-症例報告抄録-


遺伝子組換え型ヒトトロンボモジュリン製剤とガベキサートメシル酸塩の併用投与が有効であった産科DICの3症例.
遺伝子組換え型ヒトトロンボモジュリン製剤(rTM)は新規DIC治療薬であり、産科DICに対するrTMの有効性は確立されていない。今回常位胎盤早期剥離、HELLP症候群、弛緩出血にDICを併発した3症例に対してrTMを併用したところ、いずれにおいても有効性が認められた。今後有用な治療戦略となり得ると考えられた。
 *rTMはトロンビンと結合し、トロンビンの凝固促進活性を抑制すると同時にプロテインCを活性型プロテインCに変換し活性型第V因子、活性型第VIII因子を不活性化させることで更なるトロンビン生成を抑制し、血液凝固系の活性化を阻害する

同種造血幹細胞移植後の小腸穿孔で診断されたEpstein-Barr virus関連移植後リンパ増殖性疾患.
症例は64歳男性。非寛解急性骨髄性白血病を化学療法により腫瘍量減量させた後に骨髄非破壊的同種骨髄移植を行った。生着確認後、移植後第42病日に消化管急性移植片対宿主病を発症、ステロイド投与を開始した。その後下痢の一時的な再燃はあったものの徐々に改善傾向がみられ、ステロイドを漸減した。第159病日に突然左下腹部痛を訴え、CTにて消化管穿孔と診断し回腸切除を施行した。術中所見では小腸の所々に潰瘍による硬結があり、潰瘍の一つに穿孔を認めた。病理診断にて潰瘍部の腸管壁全層にN/C比の高い異型細胞のびまん性増殖を認め、CD20およびEpstein-Barr-virus(EBV) encoded RNA陽性より同種造血幹細胞移植後のEBV関連移植後リンパ増殖性疾患と診断した。免疫抑制剤減量とrituximab投与により完全寛解となった。同種造血移植後のEBV関連移植後リンパ増殖性疾患は比較的少なく、本症例のように消化管穿孔で発症する例は極めて稀である。

黄色ブドウ球菌による壊死性筋膜炎を合併した慢性骨髄増殖性疾患
症例は慢性骨髄増殖性疾患の74歳の女性。hydroxyureaとprednisoloneによる治療中に右手脊から前腕にかけて腫脹と疼痛が出現、急速に増悪したため当院受診、重症軟部組織感染症と診断されて入院となった。入院当日にショック状態、多臓器不全に陥ったがデブリードマンを含む外科的処置、teicoplanin投与を行ったところ改善が見られた。壊死組織より黄色ブドウ球菌が検出され、toxic shock like syndromeを伴う壊死性筋膜炎と診断した。再度デブリードマンを行った後、遊離植皮手術施行、皮膚生着を認め良好な経過であったが、緑膿菌肺炎を合併し、永眠された。壊死性筋膜炎は死亡率が高く、血液疾患治療中も稀ではあるが合併することが報告されており、早期の診断、起炎菌同定、抗菌剤選定、外科的処置と全身管理により改善する可能性が高まる。

寛解導入療法中に脳膿瘍を合併し救命し得た急性骨髄性白血病
症例は31歳、女性。2004年6月に発症した急性骨髄性白血病症例。寛解導入療法を2コース施行後、白血球減少時に脳膿瘍を発症した。しかし血小板低値のため、脳膿瘍切除、ドレナージなどの外科的処置は施行できず起炎菌は同定できなかったが、merpenem trihydrateおよびfosfluconazole併用療法が有効であった。患者はその後、同胞間末梢血幹細胞移植を施行したが、脳膿瘍の再発はみられていない。白血病治療中の脳膿瘍の原因として真菌、特にAspergillusであることが多く、予後不良である。したがって、起炎菌が同定できなかった場合には抗菌剤とともに抗真菌剤の投与が必要である。今回、脳膿瘍の経過にはCTならびにmethionine-positron emission tomography(Met-PET)を利用したが、活動性評価にMet-PETが有用であった。

