低悪性度リンパ腫
II.治療
順次追加記載いたします

(1)フルダラビン
 プリン誘導体であるリン酸フルダラビンはadenosine arabinoside(Ara-A)が
adenosine deaminaseにより急速に分解されることを防ぐために開発された薬剤です。
Ara-Aの2位の水素をフッ素に置換、これにより脱アミノ酸化に耐性となり細胞障害活性
を保持します。フルダラビンDNA複製に必要な数種類の酵素を阻害するとともにDNAに
取り込まれてfalse nucleotideとして機能して細胞死を引き起こします。またフルダラビン
は分裂期にない細胞にもアポトーシスを引き起こすため慢性リンパ性白血病を始めとす
る低悪性度リンパ系腫瘍に対しても有効性が示されています。
 @フルダラビン注射薬
 再発性低悪性度B細胞非ホジキンリンパ腫(Indolent non-Hodgkin's lymphoma、
Indolent B-NHL)に対する臨床試験が報告されています。
1992年にRedmanらは再発性Indolent B-NHL 67例に対するフルダラビンの治療成績
を報告しました(Ref)。25mg/sqを5日間連続投与により濾胞性リンパ腫に対して62-
100%と高いORR率 (overall response rate、CR+ partial response)、またsmall
lymphocytic lymphoma 33%、transformed lymphoma 33%、mycosis fungoides
40%、ホジキン病 25%と報告しております。しかしながらintermediateあるいはhigh
grade lymphomaについては効果が認められておりません。ECOG(Ref)、GLSG(Ref)お
よびGELA(Ref)の各グループから治療歴を有するIndolent B-NHLに対するフルダラビ
ン単独治療のORR率はそれぞれ52%、44%(CR 31%)および65%(CR 37%)と報告し
ております。
 副作用としては骨髄抑制ならびに免疫抑制が主たるものです。特にCD4リンパ球減少
が遷延し、治療終了後1年以上正常に戻らない(Ref)ため、真菌感染、カリニ感染、ウイ
ルス感染等の日和見感染症に注意を要します。
 Aフルダラビン経口薬
 経口フルダラビンは本邦で開発、臨床試験が重ねられ、2007年7月(フルダラ錠
10mg)に市販された薬剤です。第II相臨床試験(Ref)では第I相臨床試験(Ref)で推奨さ
れた投与量40mg/sq/日を5日間投与し、その後23〜27日間経過観察をもって1クールと
し、これを3〜6コース施行と設定されました。その結果、再発または難治性Indolent B-
NHL(46例)、マントルリンパ腫(6例)を対象に実施されました。CR率はIndolent B-
NHL、マントルリンパ腫でそれぞれ30.4%、0%、ORR率は65.2%、16.7%、また増悪す
るまでの期間、奏効期間中央値はIndolent B-NHLにおいてそれぞれ8.7ヶ月および12.2
ヶ月、マントルリンパ腫が増悪するまでの期間は6.2ヶ月と報告されています。
 副作用・合併症による死亡例はなく、NCI共通毒性基準において血液毒性Grade 3以
上はリンパ球減少(100%)、好中球減少(69.2%)、血小板減少(9.6%)および好中球減
少を伴う発熱(9.6%)、非血液毒性 上気道炎 5.8%、γ-GTP増加、下痢および感染症
がいずれも3.8%でした。
 その後、リツキシマブならびに経口フルダラビン併用療法の第II相試験が開始されまし
た。対象症例は41例(内、濾胞性リンパ腫は38例、また41例中34例がリツキサン投与
歴あり)、4週間隔で最大6コースの併用療法が施行されました。CR率は76%、ORR率は
87%と高い有効率が得られております(Ishizawa K, et al. Blood 110, 2007 (abstract
#1287))。投与終了後2例にカリニ肺炎発症が報告(1例死亡)されており、ST合剤(バク
タ)の予防投与が必要とされます。

