2009年4月当科に入院した。入院時WBC 4300/μl(芽球46%)、Hb 6.9g/dl、Plt 5.4万/μl。骨髄ではNCC 14.7万/μl、芽球83.7%。芽球の形態は多様でPox(?)、フローサイトメトリー(FCM)にてCD34(+)CD13(+/-)CD33(-)CD19(-)CD4(+)MPO(+)。AML、M0と診断したが、芽球の約25%がMPO(+)TdT(+)で、少数のMPO(-)分画も認められた。染色体正常核型。恒例であるため、AraC少量持続点滴による寛解導入治療を開始、day8よりG-CSFを投与、AraCは4週間持続投与を行った。芽球は著減したが、第5週骨髄にてFCM上なお芽球の残存を認め、さらに1週間のAraC投与を行うも芽球比率はむしろ増加した。残存芽球は塗抹標本状リンパ球と区別しがたくFCMにてMPO(-)TdT(+)であった。AraCの投与を終了し、第7、8週にそれぞれ3日間デキサメサゾンパルス投与を行ったところ、第10週より造血回復がみられ、完全寛解に到達した。以後3ヶ月を経過し寛解が維持されている。[考察]高齢者白血病は白血病細胞の治療抵抗性と患者の治療忍容性の低下による治療困難な疾患であるが、若年者に比しより多様な細胞分化上の性質を有するものが含まれていると考えられる。今回みられた治療中の形質変化は、治療による選択が考えられ、AraC抵抗性を示した芽球に対し高用量ステロイドが有効であった。示唆にとむ経過と思われるので報告する。

皮下蜂窩織炎様T細胞リンパ腫(SPTCL)の3例.
今回、SPTCL の3例を経験したので報告する。
症例1:26歳男性。H18年、左前胸部?腹部にかけて、たすき状皮下硬結を自覚、皮膚生検にて診断された。αβ型、HPS(+)。H18年8月CHOP療法6コース施行されNC。平成19年2月、ESHAP2コース後PBSCH、放射線量治療(2Gy×20回)、7月autoPBSCTを行い、その後完全寛解を維持している。
症例2:19歳女性。左頬部高潔を自覚して退院、PSL30mg内服治療された。H13年にHPS発症しPSL内服で改善した。PSL減量でHPS増悪するため、PSL30mg+CyA100mgで治療中、左頬部高潔、皮下脂肪織炎増大した。皮膚生検にてSPTCLと診断。αβ型、HPS(+)。その後、PSL、CyA量を調節し現在治療中である。
症例3:18歳男性。H21年8月、両側下腿部に拘束感を自覚。血球減少と凝固系異常を認めた。骨髄検査でHPSを軽度認め、皮膚生検にてSPTCLと診断された。αβ型、HPS(+)。H21年9月、CHOPを施行し、現在治療中である。
 SPTCLは若年に発症する非常に稀な疾患である。他の疾患との鑑別および治療法に文献的考察を加えて考察する。

あなたならどうする造血幹細胞移植〜HLA適合血縁者が得られない時〜
2)非血縁者間骨髄非破壊的同種骨髄・末梢血造血幹細胞移植の現状.
近年、移植前処置の強度を弱め、副作用を軽減することで高齢者や臓器障害を有する患者にも同種造血幹細胞移植を可能にする目的で骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(RIST/ミニ移植)が新たな移植法として世界的に広く試みられており、様々な前処置治療が開発されてきている。適切な血縁ドナーが得られない場合には非血縁ドナーを検索することになる。しかしながら、現在でも非血縁ドナーを対象としてRIST/ミニ移植においては、生着不全、拒絶、治療関連毒性、GVHDは現在も大きな問題である。シアトル型のミニ移植では骨髄は末梢血幹細胞に比べ拒絶率が多いことをシアトルのグループは報告している。これを受け手、拒絶の予防として現在シアトルでは非血縁ミニ移植ではほとんど末梢血幹細胞が用いられている。しかしながら、本邦でも広く使われているやや強度の強いreduced intensity regimenにおいても末梢血幹細胞が骨髄に比べ生着不全、拒絶率を有意に下げるかどうかの結論は得られていない。本邦でも現在、非血縁末梢血幹細胞移植の開始に向けての準備が行われているが、非血縁末梢血幹細胞を用いた場合には慢性GVHDが増加する可能性が懸念されている。また治療関連毒性はTBIを始めとした前処置の強度を上げるに比例して増加する傾向があるため、高齢者や臓器障害を有している症例では大きな懸念材料となる。さらにはGVHDの抑制のために用いられているATGが非血縁者移植では生着不全を増やす可能性も報告されており、RIST の前処置や幹細胞ソースの種類を患者の年齢や臓器機能、治療歴、疾患の進行度、種類などに応じて最適化する工夫が必要であると考えられる。当科では過剰な前処置による毒性を軽減するために、non-TBI、non-ATG、fludarabine-based regimenを抗癌剤治療歴に有する造血器悪性疾患に対して用いられており、比較的良好な結果を得ている。さらに近年では、シアトルグループがドナープールの拡大を目的として、HLA-I、IIのミスマッチの非血縁ミニ移植の前向き臨床研究を行っており、研究結果が一部発表されてきている。今回の発表では、本邦やシアトルを始めとする欧米の既報告、当科のデータを紹介させていただき、これらのデータを踏まえ、非血縁者間骨髄非破壊的同種造血幹細胞職の前処置の最適化について検討を加えたい。

慢性活動性EBウイルス感染症に同種末梢血幹細胞移植を施行後二次性白血病を発症した一例
【症例】38歳男性。腸管を主座として発症した慢性活動性EBウイルス感染症に対して、2006年1月5日にFlu+Mel(フルダラビン120mg/sq、メルファラン140mg/sq)前処置にてHLA一致血縁者ドナーから同種末梢血幹細胞移植を施行、grade3急性GVHDおよび慢性GVHD(BO: bronchiolitis obliterans)が出現し以後プレドニゾロン及びシクロスポリンを長期継続した。一方移植後のドナーキメリズムは100%を長期継続し、明らかなEBウイルス感染症の再発所見を認めなかった。2008 年1月頃より血小板数減少が出現、5月21日の骨髄検査で芽球30%を認め、染色体異常t(8;21)(q22;q22)及び表面マーカー検査CD13、34、56、HLA-DR陽性より二次性白血病と診断。6月9日からCA療法(アクラシノン18mg×4、シタラビン36mg×10)を施行し寛解。その後呼吸苦が再燃、継続あり治療継続困難な状態が続いたが、再度芽球が増加したため10月14日からCA療法2コース目施行し第2寛解期に至った。12月5 日からCA療法3コース目施行するも2009年1月16日の骨髄検査では再発。同時に肺炎の合併も認め抗菌剤にて治療、1月下旬にはほぼ軽快し2月3日からIDA-AraC(イダルビシン14mg×3、シタラビン120mg×7)施行も非寛解。3月23日からAraC中等量(シタラビン4g×5)療法施行、4月28 日の骨髄検査では第3寛解期となり現在に至る。【考察】本症例は二次性白血病発症後もドナーキメリズムを90%維持しており、治療中に頻回にBO関連と考えられる肺症状を合併した。また骨髄回復期にはEBウイルス感染症の明らかな再発所見を認めなかった。以上から今回発症した白血病はドナー由来の可能性が高いと判断した。造血幹細胞移植ドナー由来の二次性白血病は稀であり、貴重な症例と考え若干の文献的考察を加えて報告する。

当院における治療抵抗性多発性骨髄腫に対するBortezomibの治療経験
【目的】Bortezomibは世界初のプロテアソーム阻害剤で、本邦でも平成18年12月に再発・難治性多発性骨髄腫治療薬として適応を取得した。当院では、平成19年2月以降に再発もしくは難治性の多発性骨髄腫に対してBortezomib投与を行い、安全性、有効性などにつき後方視的検討を行った。【結果】症例数29例、年齢47?84歳(平均65歳)、男性/女性が15/14例、IgG/IgA/BJ型が21/6/2であり、Durie-Salomon病期分類ではI/II/IIIが0/15/14例、ISS病期分類ではI/II/IIIが8/14/7例であった。前治療は、VAD療法やMP療法などであったが、そのうち自家末梢血幹細胞移植6例、Thalidomide6例であった。MR以上の奏効率80%(CR1例、PR4例、MR1例)で、そのうち予後不良因子の一つである13番染色体異常のある10例では、奏効率80%(CR1例、PR4例、MR1例)であった。有害事象は、血小板減少G4/G3/G2は3/8/7計18例、神経障害G3/G2は1/5計6例、帯状疱疹が4例に認められた。発売当初懸念されていた間質性肺炎は1例も認められなかった。治療効果がMR以上の奨励をresponder(R)群、それ以外の症例をnon-responder(NR)群とに分け、ALPの推移をサイクル1終了時(cycl1)、サイクル2終了時(cycl2)、サイクル4又は3ヶ月後(cycl4)の時期別に検討した結果、R群では、治療前よりも各時期別に有意にALP高値を示し、治療効果の指標として活用できる可能性が示唆された。【考察】予後不良因子を含む再発・難治性の多発性骨髄腫症例に対して、Bortezomibは有用な薬剤であるが、有害事象によりBortezomib投与が困難となる症例も多く、奏効率向上を目指す上では、PSが良好な時から導入することや、治療初期は副作用観察の為、入院にて加療を行い、その後は積極的な投与量及び投与間隔などの再考が必要であると考えられた。

イトラコナゾール注射薬による経験的治療のEORTC/MSG診断基準に基づいた有効性解析
【背景】以前我々は広域抗生剤不応性の発熱性好中球減少症(FN)における経験的治療薬としてイトラコナゾール(ITCZ)注射薬の有用性を示した。今回、抗真菌剤予防投与の影響や、EORTC/MSG基準などの観点から、さらなる解析を行った。【対象と方法】2007年4月から翌年3月に入院した造血器疾患患者で、4日以上の広域抗生剤投与でも解熱しないFN症例68例を対象とし、保険承認の用法でITCZ注射薬を投与した。ITCZによる予防投与を受けた症例は除外した。治療開始時に血清β-D-glucan、galactomannan、画像検査などを実施し、深在性真菌症(DFI)の確からしさを、2002年および2008年版のEORTC/MSG基準に従ってprobable、possible、およびnot classified DFIに分類した。臨床的有効性は、解熱の有無と好中球の回復状況に基づき評価した。【結果】全体の有効率は69.1%であった。抗真菌剤予防投与を受けた10例(14.7%)の有効率が90%であったのに対し、受けなかった58例(85.3%)の有効率は63.8%であった。2002 年版EORTC/MSG基準では10例(14.7%)がpossible、3例(4.4%)がprobable DFIと診断された一方、2008 年版では、それぞれ4例(5.9%)、1例(1.5%)であった。2002年版におけるpossible/probable DFI症例における有効率は61.5%であったのに対し、2008年版では100%であった。【考察】抗真菌剤予防投与はITCZ注射薬の有効率を低下させず、DFIの頻度を低下させていたとは考えにくい。一方、2008 年版EORTC/MSG基準で抗真菌剤治療が有効な症例を絞り込める可能性が示唆され、今後のpreemptive therapyを考える上で有用と思われた。

再発・難治性Bcl-2/IgH陽性ろほう性リンパ腫に対するCladribine療法
目的】再発・難治性ろほう性リンパ腫の治療戦略は未だ確立されていない。再発・難治性の低悪性度リンパ腫に対し、新規抗悪性腫瘍薬の一つにCladribineがあり、多剤併用療法が主に検討されている。今回我々は再発・難治性Bcl-2/IgH陽性ろほう性リンパ腫に対し、Cladribine単剤療法の前向き試験を施行しその有効性を検討した。また治療前後のBcl-2/IgH遺伝子の分子学的効果についても検討した。【方法】Cladribineは0.09mg/kg/dayを24時間点滴法にて7 日間投与した。2003年7月から2008年5月に3施設にて13症例に施行。前例で化学療法、リツキシマブの治療歴があり、年齢中お売りは56歳(29-62)、Cladribineの投与サイクル数の中央値は3サイクル(1-3)であった。【成績】全奏効率、完全寛解率はそれぞれ60%と27%、完全寛解例は全例、分子学的寛解を認めた。全症例の無増悪生存期間中央値は305日(観察期間中央値1109日)であった。完全寛解例では無病生存期間の延長傾向を認めた。また治療前のBcl-2/IgH定量値は治療予後への影響は認めなかった。毒性は、血液毒性はgrade3-4の好中球減少を27%に認め、grade3-4の貧血・血小板減少が認めなかった。非血液毒性として発熱性好中球減少(2例)、肺炎(2例)、CMV感染(1例)、深在性真菌症(1例)などの日和見感染症を認めたが、感染症以外のgrade 2以上の非血液毒性は特に認めなかった。【結論】再発・難治性Bcl-2/IgH陽性ろほう性リンパ腫に対するCladribine療法は、単剤でも有効性が高く、既存の多剤併用に匹敵するであろう有効性を認めたが、日和見感染への注意が必要と考えられた。

造血器疾患に伴う発熱性好中球減少症に対するセフェピムの有効性に関する後方視的検討
【目的】セフェピム(CFPM)は発熱性好中球減少症(FN)に対して保険承認を得ているため当院での使用実績が最も多い。そこで過去2年間のCFPMの有効性と耐性菌検出状況を後方視的に検討した。【対象・方法】2006年4月からの約2年間で、FN に対してCFPM単剤療法を施行した造血器疾患50名(男性30例、女性20例、年齢中央値60.0歳)(悪性リンパ腫25例、急性白血病9例、骨髄異形成症候群5例、多発性骨髄腫3例、その他8 例)。【結果】全体の有効率は64%(32/50)で、性別や年齢、基礎疾患、開始時好中球数などによる有効率の差は認められなかった。腸球菌と緑膿菌がそれぞれ1例ずつ血液培養から検出され、後者はCFPM感受性であった。一方、全培養検体中のMRSA検出率は、血液内科病棟が9.1%(72/795)、病院全体が15.3%(990/6486)であった。また、グラム陰性桿菌とStreptococcus属に対するCFPM耐性化率は、血液内科病棟でそれぞれ21.0%(13/62)、18.8%(13/69)、病院全体では24.2%(273/1130)、5.6%(24/431)であった。【結論】CFPMの有効率は過去の多施設共同研究の報告と少なくとも同程度であった。CFPMの頻回使用によるMRSAや耐性グラム陰性桿菌の増加傾向は見られないが、Streptococcus属の耐性化には注意を要する。

播種性血管内凝固を伴った骨髄癌腫症の4例
緒言】固形腫瘍の骨髄浸潤はDICなどの血液学的以上を合併する場合があり、骨髄癌腫症と称され予後は一般に不良とされている。今回、我々の施設でDICの精査、或いは既知の固形腫瘍の骨髄転移が疑われ当科を紹介され、骨髄癌腫症と診断した4例について報告する。【症例1】63歳男性、肺小細胞癌、化学療法後再発。PT 13.7秒、fbg 500mg/dl、FDP 26.7μg/ml、D-dimmer 26.2μg/ml。転移を疑われて施行した骨髄検査で浸潤を確認。1箇月で永眠(脳転移)。【症例2】69歳女性。胃癌術後8年経過。PT14.7秒、fbg 116mg/dl、FDP 20.1μg/ml、D-dimmer 17.1μg/ml。上部消化管内視鏡で残胃再発はなく、DIC精査目的に紹介。骨髄生検にて胃切除標本と同様の印環細胞癌の転移巣を確認。化学療法施行せず、3週間の経過で永眠(下血)。【症例3】69歳男性。胃癌。腫瘍からの出血のため緊急手術(幽門側胃切除、根治度C)されたが吐下血が遷延。PT20秒、fbg58mg/dl、FDP65μg/ml。DIC精査依頼にて紹介。骨髄検査で転移巣(低分化型腺癌)を認めた。術後3週で永眠(吐下血)。【症例4】53歳女性。鼻出血・下血にて入院。精査にて直腸癌および蝶形骨洞転移と診断。PT12.5 秒、fbg176mg/dl、FDP36.1μg/ml。DIC精査目的に紹介。骨髄へのneuroendocrine carcinomaの転移を確認。化学療法後もDICによる出血傾向の改善なく約1週で永眠(下血)。【考察】依然として骨髄癌腫症の予後は不良であるが、近年では化学療法によるDIC収束・長期生存例の報告が特に胃癌領域で増加している。我々が経験した4例は化学療法施行例・BSC例ともに比較的短期間でのDIC・原疾患の増悪を来したが、今後は早期診断からの治療介入により生存期間延長が期待できる可能性も高い。DIC に加えて高LD血症、幼若細胞出現などの理由で血液内科を紹介受診される場合が想定されるが、固形腫瘍の既往があればその骨髄転移・再発による骨髄癌腫症も念頭におく必要性が示唆された。