いわゆるMikulicz病発症とともに高ガンマグロブリン血症、リンパ節腫脹を呈したMulticentric Castleman disease類縁症例
シェーグレン症候群(SS)の中には、リンパ節腫脹の状態から悪性リンパ腫に進展する症例がある。いわゆるMikulicz病はSSの一亜型とみなす考え方が一般的であり、今回Mikulicz病にmulticentric Castleman disease(MCD)様病態を呈した症例を経験した。症例は73歳、男性。両側涙腺、両側顎下腺、両頸部、両鼠径部のリンパ節腫脹し、血清IgG 6530mg/dl(polyclonal)と高値を示し入院。左顎下腺生検では高度な線維化を伴う慢性唾液腺炎像を示し、左頸部リンパ節生検では悪性所見なく、成熟リンパ球と形質細胞の浸潤を認めた。プレドニゾロン20mg/日内服開始にて3週後には体表リンパ節は縮小し、血液データも正常化し著効した。本例では顎下腺やリンパ節への形質細胞や成熟リンパ球の浸潤を認めたが、血清IL-6の増加はなく、従来考えられているMCDとは違った成因によるものが存在することが示唆され、境界領域の病変を考える上で重要と考えられ報告した。


血球貪食リンパ組織球症に合併したたこつぼ型心筋症の2例
たこつぼ型心筋症と表記されるampulla cardiomyopathyは循環器領域において多数報告されている。この独特な心筋症は一時的な心尖部拡張ならびに左室の運動能低下によって特徴付けられる。我々は血球貪食リンパ組織球症を伴ったampulla cardiomuyopathyの2症例を報告する。両症例ともに血球貪食リンパ組織球症の活動期に突然左室機能低下を生じた。それぞれの症例において心電図、心臓超音波検査、左心室造影検査においてampulla cardiomyopathyに合致しうる所見が得られた。我々が検索した範囲内では血球貪食リンパ組織球症に合併したampulla cardiomyopathyの初めての報告例である。この2例において血球貪食リンパ組織球症に伴う高サイトカイン血症がampulla cardiomyopathyの発症に関係していることが考えられた。

臍帯血移植後、右基底核にmass effectを呈するcyclosporine脳症を発症した骨髄異形症候群
骨髄異形成症候群(18歳女性)に対し、平成17年5月25日に臍帯血移植を行った。前処置治療は全身放射線照射、cytarabineおよびcyclophosphamide併用療法を施行、急性GVHD予防にはcyclosporine A(CsA)と短期methotrexateを用いた。移植第30病日に好中球生着、第45病日に急性GVHD II度を発症したためステロイド投与を開始した。第68病日に意識消失、血圧上昇、左上下肢麻痺出現後、全身性痙攣を発症した。頭部CTでは右基底核にmass effect、MRIでは両側基底核、両側後頭葉に高信号が認められ、腫瘍あるいは感染病変が疑われた。しかしapparent diffusion coefficient(ADC)map、髄液検査の検討により血管性浮腫によるmass effectが疑われ、非典型的CsA脳症を考えた。CsAの中止後、速やかに症状、画像所見とともに改善した。本症例はmass effectを伴った稀なatypical resersible posterior leukoencephalopathy syndromeであり、その診断にはMRIによるADC mapが有用であった。

Rituximab投与が奏効し、長期寛解を維持している血漿交換抵抗性重症血栓性血小板減少性紫斑病
症例は57歳の男性。一過性意識消失に伴う交通事故により搬送されたが、血小板減少、貧血、横断を認め入院となった。入院後に進行性精神神経症状、溶血性貧血、血小板減少、腎機能障害、発熱を認めTTPと診断された。治療前のADAMTS活性は測定限界以下であり、そのインヒビターも検出された。度重なる血漿交換およびステロイドパルス療法を施行するも改善を認めなかったため、rituximabの投与を行ったところ、精神神経症状の消失、血小板増加、貧血の改善を認めた。以降、無治療で経過観察しているが1年以上再発を認めず、ADAMTS13活性は正常化しインヒビターも陰性化している。TTPに対して血漿交換が標準的治療になっているが、血漿交換に不応性あるいは再燃を繰り返す難治性TTPにおいてrituximabは有効な治療法であるもと考えられる。

