ホジキンリンパ腫 2
II. 治療

ホジキンリンパ腫(Hodgkin lymphoma、HL)は化学療法、放射線療法(radiation
therapy、、RT)が著効し、治癒が望める疾患です。基本的な治療方針は照射野を病巣
リンパ節群に絞り、照射線量を少なくし、照射野外の微小病変に対しては少ないサイク
ル数の化学療法を施行し、二次発がんなどの合併症を極力少なくするという治療戦略が
実施されます。
 HLの治療法は臨床病期分類、予後因子、bulky mass(7cm以上の腫瘤)の有無により
治療法を決定します。化学療法としては1969年に開発されたMOPP療法が長年にわた
り使用されてきましたが、生殖機能障害や二次発がんが問題となりました。その後、開
発されたABVD療法はMOPP療法と比較すると生存率を向上させ、生殖機能障害や二
次発がんが少ないことが判明し、HLの標準的化学療法となりました(Ref)。

ABVD療法
ドキソルビシン25mg/sqday1,15(点滴)
ブレオマイシン10mg/sqday1,15(点滴)
ビンブラスチン6mg/sqday1,15(点滴)
ダカルバジン375mg/sqday1,15 (点滴)(JCOGの報告(Ref )では250mg/sqでも有効率
に明らかな差を認めず)

 60歳以下で全身状態が良好な症例においてはBEACOPP療法あるいは更に投与量を
増加させたdose-escalated BEACOPP療法の有効性が報告されています(Ref

BEACOPP療法
ブレオマイシン10mg/sqday8(点滴)
エトポシド100mg/sqday1-3(点滴)
ドキソルビシン25mg/sqday1(点滴)
シクロフォスファミド650mg/sqday1(点滴)
ビンクリスチン1.4mg/sqday8(点滴、最大投与量2mg)
プロカルバジン100mg/sqday1-7(経口)
プレドニゾロン40mg/sqday1-14(経口)

A.初発ホジキンリンパ腫
1.病期IA、IIAでbulky massを認めない症例(早期型)
 病期IAの早期結節型リンパ球優性型ホジキンリンパ腫(nodular lymphocyte
predominance Hodgkin lymphoma、NLPHL)に対しては広範囲照射野(extended-
field)放射線治療では乳がん、肺がんなどの二次発がんの危険性が高まるため、浸潤
リンパ節領域に限局した限局照射野(involved-field)放射線療法(IF-RT)30Gyが使用
されています。NLPHLではCD20膠原陽性であることより放射線療法が実施できない症
例に対してはリツキシマブ単独投与も考慮されています(Ref )。
 病期IA(NLPHL以外)、病期IIAでbulky massを認めない早期型症例に対する放射線
単独療法と2コースのABVD療法とIF-RT(30Gy)などとの比較試験では全生存率は同等
(92%vs.94%)でしたが、無病生存率は有意に併用治療群が良好と報告されています
Ref)。一方、再発後化学療法施行例において全生存率は初回放射線単独群に良好な
結果が得られております。二次発がんは年間0.8%の発症率(治療開始後平均7年の観
察で650例中51例が死亡し、その内、39例が二次発がん)で高齢者やB症状のある症例
に多くみられますが、併用治療群と放射線単独群の間に有意な差は認められていませ
ん。
2.病期IB、IIBまたはbulky massを持つ症例(中間型)
 中間型は病期IまたはIIのうち、@CT上7.5cm以上の巨大縦隔腫瘍、A節外病変の存
在、B巨大脾腫あるいは5個以上の結節を有する脾臓病変、C血沈上昇(>50mm/時
間)、B症状があれば>30mm/時、D3リンパ節領域以上の病変、E60歳以上では4クー
ルのABVD療法とIF-RT(30Gy)が選択されます。
3.病期III、IVの症例(進行型)
 8コースのABVD療法が施行され、画像検査で残存病変があればIF-RT(30Gy)が追
加されます。ABVD療法で部分寛解であった症例でもIF-RT(30Gy)によって完全寛解例
と同様な成績が得られます。8コースのABVD療法により完全寛解に至った症例には追
加照射の有用性は認められておりません。またABVD療法4コース後に完全寛解が得ら
れれば2コースを追加してもよいと報告されております。4コース後の完全寛解例に4コー
スのABVD療法追加群と大量化学療法併用自家造血幹細胞移植群の無作為比較試験
において5年生存率に有意差は認められなかったため、第一寛解期の大量化学療法併
用自家造血幹細胞移植は推奨されません。