後天性免疫不全症候群に合併した梨状窩原発非ホジキンリンパ腫の一例
【緒言】後天性免疫不全症候群(AIDS、acquired immunodeficiency syndrome)は強力な抗ウイルス療法であるHAART(highly active antiretroviral therapy)の導入により生存期間の改善が期待される一方、悪性リンパ腫を始め各種悪性腫瘍の合併が増加しており、両疾患を動じに治療する場合には治療関連合併症に難渋する場合も多い。今回我々はAIDS治療中に発症した非ホジキンリンパ腫に対してHAAT療法とR-CHOP療法を同時に施行し良好な経過に至った症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する。【症例】68歳男性。2007年11月梅毒陽性・CD4 36/μlと低値のため精査を行い、HIV陽性が判明し、AIDSと診断した。HAART療法をジドブジン(AZT)+ラミブジン(3TC)+エフェビレンツ(EFV)にて開始した。その後、嗄声・嚥下困難・発熱が認められ、梨状窩に腫瘍を指摘され、生検にてびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断した。治療は、AIDSおよびHAART関連の血球減少を考慮し、2007年より、50%-dose R-CHOP療法2コース施行、完全寛解の治療効果を認める一方で骨髄抑制が遷延した(週1回の輸血・連日のG-CSFが必要)。当院に転院後、骨髄抑制をきたすジドブジン(AZT)をアバカビル(ABC)に変更し、75%-dose R-CHOP療法を施行した結果、骨髄抑制は当初より改善(輸血不要・間欠的にG-CSFが必要)し、計8コースまで継続した。治療終了9ヶ月後の現在まで寛解を維持している。AIDSについてはCD4 190/μlと改善したが、化学療法中、難治性のサイトメガロウイルス網膜炎が持続し、ホスカルネットの維持投与を行い、治療終了後もバルガンジクロビルに変更し投与した。【考察】AIDS合併非ホジキンリンパ腫の治療は骨髄抑制のためAIDS治療を先行する場合が多いが、本症例はリンパ腫の病勢が急であり併用治療を要した。その際にはHAART療法の内容の変更やR-CHOP療法の減量、また十分な支持療法などさらなる検討が必要である。

多発性骨髄腫に対するサレドカプセル100の使用経験
昨年12月国内でサリドマイドが薬価収載された(サレドカプセル100)。サリドマイド被害再発防止のためにサリドマイド教育と安全使用に関する管理システムであるTERMSが設置された。われわれの施設では本年4月に7例のサレドを使用開始した。今回はサレドの臨床効果、副作用に加えて、TERMSについて考察したので報告する。個人輸入のサリドマイドからサレドに移行した例が3例、新規が4例であった。いずれもサリドマイド投与前に全治療を施行している。サレドの投与量は100mgより開始し副作用と効果を見ながら増量とした。デキサメサゾン0.5mgを併用した。効果判定は投与期間が短いため発表当日に述べる。個人輸入のサリドマイドから移行した3例は著変なく経過している。新規4例のうち1例は血球減少のため投与を一時中止している。血球減少以外にはGrade3、4の副作用は認めていない。TERMSへの施設登録、意志、薬剤師、Fax番号の登録などステップが非常に煩雑な印象をうけた。当院では外来診療中に患者様の教育、同意を行うことは困難であると考え、投与開始のために数日入院していただき教育用DVDを見てもらった。処方開始までに患者様に署名を4回いただく必要があった。また診察前調査票を自分でFaxできない患者様の場合は外来でスタッフがFaxを送信することにした。多忙な外来診療の中で、遵守状況確認表のFaxをやりとりし、さたに薬剤部でもFaxをやりとりすることなどは医療従事者側にも負担となっている。おそらくどの施設でも余裕のない環境で外来診療がおこなわれていると思われるので、TERMSのシステムを医療現場がより受け入れやすい形態に改善を望みたいところである。胎児への暴露の防止のための努力は医療従事者にとって当然のことであるが、システムの改善により、より多くの多発性骨髄腫の患者様にサレドが投与されるのではないかと思われた。

輸血後鉄過剰症に対する経口キレート剤(deferasirox)の使用経験
目的】国内では昨年から、経口鉄キレート剤が日常診療に使用可能となり、輸血後鉄過剰症による臓器障害の軽減が期待されている。血液疾患に伴う輸血後鉄過剰症に対してdeferasiroxを使用された45例についてその効果、副作用について検討した。【患者背景】MDS19例、AA16例、PRCA3例、AML2例、ET1例、MM1例、PNH1例、MF1例の計45例(男性20例、女性25例)。年齢32-89歳(中央値67歳)。観察期間中央値142日。deferasiroxの初期投与量5-20mg/kg。免疫抑制剤(CyA)併用は17 例。【結果】治療効果について、投与前の血清フェリチン値887?14794ng/ml(中央値2300ng/ml)が投与6ヶ月後342?8892ng/ml(中央値1940ng/ml)と低下を認め、deferasiroxの用量依存的な血清フェリチン値の減少が確認された。血清フェリチン値の低回により2例が休薬となった。血清フェリチン値の低下とともにAST、ALTの減少を認めた奨励が散見された。投与後、輸血頻度の減少、血球減少の改善を2例に認めた。一方、副作用について、5例が服用中止(Cr上昇1例、食欲低下1例、悪心1例、不眠1例、浮腫1例)、6 例が休薬(Cr上昇2例、腹部膨満感1例、皮疹2例、肝機能悪化1例)を必要とした。Crはdeferasirox投与前後で比較して平均17%程度の上昇を認めたが非進行性であり、投与前値が高い場合に上昇しやすい傾向が見られた。また投与中の死亡は6例であり、いずれも原病の進行、感染症が原因であった。【結論】deferasirox使用により鉄過剰に対する一定の効果が得られた。一方、重篤な副作用は認めなかったが認容性を高めるために、用量設定や副作用対策について検討する余地があると考えられた。

t(9;22;16)(q34;q11;q24)を伴った慢性骨髄性白血病
【緒言】慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia、CML)はt(9;22)(q34;q11)の相互転座によるBCR-ABL1キメラ遺伝子を特徴とする造血器腫瘍であるが、約5%程度で第3の染色体を含む複雑型転座を示すと報告されている。今回、我々の施設においてt(9;22;16)(q34;q11;q24)の転座を示したCML症例を経験したので報告する。【症例】61歳男性。2000年よりCML の診断に対してINF-αおよびhydoxyureaにて治療されていた。FISH(BCR/ABL)では3%とMajor CyRへ到達していたがTMA法での高値(2501コピー以上)が続くため、2006年にimatinib mesylate導入目的にて当科入院となった。入院時の検査所見はWBC 5200/μl (diff: band 5%、seg 51%、lym 34%、mono 5%、eos 4%、bas 1%)、Hb 13.9g/dl、Plt 11.6万/μl、LD 200IU/l。骨髄は有核細胞数33000/μlで、blast 0.4%、eos 1.6%、bas 0%と芽球・好酸球・好塩基球の顕著な増加はなく、慢性期に矛盾しない骨髄像が見られた。骨髄細胞の染色体分析にて46,XY,t(9;22;16)(q34;q11;q24)[3]、47,idem,+8[2]、46,XY[15]と16番染色体を含む転座を認めた。imatinib mesylate投与開始後30箇月経過した現在も慢性期を維持し、外来通院中である。【考案】CMLにおいて、three-wayやfour-wayの複雑型転座に関与する染色体は多数報告されているが、16番染色体を含む転座は長腕・短腕ともに数例の既報があるのみで、複雑型転座の中でも比較的稀と考えられる。経過と併せて若干の文献的考察を加え報告する。

活動性EBV感染との関連が疑われたCoombs陰性自己免疫性溶血性貧血
症例は21歳、男性。平成16 年8月末39℃台の高熱が2日間続き解熱したが、倦怠感、労作時息切れが続くため受診した。初診時Hb 8.8g/dl、網赤血球増多、LDH高値、軽度の高ビリルビン血症を認めた。直接クームス試験(DCT)は陰性。パルボウイルスB19(HPV-B19)IgM抗体が陽性であり、同ウイルス感染による溶血性貧血のaplastic crisisが疑われた。貧血は自然回復するも溶血所見は持続、その後しばらく受診が途絶えたが、平成18年6月、健診にて貧血を指摘され再度受診された。再診時Hb 11.0g/dl、同様の貧血所見、脾腫を認めたがDCT、HPV-B19 IgM抗体は共に陰性。抗核抗体も陰性であったが、免疫グロブリン、補体C3、C4について各々軽度低値を認めた。またEBウイルス関連抗体検査にて抗VCA IgG抗体160倍、抗VCA IgM抗体陰性であるのに対しEBNA抗体が陰性であり、全血中EBウイルスDNAが340/WBC10^6個と高レベルで、EBVの活動性感染が疑われた。赤血球結合IgG分子数を測定したところ、161分子/赤血球と高値を認め、クームス陰性自己免疫性溶血性貧血(AIHA)と診断した。脾腫以外にリンパ増殖性疾患を疑う所見は認められなかったが、AIHAの基礎疾患としてEBV関連免疫異常が疑われ、示唆に富む症例と考えられたので報告する。

ボリコナゾールでQT延長、torsardes de pointesを生じた白血病症例.
 症例は67歳男性。2008年10月にMDS-RAと診断。2009年1月急性白血病への進行を認め、1月中旬よりGRNX、ITCZ内服で感染予防を行いながらCA療法開始。治療開始後第15病日FN発症し抗生剤の点滴加療を開始するも改善なく、第22病日にITCZからVRCZへ変更した。第24病日にVRCZ点滴終了直後に無脈性VT出現を認めたため心肺蘇生術を行った。後の経過よりQT延長に伴うtorsardes de pointes(TdP)と診断した。VRCZの中止に伴い徐々にTdPの出現の頻度は減少し循環動態は安定し退院することができた。
 アゾール系抗真菌薬では少数であるがQT延長や心室性不整脈の報告があり、今後使用に関し注意が必要であると考え報告する。

ATRA療法による寛解後8年目に再発、ATRA・亜砒酸の交替投与にて再度分子寛解を得た高齢急性前骨髄球性白血病.
【症例】1998年12月、66歳時、急性前骨髄球性白血病(APL)を発症。ATRA単独療法+1コースのDCMP療法にて分子寛解を得た。維持療法は行わず、発症4年後の骨髄にて分子寛解の維持を確認し、骨髄の経過観察を終了した。2006年8月より白血球減少を認め骨髄検査にて再発と診断、再度ATRA単独投与にて血液学的寛解を得たが、PML/RARαキメラmRNAは1 logの減少にとどまったため、引き続いて亜ヒ酸(ATO)による治療をおこなった。ATO 0.15mg/kgにて投与を開始したが、肝障害出現のため8日間の投与後休薬、0.1mg/kgに減量し50日間の投与を行った。投与中QTcの延長がみられた。ATO投与終了時なおキメラmRNAの残存を認めたため、続いて2週間ATRAを投与したところ、分子寛解に到達、以後2年間寛解が維持されている。【考察】本例では分子寛解後7年以上を経て再発をみており、「白血病幹細胞」が休止期の状態で長期間生存しうることを示すものとして興味深い。ATOは再発APLに対し有効であるが、心毒性等の副作用が問題であり、高齢者での投与例の報告は少ないと思われるので報告する。

CCyRで経過中Amp-CMLが増加し中枢神経浸潤で急性転化したCMLの1例.
症例は22歳男性。2006年11月感冒症状と白血球増加を契機に移行期CMLと診断。グリベック投与で診断12ヶ月目にCCyR到達。しかしMMRには到達せず20ヶ月目にbcr-abl mRNA(Amp-CML)が増加し始めた。グリベック増量も無効となりスプリセル導入に28ヶ月目(2009年3月)当科入院。なお、27.5ヶ月目骨髄検査はCCyRであった。
 入院約1週間前から頭痛、発熱あり。入院3日目に突然の視力低下が出現。頭部MRIで両視神経から中脳にかけて腫瘤状陰影と髄液中に芽球が認められCML急性転化と診断。速やかに放射線治療とスプリセル投与を開始した。CCyRで経過中に中枢神経浸潤で急性転化したCML症例について文献的考察を加えて報告する。

眼症状に対し硝子体生検にて再発と診断した鼻腔原発悪性リンパ腫の一例.
【症例】67歳男性。2005年に限局性の鼻腔原発悪性リンパ腫(びまん性大細胞性)を発症、CHOP療法3コース及び放射線照射にて寛解を維持していた。2007年9月頃より左眼のかすみが出現、鼻腔〜頭部の造影CT、MRIでは病変を認めず、血液生化学検査でも再発を疑う所見を認めなかった。以上よりぶどう膜炎疑いにてステロイド局注にて加療するも硝子体混濁が進行したため同部位の生検を施行、リンパ腫再発の診断を得た。その後脳内にも病変が出現しメトトレキサート大量療法及び全脳放射線照射にて再寛解に至り、次いで自家移植を施行し2009年4月現在も寛解を維持している。【考察】眼窩内悪性リンパ腫は節外性悪性リンパ腫の3%を占める稀な病態であり、仮面症候群として診断に苦慮する例が多い。難治性の眼症状に対しては画像所見で異常がなくても再発を念頭に硝子体等の生検を検討すべきである。

同種造血幹細胞移植後の難治性アデノウイルス出血性膀胱炎に対するcidofovirの有用性の検討.
[はじめに]同種造血幹細胞移植後のアデノウイルス(ADV)出血性膀胱炎(HC)に対する標準的治療は確立していない。近年cidofovirがADVに有効であるとの報告が散見され、現在最も効果が期待できる薬剤の一つである。[対象・方法]当科で2007年6月から2008年5月まで施行した34例の同種造血幹細胞移植のうち7例が出血性膀胱炎を発症した。免疫抑制剤減量・水分負荷による利尿促進・他の抗ウイルス薬で改善しなかったADV-HC3例(grade3 1例・grade4 2例)に対してcidofovirの投与を行った。移植前処置・ソースは骨髄前処置・非血縁者間骨髄移植2例、骨髄非破壊的前処置・臍帯血移植1例であった。2例がADV血症を合併しており、うち臍帯血移植の1例はADV腎炎および薬剤性と考えられる腎不全のため透析中であった。また骨髄移植2例は急性GVHDに対してステロイド投与中であった。cidofovirは初回5mg/kgを、可能なら1週後に同僚を投与した。[結果]1例で血中ウイルスの消失及び尿中ウイルスの減少を認めた。1例で尿中ウイルスの消失を認めた。効果を認めた2症例では自覚症状は速やかに消失し、その後HCの再燃は認めていない。透析中に投与した1例は血中ウイルス量の低下がみられず数日後にADV肺炎で死亡した。なお副作用として1例にgrade 3の尿細管を、2例にgrade4の血球減少を認めた。[まとめ]同種造血幹細胞移植後のADV-HCは、今なお移植後の重要な合併症であり時に治療に難渋する。今回当科の経験ではウイルス血症や腎障害出現前の早期にcidofovirを投与することが有用である可能性が示唆された。

子母間同種造血幹細胞移植を施行した原発性マクログロブリン血症の1例.
原発性マクログロブリン血症(WM)に対する第一選択はアルキル化剤、ヌクレオシド類似体、リツキシマブであるが、現状では治癒は望みがたく治療の目標は症状の軽減と延命である。この度、診断から5年が経過し化学療法不応性のWMに対してGVH/HVG方向に1抗原不一致の息子から子母間末梢血幹細胞移植を施行した症例を経験したので報告する。[症例および経過]62歳、女性。2004年に高γグロブリン血症を指摘。精査にてWMと診断された。診断から約1年後に過粘稠症候群による網膜出血を認め、フルダラビンによる治療を開始。IgMの低下、症状の改善あり。さらに1年後にIgMの再上昇、腹腔リンパ節腫大、胸腹水貯留を認め、フルダラビンおよびリツキシマブにて治療を行ったが不応性であり持続的胸水ドレナージが必要となった。サルベージ療法としてCHOP療法を行ったが胸水は減少せず。前治療の影響および骨髄浸潤のため汎血球減少が強く化学療法の追加が困難な状況と判断。HLA一致ドナー候補が血縁に得られたが恒例のためGVH/HVG方向に1抗原不一致の息子をドナーとしてRISTを施行した。前処置はFlu(180mg/sq)+BUS(6.4mg/kg)+ウサギATG(10mg/kg)。GVHD予防はFK506+mPSLで行った。day+11に生着を確認。1000ml/日を超えていた胸水も減少しday+33には持続ドレナージを注し。腹部リンパ節腫大は縮小傾向を認めており、day+67の時点で明らかな急性GVHDの所見は認めず良好に経過している。[考察]WMに対するallo-HSCTの報告は少なく移植が成功した場合には長期のCRが報告されており、本邦でもUedaらにより成功例が報告されている。本症例は、移植後観察期間も短いため効果に関してさらなるフォローが必要である。

同種造血幹細胞移植後BKウイルスによる重症肺炎の一例.
[はじめに]同種造血幹細胞移植後は潜伏ウイルス感染の再活性化による感染症を発症する頻度が高く、その原因のひとつにBKウイルス(BKV)がある。同種移植後合併症として、BKVによる出血性膀胱炎(HC)は比較的多く認められるが肺炎は稀である。今回我々は、同種移植後にBKVによる重症肺炎の一例を経験したので文献的考察を加えて報告する。[症例]39歳男性、ALL(L2)。化学療法抵抗性のため、非寛解期で骨髄破壊的前処置(Flu+IV-BU 12.8mg/kg)によりHLA1座不一致の母親をドナーとして末梢血幹細胞移植を施行。好中球生着後の移植後Day29に急性GVHD(Grade2)を発症しステロイド投与を開始するも治療抵抗性であった。Day55より膀胱炎症状が出現、BKV-PCR定量は尿中・血中ともに高値であったため、BKVによるHCと診断した。vidarabine、cidofovirによる抗ウイルス治療を行ったがいずれも無効であり、また薬剤性と考えられる腎機能障害を生じ抗ウイルス治療は継続できなかった。重症HC(grade 4)に対して出血コントロール目的に各種観血的処置を行ったが、無効であったため、膀胱全摘術を行った。この経過中、尿中・血中のBKV-PVR定量にてウイルス量の減少は得られなかった。その後Day165に呼吸状態の悪化を生じ、胸部レントゲン、CTで両肺野にすりガラス陰影と斑状の浸潤影を認め、肺炎と診断した。肺炎は急速な経過をたどりDay169に死亡した。[まとめ]本症例は、剖検にて、肺のびまん性肺胞障害、肺胞出血を認めた。また、肺を含む多臓器い核内封入体を認めた。免疫組織染色ではサイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルスは陰性であった。血中のBKV-PCR定量は高値であった臨床経過と合わせてBKV肺炎と診断した。今後さらなる病理検討を重ねていく予定である。