骨髄非破壊的移植後、多発性筋炎を併発した慢性GVHD症例
症例は57才男性。マントル細胞リンパ腫に対して、平成11年8月、自家末梢血幹細胞移植を施行。平成13年11月より貧血、血小板減少出現し、精査にて2次性MDSからのAML with multilineage dysplasiaと診断。平成14年3月7日にfludarabine 30mg/sq、6日間、busulfan 4mg/kg、2日間による前処置にて、HLA DRB1、1座不一致実弟より同種末梢血幹細胞移植を施行。第104病日に好酸球増多、涙液減少、肝機能障害出現。慢性GVHDと診断し、プレドニゾロン10mg/日投与にて改善していたが、平成15年1月14日に発熱、四肢、腰部に筋肉痛出現。血清CPK、アルドラーゼの上昇認め、筋生検にて多発性筋炎と診断。プレドニゾロンを50mg/日より開始し、徐々に減量したところ著明に改善。現在、プレドニゾロン5mg/日を維持量とし、再燃なく経過している。

L-asparaginaseが一時的に有効であったnasal NK/T-cell Lymphoma
症例は48歳男性。持続する鼻炎症状および右顔面腫脹を主訴に市立堺病院を受診、鼻腔内生検にてnasal NK/T-cell Lymphomaと診断され、加療目的にて当科に紹介入院。CHOP療法を行ったが病巣は拡大したため、顔面および頚部に放射線照射を開始するとともにDeVIC療法を併用したが効果は認められなかった。腫瘍パラフィン標本のasparagine synthetase免疫染色が弱陽性であったことより、L-asparaginase 投与を2コース行ったところ、症状改善とおよび腫瘍の縮小を認めた。3コース目開始直前より再び発熱が出現。 L-asparaginaseを投与したがLDH、AST、ALTの上昇を認め急激な呼吸、循環不全のため永眠された。剖検では、血球貪食症候群および原疾患の多臓器への浸潤を認めた。放射線療法および多剤抵抗性のNK/T-cell lymphomaに対しL-asparaginaseが有効であったが、単剤投与による効果は持続しなかった。今後、asparagine synthetase低発現NK/T-cell lymphomaに対しては初回治療として積極的にL-asparaginaseを組み込んだ化学療法を考慮する必要がある。

寒冷凝集素症を初発とした非ホジキンリンパ腫
我々は寒冷凝集素による溶血性貧血を初発症状とした非ホジキンリンパ腫を経験した。症例は80歳、女性。全身倦怠感、呼吸困難にて近医受診。血液検査にて寒冷凝集素症による貧血を指摘され、治療を受けるも改善せず、その4ヶ月後に両ソケイ部リンパ節腫大し、さらに傍大動脈周囲リンパ節腫大を認め、左ソケイ部リンパ節生検により非ホジキンリンパ腫と診断。ステロイドパルスおよび抗癌剤内服により腫大していたリンパ節は著明に縮小し、寒冷凝集素価の低下、貧血の改善を認めた。その後、溶血性貧血増悪とともに再発し、この際にも治療によるリンパ腫の病勢抑制とともに改善した。本例ではリンパ腫細胞により免疫産生系を介して寒冷凝集素が産生された可能性が示唆された。またリンパ節腫大に先行して寒冷凝集素による溶血性貧血を呈した症例はまれであり、貴重と考え、報告した。

非ステロイド系消炎鎮痛剤による多発性下部消化管潰瘍を合併した急性骨髄単球性白血病
症例は急性骨髄単球性白血病の19歳、女性。寛解導入療法中に多量の下血が見られた。下部消化管内視鏡を施行したところ、類円形の多発性潰瘍が観察されたが、感染あるいは白血病の浸潤を疑わせる所見は認められなかった。組織像では非特異的炎症像ならびにアポトーシス体が散在性にみられた。患者は長引く発熱、咽頭痛で非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)を連日服用していたことからNSAIDによって生じた下部消化管潰瘍胃からの下血と診断した。NSAIDを中止したところ、下血は一旦止血したが、数日後再び下血が認められたため、microcoilによる塞栓術を試みたが不十分であった。内視鏡的クリッピング術ならびにバゾプレッシンの持続投与を行ったところ、止血、全身状態は改善した。NSAID長期服用症例では上部消化管のみならず下部消化管に出血を来す可能性があることを念頭に置く必要がある。


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