血球貪食症候群 1
I. 疾患概念・疫学・診断基準

 血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome、HPS)あるいは血球貪食性リンパ組織
球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis、HLH)は発熱、肝脾腫、血球減少(2系統
以上)、肝機能障害(AST>ALT)、高LDH血症、高フェリチン血症、高トリグリセリド血
症、高フェリチン血症、低フィブリノーゲン血症、播種性血管内凝固症候群などの臨床所
見と網内系組織での血球貪食を伴う組織球増殖を特徴とする症候群です。原因は様々
な疾患が報告されており、大きくは一次性(遺伝性)と二次性(反応性)に分類することが
できます。その主役となる組織球は病原体、老化血球などを貪食・処理を行うという生理
的機能を有しておりますが、様々な原因によるサイトカインの影響で異常に増殖・活性化
し、活発な血球貪食を起こすようになります。
 現在、世界的に使用されているHPSという名称は1939年にhistiocytic medullary
reticulosis(HMR)、1966年にmalignant histiocytosis(MH)として報告されているもの
に相当します。非定型的な組織球の増殖と一部未熟系と考えられる組織球の貪食像が
見られ、MHと呼ばれていましたが、1979年にRidallらが可逆性のウイルス関連HPS
(virus-associated hemophagocytic syndrome、VHAS)の存在を初めて報告(Ref)、
また1983年にMHが疑われた症例(発熱、肝脾腫、血球減少)の剖検例を病理組織学的
に検討し、その本態が悪性リンパ腫(末梢性T細胞リンパ腫)であることを証明しました
(腫瘍細胞が産生するサイトカインにより組織球が活性化・増殖)(Ref)。それ以後、遺
伝子学的診断法が確立され、過去にMHと診断されたほとんどの症例が悪性リンパ腫に
合併したlymphoma-associated HPS/HLH(LAHS)であることが判明しました。サイトカ
インとしてはsIL-2R、TNF-α、IL-1、IL-6、IFN-γ、IL-10、M-CSFなどが報告されて
います。
一次性(遺伝性)のものは1952年に報告(Ref)され(familial haemophagocytic
reticulosis)、現在ではfamilial hemophagocytic lymphohistiocytosis(FHL)と呼ばれ
ております。これらについては複数の遺伝子異常が同定されています。これらの遺伝子
異常がウイルス感染の起こった時に活躍する細胞傷害性T細胞やNK細胞低下を招き、
ウイルス感染細胞を効率的に排除できず(ウイルス感染が持続していると認識してしま
い)にマクロファージやT細胞の過剰反応により高サイトカイン血症を来たし、HPSを呈す
ることになります。

血球貪食症候群の分類
1.一次性/遺伝性
家族性HPS(FHLH/FEL)
X連鎖リンパ増殖性疾患(XLP)
Griscelli症候群
Chediak-Higashi症候群
その他
2.二次性/反応性
@感染症によるHPS
(1)ウイルス性(VHAS)
(2)細菌性(bacterial hemophagocytic syndrome、BAHS)
(3)真菌性
(4)その他
A基礎疾患を有するHPS
(1)悪性腫瘍:悪性リンパ腫(LAHS)、その他
(2)自己免疫疾患
(3)薬剤アレルギーに起因するHPS
B造血幹細胞移植後早期のHPS
河 敬世: 血液・腫瘍科 52:237, 2007

疫学
 本邦では全国アンケート調査が行われました(Ref)。2000年〜2004年の5年間で診断
されたHPSは799例、年齢は15歳以下、15-29歳、30-59歳、60歳以上がそれぞれ
53%、10%、18%、19%と小児が過半数を占めました。HPSの原因としてはVHASが
41%と最も多く見られ、そのほとんどが小児例でした。他の原因疾患としてLAHS、自己
免疫関連HPS、ウイルス以外の感染症関連HPS、基礎疾患不明、リンパ腫以外の悪性
腫瘍関連HPSおよび一次性HPSがそれぞれ22%、10%、9.2%、8.7%、4.4%および4.
1%に認められております。

診断基準
 成人領域のHPS/HLHでは明確な診断基準がないのが現状です。ここでは7種類の診
断基準を記載いたします。

表1 HLH-2004診断基準(小児を念頭に置いた診断基準)Ref
以下の(1)または(2)のいずれかを満たせばHPS/HLHと診断する
1)遺伝性HPS/HLHに一致する分子診断
2)症状・検査による診断基準(@〜G項目のうち5項目以上を満たす)
@発熱
A脾腫
B末梢血で2系統以上の血球減少
1.ヘモグロビン:9g/dl以下(4週以下の乳児では10g/dl以下)
2.血小板:10万以下
3.好中球:1000以下
C高トリグリセライド血症または低フィブリノーゲン血症
1.空腹時トリグリセライド:265mg/dl以上
2.フィブリノーゲン:150mg/dl以下
D骨髄、髄液、リンパ節における血球貪食
悪性腫瘍の所見なし
ENK細胞活性の低下あるいは消失
Fフェリチン高値:500μg/l以上
G可溶性CD25(可溶性IL-2R)高値:2400U/ml以上
付記
1.当初、血球貪食像が証明されない場合にも、さらなる検索が推奨される.
2.診断を強く指示する所見:1)髄液の細胞増多(単核球)および/または髄液タンパクの増加、2)慢性持続性肝炎に類似した肝組織像(生検).
3.診断を示唆する他の臨床・検査所見:脳・髄膜症状、リンパ節腫脹、黄疸、浮腫、皮疹、肝酵素異常、低タンパク血症、低ナトリウム血症、VLDL上昇、HDL低下.