造血幹細胞移植の口腔粘膜障害予防としてのGFO(R)経口摂取の効果.
造血幹細胞移植時の化学療法、放射線治療の合併症の一つに口腔粘膜障害があり、その多くは強い疼痛を伴い、患者の苦痛は大きい。特に好中球減少期の口腔粘膜障害は二次感染を引き起こしやすく、食事摂取の妨げとなり回復遅延を招く。口腔粘膜障害の予防は移植期間の看護の上で重要であり、口腔粘膜障害予防として粘膜保護剤の内服や口腔衛生指導、移植前の歯科受診の徹底などの工夫を行っているが、口腔粘膜障害による強い痛みのため経口摂取不能となる症例が多い。GFO(R)は絶食時の腸管粘膜萎縮を軽減する効果があるとされている食品であるが、感染症予防効果や放射線治療時の粘膜障害軽減についても効果が報告されている。本研究では造血幹細胞移植時のGFO(R)経口摂取での口腔粘膜障害の予防効果を知ることを目的とした。[研究方法]対象は2007年9月〜2008年10月に造血幹細胞移植を受けた患者で、本研究に同意が得られた21名をGFO(R)投与群、2005年9月〜2006年2月に造血幹細胞移植を受けた患者13名を非投与群とした。投与群の患者に移植前処置開始日より移植後第28病日まで1日3包のGFO(R)を経口摂取してもらい、口内炎・咽頭炎・疼痛の程度をJCOGグレードに従って評価し、口腔粘膜障害の発症の頻度・程度を調査した。[結果]投与群患者の移植時平均年齢は47.1歳(25歳〜67歳)。BMT13例、PBSCT2例、CBT4例。骨髄破壊的前処置は5例。男性7名、女性6名であった。両群の口内炎・咽頭炎の程度と持続期間、GFO(R)摂取による口腔粘膜障害予防効果の有無について検討し、報告する。

造血幹細胞移植におけるADL低下の影響要因の検討-FIM評価を用いて-.
[目的]造血幹細胞移植を受けた患者は、無菌室入室による行動制限によって活動量が減り、ADLが低下するということがいわれている。現在、移植前からリハビリテーションを行い、筋力低下予防に努めているが、リハビリテーションが継続できず、ADLが低下することがある。今回患者の症状や合併症とADL評価との関連性を調査し、ADL低下の影響要因を把握して今後の看護・リハビリテーションケアに役立てたいと考え本研究を行った。[方法]対象は、2007年3月から2008年7月までに造血幹細胞移植を受けた患者で、本研究に同意が得られた26名。ADLの評価には機能別自立度評価法(以下FIM評価)を用いた。移植後60日までの急性GVHDの病期分類と急性GVHD重症度分類を用い、FIM評価とGVHD重症度、および発熱や疼痛の有無をデータ収集した。GVHD発症前と発症後とで訳、それぞれを集計分析した。倫理的配慮として個人が特定されないこと、研究に参加しない場合も古易を受けないことなどを口頭文書にて説明し、同意を得た。[結果]移植時平均年齢49.3歳(24歳〜64歳)、BMT18例、CBT4例、PBSCT4例、男性17名、女性9名であった。急性GVHD、発熱、疼痛とFIM評価との関連性を分析し、ADL低下の影響要因について報告する。

合同シンポジウム「非血縁PBSCTに向けて」
骨髄移植推進財団(JMDP)における取組の現状と将来展望.
同種末梢血幹細胞移植(PBSCT)は、1990年代より臨床応用が開始され、我が国では2000年4月に健康保険の適用を受け、日本造血幹細胞移植学会への年間登録件数は骨髄移植と同数程度である。これはPBSCTが、様々な不確定要素を蔵しつつも、患者、ドナー、医療チームにとって有用な治療法であることを物語るものである。本学会のドナーフォローアップ事業により末梢血幹細胞提供の際のG-CSF投与に伴う急性期・中長期の重篤な有害事象の種類と頻度につき正確な情報をもたらしつつあり、またG-CSF投与が健常なドナーに白血病を発症させるかもしれないという懸念はほぼ否定されたことから、日本造血細胞移植学会および厚生科学研究斑、あらに骨髄移植推進財団将来展望に関する検討会議において、骨髄バンクにおいて非血縁者間同種末梢血幹細胞採取・移植の実施に向けて早急に準備を開始することは妥当且つ必要であるという提言がされた。これを受け手、厚生労働科学研究斑は関連各学会および骨髄移植推進財団ドナー安全委員会等の強力を得て、血縁者間同種末梢血幹細胞移植の医学、医療、社会的基盤を策定するための検討を始めた。
 非血縁者間同種末梢血幹細胞移植の実施に当たり、現時点で検討すべき項目としては、(1)非血縁者間末梢血幹細胞採取。移植施設の認定基準および審査基準、(2)末梢血幹細胞採取ドナー適格基準(適応基準、除外基準、判定基準)、(3)末梢血幹細胞ドナーコーディネートプロトコール、(4)ドナーの提供意志決定(BMかPBSCか)の方法、(5)G-CSF投与方法(通院投与の可否、G-CSF減量、投与中止基準)、(6)末梢血幹細胞の採取方法(採取日程、採取ルート、採取量、CD34測定方法)、(7)採取後のドナーフォローアップ(急性期、中長期)、(8)末梢血幹細胞の運搬、(9)移植施設における末梢血幹細胞の処理(凍結の可否、使用の制限)、(10)非血縁者間末梢血幹細胞移植法の臨床試験体制、など多岐にわたっている。
 本抄録作成時にはコンセンサスを示すことはできないが、シンポジウムにおいては研究斑と骨髄移植推進財団の検討結果を報告したい。非血縁者間同種末梢血幹細胞移植の実施に向けて、皆様の活発なご意見をいただければと思います。

TCR遺伝子再構成を認めリンパ腫との鑑別を要した左下腹部原発adenocarcinomaの一剖検例.
[はじめに]血液内科医が戸惑う症例の中に臨床症状、画像所見、血液データにて悪性リンパ腫が疑われるのに病変部生検にて悪性リンパ腫との鑑別困難な非定型症例を経験することがある。今回、我々は諸事情により生検、病理検査ができず画像、血液検査所見にて悪性リンパ腫との臨床診断で内服治療開始となった症例を経験した。当院にて入院治療継続するも徐々に状態悪化した。その後の剖検にて左下腹部原発adenocarcinomaの病理診断をえた。同一病変でのTCR遺伝子再構成陽性を示しており、このような症例は稀であり、文献的考察を加えて報告する。[症例]87歳、女性。H19年X月頃より全身倦怠感を認めその後両下腿浮腫を認めるようになりI病院受診、腹部CTにて左下腹部腫瘤を認め、Gaシンチ陽性、CEA、CA125とともにIL-2R著明高値を認め、左下腹部原発悪性リンパ腫の臨床診断にて内服抗癌剤開始された。徐々に悪疫質進行、食思不振となり当院に紹介入院となった。入院後治療継続も奏効せず永眠された。その後の剖検にて左下腹部腫瘤の病理診断は、悪性リンパ腫の所見を示さずadenocarcinomaの病理像であり、他のリンパ節にも悪性リンパ腫を示す所見を認めず、経過中のCEA、IL-2Rは病状進行とともに増加し同部位のTCR遺伝子再構成陽性であったことから同腫瘤内にT細胞のclonal増生の要素を有する悪性腫瘍と考えられた。[まとめ]T cell clonalityを伴ったadenocarcinomaを経験した。このような症例は報告も少なく病態もなお十分に解明されていない。病態治療方法を考える上でも重要であり今後の症例の蓄積が望まれる。

初期治療不応性の腸管急性GVHDに対するステロイド動注療法の検討.
[はじめに]同種移植後の急性GVHDの初期治療としては副腎皮質ステロイドの全身投与が行われるのが一般的である。初期治療への反応が不十分な場合には、ステロイドパルス、ATGの他、ペントスタチン、抗TNF抗体、MMFなどの薬剤が二次治療として用いられるが、未だ標準的治療は存在しない。これらの多くの薬剤は高価であり、またこうした薬剤の全身投与により感染症の危険が増すこととなる。以前より、動脈内に直接ステロイドを注入することにより、消化管GVHDを治療する試みの有効性が報告されている。我々のグループでも、難治性消化管急性GVHDに対するステロイドの動脈注入療法の有用性に着いて検討することとした。[対象と方法]対象は、組織学的に証明されたstage1以上の消化管急性GVHD(急性GVHD gradeでは2以上)を発症した患者、その中で、初期治療(全身のステロイド投与など)を受けているが、改善しない患者(治療開始3日目以降の悪化、5日目の時点で改善がみられない場合)を対象とした。当院の倫理委員会の承認を得て、患者に十分な説明を行い同意を得た症例のみを対象とした。→または左大腿動脈よりカテーテルを挿入し、胃十二指腸動脈・左胃動脈・上・下腸間膜動脈から、メチルプレドニゾロン1mg/kgを1分間かけて投与した。動脈の選択は臨床症状・消化管内視鏡所見などに基づいておこなった。[結果]これまで6例に対して施行し、CR・PRがそれぞれ3例・1例で得られた。動脈注射の施行回数は、1回から4回であった。カテーテル挿入に伴う出血などの合併症は認められなかった。今後も症例を蓄積して、検討を続ける予定である。

急性GVHDに対する初期治療としてのステロイドおよびミコフェノール酸モフェチル(MMF)併用療法の安全性および有効性に関する検討.
[緒言]急性GVHDの初期治療としてステロイドの全身投与(mPSL1-2mg/kg/day)が一般的であるが、ステロイド単剤での初期治療の寛解達成率は35-50%程度であり、またステロイド長期投与に伴う感染症発症も重要な合併症となりえる。興味深いことに最近急性GVHDの初期治療としてmPSL+etanerceptの併用療法の有効性がミシガングループより報告されている。今回我々は、治療反応性の改善及び感染症の合併を減少させることを目的とし、急性GVHDの初期治療としてmPSL(1週間のみ投与)+MMFの併用を行い、その安全性と有効性につき検討した。[対象と方法]対象は2007年3月〜9月に当施設において非血縁バンクドナーから同種骨髄移植を施行された血液疾患患者の内、2度異常の急性GVHDを発症した5症例。年齢中央値は38歳(24-43)。疾患はAML・ALL各2例、AA1例、GVHD予防はCsA+sMTX4例、FK506+sMTX1例であった。急性GVHDは4例が2度(2例:skinのみ、1例:gutのみ、1例:gut+skin)、1例が3度(gut)であった。これら5症例に対し、MMF(1.5-2g/day)及びmPSL2mg/kg/dayの併用療法を行った。[結果]投与開始後7日目時点で4例がCR、1例がPR、14日目時点では全例CRとなった。PRの1例と副作用のためMMF継続困難であった1例を除く3例において7日目でmPSLを中止した所、中止後3週以内に全例GVHDの再燃を認めた(skin1度:1例、skin2度:1例、gut2度:1例)。最終的に5例共にGVHD・感染症での死亡は認めなかった。[結語]ステロイド+MMF投与は治療反応性を改善する可能性があるが、ステロイド中止後の再燃が問題となった。今後、急性GVHDに対する初期治療成績の改善の為には更なる検討が必要である。

造血幹細胞移植後の食事の実際について.
[研究目的]造血幹細胞移植後患者は厳しい免疫不全状態となり、一般的には問題にならない病原体が感染症を引き起こすことがある。そのため、ステロイド・免疫抑制剤内服中は感染のリスクが高い食品は避けなければならない。当院では移植後患者の退院時にパンフレット「血液内科治療中の食事リスト」を渡し「食べてはいけないもの」「食べてもいいもの」「調理器具や環境に関する注意事項」を患者や家族に指導している。しかし、禁止している食品のエビデンスの明らかなものはなく、又生活スタイルの多様化で食事内容も変化してきているため、今後緩和できる食品に関して検討していきたいと考えた。今回の研究は移植患者が禁止されている食事の開始時期の実際を知ることを目的とした。[研究方法]研究期間は2007年11月〜2008年3月対象者は移植経験のある患者37名。研究方法は研究者が独自に作成した構成的質問用紙を用い、生もの・ファーストフードなどの禁止されている食事の開始時期等のアンケート調査を行った。倫理的配慮は、口頭と文章において研究の趣旨内容を説明し、同意を得た。研究参加を拒否しても不利益がないことを保証し、又院内の倫理委員会の承認を得た。[結果]対象者は男性22名、女性15名、平均年齢は43.1歳。開始時期や作り置き時間などの結果について検討を加え報告する。

造血細胞移植前の口腔内感染源スクリーニングの検討
[緒言]造血幹細胞移植に伴う免疫抑制期の歯性感染症を回避する目的で、移植前に口腔内感染源スクリーニングと適切な治療を行うことが重要とされている。今回、当院において移植前に口腔内診査を行った18例について検討した。[対象]2007年3月より2008年8月までに移植前スクリーニング目的にて当院歯科口腔外科を受診し、当科および協力施設にて2008年8月までに移植を施行した18例(中央値47歳:33-66歳、男女比12:6)。ドナーソースはuBMT 7例、uCBT 3例、rPBSCT 1例、rBMT 1例、aPBSCT 6例、疾患の内訳はAML 2例、ALL 6例、CML 1例、ATLL 1例、AA 1例、ML 7例であった。[結果]歯科疾患は16例(88%)、齲歯13歯、歯髄炎 6歯、根尖性歯周炎 24歯、辺縁性歯周炎 14例、埋伏智歯 5歯がみられた。処置として抜歯 20歯、抜髄 6歯、修復処置 3歯、感染根管治療 7歯および歯石除去14例を施行、前例において前処置開始から移植後に歯性感染症はみられなかった。[考案]近年では抗生剤等の支持療法発達に伴い、感染症治療に難渋する頻度は以前より減少しつつある。しかし感染症死がTRMの主たる一因となる事には依然として変わりはない。化学療法時の歯性感染症予防に関しては必要・不要という双方の見解の報告がみられるが、造血細胞移植において実施は妥当とされている。若干の考察を加え報告する。

移植後患者の不眠症状に対するアロマテラピーの効果
[研究目的]移植後患者は急性的・慢性的合併症による持続的苦痛、倦怠感により不眠症状を訴える患者が多い。このような患者に対して不眠や疲労に有効だと言われるアロマテラピーを取り入れることによる不眠症状緩和への有効性を検討する。[方法]対象者は移植後慢性的に不眠症状のある患者。心身の疲労や不眠に効果があるといわれるベルガモットのエッセンシャルオイルを使用し、22時?6時までベッドサイドにアロマランプを設置した。使用前と、2?3週間の設置期間中における患者の主観的感想・睡眠状態・眠剤使用状況・日中の活動についてデータ収集し、前後で変化を比較・分析した。また、対象者は移植後患者の中から抽出し、口頭にて研究方法を説明、同意を得た。[結果]毎日眠剤を内服しているが、夜間頻尿で中途覚醒が多いA氏については眠剤の使用状況や、尿意のための中途覚醒に変化はみられなかった。しかし、アロマランプの使用により再入眠しやすくなった・熟眠感が得られたと反応があり、日中の倦怠感が軽減したことで歩行器での棟内歩行が可能になった。移植後の合併症状が強く夜間不眠に加え、軽い鬱状態となったB氏に関しては、不眠に対しての効果は得られなかったが、いい匂いで安らぐ等という言葉が聞かれた。その他、追加結果を含め報告することとする。

広域抗生剤不応の発熱性好中球減少症に対する経験的治療としてのイトラコナゾール注射薬の有用性について.
[背景]イトラコナゾール(ITCZ)注射薬が、深在性真菌感染症確定例だけでなく、広域抗生剤不応性の発熱性好中球減少症(FN)に対する経験的治療薬としても保険承認されたが、それは海外での試験結果に基づく認可であり国内での臨床試験は実施されていない。そこで我々は造血器悪性腫瘍患者を対象にした多施設共同研究を実施した。[対象と方法]2007年4月から翌年3月に入院した造血器悪性腫瘍患者で広域抗生剤投与でも解熱しないFN症例のうち、文章による同意が得られた68例を対象とした。ITCZ注射薬の投与は、最初の2日は400mg/日、以降は200mg/日とした。投与は原則14日までとし、継続投与が必要な場合は経口カプセル製剤に変更した。有効性の評価は、解熱の有無と好中球の回復状況を指標とした臨床的効果判定基準だけでなく、過去の海外の大規模臨床試験に従って複合エンドポイントによる評価も行った。[結果]全68例について計画通りの治療実施と解析が可能であった。有害事象は9例(13.2%)に認めたが重篤なものはなかった。臨床的効果判定基準による有効率は69.1%であり、これら症例は他の抗真菌剤に変更することなく治療を終了できた。一方、投与終了後7日までの生存率は94.1%、好中球減少期間中の解熱は57.4%、投与期間中や中止後7日以内に真菌感染症を認めなかった症例は95.6%、副作用、服薬困難や無効による早期中止に至らなかったのが94.1%であり、これらを総合的に判定した複合エンドポイントによる有効率は47.1%であった。[結論]以上の結果は、信頼区間95%、検出力80%において、2001年にBoogertsらが報告した成績をもとに算出した標本サイズ、期待有効率を満たしており、日本人においてもITCZ注射薬は深在性真菌症にたいする経験的治療薬として有効かつ安全であることが示された。