(2)ibritumomab tiuxetan(商品名ゼバリン)、tositumomab
 Indolent B-NHLに対してはリツキサンと化学療法(特にCHOP療法)の併用によって
化学療法単独を上回る治療成績が得られております。しかしながら再発・再燃をきたす
症例も認められるのが現状です。Indolent B-NHLは放射線療法に感受性が高く、限局
期病変に対しては施行されるものの全身病変に対して適応となりません。リツキサンと
同様の抗体としての効果、全身的な放射線療法、すなわち放射免疫療法として開発され
た薬剤がibritumomab tiuxetanおよびtositmomabです。ibritumomab tiuxetanにはマ
ウス抗CD20モノクローナル抗体にyttrium-90がtositumomabにはiodine-131が放射性
同位元素として標識されております。本邦ではibritumomab tiuxetanが商品名ゼバリン
として供給されております。yttrium-90はβ線のみを放射、そのエネルギーは2.3MeVで
到達長は5mm、半減期は64時間という特徴を有しており、外来での使用が可能です。
 @臨床第I/II相試験(Ref)(Ref)(Ref)において濾胞性リンパ腫に対してCR率 26%、
ORR 82%、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対してCR率29%、ORR 43%と報告さ
れております。マントルリンパ腫3例に対しては奏効しませんでした。増悪するまでの期
間の中央値は9.3ヶ月であり、奏効期間中央値は11.7ヶ月、主たる毒性は骨髄毒性であ
り、grade IVの好中球減少症(33%)、血小板減少症(13%)、貧血(3%)と報告されて
おります。
 Aibritumomab tiuxetanとリツキシマブとのランダム化第III相試験(Ref)は奏効期間の
有意差はなく、CR率はそれぞれ30%、16%、ORR率は80%、56%とibritumomab
tiuxetanが有意に優れておりました。また無増悪生存期間はibritumomab tiuxetan15ヶ
月、リツキシマブ10ヶ月とibritumomab tiuxetanに延長する傾向が見られました。
 Bリツキサン抵抗濾胞性リンパ腫54例に対するibritumomab tiuxetanの効果はCR率
15%、ORR率74%であり、増悪するまでの期間の中央値は全症例で6.8ヶ月、奏効例で
8.7ヶ月でした(Ref)。
 C本邦ではリツキシマブ併用化学療法後再発例に対するibritumomab tiuxetanの検
討が行われました(Ref)。登録症例45例のうち37例(82.2%)が濾胞性リンパ腫を占めて
おります。CR率は62.5%、ORR率は82.5%でリツキサン併用化学療法が施行されてい
た症例に対しても69.6%と高いCR率が得られていることから、リツキシマブ併用化学療
法後の再発症例に対しても有効であると考えられます。骨髄抑制が主たる副作用であ
り、grade IVの好中球減少、血小板減少、貧血はそれぞれ42.5%、5%および5%に認
められております。非血液毒性は認められていません(Ogura M, et al. Blood 108,
2006 (abstract #2767))。
 DIndolent B-NHL以外の病型について、高齢の再発もしくは治療抵抗性DLBCL 104
例に対してibritumomab tiuxetanを使用したところORR率44%の成績が得られておりま
す(Morschhauser F, et al. Blood 104, 2004 (abstract #130))。この内訳としてリツキ
シマブ化学療法歴がない症例のORR率は58%でしたが、リツキシマブ化学療法歴があ
る症例では19%とIndolent B-NHLと異なった結果が得られております。マントル細胞リ
ンパ腫、マクログロブリン血症でも有効例の報告が見られております。
 E初発進行期(III期・IV期)濾胞性リンパ腫76例に対してtositumomabを単独投与した
臨床第II相試験の結果が2005年に報告されました(Ref)。CR率は75%、ORR率は95%
と高い効果が得られております。CRの80%が分子遺伝子学的にも寛解が得られており
ます。観察期間中央値5.1年で5年無進行生存率は59%(無進行生存期間中央値は6.1
年)と生存期間についても優れた成績が得られました。
 F未治療進行期濾胞性リンパ腫35例に対してフルダラビン25mg/sq×5日間を5週間
毎に3サイクル施行、その6-8週後にtositumomabを投与したところ、CR率86%、ORR
率100%、観察期間中央値58ヶ月で推定5年無進行生存率60%と優れた治療成績を報
告しております(Ref)。また同様な試験はSWOGにおいても施行されております。未治療
進行期濾胞性リンパ腫90例に対して、CHOP療法6コース施行、4−6週間後に
tositumomabを投与、CR率69%、ORR率91%、観察期間中央値5.1年で5年無進行生
存率は67%、5年全生存率87%と報告しております(Ref)。

平成20年10月22日初稿
トップへ
戻る