前述したようにHPS全体の中でリンパ腫関連のものは感染症関連に次いで多く認めら
れます(lymphoma associated hemophagocytic lymphoma、LAHS)。リンパ腫ではホ ジキン病での合併例は稀であり、そのほとんどが非ホジキンリンパ腫です。系統別では B細胞リンパ腫とNK/T細胞リンパ腫が半数ずつを占めております。
HPS合併の病態としては腫瘍性、反応性(EBウイルスの関与)が考えられますが、い
ずれの場合にもNK細胞活性や細胞傷害性T細胞活性が障害ないし消失していることが 多く認められます(Ref)。このため、免疫反応が制御不可能となり、活性化T細胞が産生 するサイトカインによりマクロファージが活性化され、網内系で貪食が起こり、それぞれ が産生するサイトカインによる高サイトカイン血症が持続いたします。そのため活性化T 細胞から産生されるINF-γ(造血抑制、血球貪食)、TNFα(造血抑制、血球貪食、高ト リグリセリド血症の原因)、IL-1・IL-6(発熱の原因)、IL-2、IL-10、M-CSF、マクロファ ージから産生されるIL-12、IL-18の高値(NK細胞活性低下、INFγ産生亢進)が見られ ます。特にIFNγが重要な原因であると報告されています。
(1)T細胞/NK細胞リンパ腫関連血球貪食症候群(T/NK cell lymphoma associated
hemophagocytic syndrome、T/NK LAHS)
細胞傷害性T細胞あるいは細胞障害活性が強いNK細胞由来の腫瘍で、高橋らが行っ
たLAHSに関する全国調査ではこれらの83%にEBウイルスが関与していたことが報告 (Ref)、その多くがCD56陽性の節外性(鼻型)NK/Tリンパ腫であることが指摘されてお ります(Ref)。節外性NK/Tリンパ腫は急速に進行し、治療抵抗性のHPSを合併、その 予後は不良です。地理病理学的には東アジア地域に特に多い腫瘍であり、EBウイルス 関連悪性リンパ腫としては最も頻度が高いものです。
一方、WHO分類における末梢性T細胞リンパ腫(非特定型)では細胞傷害性分子発現
が陽性群が陰性群に比較すると予後不良であることが報告されています(Ref)。陽性群 のうち、約半数にEBウイルスが検出されるものの、その有無によって予後に変化は見ら れず、EBウイルスが関与せずに細胞傷害活性(Fas-L、perforin、granzymeなどの細胞 傷害性タンパク)の高い細胞の腫瘍性増殖がHPSを引き起こす可能性が示唆されます。
その他にHPSの合併頻度が高いNK/T細胞リンパ腫としては肝脾T細胞リンパ腫
(hepatosplenic T-cell lymphoma)、皮下蜂窩織炎様T細胞リンパ腫(subcutaneous panniculitis-like T-cell lymphoma)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫 (angioimmunoblastic T-cell lymphoma)、未分化大細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma)、成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T cell leukemia/lymphoma)が報 告されています。
高橋およびIshiiら(Ref)の報告からはT/NK LAHSの長期予後の改善は得られており
ません。CHOP療法を超える効果が期待できる治療法が未だに確立しておらず、CHOP 療法不応性症例に対してDeVIC療法あるいはNKリンパ腫に対してL-asparaginaseを併 用した治療法(Ref)が使用されています。多数例での検討は行われておりませんが、T/ NK-LAHSに対する自己末梢血幹細胞移植の成功例(Ref)(Ref)も報告されており、治 療戦略の一つとなる可能性が示唆されます。また同種移植も全国調査では6例に施行さ れており5年生存率は25%と移植を行っていない症例(26例)と比較すると(5年生存率 10.4%)とその成績を向上させる可能性があるものと考えられます。
(2) B細胞性リンパ腫関連血球貪食症候群(B cell lymphoma associated
hemophagocytic lymphoma、B-LAHS)
HPSの合併が見られるB細胞リンパ腫はびまん性B細胞性リンパ腫(diffuse large B-
cell lymphoma、DLBCL)であり、そのほとんどはEBウイルス陰性(87%(Ref))、組織 型としては血管内リンパ腫(intravascular lymphoma、IVL、WHO分類においてDLBCL に)が多く認められます(診断基準に記載したMuraseらが提唱したIVLアジア亜型)。IVL アジア型はHPSのみならず肝臓、脾臓、骨髄への浸潤が多く見られ、細胞表面抗原では CD5陽性症例が約30%存在することが報告されています。
EBウイルス陽性DLBCLは加齢性EBウイルス関連B細胞増殖異常症あるいは加齢性
EBウイルス陽性DLBCLに相当し、EBウイルス陰性DLBCLと比較すると節外臓器浸潤 が高頻度に起こり、予後不良です。
腫瘍細胞表面抗原であるCD20抗原に対する分子標的治療薬リツキシマブが登場し、
B-LAHSに対する治療成績向上に貢献しています(Ref)(Ref)。高橋らの報告(1990- 1997年)ではB-LAHSの5年生存率は約25%、リツキシマブ登場後のIshiiらの報告 (2001-2005年)では約50%と生存率の上昇が得られております。2つの時期において 効果的であった治療法は自己末梢血幹細胞移植であり、現時点ではR-CHOP療法によ り完全寛解に至った症例に対する地固め療法として、あるいは再発時、サルベージ療法 に感受性のあった症例に対する自己末梢血幹細胞移植は有用であるものと考えられま す。
平成20年12月1日初稿
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