造血器疾患治療中患者の発熱性好中球減少症の診断治療におけるプロカルシトニンの有用性に関する検討.
[背景]造血器疾患やその治療に伴う発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)に対しては、広域抗生剤による速やかな経験的治療が実施される。しかし、FNの原因は、細菌感染以外にも、心筋やウイルス感染症、腫瘍熱、薬剤性発熱、移植片対宿主病(GVHD)など様々である。最近、保険収載が認められた免疫化学発光法による血清プロカルシトニン(PCT)精密測定法は、細菌感染症とそれ以外による発熱を鑑別する手法として期待されているが、FN患者における有用性は不明である。[対象と方法]2006年8月から2007年11月までの間にFNを発症した3施設の成人血液疾患患者92例(AML22例、ALL12例、NHL42例、MM5例、MDS4例、その他7例)を対象とした。書面による同意を得て、初回の経験的治療をPK/PD理論で最適化したビアペネム投与(1.2g/day)に統一し、経時的にPCTを測定した。[結果]後に判明した発熱の原因によって、(A)血液培養陽性例(n=15)、(B)何らかの局所感染症状をみとめたもの(n=10)、(C)発熱の原因不明(n=62)、(D)腫瘍熱などの非感染性の発熱(n=5)に分けたところ、それぞれに対するビアペネムの有効率は60%、50%、46.8%、0%であった。一方、発熱後24時間以内のPCTの測定値が、従来の陽性基準である0.5pg/ml以上を示した比率は、A群33.3%、B群20%、C群6.5%、D群0%、また測定可能な0.1pg/ml以上を示した比率は、A群53.3%、B群30%、C群16.2%、D群0%であった。[結論]PCTは、FNにおいても細菌感染症で陽性になる可能性が示唆されたが、総じて通常の感染症より低値を示すものと思われた。現在、詳細について解析中である。

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫のCHOP療法におけるRelative Dose Intensity(RDI)の予後への影響.
[目的]近年中高悪性度リンパ腫において、化学療法でのrelative dose intensity(RDI)を高めることによる治療成績の向上が再び期待されている。今回我々はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の初回CHOP療法施行例においてRDIを計測し、」IPIにより層別化した亜群でのRDIが予後に与える影響を検討した。[方法]1995年から2006年に3施設でちりょうした初発のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫で初回治療よりCHOP(+リツキシマブ)療法を少なくとも連続3コース異常施行した176例を対象に後方視的にRDIを計測し、全生存(OS)率・無イベント生存率(EFS)への影響を解析し、さらにIPIにより層別化した亜群でのRDIが予後に与える影響、RDI低下に関与する因子も検討した。[結果]全例の年齢中央値は57歳(17-76歳)、高齢者(>60歳)57例(37%)、IPIは高リスク群(H・H-I)73例、低リスク群(L・L-I)群103例(58%)、リツキシマブ併用例(R-CHOP)は67例(38%)。全例でのアドリアマイシン(ADR)とシクロフォスファミド(CY)の2剤の平均のRDIの中央値は84.7%であった。観察期間中央値は14.7ヶ月でRDIが84.7%。(中央値)未満と以上の2群で5年EFSに有意差経口を認めた(RDI<median:36.9% vs. RDI median 61.4%、log-rank p=0.02)。多変量解析で高齢(Odds risk(95% CI); 1.0(0.9-1.0)、p=0.08)がRDI低下に、2001年以降の治療開始時期(OR(95% CI);4.5(2.0-10)、p<0.001)とG-CSFの予防投与(OR(95% CI);2.0(1.1-3.8)、p=0.03)がRDI増加(維持)に関係する因子として抽出された。[結論]今回の解析からびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の治療において、RDIは特にIPI低リスク群の予後に有意に影響し、さらに積極的なG-CSFの予防投与によるRDIの維持が予後の開園につながる可能性が示唆された。

エクソン13に新規ナンセンス変異(Trp499Stop)を認めたプレカリクレイン欠乏症.
プレカリクレイン欠乏症は活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の著明延長にもかかわらず出血症状に乏しい常染色体劣性遺伝の先天性凝固異常症である。現在までに世界で約30家系が報告されているが、遺伝子変異部位の特定が同定されているものは5家系に過ぎない。今回、登院にてプレカリクレイン欠乏症と診断した患者のプレカリクレイン遺伝子のシークエンス解析を行ったところ、新規ナンセンス変異を見出したので報告する。【症例】42歳男性。両手指の皮下出血斑を主訴に来院。血液検査に血小板減少(2.5万/μl)とPAIgGの高値が認められたほか、APTTが117秒と著明に延長していた(プロトロンビン時間は正常範囲内)。患者血漿を調べたところ第VIII因子、第IX因子、第XI因子および第XII因子の活性に異常を認めなかったが、プレカリクレイン活性が測定限界以下にまで低下していた。また、交差混合試験では1/10量の正常者血漿添加によりAPTTの補正を認めた。以上よりプレカリクレイン欠乏症に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併した症例と診断した。末梢血単核球よりDNAを抽出し、プレカリクレイン遺伝子の塩基配列を解析したところ、第13エクソンに新規ナンセンス変異(Trp499Stop)がホモで検出された。[考察]プレカリクレインはアミノ酸619個からなるセリンプロテアーゼの前駆体で、活性化第XII因子による限定分解を受けてアミノ酸残基371個のH鎖と248個のL鎖からなるカリクレインとなる。セリンプロテアーゼとしての活性中心はL鎖に存在しているが、当患者では今回見出されたナンセンス変異よりL鎖の約半分が欠失していると推察され、この変異によりプレカリクレイン活性が失われているものと考えられた。

当科における慢性骨髄性白血病に対するメシル酸イマチニブ治療成績.
[目的・方法]2002年1月から2007年5月までの期間に当科でメシル酸イマチニブ治療を開始した慢性骨髄性白血病20例について後方視的に検討した。[結果]症例数は20例(男性8例、女性12例)、年齢は25-82歳(中央値61歳)、治療開始時平均白血球数51546/μl。前治療のある症例9例(HU単独3例、IFN/HU併用6例)、前治療のない症例11例。投与期間は9-73ヶ月(中央値43.5ヶ月)。最終観察時点での1日投与量100-400mg(中央値350mg)。12ヶ月時点でのCCR達成率68%(13/19)、18ヶ月でのCCR達成率80%(12/15)、最終観察時点でのCCR達成率90%(18/20)。12ヶ月時点でのMMR達成率37%(7/19)、18ヶ月時点でのMMR達成率33%(5/15)、最終観察時点でのMMR達成率80%(16/20)であった。[考察]投与18ヶ月のMMR達成率が33%であったが、1日平均投与量ではMMR達成者が360mgに対し未達成者では290mgであり300mg以上の投与量が必要と示唆された。なお前治療がある患者では7/8例が18ヶ月でMMRに至らなかった。また18ヶ月時点でのELN判定では5例でoptimal、7例でsuboptimal、3例でfailureであったが、suboptimalでイマチニブ増量困難であった4例中3例は同量継続投与にてMMRに至っておりlate responseを認めた。一方最終観察時点でのMMR未到達症例は4例であったが、投与期間が1年未満であった症例以外の3例は前治療及び一定の休薬期間があった。イマチニブ増量が困難な症例でも休薬期間を極力短くした上での一定量の継続投与によりある程度はlate responseが期待できるのかもしれない。

経気管支肺生検にて診断確定し、自家末梢血幹細胞移植が有効であった血管内大
細胞型B細胞リンパ腫症例.
[症例]45歳男性。2005年10月、発熱、高LD血症、低酸素血症(SaO2 85%)の為入
院。経気管支肺生検にてintravasucular large-B cell lymphoma(IVBCL)と診断され
た。R-CHOP療法開始後症状は軽快し、LDも正常化した。6コース終了後のFDG-
PETでは異常集積なくCR到達と判断。CHASER療法にて自家末梢血幹細胞を採取
し、2006年5月、幹細胞移植併用化学療法(MCEC療法)を施行した。以後、23ヶ月経
過した現在も再発徴候なくCRを維持している。[考案]IVBCLは以前は生前診断が困
難で予後不良な病型の一つとされていたが、積極的な生検により確定診断に至った
報告が増加している。一方治療に関してもShimadaらの報告ではrituximab併用化学
療法により、化学療法単独を有効性において大きく上回る事が示された。本症例も初
回導入および動員化学療法にrituximabを併用し、観察期間が短いものの寛解を維
持し得ている。若干の考察を加え報告する。

急速なアミロイドーシスの進行を認めた多発性骨髄腫.
[症例]72歳女性。[現病歴]2006年5月他院にて多発性骨髄腫(IgGλタイプ、臨床病期DS2A、ISS 2)の診断を受けMP療法を受けていた。心房細動を認め循環器内科でジゴキシンが投与されていた。サリドマイド治療を希望され、当院へ紹介された。同年9月26日よりサリドマイド、デキサメサゾン併用療法開始。IgGは2800から1800に低下し安定しており外来にて治療を継続していた。2007年3月9日右胸痛が出現し、下肢浮腫も著明となり歩行困難となり3月11日救急搬送された。[入院後経過]入院時検査ではCRP29mg/dl、IgG1551mg/dl。胸部レントゲンでは右下肺に肺炎像が認めた。骨髄検査では、骨髄腫細胞は35.2%に認めた。心不全はハンプにより軽快し、下腿の浮腫は消失した。抗生剤で解熱したもののCRPは11mでしか下がらずレントゲン所見も改善がみられなかった。入院後食欲不振がつづいたが呼吸困難の訴えはわずかであった。しかし4月9日、突然、呼吸困難が増悪し死亡された。[心エコー所見および剖検所見]2006年9月16日の心エコーでは心アミロイドーシスの所見を認めなかった。しかし、2007年3月13日の心エコーではびまん性に左房、左室、右房のhypokinesisがみられ拡張障害が認められ心アミロイドーシスの所見に合致した。剖検所見では全身性のアミロイドーシスを認め、肺の出血性梗塞が見られ、器質化した右心耳の血栓を認めた。心アミロイドーシスによる心不全が直接の死亡原因と考えられた。[考察]本症例ではサリドマイド投与中の6ヶ月に、骨髄腫の臨床病期の進行はなくむしろIgGの低下傾向、貧血の改善傾向がみられていた。治療効果に相反してアミロイドーシスが急速に進行したために突然死亡したと思われた。多発性骨髄腫の経過をみるうえで心アミロイドーシスに十分注意をはらう必要があることを示唆する症例と考えられた。

[多施設共同研究]
高齢者aggressive非ホジキンリンパ腫に対するR-VNCOP-B療法.第2相研究.
[目的]第46回臨血・第66回日血の合同総会において、我々は高齢者aggressive NHLに対するVNCOP-B療法での安全で優れた成績を報告した。引き続いて、第48回・第68回日血の合同総会においてリツキシマブを併用することによるVNCOP-B療法の第1相研究を報告した。今回我々は第2相研究結果を報告する。[方法]VNCOP-B(etoposide、mitoxantrone、cyclophosphamide、vincristine、predonisolone、bleomycin)にリツキシマブを併用し初回寛解導入療法として施行した。その終了1ヶ月後よりリツキシマブによる後治療を施行した。[結果]23例の登録があり21例が治療効果判定可能であった。完全寛解率90.5%、奏効率100%であり、3年生存率(OS)76.4%(観察期間中央値744日)、3年無増悪生存率(PFS)82.6%(観察期間中央値744日)と良好な成績が得られた。MITにおけるRelative dose intensity(RDI)の平均は0.61であり、それによる治療成績の差はみられなかった。IPIにより、OS、PFSともにhigh riskグループではlow riskグループより劣る傾向がみられた。Retrospectiveに単一施設でのR-CHOPとの比較では、R-CHOPの成績は3年OS59.3%(観察期間中央値385日)、3年PFS43.6%(観察期間中央値371日、p=0.049)とR-VNCOP-Bが優る傾向がみられた。IgG定量による免疫能では寛解導入期に減少するものの、リツキシマブ後治療後以降はほぼ治療前値に回復した。治療関連毒性はgrade3以上の好中球減少症が75.0%、血小板減少症10.0%、発熱性好中球減少症30.0%であり、治療関連死はなかった。

[多施設共同研究]
慢性期CMLにおけるイマチニブ治療の現状.
[目的]慢性期CMLにおけるイマチニブの優れた治療成績は広くしられているが、実際の診療状況を検討し、問題点や課題がないのかを検討した。[方法]イマチニブの投与を1年以上受けた慢性期CML症例を対象として、患者背景や治療成績を評価した。
[成績]症例63例で(男性39例、女性24例)、年齢は20-93歳(中央値60歳)であった。前治療のある症例が22例、ない症例が41例であった。投与量は最終観察で100mg-600mg(平均336mg、中央値400mg)であった。観察期間は14-74ヶ月(中央値50ヶ月)で全例が慢性期を維持し生存していた。CCR達成率は治療開始12ヶ月後60%、18ヶ月後71%、24ヶ月後78%、最終観察では92%であった。MMR達成率は治療開始12ヶ月後14%、18ヶ月後25%、24ヶ月後37%、最終観察では70%であった。MMR達成例の最終観察投与量は100mg 1例、200mg 6例、300mg 7例、400mg 25例、600mg 3例であった、治療成績を年齢(65歳未満と以上)、前治療の有無、治療開始1年後の投与量(300mg未満と300mg以上、400mg未満と400mg以上)で比較したが、前治療なしの症例、400mg以上の症例で治療成績が優れていた。MMR未達成で400mg未満の症例は12症例あり、理由は副作用、コンプライアンス不良などであった。効果判定時期は各症例間で異なり、特にMMR判定が遅延することが多かった。[結論]慢性期CML治療に関しては、Europe Leukemia Netから治療指針が提示されているが、今回の検討で、投与量や効果判定時期には各主治医の裁量が相当あることが判明した。効果判定時期の遅れからMMR達成率は低値であったが、最終観察時の治療成績は良好であり、主治医の裁量は容認できるものと思われた。MMR達成例ではイマチニブを減量する傾向があるが、MMRを維持できていれば治療目標を達している可能性がある。

同種造血幹細胞移植後、高度の便秘と難治性腹痛で発症した播種性水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症の一例.
【症例】24歳、女性。急性骨髄性白血病の再発に対し2007年2月、非血縁骨髄ドナーからの再移植を施行。移植後Day29より急性GVHDを発症し mPSLにより治療を開始。Day50頃より高度の便秘、その後Day56頃より強い腹痛が出現し、増悪。腹部CTでは腸管拡張を認めるのみであった。 Day62背部に散在性水疱を認め、末梢血PCRにてVZV陽性であった。これより腹部症状は播種性VZV感染によるものと診断しacyclovir投与を開始した。経過中、膵炎及び血球貪食症候群を認めた。治療開始後も強い腹痛は持続、オピオイドにても疼痛コントロール不良であり、Day64に鎮痛目的に人工呼吸管理とした。ウイルス量の減少を待ちDay78に抜管、Day106には末梢血VZVは陰性化した。腹痛も徐々に改善しオピオイド中止可能となった。経過良好にてDay181に退院、現在外来通院中である。【考察】播種性VZV感染症は同種移植等の免疫不全状態で発症し、致死率が高く、早急な治療が必要である。しかし便秘・腹痛等の非特異的症状が初発症状となり診断に難渋する場合がある。免疫不全状態での腹痛の原因として播種性VZVも念頭に置く必要がある。

腸管GVHD治療中にEBウイルス関連移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)による小腸穿孔を来した急性骨髄性白血病の一例
[症例]64歳、男性。2006年5月発症のMDS(RAEB-1)。2006年8月に急性骨髄性白血病に転化した。CA療法3コース、BHAC+DEM療法後非寛解の状態であった。MEC療法にてcytoreduction後Flu+ Buの前処置で2007年3月29日HLA full matchの骨髄バンクドナーからのuBMT (RIST)を施行した。GVHD予防はCsA+ short term MTXで行った。Day19で好中球の生着、day31に血小板の生着を確認した。Day36に皮膚のGVHD(stage 1)を発症し、day41に腸管のGVHD(stage 2)を発症した。mPSL 2mg/kgの投与により下痢は改善、mPSLは適宜減少していった。その後、下痢の再増悪が認められたため、CFを施行し、CMV腸炎の診断が得られたため、mPSL減量およびGCVの投与にて改善した。mPSLの減量中、腹痛と下痢の悪化ありCFにてGVHDと診断、PSLの再増量にて改善した。Day159朝より突然の左下腹部痛の訴えあり、CTにて消化管穿孔と診断、緊急開腹手術にて回腸切除を施行した。術中所見では小腸全体に浮腫と腸間膜の発赤認め、免疫染色にてCD20陽性・MPO陰性・EBER陽性であり、同種造血幹細胞移植後のEBウイルス関連移植後リンパ増殖性疾患と診断した。PSLとCsAの減量およびrituximabにて加療中であり、良好な経過をたどっている。[考察]EBウイルス関連移植後リンパ増殖性疾患は比較的稀な疾患であり、今回小腸穿孔で発症したPTLD症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。

