血球貪食症候群 4
IV-1. 感染に伴う血球貪食症候群

 血球貪食症候群との関連が報告されているウイルスにはEBウイルス、サイトメガロウ
イルス、ヒトヘルペスウイルス8型、ヒト免疫不全ウイルス、インフルエンザウイルス、パ
ルボウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルスなどがあります。このうち、EBウイル
ス関連血球貪食症候群(Epstein-Barr virus-associated hemophagocytic syndrome
(HPS)/lymphohistiocytosis(HLH)、EBV-HPS)が最も多く報告されております。EBV-
HPSは明らかな免疫異常を伴わずに起こるほか、家族性あるいは非家族性免疫不全
症、慢性活動性EBV感染症、NK/T細胞白血病/リンパ腫などに合併して起こります。健
常者に生じるEBV-HPSならびEBV以外の感染症に伴うHPSについて概説します。

1.EBウイルス感染に伴う血球貪食症候群
 EBV-HPSは感染症関連のHPSの半数、特に小児では60%を占めます(Ref)。健常者
は初感染時唾液などを介し、咽頭上皮より侵入し、B細胞に直接感染します(Bリンパ球
に強く発現しているCD21抗原がEBV吸着のレセプターとなります)。初感染後、感染B細
胞は不死化、増殖し、リンパ節から末梢血へと感染を拡大させますがNK細胞などによる
非特異的初期防御に続き、EBV特異的細胞傷害性Tリンパ球が感染B細胞の増殖を制
御、これが終息すると潜伏状態となります(Ref)(Ref)。初感染によりほとんどの症例で
は上気道炎などの非特異的炎症で終わりますが、年長児や一部の若年成人では急性
伝染性単核球症を発症します。伝染性単核球症は感染したB細胞の増殖に惹起された
NK細胞および細胞傷害性T細胞の増殖・活性化による全身炎症が主体となります
Ref)。一方、EBV-HPSはB細胞のみならずCD8陽性T細胞にEBウイルスが感染、増殖
Ref)するためにEBV特異的な細胞傷害性Tリンパ球が十分産生されずEBV感染を制
御できません。しかもこの感染細胞が産生するtumor necrosis factor(TNF)や
interferon γがマクロファージを活性化し、血球貪食および更なるサイトカイン産生を引
き起こし、全身炎症反応亢進に進展、血球貪食症候群の病状を形成します(Ref
Ref)。Tリンパ球がEBV感染の標的になるのか、サイトカインの過剰産生がなぜ起こる
のかについては解明されておりません。
(1)診断法
 血球貪食症候群の診断基準を満たし、EBVの初感染であることが証明できればEBV-
HPS/HLHと診断できます。以前は血清学的診断法でEBV感染について評価されていま
した(診断法は蛍光抗体法(FA法)と酵素抗体法(EIA法)があり、前者は定量可能、後者
は簡便で感度に優れますが定量性に乏しいため、経過観察には蛍光抗体法が優れてい
ます)。通常、EBウイルス初感染時にはviral capsid antigen(VCA)-IgGおよびVCA-
IgM抗体とearly antigen(EA)抗体が出現し、EB nuclear antigen(EBNA)抗体は数週
〜数ヶ月後に出現して終生持続します。VCA-IgM抗体は急性期に一過性に上昇し、1-2
ヶ月後に消失するため検出時期が狭く陽性症例は少なくなります。EA抗体は健常既感
染者の10-20%程度が陽性であるため、初感染時に典型的な抗体パターンがないた
め、血清学的診断には限界があります。現在、迅速に対応できる検査手段としてEBVを
定量できるPCR法を合わせて診断することが勧められています。
*定量的PCR法
 Kimuraらにより開発されたreal time PCRによるEBV-DNA定量法によりEBVウイルス
感染に伴う各疾患群のEBウイルス量の推移が判明されております(Ref)。伝染性単核
球症を除く症候性EBV感染症患者の末梢血単核球中のEBV-DNAが全例、約320コピー
/μgDNA以上であり、健常人のほとんどが約320コピー/μgDNA未満であったことを報
告しております(血清中にEBV-DNAが検出されることは更に稀)(Ref)。伝染性単核球
症に比べ、EBV-HPS/HLHでは末梢血単核球中のEBV-DNAは多く、また長期にわたっ
て検出されます(Ref)(Ref)。一方、血清中のEBV-DNAは両者ともに比較的速やかに
消失します。EB-HPSに対して治療が行われ、奏効すると血清中、末梢血単核球中の
EBV-DNA量も減少するため、EBV-DNA量の経時観察は治療効果判定に有用であると
報告されています(Ref)。問題点としては結果に施設間差があること、健康保険適応外
検査であることが挙げられます。
詳細は省略いたしますが、フローサイトメトリー法や磁気ビーズ法などによりリンパ球
を各細胞群(T細胞、B細胞、NK細胞)に分離し、前述した定量的PCR法などを用いるこ
とによってどの細胞に感染しているのかを証明することが可能になっています。特にEBV
感染細胞がT細胞であった場合にT細胞性受容体再構成をPCR法あるいはサザンブロ
ット法といった方法により腫瘍性に増殖(同一の細胞が増殖)しているか否かを検査する
ことによって、いわゆる"EBV associated lympho-associated hemophagocytic
syndrome"が発症の有無を診断することができます。

