慢性骨髄性白血病

解説

 慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia、CML)はフィラデルフィア染色体
(Philadelphia、Ph)に局在するBCR-ABL1融合遺伝子を有する異常な多能性造血幹細
胞により発症する骨髄増殖性腫瘍です。Ph染色体は9番と22番染色体転座による異常
な22番染色体を指します。CMLには3つの病期、すなわち慢性期(chronic phase、CP:
診断後約5-6年の経過)、顆粒球系細胞の分化異常が進行する移行期(accelerated
phase、AP:約6-9ヶ月の経過)を経て、幼若な芽球が増加し、急性白血病へ移行する芽
球期(blastic crisis、BC:3-6ヶ月の経過)へ進行し、致死的な転帰を取ります。従来、
薬物療法は根治的治療とはならず、唯一、同種造血幹細胞移植により根治する可能性
がありましたが、適合ドナーが得られない場合が多く、その適合は限られていました。
BCR-ABL1にコードされて産生されるBCR-ABLチロシンキナーゼを選択的に阻害する
メシル酸イマチニブが臨床に津遠敷され、既治療CMLの治療成績は著明に改善されま
した。未治療CML-CP期症例を対象に国際的な臨床第III相試験IRIS試験
(International Randomized Study of Interferon +Ara-C vs. ST571 in Chronic
Myeloid Leukemia)が開始され、早期より印テーフェ論治療に対してイマチニブ治療の
優位性が示され、イマチニブはCML-CPに対する第一選択薬となりました。現在では
IRIS試験の知見を基本として欧州LeukemiaNet(ELN)あるいは米国NCCNの指針が策
定され、これらに従った治療が遂行されています。

イマチニブ
@IRIS試験(5年目):IRIS試験では診断から6ヶ月以内の未治療CML-CP(18-70歳以
下)でハイドロキシウレアによる増加した白血球のコントロール以外の化学療法や同種
造血幹細胞移植を受けていない症例を対象にイマチニブ治療群かINF治療群に無作為
に割り付けられ、治療成績が比較されました。この試験では血液学的評価、細胞遺伝子
学的評価が比較され、明らかにイマチニブ群に良好な成績が得られ、18ヶ月の解析結
果後に中止となり、以後はイマチニブ群の治療成績がアップデートされています。5年時
の治療解析ではイマチニブ治療群に割り付けられた553例のうち157例(31%)が疾患進
行、治療への不耐容などの理由で中止されていますが、382例(69%)は中央値400mg/
日、平均値で382mg/日のイマチニブを連日服用していました。5年時点の血液学的およ
び細胞遺伝子学的効果はCHR 98%、MCyR 92%、CCyR 87%と非常に高い有効率を
示していました。APあるいはBCへの進展のない生存率は93%であり、CHRやMCyRか
らの増悪、CMLに無関係の死亡を入れた無イベント生存率は83%、全生存率は89.4%
でした。2年時点までにCCyRが得られた症例の5年時点の無進行率(APあるいはBCへ
の非進行率)は97-99%、PCyR症例でも90%以上の有効率が得られています。更なる
検討においてBCR-ABL遺伝子減少をターゲットとして解析(遺伝子が治療前の1/1000
(3log以上)の減少)すると(遺伝子学的大寛解(Major molecular response:MMR)、
MMRが得られた症例のAP・BCへの無進行率は100%であることが判明しました。これら
の結果を踏まえてイマチニブ治療目標をMMR達成に置かれるようになりました。現在、
MRは逆転写酵素ポリメラーゼ鎖反応(RT-PCR)でBCR-ABL遺伝子を検索することと
規定されています。BCR-ABLの3log減少率はABLやBCRなどのコントロール遺伝子に