造血幹細胞移植の粘膜障害に対してGFO投与が有効であった一例
[症例]GFOは消化管機能の維持に有用なグルタミン、食物繊維、オリゴ糖を主成分として食品である。GFOの摂取は、消化管手術後の絶食期間中の消化管粘膜萎縮を予防し、経口摂取への移行を順調にすると報告されている。また頭頚部の放射線治療による口腔、咽頭の粘膜障害を軽減するとの報告もある。造血幹細胞移植においては、前処置や白血球減少による粘膜障害のため経口摂取が困難となり、長期にわたり絶食となる患者が多い。今回、移植前後にGFOを経口摂取したことにより、諸家間粘膜障害の軽減と口腔粘膜障害の予防が図れた症例を経験したので報告する。[症例]53歳、男性。MDSに対して、Arac/CY/TBIの前処置にて臍帯血移植を施行した。GVHD予防にはシクロスポリンとMTXを用い、ロイコボリンを併用した。Day-3(WBC 100/μl)より1500ml/日の下痢が出現したため、絶食、高カロリー輸液開始となった。Day0には下痢は2000ml/日に達したが、水分摂取での腹部症状の増悪がなかったため、day3よりGFOの経口摂取(45g/日)を開始した。Day4より下痢は減少し、腹痛も消失した。Day20に経口摂取を再開することができた。白血球生着はday12であった。経口摂取再開時に、腹痛、下痢、嘔気、嘔吐はなく、順調に高カロリー輸液からの離脱を図ることができた。また、口内炎や咽頭炎の出現がなかったため口腔ケアの自己管理継続ができた。[まとめ]造血幹細胞移植後の絶食期間中にGFOを摂取することにより、順調な経口摂取再開に至った症例を経験した。また、口腔ケアを継続することができ、口腔粘膜障害の予防にも寄与したことも考えられた。造血幹細胞移植後の消化管粘膜障害に対してもGFOが有効であることが示唆され、今後も症例を蓄積して検討する方針である。

クロフォスファミドパルス療法が著効した同種造血幹細胞移植後Idiopathic Pneumonia SyndromeにおけるTh1、Th2サイトカインの検討
[症例]症例は69歳男性。平成17年4月発症の成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)。同年10月寛解期に骨髄非破壊的前処置にてHLA-DRB1 遺伝子型不一致非血縁者ドナーより骨髄移植を施行。移植後7日目(day7)にII度急性GVHDを発症するもmPSL投与にて寛解に至り、良好な経過にあったが、day398にATLL皮膚再発が判明。これに対して免疫抑制剤tacrolimus中止で対症したところ、II度皮膚GVHD出現に伴いATLL皮膚病変も縮小傾向が認められた。しかしday437に発熱、咳嗽出現し、胸部CTで両側上中肺野スリガラス陰影が認められた。肺炎は抗生剤抵抗性でmPSLパルス療法でも改善せず、まもなく血痰を伴い悪化して人工呼吸器管理となった。気管支鏡検査施行し、BAL液は血性で各種微生物的検査は陰性であり、びまん性肺胞出血を伴ったIdiopathic Pneumonia Syndrome(IPS)と診断された。シクロフォスファミドパルス療法(1g×2日間)施行後、呼吸状態は改善し、抜管となった。ATLLも寛解に至り、現在まで良好に経過している。本症例においてIPS診断時血清と移植前血清を用いて27種類の血清サイトカインの同時測定を行った。その結果、Th1サイトカインであるTHN-α、INF-γ、IL-2の著明な上昇に加えてTh2サイトカインであるIL-10またIL9、IL-15の上昇が認められた。これまで同種移植後IPSではTh1サイトカインの関与が指摘されていたが、本症例の結果からTh1に加えてTh2サイトカインの関与を伴う病態の形成が示唆された。

造血細胞移植患者サポートチームの構築
[臨床研究]A大学病院において、造血幹細胞移植サポートチーム(以下移植チーム)を立ち上げるまでの看護師の取り組みをまとめることで、移植チームを構築し継続性を強める要素について示唆を得た。[研究方法]がん看護専門看護師(OCNS)は、チーム構築を目的とした管理コンサルテーションを受け病棟の現状を分析した結果、看護師の退職や異動により研究成果の継続が困難になっていること、患者の急激な病状悪化によりケアが充分できなかったという無力感をもち看護の達成感がみえないこと、コメディカルの介入は問題発生後となっていることが問題であった。課題として「看護師教育」「自己効力感を高めること」「コメディカルに対して移植ケアの介入の必要性を理解してもらうこと」に取り組んだ。Bandur(1996)の理論のもとに口腔・リハビリなどの専門グループで学習を強化する、コメディカルと密に連絡をとる、管理者とOCNSによる成功を保証する、自分たちで学習を進めていった。また「何のために行うか」の意識を高めるために移植患者にとって必要なケアを見直し他部門への協力依頼をした。グループ毎の学習、問題が発生した際、チームで相談しコメディカルに協働をもとめることを継続し、定期的にチームで検討した。患者のニーズに応えるために何が必要かを認識しながら各グループとコメディカルの話し合いがすすみ、リハビリの早期の開始、栄養に関する個別対応、他職種カンファレンスの実現へと発展した。[考察]移植チームがボトムアップ的に構築され継続しているのは、看護師の自己効力感の高まりが関与している可能性が考えられた。

造血器悪性疾患に対するIntravenous Busulfan 8mg/kg+Fludarabine 180mg/m2+TBI 4Gyによる骨髄非破壊的臍帯血移植(RICBT)の検討
[臨床研究]近年、高齢者や臓器障害を有する症例に対するRICBTの報告は増加しているが、生着不全、感染症やそれに伴う高率植関連死亡(TRM)は未だ大きな問題である。以前当院においてはoral BU 8mg/kg、Flu 180mg/m2、TBI 4GyによるRICBTを行っていたが、やはり高率な生着不全、TRMが問題であった。今回我々は、BUの血中濃度の増加と安定化により生着不全を減らす目的で、Intravenous Busulfan (IV-BU) 8mg/kgおよびFludarabine (Flu) 180mg/m^2、TBI 4GyによるRICBTを施行し、過去のoral BU 8mg/kg、Flu 180mg/m^2、TBI 4GyによるRICBT例と比較検討した。[対象・方法]対象は2005年から2007年5月まで当院でprospectiveにRICBTを施行した5例で、年齢中央値64歳(46-68)、疾患はNHL 3例、ATL 1例、AML 1例で、病期は4例が進行期で、移植前処置はIV-BU/Flu/TBI、GVHD予防は2例がCsA+sMTX、3例がCsA単独、臍帯血はHLA完全適合1例、4/6適合が4例、総輸注細胞数の中央値は3.36×10^7/kg(2.31-3.44×10^7/kg)であった。[成績]5例全例で好中球の生着を認め(22日[14-31])、全例でday30にて完全T細胞ドナー型キメラを確認した。血小板の生着は評価可能例4例全例に認めた(56日[47-290])。2度以上急性GVHDは評価可能例4例のうち3例に認めた。2例が原病の進行で死亡し、現時点でTRMは0%で、5例中3例が生存中である。一方、当科の過去のoral BU8/Flu/TBI 4GyによるRICBT例は4例で、生着不全を2例に認め、TRMは4例中2例で長期生存例は1例である。[結論]今後症例の蓄積が必要であるが、IV-BU 8/Fli/TBI 4Gyによる前処置はRICBTの生着率を向上させ、移植関連死亡を減少させうる可能性があると考えられた。

心機能低下5症例に対する骨髄非破壊的同種造血幹細胞移植(RIST)後の心機能および自律神経機能の解析
[臨床研究]RISTは高齢者・臓器障害のある患者に対して移植を可能にする名目で開発されたが、近年RISTにおいても移植前の臓器機能と移植の予後との関連が報告されていきている。しかし心機能低下症例などへのRISTの安全性に対するまとまった法億九はほとんどない。さらに、最近RISTの心機能の改善を示した興味深い症例も報告されている。そこで、我々は心機能低下症例に対するRISTの安全性を検討するとともに、心機能や自律神経機能が移植後どのように変化するかを包括的に評価した。[対象と方法]2003年11月〜2007年5月に当科でRISTを受けた血液悪性疾患患者5例(年齢39〜55歳)。疾患はNHL3例、AML1例、ALL1例。ドナーは3例が非血縁バンク、2例が臍帯血であった。GVHD予防は4例がCsA+短期MTX。1例はCsAのみ。Pre、day30、day60、day100に心エコー、心プールシンチ(RNA)、心電図、血清マーカー、更に自律神経機能の評価として24時間心電図を用い、心拍変動解析を行った。[結果]移植前の心エコーでのLVEFは34-56%(中央値45%)。1例がday150頃に心不全を発症した。day100mでのエコー、RNAでは収縮・拡張能マーカー、心電図の経過は著変を認めなかったが、ほぼ全例でday30においてCVRR、SDNNおよびHF(自律神経系機能マーカー)の低下傾向を認め、心不全発症例で特に低い傾向を認めた。[結語]注意深い管理により心機能低下症例に対するRISTは十分施行可能である。心拍変動の低下が同種移植後の心事故の発生にどのように関与するかを検討するには今後、症例の蓄積を要する。

造血幹細胞移植後のAMPH-B治療中に新規発症したトリコスポロン血症の2例
[症例]今回我々は、造血幹細胞移植後のAmphotericin B(AMPH-B)治療中に新規発症したトリコスポロン血症の2例を経験したので報告する。[症例]症例1:39歳、女性。CML(AP)で非血縁骨髄移植(RIST)施行。移植前よりpossible fungal infectionに対し、Micafungin(MCFG)300mg/dayを投与していた、移植後好中球減少が遷延し、day20より抗生剤不応性の発熱が出現、βDグルカン120pg/mlと上昇を認めたため、day22よりMCFGからAMPH-Bに変更した。しかし、その後全身状態悪化し、day26に急性呼吸不全にて死亡した。後日、day25の血液培養よりTrichosporon beigeliiが検出された。症例2:63歳、女性。MDS overt AMLで非血縁者骨髄移植(RIST)施行。aGVHDに対してステロイド長期投与中にウイルス感染症を合併し、その治療中に好中球減少が出現、遷延した。Day83より抗生剤不応性の発熱を認め、Liposomal Amphotericin B(L-AMB)5mg/kg/dayを投与していたが、day104よりβDグルカン237pg/mlと上昇認め、day106の血液培養から酵母様真菌が検出された、day108よりL-AMBをVoriconazole(VRCZ)に変更したところ翌日より解熱し、βDグルカンも59.4pg/mlと減少を認めた。後日、酵母様真菌はTrichosporon speciesと判明した。VRCZ開始10日後(day 117)には血液培養でトリコスポロンの消失を確認したが、day123に細菌性敗血症にて死亡した。[考察]AMPH-Bによる治療中に新規発症したトリコスポロン血症の2例を経験し、1例はVRCZが有効であった。造血幹細胞移植後のトリコスポロン症は致死率の高い合併症であるが、VRCZの速やかな投与により予後の改善が期待でき得る。

市中病院入院中の血液疾患患者における発熱性好中球減少症の後方視的解析
[はじめに]血液疾患に伴うFebrile Neutropenia(FN)は重症化することもまれではなく、適切な診察/検査の後、速やかで経験的な抗菌薬投与の開始が不可欠である。本邦でも1998年にFNに対するガイドラインが作成され、これに基づいて治療が行われている。また、重症化予測の為のスコアリング(MASCCスコア)が提唱され利用されている。このたび、我々は市中病院入院中の血液疾患患者におけるFNの内訳、およびMASCCスコアによるリスク分類での予後を後方視的に検討したので報告する。[対象]2004年1月から2006年12月の期間に当院に入院した血液疾患でFNを発症した患者、のべ202例(AML;54、ALL;15、NHL 76、MM 27例、AA;7、MDS 7、その他16)、年齢中央値62歳。[結果]全例に抗菌剤の静脈内投与が行われ、165例(82%)が第3、4世代セフェムを、32例(16%)が第1、2世代セフェム、4例(2%)がカルバペネムを投与された。抗菌剤投与前の血液培養では36例(18%)が陽性であった。MASCCスコアはlow-risk(L-R);64例(32%)、high-risk(H-R);136例(68%)であった。30日以内に7例が死亡し、L-R;1例、H-R;6例で有意差は認められなかった(p=0.33)。有熱期間の中央値は4日(1-34)で、L-R;3日(1-27)、H-R;5日(1-34)で有意差は認められなかった(p=0.13)。3、5、7日以内に解熱した症例は、L-R;59、63、78%、H-R;43、56、75%で、3日以内に解熱した症例はL-Rに有意に多かった(p=0.05)。その他、中心静脈ライン挿入あり(p=0.0068)、腸管内殺菌なし(p=0.0045)で発熱期間は長い傾向があったが、多変量解析ではいずれも有意差は認められなかった。[考察]市中病院入院中のため高齢者が比較的多く含まれていたが、ガイドラインに準じた治療によって重篤な例は多くなく、ガイドラインに沿った治療の重要性が再確認された。

悪性リンパ腫との鑑別が困難であった右鼠径部原発悪性腫瘍
[はじめに]血液内科医が戸惑う症例の中に臨床症状、画像所見、血液データにてリンパ腫が疑われるのにリンパ節生検にて確定診断困難な非定型症例がある。今回、我々は初発時リンパ腫を疑い、再発時に未分化肉腫が疑われた鑑別困難で分類不能な悪性腫瘍を経験したので報告する。[症例]29歳、男性。右鼠径部に腫瘤を認め近医泌尿器科受診、右鼠径部腫瘤生検にてNHL(diffuse medium T cell)の診断にて当院血液内科に紹介入院。経過中に進行期に移行。CHOP7コース、EPOCH1コース施行しCR維持、AraC大量療法にてPBSC採取し、ASHAP療法を前処置としPBSCT施行しCR確認して退院外来フォローとなった。2ヶ月後に両鼠径部に小腫瘤認め再発疑われ再入院。右鼠径部腫瘤生検にて当初adenocarcinomaが疑われた。初診時の右鼠径部と同じ部位であり初診時よりadenocarcinomaであった可能性を考え国立がんセンターへ病理鑑別を依頼したところ1)Anaplastic large cell lymphoma、2)poorly differentiated adenocarcinoma、3)poorly differentiated sarcomaが疑われたが確定診断に至らず。臨床経過、特殊染色より上皮様形態をとる未分化肉腫の範疇に入る腫瘍の可能性が考えられるが、診断困難な悪性腫瘍との意見であった。再発時からは他院にて化学療法施行も奏効せず6ヵ月後に永眠された。[まとめ]診断困難な未分化悪性腫瘍を経験した。当初化学療法に感受性あり、sarcomaとすれば臨床的にはEwing sarcoma/PNETの範疇の可能性があるが、lymphomaとしてもありえる経過であった。病態解明には今後の症例の蓄積が必要である。

慢性GVHD発症時の末梢血Tリンパ球サブセット、網状細胞および血清サイトカインの動態解析
[目的]同種造血幹細胞移植の慢性GVHD(cGVHD)の病態は十分解明されていない。免疫抑制剤への反応性も多様で、抵抗性や依存性を示す場合があり、臨床上の課題である。今回、我々はcGVHD症例に対してTリンパ球サブセット(CD4,CD8,Th1,Th2,γδT)、樹状細胞(DC)および血清サイトカイン17種類(IL-1β,2,4,5,6,8,10,12,13,17,TNF-α,IFN-γ,G-CSF,GM-CSF,MIP-1β,MCP)を同時測定することで末梢血レベルでの病態解析を試みた。[方法]1994年6月から2006年7月までの同種造血幹細胞移植施行23例、cGVHD症例(n=10)の末梢血より単核球と血清を採取した。control(n=13)は移植後100日以上経過したcGVHD非発症例とした。Tリンパ球サブセットとDCはFACSにて、サイトカイン濃度はBio-Plexマルチサスペンジョンアレイシステムにて測定した。[結果]cGVHDではcontrolに比べTh1細胞が増加(p=0.03)、Th2細胞は減少(p<0.01)、Th1/Th2比は増加して相対的Th1優位であった。またcGVHDではγδT細胞は減少(p=0.03)した。DCと血清サイトカイン濃度は両群に差はなかった。この傾向はcontrolを免疫抑制剤非依存群(n=7)と依存群(n=6)に分類するとより顕著になった。すなわち、免疫抑制剤非依存control群、依存controlとcGVHDにおいて、cGVHDでは免疫抑制剤非依存control群に比べTh2細胞とγδT細胞が共に減少(共にp<0.005)し、免疫抑制剤依存control群に比べ
Th2細胞は減少(p<0.005)したがγδT細胞に差はなかった。一方、免疫抑制剤依存群におけるγδT細胞の減少傾向は移植後100日以内の急性期の経過中にすでに認められた。[考察]cGVHDでは末梢血中のTh2細胞とγδT細胞が減少した。移植後のTh1細胞、Th2細胞とγδT細胞のモニタリングはcGVHD発症の予測因子になる可能性が示唆された。

同種造血幹細胞移植後の非感染性中枢神経合併症の自験例の検討
非感染性中枢神経合併症は、時に致命的な経過をたどる重篤な同種造血幹細胞移植後の合併症の一つで、以前から報告があるが、その発症機序は現在まで十分解明されていない。今回我々は同種造血幹細胞移植後cyclosporine A(CsA)投与中に発症した非感染性中枢神経合併症の自験例6例を報告する。2005年5月から2006年4月に当科で同種造血幹細胞移植を施行した26例中6症例(23%)で、年齢は18-61歳、男性3例、女性3例、疾患はAML 1例、MDS 2例、NHL 1例、ATLL 2例。前処置はTBIを含む骨髄破壊的移植が4例、骨髄非破壊的移植が2例。移植ソースは血縁骨髄1例、非血縁骨髄3例、末梢血1例、さい帯血1例。急性GVHD予防は全例CyA±MTXであった。発症日の中央値は50(7-122)日で、発症症状は痙攣3例、片麻痺2例、意識障害2例、短期記憶障害1例、頭痛1例、視力障害1例、右半身感覚障害1例であった。臨床診断はCsA脳症3例、辺縁系脳炎2例、TMA1例、転帰は改善2例、後遺症1例、死亡3例であった。全例で急性GVHD(grade I:2例、grade II:4例)を発症し、5/6症例は急性GVHD後の発症であった。また、いずれの症例においても移植前に髄注または放射線照射が施行されており、これら複数の要因がCsAとともに発症に寄与した可能性が考えられた。さらに、鑑別診断にはADC mapやMRAが有用であった。移植後CsA投与中に発症する非感染性中枢神経合併症はheterogeneousな疾患群であるが、共通した発症因子が見られた。今後、症例を蓄積し、より詳細な病態解明に努める必要がある。

