留学報告(スタンフォード大学)

平成22年卒 手外科グループ 斧出絵麻

はじめに

平成24年度入局の斧出絵麻と申します。2019年10月から12月にかけて、スタンフォード大学形成外科学教室に留学しましたので報告させて頂きます。

Dr. Changとの出会い

2015年3月にハワイで開催された日米合同手外科会議で発表した際、発表後に私の元まで歩み寄り握手をしてくださったアメリカ人の先生がいらっしゃいました。同学会の会長で、スタンフォード大学形成外科学教室の教授であるJames Chang先生でした。「若いのによく頑張って発表したね、素晴らしかったよ。」と声をかけてくださり、見ず知らずの異国の若手医師にまでこのような対応をしてくださったことに大変感銘を受けました。

その翌年、奇遇にも日本手外科学会学術集会に招待講演の演者としてChang先生が来日されました。改めてご挨拶させていただいたところ「手伝えることがあれば、いつでも連絡をください。」と名刺をくださいました。そこで私は、いつか海外留学に行く機会があれば是非Chang先生のもとを訪ねたいと思いました。

それから3年後の2019年、大学院での研究を終え、留学するチャンスをいただくことが出来ました。Chang先生に連絡をとり志願したところ、快く承諾してくださり留学先が決定しました。

臨床研修

スタンフォード大学はアメリカ合衆国カリフォルニア州スタンフォードに本部を置く私立大学で、サンフランシスコから約60km南東、シリコンバレーの中心に位置しています。

スタンフォード大学の手外科グループは整形外科の手外科班と形成外科の手外科班から構成されており、主に肩関節や肘関節の疾患、手指骨関節の慢性疾患(母指CM関節症など)を整形外科が、その他全般(前腕以下の外傷や骨関節以外の手指慢性疾患、末梢神経障害、小児先天異常など)を形成外科が担うという診療体制でした。整形外科のスタッフは1名、形成外科のスタッフは3名で、それぞれの指導医のもとで整形外科と形成外科の複数のレジデントがローテーションしていました。1週間のスケジュールは主にカンファレンスと外来、手術から成り立っており日本と大差なく感じましたが、1人のDrが1つの病院で勤務するのではなく、規模の異なる4つの病院を各Drが自分の手術や外来のスケジュールに合わせて行き来するというシステムでした。

外来は1名のスタッフに対し2〜3名のレジデントがついて順番に来院する患者の診察を行い、1名診察する毎にフィードバックが行われるというシステムでした。予約オーダーやカルテ記載、事前の問診など細分化された業務を医師以外の専門スタッフが行うことで医師の負担が軽減され、診察や教育に充てる時間が十分に確保されておりとても素晴らしいシステムであると感じました。

手術室のシステムは日本と非常によく似ていました。朝7時過ぎには1件目の手術が開始され、指導医1名とレジデント1名で1人の患者を担当し手術を行います。難しい手術でなければレジデントに執刀の機会が与えられ、指導医が助手と指導を行います。手術時間や入れ替えの時間も日本と大差ありませんでしたが、早朝に開始されているため1日の手術件数は1室につき平均4〜5件で15〜17時には終了していました。

カンファレンスでは症例提示や抄読会が行われていましたが、各Drが4つの病院に分かれて仕事をしているためzoomを用いたweb会議形式がとられていました。私はこの時初めてzoomの存在を知り、「いずれ日本でもこのような形式でカンファレンスが行われる日がくるのだろうか。」と漠然と考えておりましたが、まさかその数ヶ月後、新型コロナウイルスの影響で半ば強制的に日本でも普及することになるとは全く想像もつきませんでした。

また今回、私が日本で末梢神経の基礎研究を行っているということもあり、Curtin先生を紹介していただくことが出来ました。スタンフォード大学の手外科で末梢神経治療を担っている女性のDrであり、外来や手術、講演会まで帯同させていただき、日本とアメリカでの末梢神経治療の違いや女性外科医の働き方について多くの意見を交わすことが出来た日々は大変かけがえのないものとなりました。

留学生活

留学当時、スタンフォード大学の整形外科と形成外科には合計約10名の日本人Drが在籍して基礎研究を行っており、交流させていただくことが出来ました。また形成外科の先生がアメリカンフットボール観戦や自宅のホームパーティーに招いてくださることもありました。

留学期間中はハロウィン、サンクスギビングデイ、クリスマスとアメリカらしい行事が実に盛り沢山で、アメリカでの伝統や家族との過ごし方についても学ぶ機会があり、3か月弱という短い期間ではありましたが大変充実した日々を過ごすことが出来ました。

最後に

今回の留学を通じて、アメリカの医療現場でのシステムを学ぶことができました。また留学をしなければ出会うことの出来なかった方々と、とても有意義な時間を共有することが出来ました。そしてなにより「仕事や家族との向き合い方」について学ぶことが出来ました。帰国前、Dr Changから「Ema. Work hard, party harder.」という言葉をかけていただきました。アメリカの先生は「一生懸命仕事をし、より一層家族や友人と楽しい時間を過ごそう」という姿勢が強く、家族との時間を何よりも大切にする姿や、あらゆるスタッフが年齢や職種を超えて家族や友人のように声をかけあいながら働く姿が大変印象に残りました。

最後になりましたが、今回の留学をお許しくださいました中村博亮教授をはじめ、同門の先生方にこの場をお借りいたしまして厚く御礼申し上げます。

留学中に新装openとなったmain hospital
留学中に新装openとなったmain hospital

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