対するBCR-ABLの割合(BCR-ABL/control gene)が0.1%未満との基準に変わり、
MMRが定義されています。
AIRIS試験(7年目):イマチニブ群に割り付けられた553例のうち7年目時点でイマチニ
ブ治療を継続している症例は332例(60%)で、317例(57%)はCCyRで15例(3%)は非
CCyRの状態となっています。一方、221例(40%)はイマチニブ治療を継続しておらず、
その理由は効果の消失82例(15%)、副作用など安全性によるもの43例(8%)、その他
が96例(17例)であった。効果消失の30例(37%)、安全性でのイマチニブ中止例の
26%(60%)、その他の15例(16%)の計71例(中止例の32%、患者全体の21例)が死
亡し、7年時推定全生存率は86%、CMLに関する死亡のみをイベントとした7年時推定
生存率は94%でした。イマチニブ長期治療において、効果消失と安全性に関する理由で
治療を断念した症例が20%以上存在し、これらの症例の5年時生存率は50%と不良な
成績であった。
 7年時において3例がMCyRの消失、2例が死亡と計5例に新たなイベントが発症した。
死亡した2例のうち1例は6ヶ月前遺伝子学的にも寛解に入っていましたが、AP/BCに移
行して死亡しております。イマチニブ治療におけるすべてのイベントとAP/BCへの進行
の発症率は5年時には両者ともに1%未満、6年時には0.3%、0%でしたが、7年時には
2.0%と0.4%となっています。CCyR症例456例のその後の治療経過は377例(83%)が
CCyRを持続、このうち298例がイマチニブ治療を継続しています。79例(17%)がCCyR
を喪失、25例はイマチニブ治療を継続、そのうち19例は再度CCyRに到達、この内、6例
はイマチニブを増量しております。
 分子遺伝子学的効果の追跡調査では治療後3ヶ月からMMRを得る症例が出現、5年
では80%、その後も症例数は増え続けることが確認されました。MMRを得た症例のEFS
は90%以上であるが、CCyR(細胞遺伝子学的寛解)を得られてもBCR-ABL割合が
10%以上の場合には7年EFSは53-58%と60%未満にとどまり、このような例ではイマチ
ニブ増量あるいは新規チロシンキナーゼ阻害剤による治療に変更することを検討する
必要があるとされています。
その他の知見
(a) 血漿イマチニブ濃度と臨床効果についての検討ではCCyR到達例の血漿イマチニブ
濃度(トラフ値)は非到達例に比べると有意に高いことが示されました。
(b) イマチニブ治療で血液学的な治療抵抗例、細胞遺伝子学的治療抵抗例にイマチニ
ブ量を増量させることにより細胞分子学的寛解(それぞれ5%、52%)を得られ、また
EFS(47%)、OS(76%)の改善が得られています。イマチニブ治療抵抗性が大量投与に
より克服される可能性が示されました。
(c) 初回治療前のSokalリスクスコアにより予後予測が可能であることが示されました。
そこで初回治療として初回より800mg/日が有用であるかが無作為試験により確認され
ましたが、400mg/日の群とCCyRで効果における有意差は認められませんでした
(800mg:64%、400mg:58%)。従って、高用量を使用しなければならない群の選択が必
要となるものと考えられています。
(d) イマチニブを中止することが可能か否か、について34例の評価では15例(44%)が
分子遺伝子学的再発なく寛解を維持していることが報告されています。イマチニブで
BCR-ABL陽性細胞が完全に除去できる可能性が示唆されます。
 このようにイマチニブの登場によってCMLの治療成績は劇的な向上を見せました。し
かしながらイマチニブ開始後12ヶ月後にPCyRに到達しないあるいは18ヶ月後に細胞遺
伝子学的完全寛解(CCyR)に到達しない初期抵抗例はそれぞれ16%および24%、一
旦、イマチニブに反応するも再発、病勢が進行した二次抵抗例が17%に上っています。