B.再発・治療抵抗性ホジキンリンパ腫
 初回治療後、再発症例および治療抵抗性症例(初回治療終了後の残存病変、初回治
療中に病変増大が認められる症例)に対しては救援化学療法、造血幹細胞移植が施行
されます。HLの場合にはbulky massが線維化病変として残存することが少なくないた
め、注意深い観察の上、緊急の救援化学療法の対象にはなりません。
 患者予後は初回治療中進行例、治療終了後90日以内の再発例、早期再発例、晩期
再発例(治療終了後1年以上)の順に不良となります(生存率は10%以下)(Ref)。再発
HLにおいて治療終了後1年以内の早期再発、再発時病期(病期III、IV)、ヘモグロビン
値(男性12g/dl以下、女性10.5g/dl以下)、の3つが予後不良因子として挙げられました
Ref)。その合計点数(再発ホジキン予後スコア)が0点の場合には4年無再増悪率、4
年全生存率はそれぞれ48%、83%、3点の場合には17%、27%と予後不良であること
が報告されています。
1.救援化学療法
 再発・治療抵抗性HLに対する救援化学療法の役割は自家造血幹細胞移植を念頭に
置いた場合、自家移植前に十分に腫瘍を縮小させること、末梢血幹細胞移植を実施す
る場合には末梢血幹細胞を効率良く動員させることです。現在ではシスプラチン、カルボ
プラチンなどのプラチナ系抗癌剤を含む多剤併用化学療法、DHAP療法(デキサメタゾ
ン、シタラビン、シスプラチン)(Ref)、ESHAP療法(エトポシド、メチルプレドニゾロン、シ
タラビン、シスプラチン)(Ref)、ICE療法(イフォマイド、カルボプラチン、エトポシド)
Ref)等が施行されており、その奏効率は73-88%、完全寛解率は26-41%と報告され
ています。
2.大量化学療法併用自家造血幹細胞移植
 1993年(Ref)および2002年(Ref)に報告された救援療法継続と救援療法後自家造血
幹細胞移植を施行する群との無作為比較大規模比較試験の結果から、再発・治療抵抗
性HLでは救援化学療法に引き続き自家造血幹細胞移植を施行した方が予後の改善を
もたらすこと判明しました。前者はBEAM(BCNU、エトポシド、シタラビンおよびメルファラ
ン)療法後自家骨髄移植を施行する群とminiBEAM療法(BEAMの強度を弱めた治療法
で、造血幹細胞移植のサポートが不要)を継続する群を比較したもので3年無イベント生
存率はそれぞれ53%、10%と報告されております。後者はDexa BEAM療法4コースと
Dexa BEAM療法2コース後にBEAM療法を前処置とした自家造血幹細胞移植を施行し
た群との比較試験であり、非移植群において2回目以降の再発時に自家移植を含む救
援療法を受けた症例が多かったために全生存率は差が認められませんでした。しかし3
年無増悪生存率はそれぞれ34%、55%と自家造血幹細胞移植群において優れていまし
た。1年以内の早期再発群(12%、41%)、晩期再発群(44%、75%)のいずれにおいて
も自家移植群が予後良好でした。
 初回治療終了90日以内の再発群ならびに初回治療進行例においても治療方針は同
様であり、救援療法後に自家移植が行われていますが、その予後は不良です。しかし救
援化学療法のみの症例と比較すると自家移植群は5年無増悪生存率17%、31%、5年
全生存率26%、43%と自家移植群が良好であることが報告されています(Ref)。
初回治療抵抗例、予後不良因子を有する再発例に対する治療法の更なる成績の向上
を目的として、2回の自家移植を連続で行うタンデム自家移植(Ref)(Ref)、自家移植の
前に単剤大量化学療法を連続で行う治療法が実施されております(Ref)。後者において
は全体の奏効率は80%、無増悪生存率、全生存率は59%、78%と良好な結果が得ら
れております。
3.同種造血幹細胞移植
 再発・治療抵抗性HLに対する自家移植は前述したように一定の効果が期待できま
す。しかしながら自家移植後再発例の予後は非常に不良となります。これら症例に対し
ては移植片対ホジキンリンパ腫効果を目的で同種造血幹細胞移植が施行されていまし
たが、治療関連死亡率が61%と高く、3年全生存率21%、3年無病生存率は15%と極め
て不良でした(Ref)。また自家移植との比較研究では同種移植は治療関連死亡率が高
く(31%vs.18%)、再発率に差が認められなかったため全生存率は自家移植が優れる
(25%vs.37%)という結果が得られております(Ref)。この原因は同種移植の前処置治
療が骨髄破壊的であったため、治療関連死亡率が高くなったためと考えられます。この
ため、前治療により一定の腫瘍コントロールが得られた症例を中心に、移植前治療を減
弱した同種移植(骨髄非破壊的移植あるいはミニ移植と称されます)が試みられていま
す。HL再発例(自家移植後再発が90%)に対して施行された骨髄非破壊的同種移植が
施行された結果、治療関連死亡率が16.3%、4年全生存率が55.7%、4年無病生存率が
39.0%と報告されています(Ref)。2008年に報告された治療抵抗性再発58例に施行さ
れた骨髄非破壊的同種移植の成績は100日および2年治療関連死亡率は7%、15%、2
年全生存率は64%、2年無増悪生存率が32%でした(Ref)。骨髄非破壊的移植により
無再発生存率が減少することが判明しましたが、移植時非完全寛解例において再発率
が高く無増悪生存率が低い傾向があり、移植前の腫瘍コントロールが重要となります。
後視方的解析では骨髄非破壊的移植は骨髄破壊的移植と比較すると無再発死亡率が
低く(1年23%vs.46%)、5年生存率(28%vs.22%)も優れております。再発率は高い
(57.3%vs.30.4%)ものの患者背景等等も考慮した多変量解析では再発率に差はなく
Ref)、再発・治療抵抗性HLに対する骨髄破壊的移植は骨髄破壊的移植よりも有用で
あるものと考えられます。

平成21年2月2日初稿

トップへ
戻る