目的:経験的な抗真菌薬治療(Empiric antifungal therapy:EAT)は持続性の発熱性好中球減少症の治療として推奨されているが、ほとんどの患者ではEATは過剰となる。好中球数のカーブと、校註級数が500/μLとなった時点での横軸に平行な直線とで囲まれた領域の面積によって算出されるD-indexは、好中球減少の期間と深さを反映し、個々の症例の侵襲性真菌感染症のリスクを、コストをかけることなくリアルタイムでモニターすることが可能となる。今回の研究では、持続性の発熱性好中球減少症症例に対し、新しい治療アプローチであるD-indexガイド下早期抗真菌治療(D-index-guided early antifungal therapy:DET)、すなわちD-indexが5500を超える、または血清検査や画像で真菌感染が検出されるまで抗真菌治療を延期するアプローチを調査し、多施設共同無盲検ランダム化比較試験でEATとの非劣性について検討を行った。
患者と方法:血液悪性腫瘍に対し、化学療法または造血幹細胞移植を行う423症例を無作為にEAT群とDET群に割り付けた。ポリエン系,エキノキャンディン系抗菌薬、ボリコナゾールを除く抗真菌薬の予防投与は許容された。EATまたはDETに基づいて、ミカファンギン150mg/日が投与された。
結果:413症例をITT解析した結果、probable(臨床診断例)/proven(確定診断例)の真菌感染症は、EAT群で2.5%、DET群で0.5%であり、これはあらかじめ決められていたDET群の非劣性基準を満たすものであった(-2.0%:90%CI,-4.0% to 0.1%)。Day 42における生存率は、EAT群で98.0%、DET群で98.6%、day 84における生存率は、EAT群で96.4%、DET群で96.2%であった。ミカファンギンの使用量はDET群で有意に減少した(60.2% vs 32.5%:p<0.001)。
結論:DETは、侵襲性真菌感染症を増悪させることなく抗真菌薬の使用量と医療コストを減少させた。DETは経験的治療やpreemptiveな治療(先制治療)に代わる合理的な選択肢になり得る。
令和2年3月2日 森口 慎 |