これらのイマチニブ耐性の原因はBCR-ABL 依存性と非依存性に分類することができま
す。依存性の原因として@ABL キナーゼドメインの点突然変異、Aゲノム増幅による
BCR-ABLの発現上昇、Bイマチニブの血清タンパクへの結合による血中濃度の低下、
非依存性の原因として@BCR-ABL下流にあるシグナル伝達分子恒常的活性化、BCR-
ABL以外の経路による細胞増殖などが報告されています。このようなイマチニブ耐性例
に対する治療手段としてダサチニブ、ニロチニブが開発、市販されています。

ダサチニブ
 ダサチニブはイマチニブと同様にABLキナーゼドメインのATP(アデノシン三リン酸)結
合部位であるP-loopに結合することによってATPのABLへの結合を競合的に抑制し、キ
ナーゼ活性を阻害します。イマチニブ、ニロチニブは不活性型ABLとのみ結合します
が、ダサチニブは活性型、不活性型のどちらにも結合します。ダサチニブのBCR-ABL
キナーゼ阻害活性はイマチニブの325倍、ニロチニブの16倍と報告されています。前述
したようにイマチニブ耐性が生じる主たる原因はBCR-ABLキメラ遺伝子のABLにおける
点突然変異であり、この変異は4つの領域に集中しています。ATP結合部位(P-loop)、
接触部位、SH2結合部位(A-loop)、酵素活性ドメインですが、変異の30-40%はP-loop
に認められます。ダサチニブはT315I変異を除く14種類の変異BCR-ABLに対して増殖
抑制活性を有します。T315I以外に感受性が中等度となる変異がT315A、F317L、
V299Lが知られています。
 ダサチニブはABL以外にSFKs、c-kit、PDGF受容体、MAP3Kなどのキナーゼ活性を
阻害します。BCR-ABLタンパクは細胞質にあって、複数のシグナル伝達経路にシグナ
ルを送り細胞増殖を促進します。これらのシグナル伝達タンパクが活性化されるとBCR-
ABLタンパクが活性化されるため、不活性型ABLキナーゼのみに結合するイマチニブあ
るいはニロチニブはABLキナーゼ阻害作用を発揮できないためBCR-ABL非依存性イマ
チニブ耐性の原因となります。しかしながらダサチニブはシグナル伝達を抑制し、細胞
増殖抑制、アポトーシス促進に導くことができ、イマチニブ耐性克服が達成可能となりま
す。
 イマチニブは主としてorganic cation transporter(OCT)-1を介して細胞に取り込まれ
ます。CML細胞のイマチニブに対する感受性はイマチニブの細胞内濃度と逆相関する
ため、OCT-1活性の影響を受けます。すなわちOCT-1活性が高い症例では低い症例に
比べて24ヶ月以内のMMR到達率が有意に高いことが報告されています。従ってOCT-1
低活性はイマチニブ耐性の一因となるものと考えられています。ダサチニブの細胞内へ
の取り込みにOCT-1は関与しておらず、OCT-1低活性に起因するイマチニブ耐性を克
服可能と考えられています。イマチニブの細胞質内濃度を規定するもう一つの要因とし
て、ABCB1(P糖タンパク)に代表されるadenosine triphosphate-binding cassette
(ABC)を解する細胞外への薬物排出機構があることが報告されています。細胞質内に
取り込まれたイマチニブはこれらのP糖タンパクを介して細胞外へ排出されるため、
ABCB1発現上昇によってイマチニブ耐性の原因となります。現在のところ、イマチニブ
のみならずダサチニブともにABCB1が過剰発現した場合には耐性となる可能性がある
ことが報告されています。
 フィラデルフィア陽性急性リンパ性白血病や慢性骨髄性白血病急性転化、移行期症例
では白血病細胞の中枢神経移行が問題となります。イマチニブは血液脳関門の透過性
が低く、中枢神経系浸潤に対する治療効果が期待できません。一方、ダサチニブは動
物実験において頭蓋内白血病細胞の増殖を抑制し、生存期間を延長させ、また中枢神
経病変に有効であったとする報告も見られますが、現時点ではその予防的また治療的