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫のCHOP療法においてRelative Dose Intensity(RDI)が治療予後に与える影響
[目的]近年aggressive lymphomaにおいて、化学療法でのrelative dose intensity(RDI)を維持することで治療成績の向上が再び期待されている。今回我々はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の初回CHOP(+リツキシマブ)療法施行例において、RDIの治療予後に与える影響を検討した。[方法]1995年〜2006年の12年間に当院で治療した100例を対象とし、完全寛解(CR)率・無イベント生存率(EFS)を解析し、それぞれに関与する因子をRDIも含めて後方視的に解析した。[成績]全例の年齢中央値は54歳(17-76)、高齢者(61歳以上)36例、IPIは高リスク群(high intermediate, high)54例、低リスク群(low, low intermediate)46例、リツキシマブ併用(CHOP-R)例30例であった。全例でのアドリアマイシン(ADR)とシクロフォスファミド(CY)のRDI(ADR/CY-RDI)の中央値は87.1%で、60.0%の症例が85%未満であった。前連でのCR率は62%で、CRに影響を与える因子の多変量解析ではIPI高リスク群(vs.低リスク群、p<0.001)とADR/CY-RDI 85%未満(vs以上、p=0.009)が有意な不良因子であった。5年EFSは43%(観察期間中央値13.3ヵ月)で、EFSのリスク因子の多変量解析においても、IPI高リスク群(vs低リスク群、p<0.001)とADR/CY-RDI 85%未満(vs.以上、p=0.048)が有意な不良因子であった。更に若年者・高齢者とIPI低・高リスク群でのサブ解析では若年者とIPI低リスク群でADR/CY-RDI 85%未満の群が有意に予後不良であった(p=0.011およびp=0.02)。[結論]今回の解析からびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫においてRDIはCR率だけでなく、特に若年者・IPI低リスク群において有意に予後に影響することが判明した。今後、より多数例での検討で、RDI低下因子やRDI維持に有効な支持療法等を明確にする必要があると考えられた。

ATLキャリア経過中に発病した脳原発T細胞性リンパ腫
[症例]65歳、男性。[既往歴]平成15年肺炎で当院入院。[現病歴]ATLキャリアにて当院外来経過観察中平成19年1月14日よりふらつき出現。その後もふらつき持続するため1月19日当院受診。頭部CTで左小脳に2cm大の腫瘍を認め精査加療目的で入院となった。[入院後経過]1月24日腫瘍摘出術施行し、病理組織でCD3+瀰漫性異型リンパ球の浸潤を認めた、各種検査で脳以外に病変を認めず、骨髄浸潤なく、脳原発T細胞性リンパ腫(以下TPCNLS)と診断。1月26日IT施行。なお、髄膜播種は認めなかった。TPCNLSに対して2月14日MTX 4.8g投与。肝機能障害、発熱を認め改善を待って3月12日MTX 4.8g+mPSL 40mg投与。2回目は軽度肝障害のみであった。脳MRIでは小脳腫瘍は縮小し治療効果を認めた。本人の希望もあり、全脳照射せず退院して経過観察することとなった。[考察]PCNSLは予後不良な疾患で生存期間は約15ヶ月といわれている。脳腫瘍の約3%とされているものの近年発生率は増加傾向にある。PCNLSの大半がB細胞性であり、約80-90%を占め、T細胞性は稀である。今回我々はATLキャリアにて経過中にTPCNSLを発症しHDMTXで治療を行った症例を経験した。ATLとの関連について検討する予定である。

多発性骨髄腫例におけるサリドマイドの患者満足度
近年サリドマイドは多発性骨髄腫に対して一定の効果が報告されており、患者様側からサリドマイドの投与を希望されることも少なくない。その際、前主治医より、サリドマイドは副作用が少ないと聞いて、抗がん剤の無効例に効果を期待して投与を希望されることが多い。今回われわれはサリドマイドの投与により、期待した効果がえられているのか、副作用は本当に少ないのか投与によりADLの上昇など生活面の満足が得られたかどうかを検討したので報告する。2003年4月以後に投与を開始した症例は20例あり、うち2例は早期に転院したため18例で検討した。サリドマイドは1日100から200mg、デキサメサゾンを0.5から1mg併用した。患者年齢は56-80歳、Stage 2が5例、Stage 3が13例。すべて前治療歴がある。投与中の最大の効果はCR 0例、PR 7例、MR 5例、NC 5例、PD 1例。現在も投与中の症例が6例で、死亡した症例が10例(効果発現のあと腫瘍死した症例と他病死を含む)転院による打ち切り例が2症例であった。最大の効果のみられた時点での満足度をみると3例が痛みの消失によりADLは改善がみられた。輸血の不要になった症例が2例あった。白血球減少や血小板減少、皮疹などによる投与中止が必要になった例は認められなかったことから考えると抗がん剤よりも使用しやすい。ただし剖検で下大静脈と肺動脈に血栓を認めた例が1例あった。投与中に肺炎などで入院が必要になった症例が4例あった。なお昨年12月にベルケイドが発売になったが、現在心肺機能がベルケイドの投与基準を満たす症例は2例しかなく、注射のため週2回の通院は不可能である。よってベルケイドに切り替えた症例はない。経口剤であることと血球減少の副作用が少ないことで通院頻度が少なくてすみ患者満足度はある程度満たされている。保険外の費用は月約6万円必要であるが、それでも投与継続を希望されている、今後日本での発売と保険適応が望まれる。

発症時に赤芽球の著しい減少を認めた非ホジキンリンパ腫の1例.
症例は38歳、女性。2006年10月に近医にて貧血を指摘され、鉄剤の内服を開始したが改善しなかった。全身倦怠感が出現し次第に悪化するため、2007年4月に当院を受診。末梢血にて、赤血球減少の著しい(Hb 3.0g/dl)汎血球減少を認め入院となった。網赤血球の増加は見られず、ハプトグロビンの減少は見られなかった。抗EBV、CMV、HPV抗体価にも異常は見られなった。骨髄検査では、異型リンパ球の浸潤を認めるとともに、赤芽球系細胞の著明な減少を認めた。頚部、鎖骨上窩リンパ節腫大を認め、リンパ節生検を行った。異型リンパ球の浸潤を認め、非ホジキンリンパ腫と診断した。腫瘍細胞は、CD5陽性,10,23陰性,cyclinD1弱陽性であった。以上の所見から、赤芽球の低形成を伴ったマントル細胞リンパ腫、stage4と診断した。hyperCVAD+Rituximabによる化学療法を開始した。1コース終了後の骨髄検査では、リンパ腫細胞は減少し、赤芽球の回復を認めた。以後、hyperCVAD-R療法を継続する予定である。
【考察】発症時に赤芽球の著明な低形成を伴った、マントル細胞リンパ腫の1例である。化学療法1コース後には赤芽球の回復を認めた。赤芽球の低形成を合併した非ホジキンリンパ腫についてはこれまでにいくつかの報告があり、若干の文献的考察を加えて報告する。

進行期白血病に対するintravenous busulfan(Buslufex 8mg/kg)+CY120mg/kg+TLI 7.5Gyを用いたmodified myeloablative conditioningによる同種造血幹細胞移植の経
[はじめに]進行期白血病に対する骨髄破壊的前処置による同種造血幹細胞移植では移植関連死亡率が高く、busulfan16mg/kg+CY120mg/kgによる前処置では62%に及ぶという報告もある。また、最近の報告ではfludarabine150-160mg/kg +Busulfex6.4mg/kgによる骨髄非破壊的前処置では進行期白血病の病勢はコントロール困難であることが示された。今回我々はBusulfex16mg/kgが進行期白血病に対しては用量過剰であるという仮説のもと、busulfanの用量を減量し、さらに血中濃度の個体差を小さくする目的でBuslufexを用いたmodified myeloablative conditioningにて進行期白血病に対して同種造血幹細胞移植を行ったので報告する。[対象]進行期白血病7例、疾患はMDS/AML 4例(うち3例が非寛解)、ALL(2ndCR)2例、CML(BC)1例、年齢中央値は25歳(18-48歳)、前処置にはintravenous busulfan(Buslufex 8mg/kg)+CY120mg/kg+TLI 7.5Gyを用いた。ソースは血縁骨髄2例、非血縁骨髄5例、HLAは5例で完全一致、1例で血清型1座不一致、1例で遺伝子座1座不一致、GVHD予防は全例CyA+短期MTX療法で行った。[結果]全例で好中球生着を認め、6例で血小板生着を認めた。生着までの日数の中央値はそれぞれ19日、32日であった。また、5例で100日以内に完全ドナーT細胞キメリズムを達成した。1例に拒絶、1例に再発を認めた。急性GVHDは7例中5例に認め、GVHDII-IVは4例であった。移植関連死亡は0%、1年の全生存率は83.3%、無病生存率は57.1%であった。[結語]進行期白血病に対して従来の骨髄破壊的前処置をoptimizeすることによって、移植関連死亡を減少させると同時に病勢をコントロールしうる移植前処置の適正強度、抗癌剤、放射線照射の種類が存在する可能性があると考えられた。

成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL/L)に対する同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)の検討
[はじめに]現在、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL/L)に対する多剤併用化学療法は満足が行く成績が得られていない。一方、最近ATL/Lにたいして 王dしゅ造血幹細胞移植(allo-HSCT)を施行し、長期無病生存が得られたという報告が散見され、graft vs ATL/L(GvATL/L)効果が示唆されている。今回、当科において急性型、リンパ腫型のATL/Lに対しallo-HSCTを施行した9症例に関して検討を行った。[対象・方法]2003年12月から2005年12月に当科でallo-HSCTを施行したATL/L 9症例、年齢中央値は52.8歳(42-61歳)、男6例、女3例、病期はCR1:3例、CR2:1例、PR:1例、PD:3例、NR:1例、骨髄破壊的移植5例、骨髄非破壊的移植4例であり、GVHD予防はCsA±短期MTX(1例のみFK506)で行った。ソースが血縁骨髄1例、非血縁骨髄4例、末梢血2例、臍帯血2例であった。[結果]全例で生着を確認しその中央値は14.6日(9-23日)、9例中7例に急性GVHDを発症し、grade II-IVの急性GVHDは3例であった。9例中4例(44%)が生存中であり、allo-HSCT後の全生存期間の中央値は205日(24-616日)、生存4例の観察期間の中央値は415日(308-616日)であり、生存例の全例でgrade I-IIの急性GVHDを発症し寛解を維持している。生存4例の移植前病期は寛解3例(非血縁骨髄2例、臍帯血1例)、非寛解1例(血縁骨髄)であった。[まとめ]今回の結果より、ATL/Lに対しては特に寛解期にallo-HSCTを施行することでGvATL/L効果を期待でき長期生存に結びつく可能性があるが、今後症例を蓄積し詳細に分析していく必要がある。

血栓性微小血管症(TMA)発症における選択的Th2細胞増加:末梢血T細胞、樹状細胞およびサイトカインプロフィールに関するTMAと急性移植片対宿主病(aGVHD)の免疫学的比較
 同種造血幹細胞移植後のTMAは死亡率が高い重篤な合併症である。AGVHDはTMA発症の危険要因の一つであり、しばしばこの2つの合併症は部分的に重なり合うことがある。特に、胃腸内皮はaGVHDとTMAの標的となり、TMAの臨床診断を難しくし、早期、最適な治療を遅延させる。本研究においてTMAとaGVHDの違いについて更に洞察するために包括的免疫学的析を行った。方法:末梢血T細胞サブセット(CD8、CD8、Th1、Th2、γδ-T、NKT)、樹状細胞サブセットとしてCD11c+、CD123+、血清17種類のサイトカインとしてIL1β、2、4、5、6、7、8、10、12、13、17、TNF-α、INF-γ、G-CSF、GM-CSF、MIP-1β、MCP-1およびCRPを同種造血幹細胞移植施行25例についてその動態を追った。TMAの診断はIacopinoの診断基準を用いた。aGVHDあるいはTMAのデータは同種造血幹細胞移植後30日および60日目において両者を発症していない症例をコントロールとして比較検討した。結果:TMA(9.1%、n=10)のCD4+細胞中のTh1細胞はaGVHD(24.9%、n=9)(p=0.003)あるいはコントロール群(21.6%、n=12)(p=0.009)と比較すると有意に減少していた。一方、TMA(20.2%)のCD4+細胞中のTh2細胞はaGVHD(9.3%)(p<0.001)あるいはコントロール群(12.1%)(p=0.003)と比較すると高値を示した。従って、Th2/Th1比はaGVHD群(0.4)(p<0.001)およびコントロール群(0.7)(p<0.001)と比較するとTMA群(4.0)では有意に高値であった。加えて、TMAにおけるCD3+CD4+細胞の比率(59.2%、n=9)はaGVHD群(31.2%、n=8、p=0.005)およびコントロール群(34.8%、n=11、p=0.007)と比較すると有意に増加していた。TMAにおけるCD3+CD4+細胞の比率(26.3%)はaGVHD群(45.8%、p=0.03)およびコントロール群(54.4%、p=0.002)と比較すると有意に低下していた。またCD11c+DC/CD123+DC比はaGVHD群(3.6、n=8)においてTMA群(1.4、n=5、p=0.02)およびコントロール群(1.8、p=0.02)と比較すると有意に高値を示した。γδ-TおよびNKT細胞は3群間で有意な差は認めなかった。また17種類の異なるサイトカイン濃度もまた3群で有意な差を認めなかった。注目すべきはTMAのみがTh2/Th1比とIL-6(p=0.01、r=0.91、n=6)、IL-10(p=0.03、r=0.86、n=6)およびCRP(p<0.001、r=0.93、n=9)間に有意な相関関係を認めた事である。結論:選択的なTh2、CD4細胞の増加はTMAの発症時に観察できる。Th1、Th2、CD4およびCD8の同時測定は同種造血幹細胞移植の経過中に発症したTMAとaGVHDを鑑別することが可能であり臨床的に有用な免疫学的パラメーターであるものと考えられた。

移植前の血清Surfactant Protein D(SP-D)の減少は同種造血幹細胞移植後のbronchiolitis obliterans(BO)およびidiopathic pneumonia syndrome(IPS)の発症に関連する
 同種造血幹細胞移植3ヶ月以上経過時に生じる非感染性肺合併症が重大な問題とされている。特にBOとIPSは治癒困難であり死亡率は高い。したがって、BO/IPS発症高リスクの患者の早期発見が同種造血幹細胞移植成績の向上につながるものと考えられる。
 SP-Dは主として肺胞タイプII細胞で合成されるコレクチンの一つである。その最もよく知られている機能は肺胞のair-lipid界面においてその表面張力が減じて肺胞が虚脱することを防ぐとともに肺における生来の免疫メディエーターとしての役割を担っている。臨床上、血清SP-D高値は肺疾患の存在を意味する。最近では肺胞でのSP-D産生の低下は成人呼吸器疾患の重要な病因と考えられている。
 我々は2001年11月から2006年2月までの間に同種造血幹細胞移植を受け、移植後90日以上生存した42症例の移植前の血清SP-Dを測定した。全患者において、5例がBO(移植後平均観察期間303日、範囲100-452日)、3例がIPS(117日、95-153日)を発症した。単変量解析ではBO/IPS症例は同種造血幹細胞移植前の血清SP-D値は低値であり、非BO/IPS合併患者と比較すると肺以外のextensiveタイプの慢性GVHDを合併していた(それぞれp=0.06およびp=0.07)。KL-6もまたややBO/IPSに関連していた。一方、性、年齢、ドナー源、移植前治療、原疾患状態、急性GVHD、FEV1.0/FVCおよび移植前SP-A値について関連性は認められなかった。
 同種造血幹細胞移植における血清SP-D低下とBO/IPSの発症の関連について明確な機序を明らかにはできなかった。しかしながら肺胞でのSP-Dの産生低下、これにより生来の肺の免疫が障害され、肺での同種反応を引き起こすものと考えられる。