(2)症状・検査所見
 持続する高熱、肝脾腫、リンパ節腫脹、発疹、黄疸、意識障害などの中枢神経障害、
胸水、腹水、肺水腫、腎不全、播種性血管内凝固症候群などの多彩な症状が認められ
ます。検査所見では汎血球減少、フェリチン、LDH、中性脂肪、sIL-2R高値、AST(GOT)
優位の肝機能障害が認められます。

(3)治療
 HPSの治療は高サイトカイン血症のコントロールと臓器不全の治療となります。高サイ
トカイン血症の治療に用いられる基本的薬剤はシクロスポリンであり、その併用薬として
ステロイド剤(プレドニン、デキサメタゾンなど)になります。その他、免疫グロブリン大量
療法が有効な場合があります。しかしながらEBV-HPSの場合には病初期よりエトポシド
を加えた免疫化学療法が推奨されています(特に診断後4週以内)(Ref)(Ref)。エトポ
シド投与を要さない軽症で済むのか重症化するのかについての見極めは難しいのです
が、EBウイルス定量の推移などを4週以内に決断することが重要と報告されています。

 河らが提唱する重症度分類、血球貪食症候群の治療法について下記に記載いたしま
(河 敬世、他:血球貪食症候群の診断と治療. 臨床血液 46:46, 2005)
血球貪食症候群の治療法
一次性HPS:同種造血幹細胞移植の適応
二次性HPS:
軽症型は、発熱や血球減少の程度が軽く、全身状態が比較的良好である。経過観察
か、ステロイド剤やガンマグロブリン大量両方などの単剤(免疫調節のみでよい)。
中等症は、軽症型と重症型の中間で、T細胞やマクロファージの異常活性化の抑制を
目的に免疫化学療法(プレドニゾロン+シクロスポリン+エトポシドの3剤併用)を行う。
重症型は、高熱が持続し汎血球減少症の程度も強く、肝機能障害などの臓器障害や
凝固機能異常、DIC、フェリチン値の異常高値などを呈し、全身状態も悪い。中等症で免
疫化学療法に不応の場合には、悪性リンパ腫に準じた多剤併用化学療法を行い、同種
造血幹細胞移植の適応も考慮する。
治療の具体例
第1段階 
 プレドニゾロン 1-2mg/kg/日
 エトポシド 150mg/sq/週
 シクロスポリン 3mg/kg/
第2段階
 多剤併用化学療法
第3段階
 造血幹細胞移植

2.EBウイルス以外の感染症に伴う血球貪食症候群
 感染症関連血球貪食症候群(infection-associated hemophagocytic syndrome、
IAHS)のうち前述したEBウイルス関連血球貪食症候群が半数以上占めます。残りの半
数は様々な感染症を契機として発症します。その発症機序については未だに明らかに
はされていませんが、何らかの原因で制御不能、抑制機能が逸脱し、感染細胞を処理
できないリンパ球(Tリンパ球、NK細胞)が異常活性化を来たしインターフェロンγ、
tumor necrosis factorα、インターロイキン-6を過剰産生、これらのサイトカインがマク
ロファージを活性化、インターロイキン-18、インターロイキン-12の産生を促します。この
インターロイキン-18、インターロイキン-12はTリンパ球(細胞傷害性)、NK細胞を更に
活性化、増殖させることとなります。臨床症状、検査値異常として発熱、血球減少、播種
性血管内凝固症候群、臓器障害、高トリグリセリド血症、フェリチン上昇、可溶性IL-2受
容体上昇、活性化された細胞による浸潤のため肝脾種、中枢神経症状が出現します。
治療としては原因となった感染症の治療が第一ですが、免疫抑制療法あるいは化学療
法を行わないと予後不良となる場合もあり、治療介入の時期が重要となります。
(1)ウイルス感染症
ウイルス感染症で多く報告されているのはヘルペスウイルス属の感染症です。herpes
simplex virus(HSV)、human herpesvirus-6(HHV-6)、HHV-8、サイトメガロウイル
ス、パルボウイルスB19、インフルエンザウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、
肝炎ウイルス(A型肝炎ウイルスによるものが多い)などが挙げられます。
・HSV:新生児HSV感染症に伴うHPSは死亡頻度が高く、早期からアシクロビル、シクロ
スポリン投与が必要となります。
・サイトメガロウイルス:新生児、自己免疫疾患、移植後の患者に発症することが多く、
発症早期からのフォスカネット、ガンシクロビル、サイトメガロウイルス高抗体価γグロブ
リン製剤の投与が重要となります。
・HHV-6、HHV-8:移植後の免疫不全患者での発症頻度は比較的高率であり、重篤な
症例では免疫療法あるいは化学療法が必要になることがあります。
・アデノウイルス:移植後の症例のほか、基礎疾患のない健常人の発症することがあり
ます。基礎疾患のない症例のほとんどは予後良好ですが、ステロイドなどの治療が必要
な症例も報告されています。
(2)細菌・真菌感染症
・結核:Brastianosらにより結核関連血球貪食症候群36例が報告されております。結核
治療薬あるいはステロイド併用した症例29例中19例が生存、治療のされなかった症例
は全例死亡しております。
・敗血症:さまざまな細菌あるいは真菌による敗血症で血球貪食症候群が発症すること
が報告されております。早期の適切な抗菌薬、支持療法により改善する可能性がありま
す。

平成21年1月7日初稿
平成21年1月13日第2稿

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