有用性は症例毎に検討する必要があります。
 臨床効果
(1)米国臨床第I相試験(Talpaz M, et al. N Engl J Med 354:2531, 2006)
 72例のイマチニブ耐性例を含む84例にダサチニブ15-240mg/日が投与され、安全性
と効果が検討されました。Grade 3-4の血液毒性が認められ、60%の症例で治療中断、
25%の症例で減量が必要となりました。胸水貯留例が高頻度に認められています。この
試験により用量が70mg、1日2回と決定されました。
(2)START-C(イマチニブ耐性慢性期慢性骨髄性白血病に対する)試験
 イマチニブ400-600mgに耐性ないし不耐容の慢性期慢性骨髄性白血病に対して70mg
×2回/日投与の効果と安全性が検討されました。イマチニブ耐性、不耐容別の血液学
的寛解(CHR)、細胞遺伝学的大寛解(MCyR)、細胞遺伝子学的完全寛解(CCyR)は
それぞれ87%vs.97%、39%vs.80%、28%vs.64%と耐性例で低い傾向が認められまし
た。8ヶ月での無進展性生存率は全体で92.4%、耐性例の8%、不耐容例の0.5%に病期
進行あるいは死亡が見られました。ダサチニブ投与前のBCR-ABL変異は全体として
41%、耐性例では54%、不耐容例の12%に見出されました。ダサチニブ投与開始8ヶ月
後のCHRおよびMCyRは変異のない例、ある例でそれぞれ92%vs.89%、54%vs.49%と
変異の有無にかかわらず同等の成績でした。
(3)START-A(イマチニブ耐性移行期慢性骨髄性白血病に対する)試験
107例のイマチニブ耐性ないし不耐容のAP-CMLに対するダサチニブの効果が検討さ
れました。耐性と不耐容のMCyR、CCyRが34%vs.13%、25%vs.13%と耐性例で高い
傾向が認められました。ダサチニブ投与前のBCR-ABL変異は60%の症例で認められ、
その全例がイマチニブ耐性であり、更にその半数がP-loopの変異であることが判明しま
した。変異の有無別ではMCyRについてそれぞれ30%vs.38%と有意差は認められませ
んでした。
(4)START-B(イマチニブ耐性急性転化期慢性骨髄性白血病に対する)試験
骨髄性急性転化72例とリンパ性急性転化42例の計116例に対するイマチニブ耐性ない
し不耐容急性転化期に対するダサチニブの効果が検討されました。この試験では効果
不十分な症例に対しては100mg×2/日に増量可能としています。無進行生存率中央値
は骨髄性急性転化で5.0ヶ月、リンパ性急性転化で2.8ヶ月であった。治療開始前、骨髄
性急性転化の43%、リンパ性急性転化の56%にBCR-ABL変異が認められ、その24%
がP-loopにおける変異でした。変異を有する症例でMCyRは低い傾向が認められました
(骨髄性急性転化で27%vs.38%、リンパ性急性転化で42%vs.63%)。Grade 3-4の副
作用は骨髄性急性転化では胸水貯留が最も多く、次いで下痢、消化管出血、リンパ性
急性転化では発熱性好中球減少症が最も多く認められました。副作用のため治療を中
止した症例は骨髄性急性転化で11%、リンパ性急性転化で2%に見られております。
(5)START-L(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病に対する)試験
イマチニブ耐性34例、不耐容2例の計36例のフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性
白血病に対するダサチニブの効果が検討されました。この試験では効果不十分な症例
に対しては100mg×2/日に増量可能としています。8ヶ月の経過観察期間で75%の症例
が治療中止となっております。病状進展が47%、死亡が11%、副作用が6%、造血幹細
胞移植を施行した症例が8%でした。血液学的寛解に到達した症例は15例(41.6%)で、