非血縁者間骨髄非破壊的移植の前治療としてのTBI、ATGを用いないフルダラビンをベースとした治療法
非血縁者間骨髄非破壊的移植(u-RIST)のための最適な前治療は十分に確立されていない。報告されている前治療法としては抗胸腺細胞グロブリン(ATG)、低線量全身放射線照射あるいはCampath-1H(抗リンパ球抗体)である。しかしながら、低線量前進放射線照射にしても毒性を有し、ATGあるいはCampath-1Hは移植片対リンパ腫あるいは白血病効果を過度に抑制あるいは免疫再構築を過度に抑制するために日和見感染症の原因となる。TBI、ATGあるいはCampath-1Hが実際にu-RISTにおける生着に必要であるか否かについてはいまだ明らかではない。生着を促進するための免疫抑制の度合いや前治療の強度については患者各々によって明確に異なる。今回、我々は化学療法の経験のある患者に対するTBI、ATGおよびCampath-1Hを用いないフルダラビンをベースとした移植前治療法について報告する。
本研究では当施設において2002年9月から2006年4月まで非血縁者間骨髄移植を受けた血液疾患患者14症例が登録された(22-69歳)。疾患の内訳は急性骨髄性白血病5例、急性リンパ性白血病4例、骨髄異形成症候群1例、非ホジキンリンパ腫1例、成人T細胞白血病2例および形質細胞白血病1例であった。10例(71%)が進行期症例であった。全症例が少なくとも1回化学療法を受けた既往があり、その平均回数は5回(1-12回)であった。ATLを除いた12例に対する骨髄非破壊的前治療法はフルダラビン150mg/m^2とブスルファン8mg/m^2であり、ATL2例についてはブスルファンに代えてブスルフェックス8mg/m^2を使用した。急性移植片対宿主病の予防として12例はシクロスポリンと短期メソトレキセート療法、3例は明らかに腫瘍が残存あるいは活動性病変を有していたためシクロスポリンのみを使用した。
 全症例において好中球、血小板は速やかに生着した。好中球ならびに血小板生着までの期間中央値はそれぞれ16.5日(11-26日)および23.5日(15-38日)であった。14例中10例(71%)が移植後60日以内に完全キメラを達成した。前治療の治療関連毒性はわずかであr、グレードIVの非血液毒性は認められなかった。グレードIIIの口内炎、肝機能異常がそれぞれ3例、1例に生じた。
 急性GVHDII-IV度を生じた5例中4例がHLA遺伝子型1座不一致例であった。急性GVHDII-IV生じた5例において1例はIV度を生じ、早期に死亡したが4例はステロイドを追加することによって管理が可能であった。本研究において移植後100日の移植関連死亡、1年の移植関連死亡、無イベント生存率、全生存率はそれぞれ7%、24%、70%および53%であった。非血縁者間骨髄非破壊的移植に用いるTBI、ATGを用いないフルダラビンをベースとした移植前治療は毒性も少なくとも化学療法の経験のある症例に対して適した治療法であるものと考えられた。

消化管間質腫瘍(*分類不能の紡錘細胞からなる良性あるいは悪性の腫瘍。免疫組織学的には平滑筋腫瘍、シュワン細胞腫瘍とは異なる)2症例に合併した慢性骨髄性白血病
イマチニブはBcr-AblキナーゼのATP結合部位に結合し、Ablチロシンキナーゼ活性を抑制する。慢性骨髄性白血病(CML)症例はイマチニブによって臨床的、分子学的反応を示す。イマチニブはc-Kitチロシンキナーゼの受容体型の強い抑止物質でもある。従って、発生率は稀とされ、主としてリガンドであるstem cell factorが結合するこのなく活性化している変異型c-kitの異常発現によって引き起こされる悪性型消化管間質腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor、GIST)に対して治療的効果が試された。我々はCMLとGISTの2つの悪性疾患を合併した稀な2症例を報告する。第1症例は66歳の日本人男性であり、2006年2月27日に白血球ならびに血小板増多により当科に紹介となった。フィラデルフィア染色体検出され、CMLと診断された。本例は数日後に急性腹膜炎を発症し、入院となった。回盲部より口側80cmの部位に存在した腫瘍が破裂、緊急回盲部切除術が行われた。病理学的に紡錘、円形の上皮様細胞が腸筋固有筋層外に発育していた。組織免疫学的解析によって腫瘍細胞はc-kitならびにCD34が陽性、S-100蛋白、desminは陰性であり、GISTと診断した。イマチニブが術後8日目よりCMLの治療として開始された。第2例は57歳の日本人女性であり、2006年3月6日に著明な血小板増多により当科に紹介された。フィラデルフィア染色体陽性であり、CMLと診断された。1年後、粘膜下腫瘍の診断のもと、遠位側胃切除術を受けた。病理学的には粘膜下に伸張したタバコ状の核が束となって配列した紡錘細胞の増殖を認めた。組織免疫染色によりGISTと診断した。
 2例はGISTとCMLを治療するという貴重な機会を有した。我々はイマチニブがCML治療のみならずGISTの再発を予防する効果を有することを期待している。生物分子学的にはCMLあるいはGISTの発生機序は解明されている。しかしながら我々は両者の関連性は示すことはできない。従って、両者が偶然合併したものであると理解するのが自然である。2例を注意深く観察したい。このような症例を集積することによって腫瘍発生機序を更に明らかにしてゆく必要がある。

急性骨髄性白血病における寛解後治療:Ara-C大量療法と標準時固め療法との無作為比較試験(JALSG AML 201研究)
2001年から2005年まで、第一寛解期の急性骨髄性白血病症例に対して最適な寛解後治療を評価するためにJALSGは無作為試験を計画した。JALSG AML 201に前治療歴のない急性骨髄性白血病1064症例(15-64歳)が登録された。寛解導入療法はAra-C(100mg/m^2、day 1-7)およびイダマイシン(12mg/m^2、day1-3)併用療法(arm A)、Ara-C(100mg/m^2、day 1-7)およびダウノマイシン(50mg/m^2、day1-5)併用療法(arm B)の2種類であった。1回目の寛解導入療法で完全寛解に至らなかった症例は同一治療による再寛解導入療法を受けた。患者は以前のJALSG AML研究で確立したクライテリアを基にしてgood、intermediate、poorリスク群に分類された。全ての完全寛解症例は寛解導入療法、寛解導入療法回数、年齢、染色体によって階層化され、無作為に寛解後治療としてAra-C大量療法(arm C)と標準的JALSG治療(arm D)に振り分けられた。arm Cは3コースのAra-C大量療法(Ara-C 2g/m^2、12時間毎、day1-5)、arm DはAra-C 200mg/m^2、day1-5+ミトキサントロン(MIT)7mg/m^2、day1-3、Ara-C 200mg/m^2、day1-5+ダウノマイシン50mg/m^2、day1-3、Ara-C 200mg/m^2、day1-5+アクラシノン(ACR) 20mg/m^2、day1-5、Ara-C 200mg/m^2、day1-5、エトポシド(ETP)100mg/m^2、day1-5、ビンクリスチン(VCR)0.8mg/m^2、day8、フィルデシン(VDS)2mg/m^2、day10から成る。
 結果:登録1064例中1057例(年齢中央値47歳)が評価可能であった。1-2コースで完全寛解に至ったのは825例(78%)であった。完全寛解に至った825例中781例がarm Cあるいはarm Dに振り分けられた。arm Cの4年全生存率は61.6%、arm Dは62.8%であった(p=0.58)。4年無再発生存率はarm Cが42.8%、arm Dが40.8%であった(p=0.65)。goodリスク群ではarm Cの4年全生存率は77.0%、arm Dは75.8%であった(p=0.40)。4年無再発生存率はarm Cが54.6%、arm Dが53.1%であった(p=0.71)。intermediateリスク群ではarm Cの4年全生存率は63.2%、arm Dは65.7%であった(p=0.78)。4年無再発生存率はarm Cが38.7%、arm Dが42.2%であった(p=0.71)。poorリスク群ではarm Cの4年全生存率は36.3%、arm Dは34.1%であった(p=0.40)。4年無再発生存率はarm Cが25.9%、arm Dが6.6%であった(p=0.17)。core binding factor白血病においてarm Cの4年全生存率は79.4%、arm Dは66.5%であった(p=0.09)。4年無再発生存率はarm Cが57.7%、arm Dが43.7%であった(p=0.14)。50歳未満の若年群ではarm Cの4年全生存率は66.5%、arm Dは66.2%であった(p=0.37)。4年無再発生存率はarm Cが43.9%、arm Dが45.6%であった(p=0.32)。50歳以上の高齢群ではarm Cの4年全生存率は53.4%、arm Dは57.7%であった(p=0.90)。4年無再発生存率はarm Cが39.1%、arm Dが33.8%であった(p=0.67)。
 結論:JALSGで行っていた4コースから成る標準的寛解後地固め療法は3コースから成るAra-C大量療法と同等の効果があるものと考えられた。この結果を確立するためには更に経過を追う必要がある。

無治療de novo急性骨髄性白血病に対する寛解導入療法、ダウノマイシン増量併用療法とイダマイシン併用療法の無作為比較試験(JALSG AML 201研究)
我々はダウノマイシン増量併用化学療法がイダマイシン併用化学療法と同等の効果があるのか否かについて多施設前向き無作為臨床試験を計画した。
M3を除く新たに診断されたAML患者が連続的に登録され、ダウノマイシン増量併用療法群と標準量イダマイシン併用療法群に振り分けられた。全例Ara-C 100mg/m^2を7日間持続的に点滴静注され、ダウノマイシン群は50mg/m^2を5日間、イダマイシン群は12mg/m^2を3日間投与された。1回の寛解導入療法で完全寛解が得られなかった場合には同治療により再寛解導入が図られた。完全寛解に達した症例は地固め療法として3コースのAra-C大量療法群か、4コースの標準的多剤併用化学療法群に振り分けられた。この地固め療法の結果については別の抄録にて報告する。
2001年12月から2005年12月までに新たに診断されたde novo急性骨髄性白血病1064症例が登録され、1057例が本試験に適格症例であった。症例年齢中央値は47歳(15-64歳)であった。525例がダウノマイシン群、532例がイダマイシン群に振り分けられた。治療前の症例の特徴について両群に明らかな偏りがある要因はなかった。ダウノマイシン群の完全寛解は418例(77.5%、CI 73.9-81.1%)に得られ、その内1回で完全寛解に到達したのは321例(61.1%)、イダマイシン群の完全寛解は418例(78.6%、CI 75.1-82.1%)に得られ、その内1回で完全寛解に到達したのは341例(64.1%)であった(p=0.68)。イダマイシン群が好中球ならびに血小板の回復が遅延する傾向が見られた。イダマイシン群はダウノマイシン群に比較すると敗血症合併が高率であった(それぞれ8.7%、4.9%、p=0.02)。60歳以下での治療早期死亡はイダマイシン群が25例(4.7%)、ダウノマイシン群が11例(2.1%)であった(p=0.03)。予後因子についてロジスティック解析を行ったが有意な因子は得られなかったが、core binding factorを有する白血病とペルオキシダーゼ陽性白血病細胞が寛解に関わる有意な独立した因子であった。両群の長期的な効果については有意な差は得られなかった。すなわちダウノマイシン群、イダマイシン群において4年全生存率はそれぞれ49.1%(42.4-55.8%)、53.1%(47.6-58.6%)(p=0.37)、4年無再発生存率はそれぞれ42.2%(36.1-48.3%)、41.8%(35.9-47.7%)(p=0.62)であった。Cox解析において両治療法はこれらの結果に関与しないことが判明した。
 まとめると、増量ダウノマイシン療法と標準量イダマイシン療法の寛解導入率は高率であり、長期的効果も見られ、64歳までの急性骨髄性白血病症例には同等の効果を有した治療法であった。しかしながら最終結論は更に経過観察を続け下さなければならない。

VAD療法中にvasospastic anginaを来たした多発性骨髄腫の症例
症例は69歳男性、高血圧症に対しamlodipine内服中、2006年2月、右上腕骨病的骨折を契機にmultiple myeloma(IgG-κ)、stage IIIと診断確定、姑息照射及びzoledronic acid投与を先行し、2006年3月よりVAD療法を開始した。Day 9より午前中の間歇的な前胸部・心窩部痛が出現したが、短時間で消失していた。4度目発作時の心電図でST上昇が見られ、緊急心カテーテル検査を施行。冠動脈造影では3枝いずれも有意狭窄みられず、攣縮様に造影された部位はnitroglycerin冠注にて収束し、vasospastic angina(VSA)と診断。Amlodipineからbenidipine、nicorandil併用に変更して以降、症状再現はなかった。以後はVAD療法を継続し、良好に経過している。Doxorubicin、vincristine共に虚血性心疾患の有害事象はあるが、冠攣縮に関しては5-fluorouracil、capecitabine等の薬剤使用による報告が多い。一方、Ca拮抗剤内服中にも予防し得なかったという点で本例は興味深い。虚血性疾患に至るメカニズムの一つとしてvasospasmの可能性が示唆された。

妊娠により重症化した難治性ITPに対し摘脾が有効であった1例
症例は36歳女性。2004年ピロリ菌抗体陽性ITPを指摘、出血症状を認めず、また血小板数3-10万/μlであったため経過観察されていた。2006年2月妊娠を契機に当科紹介、通院中の次第に血小板減少が進行、妊娠13週に2.2万/μlとなったためプレドニン0.5mg/kg内服開始となった。しかしながら効果見られず、0.8万/μlまで減少したため入院となった。入院後、プレドニン増量(1mg/kg)、同時にピロリ菌除菌を施行したが効果見られなかったため、γグロブリン大量療法施行後、摘脾術を施行した。速やかに血小板増加を認め、現在(妊娠32週)、母児ともに問題なく経過して血小板数20万/μlを保っている。

慢性骨髄性白血病とGastrointestinal stromal tumorをほぼ同時に発症していた2症例.
[症例1]57歳女性。2004年7月、上部消化管造影検査にて胃内異常を指摘され、精査の結果Gast(gostrointestinal stromal tumor of stomachと診断され、2005年2月腹腔鏡下胃部分切除を施行。以後経過観察中、2006年2月血液検査にて血小板増多を指摘され当科を紹介受診。WBC 13600/μl、Plt 3951000/μl。染色体検査にてPh染色体を19/20細胞認め、慢性骨髄性白血病と診断。Imatinib 400mg/day投与開始。[症例2]66歳男性。2006年2月血液検査で白血球増多を指摘され、当科外来を紹介受診。WBC 66100/μl、Plt 791000/μl。染色体検査にてPh染色体を18/20細胞に認め、、慢性骨髄性白血病と診断され、治療開始予定中に上腹部痛を自覚し、近医受診。憩室穿孔、腹腔内膿瘍を疑い緊急手術。小腸に壁外性の10cmの腫瘍を認め、小腸原発GISTと診断。術後経過は良好であり、Imatinib 400mg/day内服を開始し退院。[まとめ]我々はGIST発見と同時期にCMLを発症した2症例を頸肩した。GIST症例は血液検査等で経過観察を行い、他の悪性疾患の合併に関して注意を要する。これら2症例はCMLに対するImatinib投与により手術切除後GISTに対するImatinibの再発予防効果も期待される。

G-CSFによる好中球の運動制御:MAP kinaseの役割.
G-CSFによる好中球の運動性(遊走、細胞移動)についてMAPキナーゼの役割を検討した。[方法]遊走はボイデンチャンバーにて解析。細胞移動はFCSコートされたディッシュに好中球を添加後G-CSF刺激し、位相差顕微鏡で観察した。画像はビデオテープに2時間録画後編集し、画像解析ソフトにて細胞重心を自動的にプロットして移動軌跡を描出した。MAPKの活性化はウエスタンブロット法、細胞接着はLowry法にて解析した。[結果]G-CSFにより好中球は形態変化、遊走、細胞移動し、運動性は亢進した。運動性の亢進は刺激後10分から15分をピークとし、35分まで持続した。これらの運動性はERK阻害剤PD98059にて阻害された。遊走は方向性を持つ走化ではなく、方向性のないランダム運動であった。接着はPD98059にて抑制されなかった。抗CD18抗体にて接着を抑制したも、G-CSFによる形態変化は抑制されなかった。G-CSFによるMLCリン酸化の上昇はなかったが、MLC局在は変化した。一方、G-CSFによる形態変化、接着、運動性はP13K阻害剤Wortmanninによって部分的に阻害された。[結語]G-CSFがヒト好中球に作用して細胞運動を誘導し、G-CSFにより誘導される形態変化、接着および運動がMEK/ERKおよびPI3Kを介して異なる形で制御されていることが明らかとなった。

ステロイド抵抗性急性GVHDに対するミコフェノール酸モフェチル(MMF)の効果の検討.
ミコフェノール酸モフェチル(MMF)はリンパ球の増殖を抑制することにより免疫抑制作用を発揮する。固形臓器の移植ではその有用性が認められている。造血幹細胞移植後のGVHDに対しては慢性GVHDに対しての有効性を示唆する報告が多い。我々の施設で造血幹細胞移植後のGVHDに対してMMFを使用した9症例について、その効果を検討した。対象は2004年12月から2006年1月までに造血幹細胞移植を受けた9名。男性6名、女性3名で年齢中央値は48歳(18-70)。観察期間は中央値133日(55-502)。GVHD予防には1名(シクロスポリン単独)を除き、シクロスポリンとメソトレキセートを併用した。ステロイド抵抗性の急性GVHD8名、他の免疫抑制剤が使用不可能となった慢性GVHD1名に対してMMF(1.0-2.0g/日)の投与を行った。ステロイド抵抗性は1mg/kg以上のmPSLが無効であるものと定義した。急性GVHDはgradeIIが1名、gradeIIIが7名であった。急性GVHD7名(87%)で効果が認められ、3名(37%)が感染症により死亡した。3名(37%、いずれも急性GVHD gradeIII)が現在も生存している。MMFはステロイド抵抗性の急性GVHDに対して、有効な治療であることが示唆された。しかしながら重篤な感染症を生じる可能性があると考えられ、ステロイドの早期減量なども考慮すべきであると考えられた。

同種骨髄移植後にウイルス肺炎との鑑別が困難であったIPSを発症したALLの一例.
[症例]68歳女性。2004年11月発症B-ALL。寛解導入療法、地固め療法2コース後に再発を認めた。2005年6月より再寛解導入療法を開始し、非寛解でHLA完全一致の骨髄バンクドナーより同種骨髄移植を施行した(総細胞数4.6×10^8/kg)。前処置はFlu+Bu。GVHD予防はCsA単独で行った。day10に好中球生着を認め、day15の骨髄検査では完全寛解であり、完全ドナー型T cellキメリズムを確認した。day8にaGVHD gradeI(皮膚stageII)を認めたが無治療で改善した。day98に38度台発熱と咳嗽が出現し、胸部CTで浸潤影、胸水を認め肺炎と診断した。広域抗生剤、抗真菌剤、γグロブリン製剤の投与を行ったが改善認めず、day140に気管支鏡検査を施行。気管洗浄液細胞診にてCowdry A型核内封入体細胞を認め、胸水穿刺にてVZV-DNA定量9.1×103(正常1.0×10^3)と高値であり、VZV肺炎と診断。Acyclovir 500mg/day投与開始したが改善認めず、day154に呼吸不全で死亡した。病理解剖ではうっ血・水腫、びまん性肺胞障害を認めたが、ウイルス肺炎の所見なく、Idiopathic pneumonia syndromeと診断された。[考案]本症例ではウイルス肺炎と非感染性肺炎との鑑別は困難であった。先行するウイルス肺炎などが移植後非感染性肺合併症の発症にどのように関わっているか今後詳細に検討していく必要がある。

