血球貪食症候群 3
III.移植後血球貪食症候群

(1)発症機序
 自家造血幹細胞移植後の血球生着時期に非感染性の発熱、発疹、非心源性の肺水
腫、下痢、体重増加、肝機能障害、中枢神経障害などの様々な症状を呈する症例が報
告されており、生着症候群(engraftment syndrome)と呼ばれています(Ref)(Ref)。そ
の後、同種造血幹細胞移植にも同様の事例が報告されるようになりましたが(Ref
Ref)、急性移植片対宿主病あるいは拒絶反応との類似性が問題となっておりました。
同種造血幹細胞移植の場合には前処置治療による細胞・組織傷害によって放出された
サイトカイン、リポ多糖体によって宿主の抗原提示細胞である樹状細胞が活性化され、
抗原提示関連分子発現およびIL-12が産生されます。移植検体に含まれているCD4陽
性T細胞は宿主抗原の認識とIL-12の作用によってTh1細胞に分化し、IFNγ、IL-2を産
生し、細胞傷害性T細胞を活性化します。この活性化された細胞傷害性T細胞はFas、
granzyme、TNF-α、IL-1を産生して、更なる細胞傷害性T細胞動員ならびに上皮組織
傷害を引き起こします。また樹状細胞と移植検体に含まれるCD8陽性T細胞の接触によ
りIL-7、IL-15が作用するとこのCD8陽性細胞は免疫記憶幹細胞となり、急性移植片対
宿主病の持続的発症の原因となります(雑賀 寛、豊田恵利子、小野栄夫: 経口薬剤に
よる樹状細胞の機能抑制と急性GVHD予防の可能性. 血液・腫瘍科 53:381, 2006)。移
植後早期には高サイトカイン血症の状態となり、これに感染症による抗原刺激も加わっ
て、種々のサイトカインがアンバランスに組み合わされ(一定のパターンではなく)、非感
染性の発熱、発疹、非心源性の肺水腫、下痢、体重増加、肝機能障害、中枢神経障害
などの様々な症状を呈するものと考えられます。この移植後早期の状態は"cytokine
storm" syndromeと呼ばれ、前述した生着症候群、急性移植片対宿主病(あるいは超
急性移植片対宿主病)、後述する臍帯血移植後のいわゆる"day 9 fever)、そして最重
症型である血球貪食症候群が含まれます。河は移植後血球貪食症候群ではこれらの同
種免疫反応に加えて単球・マクロファージ系の過剰反応を伴うものと考え、そのマーカー
として血清フェリチン値、M-CSF、sIL-2R値が重要であり、またその治療には単球・マク
ロファージ系に効果的なエトポシドの使用も必要であると報告しております(河 敬世: 血
球貪食症候群の病態と治療. 日本内科学会誌 93:164, 2004)。

(2)診断
 移植後血球貪食症候群は生着前後の"cytokine storm"の時期にみられるものと、生
着後の造血機能の安定した時期にみられるものがあります。後者は主として感染(ウイ
ルス、細菌および真菌)感染が原因となるものが大多数を占め、治療はこれら感染に対
する治療が重要となります。前者の"cytokine storm"に時期に見られる血球貪食症候
群は診断に苦慮する場合が多く、たとえ診断されてもその治療法は確立されていませ
ん。特に診断については移植後早期の汎血球減少の時期に発症するため、診断基準で
ある項目である"汎血球減少"は当てはめることはできません。これに加えて、血球貪食
像が明らかでない場合には次の7つの項目が診断に役立つものと考えられます。@感染
源が明らかではない発熱、Aフェリチン高値、BLDH高値、CsIL-2高値、DAST優位の
肝機能障害、EM-CSF高値、FTNF-α高値(E、Fは保険適応はありません)。

(3)治療
 通常、血球貪食症候群の治療は@ステロイド、ガンマグロブリン大量療法、シクロスポ
リン単剤あるいは併用療法、A活性化したマクロファージを抑制する目的で少量エトポ
シド、B高サイトカイン血症を改善目的のための血漿交換、などが行われています。移
植後血球貪食症候群の明確な治療方針は確立されていないのが現状ですが、迅速なエ
トポシド投与が効果的であった症例が報告されています(小山真穂、井上雅美、河 敬
世: 8.移植後の血球貪食症候群 3)治療と予後. 血液・腫瘍科 57(Suppl 6):193-196,
2008)

平成20年12月8日初稿
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