そのうち10例(66.7%)は8ヶ月の経過観察期間中、病状進展は認められませんでした。
無進行生存期間中央値は3.3ヶ月であり、治療開始前、78%にBCR-ABL変異が認めら
れ、34%がP-loopの変異でした。変異の有無別の血液学的寛解、MCyRはそれぞれ
44%vs.29%、56%vs.57%でした。
(6)START-R(イマチニブ耐性慢性期慢性骨髄性白血病に対する)比較試験
イマチニブ400-600mgに耐性慢性期慢性骨髄性白血病に対してダサチニブ70mg×2/
日とイマチニブ400mg×2/日投与の無作為化比較試験が施行されました。血液学的完
全寛解、MCyR、CCyRのいずれもダサチニブが上回っていました。MMRについても
16%vs.4%とダサチニブ群が勝っていました。ダサチニブ群の72%が治療継続できたの
に対してイマチニブ群は18%のみに留まっていました。治療が困難になった理由として
はダサチニブ群では主として不耐容によるもので、病状進行は5%、イマチニブ群は
61%が病状進行ならびに無効によるものでした。ダサチニブは高用量イマチニブと比較
すると血液毒性が強いものの有効性は有意に勝っており、標準用量イマチニブ耐性の
慢性期慢性骨髄性白血病にはイマチニブ増量よりもダサチニブ変更が推奨されていま
す。
(7)海外第III相試験
START-Cではダサチニブ70mg×2/日の臨床効果が検討されましたが、副作用による
投与量減量、治療中断が高頻度に認められました。そこで70mg×2/日、100mg×1/
日、50mg×2/日、140mg×1/日の用量に関する臨床第III相無作為化比較試験が行わ
れました。100mg×1/日群は他の用量に比べて、有効率に変化なく、血小板減少、胸水
貯留の発現頻度が有意に低く、治療中断や減量も低かったため、100mg×1/日が海外
および本邦でも投与承認を得ています。
(8)移行期/急性転化期慢性骨髄性白血病、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性
白血病に対する第二世代チロシンキナーゼ阻害薬の効果
イマチニブ耐性となった移行期83例、急性転化期57例、フィラデルフィア染色体陽性急
性リンパ性白血病6例、計146 例に対するダサチニブあるいはニロチニブの効果につい
て検討が行われております。薬剤開始17ヶ月後における血液学的完全寛解、MCyR、
CCyRは移行期でそれぞれ54、37、28%、急性転化期で17%、39%、26%、フィラデル
フィア染色体陽性急性リンパ性白血病で33%、50%、33%でした。血小板減少、好中球
減少、好塩基球増加、血小板増加、芽球増加のいずれかが遷延していたためMCyR達
成しているにも関わらずCHRとなっていない症例が存在しました。そこで@MCyRと同時
に血液学的寛解を達した症例、AMCyRが先行し、その後に血液学的完全寛解となった
症例、BMCyRは達成したが血液学的寛解にはならなかった症例、CMCyRは達成した
が血液学的完全寛解となった症例DMCyR、血液学的寛解どちらにも達成しなかった症
例における2年生存率はそれぞれ73%、50%、18%、53%および21%であり、血液学的
完全寛解になることが予後に大きく影響することが報告されました。
副作用
 Grade 3以上の副作用として高率に認められるものは血液毒性であり、病期が進行す
るに従って発現率が高くなる傾向がみられます。一般的には減量ないし中断により2-4
週間で回復します。ダサチニブの非血液毒性はイマチニブの非血液毒性と相関なく発現
します。非血液毒性としては体液貯留、下痢、皮疹、頭痛、出血、易疲労感、嘔気などが
報告されています。
 胸水貯留を含む体液貯留は39%に認められ、Grade 3-4は8.6%と報告されていま
す。用量を140mg/日から100mg/日に減量することにより、その発現率は低下しました。
胸水が発現するまでの期間は投与後2週間が最も多く、95%の症例が12週までに発症