表2 成人HPS/HLHのための診断基準(Tsuda-94)Ref
1)1週間以上持続する高熱
2)原因不明、進行性の少なくとも2系統以上の血球減少
3)骨髄中の成熟組織球の増加(有核細胞の3%以上、あるいは2500細胞/μl以上で著明な貪食像を伴う)、あるいは肝臓、脾臓、リンパ節中の血球貪食像
付記
HPS/HLHの診断には上記3項目をすべて満たすことが必須である。
家族歴、誘因になる感染症、悪性腫瘍、免疫抑制状態の詳細な検索を要する

表3 診断基準HLH-94(未掲載)の改訂版(Imashuku-94)Ref
1)臨床および検査基準
 @ 発熱(7日間以上、ピークが38.5℃以上)
 A 血球減少(末梢血の2系統以上、また、骨髄低形成・異形成によらない)
  ヘモグロビン 9g/dl以下
  血小板 10万/μl以下
  好中球1000/μl以下
 B高フェリチン血症および高LDH血症
 フェリチン:年齢相当正常値の3SD以上、通常1000ng/dl以上
 LDH:年齢相当正常値の3SD以上、通常1000IU/l以上
2)病理組織学的基準
骨髄、脾臓、あるいはリンパ節に血球貪食像、成熟および未熟な大顆粒リンパ球がしばしば増加

表4 成人LAHSの診断基準
1)1週間以上続く高熱があること(ピークが38.5℃以上)
2)貧血(ヘモグロビン9g/dl)または血小板減少(10万/μl以下)を認めること
3)以下の4項目中2項目以上
 a.LDH上昇(>正常上限の2倍)
 b.高フェリチン血症(>1000ng/dl)
 c.画像診断による肝脾腫
 d.FDPの上昇(>10μg/ml)
4)肝臓、脾臓、骨髄に明らかな血球貪食像を認めること
5)明らかな感染症がないこと
6)病理組織生検で悪性リンパ腫が証明されていること
付記
LAHSの診断には上の6項目を満たす必要がある
加藤雅之、三浦偉久男. 血液・腫瘍科 52:305, 2006
高橋直人、他. 臨床血液 40:542, 1999

表5 血管内リンパ腫アジア亜型(AIVL)診断基準Ref
1)臨床症状・検査所見(以下の3項目中2項目以上を満たす)
 a.血球減少(低形成、異形成によるものではない)
白血球を除く2系統のうち1系統以上
ヘモグロビン11g/dl未満または赤血球数350万/μl未満
血小板数10万/μl未満
 b.肝腫または脾腫(CT、超音波、診察により確認)
 c.明らかなリンパ節腫大、腫瘤形成を認めないこと
2)病理所見(以下の3項目すべてを満たす)
 a.赤血球貪食像(通常、造血系に軽〜中等度認められる)
 b.大細胞型腫瘍性B細胞増殖の免疫表現形
 c.リンパ腫細胞の血管内増殖または類洞内浸潤を示す病理所見
付記
1)と2)を満たすものをAIVLと診断する

表6 自己免疫疾患関連血球貪食症候群の診断基準Ref
基本項目
1.血球減少(末梢血で2系統以上)
2.骨髄、リンパ節などで血球貪食する組織球の増加
3.原疾患が活動期にあるか、増悪期であること
4.感染症m悪性腫瘍など他に反応性血球貪食症候群をきたす基礎疾患合
併がないこと
参考項目
1.血球に対する自己抗体陽性
2.高熱、高フェリチン血症、高LDH血症を伴わないこともある
除外診断
 再生不良性貧血、骨髄異形成症候群などの血球減少をきたす血液疾患

表7 全身性若年性慢性関節リウマチに併発した
マクロファージ活性化症候群の診断ガイドラインRef
検査基準
1)血小板減少(26.2万/μl以下)
2)AST上昇(59/l以上)
3)白血球減少(4000/μl以下)
4)低フィブリノーゲン血症(250mg/dl以下)
臨床基準
1)中枢神経系以上(被刺激性、失見当、嗜眠、頭痛、痙攣、昏睡)
2)出血(紫斑、易出血性、粘膜出血)
3)肝腫(季肋下3cm以上)
組織病理学的検討
 吸引骨髄中にマクロファージの血球貪食を証明
診断に当たっては検査基準の2項目以上、あるいは検査基準、臨床基準のうち2、3項目以上を満たす必要がある。血球貪食を証明するだけの骨髄吸引は不確かな例にのみ必要かもしれない。

平成20年11月29日初稿
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