多発性骨髄腫病期層別化の再検討.
はじめに:多発性骨髄腫の治療の進歩に対する期待が、新薬の登場によって今まで以上に高まっている。治療の進歩の真価を問うには従来の治療法の正しい評価が重要である。その基礎として病期のより適切な層別化が必要不可欠である。対象:2001年から2005年までの5年間、我々京阪血液研究会グループ7施設で治療を受けた多発性骨髄腫の症例計233例について検討した。方法:Durie & Salmon Staging (DSS)とInternational Staging System (ISS)の2つの病期層別化を行い、生存率と治療効果の結果を比較した。結果:DSSではstage別の生存曲線に有意差はなく治療法の評価ができない。Stage3に限ってみればBJ蛋白型は早期死亡が多く予後不良群の特徴を持つ。治療のintensityに応じた治療効果はstage3では認められない。ただthalidomide治療の有用性のみが他の化学療法に比べて認められる。β2MGが計測されていた症例53例についてISSで再検討する。その結果2つの病期分類の間には大きな相違があることがわかる。ISSによる治療法の評価はISS-stage2に関しては治療のintensityに応じた治療効果が認め荒れるが、stage3では治療効果が逆になる。これは移植治療の合併症、予後不良染色体症例などの問題が関与していると思われる。結論:ISSの方がDSSより治療内容と予後との関係に妥当性が認められる。今後ISSよりさらに妥当性の高い層別化方法が求められる。

妊娠前期に診断されCAG療法にて寛解に至り健常児を出産し得た急性骨髄性白血病の1症例.
症例は34歳、2経妊、2経産。既往歴、家族歴に特記すべき事なし。第3子自然妊娠、妊娠10週に絨毛膜下血腫による出血を認め、加療目的にて産婦人科入院となった。止血剤、子宮収縮抑制剤及び漢方薬の投与を行い、1回/週で血液検査を施行し安静の上、全身管理を行った。妊娠14週に汎血球減少が認められたため血液内科受診となった。末梢血塗抹標本にて異常細胞の出現を認め、骨髄穿刺にて急性骨髄性白血病(FAB分類M2)と診断。妊娠16週より妊娠継続のまま1CAG療法を施行し、速やかに寛解となった。合計6コースの化学療法を施行したが特記すべき合併症は認めず寛解を維持し良好に経過した。妊娠37週に陣痛誘発を行い同日分娩に至った。分娩時、子宮口全開大直後遷延性徐脈、血性羊水を認め常位胎盤剥離が疑われ急速遂娩にて児娩出に至った。新生児は男児、2402g、アプガースコアー8/9。胎盤後面には約1/3に及ぶ凝血塊を認め部分常位胎盤早期剥離と診断した。新生児は生後2ヶ月の時点で発達異常は認めず。また母体の産褥経過も良好に経過しており今後、寛解維持強化療法を予定している。妊娠中に発症した白血病および化学療法の児への影響について、若干の文献的考察を含めて報告する。

炎症性腸疾患像を呈して発症したCAEBVの一例.
(症例)34歳男性。2004年1月発熱・腹部膨満感・体重減少を主訴に前医入院。大腸内視鏡検査にてCrohn病と診断、ステロイドを含み集学的治療を施行されたが改善みられず。腸結核を疑われたが、抗結核薬にも反応みられなかった。病変部の狭搾が進行したため精査目的に本院転院、結腸亜全摘術施行。術後も弛張熱が持続し、血小板低下もみられたため血液内科紹介。骨髄像で悪性所見・HPS像なく、末梢血中のCD56陽性細胞と共にEBV-DNA量1156copy/μgDNAと高値を示したためNK細胞乾癬性CAEBVと診断。切除標本にてもEBER陽性であり、腸病変もCAEBVに伴うものと診断した。CyA/PSL/VP16、CHOPにより治療開始。下熱しEBV-DNA量も一時低下したが再度増加に転じ、AraC大量療法を行ったが胸水を伴って増悪。HLA完全一致同胞よりFlu/L-PAMを前処置とするRISTを施行した。GradeIIIの腸管aGVHDを発症したがステロイドで軽快。Day88で完全キメラを確認、EBV-DNA陰性となり、良好に推移している。(考案)腸管を主病変とするCAEBVの報告はRothらの報告があるのみで非常に少なく、本例同様Crohn病類似の病像を呈する。CAEBVの概念が近年確立されEBV-DNA定量検査も容易になっている。治療抵抗性の炎症性腸疾患ではCAEBVを念頭に入れた検索も必要であると考えられた。

熱発を主訴に経過しdel(7)(q22q32)の染色体異常を示した非定型MDS症例.
MDSの腫瘍随伴症候群の一つとして発熱がありステロイドが有効で感染症との鑑別は重要である。MDSの特徴として異常クローンの存在があげられ、この証明に臨床的には骨髄細胞の染色体分析が行われる。今回我々は熱発を主症状とし、骨髄検査で血球に形態異常なく染色体核型異常のみを示したMDS非定型性症例を経験したので報告する。症例:60歳、男性。10日ほど前より発熱、下痢、にて平成15年1月8日当院受診され入院、点滴加療により下痢は改善も高熱(spike fever)のみが続いた。熱発のわりには全身状態、食思良好で抗生剤中止となったがCRP値は10mg/dlつづいた。その後骨盤腔CTにてシグモイド〜下行結腸に憩室炎像を認め、Gaシンチにて同部に集積あり、再度絶食、抗生剤再開も血液検査上変化なく腹痛など症状も乏しいため抗生剤も中止とした。痙かつ夕の骨髄検査では異形成を疑う形態異常はなく、46,XY,del(7)(q22q32)の核型異常を認めた。骨髄異形成症候群の非定型症例と考えステロイド投与したところ、下熱し血液検査上も正常化したためステロイド減量し3月20日退院され外来通院となった。MDS鑑別には染色体検査は重要であり若干の文献的考察を加えて報告する。

慢性骨髄増殖性疾患治療中にtoxic shock like syndromeを伴う壊死性筋膜炎を合
併した1例.
[症例]74歳、女性。主訴は右前腕腫脹・疼痛。
[臨床経過]慢性腎不全および慢性骨髄増殖性疾患にて通院中の患者。平成18年2月
8日より右手背から前腕にかけて疼痛が出現、悪化したため、11日に当院を緊急受
診。強い炎症所見が認められ緊急入院となった。数時間後より血圧低下、意識障害を
認め、カテコラミン投与を余技なくされた。壊死性筋膜炎と診断され、翌12日に緊急デ
ブリードマンを施行したが、多臓器不全が進行したためICUへ入室し、呼吸器管理下
に持続透析を開始した。投与していた抗生剤のうちABPCをTEICに変更後炎症所見
改善傾向を認め、さらに多臓器不全から離脱できた。壊死組織より黄色ブドウ球菌が
検出され、toxic shock like syndromeと診断した。デブリードマンを追加施行後、植皮
手術を行った。血液疾患治療中に稀ではあるが極めて重篤な軟部組織感染および全
身性グラム陽性球菌感染症を合併した。早期診断に基づく全身管理、十分な外科的
切除により改善した症例を経験したので報告する。

臍帯血移植後にatypical RPLS(reversible posterior leukoencephalopathy syndrome)を発症したMDSの1例
[症例]18歳の女性。平成15年4月にMDS(RAEB)を発症。CyA +ATG療法施行されるも無効。汎血球減少著明であり、末梢血にblast20%認め、平成17年5月6日臍帯血移植目的で当科に入院となる。AraC +CY + TBIにて前処置を行い、GVHD予防はCyA + short term MTXを使用し、5月25日に総細胞数2.07×10(7)/kgの臍帯血を移植した。Day30に好中球生着、day44に完全ドナー型T-cellキメリズムを確認、day45に2度急性GVHD(皮膚stage 3)が出現しmPSLを開始したところ皮疹の消失を認め、mPSLの減量を行った。Day68に意識障害(JCS 1-3)、左上下肢麻痺出現し、血圧200/100mmHgと上昇を認めた。その後、全身性の痙攣を発症し、呼吸停止、人工呼吸器管理となった。CTにて右基底核にmass effectを認め、MRI T2強調画像では両側基底核、両側後頭葉に高信号を認めた。腫瘍、感染が疑われ、mPSLの減量、抗生剤、抗真菌剤、acyclovir、γ-globulinの投与を開始した。髄液検査施行したところ、細胞数正常、軽度蛋白上昇認める以外は正常所見であり、細胞診もclass 2であることから、腫瘍、完成は否定的と考えられ、神経内科コンサルトしたところ、CTでのmass effectは血管性浮腫と考えられ、atypical RPLSが最も疑われるとの診断であった。本症例ではCyAや高血圧が危険因子と考えられたことから、CyAを中止し、FK506へ変更し、血圧コントロール、抗浮腫薬開始したところ、意識障害、片麻痺とも軽快、画像所見も軽快、day72に人工呼吸器を離脱できた。Day132に退院となっている。[考案]本症例では、抗癌剤やTBIなどの前処置、免疫抑制剤やmPSLなどの使用により、RPLSが発症し得る環境にあったと考えられ、移植後のCNS合併症発症時にはRPLSも考慮する必要があると考えられる。

同種造血幹細胞移植後閉塞性気管支炎(BO)発症予測因子としての血清SP-D、SP-A、KL-6濃度の有用性についての検討.
[緒言]遅発性非感染性肺合併症(LONIPCs)は移植後3ヶ月以上経過した患者において出現する重要な合併症である。BOをはじめとしたLONIPCsの発症及び重症度予測は極めて困難であり、現在確立された予測因子はない。[対象及び方法]当科にて同種幹細胞移植を施行され100日以上生存している造血器悪性疾患の患者30例につき解析した。今回我々は移植前後の血清SP-A、SP-D、KL-6濃度を評価し、移植後のBO発症との関係を解析し、予後因子としての価値を検討した。[結果]年齢は17-69歳(年齢中央値42.5歳)、男性11例、女性19例、移植後観察日数中央値は325日(range:99-3235)であった。骨髄破壊的移植が13例、非破壊的移植が17例、5例がBO、1例がIPsと診断された(イベント群)、移植前血清評価可能症例において、イベント群と非イベント群のSP-D中央値は各々27.6ng/ml(range:17.2-52.0)、39.8ng/ml(4.5-83.7)であり、イベント群で有意にSP-Dが低値であった(p=0.02)。一方SP-Aではイベント群29.15ng/ml(18-32.3)、非イベント群29.8ng/ml(10.6-63.5)、KL-6においてもイベント群205U/ml(164-310)、非イベント群280U/ml(106-725)であり、共に移植前後の値に有意な差は認めなかった(p=0.94,0.33)。また評価可能であった全症例において移植前後のSP-D中央値はそれぞれ37.8ng/ml(17.2-83.7)、60.15ng/ml(17.2-900)であり、移植後SP-Dは有意に増加していた(p=0.01)。SP-Aにおいても同様の傾向を認めた(p=0.09)が、KL-6ではそうした傾向を認めなかった(p=0.73)。[考察]移植後血清サーファクタントは移植前に比べ上昇する傾向を認め、移植前血清SP-D低値はBO発症の予測因子となりうる可能性が示された。

造血幹細胞移植時好中球減少期における感染症に対するカルバペネムの有効性
[目的]造血幹細胞移植患者における1st line使用抗生剤の有効性を検討した。[対象]2001年1月より2005年9月までに当科において造血幹細胞移植を実施した症例(N=102)を1st line使用抗生剤によってカルバペネム系抗生剤(PAPM/BP、MEPM、IPM/CS、BIPM)単剤投与群(N=45)、第四世代セフェム系抗生剤(CFPM、CZON、CPR)投与群(N=18)、またはAMK併用第三、四世代セフェム系抗生剤(CAZ、CFPM、CPR)投与群(N=11)に分類し、有効性を検討した。[結果]ロジスティック解析による単変量解析にて第四世代セフェム系抗生剤群に対するカルバペネム系抗生剤群(p=0.02、odds 6.40、95%CI;1.31-31.2)および移植時病期が早期群(p=0.009、odds 3.19、95%CI;1.34-7.58)は有意に臨床的有効性が高いことが認められた。一方、AMK併用セフェム系抗生剤に対するカルバペネム系抗生剤群は臨床的有効性に差を認めなかった(p=0.31、odds 2.13、95%CI;0.50-9.11)、さらに多変量解析を行ってもカルバペネム形抗生剤群は統計学的に第四セフェム系抗生剤群より有意に臨床的に有効であることが分かった(p=0.02、odds 6.18、95%CI;1.26-30.3)。[総括]カルバペネム系抗生剤単剤投与は第四世代セフェム系抗生剤単剤投与より有意に臨床的有効性が高いことが示された。

non-Hodgkin's lymphomaに対する大量化学療法併用自家末梢血幹細胞移植
[目的]non-Hodgkin's lymphoma (NHL)症例に対する自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(high dose therapy followed by autologous peripheral blood stem cell transplantation、HDT-APBSCT) の有用性について検討を行った。[対象ならびに方法]1991年11月から2005年3月までにNHL 79例、その内訳は寛解導入療法として41例(寛解導入療法群、男性25例、女性13例、年齢中央値40歳)ならびに標準化学療法で完全寛解に至った38例(地固め療法群、男性25例、女性13例、年齢中央値42歳)に対してHDT-APBSCTを施行した。[結果] 寛解導入療法群41例におけるHDT-APBSCTによる完全寛解症例は10例(24.4%)、部分寛解症例は20例(48.8%)であった。event free survival (EFS)、overall survival (OS)はそれぞれ31.8%、36.3%であった。多変量解析ではchemotherapy sensitive症例が予後良好群として挙げられた(EFS 46.9%およびOS 54.6%)。地固め療法群のdisease free survival(DFS)およびOSはそれぞれ64.3%および66.5%であった。単変量解析では1stCR例に比較すると2ndCR例は再発をきたしやすい傾向(DFSはそれぞれ71.6%、35.7%、p=0.10)を認めたが、細胞表面形質を含め、再発に関して他に有意な危険因子は検出されなかった。aggressive B-cell lymphomaではIPI high-intermediate risk群、high risk群において良好なDFS(75.1%)ならびにOS(71.4%)が得られた。またT-cell lymphomaにおいてDFS、OSはそれぞれ87.5%および84.6%と良好な結果が得られた。[考察]寛解導入療法群においてchemotherapy resistant症例については今後、骨髄非破壊的同種移植を組み入れた治療戦略を検討する必要があるものと考えられた。地固め療法群においてはhigh risk群、high-intermediate群のaggressive B-cell lymphomaならびにT-cell lymphomaについて地固め療法として有用であるものと考えられた。

同種造血幹細胞移植後の急性GVHD発症時とTMA発症時の末梢血Tリンパ球サブセットおよび血清サイトカインの動態解析と臨床的意義
[目的]同種造血幹細胞移植後の急性GVHD(aGVHD)やTMAの発症に免疫担当細胞とサイトカインの関与が指摘されているが、その病態は十分には解明されていない。今回我々はaGVHD発症時とTMA発症時の末梢血中のTリンパ球サブセット(CD4,CD8,Th1,Th2,γ,δT,NKT)、樹上細胞(DC)および血清サイトカイン17種類(IL-1β,2,4,5,6,7,8,10,12,13,17,TNF-α,IFN-γ,G-CSF,GM-CSF,MIP-1βー,MCP)を同時測定し、病態解析を試みた。[対象と方法]2004年9月から2005年7月までに同種造血幹細胞移植を施行した24例、aGVHD発症時(n=10)とTMA発症時(n=10)に末梢血より単核球と血清を採取した。Contrao(n=9)は移植後30-60日でのaGVHD、TMA非発症例とした。Tリンパ球サブセット(CD4+;CD4+CD8-CD3+.CD8:CD4-CD8+CD3+,Th1;CD4+CXCR3+CCR4-,Th2;CD4+CXCR3-CCR4+,γδT;CD3+TCRVδ2+,NKT;CD3+CD161+)とDCサブセット(CD11c+DC,CD123+DC)はよりFACSにてサイトカイン濃度はBio-Plexマルチサスペンションアレイシステムにて測定した。[結果]aGVHD発症時にcontrolより有意に変動したのはDCのみでサブセット比(CD11c+DC/CD123+DC)が増加した(p=0.003)。TMA発症時に変動したのはTh1(減少;p=0.003)、Th1/Th2比(減少;p=0.014)、CD8+細胞(減少;p=0.002)。CD4+細胞(増加;p=0.012)、CD4+/CD8+比(増加;p=0.010)であった。TMA発症時にはTh2がIL-6と正の相関性(p=0.011,r=0.914)を示した。血清サイトカイン濃度およびγδT細胞、NKT細胞はaGVHD、TMAいずれの発症時もcontrolと有意差はなかった。[考察]aGVHD発症時に末梢血中のDCサブセット比増加、TMA発症時にTh1/Th2減少とCD4/CD8増加、Th2とIL-6の相関性が認められ、aGVHD発症時とTMA発症時とで異なる動態を示した。


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