しています。胸水貯留の機序は明らかになっておらず休薬、利尿剤、ステロイド投与など
の対症治療が必要となります。
 ダサチニブは血小板機能を抑制することが報告されており、中枢神経系出血あるいは
消化管出血が見られており、注意を要します。心毒性としてはQT延長が報告されていま
す。致死的不整脈に移行した症例は報告されていませんが、QT延長症候群を来しやす
い薬物との併用、低カリウム血症、低マグネシウム血症、アントラサイクリン系抗癌剤の
既往のある症例については注意を要します。
ダサチニブ耐性
 ダサチニブ投与により出現頻度が高いBCR-ABL変異としてはT315I、F317L、V229L
があり、ダサチニブ投与中に耐性となった症例の大部分がT315I、F317L変異を持つこ
とが報告されている。T315Iについてはイマチニブ、ニロチニブも耐性を示すため、チロ
シンキナーゼ阻害剤での治癒は期待できず、造血幹細胞移植の適応となります。F317L
に対してはニロチニブが有効と報告されています。

ニロチニブ
 60種類以上のキナーゼをターゲットとするダサチニブとは異なり、ニロチニブはイマチ
ニブの分子構造を基にしてABLに対する親和性を高めるように設計されております。
BCR-ABLチロシンキナーゼに対する選択制と約30倍の強い阻害活性を有しているた
め、イマチニブ耐性となる突然変異33種類のうちT315Iを除く32種類について阻害活性
を有しております。第I相試験では400mg/日を1日2回投与に設定、かつ健康被験者を用
いた試験において食事に影響される、すなわち食事1時間前か、食後2時間以降に服薬
すると至適な血中濃度が得られることが報告されています。
 臨床効果
(1)イマチニブ抵抗性、不耐容慢性期慢性骨髄性白血病に対する効果
 イマチニブ抵抗性194例、不耐容86例を対象とした慢性期慢性骨髄性白血病に対する
臨床第II相試験(400mg×2/日、600mgまで増量可)では6ヶ月時点でイマチニブ抵抗
例、不耐容例それぞれでMCyR 48%vs.47%、CCyR 30%vs.35%、全体ではMCyR
48%、CCyR 31%でした。MCyR到達期間中央値は2.8ヶ月、1年全生存率95%、MCyR
到達後の無進行生存率は96%と報告されています。19ヶ月目の報告においてCCyRは
イマチニブ抵抗例で41%、不耐容例で51%に得られております。
 移行期慢性骨髄性白血病119例においては血液学的完全寛解47%、MCyR 29%、
CCyR 16%、MCyR到達期間中央値は2ヶ月、1年全生存率79%、無進行生存率73%と
報告されています。
 本邦におけるイマチニブ抵抗性または不耐容および再発・難治フィラデルフィア染色体
陽性急性リンパ性白血病に対する第II相臨床試験は慢性期16例、移行期7例、急性転
化4例、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病7例に対して施行されました。血
液学的完全寛解はそれぞれ100%、71%、50%および100%、CCyRは69%、14%、
50%、MMRは慢性期症例において56%に得られております。
 イマチニブ抵抗性もしくは不耐容でかつダサチニブでも効果が得られなかった症例に
おいて血液学的寛解79%、MCyR 43%、12ヶ月時点での全生存率97%、18ヶ月では
86%と報告されています。
(2)初発未治療慢性骨髄性白血病患者に対するニロチニブの効果
 初発慢性骨髄性白血病53例に対する効果は投与3、6、12、18ヶ月時点でのCCyRと
してそれぞれ90、95、93、95%であり、MMRは6、12、18ヶ月時点では40、47、65%と報
告されており、早期から高い達成率が得られています。
副作用
慢性期慢性骨髄性白血病(318例)、移行期慢性骨髄性白血病(120例)に対するgrade
3-4の検査値異常としてリンパ球減少(14.7%)、リパーゼ増加(11.8%)、高血糖(5.
9%)、高ビリルビン血症(2.9%)、AST上昇(2.9%)、ALT上昇(2.9%)、アミラーゼ上昇
(2.9%)、低カリウム血症(2.9%)、代謝性アシドーシス(2.9%)が見られております。ダ
サチニブ投与例と同様にQT延長症候群が認められ、grade 3-4の発症率は3%以下で
したが、QT延長を引き起こす可能性のある薬剤との併用や低カリウム血症、低マグネシ
ウム血症には注意が必要です。

慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia、CML)に対してはイマチニブが第一
選択薬となっています。2006年にEuropean LeukemiaNet(ELN)はCML治療のコンセン
サスを打ち出し、更に7年次-IRIS試験成績などその後の臨床データの蓄積からイマチ
ニブ抵抗性の原因・機序が解明され、これを克服すべく第2世代のチロシンキナーゼ阻
害剤が開発、現在、市販されています。2009年に新たなコンセンサスが発表されまし
た。
血液学的寛解(Hematologic response、HR)
血液学的完全寛解(complete HR、CHR):以下すべてを満たす
・ 白血球数<10,000/μl
・ 好塩基球<5%
・ 白血球分画で骨髄球、前骨髄球、骨髄芽球を認めない
・ 血小板数<45万/μl
・ 触知可能な脾腫なし
細胞遺伝子学的効果(cytogenetic response、CyR)
・ Complete(CCyR) 分裂期細胞中にPh+なし
・ Partial(PCyR) 分裂期細胞中にPh+ 1?35%
・ Minor(minor CyR)分裂期細胞中にPh+36?65%
・ Minimal(minimal CyR)分裂細胞中にPh+66?95%
・ None(CyRなし) 分裂細胞中にPh+>95%
分子遺伝子学的効果(Molecular response、MR)
・ Complete(CMR) bcr-abl mRNA転写レベルが、十分な検体量によるRQ-PCR and
/or nested PCR解析で2回連続陰性(検出感度>10^4)
・ Major(MMR) bcr-abl/ abl(もしくは他のハウスキーピング遺伝子)≦0.1%
(International scale)

イマチニブ治療に対する効果判定基準
・ Optimal response(最適な反応)
現治療による6-7年生存率はほぼ100%と推測され、治療変更により更に向上する余地
はない。
@ 3ヶ月:CHRかつ少なくともminor CyR
A 6ヶ月:少なくともPCyR
B 12ヶ月:CCyR
C 18ヶ月:MMR
D 時期を問わず:MMRを維持かそれ以上の効果
・ Suboptimal response(次最適な反応)
現治療により長期ベネフィットを得る可能性はあるが、最良の予後が得られる確立が低
減するため、治療変更の対象となる。
@ 3ヶ月:CyRなし
A 6ヶ月:PCyR未達成
B 12ヶ月:PCyR
C 18ヶ月:MMR未達成
D 時期を問わず:MMR消失、変異*1
・ Failure(未反応)
現治療では良好な予後は望めないため、できるだけ速やかな治療変更が望まれる。
@ 3ヶ月:CHR未達成
A 6ヶ月:CyRなし
B 12ヶ月:PCyR未達成
C 18ヶ月:CCyR未達成
D 時期を問わず: CHR消失、CCyR消失、変異*2、Ph+細胞におけるクローン染色体
異常*3
・ Warnings(警告)
治療効果に悪影響が及ぶ可能性がある状態であり、厳密かつ慎重なモニタリングを要
する。
@ 診断時:高リスク、Ph+細胞におけるクローン染色体異常
A 12ヶ月:MMR未達成
B 時期を問わず:転写レベル*5の上昇、Ph-細胞におけるクローン染色体異常
* 1:イマチニブに感受性があるBcr-Ablキナーゼドメイン変異
* 2:イマチニブに対する感受性が乏しいBcr-Ablキナーゼドメイン変異
* 3:診断時のPh+細胞におけるクローン染色体異常(細胞遺伝子学的検査を2 回行
い、少なくとも2個のPh+細胞に同一のクローン染色体異常が認められた場合)は
warningsに分類されるが、治療開始後に出現した場合(clonal progressionなど)は
failureに分類される。
* 4:意味ある転写レベルの上昇は2-10倍とされており、測定系により異なる。

平成22年12月3日初稿
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